梅酢ポリフェノールの抗ウイルス作用に係る特許取得とその応用

平成 29 年2月 22 日 11 時
記
者 発 表
田辺市、JA 紀南共同発表
梅酢ポリフェノールの抗ウイルス作用に係る特許取得とその応用研究について
平成28年12月に、梅酢より抽出した「梅酢ポリフェノール」のウイルスへの増殖抑制
と不活化作用に関わる特許を取得することが出来ました(登録日平成28年12月2日
特
許第6049533号)。発明人は元和歌山信愛女子短期大学の小山学長(現、香川大学医
学部客員研究員、和歌山県立医科大学博士研究員)らのグループで、田辺市とJA紀南が特
許権者となっています。
本特許に基づき梅酢ポリフェノールの顆粒剤が製造され、これを用いたインフルエンザ及
びかぜ症候群の予防のためのヒト介入試験(臨床試験)が今冬実施されています。
本臨床試験に関わる研究事業は、地方創生加速化交付金及び和歌山県果樹産地競争力強化
総合支援事業補助金(平成27~28年度)を活用して、紀州田辺うめ振興協議会(田辺市・
JA紀南)が行なっています。
○特許の要約
梅酢ポリフェノールは、梅干し製造時に発生する梅酢から抽出したもので、すでに工業レ
ベルで大量に製造する方法が確立されており、安全性試験も実施済みです。本特許は梅酢ポ
リフェノールのインフルエンザウイルスなどに対する抗ウイルス作用を示し、強い抗ウイル
ス活性を備えた医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、食品添加物及び飼料を作成することが
できる梅酢ポリフェノールの用途特許です。梅酢ポリフェノールはその含有量と活性の強さ
から、梅果実や梅干しの抗ウイルス作用を代表するものと考えられます。
○インフルエンザおよびかぜ症候群の予防のためのヒト介入試験(臨床試験)について
これまで、紀州田辺うめ振興協議会では、機能性素材の梅酢ポリフェノールに着目し研究
を進めて参りましたが、その抗ウイルス作用が明らかとなり、梅の機能性の一環としてアピ
ールできる可能性が出てきました。将来的にはこれを用いた商品化を検討中ですが、機能性
を世の中に認知させるためには最終的にしっかりとコントロールされた臨床試験結果が必
須です。今回下記の要領で臨床試験を実施中です。
本研究でまずは梅果実、梅商品のイメージアップにつながると考えております。将来的に
は、梅酢ポリフェノールのうがい液、チュアブル錠などの用途が展開できる可能性が出て参
りますが、実現にはなお数年の試験研究が必要となります。
1
梅酢ポリフェノールを含有する顆粒剤が和歌山大学産学連携・研究支援センターの三谷特
任教授、味村特任助教(現在、和歌山大学食農総合研究所に所属)らによって開発されまし
た。梅酢ポリフェノールは渋味や苦味があるため、これらの味をマスキングすることが重要
な課題でありました。
本顆粒剤を用いたインフルエンザおよびかぜ症候群の予防のためのヒト介入試験(臨床試
験)が、東冬彦医師(試験責任医師
師(試験分担医師
ひがし内科クリニック院長、みなべ町)
、辻村武文医
辻村外科院長、みなべ町)と和歌山大学食農総合研究所(太西敏夫所長)
により実施されております。
(㊟
統括試験管理者は医療法人スミヤ・角谷リハビリテーシ
ョン病院院長(前和歌山県立医科大学副学長、和歌山県立医科大学付属病院、紀北分院院長)
有田幹雄先生)
平成27年12月から28年4月にかけての昨シーズンでは、インフルエンザ予防接種を
受けた16歳以上65歳までの医師が参加を認めた約30名の方に、顆粒剤を用いたうがい
を 1 日3回~5回、約60日間行ってもらい、顆粒剤の安全性を確かめる試験を実施いたし
ました。特記すべき問題は見いだされませんでした。
今シーズンは平成28年12月より開始し、約300名規模のボランティアの方を対象に、
同様な方法で、インフルエンザおよびかぜ症候群がどの程度防げるかを試験しており、平成
29年春までには終了する予定です。試験結果が判るのは、データ処理に時間がかかるため
早くとも本年秋になると予想しております。
なお、この顆粒剤は水などに溶解させ、うがい液として用いたり、そのまま口中で溶かし
て用いることが出来、飲み込んでも全く問題が無いことが特徴です。
○抗ウイルス作用を示す他の梅関連物質との関係について
これまで梅の抗ウイルス作用に関する特許、学会報告は①梅干しから単離された 2',9-
エポキシリオニレシノール(ポリフェノールの一種)、②梅肉エキス中に存在するムメフラ
ール、③脱塩梅酢 BX70 がある。梅酢ポリフェノールはこれらのいずれにも属さない物質で、
梅もしくは梅干しに存在する抗ウイルス物質の代表となるものです。これらの関係について
別途資料1と2を添付して説明いたします。
2
※梅酢に含まれるポリフェノールの研究経過について
平成21~23年度
地域イノベーション戦略プログラム(都市エリア型)事業
近畿大学生物理工学部、和歌山県立医科大学、和歌山工業高等専門学校、県うめ研究所、県工業技術セ
ンター、JA紀南、花王(株)、サッポロ飲料(株)、サントリービジネスエキスパート(株)
、中野BC
(株)、プラム食品(株)
、
(社)和歌山県農産物加工研究所、和歌山ノーキョー食品工業(株)で梅酢ポ
リフェノールの製造方法、その機能性の研究が行われ、特許の取得がなされている。
平成24~28年度
紀州田辺うめ振興協議会(田辺市・JA紀南)において調査研究
和歌山信愛女子短期大学小山学長らにより、梅酢に含まれる梅酢ポリフェノールの抗ウイルス作用等
について研究され、インフルエンザウイルスや単純ヘルペスウイルスに対して顕著な作用を示すことが
明らかとなった。特許出願は平成 25 年 4 月 25 日に行われている。学会発表は平成 25 年 11 月に日本ウ
イルス学会学術集会で行われている。
また、かぜの原因ウイルスの一つであるライノウイルスに対する梅酢ポリフェノールの作用や、梅酢
ポリフェノールの成分研究などが引き続き行われ、臨床試験は前述通り、Phase Ⅰ(安全性試験)とし
て平成 27 年 12 月から 28 年 4 月に実施されている。
連絡先(田辺市)
田辺市 産業部 農業振興課 梅振興室
廣畑、永井、小川
TEL 0739-26-9959
FAX 0739-22-9908
3
和歌山信愛女子短期大学
前学長
こやま
小山
はじめ
一
昭和 21年 6 月19日生(70歳)
経歴
昭和 50 年 3 月
京都大学理学博士取得
昭和 49 年 4 月
京都大学 ウイルス研究所 研修員(遺伝学部門)
昭和 51 年 3 月
京都大学 助手(ウイルス研究所血清免疫部門)
昭和 55 年 4 月
徳島大学 講師 医学部(ウイルス学講座)
昭和 63 年 4 月
徳島大学 助教授 医学部(ウイルス学講座)
平成 14 年 4 月
徳島大学 助教授 大学院医学研究科(プロテオミクス医科学専攻
生体制御医学講座ウイルス病原学分野)に配置換え
平成 16 年 4 月
平成 17 年 4 月
和歌山県立医科大学 教授 医学部 教養・医学教育大講座(生物学)
和歌山県立医科大学 教授 大学院医学研究科 構造機能医学専攻
細胞分子機能医学領域(ウイルス学)を兼担
平成 24 年 3 月
同
定年退職
平成 24 年 4 月
和歌山信愛女子短期大学 学長
平成 26 年 3 月
同
退職
平成 26 年 4 月
同
和歌山信愛女子短期大学 特任教授
平成 27 年 3 月
同
退職
平成 27 年 4 月
和歌山県立医科大学博士研究員・香川大学医学部客員研究員
現在に至る
和歌山大学
みたに
食農総合研究所
たかひこ
客員教授 三谷 隆 彦
昭和21年2月5日生(70歳)
経歴
昭和 51 年 11 月
京都大学大学院農学研究科修了
昭和 51 年 11 月
米国国立衛生研究所博士研究員
昭和 53 年4月~平成 15 年 3 月
博士号取得
製薬会社、食品会社で研究開発に従事
平成 15 年4月
近畿大学先端技術研究所教授
平成 22 年4月
近畿大学生物理工学部食品安全工学科食品機能学研究室
(この間
平成 21 年 4 月~H24 年 3 月
教授
文部科学省「地域イノベ
ーション戦略支援プログラム」
(都市エリア型)において研究統括)
平成 24 年3月
平成 24 年7月
近畿大学
定年退職
(公財)わかやま産業振興財団
ン戦略支援プログラム事業」
平成 26 年 11 月
和歌山大学
文部科学省「地域イノベーショ
医農連携コーディネータ
地域連携研究支援センター
特任教授
平成 28 年 11 月
和歌山大学
現在に至る
食農総合研究所
客員教授
食品科学寄附研究部門
和歌山信愛女子短期大学
生活文化学科
食物栄養専攻
主任
にしで
みつのり
西出 充德
昭和 37 年 5 月 1 日生(54歳)
経歴
昭和 60 年 3 月
近畿大学農学部
食品栄養学科
卒業
卒業後、食品会社に従事
平成 23 年 3 月
和歌山県立医科大学
平成 26 年 8 月
香川大学医学部
平成 27 年 4 月
和歌山信愛女子短期大学
現在に至る
大学院
医科学研究科
修士取得
非常勤
生活文化学科
食物栄養専攻
主任
資料1.
梅の食品成分と抗ウイルス作用物質
1.生梅の食品成分(単位 g/100g)(食品成分表七訂版)
水
分
たんぱく
質
90.4
0.7
脂
質
0.5
炭水化
物
7.9
灰
分
0.5
①食品成分表の炭水化物量は次のように算出する。
100-(水分+たんぱく質+脂質+灰分)=炭水化物
②従って炭水化物以外の成分も含まれている。例えば、
・炭水化物:食物繊維 2.5 その他糖類
・その他:ㇰエン酸 4.0 ポリフェノール類 0.1 その他の代謝産物
2.梅のポリフェノールは主にヒドロキシ桂皮酸誘導体で構成されている。
①ヒドロキシ桂皮酸・・・・カフェ酸、クマル酸、フェルラ酸
②2',9-エポキシリオニレシノールはリグナンの一種
・・・・・・・含量は梅果肉 100g 中 0.00004g
3.梅酢ポリフェノール
①梅酢は梅干しを製造する際に生じる副産物で、和歌山県で年間推定 16,000
トン生じる。梅酢ポリフェノール 16 トン製造可能である。
②梅酢ポリフェノールは梅のポリフェノールとほぼ同等である
③梅酢ポリフェノールは工業的に製造されている。
④梅酢ポリフェノールは食塩やクエン酸を含まない。
⑤梅酢ポリフェノールの抗ウイルス作用は小山らにより実証
⑥臨床試験は梅酢ポリフェノールの製剤で実施中
⑦梅酢ポリフェノール中に 2',9-エポキシリオニレシノールをごく微量含有
・・・・・0.04%(推定)
4.梅肉エキスとムメフラール
①梅果実
→
梅肉エキス
→
ムメフラール
梅果実 750gを加熱濃縮し、梅肉エキス 15g を得る。梅肉エキス 15g から
ムメフラール 85.7mg が得られる。
梅果実からの収率 0.011%
②ムメフラール
・梅果実中には存在しない。
・梅果実を加熱するとヒドロキシフルフラールが生成する。これとクエン
酸が反応して生じる
・ポリフェノールはクエン酸と加熱で酸分解を受け消失する。
・ムメフラールの製造は実験室レベルで、しかも高コストがかかる。
③特許(第5525376号)記載の臨床試験
・ムメフラールを用いているのではなく、梅肉エキスの試験である。クエ
ン酸が 50%以上含むもので、クエン酸の効果か含有している微量(梅肉
エキス中に 0.57%含有)のムメフラールの効果か判然としないし、あく
までも少数例の使用経験で、科学的な効果は立証されていない。
5.脱塩梅酢濃縮物 BX70
①梅酢の成分・・・・果汁由来の水溶性繊維、クエン酸 4%、食塩 20%、
梅のポリフェノール 0.04%
②BX70 の製法
・梅酢を電気透析して脱塩
・脱塩梅酢を加熱して水分を飛ばし、濃縮する
③BX70 の成分
・クエン酸が 70% 断片化した水溶性繊維
・ポリフェノールは高濃度の酸と高温で、分解し、ほとんどゼロになる。
④BX70 の抗ウイルス作用・・・・・クエン酸であろう
資料2
抗ウイルス作⽤を⽰す梅関連物質
梅果実由来 2',9−エポキシリオ
抗ウイルス物質
梅酢ポリフェノール
特許
第6049533号
特許権者
JA紀南、⽥辺市
ヒドロキシ桂⽪酸誘導体(ポリ
2',9−エポキシリオニレシノール
フェノールの⼀種)
(ポリフェノールの⼀種)
梅酢からポリフェノールのみを
梅果実からHPLCなどを使って精 梅果実1㎏を加熱濃縮し、梅⾁エ
固相抽出
製
キス20gにする。
梅酢1㎏から1g
梅⼲果⾁3.7㎏から1.5㎎
梅⾁エキス15gから85.7mg
梅酢からの収率 0.1%
梅果実からの収率 0.00004%
梅果実からの収率 0.011%
○⼯業レベル
●実験室レベル
●実験室レベル
活性本体
製法など
梅⾁エキス ムメフラール
脱塩梅酢濃縮物BX70
第560884号
第5525376号
特許出願無し。学会発表のみ
和医⼤、近⼤、紀州ほそかわ他
中野BC
ニレシノール
ムメフラール
不明 クエン酸?、ムメフラー
ポリフェノール類は加熱段階で
ル? ポリフェノール類は加熱
分解している
段階で分解している
梅酢を脱塩した後、加熱濃縮す
る。
梅酢からの収率 10%
製法
実験室レベル⼜は
○⼯業レベル
⼯業レベル
●梅⾁エキスの製造、梅⾁エキ
実⽤可能性、採算
○⼤量⽣産出来ている
●ごく微量しか得られない。
スからの精製と、コストがかか
○採算問題なし
●採算は全く取れない
りすぎ
●採算は取れない。
安全性試験
抗ウイルス評価
○実施済み(論⽂化)
○試験管レベルを終え、正式な
臨床試験実施中
○BX70は⼤量⽣産出来ている。
●活性本体が不明なため、採算
の⽬標が定められない。
●そのままではクエン酸濃度が
⾼すぎて使えない
●未実施
●未実施
●未実施
●試験管レベル
●試験管レベル ●試験管レベル
平成25年11月8日 11 時
記
者 発 表
和歌山県・田辺市共同発表
梅酢ポリフェノールのウイルスへの作用に係る研究結果について
和歌山信愛女子短期大学の小山学長らのグループは、地域イノベーション戦略支援プログ
ラムの三谷氏のコーディネートにより、梅酢より抽出した「梅酢ポリフェノール」のウイル
スへの増殖抑制と不活化作用を発見しました。
今回、「梅酢ポリフェノール」がインフルエンザウイルスなどに顕著な作用を示すことが
明らかになり、11 月 10 日~12 日神戸市で開催される日本ウイルス学会学術集会で発表しま
す。
本研究事業は、和歌山県果樹産地再生緊急対策事業(平成24~25年度)により紀州田
辺うめ振興協議会(田辺市・JA紀南)が行いました。
【試験1】 梅酢ポリフェノールによるウイルス増殖抑制作用
(方法)イヌ腎臓由来細胞にA型インフルエンザウイルス(オルソミキソウイルス科)を吸
着させ、種々の濃度の梅酢ポリフェノール存在下で培養後に、子孫ウイルスを回収・定量
し、梅酢ポリフェノールを含まない時の回収量との相対収量を算出した。
(結果)梅酢ポリフェノール0.1~0.5%の添加により濃度依存的に、子孫ウイルスの相対
収量も減少した。梅酢ポリフェノールの少量添加により、インフルエンザウイルスに対す
る抗ウイルス作用(ウイルス増殖抑制作用)が明らかになった。
【試験2】 梅酢ポリフェノールによるウイルス不活性化作用(消毒作用)
(方法)種々の濃度の梅酢ポリフェノールとインフルエンザウイルスを30℃5分間保温
した後、単層培養状態のイヌ腎臓由来細胞に感染させ、残っている感染性ウイルス量を定
量し、梅酢ポリフェノールを含まない感染性ウイルス量との相対感染量を算出した。
(結果)梅酢ポリフェノール0.1~0.5%の添加により濃度依存的に、感染性ウイルス量が
減少した。梅酢ポリフェノールの少量添加により、インフルエンザウイルスが急速に感染
性を失うこと(不活性作用)が明らかになった。
【試験3】 梅酢ポリフェノールによる細胞障害作用
(方法)単層培養状態のイヌ腎臓由来細胞から培養液を取り除き、無血清培養液で洗浄後、
種々の濃度の梅酢ポリフェノールを含む0.1%のウシ血清アルブミンを含む培養溶液中3
7℃で培養し、24時間後の細胞生存量を算出した。
(結果)梅酢ポリフェノール0.1~1%の添加による細胞生存量は、梅酢ポリフェノールを
含まない培養液での細胞生存率と比べても有意差のない数値であった。梅酢ポリフェノー
ルの添加による細胞への障害作用は極めて弱い事が確かめられた。
この結果から、梅酢ポリフェノールは微量でインフルエンザウイルスに対し強い抗ウイ
1
ルス作用・ウイルス不活化作用(殺ウイルス作用)を示し、細胞組織への障害作用は極め
て弱く安全性が高いものであることが判明した。
○学会での発表について
今回の成果は11月10日(日)~12日(火)神戸市で開催される日本ウイルス学会学術集
会では、単純ヘルペスウイルス(ヘルペスウイルス科)、消化器感染を起こすエンテロウ
イルス(ピコルナウイルス科)およびカリシウイルス科のウイルスの結果と共に発表しま
す。
ウイルス学会の発表タイトルは「ウメ酢ポリフェノールのもつ抗ウイルス活性の解析」
であります。
また、本年11月19日(火)田辺市において農家、農協、梅関係者を対象に報告会を開催
する予定です。
○今回の研究結果の活用と今後の進め方について
今回使用した梅酢ポリフェノールは、梅干し製造時に発生する梅酢から抽出したものであ
ります。梅酢ポリフェノールは梅干しを製造する際に20%が梅酢として抽出され、80パ
ーセントが梅干しに残存することが分かっており、梅干しの中の梅酢ポリフェノールにもイ
ンフルエンザ等のウイルスに対して同様な効果があることが考えられます。
今後、消費者の皆様に広くお伝えするとともに、更に研究を深めてまいりたいと考えます。
今後の研究としては梅酢ポリフェノールの抗ウイルスに関するヒト介入試験等の実施に
ついて検討を進めており、
「梅酢ポリフェノール」を用いた安全性の高い消毒薬、うがい薬、
抗ウイルス食品、などの開発についても同時に検討を行っていきます。
○その他
今回の結果に基づき、田辺市とJA紀南では、この「抗ウイルス物質及びこれを含む医薬
等」について本年4月に特許出願をしております。
※使用した「梅酢ポリフェノール」について
平成13年度にJA紀南による調査研究を経て、平成21~23年度の地域イノベーション戦略支援
プログラム(都市エリア型)事業により、その抽出方法が確立されたもので、梅酢に含まれる塩分やク
エン酸などは全く含まれておらず、クマル酸やフェルラ酸等を主体とした純粋なポリフェノール類であ
る。梅干しには、80%残存し、梅酢には20%が抽出されていることがわかっている。
※梅酢に含まれるポリフェノールの研究経過について
平成21~23年度
地域イノベーション戦略プログラム(都市エリア型)事業
近畿大学生物理工学部、和歌山県立医科大学、和歌山工業高等専門学校 県うめ研究所、県工業技術セン
ター、JA紀南、花王(株)、サッポロ飲料(株)、サントリービジネスエキスパート(株)、中野BC(株)、
プラム食品(株)、(社)和歌山県農産物加工研究所、和歌山ノーキョー食品工業(株)で梅酢ポリフェ
ノールの抽出方法、その機能性の研究が行われ、特許の取得がなされている。
2
平成24~25年度
紀州田辺うめ振興協議会(田辺市・JA紀南)において調査研究
和歌山信愛女子短期大学小山学長らにより、梅酢に含まれる梅酢ポリフェノールの抗ウイルス作用等
について研究され、インフルエンザウイルスや単純ヘルペスウイルスに対して顕著な作用を示すことが
明らかとなった。
連絡先(和歌山県)
和歌山県
商工観光労働部
産業技術政策課
企業政策局
産業技術推進班
中場
前田
TEL 073-441-2355
FAX 073-432-0180
連絡先(田辺市)
田辺市 産業部 農業振興課 梅振興室
北川 山崎
TEL 0739-26-9959
FAX 0739-22-9908
3
JP 6049533 B2 2016.12.21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅酢ポリフェノールを有効成分として含み、クエン酸を含まない抗ウイルス剤。
【請求項2】
インフルエンザウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
ヘルペスウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
ポリオウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
10
コクサッキーウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
カリシウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
請求項1∼6の何れかに記載の抗ウイルス剤を含む抗ウイルス用医薬品。
【請求項8】
請求項1∼6の何れかに記載の抗ウイルス剤を含む抗ウイルス用医薬部外品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
20
(2)
JP 6049533 B2 2016.12.21
この発明は、梅酢ポリフェノールなどの梅酢由来成分を有効成分とする抗ウイルス剤及
びこれを含む医薬品等に関する。
【0002】
梅果実の薬効は昔から知られており、中でも下痢や吐き気止めなど消化管機能への改善
作用がよく知られている(非特許文献1を参照。)。梅果実は、クエン酸やポリフェノー
ルを生理活性物質として含んでおり、従来から、これらの成分が消化管機能への改善作用
に関係していると考えられてきた。
【0003】
このうち、クエン酸は、その酸性によって微生物やウイルスの殺菌・消毒作用を発揮す
ると考えられてきた。ただ、強力な酸性を持つ胃液中の塩酸でさえも腸内では中和されて
10
しまことを考えるならば、有機酸であるクエン酸も腸内では恐らく中和されており、クエ
ン酸が腸内で酸性環境をつくりだすような酸として存在し、働いていることは恐らくあり
得ないと考えられる。
【0004】
そこで、近年、梅の機能性成分、特にポリフェノール成分の解析が進み、その性質が明
らかになった。具体的には、ポリフェノール類は腸内のpH 環境でも安定しており、その
抗菌性が明らかになった。なお、ポリフェノールは、梅果実中に約1,000 ppm程度存在し
ていることが知られている(非特許文献2及び3を参照。)。
【0005】
発明者らは、このポリフェノールについて長年に渡って研究を進めている。その結果、
20
梅干製造時に副産物として大量に発生し、処理費用を支払って処理している梅酢から、果
実由来のポリフェノール(梅酢ポリフェノール)を大量製造する製造法を開発し、その化
学分析や健康増進作用について既に特許出願している(特許文献1を参照。)。なお、こ
の梅酢ポリフェノールは、その製造工程中に、梅果実由来の遊離のクエン酸や梅干製造の
ために大量に添加された食塩が除去されている。そのため、梅酢ポリフェノールは、ポリ
フェノールそのものの活性を調べるには最適の素材である。
【0006】
また、発明者らは、梅酢ポリフェノールについて、ラット急性毒性試験、ラット28日間
亜急性毒性試験、マウス90日間慢性毒性試験、UMUテスト及びマウス小核試験などの変異
原性試験などの安全性試験を実施し、梅酢ポリフェノールの安全性が極めて高いことを明
30
らかにしている(非特許文献4を参照。)。
【0007】
また、発明者らは、梅酢から得られるポリフェノール抽出物、及びこれを使用する肥満
や糖尿病の治療、予防に有効的なα−アミラーゼ阻害作用及びα−グルコシダーゼ阻害作
用を有する酵素阻害剤、食品組成物、特定保健用食品組成物、医薬部外品組成物、医薬組
成物に関する特許を既に出願している(特許文献1を参照。)。さらに、発明者らは、梅
酢から得られるポリフェノール抽出物の血圧上昇抑制作用を見出して既に特許出願してい
る(特許文献2を参照。)。加えて、発明者らは、梅酢から得られるポリフェノール抽出
物を含む抗菌物質及びこれを含む医薬品などについても既に特許出願している(特許文献
3を参照。)。
40
【0008】
しかし、安全性や抗菌性が確認されている梅酢ポリフェノールの抗ウイルス性について
は研究されておらず、これを含む抗ウイルス剤や医薬品等についても研究されていなかっ
た。
【0009】
なお、発明者らの研究のほかにも、梅果汁の濃縮物によるインフルエンザウイルスの増
殖抑制作用の報告があるが(非特許文献5を参照。)、この梅果汁濃縮物はポリフェノー
ル類が含有されておらず、加熱濃縮をする際副次的に生成するフルフラール類が抗ウイル
ス作用の本体であるとしている。また、梅果実に含まれるリグナン誘導体のインフルエン
ザウイルス増殖抑制作用が報告されているが(特許文献4を参照。)、発明者の梅酢ポリ
50
(3)
JP 6049533 B2 2016.12.21
フェノール中には痕跡程度しか含有されていないことが判明している。さらに、由来とす
る植物は異なるが、サツマイモ茎葉ポリフェノール抽出物(特にカフェ酸誘導体)のイン
フルエンザウイルス抑制作用(特許文献5を参照。)、柿渋の抗ノロウィルス作用(非特
許文献6を参照。)などが研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−137929号公報
【特許文献2】特開2012−171936号公報
【特許文献3】特開2013−043835号公報
10
【特許文献4】特開2011−246419号公報
【特許文献5】特開2011−105611号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】中薬大辞典、小学館、1990.6
【非特許文献2】三谷 隆彦、ウメ(Prunus mume. Sieb. et Zucc.)中のフェノール性
化合物、果樹試験研究推進協議会会報 16,33(2010)
【非特許文献3】中林良彦ら、梅酢ポリフェノールの抗菌作用に関する研究 平成24年日
本農芸化学会総会
【非特許文献4】志賀 勇介,土田 辰典,原 雄大,岸田 邦博,前田 正信,宮下 20
和久,藤原 真紀,山西 妃早子,矢野 史子,三谷 隆彦、「梅酢ポリフェノール抽出
物の安全性の検討」、近畿大学生物理工学部紀要No.28 p31-40 2011年
【非特許文献5】Sangchai Yingsakmongkon et al., "In Vitro Inhibition of Human In
fluenza A Virus Infection by Fruit-Juice Concentrate of Japanese Plum(Prunus mum
e SIEB. et Zucc)", Biol. Pharm. Bull. 31(3)511-515(2008)
【非特許文献6】「渋柿の抗ノロウイルス作用の発見」、[online]、広島大学、[201
3年2月22日検索]、インターネット<URL: http://www.hiroshima-u.ac.jp/gsbs/kenky
u_syokai/shimamoto/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
30
【0012】
この発明は、梅加工食品を製造する際に生じる梅酢の利用をより促進するとともに、安
全で抗ウイルス活性の強い抗ウイルス剤を提供することを課題とする。また、強い抗ウイ
ルス活性を備えた医薬品及び医薬部外品を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、鋭意検討の結果、梅酢ポリフェノール、梅酢ポリフェノールの加水分解物
、及び梅酢ポリフェノールの構成成分である梅酢ポリフェノールアグリコンが高い抗ウイ
ルス活性を備えていることを見出してこの発明を完成させた。
【0014】
40
すなわち、この発明の抗ウイルス剤は、有効成分として含梅酢ポリフェノールを含み、
クエン酸を含まないものである。また、この発明の医薬品及び医薬部外品は、この発明の
抗ウイルス剤を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明の抗ウイルス剤は、高い抗ウイルス活性を備えていることが確認されているた
め、医薬品として投与して消化管や尿路などで異常繁殖したウイルスを除去することが期
待できる。しかも、この発明の抗ウイルス剤は食品由来であるため高い安全性を有してい
ることが保証されており、長期間に渡って使用できることが期待できる。また、この発明
の抗ウイルス剤は、梅干製造時に発生する梅酢を利用することができる。
50
(4)
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【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)は、梅酢ポリフェノールの単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対
する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。また、図1(b)は、梅酢ポリ
フェノールのHSV-1に対するウイルス不活化作用を測定した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、梅酢ポリフェノールの単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)に対する抗
ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3(a)は、梅酢ポリフェノールのA型インフルエンザウイルスA0PR8株に対
する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。また、図3(b)は、梅酢ポリ
フェノールのA0PR8株に対するウイルス不活化作用を測定した結果を示すグラフである。
10
【図4】図4(a)は、梅酢ポリフェノールのポリオウイルス1型(PV-1)に対する抗ウ
イルス作用を測定した結果を示すグラフである。また、図4(b)は、梅酢ポリフェノー
ルのPV-1に対するウイルス不活化作用を測定した結果を示すグラフである。
【図5】図5は、梅酢ポリフェノールのコクサッキーB群5型ウイルス(CBV-5)に対する
抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、梅酢ポリフェノールのネコカリシウイルス(FCV)に対する抗ウ
イルス作用を測定した結果を示すグラフである。また、図6(b)は、梅酢ポリフェノー
ルのFCVに対するウイルス不活化作用を測定した結果を示すグラフである。
【図7】図7(a)は、HEp-2細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用を測定し
た結果を示すグラフである。また、図7(b)は、MDCK細胞に対する梅酢ポリフェノール
20
の細胞障害作用を測定した結果を示すグラフである。
【図8】図8は、加水分解物の単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対する抗ウイルス
作用を測定した結果を示すグラフである。
【図9】図9は、加水分解物のA型インフルエンザウイルスA0PR8株に対する抗ウイルス
作用を測定した結果を示すグラフである。
【図10】図10は、加水分解物のポリオウイルス1型(PV-1)に対する抗ウイルス作用
を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.抗ウイルス剤
30
この発明の抗ウイルス剤は、梅酢から得られる梅酢ポリフェノールを有効成分として含
み、クエン酸を含まないものである。以下に、その詳細について説明する。
【0018】
(1)梅酢ポリフェノール
梅酢に含まれる梅酢ポリフェノールは多種類あり、その構造はアグリコン部分がヒドロ
キシ桂皮酸である配糖体、ヒドロキシ桂皮酸と糖・有機酸とのエステル体など、ヒドロキ
シ桂酸の誘導体が大部分を占める。このような梅酢ポリフェノールは、例えば、特許文献
1に記載の方法で製造できる。なお、特許文献1で製造された梅酢ポリフェノール抽出物
に含まれるポリフェノールの濃度を正確に測定することはできない。しかし、標準物質と
して没食子酸を使用するフォーリン−チオカルト法により測定した場合、梅酢ポリフェノ
40
ール抽出物にポリフェノールは、10∼15%程度含まれていることが分かっている。
【0019】
(2)梅酢ポリフェノール加水分解物
梅酢ポリフェノール加水分解物は、アルカリ、酸、アミラーゼやエステラーゼなどの酵
素を使用する公知の方法によって、梅酢ポリフェノールを糖や有機酸とアグリコン部分(
梅酢ポリフェノールアグリコン)とに加水分解したものである。加水分解条件は特に限定
する必要はないが、アグリコン部分が全面的に破壊されてしまう条件は好ましくない。
【0020】
(3)梅酢ポリフェノールアグリコン
梅酢ポリフェノールアグリコンは、梅酢ポリフェノール加水分解物から、糖や有機酸を
50
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除去し、アグリコン部分を精製したもののことである。精製方法は、例えば、加水分解物
を合成吸着剤(例えば三菱化学社製ダイヤイオンHP20など)から成るカラムクロマトグラ
フィーにかけ、脱イオン水でカラムを洗浄後、カラムに吸着した梅酢ポリフェノールアグ
リコンをメタノールやエタノールなどで溶出し、溶出液を濃縮乾固するなどの方法が挙げ
られる。
【0021】
なお、梅酢ポリフェノールは、液体であっても固体であってもよく、単独で又は別の物
質と組み合わせて混合物として使用してもよい。混合物として使用する場合には、スプレ
ードライ、凍結乾燥、デキストリンなどの造形剤の添加処理などをしたものであってもよ
い。また、液体である場合には、限外ろ過などの公知の方法によって濃縮して使用すれば
10
、不要な成分、例えば、糖分、塩分、有機酸などを除去することもできる。
【0022】
また、梅酢ポリフェノール等は、多数種のポリフェノールを含んでいる。そのため、こ
れらの中から特定のポリフェノールを、ろ過、カラム処理、溶剤洗浄などの公知の手段に
よって選別処理してから使用してもよい。
【0023】
2.医薬品など
この発明の医薬品及び医薬部外品は、この発明の抗ウイルス剤を含んでいるものである
。なお、医薬品及び医薬部外品における抗ウイルス剤の含有量は、使用する抗ウイルス剤
の抗ウイルス力やその用途等を勘案して自由に設定することができる。
20
【0024】
(1)医薬品
医薬品とは、薬事法に規定されているものであって、医療用医薬品及び一般用医薬品(
OTC)の何れをも含む。また、その対象となる疾患は従来からある抗ウイルス剤を含む医
薬品、例えば風邪薬、整腸剤、含嗽薬などであれば、特に限定することなく使用できる。
さらに、その形態については、例えば、丸薬剤、液剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル
錠剤、トローチ剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、懸濁液、エマルジョン剤、エリキシ
ル剤などの経口剤、注射剤、坐剤、外用液剤、軟膏等の塗布剤等の非経口剤などが挙げら
れるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
30
なお、この発明の医薬品を経口剤として製造する場合には、公知の賦型剤、結合剤、崩
壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤等とともに、公知の
製造方法により製造すればよい。
【0026】
また、この発明の医薬品を非経口剤として製造する場合には、注射用蒸留水、生理食塩
水希釈剤、ブドウ糖水溶液等の希釈剤、公知の殺菌剤、防腐剤、安定剤、等張化剤、安定
剤、防腐剤、無痛化剤とともに、公知の方法によって製造すればよい。
【0027】
(2)医薬部外品
医薬部外品とは、薬事法に規定されているものであって、例えば、含嗽剤、脱臭剤(デ
40
オドラント剤)、育毛剤、薬用化粧品類、栄養補給薬(サプリメント)等が挙げられるが
、これらに限定されるものではない。
【0028】
(3)化粧品
化粧品とは、薬事法に規定されているものであって、例えば、口紅、ファンデーション
などのメークアップ化粧品、化粧水などの基礎化粧品、ヘアトニック、香水、歯磨き、シ
ャンプー、リンス、身体を洗うための石鹸、入浴剤などのいわゆるトイレタリー製品が挙
げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
(4)食品
50
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食品とは、ヒト用の一般食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康
食品、栄養補助食品などを意味している。食品として、具体的には、かまぼこ、ちくわ、
はんぺん等の水産加工製品、ソーセージ、ハム、ウインナ−等の食肉加工製品、豆腐や油
揚げ、コンニャク等の農産加工製品、洋菓子、和菓子、パン、ケ−キ、ゼリ−、プリン、
スナック、クッキ−、ガム、キャンディ、ラムネ等の菓子類、生めん、中華めん、そば、
うどん等のめん類、ソ−ス、醤油、ドレッシング、マヨネ−ズ、タレ、ハチミツ、粉末あ
め、水あめ等の調味料、カレ−粉、からし粉、コショウ粉等の香辛料、ジャム、マーマレ
ード、チョコレ−トスプレッド、漬物、そう菜、ふりかけや、各種野菜・果実の缶詰・瓶
詰等の加工野菜・果実類、チ−ズ、バタ−、ヨ−グルト等の乳製品、果実ジュ−ス、野菜
ジュ−ス、乳清飲料、清涼飲料、健康茶、薬用酒類等の飲料、その他、栄養補強(栄養補
10
助)等を目的とする健康維持のための錠剤、飲料、顆粒等の健康志向の飲食品類などが例
示できるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
(5)食品添加物
食品添加物とは、食品衛生法第4条第2項で定義されている「食品の製造の過程において
又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使
用するもの」はもちろん、それ以外の「食品に直接添加、混和、浸潤などしての使用はし
ないが、手指、機械、計量具などの殺菌や清掃に使用することなどで食品に接する可能性
があるもの」、厚生労働大臣が指定した「指定添加物」、長年使用されてきた天然添加物
であって品目が決められている「既存添加物」、「天然香料」、「一般飲食物添加物」の
20
全てを含む。
【0031】
(6)飼料
飼料とは、ヒト以外の動物の餌のことである。ヒト以外の動物としては、例えば、イヌ
、ネコなどの愛玩動物、カナリア、インコなど観賞用鳥類、キンギョ、熱帯魚などの観賞
用魚類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜、ニワトリなどの家禽、ブリ、マダイ、ヒ
ラメなどの養殖魚などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
以下に、実施例に基づいてこの発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例
は如何なる意味においても特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。
30
【実施例】
【0033】
1.実験材料
(1)梅酢ポリフェノール及びそのアルカリ加水分解産物
梅酢ポリフェノールは、特許文献1に記載の製造方法に従って工業的製法により調製し
た標品(Lot.100525)を使用した。標品は実験で使用するまで1gずつに分包して、乾燥
剤存在下、-15℃で冷凍保存した。そして、この標品を蒸留水5.0mlに溶かしたのち、ダ
ルベッコのリン酸緩衝塩類溶液(pH7.4、以下PBSと省略する。)5.0mlを加えて、100 m
g/mlの試料液として実験に使用した。
【0034】
40
また、梅酢ポリフェノールのアルカリ加水分解物は、梅酢ポリフェノールの標品から次
のようにして製造し、実験に使用した。まず、梅酢ポリフェノールの標品100mgにあらか
じめ窒素置換した1Nの水酸化ナトリウム溶液を4ml加えて、37℃で24時間インキュベート
した。反応終了後、リン酸緩衝液を0.27ml加え、さらに酢酸エチルを5ml加えて4℃、3000
rpmで1分間遠心を行い抽出した。遠心後、上清を回収しその残渣に再度酢酸エチル5mlを
加えて、同様に遠心し上清を回収した。この1回目と2回目の上清を混合し、60℃、窒素気
下で乾固させた。この加水分解物はカフェ酸、クマル酸、フェルラ酸などを含んでおり、
かなり強い酸性を示した。
【0035】
そこで、加水分解物をPBSに溶かしたのちNaOHを用いてpH6まで中和してから、実験に使
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用した。なお、この実施例では、梅酢ポリフェノール加水分解物の濃度は、例えば、梅酢
ポリフェノール10gから得られる加水分解物量を梅酢ポリフェノール加水分解物10g当量
と考え、表記している。
【0036】
(2)ウイルス
ウイルスは、エンベロープウイルスと非エンベロープウイルスの両方を使用した。より
具体的には、エンベロープウイルスとして、A型インフルエンザウイルスA0/PR8/34 (以
下、A0PR8株と省略する。) 株及び単純ヘルペスウイルス1型F株(以下、HSV-1と省略する
。)と2型186株(以下、HSV-2と省略する。)を使用した。
【0037】
10
また、非エンベロープウイルスとして、ポリオウイルス1型Sabinワクチン株(以下、PV1と省略する。) 、コクサッキーBウイルス5型(以下、CBV-5と省略する。)及びネコカリ
シウイルス(以下、FCVと省略する。)を使用した。
【0038】
ここで、A型インフルエンザウイルス(オルソミキソウイルス科)は、元来は水鳥の消
化器感染ウイルス(糞口感染で伝播)であるが、人では飛沫感染並びに接触感染により伝播
する呼吸器感染ウイルスである。
【0039】
また、単純ヘルペスウイルス(ヘルペスウイルス科)は、接触感染で伝播する体表粘膜
感染ウイルスである。このうち、HSV-1は、生活環境中に常在するウイルスであり、50歳
20
以上の年齢に限れば、日本人のほぼ100%が感染している。HSV-1は、口唇ヘルペス、角膜
ヘルペス、性器ヘルペスなどの原因であるだけでなく、日本脳炎が減少した現在、ウイル
ス性脳炎の最大の原因でもある。なかでも、新生児に感染すると、予後の悪い重篤な新生
児ヘルペスを発症させることがある。ただ、HSV-1は、体表に症状をあらわすことから、2
0世紀初頭の早い時期に病原体として分離され、ウイルス学的研究も古くから進められた
ウイルス又はウイルス病として最もよく解析されたモデルウイルスのひとつでもある。な
お、HSV-2はHSV-1と同じくヘルペスウイルス科に属し、ウイルス粒子の性状も臨床的特色
や疫学的特徴も似ている。しかし、近年では性器ヘルペスの主たる原因として大きな問題
となってきている。
【0040】
30
さらに、ポリオウイルス及びコクサッキーウイルス(何れもピコルナウイルス科)は、
糞口感染により伝播する消化器感染ウイルスである。これらのウイルスは、ウイルス生活
サイクルに人体外の自然環境(下水や河川、井戸水など)の下にある時期が含まれるため
、堅固なウイルス粒子構造を持ち、一般に化学的処理や物理的処理に対して抵抗性が高い
。
【0041】
加えて、ネコカリシウイルス(カリシウイルス科)は、ポリオウイルスと殆ど同じウイ
ルス粒子構造をしている。ネコカリシウイルスは、ネコでは消化器感染ではなく呼吸器感
染ウイルスであるが、ノロウイルスと同じくカリシウイルス科であるため、厚生労働省で
はノロウイルスの代替ウイルスとして扱われている。
40
【0042】
(3)細胞及び細胞培養用培地
HSV-1、HSV-2、 PV-1及びCBV-5の抗ウイルス作用の測定には、ヒト由来のHEp-2細胞を
使用した。また、HSV-1、 HSV-2、 PV-1及びCBV-5の感染価の測定には、アフリカミドリ
ザル腎由来のVero細胞を使用した。また、A0PR8株の抗ウイルス作用及び感染価の測定の
測定には、イヌ腎由来のMDCK細胞を使用した。FCVの抗ウイルス作用及び感染価の測定の
測定には、ネコ由来のCRFK細胞を使用した。さらに、細胞障害活性(殺細胞作用 cytocid
al effect)の測定には、HEp-2細胞及びMDCK細胞を使用した。なお、細胞の培養には5%ウ
シ胎児血清(以下、FBSと省略する。) を含むイーグル最低必須培地(以下、MEMと省略す
る。)を使用した。
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【0043】
2.実験方法
(1)ウイルス感染価の定量
ウイルスの感染価はプラーク法で定量した。具体的には以下のようにして定量した。ま
ず、各ウイルスの感染価の定量に使用する細胞が50mm‐ディッシュの底部全体を覆うよう
になるまで単層培養した。つぎに、各ウイルス試料をPBSで10倍階段希釈し、その0.5mlを
ディッシュに接種したのち、室温で1時間ゆっくりと機械的に振盪して、ウイルスを吸着
させた。
【0044】
なお、ウイルスの非特異的な不活化を抑えるために、HSV-1、HSV-2、PV-1、CBV-5及びF
10
CVに対する希釈液には0.5%FBSを、A0PR8株に対する希釈液には0.1%ウシ血清アルブミン
(以下、BSAと省略する。)を、それぞれ加えた。
【0045】
ウイルスを吸着させたのち、未吸着のウイルスを吸引除去し、ウイルス感染細胞を各ウ
イルスに適した条件で培養した。具体的には、HSV-1、HSV-2、CBV-5及びFCV感染細胞は、
0.5%FBSと0.6%メチルセルロースを含むMEM中で、37℃で培養した。また、A0PR8株感染
細胞は、0.6%寒天(Difco purified agar)とアセチル化トリプシン(6μg/ml)を含むM
EM中で、37℃で2日間培養した。PV-1感染細胞は、0.5%FBSと0.6%メチルセルロースを含
むMEM中で、35.5℃、28時間培養した。培養後、感染細胞を含むディッシュを10%ホルマ
リンと0.5%(w/v)クリスタルヴァイオレットを含む液で固定染色して、水洗・風乾した
20
のち、プラークを視認により計数した。
【0046】
(2)抗ウイルス作用(antiviral effects)の測定
ウイルス増殖に対する各試料の作用を具体的には次のようにして測定した。まず、各ウ
イルスの測定に使用する細胞が、6穴ディッシュ(直径33mm)の底面全体を覆うようにな
るまで単層培養した。つぎに、各ウイルスをMOI=5∼10[細胞当たり5∼10個(PFU;感染単
位)]になるように6穴ディッシュの各ウェルに加え、ロッカープラットフォーム上、室温
で60分間ウイルスを吸着させた。
【0047】
ウイルスを吸着させたのち、6穴ディッシュの各ウェルのウイルス感染細胞に0.1%BSA
30
を含むMEMを1.0mlずつ培養液として加えた。さらに、各ウェルに加える試料液量を変え
て種々の試料濃度になるように培養液に添加したのち、各ウイルスが完全に増殖するのに
必要な時間(HSV-1、HSV-2、 CBV-5及びFCVは16∼28時間、A0PR8株は12∼18時間、PV-1は
約16∼24時間)培養した。
【0048】
最後に、生じた子孫ウイルスをウイルスの種類に応じて定量した。具体的には、HSV-1
、HSV-2、 PV-1、 CBV-5及びFCVの場合は、感染細胞を培養液とともに-80℃で2回凍結融
解して温和な条件下で破砕することによって、細胞内ウイルスも細胞外に放出させ、細胞
融解液中の感染性ウイルスを総子孫ウイルス量としてプラーク法で定量した。また、A0PR
8株の場合は、培養上清の一部を取って、その中に放出された感染性ウイルス量をプラー
40
ク法で測定した。
【0049】
なお、抗ウイルス作用は、各濃度の試料を含む培養液で産生された子孫ウイルス量を、
感染細胞の培養液に各試料液を加えなかった時に産生された感染性子孫ウイルス量を対照
(1.00)とする相対値で表した。
【0050】
(3)ウイルス不活化作用(殺ウイルス作用 virucidal effect)の測定
プラスチック製のチューブ(Assist tube)に各試料液を一定量加え氷冷し、そこに試
料の1/19量になるようにウイルス液を添加した。充分に混和した試料-ウイルス混液を30
℃で5分間静置したのち、(1)のウイルス感染価の定量と同様にウイルスの非特異的な
50
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不活化を抑える成分を加えた冷たいウイルス希釈液で直ちに10倍階段希釈し、各希釈液中
の感染性ウイルス量をプラーク法にて測定した。
【0051】
ウイルス不活化作用は、各濃度の試料液中で保温した時の残存感染性ウイルス量を、試
料液の代わりにウイルス希釈液を使用して保温した試料における残存感染性ウイルス量を
対照(1.00)とする相対値で表した。
【0052】
(4)細胞障害活性(殺細胞作用 cytocidal effect)の測定
まず、6穴ディッシュの各ウェルの底面全体を覆うようになるまで、HEp-2細胞又はMDCK
細胞を単層培養したのち、各試料液を種々の濃度で含む培養液(0.1%BSAを含むMEM)を
10
各ウェルに加え、37℃で24時間保温した。
【0053】
つぎに、各ウェルに一定量のトリプシン-EDTA溶液を加えて、単層培養から細胞をバラ
バラに分散したのち、トリプシン作用の停止と細胞の安定化のために10%血清を含むMEM
を一定量加え、単細胞分散液を調製した。この細胞分散液から一定量を採って、一定量の
トリパンブルー液を加えて死細胞のみを染色し、総細胞数の中に占める死細胞数の割合を
色素排除法で定量した。
【0054】
3.実験結果と考察
(1)梅酢ポリフェノールのHSV-1に対する抗ウイルス作用の測定
20
梅酢ポリフェノールのHSV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のよ
うにして測定した。まず、HEp-2細胞にHSV-1をMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅
酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で19時間培養した。つぎに、生じた
子孫ウイルスと感染細胞を培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノー
ルを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図1(
a)に示す。
【0055】
なお、図1(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は
各濃度における梅酢ポリフェノールの存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリ
フェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している
30
。
【0056】
図1(a)から、ウイルス収量はポリフェノール濃度に比例して対数的に減少し、梅酢
ポリフェノールがHEp-2細胞でのHSV-1増殖を抑制することが確認できた。ただ、この抑制
効果は、比較的高濃度のポリフェノールを必要とし、ウイルス収量を1/100以下に下げる
のに10mg/ml(1重量%)という濃度を必要とすることも確認できた。また、データは示さ
ないが、梅酢ポリフェノール濃度の上昇につれて、細胞円形化やディッシュからの剥離な
ど細胞変性の増強も確認できた。このことから、HSV-1の持つ抗アポトーシス機能はポリ
フェノールによって抑制されていると考えられる。
【0057】
40
(2)梅酢ポリフェノールのHSV-1に対するウイルス不活化作用の測定
HSV-1の持つ感染性に対するポリフェノールの不活化作用を測定した。具体的には、次
のようにして測定した。まず、濃度の異なる梅酢ポリフェノールを含む液にウイルス液を
加え、30℃で5分間保温した。その後、感染性ウイルス量を、梅酢ポリフェノールを含ま
ない条件下で保温した場合の感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。そ
の結果を図1(b)に示す。
【0058】
なお、図1(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度におけ
る残存感染性ウイルス量の相対値を対数目盛りで示している。
【0059】
50
(10)
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図1(b)から、ウイルス感染価は梅酢ポリフェノール濃度に比例して4mg/mlまで対数
的に減少し、梅酢ポリフェノールが効果的にHSV-1を不活化したので、この不活化は効果
的であることが確認できた。また、HSV-1の感染性を1/1,000以下にまで下げるのに3mg/ml
以下の濃度で充分であり、ウイルスの増殖抑制よりは低い濃度で効果的な不活化が見られ
た。
【0060】
(3)梅酢ポリフェノールのHSV-2に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのHSV-2に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のよ
うにして測定した。まず、HEp-2細胞にHSV-2をMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅
酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で21時間培養した。つぎに、生じた
10
子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノ
ールを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図2
に示す。
【0061】
なお、図2の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度
における梅酢ポリフェノールの存在下で産生された子孫ウイルス量と、梅酢ポリフェノー
ルの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
【0062】
図2から、ウイルス収量はポリフェノール濃度に比例して対数的に減少し、梅酢ポリフ
ェノールがHEp-2細胞でのHSV-2増殖を抑制することが確認できた。この増殖抑制効果はHS
20
V-2に対する効果とほぼ同程度であり、ウイルス収量を1/100以下にまで下げるのに10mg/m
l(1重量%)という濃度を必要とすることも確認できた。このことから、HSV-2の抗アポ
トーシス機能は、HSV-1と同様に、梅酢ポリフェノールによって抑制されていると考えら
れる。
【0063】
(4)梅酢ポリフェノールのA0PR8株に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのA0PR8株に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次の
ようにして測定した。まず、MDCK細胞にA0PR8株をMOI=3で吸着させたのち、濃度の異なる
梅酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で一夜培養した。つぎに、生じた
子孫ウイルスと感染細胞を培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノー
30
ルを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図3(
a)に示す。
【0064】
なお、図3(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は
各濃度における梅酢ポリフェノールの存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリ
フェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している
。
【0065】
図3(a)から、ウイルス収量はポリフェノール濃度に比例して対数的に減少し、梅酢
ポリフェノールがMDCK細胞でのA0PR8株の増殖を抑制することが確認できた。また、A0PR8
40
株に対する梅酢ポリフェノールの増殖抑制効果はHSV-1に対する同効果よりも顕著であり
、ウイルス収量を1/100以下に下げるのに必要な濃度は5mg/ml (0.5重量%)であった。
【0066】
(5)梅酢ポリフェノールのA0PR8株に対するウイルス不活化作用の測定
A0PR8株の感染性に対する梅酢ポリフェノールの不活化作用を測定した。具体的には、
次のようにして測定した。まず、濃度の異なる梅酢ポリフェノールを含む液にウイルス液
を加え、30℃で5分間保温した。その後、感染性ウイルス量を、梅酢ポリフェノールを含
まない条件下で保温した場合の感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。
その結果を図3(b)に示す。
【0067】
50
(11)
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なお、図3(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度におけ
る残存感染性ウイルス量の相対値を対数目盛りで示している。
【0068】
図3(b)から、ウイルス感染価は、はHSV-1の場合と同様に、梅酢ポリフェノール濃
度に比例して4mg/mlまで対数的に減少し、梅酢ポリフェノールが効果的にA0PR8株を不活
化することが確認できた。また、A0PR8の感染性を1/1,000以下にまで下げるのに5mg/ml以
下の濃度で充分であり、この濃度はHSV-1の場合よりやや高めであるが、効果的な不活化
が確認できた。
【0069】
ただ、A0PR8株の不活化は、梅酢ポリフェノール濃度が5mg/mlを超えると意外なことに
10
減弱し、15∼20mg/mlでは感染価は1/50程度まで回復した。その後、梅酢ポリフェノール
の濃度に依存して検出限界以下にまで対数的にウイルスを不活化することが確認できた。
【0070】
(6)梅酢ポリフェノールのPV-1に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのPV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のよう
にして測定した。まず、HEp-2細胞にPV-1をMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢
ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、35.5℃で20時間培養した。つぎに、生じた
子孫ウイルスと染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノー
ルを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図4(
a)に示す。
20
【0071】
なお、図4(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は
各濃度における梅酢ポリフェノール存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフ
ェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
【0072】
図4(a)から、ウイルス収量は8mg/mlまで梅酢ポリフェノール濃度に比例して対数的
に徐々に減少し、梅酢ポリフェノールがHEp-2細胞でのPV-1増殖を抑制することが確認で
きた。ただ、この抑制は、HSV-1と比較して顕著に弱く、8mg/mlでもウイルス収量は1/10
以下までも下がっていない。梅酢ポリフェノール濃度が、10mg/mlではウイルス収量が明
白に下がっている。
30
【0073】
(7)梅酢ポリフェノールのPV-1に対するウイルス不活化作用の測定
PV-1の持つ感染性に対するポリフェノールの不活化作用を測定した。具体的には、次の
ようにして測定した。まず、濃度の異なる梅酢ポリフェノールを含む液にウイルス液を加
え、30℃で5分間保温した。その後、感染性ウイルス量を、梅酢ポリフェノールを含まな
い条件下で保温した場合の感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。その
結果を図4(b)に示す。
【0074】
なお、図4(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度におけ
る残存感染性ウイルス量の相対値を対数目盛りで示している。
40
【0075】
図4(b)から、ウイルス感染価は、梅酢ポリフェノール濃度にかかわらず、殆ど減少
しないことが確認できた。言い換えると、梅酢ポリフェノールは、PV-1を不活化できない
ことが確認できた。
【0076】
(8)梅酢ポリフェノールのCBV-5に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのCBV-5に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のよ
うにして測定した。まず、HEp-2細胞にCBV-5をMOI=3で吸着させたのち、濃度の異なる梅
酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で25時間培養した。つぎに、生じた
子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノ
50
(12)
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ールを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図5
に示す。
【0077】
なお、図5の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度
の梅酢ポリフェノール存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノールの非
存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
【0078】
図5から、ウイルス収量はポリフェノール濃度に比例して対数的に徐々に減少し、梅酢
ポリフェノールがHEp-2細胞でのCBV-5の増殖を抑制することが確認できた。ただ、この抑
制効果は、HSV-1と比較して顕著に弱いことも確認できた。
10
【0079】
(9)梅酢ポリフェノールのFCVに対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのFCVに対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のよう
にして測定した。まず、CRFK細胞にFCVをMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポ
リフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で17時間培養した。つぎに、生じた子孫
ウイルスと染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノールを
含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図6(a)
に示す。
【0080】
なお、図6(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は
20
各濃度における梅酢ポリフェノール存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフ
ェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
【0081】
図6(a)から、FCVは梅ポリフェノールに対する感受性が高いことが確認できた。具
体的には、梅酢ポリフェノール濃度が10mg/mlまではウイルス収量に比例して対数的に著
しく減少するとともに、梅酢ポリフェノール濃度が10mg/ml(1重量%)ではウイルス収量
は1/106以下まで下がることが確認できた。
【0082】
(10)梅酢ポリフェノールのFCVに対するウイルス不活化作用の測定
FCVの持つ感染性に対するポリフェノールの不活化作用を測定した。具体的には、次の
30
ようにして測定した。まず、濃度の異なる梅酢ポリフェノールを含む液にウイルス液を加
え、30℃で5分間保温した。その後、感染性ウイルス量を、梅酢ポリフェノールを含まな
い条件下で保温した場合の感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。その
結果を図6(b)に示す。
【0083】
なお、図6(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度におけ
る残存感染性ウイルス量の相対値を対数目盛りで示している。
【0084】
図6(b)から、ウイルス感染価は、梅酢ポリフェノール濃度にかかわらず、殆ど減少
しないことが確認できた。言い換えると、梅酢ポリフェノールは、PV-1と同様にFCVは不
40
活化できないことが確認できた。
【0085】
(11)HEp-2細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用の測定
HEp-2細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用について測定した。具体的には
次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞をコンフルエントになるまで単層培養して、
単層培養状態のHEp-2細胞から培養液を除き、PBSで一度洗ったのち、濃度の異なる梅酢ポ
リフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で24時間培養した。
【0086】
つぎに、各ウェルから培養液を除いて、トリプシン-EDTA溶液を加え、単細胞分散液を
調製したのち、トリパンブルーを加えて生細胞と死細胞を数え、総細胞数中に占める死細
50
(13)
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胞の割合を色素排除法により算出した。その結果を図7(a)に示す。
【0087】
なお、図7(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度におけ
る死細胞数の割合を対数目盛りで示している。
【0088】
図7(a)から、梅酢ポリフェノール濃度が、6mg/ml以下では死細胞の割合は未処理と
同程度であり、この濃度を超えると濃度の上昇につれて死細胞の割合が増加することが確
認できた。ただ、梅酢ポリフェノール濃度が10mg/mlになっても顕著な細胞死は確認でき
なかった。これらの結果から、梅酢ポリフェノールの細胞障害作用はそれほど強いもので
はなく、梅酢ポリフェノールによるウイルス増殖の抑制は試薬による細胞障害によって生
10
じた副次的なものでなく、梅酢ポリフェノールがウイルス増殖過程自体を変調したもので
あると推論される。
【0089】
(12)MDCK細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用の測定
MDCK細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用を、HEp-2細胞と同様にして測定
した。その結果を図7(b)に示す。なお、図7(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度
を示し、同図の縦軸は各濃度における死細胞数の割合を対数目盛りで示している。
【0090】
図7(b)から、梅酢ポリフェノール濃度が、8mg/ml以下では死細胞の割合は未処理と
同程度であり、この濃度を超えると濃度の上昇につれて死細胞の割合が増加することが確
20
認できた。これらの結果は、基本的にはHEp-2細胞で見られた結果と同じであり、梅酢ポ
リフェノールの細胞障害作用がそれほど強いものではないこと、梅酢ポリフェノールによ
るウイルス増殖阻害が細胞障害の結果として副次的に生じたものではないことが確認でき
た。
【0091】
(13)梅酢ポリフェノール加水分解物のHSV-1に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノール加水分解物のHSV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的に
は、次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞にHSV-1をMOI=17で吸着させたのち、濃度
の異なる梅酢ポリフェノール加水分解物と0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で20時間培養
した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定
30
量し、梅酢ポリフェノール加水分解物を含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする
相対値で表した。その結果を図8に示す。
【0092】
なお、図8の横軸は梅酢ポリフェノール加水分解物の濃度を示している。また、同図の
縦軸は各濃度におけるポリフェノール加水分解物の存在下で産生された子孫ウイルスの量
と、梅酢ポリフェノール加水分解物の非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を
対数目盛りで示している。
【0093】
図8から、ウイルス収量はポリフェノール加水分解物濃度に比例して対数的に減少し、
梅酢ポリフェノールと同様に、梅酢ポリフェノール加水分解産物もHEp-2細胞でのHSV-1増
40
殖を抑制することが確認できた。また、この抑制効果は、ウイルス収量を1/100以下にま
で下げるのに10mg当量/ml(1重量%)という濃度を必要とし、梅酢ポリフェノールとほぼ
同等の抗ウイルス活性があることが確認できた。
【0094】
(14)梅酢ポリフェノール加水分解物のA0PR8株に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノール加水分解物のA0PR8株に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的
には、次のようにして測定した。まず、MDCK細胞にA0PR8株をMOI=1.4で吸着させたのち、
濃度の異なる梅酢ポリフェノール加水分解物と0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で14.5時
間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回
収・定量し、梅酢ポリフェノール加水分解物を含まない条件下での回収量を対照(1.00)
50
(14)
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とする相対値で表した。その結果を図9に示す。
【0095】
なお、図9の横軸は梅酢ポリフェノール加水分解物の濃度を示している。また、同図の
縦軸は各濃度における梅酢ポリフェノール加水分解物の存在下で産生された子孫ウイルス
の量と、梅酢ポリフェノール加水分解物の非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対
値を対数目盛りで示している。
【0096】
図9から、ウイルス収量は8mg/mlまで梅酢ポリフェノール加水分解物に比例して対数的
に徐々に減少し、梅酢ポリフェノール加水分解物がMDCK細胞でのA0PR8株の増殖を抑制す
ることが確認できた。ただ、この抑制作用は比較的高濃度のポリフェノールでなければ生
10
じず、ウイルス収量を1/100以下にまで下げるのに8mg当量/ml(0.8重量%)以上という高
い濃度を必要とすることが確認できた。
【0097】
(15)梅酢ポリフェノール加水分解物のPV-1に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノール加水分解物のPV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には
、次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞にPV-1をMOI=10で吸着させたのち、濃度の
異なる梅酢ポリフェノール加水分解物と0.1%BSAとを含むMEM中で、35.5℃で20時間培養
した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定
量し、梅酢ポリフェノール加水分解物を含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする
相対値で表した。その結果を図10に示す。
20
【0098】
なお、図10の横軸は、梅酢ポリフェノール加水分解物の濃度を示している。また、同
図の縦軸は、各濃度における試料存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェ
ノール加水分解物の非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示し
ている。
【0099】
図10から、ウイルス収量は梅酢ポリフェノール加水分解物濃度に比例して8mg当量/ml
までは対数的に徐々に減少し、梅酢ポリフェノール加水分解物がHEp-2細胞でのPV-1増殖
を抑制することが確認できた。増殖抑制効果は、梅酢ポリフェノールとほぼ同程度であっ
た。
【産業上の利用可能性】
【0100】
この発明の抗ウイルス剤は、梅干製造時に副産物として発生する梅酢から容易に調製す
ることができ、安価であり、高い安全性が確認されている。そのため、従来からある抗ウ
イルス剤よりもより広い分野で応用可能である。
30
(15)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
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(16)
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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(17)
【図10】
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(18)
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フロントページの続き
(72)発明者 辻本 和子
和歌山県和歌山市相坂702番2 和歌山信愛女子短期大学内
(72)発明者 三谷 隆彦
和歌山県和歌山市本町二丁目1番地 フォルテ・ワジマ6階 公益財団法人わかやま産業振興財
団内
合議体
審判長 村上 騎見高
10
審判官 山本 吾一
審判官 穴吹 智子
(56)参考文献 特開2013−43835(JP,A)
特開2009−137929(JP,A)
食品と開発,2010年10月 1日,45(10),81−83
日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2007年,Vol.61st,Page.245
果樹試験研究推進協議会会報,2010年,16,URL,http://www.kasui
kyo.jp/text/16−3.html
Chemotherapy (Basel),2012年,58(1),70−77
20
日本ウイルス学会学術集会・総会プログラム・抄録集,2010年,58th,425
Journal of General and Applied Microbiology
,1992年,38(4),303−312
Biochemical and Biophysical Research Commun
ications,1990年,172(3),1267−1272
ACTA BIOLOGICA CRACOVIENSIA. SERIES BOTANIC
A,1976年,19(1),29−37
日本ペット栄養学会 第15巻第14回大会号(2012) 日本動物看護学会 第21回大会
抄録集 p.99 P−8,2012年 7月 1日
紀州ほそ川,2015年10月20日検索,URL http://kishu−u.me/2
011/09/f_a_n_award2010/
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAPlus/EMBASE/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
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