新生ストラテジーノート 第 260 号

新生ストラテジーノート 第 260 号
2017 年 2 月 13 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
EU の証券化商品優遇策の動向フォローアップとバーゼル委への影響
今後の進展に Brexit が影響か
欧州の2大中央銀行である ECB と Bank of England は 2014 年 5 月に共同で『EU における
証券化市場の活性化、再構築に向けて』 1と題する報告書を発表した。この報告書で両中央銀行
は、欧州の証券化商品のデフォルト事例は僅少であること、証券化は経済活動を支える金融仲介
のツールとして機能すること、金融危機を契機に欧州における証券化市場の規模が大幅に縮小
したことなどを指摘し、一定の要件を備える証券化商品を規制上優遇し、EU の証券化市場の再
活性化を図ることを提案した。こうした提言は、2015 年 9 月の欧州委員会(Commission)が、
「資本市場同盟」(Capital Markets Union)の目玉となる政策としての証券化商品を規制上優遇
する法案 2に発展した。同法案は、2015 年 12 月に欧州理事会(Council)が可決し、欧州議会
(Parliament)へ送られ、2016 年 12 月に議会の ECON 委員会 3が一部の文言を修正のうえ、
2016 年 12 月 8 日に可決した。議会の ECON 委員会が可決した修正法案は最終形ではない。
欧州委員会(Commission) が 2015 年 9 月に起草し、欧州理事会(Council) が修正のうえ
2015 年 12 月に可決し議会に提出した法案からは、多くの文言修正が加わったため、3 者間の
協議と調整が行われることになる。
Financial Times は 2017 年 2 月 6 日付で、本法案に関連し、英国に所在する金融機関の
EU 市場への自由なアクセスを巡って紛糾している状況について報道 4した。現状、EU において証
券化商品の組成販売を手掛ける金融機関のほとんどがロンドンに集中している。欧州大陸諸国
の証券化商品も大半がロンドンを拠点として組成され販売されている。英国による EU 離脱の手続
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Bank of England and the European Central Bank, The case for a better functioning
securitization market in the European Union, 30 May 2014
http://www.bankofengland.co.uk/financialstability/Pages/securitisation/default.as
px
https://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/other/ecb-boe_case_better_functioning_secu
ritisation_marketen.pdf
2 関係する資料へのリンクが掲載されているページ European Commission, Capital
Markets Union http://ec.europa.eu/finance/capital-markets-union/index_en.htm
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Committee on Economic and Monetary Affairs
Financial Times, Plan to boost EU securitisation market stalls over Brexit, February
7, 2017 https://www.ft.com/content/b47104c6-ea32-11e6-893c-082c54a7f539
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きは正式には始まってすらいないが、昨年の国民投票の結果や May 首相の最近の発言を踏ま
えると、英国は EU から離脱する方向に進んで行く可能性が高いだろう。欧州において証券化商
品の組成・販売、また、ABCP プログラムでは「スポンサー」の役割を果たす金融機関が現状ロン
ドンに集中していることを踏まえ、英国が EU を離脱した際に、EU 市場への自由なアクセスを認め
るべきだとする見解と認めるべきではないとする見解の対立が起きている模様である。
欧州委員会(Commission)で長年にわたり金融サービスを担当していた Lord Jonathan
Hill 委員は、昨年 6 月 25 日、英国の EU 離脱国民投票の結果を受けて、辞任を表明し、2016
年 7 月 15 日付で退任 5した。現在、Commission における金融サービス担当委員はラトビア出
身の Valdis Dombrovskis 氏である。欧州議会(Parliament)の ECON 委員会で証券化活性
化法案を担当している Paul Tang 議員はオランダ出身である。
こうした状況が、証券化活性化法案の今後の成立。施行に向けた工程に影響を及ぼしている
可能性があると見られる。
バーゼル委員会における検討も先送りになるか
中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ(GHOS)は昨年(2016 年)9 月 11 日付で、年内
(2016 年末までに、の意味)にバーゼル3の最終化を行う旨のプレス・リリースを公表していた 6。
しかし、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)と GHOS は、2017 年 1 月 3 日付でバーゼル3の最終
化に向けて「更なる時間が必要」 7と発表した。BCBS は、バーゼル合意の第 1 の柱の信用リスク
の扱い(標準的手法、内部格付手法)、アウトプットフロア設定の是非などについて数次の市中協
議と定量影響度調査を実施し検討を進めてきたが、その最終化がしばらく先送りになる。昨年内
に妥結に至らなかった原因はアメリカ当局の主張とドイツなど欧州大陸当局ならびに日本の当局
との間の見解とのギャップが埋まらなかったからとする報道がいくつか見られた。今年 1 月にはア
メリカの政権が交代し、財務長官も交代したため、アメリカの当局者の態度が変化し状況が複雑
化している可能性も考えられる。「バーゼル3」の最終化と証券化の扱いは必ずしもリンクするもの
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European Commission, http://ec.europa.eu/commission/2014-2019/hill_en
たとえば、日本銀行 「中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループによるプレス・リリース「金融
危機後の規制改革の最終化に向けた作業の進展」の公表について」 2016 年 9 月 12 日
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160912c.htm/
7 金融庁 中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループによるプレス・リリース「バーゼル III 見直し
の最終化について」の公表について 平成 29 年 1 月 4 日
http://www.fsa.go.jp/inter/bis/20170104-1.html
日本銀行 同 2017 年 1 月 4 日
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170104a.htm/
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ではないが、同じ場で検討されていることから、証券化エクスポージャーに対する資本賦課規則
の新ルールへの切り替え時期に影響する可能性がある。
バーゼル銀行監督委員会が 2014 年 12 月に最終化し、2016 年 7 月に「STC 要件」を追加す
るために改訂した証券化商品の資本賦課にかかる最終規則は、2018 年 1 月に導入するべき旨
の文章が盛り込まれている。証券化の「STC (simple. Transparent and comparable)要件」
は、欧州の証券化活性化法案における「STS」(simple, transparent and standardised)に酷
似しているが同じではない。どちらも欧州諸国の当局者の発案から進展してきたものである。更に
は、欧州の STS 要件には、ABCP に関する規定が盛り込まれているものの、2016 年 7 月のバー
ゼル委版 STC 要件は ABCP を考慮せずに策定されており、ABCP に関する規定は IOSCO-BCBS
が ABCP に関する STC 要件を定めたら、最終規則を再改訂し、それを盛り込む可能性を示唆 8し
ている。この最終規則 2016 年 7 月改訂版が公表されてから半年余りが経過している。証券化市
場の関係者としては動向が気になるところだが、タイムテーブルや検討状況については、何ら公
式な発表がみられない。また、筆者が気付く限りにおいて、報道も見かけない。
(調査部長 江川 由紀雄)
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“The STC criteria developed by the Committee and IOSCO in July 2015 STC
explicitly excluded short-term securitisations (and more specifically, ABCP
conduits/programmes) from the scope of the criteria. The Committee and IOSCO are
currently considering whether, and how, STC criteria for this type of schemes should
also be developed. If the Committee and IOSCO finally publish STC criteria for ABCP
conduits/programmes, the Committee will in turn determine how to incorporate
them in the revised securitisation framework, and how the various types of
exposures to these schemes will be treated.” (1 ページの “Introduction” 第 3 段落)
http://www.bis.org/bcbs/publ/d374.htm
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名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
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たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場
合があります。
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