OCRの保護協調線図による整定(PDF

OCR 整定での保護協調線図の有効な活用例
保護協調を考えての OCR の整定、保護協調線図の JW-CAD 作成例
九州産業コンサルタント協会
技術士(電気電子・総合技術監理)
増永秀人
1.はじめに
2.協調を取るための考え方
3.OCR 整定
3-1.限時要素の整定
10
20
40
60
200
1 00
1)定格容量からの電流値の整定
600
1 00 0
2000
4000
6000
1 00 0 0
4000
6000
1 00 0 0
7 20 A
3 60 A
2)限時特性による動作時間の読み取り
3)協調線図への書き込み、検討
400
10
6
4
2
時
間
( 配 変 OC R)
1
0.6
3-2.瞬時要素の整定
(秒)
0.4
0.2
3-3.整定による OCR 特性の変化
0 .1
0.06
0.04
3 0. 6 A
3-4.試験結果例
0.02
3 5A
定格容量
整定値
3 50 k VA
0 .0 1
3-5.小容量受電設備の整定例
3 06 A
0.006
変圧器突入最大電流
変 圧 器 最 大 電 流 × 10
0.004
0.002
3-6.直列 OCR の整定例
0 .0 0 1
10
20
40
60
200
1 00
400
600
1 00 0
2000
一次換算電流 (A)
4.試験テクニック
4-1.試験手順
1)事前準備(OCR 本体調整)
2)単体試験と組合試験
4-2.特性試験・電力使用申込書記載事項の確認
1) 瞬時時限(事故除去時間 0.1sec) 2)最少動作電流(短絡感度)
4-3.その他
1)レバー10 の試験
2)試験機の電流設定
5.関連事項
5-1.CT 過電流定数(n値)
5-2.電力変電所アナログ OCR との協調
5-3.短絡事故発生時の動作
1)故障による短絡大電流での協調
2)システムとしての協調(短絡時等)
①CV ケーブル等のサイズ
②スイッチ類の動作協調
5-4.OCR での受電 LBS トリップ(PF の小電流遮断)
(Date 2017/2/18)
1.はじめに
OCR(過電流継電器)の整定では保護協調線図を作成すると、動作状態が図として把握
でき、わかりやすく、より安心な整定ができます。検討は高圧電流を横軸、時間を縦軸とす
る対数目盛の用紙に制限要素と OCR の動作特性を書き込むことにより行います。
ここでは、
実用的な整定のための考え方を、具体例を使用して、作図方法と併せてご説明します。用紙
は CAD 等で簡単に作成することができます。御参考のために私が使用している JW-CAD
で作成した用紙を添付しています。ホームページへ戻り、JW-CAD 用資料、をご覧くださ
い。本文での作図例は JW-CAD 使用ですが、手書きでも十分に対応できます。PDF 用紙も
添付しています。
本稿の記述には「6kV 高圧受電設備の保護協調 Q&A」のデータを多用しています。末尾
に詳細をご紹介します。本文中では「末尾参考文献」として表示しています。
OCR の安全な整定のためには、受電システム全体の協調も考える必要があります。5 節
の関連事項をご参照ください。
2.協調を取るための考え方
top へ
保護協調を行うために考慮すべき制限要素には 4 つがあります。
・条件① 受電設備(変圧器容量)の定格電流までは動作しないこと。
・条件② 電力配電所の 51 リレーより先に動作すること(波及事故防止)
。
(第二キュービクルの場合は第一より先に動作すること。停電部限定)
・条件③ 受電時の変圧器突入電流で動作しないこと(投入時の誤動作防止)
。
・条件④ VCB 二次側の動作特性と強調していること。
通常は条件①~③を考えます。
④は第二キュービクル等があり二次側に VCB がある場合、
LBS 用 PF に G75 程度の大容量のものがある場合などに考慮する必要が出てきます。OCR
の限時要素(整定電流とタイムダイアル TD)
、及び瞬時要素の整定を行い、OCR の動作特
性が制限要素を満足するように調整します。それぞれの要素は、電流を高圧側に換算して考
えます。
例として 1250kVA、OCR 用 CT 比が 30 である受電設備について考えます。それぞれの
制限要素は次のようになります。④については、別途考察を行います。
・条件① 変圧器容量 1250kVA より、定格電流(高圧)は 1250/6.6/1.732≒110A となる。
・条件② 電力 OCR は現状では段特性になっている。小容量配電線と大電流配電線で限時
値は 360A と 720A、瞬時値は 720A と 1420A に設定されている。瞬時時限は 0.5sec と
0.2sec である。小容量配電線特性を満足させれば安全である。
・条件③ 受電時等の変圧器突入電流は日本キュービクル協会の規定、定格電流の 10 倍、
0.1sec を採用すれば安全である。この場合は①の 110A の 10 倍で 1100A になる。コンデン
サ突入電流もあるが、0.002sec であり、OCR の動作より極めて短い時限であるため、通常
は考慮していない。
(末尾参考文献 P.88)
条件①~③を、用紙に書き込むと下図のようになります。制限要素の領域を含まない、緑
線ハンチング部が保護協調を考えての、OCR 整定可能領域になります。
10
60
40
20
100
200
400
600
小容量配電線
2000
1000
4000
6000
10000
4000
6000
10000
大容量配電線
720A
360A
1
2
10
定格電流まで使用
6
波及事故防止
4
( 配 変 OCR設 定 )
2
時
間
1
0.5sec
0.6
(秒)
1440A
定格電流
0.4
OCR設 定 可 能 域
0.2sec
110A
0.2
0.1sec
0.1
0.06
最大変圧器突入電流
定 格 電 流 × 10
3
0.04
投入時の誤動作防止
0.02
0.01
0.006
0.004
0.002
0.001
10
20
40
60
100
200
400
600
1000
2000
一次換算電流 (A)
※ここでは定格電流を変圧器全容量から三相として算出しています。一般的には動力容量
が電灯容量より十分に大きく、実用上では対応できます。しかしながら 300kVA 未満での
LBS 用 OCR の場合等は、電灯と動力のそれぞれの電流を考えないと誤差が出ることがあ
ります。5-4 節で説明します。
3.OCR 整定
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3-1.限時要素の整定
1)定格容量からの電流整定
高圧側電流値で定格電流以上になるように整定します。定格電流が 110A なので、CT 二
次側電流は CT 比 30 より>110/30=3.6A が条件となります。一つ大きいタップ値である 4A
に整定します。高圧側電流は 4×30=120A になり、定格運用でも動作することはありませ
ん。
※ 一般的に、VCB 用 OCR が設置される 300kVA 以上の場合は設備余裕が大きく、実使
用デマンドは概ね 2/3 以下です。同時起動する直入れの大容量電動機が多数ある等の特殊な
場合でなければ運用中に定格電流を超過する場合は無いと考えています。線図を作成する
と、定格電流と OCR 特性の関連からも想定できます。300kVA 未満で LBS 用 OCR の場合
は 5-4 節に説明します。
電流整定値は 3A~5A が一般的です。OCR が電流引き外し式の場合、メーカ出荷時のト
リップ動作電流確認が 3A 以下で良好となっています。電圧引き外しの場合は 3A 未満でも
可能ですが、以後の年次点検試験時等に迷い?を生じることがあります。5A 超過は CT 誤
差及び負担の問題があり、引き外し方式によらず推奨できません。新設時は設備容量を勘案
しての CT 比となっていますが、増減設備の場合は CT の更新も考える必要があります。
2)限時特性による動作時間の読み取り
タイムダイアル(TD)と整定値倍率による動作時間を、メーカカタログによる特性図で
読み取ります。動作時間は、TD 毎に整定値の倍率で表されています。三菱 MOC 型を例と
して考えます。
時限特性には定限時、反限時、強反限時、超反限時の 4 種類があります。定限時は整定値
以上では動作時間は同じ、反限時は整定電流に対する倍率(例、横軸 2 は 200%)で動作時
間が減少します。反限時にも三通りがあり、左側が超反時限、右側が強反時限です。超→強
→反で立下りが緩やかになります。左は超反限時、右は強反限時の特性です。
MOC 型では 4 種類が採用可能ですが、オムロンでは反限時に固定されています。動作時
間もメーカ毎にわずかですが異なります。使用する OCR のメーカ、型式を確認することが
必要です。
右図は強反限時特性の拡大です(私は習慣的に強反限時を使用しています)
。動作時間は
300%での動作時間は TD=0.5 では 0.34sec、TD=1 では 0.69sec と読み取ることができま
す。
注意点は、パラメータは TD 整定値の倍率であることです。TD=1 の場合は整定値 3A で
も、整定値 5A でも、300%では 0.69sec で同じです。誘導型では異なることがありました
が、静止型ではメーカ保証値は全く同じです。
3)協調線図への書き込み、検討
TD と限時特性を仮決めして、整定電流の 200%、300%、500%等の値を読みとります。
三菱 MOC 型では強反限時で TD=0.5 の場合 200%(高圧電流換算 120A×2=240A)で
0.75sec、300%で 0.34sec、500%で 0.16sec、700%で 0.1sec と読み取ることができます。
4A 整定、CT 比 30 の場合の高圧電流、動作時間を表にまとめると下表のようになります。
150%があれば、整定値付近が書きやすくなります。
150%
200%
300%
500%
700%
高圧電流(A) 180
240
360
600
840
1.35
0.68
0.34
0.16
0.11
時間(sec)
横軸を高圧電流、縦軸を動作時間として、電流整定 120A に対して漸近線になるように作図
すれば、特性線図を書くことができます。強反限時での TD=1、超反限時での TD=0.5 を含
めて、3 例を作図すると下図のようになります。TD 整定の差による違いが分かります。強
反限時 TD=1 では条件①の電力の小容量特性にかかり、超反限時 TD=0.5 では、変圧器突
入電流特性にかかる恐れがあることがわかります。強反限時 TD=0.5 が最適となります。
10
20
40
60
400
200
1 00
小容量配電線
3 60 A
10
600
4000
2000
1 00 0
6000
1 00 0 0
大容量配電線
7 20 A
超 T D = 0. 5
6
4
強 TD=1
2
時
間
1
強 T D = 0. 5
0.6
(秒)
( 配 変 O C R)
0.4
0.2
1 44 0 A
定格電流
0 .5 s e c
限時整定電流
1 10 A
0 .2 s e c
1 20 A
0 .1
0.06
0 .1 s e c
最大変圧器突入電流
0.04
0.02
0 .0 1
0.006
0.004
三菱、東芝は取説に計算式が示されているので、詳細な値を計算により求めることができ
ます。表で示した動作時間は三菱 MOC 型について、取説の計算式で求めたものです。参考
に TD 及び限時特性の組み合わせでの動作時間データを示します。
150%
200%
300%
500%
700%
強反限時 TD=0.5
1.35
0.68
0.34
0.17
0.11
強反限時 TD=1
2.7
1.35
0.68
0.34
0.23
超反限時 TD=0.5
3.2
1.33
0.5
0.17
0.083
同一特性では動作時間がほぼ TD に反比例していることもわかります。
3-2.瞬時要素の整定
変圧器突入電流の最大値は定格電流の 10 倍とされているため、通常は限時整定値の 10
倍とすれば協調可能です。限時設定値を 4A とすれば、40A が設定値となり、CT 比 30 よ
り、40×30=1200A が高圧側電流となります。
瞬時は定限時特性で 0.05msec 一定になっています。超反限時、強反限時、反限時の特性
には関係ありません。瞬時整定を超えた時点で 0.05sec で動作するものとして作成します。
電力配電線 OCR の瞬時整定は 0.2sec ですが、
慣習として受電側での VCB 組合せで 0.18sec
以内に動作することが要求されています。差分の 0.02sec は受電設備 OCR の慣性特性(誘
導型では回転を始めた円盤が急には停止できない等の影響)をみたものです。OCR 単体が
0.05sec であれば、VCB の 3 サイクル(60Hz では 0.05sec)を合わせて 0.1sec<0.18sec と
なり、協調と、電力使用申込書の事故除去時間 0.1sec を満足します。実際は OCR、VCB 共
に、測定例 3-5 に示すように、より早く動作します。
瞬時要素を書き込むと保護協調線図が完成します。参考のために、条件④として、第 2 受
電などで使用されることの多い LBS 用の G75PF の動作特性を記入しています。
小容量配電線
3 60A
大容量配電線
720A
超 TD =0. 5
定格電流まで使用
波及事故防止
強 T D=1
( 配 変 OCR )
強 TD =0. 5
定格電流
限時整定電流
1 10A
120 A
瞬時電流整定
120 0A
最大変圧器突入電流
投入時の誤動作防止
実際?
G75 特 性
絶対値と時限を合わせて考えると、母線短絡の場合は PF が、過負荷の場合は VCB が先に
動作することがわかります。この考え方は、OCR での受電 LBS トリップ(5-4 節)でも使
用されています。
※
超反限時では変圧器突入特性にかかっているように見えますが、実際は図の角が落ち
た形であるとされているので(末尾参考文献 p.90)、大容量配電線の場合の超反限時、TD
=0.5 での使用は可能と考えられます。どちらにもかかる場合は系統保護を優先しています。
変圧器突入電流で OCR 動作の可能性が大きいのは、年次点検後の受電時です。この現象を
理解しての再度の投入で受電できます。電動型 VCB の自動投入の場合は、系統分離などの
シーケンシャル制御が適用されています。
3-3.整定による OCR 特性の変化
OCR 特性の各要素の整定値調整による変化をまとめると下図のようになります。それぞ
れの要素の調整による特性変化
を考えて、OCR 動作特性を許容
範囲に納めることが保護協調線
超 TD=0.5
図による OCR 整定の狙いです。
具体的にどのようにするかは、
4.試験テクニックの事前準備の
強 TD=1
限時設定
節に記述します。
強 TD=0.5
・限時特性の選択で立下り特性
限 時 TD
が変化します。メーカによって
は選択不可です。
限時特性
瞬時設定
・限時(A)設定で全体が左右に
動きます。
・TD(無名数)設定で全体が上
下に動きます。動作時間は概ね、TD に反比例します。
・瞬時(A)設定で瞬時の動作位置が変化します。動作時間は固定です。
3-4.試験結果例
1250kVA での試験結果例を下表に示します。単体で試験を行うと、ほぼ公称値の値が得
られます。組合試験結果と比較することで、VCB の動作時間を判定しています。試験方法
は次節の試験テクニックをご参照ください。
OCR 単体限時測定記録
R相
使用値
T相
200%
300%
500%
700%
200%
300%
500%
700%
0.664s
0.346s
0.163s
0.107s
0.660s
0.346s
0.163s
0.108s
公称値
0.675s
0.338s
0.169s
0.112s
0.675s
0.338s
0.169s
0.112s
公称値はメーカ計算式による値です。動作時間は、いずれも公称値の±10%以下です。協調
線図を作成するためには 3 点以上の測定が必要です。
瞬時測定記録
R相
T相
電流整定
20A
20A
最少動作
20A
19.5A
動作時間
0.035s
0.035s
協調線図を作成するためには最少動作値と動作時間の測定が必要です。本来は設定値で行
うべきですが、使用している試験用発電機 16A の容量により 20A に変更して試験を行って
います。ほとんどの場合 9A でも可能です。
VCB 組合限時測定記録
R相
T相
時間整定
300%
300%
動作時間
0.374s
0.381s
VCB 動作時間=組合動作時間―単体動作時間≒0.04s<0.05s
300%での確認で VCB の公称動作時間以下での動作が確認できます。
3-5.小容量受電設備の整定例
小容量受電設備での整定例をご
10
20
40
60
1 00
200
400
600
1 00 0
2000
4000
6000
1 00 0 0
4000
6000
1 00 0 0
紹介します。最初のものと同じです。
設備容量 350kVA、CT 比 10、OCR
7 20 A
3 60 A
は MOC 型です。限時整定は 3.5A、
10
6
4
条件②と③の間の余裕があるため
2
TD=1 としました。山間部であった
時
間
( 配 変 OC R)
1
0.6
ため、小容量配電線での安全対策と
して 360A 前に瞬時動作するように
(秒)
0.4
0.2
0 .1
瞬時も 35A(高圧電流 350A)で設定
0.06
しています。瞬時が高圧電流で、
0.02
360A、720A、1440A を意識して整
定されている例は、良く見かけます。
さらに小容量である LBS 用 OCR に
ついては 5-4 節で説明します。
0.04
3 0. 6 A
3 5A
定格容量
整定値
3 50 k VA
0 .0 1
3 06 A
0.006
変圧器突入最大電流
変 圧 器 最 大 電 流 × 10
0.004
0.002
0 .0 0 1
10
20
40
60
1 00
200
400
600
一次換算電流 (A)
1 00 0
2000
3-6.直列 OCR の整定例
二次変電(第二キュービクル等)にも VCB があり、一次(受電キュービクル等)の VCB
と直列になる場合は、所内でも OCR の協調が必要となります。受電での整定は、条件④の
場合となり、二次 OCR を受電 OCR より早く動作させることが原則です。数値計算のみで
の確認は困難ですが、協調線図作成で安心な整定ができます。
全体(受電)容量 1500kVA、第二
10
20
40
60
1 00
キュービクル(二次)容量 400kVA
10
電 OCR より早く動作することが分
特性ですが、受電は TD=0.5、二次は
変圧器突入領域との交差を防ぐため
に TD=1 として特性を持ちあげて
います。3-3 で説明した方法です。
受電と、第二キュービクルの容量
差が少ない(二次キュービクルの容
量が受電キュービクルより大きい)
600
1 00 0
2000
4000
6000
1 00 0 0
4000
6000
1 00 0 0
7 20 A
3 60 A
の例です。線図より、二次 OCR が受
かります。受電、二次共に強反限時
400
200
受電特性
6
二次特性
4
2
時
間
( 配 変 O C R)
1
0.6
(秒)
0.4
0.2
0 .1
0.06
0.04
0.02
3 2. 8 A
二次全電流
3 5A
二次限時制定
1 40 A
受電限時整定
3 50 A
1 60 0 A
瞬時電流整定
瞬時電流整定
0 .0 1
0.006
3 30 A
0.004
0.002
0 .0 0 1
10
20
40
60
1 00
200
400
600
1 00 0
2000
一次換算電流 (A)
場合等は、限時特性を変えて対応する場合もでてきます。
4.試験テクニック
top へ
私が、OCR 試験時に使用しているテクニックをご紹介します。竣工試験の場合は、併せ
て電力使用申込に記入した事故除去時間と短絡感度の確認を行います。
4-1.試験手順
1)事前準備(OCR 本体調整)
事前に、変圧器容量、CT 比、OCR 型式を調査して、OCR 整定を協調線図により検討し
ておきます。OCR 特性はメーカホームページの取説等で調べることができます。
三菱 MOC 型の場合を例に記述します。MOC 型は出荷時に
は時限が超反限時に設定されています。異なる時限特性を使
用する場合は表面のディップスイッチ(ドライバで示してい
る部分)の切替を、下に書いてある表示を見て、保護協調線図
による検討値に合わせます。図での設定はディップスイッチ
SW1 で周波数 60Hz に、SW3・4 で反限時に設定されていま
す。保護協調線図による検討結果に合わせるためには、OCR
前面の切替スイッチの調整が必要です。ディップスイッチ上の「表示切替」も最少動作測定
のために時間経過に切り替えておきます。オムロン K2CA 型では反限時特性に固定、表示
切り替えもないので調整は不要です。
電流動作型は試験電流でリレーと VCB が動作します。電圧動作型では、リレーと CTD の
P1,P2 端子への AC100V 供給等による試験電源の供給が事前準備として必要です。
AC100V
を試験用発電機から直接供給すると VT ヒューズ断線、逆圧等の障害の恐れがあります。小
電流ヒューズ、プロテクトリレー等の各種の保護が付属している、市販試験機の補助電源を
使用すると安全です。例えば、間違えて CTD の直流側に試験機の補助電源から AC100V を
供給すると、即時に保護動作により遮断されます。試験用発電機も瞬間的にうなり音が増え
るので、そのまま続けると損傷すると考えられます。
2)単体試験と組合試験
試験は OCR 単体試験を行い、次に VCB 組合せ(連動)試験を行います。試験を行う時
は、保護協調をとる難しい装置とは考えず、電流を流せば何らかの接点が動作する単純な装
置、例えば電流指針に接点が付いたメータリレーと同等と考えて行います。
単体試験は試験機のトリップ接点はリレー裏面の補助接点 a1・a2 又は a・c 等にとりま
す。リレー本体の動作時間が正確に測定できます。VCB は動作せず、CTD がある場合も電
源供給は不要です。VCB トリップコイルの駆動電圧が不要であるため、試験用発電機は 9A
でも十分に対応できます。試験毎の VCB 再投も不要なので、試験に要する時間も短くなり
ます。
VCB との組合せ試験はトリップ接点信号を VCB の主回路一次、二次からとって行いま
す。VCB のトリップコイル動作のためには駆動電圧が必要であるため、試験機の抵抗を抜
きすぎるとチチチと音がする(VCB トリップ接点のチャタリング音)だけで VCB が動作
しない場合があります。また、発電機がエコモードになっていると瞬時の電流増加に対応で
きず、時限測定値が大きくなります。エコモードを OFF で試験を行います。竣工試験で
OCR 単体試験が終了している場合は、通常、限時 300%又は 500%で R 相、S 相それぞれ
1回ずつになります。
※ メーカ取説ではトリップ信号はリレーの T1、T2 となっていますが a1、ac 等でも同
様の値が取れます。T1、T2 は配線済なので、できるだけ外したくないという考えがありま
す。トリップコイルの定格電流は 3A なので、電流引き外し方式で限時整定が 3A 以下の場
合は、3A での組合せでの最少動作試験を行えば安全です。
4-2.特性試験・電力使用申込記載事項の確認
特性試験では OCR の動作時間などがメーカ保証値に入っていることと、電気使用申込書
の保護協調欄の数値確認を行います。
1) 瞬時時限(短絡事故除去時間 0.1sec の確認)
OCR 動作とブレーカが開くまでの合計の時間を意
味します。OCR 動作時限は整定値の 150%、20A 整定
での 30A で試験しています。三菱カタログでの瞬時時
限特性は、右図のようであり、150%で 50msec 以下に
なっています。測定結果は上述のように、0.035sec で
した。VCB の 3 サイクル(60Hz では 3/60sec で
0.05sec)と併せて 0.1sec 以下であることを確認でき
れば、電力使用申込の事故除去時間 0.1sec を満足する
ことができます。
母線短絡時の系統との保護協調を考えると、瞬時時限は保護協調線図の作成に不可欠で
す。年次点検の場合も含めて、瞬時要素では下記の最少動作電流ではなく、時限測定を必須
としている場合もあります。
※ PF 使用時の事故除去時間
PF-S 型の場合、かつては短絡事故除去時間として 0.01sec が使用されていました。限流ヒ
ューズでは半波遮断が公称値であるため、50Hz での場合の 1/50sec の 1/2 である 1/100sec
が使用されていたと考えられます。現在は CB 型同様の 0.1sec が使用されています。
2)最少動作電流(短絡感度の確認)
静止型の場合、始動電流=最少動作電流となります。誘導型の場合は円盤が回転を始める
(ピクリと動く)電流が始動電流です。据付・保全不良等で発生する可動部の機械的な抵抗
により、始動しても接点閉にならない(動作しない)ことがよくあります。最少動作電流よ
り若干の電流増を行い、最少動作電流の測定を行ないます。静止型は、オムロンの場合はリ
レー表面オレンジランプ最初のランプ点灯、三菱は「000」の表示開始の時点での試験電流
を読み取ります。これは始動電流ですが、誘導型のように中断することはないので、OCR
動作を待たずに最少動作電流とすることができます。0.1A 単位で読み取るためには、整定
値付近では試験電流をゆっくり増加させることが必要です。
最少動作電流は電力使用申込の感度になります。4A 設定で CT 比 30 であれば、4×30×
6600×1.2(CT 誤差)≒0.95MVA が感度になります。限時整定値(4A)ではなく瞬時整定
値(例えば 40A)で計算している例もまれにありますが、電力変電所感度以下であれば、受
領してもらえるようです。工事店等で異なった値で申請されている場合もありますが、1A
以内の整定変更であれば、竣工時に再調整してもトラブルにはならないようです。
※電気使用申込書では、限時特性の記入は不要です。
4-3.その他
1)レバー10 の試験
静止型では TD 毎に図表、計算式で動作時間の公称値が詳細に示されています。私は、使
用値での正確な動作時間値がわかるため、使用値での試験のみを行っています。リレー試験
の目的は、レバー10 でメーカ許容誤差内であることよりも、使用値で保護協調が取れてい
ることの確認が重要であると考えています。誘導型の場合はレバー10 での動作時間の公称
値のみが、リレーの表面に図示されていました。静止型も慣習的にリレー表面に TD=10 の
特性図が示されています。読み取った値を、TD/10 で乗じることにより使用値を読むこと
もできますが、不正確です。
※
限時及び瞬時共に動作時間は整定値の絶対値には無関係に、倍数により示されていま
す。試験用発電機の容量が小さい場合は整定値を下げることでも、測定値を得ることができ
ます。例えば限時の時間測定で 300%は使用値の整定、500%は整定を下げて試験しても、
得られる結果は同じになります。現在の静止型は cpu 演算結果によって動作しているため
と考えられます。
2) 試験機の電流設定
手動動式の IPR 等を使用する場合の試験電流の設定には、切替スイッチを設定位置にし
て内部の模擬負荷で行う方法と、リレーをロックして試験位置での実電流を流して設定す
る方法があります。後者が高度な方法であり、某省管轄工事では指定されているとも聞きま
す。しかしながら IPR 等は電源にスライダックを使用している誘導性の試験機です。設定
時に流れる電流は定常電流ですが、試験時の電流は突変で過度現象を含むものです。理論的
に、試験時の電流と設定電流には差が生じます。電流設定を正しく行うためには、原則は無
誘導である水抵抗、最低でも無誘導試験機である TPR 等を使用する必要があります。無誘
導試験機は電源スライダックに巻き戻しを行う等により、源部の誘導性を減少させたもの
です。
高圧設備で簡易試験機(IPR 等)を使用できる試験であれば、どちらで設定しても良いと
考えています。私は安全性と時間短縮を考えて、切替スイッチを使用して電流設定を行って
いますが、3-5 の試験結果例のように、ほぼ公称値と同じ値が出てきます。
5.関連事項
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5-1.CT 過電流定数(n値)
CT には何倍の電流まで歪なく流せるかを表示する過電流定数nが定義されています。多
用されている三菱 CD-40K は n>3 です。この値では、CT 二次電流 5A×3=15A 以上での
リレー使用はできないことになります。しかしながら、n値と同様に、実使用中の負担電流
等により決定される実力値n’も定義されています。CT に磁気飽和が生じるまでの余裕を見
たものです。通常の CT 電流は定格 5A より小さい等のため、n’はnの数倍となります。2
~3 倍として 40A 程度までは使用可能となります。テキスト等ではn>10 の CT 使用が推
奨されていますが、CD-40K(n>3)使用であっても、メーカ組み込みの場合に取り換えを
要求することは困難なようです。n>10 の CT(CD-40NA 等)が使用されているところも
あるので、高信頼性のためには必要であることを、状況によってはコメントする必要はある
と思います。
n>3 の CT で瞬時整定を 50A 以上にする場合は注意が必要です。変圧器増設などで瞬時
が 60A 設定になっている例もあります。
リレー整定は CT 特性も含めて考えるべきであり、
良好な整定とは言えません。
5-2.電力変電所アナログ OCR との協調
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某電力変電所(都市部)でのアナログ型 OCR の整定例をご紹介します。下、左図のよう
になっています。電流ではなく短絡容量 MVA での表示となっています。デジタル型の大容
量での動作は、第一段が 720A、第 2 段が 1440A です。1440A・6.6kV の容量変換値は
1.732×6.6kV×1440A=16.5MVA となります。
瞬時動作 0.18sec を併せて書き込むと右図のようになります。3 節で説明した、大容量配
電線での段設定と考えての整定を行っても協調が取れ、安全であると考えられます。図では
OCR 動作の短絡容量は 0.2sec では 68.6MVA、0.18sec で 100MVA となっています。
5-3.短絡故障時の動作
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受電設備での高圧部で短絡故障が発生した場合の動作を考えます。
1)故障による短絡大電流での協調
・短絡電流の概算
短絡による流れる電流は、設備容量・使用中の負荷電流には関係なく、配電系統の短絡容
量で決定されるものになります。短絡容量は高圧系統の場合、それぞれの配電線毎に、
50MVA~100MVA になるよう、電力配電所での系統切り分けが行われています。前項の配
電変電所アナログリレーの整定例で、瞬時動作 0.2sec での動作が 68.6MVA、0.18sec の動
作が 100MVA であることからもわかります。
例えば某所(都市部ではない)例での、短絡容量 59MVA の場合を考えます。高圧母線短
絡時に系統から流入する電流は、引込ケーブルのインピーダンスを無視すれば、
59000kVA ÷ 1.732 ÷
6.6kV ≒ 5200A となります。
この配電系統に接続されている受電設備では短絡時に、概 5200A の電流が、配電系統から
引込高圧ケーブルを通過して短絡点に流れ込みます。受電設備の容量などには無関係であ
ることに注意が必要です。
・短絡時の保護協調
3 節での協調線図の大電流部分の拡大図に短絡電流 5200A を書き込んだものを示します。
短絡電流 5200A は瞬時整定 1200A の 4 倍以上となり、配電変電所 OCR、受電設備 OCR、
LBS パワーヒューズ共、全てが瞬時動作領域となっています。この状態での各部の動作順
位は、時限によって決まります。動作時限は、図より下記の様になります。
1440A
0.2sec
瞬時電流整定
1200A
0.05sec
実際?
G75特 性
5200A
系 統 短 絡 容 量 59MVA 変電所 OCR 0.2sec 需要家受電 OCR
0.05sec PF75G <0.05sec
末端部ほどの動作時限が小さくなり(早く動作して)
、保護協調がとれていることが分かり
ます。
2)システムとしての協調(短絡時等)
① 引込 CV ケーブル等のサイズ
ケーブルサイズは VCB の動作時間と協調により決まります。ケーブルの短絡事故時の許
容電流は、負荷電流による常時の発熱ではなく、変電所 VCB による遮断終了までの、大電
流による急速な発熱を考慮する必要があります。ケーブルサイズと許容電流は短絡時の遮
断時間別に、下図により示されています(オーム社
第 2 集 千葉幸著)
。
ケーススタディ現場の電気計算技法
配電変電所の OCR 動作時間を 0.2sec、VCB
の開極時間を含む故障電流遮断時限が 0.25sec
とすれば、引込 CV ケーブルでは、故障電流
10kA(短絡容量では 110MVA)の場合、38sq 以
上が必要になることが分かります。実際の故障
時には、系統の電源のみでなく、自所又は近隣
設備からの、モーターコントリビューション等
による故障電流も供給されます。短絡容量が
100MVA に近い配電系統に接続する場合は余裕
を見て、60sq を採用すべきです。
第二キュービクル送り等のケーブルの場合
で、受電点に設置された 0.1sec 動作の VCB を
経由する場合は 38sq で可となります。しかしな
がら、需要家 VCB と電力変電所 VCB の保全状
態・信頼性の違いを考えると、ケーブルサイズの余裕は取るべきであると考えられます。ケ
ーブルサイズの決定には、他に、ケーブルインピーダンスによる電圧降下、機械的外力に対
する安全強度等の検討も必要です。
※ 変圧器二次側直下での短絡
二次母線直下の低圧側での短絡は配電盤 MCCB での保護になります。短絡電流 Ic は大
まかには変圧器の定格電流(In)と%インピーダンス(%Z)により求められます。100kVA
電灯、%Z が 3%の場合で考えます。
In
= 100000÷210 = 500A
Ic =
500÷(3/100)=
12.5kA
配電盤には定格遮断電流 Icu が 25kVA 以上の MCCB を使用する必要があることになりま
す。Icu は定格負荷電流とは分離して検討する必要があります。小さな負荷を分電盤から直
接引き出す場合に、Icu が小さいブレーカが定格電流のみによって選定されないように留意
する必要があります。配電盤の受電用からは分電盤ブレーカによる保護があるため、Icu が
小さなブレーカも使用可能です。
② スイッチ類の動作協調
高圧受電設備には各種のスイッチ又はブレーカが直列又は並列で使用されています(概
要を後述します)
。現在のほとんどの高圧受電設備ではスイッチ類は単独に動作します。複
数の VCB が直列である場合も保護協調はそれぞれのリレー個別の設定により、動作状態を
相互確認するシーケンス等による協調はありません。
DS は負荷電流が流れていても、操作しようとすれば手動「開」操作できます(一部ロッ
ク機能付きがあります)
。LBS では、次 5-4 節の OCR によるトリップのように、PF 溶断以
外の機械的開放を行う設備が増えています。短絡電流域では PF 安定動作(0.1sec)前に機
械的開放を行わないように OCR 整定が必要です。第二変電送りの地絡保護を DGR で行う
場合、PAS 時限との協調を重視して DGR の時限整定を 0 にすると、短絡地絡が発生した
場合には上流側の VCB による短絡電流遮断(0.1sec)前に機械的開放が行われ、LBS 損傷
の恐れがあります。ほとんど発生しない事故とは考えられますが、スイッチ類の特性も考え
ての OCR(DGR)の整定としておくことが、広い意味での保護協調として必要です。
参考のために、スイッチ類のそれぞれの機能概要の再確認を行います。機能の差は負荷電
流の開閉及び故障電流の遮断時に発生するアークの消弧能力と開極距離の違いによりもの
です。
・ブレーカ(VCB、GCB、OCB 等)
負荷電流の開閉と故障(短絡)電流の遮断を目的としています。動作時に発生するアーク
は真空、SF6 高圧ガス、絶縁油による抑制・拡散により消弧します。GCB では補助的に吹
き消しを利用したものもあります。負荷電流(A)の開閉から短絡電流(kA)の遮断までが
可能で、OCR により保護動作するようになっているものが殆どです。多頻度の動作、機種
によっては遠方操作も可能です。
開極距離は最も小さくなっています。必ず断路器が直列に設置されるか、本体引出等によ
る断路機構が追加されています。VCB を安全に使用するためには、絶縁抵抗測定のみでな
く、メーカ基準による真空度チェック等を含む定期点検が推奨されていますが、需要家設備
ではほとんど実施されていないのが現状です。
・負荷開閉器(VCS 等)
負荷電流の多頻度の開閉を目的としています。VCS は VCB 同様の接点構造を持ちます
が、短絡電流の遮断能力がなく、PF(パワーヒューズ)が直列に使用されています。ごく
まれに自電流による磁気を利用してアーク引き伸ばし消弧を行う MBB 型が残存している
ことがあります。多頻度の入り切りはマグネットで行われ、投入時が常時励磁の場合は節約
抵抗が使用されます。コンデンサ、電動機等の設備個別の運用に使用され、2E リレー等、
又は OCR による保護動作するようになっています。
・負荷開閉器(PAS、LBS 等)
負荷電流の開閉を目的とします。アークを、開極動作で気中のアークホーン等の中に引き
延ばして冷却消弧します。短絡開放時の破損防止のため、PAS では過電流時に開閉動作を
ロックし、停電を確認して安全に開動作するための内蔵 OCR による SOG 機能が付属して
います。PAS の変形として GCB 技術を利用した PGS があります。LBS は負荷電流の開放
を機械的な開動作で行い、短絡過電流は付属の PF(パワーヒューズ)で遮断を行います。
トリップコイルによる電圧引外しを OCR 又は DGR で行うものがあります。
・断路器(DS)
消弧能力がなく、負荷電流の開閉はできません。開極距離はもっとも長くなっています。
電路の区分が主目的です。断路能力が無い固定式 VCB 等の場合は、電源側に必要条件とし
て設置されます。充電電流に対応するため、10A 程度以下の開閉が可能です。OCR 等によ
る自動動作はありません。
5-4.OCR での受電 LBS トリップ
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300kVA 未満(VCB 対応でない PF-S 型)のキュービクルで受電
用 LBS を電圧引外し式として OCR により動作するようになった設
備があります。右写真が使用されている LBS の例です。黄色のもの
が LBS の電圧引外し(トリップ)コイルです。コイルで動作する鉄
心がパワーヒューズ(PF)のストライカ同様に LBS の機械的開放
を行います。
① 使用目的
OCR の目的は変圧器の過負荷防止であると考えています。例として電灯 50kVA、動力
200kVA の設備を考えます。受電 LBS の PF は変圧器のみでは G40 ですが、動力変圧器容
量の概ね 1/3 である進相コンデンサ 75kVA があるために G50 が使用されているとします。
変圧器が損傷しないための一般的な過負荷許容容量は定格電流の 25 倍で 2sec とされて
います。電灯 50kVA では定格電流(高圧換算)は 7.5A なので、過負荷許容電流は 187A で
2sec となります。
電灯変圧器の他の電流がないものとして
G50 の PF 動作を考えます。PF の電流遮断
(溶断)は OCR と同様の時限特性をもっ
ています。右図は PF の溶断時間-電流特
性図の例です(三菱電機殿 LBS カタログ)
。
G50 の 2sec 動作は 200A となっています。
187A 以上なので、許容容量を超過する場合
があることになります。G40 でも定格の 10
倍である 80A の電流が 100sec の間流れる
ことになり、過負荷保護としては不適です。
母線など短絡時の電流は、前述したよう
に系統の短絡容量に大きく影響されます。
変圧器二次側短絡で、変圧器のインピーダンスでの制限があっても 1000A 以上になり、全
ての PF は 0.1sec 以内で遮断します。変圧器二次母線以降の保護は配電盤 MCCB の領域に
なります。どのような状態でこのような大きな過負荷が発生するかは別の問題として、極め
て短時間の過負荷容量の参考にできるものとしては、下図の「愛知電気殿配電用変圧器デー
タブック(HP)
」の短時間過負荷曲線があります。
OCR 設置の場合を考えます。高圧側定格電流は動力変圧器 17.5A、電灯変圧器 7.5A、合
計 25A となります。OCR 限時を CT 一次側 30A に整定すれば、TD=0.5 で限時設定の 2 倍
(60A)での 1sec 以内の動作が可能になります。電灯変圧器単独であっても定格電流の 8
倍で 1sec での保護になります。
② 電力使用申込書での短絡感度
OCR の有無によって短絡感度が変わります。PF の遮断能力はメーカにより異なります
が、G 値の 2~3 倍以上で安定に 0.1sec 以内で可能とされています。容量 250kVA で G40
の PF を使用した設備に OCR を使用した場合について考えます。OCR 用 CT は 5/30 とし
ます。
・OCR がない場合、最少遮断電流が G 値の 3 倍、誤差を 1.2 として
短絡感度=1.732×7.2kV×40A×3×1.2≒1.79MVA となります。
・OCR がある場合、高圧定格電流は 250kVA÷1.732÷6.6kV≒22A、CT 二次電流は 22÷
6=3.6A であるので、OCR 限時電流整定値を 4A として
短絡感度=1.732×6.6kV×4A×6×1.2≒0.33MVA となります。
OCR がある場合、短絡感度は小さくなります。短絡故障電流の遮断は PF によるため、故
障除去時間は 0.1sec で同じになります。
※PF は「小電流」
(G 値からメーカ規定値まで)では、不安定とされています。ヒューズ溶
断により発生するアークを安定的に消去するためには一定のパワーが必要であるため、
「小
電流」ではアークの吹き消し不完全による再発弧等による不安定現象が発生するためとな
っています。OCR で機械的に LBS を開放すれば、PF 動作の不安定に関係なく、過負荷電
流域で(短絡領域ではない)の安定的な遮断ができます。
③ LBS 用 OCR の整定
LBS の負荷電流開放は本体接点で行うため、定格負荷電流が一般的に 200A で小さいこ
とに留意しての整定を行います。これ以上では過負荷遮断となり、メーカの動作保証回数は
1~3 回です。安全に継続使用するためには、定格負荷電流以上では OCR 動作は PF 動作後
とする必要があります。二つの要素の協調を取るため、VCB よりも面倒なものとなります。
三菱電機殿 LBS カタログには「過電流継電器に
よる開閉器開極までの動作特性とヒューズの動
作特性との交点の電流が定格負荷電流開閉容量
以下となれば動作協調がとれています」の説明
と、わかりやすい保護協調線図(右図)が示され
ています。過負荷(小)電流部分は OCR で保護
し、短絡(大)電流で保護していることが線図に
も示されています。
・限時設定
VCB 用と同様ですが、小容量では電灯(単相)容量と動力(三相)容量の配分への注意
が必要です。医療用等設備では電灯容量が大きい場合が良く見られます。設備容量 200kVA
で CT 比 6 とした例を示します。全体容量が同じであっても、CT 二次電流は変わることが
分かります。
例
電灯容量-電流
動力容量・電流
CT 一次
CT 二次
①
50kVA 7.5A
150kVA 13.1A
20.6A
3.5A
②
100kVA 15.2A
100kVA 8.7A
23.9A
4.0A
③
150kVA 22.7A
50kVA 4.4A
27.1A
4.5A
※ 実運用では位相差があるため、この表よりも小さな値となります。
・瞬時設定
定格負荷電流開閉容量以上の電流を開路させないことを目的として設定します。協調線
図での交点を求めることはかなり面倒ですが、瞬時動作の設定を定格負荷電流以下にすれ
ば瞬時動作による LBS の損傷は防止できます。定格負荷電流が 200A、CT 比 6 であれば瞬
時設定 30A で高圧側電流 180A<200A となります。いずれの例でも定格運用時電流の CT
一次 6 倍以上であり、過負荷保護からも動作しても障害は無い範囲です。
投入時の変圧器突入電流による誤動作防止のため、定格電流の 10 倍以上での瞬時設定に
すると、いずれの場合にも 10 倍は 200A を超えています。次善の策として大きい変圧器の
定格電流の 10 倍という考え(末尾文献 P.83)を適用します。瞬時設定を 40A とすれば高
圧側電流 240A であり、妥協できる範囲であると考えます。例③の場合は限時 5A、瞬時 40A
となります。一般的な設定である、瞬時は限時の 10 倍とするためには、より詳細な検討が
必要です。
極論すれば、短絡保護は PF で保証されているので、OCR は設備の過負荷対策であると
割り切ることも必要です。瞬時設定はロック位置とすることも一つの方法です。
※ LBS がどこまでの過負荷電流に耐えるかのカタログ記載はありません。ブレーカであ
る VCB は定格負荷電流 400A の場合は定格遮断電流 8kA と記載されています。8kA まで
は少なくとも、もう一回の入り切り動作ができることが保証されていますが、スイッチであ
る LBS には適用されません。定格負荷電流以上を開閉(遮
断)した場合は速やかに本体更新しなければならないと考え
られます。右図は、電圧トリップ付きではありませんが、事
故電流によりアークシュートが溶解した LBS です。定格容
量以上の電流を開路すると、同様の状態になる恐れがあると
考えられます。LBS は損傷発生の多い装置です。
④ 試験
LBS トリップコイル動作には AC110V(CTD が使用される場合は DC)が使用されるた
め、OCR には電圧引外し型が使用されます。単体試験はトリップ検出接点信号を OCR の
補助接点 a1、a2 等から取ることにより、VCB 用同様に行うことができます。引き続いて
連動試験を行うと開極時間を算出することができます。
連動試験は停電中に他電源で行う方が安全です。電気信号による許容動作回数はカタロ
グ値 200 回であることにも注意が必要です。単体試験と連動試験を組み合わせると効率的
な試験ができます。竣工試験の測定例では、単体 163ms・連動 195ms で、開極時間は 30ms
があります。経年品の年次点検試験では開極時間が大幅に大きくなることがあります。本体
清掃・グリスアップなどの保全が VCB 以上に必要になると考えています。
動作電源が AC100V である場合は、LBS 用等と記入された MCCB を解線し、試験機補
助電源から供給します。MCCB が無い VT 直結では、VT ヒューズを外して二次側へ電源供
給すれば可能になりますが、予想外の配線が行われていることがあります。試験用発電機等
から直接供給する場合は、過電流保護(5A 程度)をつけておくことが必要です。VT ヒュー
ズ本体の破損、フォルダの変形による緩み防止等、取扱い上の注意も必要です。
トリップ信号は、大きな動作をする LBS 本体ではなく、前後のブス等から取るほうが安
全です。距離が離れ、試験機付属のコードは届かないので、数メートルのリード線を準備し
ておけば役立ちます。LBS は信号取出し不具合、又は機構不良でトリップ信号が検出され
ず、試験機が自動停止しない恐れが VCB に比べて大きいものになります。試験機停止ボタ
ンを押して直ちに手動停止する体制を取っておくことが、VCB 試験以上に必要です。トリ
ップコイルは瞬時定格の場合があります。OCR が動作したままになる
と、トリップコイルに電流が流れたままになり、コイル焼損等の恐れが
あります。OCR が正常に動作すると、トリップコイル電流は OCR 接点
(T1、T2 等)で開路されます。第二変電送り用(DGR 動作)およびコ
ンデンサ保護用(内圧検出動作)では本体の補助接点(パレットスイッ
チ)で LBS 動作時はトリップコイル電流を開路するようになっていま
す。右図が LBS 下部に取り付けられたスイッチの例です。受電用では
LBS 動作で停電することが前提とされ、補助接点が省略されていることがあります。
※ キュービクルコンセント 100V から試験電源をとれば試験機の電源喪失で時限測定が
できますが、極力避けるべきだと考えています。停電作業と試験操作は分離できるものであ
れば、分離した方が安全です。
全体としての参考文献
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OCR の整定については、
「エネルギーフォーラム社
山本浩彦著
す。
ISBN4-88555-273-7」
6kV 高圧受電設備の保護協調 Q&A
に詳細に説明されています。ご一読をおすすめしま