審議会意見書 現状と課題(PDF:265.1KB)

Ⅰ
大津市における消費者教育の推進の現状と課題
1 消費者としての市民意識について
市では、これまで消費者を対象とした意識調査というものを行ってこなかったこともあり、現時
点で消費者意識を正確に提示することはできませんが、市が行った「大津市のまちづくりに関する
市民意識調査」の結果からその一端は推察することができるように思われます。平成27年度の同
調査では、防災や防犯、交通安全などと一緒に消費者安全に関する政策の市民評価が行われていま
す。
その結果は、まず、政策の満足度に関しては、
「満足」と答えた人の割合が他の政策と比べて最も
低く、その一方で「不満」と答えた割合も他の政策よりも低いという結果が出ており、多くの市民
は「普通」と回答しています。また、政策の重要度に関しては、防災や防犯、交通安全が多くの市
民から「重要」と評価されているのに対し、消費者安全を「重要」と評価した人は約3割、1割は
「重要でない」と回答しており、やはりこちらでも「普通」との回答が最も多いという結果でした。
この結果から、多くの市民は、消費者問題や消費者政策にあまり関心を寄せていないのではない
かと推論できます。これは、市民の消費者問題等に対する関心がマスコミなどでたびたび取り上げ
られる高齢者等を狙った「特殊詐欺」や「悪質商法」などの特定の事案に集中しており、多くの市
民は、自分たちは、広い意味での消費者問題の当事者ではないと考えているように思われます。
また、こうした市民意識を定着させてしまった大きな要因の一つには、市が行ってきた情報発信
が「特殊詐欺」や「悪質商法」などに関するものが多く、そのために他の消費生活情報が極めて少
なくなってしまっていたということが考えられます。
いずれにしても、消費者教育の推進のためには、消費者としての市民意識の改革を進めなくては
ならないことが明らかです。そのためには、多様な消費生活情報を様々な媒体を通じて発信するこ
とが必要となります。市民が、いつでも、どこでも、簡単に消費者情報を入手できる環境をいかに
整備するかが課題となります。
2 市の消費者行政について
現在、大津市には「消費者基本計画」や「消費者教育推進計画」などといった消費者行政を推進
していく上での基本的な方向性や方針を示した基本計画等が存在しません。
このため、残念ながら、
今の市の消費者行政は、明確な将来ビジョンを持って、それに向けて具体的施策を計画的に進めて
いくことが難しい状況にあります。
また、市は、毎年、消費生活相談の統計データや消費者行政の概要をまとめて当審議会等に報告
していますが、その内容について審議会委員の中からは、以下のような意見や指摘が出されていま
す。
(1) 普及啓発活動の特定分野への偏り
現在の大津市における消費者問題に係る普及啓発は、その内容があまりにも「特殊詐欺」や
「悪質商法」等の消費者被害の未然防止・予防対策に偏り、いまだに消費者を「客体」として
しか捉えていないように思われます。本来、消費者教育や消費者啓発はそうした目的に加えて
消費者の自立や主体的行動を促すといった側面も非常に重要であり、普及啓発の対象も高齢者
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だけでなく様々な年齢層、階層でなくてはなりません。その点でも、これまでの市の取り組み
には子どもや若者、働き盛りの世代への配慮が欠けていたように思われます。
(2) 客観的な事業評価と効果測定の未実施
市には、消費者行政を進めていく上での将来ビジョンを示した計画がないことから、客観的
指標に照らして事業を評価し、その効果を測定するということが行われていないように思われ
ます。当審議会ではこれを「PDCAサイクルが回わっていない」という言い方で指摘してお
り、施策や事業の評価やその効果測定を適切に行い、その結果を次の施策や事業に反映させる
ために何ができるかを検討する必要があります。
(3) 関係部署との連携不足
消費者政策を効果的に推進していくためには、消費者の救済・支援においては福祉部局や保
険年金部局、住民自治推進部局などの市役所内の各専門部署といかに連携していくかが課題と
なります。また、これから進めていこうとする消費者教育においては教育委員会や環境部局、
経済・産業担当部局などとの連携をどのように進めるかも検討する必要があります。
しかし、現在、福祉部局や教育委員会、環境部局などとの一部関係事業における連携は見ら
れても、市役所内での連携はなお十分でなく、その点で根本的な庁内連携のあり方を見直しが
重要な課題となります。
3 さまざまな主体との連携、協力について
消費者を取り巻く社会環境の変化によって、24時間365日絶え間なく繰り返される市民の消
費行動に対して、行政の力だけで消費者を支援し保護しながら、消費者教育まで行っていこうとす
ることは現実的ではありません。そうした行政の力だけでは成果を上げることはできません。少な
くとも消費者教育の推進にあたっては、消費者と関わる様々な「主体」との連携をどのようにして
図るかを検討する必要があります。
(1) 家庭との連携
急速に進む少子高齢化や核家族化は、家庭という最小のコミュニティをさらに細分化するこ
ととなり、こうした家庭の細分化がこれまで行なわれてきた家庭における消費生活に関する知
恵の伝承や知識の共有を困難にしています。こうした点を踏まえて、あらためて家庭における
正しい消費者教育のあり方を検討する必要があります。
(2) 地域との連携
社会環境の急速な変化や個人のライフスタイルの多様化によって、これまでわが国の社会基
盤を支えてきた地域コミュニティが崩壊しつつあり、地域における互助や共助の機能が失われ
てきています。そのため、消費者の孤立化が進み、これによって、さらに消費者問題が複雑か
つ深刻なものになっていくことが懸念されます。
これに対応していくためには、地域と行政がこれまで以上に連携を深め、市民の自治的な組
織の中で新しい地域人材の発掘や育成、新しい地域における支援体制をどのように整備してい
くかを考えることが必要となってきます。
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(3) 学校との連携
消費者教育は、幼児期から高齢期まで生涯を通じて人の発達や社会的行動範囲の拡大に応じ
てその機会が確保されなくてはなりません。特に学校における消費者教育は、すでに学習指導
要領の改訂も行われ学校現場への浸透が企図されていますが、その担い手である教職員に十分
な知識や指導技術が備わっているかどうかという疑念もあり、その結果、期待されたような教
育効果が現れていないように思われます。そのため、行政がその支援について何らかの手立て
を講ずる必要があることが指摘されました。
また、大学等においては、多くの学生が在学中に成人年齢に達することもあり、また、アル
バイトの必要性などから社会的行動範囲も拡大して、消費者トラブルに巻き込まれるリスクが
一気に増大することになります。そうした学生に対しても、消費者教育は、一部を除けば、全
体としてはほとんど行われていないのが現状で、それを行うかどうかも、学校側の判断に委ね
られたままで、組織的な取り組みは存在していないと言わざるを得ません。行政としては、こ
うした状況に対し、こうした消費者教育の重要性について各教育主体に対して注意を喚起する
と共に、それが具体的な取り組みをどのようにやっているのかをチェックし、そうした取り組
ができるように何らかの対策や支援を早急に検討して実施することが課題となります。このよ
うな取り組みがまさに消費者教育推進法によって求められていることなのです。
(4) 職域との連携
消費者教育は、生涯教育の一環であって、誰もがどこに住んでいてもそれを受けることがで
きるよう、身近な場において常にその学習機会が保障されていなければなりません。しかし、
学校を卒業した後は、そうした機会がほとんどないことから、職域における消費者教育の推進
は喫緊の課題となっています。
この領域の消費者教育は全国的にみてもまだまだ手付かずの状態であり、消費者教育を推進
するにあたっては残された大きな課題となっています。
(5) 消費者団体との連携
消費者団体は、消費者基本法で、消費者を支援するために不可欠なものとして位置付けられ
ています。市にはすでに4つの認定された消費者団体が存在しますが、これらの団体とは、代
表者会議などを通じての意見交換や平成25年度以降は講演会等の共催事業を行うなどしてそ
の連携が図られてきました。しかし、近年、その連携はやや形骸化しつつあるようにも思われ
ます。そうしたことから、これら消費者団体等との関係をあらためて見直し、さらに有効な成
果が上げられるよう、中核となる消費者団体を育成し、強化していく必要があります。そのた
めの財政的な支援が必要になることに留意すべきです。
また、消費者団体等の中には財政的基盤が脆弱でその組織運営に支援を必要としているとこ
ろもあります。連携のあり方を見直す際には、そうした支援をどのように行うかも検討を要す
る問題となります。
(6) 事業者との連携
近年、消費者には「自立と責任」が求められるようになってきましたが、それに伴って事業
者側にも「消費者への十分な配慮」が求められています。そのため、今後は、企業に対して安
全で安心、公正なマーケットを維持していくための自主的努力や消費者志向の経営へのシフト
を求めていかなければなりません。市にとっては、大多数を占める中小零細企業や個人事業主
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への支援や協力を引き出すための官民連携のあり方を真剣に模索し、それを実現するための具
体的な提案することが課題となります。
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