EU Trends シュルツ効果と世論調査 発表日:2017年2月20日(月) ~ドイツ選挙の不透明要因~ 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理 03-5221-4527 ◇ SPDがシュルツ氏を首相候補に擁立後、世論調査で15%ポイントほど開いていたCDU/CSUとS PDの差が一気に縮まり、一部で逆転している。このままの勢いで秋の議会選挙に突入すれば、左派 連立政権の誕生も視野に入る。政策面の相違で左派連立が難しい場合も、SPDが第1党になればメ ルケル首相の退陣が予想される。左派連立阻止でCDU/CSUが右派連立を目指す場合、反体制派の AfDの協力が必要となる。シュルツ効果の持続力がどこまであるかは不透明だが、欧州の選挙イヤ ーにドイツという不確定要素が加わりそうだ。 キリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)の勝利とメルケル首相の再選が確実視された9月24日のド イツ連邦議会選挙は、連立パートナーである社会民主党(SPD)がシュルツ前欧州議会議長を首相候補 に擁立した1月下旬以降、不透明感が増している。シュルツ氏の出馬表明後の世論調査は、何れもSPD が大きく支持を伸ばしており、一部の調査ではCDU/CSUを逆転している(図表1・7)。ドイツでは 7つの調査機関が世論調査を発表しており、調査毎に多少のクセがある。現在、シュルツ氏出馬表明後の 世論調査を発表しているのはAllensbachを除く6機関で、何れも出馬表明後にSPDの支持が7%ポイン ト前後(5.9%ポイント~8.6%ポイント)伸びている(図表2)。その間、他の主要政党が揃って支持を 落としているが、なかでも緑の党(Grune)とドイツのための選択肢(AfD)から票を奪っている。 従来、9月の議会選でCDU/CSUが勝利を収め、現政権と同様にSPDの間で大連立を組むとの見方 が支配的だったが、このところのSPDの党勢回復により、SPD・緑の党・左翼党(LINKE)による左派 連立政権の可能性も排除できなくなってきた。議席獲得に必要な5%を上回る政党で世論調査を再集計し たところ、EmnidとINSAの調査で左派3党の合計獲得議席が過半数を上回る(図表3)。但し、ドイツの連 邦議会選挙は、小選挙区・比例代表併用制を採用しており、小選挙区での勝者が議席を獲得した後、小選 挙区の勝者を除いた比例名簿の順に政党別の議席が割り振られる。定数598を上回る候補が議席を獲得し、 一般に小選挙区に強い二大政党に多くの超過議席が配分される。したがって、世論調査が示唆するよりも、 CDU/CSUとSPDに配分される議席が多い傾向がある。 なお、前回選挙で議席を失った自由民主党(FDP)の支持率は議席獲得に必要な5%前後で推移して いる。仮にFDPが議席を獲得できない場合、他党により多くの議席が配分される。FDP抜きで各党の 獲得議席率を再集計したところ、シュルツ氏出馬直後の世論調査しか発表していないInfratest dimapとシ ュルツ氏出馬後の世論調査を発表していないAllensbachを除く5つの世論調査で、左派3党の合計獲得議 席が過半数を上回る計算となる(図表4)。 選挙までまだ半年以上もあり、シュルツ効果にどの程度の持続力があるのかが不透明なうえ、メルケル 首相による巻き返しも予想される。州議会レベルで左派連立のケースはあるが、国政レベルでは安全保障 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 政策の相違をどう乗り越えるかなど課題も多い。ただ、左派連立の実現が難しい場合も、SPDが第1党 になればメルケル首相の続投はなくなる。或いは、左派連立阻止のため、CDU/CSU・AfD・FDP による右派連立で対抗する可能性も出てくる。メルケル首相の退陣やAfDの政権入りとなれば、金融市 場の動揺は裂けられない。 なお、世論調査毎の予測精度を確認するため、前回2013年と前々回2009年の連邦議会選挙直前の世論調 査と実際の得票率を比較したところ、2013年選挙では各調査機関がCDU/CSUやAfDの獲得票率を過 小評価し、2009年選挙では各調査機関がFDPの獲得票率を過小評価していたことが窺えるが、どの調査 がどの政党を過小評価しやすいといった明確な関係性は見て取れない(図表5)。一部の調査で直前の世 論調査が大きくシフトしていたことから、直前1ヶ月の世論調査の平均と実際の得票率を比較してみたが、 こちらも同様に明確な関係性は確認できない。 (図表1)各社最新世論調査でのドイツの政党別支持率(%) 調査会社 Allensbach Emnid Forsa Forshungsgruppe Wahlen GMS Infratest dimap INSA キリスト教 民主/社会同 社会民主党 盟 (SPD) (CDU/CSU) 発表日 2017/1/26 2017/2/18 2017/2/15 2017/2/17 2017/2/9 2017/2/2 2017/2/13 36.0 32.0 34.0 34.0 33.0 34.0 30.0 緑の党 (Grune) 23.0 33.0 31.0 30.0 29.0 28.0 31.0 自由民主党 (FDP) 9.0 7.0 7.0 9.0 9.0 8.0 7.0 左翼党 (LINKE) 7.0 6.0 5.0 6.0 6.0 6.0 5.0 ドイツのた めの選択肢 (AfD) 9.5 8.0 8.0 7.0 8.0 8.0 10.0 11.5 9.0 9.0 10.0 11.0 12.0 12.0 注:緑色でハイライトした政党は第1党になることが予想 出所:各世論調査会社の資料より第一生命経済研究所が作成 (図表2)SPDがシュルツ氏を首相候補に擁立後の世論調査の変化(%ポイント) Allensbach Emnid Forsa Forshungsgruppe Wahlen GMS Infratest dimap INSA CDU/CSU - -1.6 -0.7 -0.8 -1.9 -0.1 -0.6 SPD - 8.6 7.4 7.5 7.1 5.9 8.2 Grune - -4.0 -3.8 -2.8 -2.1 -3.7 -4.1 FDP - 0.5 -0.8 0.3 -0.6 0.2 -0.9 LINKE - -1.4 -0.9 -2.0 -1.1 -0.6 -0.5 AfD - -1.9 -0.6 -1.9 -0.8 -1.0 -1.2 出所:各世論調査会社の資料より第一生命経済研究所が作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 (図表3)ドイツの連立組み合わせと予想獲得議席率(%) <自由民主党が議席獲得に必要な5%に到達した場合> 調査会社 Allensbach Emnid Forsa Forshungsgruppe Wahlen GMS Infratest dimap INSA 発表日 2017/1/26 2017/2/18 2017/2/15 2017/2/17 2017/2/9 2017/2/2 2017/2/13 大連立 61.5 68.4 69.1 66.7 64.6 64.6 64.2 左派連立 右派連立 43.2 50.5 48.9 47.9 47.9 45.8 50.5 56.8 49.5 51.1 52.1 52.1 54.2 49.5 注:世論調査は議席獲得に必要な5%を上回る政党で再集計 緑色でハイライトした組み合わせは議会の過半数を上回る 出所:各世論調査会社の資料より第一生命経済研究所が作成 (図表4)ドイツの連立組み合わせと予想獲得議席率(%) <自由民主党が議席獲得に必要な5%に到達しない場合> 調査会社 Allensbach Emnid Forsa Forshungsgruppe Wahlen GMS Infratest dimap INSA 発表日 2017/1/26 2017/2/18 2017/2/15 2017/2/17 2017/2/9 2017/2/2 2017/2/13 大連立 66.3 73.0 73.0 71.1 68.9 68.9 67.8 左派連立 右派連立 46.6 53.9 51.7 51.1 51.1 48.9 53.3 53.4 46.1 48.3 48.9 48.9 51.1 46.7 注:世論調査は議席獲得に必要な5%を上回る政党で再集計 緑色でハイライトした組み合わせは議会の過半数を上回る 出所:各世論調査会社の資料より第一生命経済研究所が作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3 (図表5)過去のドイツ連邦議会選挙での各世論調査の精度 【2013年連邦議会選挙、投票直前の世論調査と実際の得票率の差】 CDU/CSU SPD Grune FDP Allensbach 2.0 -1.3 -0.6 -0.7 Emnid 2.5 -0.3 -0.6 -1.2 Forsa 1.5 -0.3 -1.6 -0.2 Forshungsgruppe Wahlen 1.5 -1.3 -0.6 -0.7 GMS 1.5 0.7 -2.6 -0.2 Infratest dimap 1.5 -2.3 -1.6 -0.2 INSA 3.5 -2.3 0.4 -1.2 LINKE -0.4 -0.4 -0.4 0.1 -0.4 0.6 -0.4 AfD 0.2 0.7 0.7 0.7 1.7 2.2 -0.3 【2009年連邦議会選挙、投票直前の世論調査と実際の得票率の差】 CDU/CSU SPD Grune FDP Allensbach -1.2 -1.0 -0.3 1.1 Emnid -1.2 -2.0 -0.3 1.6 Forsa 0.8 -2.0 0.7 0.6 Forshungsgruppe Wahlen -2.2 -2.0 0.7 1.6 GMS -2.2 -2.0 -0.3 1.6 Infratest dimap -1.2 0.0 -1.3 0.6 INSA - - - - LINKE 0.4 -0.1 -0.1 0.9 0.9 -0.1 - AfD - - - - - - - 注:プラスは実際の得票率が世論調査を上回った、マイナスは結果が調査を下回った 出所:各世論調査会社の資料より第一生命経済研究所が作成 (図表6)過去のドイツ連邦議会選挙での各世論調査の精度 【2013年連邦議会選挙、直前1ヶ月に発表された世論調査の平均と実際の得票率の差】 CDU/CSU SPD Grune FDP LINKE AfD Allensbach 2.0 -0.3 -2.4 -1.0 0.1 1.0 Emnid 2.1 0.7 -2.2 -0.6 -0.4 1.3 Forsa 1.7 1.5 -1.6 -0.4 -1.0 1.3 Forshungsgruppe Wahlen 0.9 -0.3 -2.6 -1.1 0.7 1.2 GMS 1.5 0.7 -2.6 -0.2 -0.4 1.7 Infratest dimap 0.5 -0.6 -2.4 -0.2 0.4 1.8 INSA 2.9 -1.1 -3.0 -0.2 0.6 1.1 【2009年連邦議会選挙、直前1ヶ月に発表された世論調査の平均と実際の得票率の差】 CDU/CSU SPD Grune FDP LINKE AfD Allensbach -1.6 0.0 -1.7 1.4 0.8 - Emnid -1.0 -1.8 -0.5 1.1 0.4 - Forsa -1.4 -0.3 -0.1 1.3 0.4 - Forshungsgruppe Wahlen -2.7 -0.5 -0.3 0.6 1.7 - GMS -2.2 -2.0 -0.3 1.6 0.9 - Infratest dimap -1.2 -0.7 -1.3 0.3 0.9 - INSA - - - - - - 注:プラスは実際の得票率が世論調査を上回った、マイナスは結果が調査を下回った 出所:各世論調査会社の資料より第一生命経済研究所が作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 4 2016/1/4 2016/2/1 2016/2/29 2016/3/29 2016/4/25 2016/5/23 2016/6/20 2016/7/19 2016/8/16 2016/9/13 2016/10/10 2016/11/8 2016/12/6 2017/1/3 2017/1/30 2016/1/4 2016/2/18 2016/3/17 2016/4/21 2016/6/2 2016/7/14 2016/9/15 2016/10/13 2016/11/3 2017/1/5 2017/2/9 0% 30% 0% 30% 0% 20% SPD 20% 10% Grune 10% FDP LINKE AfD 【GMS】 40% CDU/CSU 20% SPD 10% Grune LINKE AfD 20% SPD 10% Grune 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 5 2017/2/17 CDU/CSU 2017/1/13 40% 2016/11/25 【Forsa】 2016/9/23 AfD 2016/10/28 30% LINKE 2016/7/22 FDP 2016/6/24 0% 2016/5/13 10% CDU/CSU 2016/4/8 20% 2016/1/9 2016/2/6 2016/3/5 2016/4/2 2016/4/30 2016/5/28 2016/6/25 2016/7/23 2016/8/20 2016/9/17 2016/10/15 2016/11/12 2016/12/10 2017/1/14 2017/2/11 40% 2016/2/19 30% 2016/1/15 2016/1/26 2016/2/17 2016/3/18 2016/4/20 2016/5/17 2016/6/15 2016/7/21 2016/8/24 2016/9/22 2016/10/20 2016/11/16 2016/12/22 2017/1/26 【Allensbach】 2016/1/7 2016/2/3 2016/2/29 2016/4/7 2016/5/4 2016/6/2 2016/7/7 2016/8/4 2016/9/1 2016/10/6 2016/11/3 2016/12/8 2017/1/5 2017/2/2 2016/1/6 2016/2/3 2016/3/2 2016/3/30 2016/4/27 2016/5/24 2016/6/22 2016/7/20 2016/8/17 2016/9/14 2016/10/12 2016/11/9 2016/12/7 2017/1/4 2017/2/1 (図表7)世論調査毎のドイツの政党別支持率 【Emnid】 40% 30% SPD 20% CDU/CSU SPD Grune 10% Grune 0% FDP 30% 0% 30% 20% 10% FDP 0% LINKE AfD 【Forshungsgruppe Wahlen】 40% CDU/CSU SPD Grune FDP LINKE AfD 【Infratest dimap】 40% CDU/CSU SPD Grune FDP LINKE AfD 【INSA】 40% CDU/CSU FDP LINKE AfD 出所:各世論調査会社の資料より第一生命経済研究所が作成 以上 と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
© Copyright 2024 ExpyDoc