GCCとイランの雪解けは来るか? - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

GCCとイランの雪解けは来るか?
その背景と影響-イランからオマーンへのガス輸出事業等2017年2月23日
調査部 エネルギー資源調査課
濱田秀明
1
内容
1.最近の動き(オマーン、クウェイトの仲介)
2.中東のエネルギーの位置づけ
3.中東の対立構造(GCCとイランとの対立とその影響:
イエメン、シリア)
4.トランプ新政権のイランおよびGCCへの姿勢
とその影響
5.GCCとイランとの雪解け
6.雪解けが進んだ場合の影響
7.今後の展望
2
1.最近の動き:オマーン、クウェイトの仲介
• 1月17日、イランのロウハーニー大統領:「イラク、クウェイトの他に8
~10ヶ国」が自国とサウディとの間の仲介を申し出た」と発言
• 1月24日、クウェイトのサバーハ ハーリド第一副首相兼外相:「イラ
ンと正常かつ公正な関係を持つことを望む」、「対話のチャンネルを
開くことは双方の利益になる」と発言
• 1月25日、同第一副首相兼外相は首長特使として親書を携えてイラ
ンを訪問し、ロウハーニー大統領、ザリーフ外相とそれぞれ会談。(
クウェイトは2016年1月にサウディアラビアがイランと断交した際に駐
イランの自国大使を召還させ、現在でもイランに戻していない。)
• 2月15日、イランのロウハーニー大統領は、オマーンを訪問してスル
ターン・カーブース国王と会談。同日、イラン大統領は、クウェイトを
訪問しサバーハ首長と会談。
クウェイト第1副首相とイラン大統領の相互訪問は、GCCとイランによる地域
の緊張が雪解けに向うシグナルか? エネルギー情勢への影響は?
3
2.中東のエネルギーの位置づけ
世界にとっての中東のエネルギー
日本にとっての中東のエネルギー
サウディアラビアの資源ポテンシャル
イランの資源ポテンシャル
原油・LNG輸送の世界的要衝「ホルムズ海峡」

同上
「バーブ ル・マンデブ(海峡)」
4
世界にとっての中東のエネルギー
世界の原油埋蔵量1.698兆バレル(2015年末)
アフリカ8%
世界の原油生産量9167万b/d(2015年1月~12月)
アジア3%
サウディ13%
アジア9%
サウディ16%
アフリカ9%
イラン4%
欧州 9%
イラク4%
イラン9%
中東比率
47%
中南米19%
イラク8%
中東比率
32%
欧州19%
クウェイト3%
UAE4%
他GCC4%
クウェイト6%
北米
UAE6%
他GCC 2%
世界のガス埋蔵量6599Tcf(2015年末)
中南米9%
世界のガス生産量342Bcfd(2015年1月~12月)
イラン5%
中南米4% 他欧州4%
イラン18%
北米7%
北米22%
サウディ3%
カタル5%
アジア16%
他中東4%
アフリカ8%
アジア8%
アフリカ6%
中東比率
43%
欧州12%
中東比率
18%
米国22%
サウディ5%
トルクメニスタン9%
出典:BP統計
カタル13%
ロシア17%
他中東7%
ロシア16%
中南米5%
他北米6%
5
日本にとっての中東エネルギー
日本の原油輸入約335万バレル(2016年1月~12月)
メキシコ, 2.7%
ナイジェリア,
2.3%
その他, 4.7%
その他,…
パプアニューギニア, 5.0%
ロシア, 6.1%
オマーン, 1.2%
サウディアラビア,
35.8%
イラク, 2.3%
中東依存度
86.5%
ロシア, 8.8%
マレーシア,
18.6%
カタル, 9.2%
UAE, 24.4%
カタル, 14.5%
ブルネイ, 5.1%
UAE, 6.0%
インドネシア,
8.0%
イラン, 6.7%
クウェイト, 6.8%
日本のLNG輸入約8,300万トン(2016年1月~12月)
中東依存度
23.6%
オマーン, 3.0%
オーストラリア,
26.9%
出典:貿易統計
世界での中東の油・ガスの埋蔵量・生産量シェアに比して、日本にとっては中東か
らの、特に原油輸入量が約9割と高い。ホルムズ海峡の内側からの原油輸入も約
4/5以上を占める。
6
サウディアラビアの資源ポテンシャル
世界全体の
16%占める
石油(コンデンセート含む)
埋蔵量:2,660億bbl(世界2位)
生産量:1,201.4万b/d(同2位)
 世界的大規模油田を複数所有
 開発コストは安い
世界全体の
4.5%占める
天然ガス
埋蔵量:8.3兆m3(世界6位)
生産量:1,064億m3/年
(同8位)
出典:各種資料よりJOGMEC作成
 随伴ガスによる生産
 未開発ガス田も複数ある
出典:BP統計。埋蔵量は確認埋蔵量を指す。生産量は2015年平均。NGL込み。
7
イランの資源ポテンシャル
世界全体の
1割弱占める
石油(コンデンセート含む)
埋蔵量:1,578億bbl(世界4位)
生産量:392万b/d(同7位)
 1979年の革命前は600万b/d近く生産
 自然減退や経済制裁の影響で半減
 開発コストは安いものの、インフラなどの
初期投資が必要
世界全体の
2割弱占める
天然ガス
埋蔵量:34兆m3(世界1位)
生産量:1,925億m3/年(米露に次ぐ世界3位)
 生産量の大半は国内消費と油層圧力維
持のための圧入に充てている
 国内埋蔵量の4割を占める世界最大規
模のサウスパースガス田では、イラン企
業による開発が進行中。
出典:BP統計。埋蔵量は確認埋蔵量を指す。生産量は2015年平均。NGL込み。
出典:各種情報を基にJOGMEC作成
8
原油・LNG輸送の世界的要衝「ホルムズ海峡」
出典:各種資料よりJOGMEC作成
• 海峡中央部に分離通行帯(Traffic Separaion Scheme: TSS)を設定。
• 最狭部で片側航路の幅は約2海里(約3.7km) 航路内水深約60~80m。
(通航安全面での脆弱性があることは否めない)
• 世界の原油流通の約4割が通過。日本に輸入される原油は8割以上が
この海峡の内側の国から来ている。
• カタル、クウェイトは代替ルートなし。
9
原油・LNG供給への影響:バーブ ル・マンデブ(海峡)
インド洋と地中海とを
結ぶ要衝
スエズ運河に直結する航路
対岸ジブチには海賊対策で日本を
含む各国が艦船を展開。
湾岸産油国と米・欧州市場を結ぶ
出典:各種資料よりJOGMEC作成
バーブ ル・マンデブ(海峡)での原油・石油製品の通航量(出典:EIA)
2009N/A
2010
2011
290万b/d 270万b/d 340万b/d
2012
370万b/d
2013
2014
380万b/d 470万b/d
215
N/A
LNG:輸出面でカタル(27.6百万トン、50%に相当)、輸入面で英国(10.4百万トン、全体の77%)、ベルギー(4.3百万ト
ン、全体の93%)、スペイン(4.5百万トン、全体の22%)
10
(出典:各種データによりJOGMEC見積、2011年)
3.中東の対立構造
サウディとイランの外交断絶





周辺国の外交状況(2016年1月時)
サウディとイラン:前回の国交断絶時の状況
サウディアラビア王国にとっての懸念
日本と中東の意識の違い
最近の対立関係
• イエメン内戦
• シリア内戦
• 米国によるイラン制裁の概要
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サウディとイランの外交断絶(2016年1月~)
<経緯>
●2016年1月2日、サウディ内務省が犯罪者47人の処刑を発表。シー
ア派4名に説教師ニムル アン・ニムル師(サウディ国籍)が含まれてい
た。残り43名はスンナ派。
●ニムル師処刑に対する両国指導者の発言:
・イラン最高指導者ハーメネーイ師:「サウディの政治家に、殉教者の
血が不正に流された影響が現れ、神による報いがあるだろう」
・ロウハーニー大統領:「処刑はイスラームと人権に対する明確な違反」
・サウディの大ムフティ(大法官)アブドルアジーズ
アール・シェイク師:
「自国の法律に従った適切な死刑執行である」
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サウディとイランの間での国交断絶
●イランでのサウディ公館焼き討ち:
翌3日未明、首都テヘランのサウディ王国
大使館とマシュハドの同王国総領事館に
抗議者が押し寄せ。大使館には館内に侵
入、焼打。警察は暴徒逮捕(40人)発表。イラン外務省:外交
使節を尊重せよとの声明発出。
出典:2016年1月、AP
●外交関係断絶:1月3日夜、サウディのアーデル ジュベイル外相は「テヘランの
大使館とマシュハドの総領事館の焼打ちはイラン政府が阻止しなかったためと抗議
し外交関係を断絶」と発表。自国大使・外交官らを召還、イラン外交官を国外退去。
●サウディはイランとの通商停止、航空機乗入れ停止。自国民のイラン渡航禁止。
●バハレーン、スーダン、ジブチ、ソマリアが続いて外交関係断絶。
UAEは大使召還(外交関係格下げ)、ヨルダン、クウェイト、カタルが大使召還
●GCC(9日)、アラブ連盟(21カ国と1地域、10日)緊急外相会議でイランの対応を非難
する声明を発表。
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周辺国外交状況(2016年1月時)
15日にはコモロ諸
島もイランとの外交
関係断絶
19日より、中国の
習近平国家主席は
、サウディ、エジプ
ト、イランを訪問。
18日から、パキス
タンのシャリーフ首
相はリヤドとテヘラ
ンを訪問。両国の
関係改善を仲介。
出典:各種資料よりJOGMEC作成(1月7日現在)
ロシア:クリスマス休暇シーズン(ユリウス暦での東方教会
のクリスマスは1月7日)で関与は現れず。
14
サウディとイラン:前回の国交断絶時の状況
• 直接のきっかけ:1987年7月末、イラン巡礼団とサウディ治安部隊が
衝突し死傷者が多数発生。直後にテヘランのサウディ大使館襲撃。
• 前後の状況:イラン革命共和体制樹立 (1978年1月~1979年4月)、GCC首
脳会議初開催 (1981年5月)。イラン・イラク戦争(1980年9月~1988年8月)、
イラクのクウェイト侵攻(1990年8月)・撤退(1991年1~2月)
• 国交再開:1991年4月、オマーンが仲介する形で国交再開
 今回との比較:
・類似点:サウディにとってイラン封じ込めが破綻したタイミングで発生
サウディ内政面での引き締めに寄与。オマーンとクウェイトが
仲介。
・相違点:両国共、同盟国を増やした→ 影響がより増大
・国交再開に向けた展望:シリア問題ではトルコも間に入っている。
15
サウディアラビア王国にとっての懸念
(1979年~2003年)
イエメンのホウシー派
•
•
•
シーア派ザイド派
1960年までのザイド派王朝の系統
2004年より政権と武力闘争。当時の、アリ
ー サーリハ大統領とは、現在同盟関係。
(2016年1月)
出典:各種資料よりJOGMEC作成
“この10年間で、イランに同盟する“シーア派”共和制に味方する勢力
が強まり、我が王国を取り囲んでいる”という懸念。
16
中東と日本との意識の違い
共同体別帰属意識の度合い
強
←
---------- 弱
但し、「部族」については中東でも湾
岸アラブ君主制とそれ以外で、また、
その他のアラブ・トルコ・ペルシャの都
市部と地方で温度差がある。
ギャップ
→
典拠:Samuel P. Huntington 1996 『The
Clash of Civilizations and the Remaking
of World Order』よりJOGMEC作成
日本
「言語」、「民族」については、日本
は単一、中東は国境を越えて広が
るという特徴を持つ。
中東
実務面での例:多重国籍者の存在。軍・
治安警察内にも、石油開発の操業部門
でも、多国籍・他民族の人々が協働。
ベースとなる帰属意識に違いが大きい点が理解の上で重要。
宗派、民族的な集団が国の枠を越えて支持や離反を起す。
国家間の緊張時に「民族」、「宗派対立」などが語られるが、利害対立などの実情が
別にありながら語られないケースが多い。
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最近の対立関係
• 関係当事者が増加
• 国を超えた地域民族・宗
派など勢力間の争いに変
化し、情勢複雑化
・サウディアラビア王国:18
世紀のワッハーブ運動で建
国
・イラン・イスラーム共和国:
「法学者の統治」理念で革
命
・双方共に求心力を高め
ると国交悪化。
・関係融和を進めると国
内の強硬派が台頭する
構造を持つ。
:サウード王家支持
:スンナ派領域
:イラン政権支持
・域内大国の一つエジプト
は一定の距離を保つ。
:混在領域
出典:各種資料よりJOGMEC作成
18
イエメン内戦(代理戦争)
●シーア派ザイド系ホーシー部族とハーディ政権は2004年より対立。




2012年より一層激化。
2014年8月22日、ホーシー勢力は首都サナアの行政庁舎・警察を占拠
2015年2月11日までにサナアの米大使館閉鎖(英、仏、独、伊、サウディ、UAEが続く)。
3月26日、「決意の嵐」作戦で空爆開始。
4月、石油生産現場の操業停止から生産減退、LNG出荷停止。
 4月21日、サウディは、「希望回復作戦」へ切替を宣言
 2016年、戦死者増大。UAEには大きな影響。
●2017年2月、戦闘継続
ハーディ政権(南部のアデン)をサウディなど有志連合が支援
ホウシー派(首都サヌア)をイランが支援
19
相関(概念)図:イエメン
関係改善?
ロシア
米:トランプ政権
接近
クウェイト
制裁
協力
仲介
アラブ首長国連邦
(UAE)
イラン・イスラーム
共和国
対立
サウディアラビ
ア王国
仲介
協力
協力
オマーン
支援
支援
支援
進出
支援
イラク
イエメン人
戦災
イエメン(ハーディー政権)
イエメン(ホウシー派)
レバノン
内戦
20
シリア内戦
2011年3月より、「アラブの春」の中で、政権批判が発生。それへの弾圧拡大。
シリア国軍と軍離反者、地元民兵、国外からの義勇兵などが参加し戦闘拡大。
「国軍と共にアサド政権の支持基盤であるアラウィー派勢力」、「シリア北部のクルド
人勢力」、「自由シリア軍」、「トルコや湾岸アラブ諸国が支援する反アサド政権の諸派
」、「アン・ヌスラ戦線」、「IS」、「イランの影響下にあるヒズブッラー民兵勢力」などが参
戦し一定領域を確保しつつ合従連衡を繰り返す。
米、EU(仏)の多国籍軍、ロシア、イランなどもシリア領内に空爆を実施。
多層構造の代理戦争にもなり、相互に合従連衡を繰り返しつつ、状況は複雑化しな
がら戦闘継続し現在に至る。
大量の避難民がトルコへ、さらに一部が欧州に移動。シリア国内の人口動態が変化
国連主導により、2014年1月からりジュネーブで和平会議開催。
ロシア主導で、カザフスタンのアスタナで2017年1月23日~24日に和平会議開催。
21
相関(概念)図:シリア
関係改善?
ロシア
米:トランプ
政権
2015年秋より軍事支援
関係改善
トルコ
共和国
欧州
対立
シリア:クルド勢力
避難民
有志
連合
非難
制裁
シリア人
対立
接近
支援
シリア:反
政府諸派
シリア:アサド政権
内戦
支援
仲介
支援
サウディアラビ
ア王国
アラブ首長国連邦
(UAE)
対立
イラン・イスラーム
共和国
22
サウディの財政状況について
単位:千サウディリアル
外貨準備高
3,000,000
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
出典:サウディ通貨庁
外貨準備高内訳(2016年12月末)
金, 0.08%
SDR, 1.37%
IMF準備ポジ
ション, 0.36%
外国通貨預
金, 30.51%
外国証券,
67.67%
為替レート(固定):1USD=3.75サウディリアル
2017年1月末で、536,410百万ドル
23
サウディの財政状況について
外貨準備高
単位:USD/b
3,000,000
120.00
2,500,000
100.00
2,000,000
80.00
1,500,000
60.00
1,000,000
40.00
500,000
20.00
0
0.00
ドバイ原油価格推移
出典:MEES
24
米国によるイラン制裁の概要
2015年7月14日、イランとP5+1(英米仏露中+独)間の合意により「Joint Comprehensive
Plan of Action:JCPOA」(イランの核問題に関する最終合意)が成立
2016年1月16日、米・EUが核関連イラン制裁の一時停止/解除を発表
米国の制裁解除は対象がかなり限定的
「非米国人(Non-US persons)」に対して、核開発に関連する制裁の適用を停止
⇒ 「非米国人」は、金融取引、保険、エネルギー・石化産業、船舶輸送・造船、金属、自動
車産業などに関連する制裁の適用を免除されることに
ただし、
① 「米国人(US persons)」に対する制裁は引き続き適用
② 米国金融システムを利用した金融決済(ドル決済)はできない
③ 制裁対象者リストに記載されている個人・団体との取引は依然制裁対象
④ テロ、ミサイル、人権問題など、核開発関連以外の制裁は残る
「米国人(US persons)」とは?
➣米国籍および米国永住権保持者
➣米国内に存在するあらゆる人・団体
➣米国企業の海外支社および米国企業が過半数出資する現地法人
25
4.トランプ新政権のイランおよびGCCへの姿勢とその影響
 イランへの姿勢
 GCC(サウディ、UAE)側への姿勢
26
トランプ大統領のイランへの姿勢
ツイッターでのイランに関する発言より。
・I don't know Putin, have no deals in Russia, and the haters are going crazy - yet
Obama can make a deal with Iran, #1 in terror, no problem! (2月7日)
・Iran is playing with fire - they don't appreciate how "kind" President Obama was to
them. Not me! (2月3日)
・Iran was on its last legs and ready to collapse until the U.S. came along and gave it a
life-line in the form of the Iran Deal: $150 billion(2月2日)
・Iran has been formally PUT ON NOTICE for firing a ballistic missile. Should have been
thankful for the terrible deal the U.S. made with them! (2月2日)
・Iran is rapidly taking over more and more of Iraq even after the U.S. has squandered
three trillion dollars there. Obvious long ago! (2月2日)
・not anymore. The beginning of the end was the horrible Iran deal, and now this
(U.N.)! Stay strong Israel, January 20th is fast approaching! (12月28日)
・Well, Iran has done it again. Taken two of our people and asking for a fortune for
their release. This doesn't happen if I'm president! (10月23日)
出典:23Oct.’16~7Feb.’17, Twitter “Donald J. Trump”
27
トランプ新政権のイランへの姿勢
1月29日、イランで弾道ミサイル発射実験実施。
2月3日、米財務省は25のイランの個人・法人に制裁
2月13日、マイケル・フリン米大統領補佐官(安全保障担当)更迭(対イラン強硬派)
米新政権はイラン再封じ込めへ向かうか
2月4日、マティス米国防長官は、「イランは最大のテロリストスポンサー国家」と非難し、「米
国は直ちに兵力を中東に増派することはないが、必要が生じればいつでもそうすることが出
来る」と発言。イランが支援するイエメンの反政府派がサウディのフリゲート艦を攻撃したこと
を受けバーブ ル・マンデブ(海峡)の航路警備のため米駆逐艦コールを派遣した。
フリン米国家安全保障顧問は「イランの敵対的・好戦的行為を黙認する日は過ぎた」と発言
米政権内の対イラン強硬派の大統領補佐官を更迭
2月14日、米ホワイトハウスのスパイサー報道官は、辞任したフリン大統領補佐官につき、ト
ランプ大統領が「強い懸念を抱いて信頼を損ねた」として更迭したことを明らかにした。
20日、後任として陸軍能力統合センターを率いるH・R・マクマスター陸軍中将が任命
トランプ氏は選挙期間中にイランへの敵視を示し、大統領就任後は制裁も課した。今後に
ついては未知数の部分あり。
28
トランプ新政権のGCC(サウディ、UAE)への姿勢
1月29日、トランプ米大統領はサウディのサルマーン国王およびアブダビのムハンマド皇太子
と個別に電話会談。シリアおよびイエメンに安全地帯を設ける等につき協議。
2月1日、サウディのアル・ファーリハ・エネルギー相はBBCのインタビューの中で、米国トランプ
新大統領の化石燃料重視のエネルギー政策を賞賛。米国での石油投資を増やす意向を表明
UAEのアブドッラー外務国際協力相は、トランプ大統領による7か国(イエメン、スーダン、ソマリア、シリ
ア、リビア、イラン、イラク)国民の米入国禁止措置について、「ムスリムを標的にしたものではない。
各国は国としての決定を行う権限を有し、米国はその権限を行使したに過ぎない。この措置は
ムスリムを標的とするものではないと米国は述べている。国として発言したことを尊重したい。
大部分のムスリム諸国は禁止措置を受けていない。この措置は3か月後には見直されることに
なっている。本措置の対象となった国は米国と協議する前に、自国の問題の解決に取り組む
べきだ」と発言。
2月18日夜、ドバイでトランプ大統領の不動産会社が開発したゴルフ場が開業し、長男(ドナ
ルド)、次男(エリック)、UAEのムハンマド副大統領・首相・ドバイ首長らが式典出席。
GCCの政権側は、イランへの対抗上、防衛協力への期待から協力的姿勢を示す。長期
的な関係構築には懸念。一般的なGCCの人々の姿勢には警戒心あり。
29
5.GCCとイランとの雪解け
オマーンとクウェイトの仲介
イラン大統領がオマーンとクウェイト訪問
トルコ大統領の湾岸諸国訪問
30
オマーンとクウェイトの仲介
オマーンの仲介について
• オマーンはサウディとGCCの結束を強める一方、イランとも歴史的に良好な関係を維持
• 1960年代のオマーンのドファール地方の反乱鎮圧でイランから防衛協力を得た実績あり。
• 国内はイバーディー派が多く独自性を有する。
• 前回、国交断絶時(1987年~1991年)に仲介の実績あり。
• カーブース国王が2014年以降、医療検査などのため2度にわたりドイツに長期滞在。高齢
(76歳)による影響に懸念。
クウェイトの仲介について
• サウディとは統治家同士が歴史的に深い関係。イランとは経済関係が強い。
• 2月8日、イラン議会のフセイン アミール・アブドッラヒヤン国際問題担当局長は、在テヘラン
のクウェイトのファラーハ アル・ハジュラフ臨時代理大使と面談して、シリア、イエメン、イラク
における地域の危機を政治的に解決することをイランは支持すると発言。
• 8日付、クウェイトの国営通信(KUNA)は「クウェイトはイランが対話意欲を示したことを歓迎し
た」と報じた。さらに、ドバイのガルフ・ニュース(2/8日付)や、サウディの国営アラブ・ニュー
ス(2/9日付)が、この動きを報じ、クウェイトがイランとGCC諸国との関係修復の仲介役を果
たすことを認めた。
31
イラン大統領がオマーンとクウェイト訪問
出典: ‫、ﺟرﯾدة اﻟوطن‬201,‫ ﻓﺑراﯾر‬16
出典:‫、ﻛوﻧﺎ‬2017 ،‫ ﻓﺑراﯾر‬15
出典: ‫、ﻟﻣؤﺳﺳﺔ ﻋﻣﺎن ﻟﻠﺻﺣﺎﻓﺔ واﻟﻧﺷر واﻹﻋﻼن‬201,‫ ﻓﺑراﯾر‬16
2月15日、ロウハーニ大統領がオマーンを訪問し、カブース国王と会談。(2014年3月以来)
同日夜、クウェイトを訪問しサバーハ首長と会談。
32
トルコ大統領の湾岸訪問
出典:Tümhaklarısaklıdr
出典:12Feb’17,Anadolu Agency
出典:14Feb’17, SPA
出典:15Feb’17, hurriyetdaily
• 2月12日~13日、トルコのエルドアン大統領はバハレーンを訪問しハマド国王と会
談。教育、防衛、エネルギー分野での協定文書へ署名。
• 14日に、サウディアラビアを訪問しサルマーン国王と会談。防衛、宗務、教育分野
で協議。15日、小巡礼。
• 15日、カタルを訪問しタミーム首長と会談。
• 一連の訪問には、アカル参謀総長、フィダン国家情報機構長官が随行。
• 3月に、イランを訪問予定。
シリア問題には、米、EU、ロシアの関与があるが、アラブ側と
トルコは、シリアで戦闘や難民発生を沈静化させるために欠かせないプレイヤー
33
5.GCCとイランとの雪解け
背景および分析など:
• イランにとって:1月20日にトランプ政権が誕生し、自国に
対し再び強硬な姿勢を示しているため、政治解決(戦争処
理)するならば、今が最も良い条件を得るタイミング。
• GCC側にとって:サウディとUAEは自国民の戦死者や、コ
ストなど消耗度合いが激しい。出来るだけ早期に代理戦
争を終結させるのが重要な局面。
• こうした点で両者の思惑は一致する。従って、今現れてい
る雪解けの兆候は実現の方向に向けて進むことは充分
実現性のあることと考える。
34
6.雪解けが進んだ場合の影響
 イランからオマーンへの海底パイプライン(P/L)を
通じた天然ガス輸出
 イランからクウェイトへのガス輸出協議開始
 レバノンの鉱区解放
 その他
•
•
•
イランとクウェイトの共同での洋上探鉱開発
サウディアラビアの洋上油ガス田の探鉱開発進展
価格への影響など
35
イランからオマーンへの海底P/Lを通じた天然ガス輸出
2013年、両国大臣が、8月末に調印
イランが開発する天然ガスを海底パ
イプラインを通じてオマーンに輸出。
(当初は2015年から開始予定)
(出典:2013年8月、IRNA)
25年間で現行のガス相場で6百億ド
ル分の天然ガスを輸出。
オマーン国内の需要増加を満たし、
加えてオマーンLNGの稼動余力を利
用して海外市場に輸出可能。イラン
にとってはガス輸出による外貨獲得
を、より少ない投資で早期に実現で
きるというメリットあり。
出典:2017年2月、(撮影:Shana)Press TV
2017年2月7日、テヘランにおける調印式でのオマーンの
ムハンマド アッ・ロムヒー石油・ガス大臣(左)、イランのビ
ジャンザンギャネ大臣(右)
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オマーンLNGについて
MMcm/y
オマーン天然ガス需給
オマーンLNG輸出先
マレーシーア 中国
2%
1%
40,000
35,000
インド
8%
30,000
25,000
国内消費分
増加中
20,000
15,000
2015年1月~12月
日本
37%
10,000
中東
1%
756万トン
韓国
51%
5,000
0
出典:BP統計2016
輸出量
生産+輸入量
国内の天然ガス生産量は増加しているが、国内消費量の伸張がより大きい。
国内ガス開発が順調に進捗しない場合には需給逼迫となり、これにより、LNG輸出の安定に
支障をきたす可能性あり。
37
オマーンのLNG事業
プロジェクト
Oman LNG
(Train 1, 2)
Qalhat LNG
(Train 3)
権益比率
Oman LNG
( オ マ ー ン 政 府 51%,
Shell 30%, Total 5.54%,
Korea LNG 5.0%, 三菱
商 事 2.77%, 三 井 物 産
2.77%, Patrex 2.0%, 伊
藤忠商事 0.92%)
Qalhat LNG
(オマーン政府 46.84%,
Oman LNG 36.8%, Gas
Natural Fenosa 7.36%,
三菱商事 3%, 伊藤忠商
事 3%, 大阪ガス 3%)
輸入国
買主
契約数量
(万トン)
供給
開始年
大阪ガス
66
2000
伊藤忠商事
77
2006
400
2000
日本
韓国
KOGAS
日本、米
三菱商事、
JERA
80
2006
日本
大阪ガス
80
2009
スペイン
Gas Natural
Fenosa
165
2006
Oman LNG社は1994年の設置法で設立。生産能力は3とレイン合計で1,040万トン/年。
2019年9月、Qalhat LNG社はOman LNG社に統合された。
38
イランからオマーンへの天然ガス輸出
• 当初計画では、迂回
して浅海通過するル
ート(最深部で500m)
• 現計画では、UAE海
域を迂回するルート
• 最深部で1,000m
• コストは、10~15億ド
ル増加
• 送ガス容量は、
1bcfd→ 2bcfdへ増量
• 2020年には送ガス
開始を目指す。
出典:各種資料よりJOGMEC作成、ルートは各種報道よりJOGMEC推定
鍵となるのは技術力
and/or 政治交渉力か?
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イランからクウェイトへのガス輸出協議開始
• イランからイラク:2013年7月、ガス売買契約締結。35mmcmdを6年間。首都バグダードへ
移送し発電・産業需要の増加に対応。
• イラクからクウェイト:1990年(湾岸戦争)以前、80mmcfd輸出。2004年に取引再開に合意。
しかし、ガス売買契約締結に向けた進捗はほとんど無かった。
イランのアミール・フセインザマニーニーヤ石油省副大臣(国際問題担当):「ガス
部門でクウェイトとの二国間交渉を復活させる用意がある」と発言。
海底パイプラインで直接、イランからクウェイトへガスを輸出する計画を検討
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レバノン鉱区公開
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レバノン鉱区公開
2010年12月、Noble Energyが近隣(イスラエル)でLeviathanガス田を発見
2013年、46社が事前審査(PQ)に応募し、12社(シェブロン、Total、エクソンモービル含む)が選別
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2017年1月26日、レバノンのエネルギー省が洋上5鉱区(第1、第4、第8、第9、第10)の入札開始
2月2日~3月31日、第2次PQ入札
4月13日、第2次PQ結果発表
9月15日までに入札書類を石油庁へ提出。1ヶ月間審査し、石油大臣経由、内閣で決定
11月15日~ 探鉱開発協定(EPA)締結
2015年夏、ベイルートからサウディ大使帰還
2016年10月~11月、ミッシェル・アウン将軍 (キリスト教マロン派)は、ヒズブッラー(シーア派)
の支援を得て大統領就任。サアード ハリーリー首相(スンナ派)選出。(政治的合意)
2017年1月10日、アウン大統領はサウディを訪問しサルマーン国王と会談。2月6日、サウデ
ィは「新大使の指名」「ベイルートへの航空便増便」「自国民の渡航制限解除」を発表。
レバノンは、かつてサウディアラビアの影響が強かったが、今はイランの支援を受けるヒズブ
ッラーの影響が強い。サウディは、レバノンに関し政治合意が成立したか。
業界誌ではガス(96Tcf)と石油(865百万b)の埋蔵を期待
・大量の埋蔵量が発見された場合:生産・輸出はレバノンの政策次第
・少量しか発見されなかった場合:イスラエル、エジプトの協力を得て必要既存インフラ活用 42
その他の影響
 サウディアラビア:
 シーア派の多い東部州油田地域が安定化促進へ向かう期待
 洋上での探鉱開発プロジェクトの円滑な進展期待
 イラン:
 洋上での探鉱開発プロジェクトの円滑な進展期待。2月7日、カールドル
NIOC総裁が洋上での油・ガス田発見について言及。2月13日、NIOC 探鉱
部門トップは「過去3年間、洋上で13ヵ所の油・ガス田を発見し、65億バレ
ルの石油と1.7Tcmの天然ガスが埋蔵」と発言。
 原油価格への影響:OPEC内の主要産油国同士が価格政策で協調する
ことでOPECの価格主導力が高まる。
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7.今後の展望について
主な予定
2月23日、巡礼協議のためイラン代表団がサウディ訪問
(3月、サウディアラビアのサルマーン国王一行来日)
3月22-23日、クウェイトでOPEC非/加盟国による原油減産合意の検証会議開催予定
3月21日:イランのヌールーズ(正月)
5月27日~6月24日前後:ラマダーン月(25~27日、イードルフィトル)
8月31日前後:大巡礼開始(9月1日~3日、イードルアドハー)
• 雪解けの発表:こうした節目を経ながら、戦争処理の状況も明らかにされてくるこ
とと考える。各々国内の意見/世論を固めて国内強硬派を納得させる必要あり。
そのために時間を要する可能性あり。
• ラマダーン月での協議、8月31日から始める大巡礼(ハッジ)へのイラン人の参加
可否とその条件に関する動向は雪解けを見極めるポイントの一つ。
• 国交正常化と共にイエメン、シリアでの戦闘沈静化と復興計画の具体化も考えら
れる。
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まとめ
• リンクしている国・地域が多いのが特徴
• 石油・ガス産出国が多く含まれ、広範な影響が見
込まれる
• 中期的にOPECが価格形成面で影響力を拡大
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ご清聴ありがとうございました。
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