トピックス 公民連携で伝える「土木のミリョク」 〜ありのままの姿を自由に発信できる体制づくりを目指して〜 おか べ あきら 岡 部 章* 1.はじめに 入職者が減少し、高齢化が進む建設業及び建設関 連業は担い手不足から技術や技能の伝承が危ぶまれ ている。 こうした現状を変えようと、全国各地で開催され た土木広報イベントの情報を目にする機会も増えた 情報」ではなく、 「読み手にとって価値ある情報」を 無理なく持続的に発信できる体制づくりを目指した。 ①情報発信媒体の選定 情報発信には、発信が容易で拡散性も有り、読 み手との双方向コミュニケーションが可能な Facebookページを活用することとした。 が、実際に発信される情報からは「土木の魅力を伝 える活動をしたこと」は伝わるものの、 「土木の世 界で働く魅力」はほとんど伝わってこない。 こうした情報発信のあり方を変えようと、仲間を 募って立ち上げたのが、公民連携の研究グループ「土 木のミリョク研究会」である。 2.読み手にとって価値ある情報を発信する 写真-1 Facebook ページ「土木のミリョク」 ②プロモーションの強化対象 入職者が減少し、高齢化が進む建設業や建設関連 効果的なプロモーションを展開するには情報発 業の現状は、過疎化や高齢化から担い手不足となっ 信する人達が、読み手にとって価値ある情報とは ている集落の姿に重なるものがある。 何かを共有しておく必要がある。 そこで私達は、地域固有の歴史や文化などを他の そこでシティプロモーションの手法を参考にプ 地域には無い魅力として発信し、活性化につなげる ロモーションの強化対象とすべき情報を示したの 「シティプロモーション」の手法に着目し、これま が、次に示す概念図である。 で十分にアピールされてこなかった「工事現場内に おける土木技術者や技能者の仕事ぶり」や「土木技 術」を他の産業にはない「土木のミリョク」と捉え て、積極的に発信していくこととした。 ⑴ 土木のミリョク研究会の広報戦略 さまざまな情報があふれる中で、読み手の目に留 まり、共感を得られるような情報を発信していかな ければ、土木に対する理解や関心を高めることはで きない。 そのため、私達は「発注者や企業が発信しがちな *宮崎県 県土整備部 都市計画課 主幹 0985-26-7191 52 月刊建設16−10 図-1 プロモーションの強化対象を示した概念図 次に示すのは、こうした考えに基づいて実際に 発信した情報の一例であるが施工状況に関する動 画は特に人気が高く、再生回数は1万回を超える ことも少なくない。 土木広報用に撮影された写真や動画は、若手社 員の育成や工事検査時の説明などにも使われてお り「伝わること」を意識して撮影された写真や動画 は、いずれもわかりやすいと好評を得ているという。 土木のミリョクにおける 情報発信プロセス 一般的な情報発信プロセス (発注機関の例) ⑤ 世界に向けて 発信 発注機関の広報担当者 ①依頼 ① 監督員・現場代理人等 ④提出 監督員(発注機関担当者) ②依頼 ③提出 現場代理人等 図-2 情報発信プロセスの最適化 ④現場で働く人を「主役」にして共感を得る 土木のミリョクに投稿する記事には、発注機関 名や受注者名はもとより、道路名、河川名や施工 地すら明かしていない。 これは、情報発信する際の抵抗感をなくすだけ でなく、現場で働く人や技術にスポットを当てる ことによって、より多くの人々の共感を得て情報 が拡散する効果を狙ったものである。 なお参加企業に対しては、現場内に設置する掲 示板や住民向けの工事説明資料など、さまざまな 写真-2 情報発信事例(区画線工事の動画) 媒体を使ってこの活動に参加していることをア ピールすることは可能としており、こうした活動 ③情報発信プロセスの最適化 これまで発注者主体で行われてきた情報発信は、 ひな形どおりで面白みに欠けたものになりがちで 読者からのコメントにも返信しないなど、コミュ ニケーションも不足していた。 また広報担当者に熱意とスキルがなければ情報 発信そのものが続かないという課題もあった。 に参加することが誠実な情報発信に取り組む企業 としてのイメージアップや担い手確保につながる ことを期待している。 ⑵ 真のターゲットは土木の世界で働く人々 世界でも高く評価されている日本の土木技術は、 仕事に愛着や誇りをもって働き続けてきた土木技術 者・技能者によって伝承されてきたものである。 このため「土木のミリョク」では、土木技術者 これらの技術・技能を広く世の中に知らしめるこ 自身が自分の言葉で自由に投稿し、読者からのコ とにより現場で働く人が仕事に対する愛着や誇りを メントにも投稿者が責任を持って返信することと 実感できる機会を作り、さらなる情報発信やこの業 したほか、Facebookページの運営主体を発注機 界をさらに発展させようとする原動力を生み出して 関ではなく公民連携の研究グループとすることに いく。このような「正のサイクル」を作っていくこ より無理なく持続的な情報発信ができる体制を構 とが重要なのである。 築することとした。 月刊建設16−10 53 トピックス 川町、美郷町、諸塚村、椎葉村)、日向地区建設業 協会が一体となって今年2月に結成した「土木のミ リョク伝え隊 チーム日向」である。 土木のミリョク伝え隊 チーム日向では、 「土木 のミリョク」への投稿以外にも私が発起人となって 開設したもう一つのFacebookページ「土木写真部」 図-3 情報発信が生み出す好循環 ⑶ 見えてきた課題 への投稿、さらには駅構内や市町村役場のロビーな どを会場に写真展を開催している。 写真展では、土木技術者一人一人のプロフィール こ う し た 情 報 発 信 の 積 み 重 ね に よ り、 順 調 に と来場者に向けたメッセージを紹介しているほか、 ファンを増やし続けてきた「土木のミリョク」であ 出展した土木技術者が展示写真の解説を行うギャラ るがいくつかの課題も見えてきた。 リートークも開催するなど、土木技術者に対する理 ①監督員の理解不足による情報発信の停止 解と関心を高めてもらうためのさまざまな工夫を 受注者側に情報発信の意欲があっても受注した 行った。 工事の監督員に理解がなければ、その工事に関す る情報発信が一切できない。 ②情報発信を妨げる守秘義務や著作権の問題 建設関連業務に関しても、その仕事ぶりを発信 する必要性を感じてはいるが、守秘義務や著作権 の関係から思うような発信ができない。 土木技術者がその仕事ぶりを自由に発信できる体 制をつくるには、受発注者が共通認識を持ち、こう した課題の解決に取り組んでいくことが必要である。 写真-3 日向市駅構内で開催した写真展の様子 4.おわりに 建設業や建設関連業の担い手不足は、社会資本の 3.受発注者の意識を変えていく 情報発信を阻むさまざまな課題を克服するために も、情報発信に対する受発注者双方の幅広い理解と 行動を促していく必要がある。 注者が連携して取り組むべき重要な課題である。 こうした課題を克服し、優れた土木技術を次の世 代に引き継ぐことは私達に課せられた責務である。 そのため、一人でも多くの方に情報発信を体験し 土木広報には、「情報発信に取り組みやすい環境 てもらおうと、土木広報イベントや情報発信に関す を整えてあげる人」、「情報発信に取り組む人」、「情 る留意点をまとめた「ツタワル土木広報ガイドラ 報発信に取り組む人を応援する人」など、多様な参 イン」を作成し、ガイドラインに即して情報発信し 加の仕方があるとの認識のもと、土木の仕事に携わ ていただける企業や発注機関の方々にも編集者の権 る全ての人が、「土木のミリョク」を伝える活動に 限を与え、連携して情報発信をする取組みを始めた。 積極的に参加していただけることを期待している。 その先駆けとなったのが、宮崎県日向土木事務所、 宮崎県北部港湾事務所と関係5市町村(日向市、門 54 品質低下や災害対応力の減退にもつながるため受発 月刊建設16−10 【Facebookページ「土木のミリョク」】 https://www.facebook.com/dobokunomiryoku/
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