みずほ米国経済情報 - みずほ総合研究所

みずほ米国経済情報
2017年2月号
◆ トピック
疾風怒濤のトランプ政権
移民問題で揺れる中で開催された日米首脳会談は成功を
収めた。経済面では金融規制の見直しが始まった。今後は、
税制改革とインフラ投資の詳細な設計図が待たれる。
◆ 景気判断
景気は緩やかに拡大。企業業況は引き続き堅調
業種や規模を問わず業況改善が広がっている。先行きは、
労働市場の改善を背景に個人消費の底堅い伸びと、企業収
益の改善による設備投資の持ち直しが見込まれる。
1.トピック:疾風怒濤のトランプ政権
米国のみならず、世界を
1 月 27 日に公布された「外国人テロリストの入国防止」に関する大統領令
揺るがした移民・難民の
は、米国及び世界を揺るがした。大統領令は次の 3 項目からなる。①イエメ
受け入れ停止
ン、イラン、イラク、シリア、リビア、スーダン、ソマリアの 7 カ国からの
すべての入国を 90 日間停止。②全ての難民受け入れを 120 日間停止。③シリ
ア難民の受け入れを無期限停止である。
指定された 7 カ国はビザ
中でも①は、永住権(グリーンカード)を持つ人や、すでに正当なビザを
免除プログラムの対象
持つ人々の入国についても唐突に拒否する措置であったこと、さらに 7 カ国
外国だが、渡航経験と国
の指定が「イスラム教徒を狙い撃ちした措置」
(いわゆる Muslim Ban)ではな
籍のいずれに着目する
いかとみられたことが問題視された。
かで重大な違い
また、指定された 7 カ国は、オバマ政権時代の 2015 年 12 月に、ビザ制度
改革によってビザ免除プログラムの対象外とされた国であるが、制度改革の
趣旨と反するという問題もあった。すなわち、ビザ免除プログラムが対象外
...........
としたのは、2011 年 3 月以降に 7 カ国に渡航した経験がある人物であり、国
籍ではなかった。これに対し今回の大統領令は、7 カ国を母国とする人々、す
なわち国籍を問題視した点で、ビザ制度変更の趣旨と相容れなかった。
司法判断とトランプ大
2 月 3 日にワシントン州連邦地方裁判所が大統領令の「一時的な差し止め命
統領の方針転換により、
令」を出し、9 日には第 9 巡回区控訴裁判所(サンフランシスコ)が、上記「差
混乱は収束
し止め命令」の停止を求めた司法省の訴えを退ける判決を下した。トランプ
大統領は当初、最高裁判所で争う姿勢を示していたが、新たな大統領令等に
よって国家の安全を強化する方針へ転換し、混乱は収束に向かった。
日米首脳会談は日本に
米国内が移民・難民政策で揺れる中で開催された日米首脳会談(2 月 10・
とって満額回答。One シ
11 日)は、日本側からみれば満額回答の成果をあげた(図表 1)
。予想された
ンクタンクレポートの
トランプ大統領の不規則発言に備えた首相官邸及び関係省庁による事前準備
提言は叶ったが、トラ
の困難さは想像に難くない。直前のマティス国防長官の緊急来日(3-4 日)に
ンプ政権との関係では
よる安全保障問題に関する懸念の払しょくも、会談を成功に導く重要な露払
引き続き代替案の準備
いとなった。今回の会談を「大山鳴動して鼠一匹」と片づけることは大きな
は重要
間違いであり、多方面の努力無くして成功は成し得なかったであろう。
これで「日本が米国の雇用に貢献しているという事実を日米で共有する」
という One シンクタンクレポートの提言
(1 月 23 日)
が叶ったことになるが、
トランプ政権との間では引き続き、代替案の準備が重要である。
金融規制の再評価も始
3 月にかけては、いよいよトランプ大統領の経済政策が具体化していく。す
まり、今後は税制改革
でに規制緩和については、120 日以内(6 月初めまで)に「7 つのコア原則」
とインフラ投資に注目
に従って金融規制を再評価する指示が財務長官に出ている(2 月 3 日の大統領
令)
。このコア原則は、昨年、下院金融サービス委員会が可決した Financial
CHOICE Act(FCA)が掲げる原則とほぼ同じである。FCAは、連邦準備
制度理事会(FRB)に対してルールに基づく金融政策を課しており、それ
に強く反対しているイエレン議長の去就(議長任期は 2018 年 2 月 3 日)と合
わせて、FCAの行方から目が離せない。
経済政策ではこのほか、税制改革とインフラ投資の詳細な制度設計が待た
1
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
れる。税制改革の注目点は法人税であろう。
「仕向地・キャッシュ
最高税率の引き下げ幅と課税ベースの広さという点でトランプ大統領案と
フロー課税」の導入を
議会共和党案で違いがあるが、これは財政赤字の許容度の違い(トランプ案
掲げる議会共和党案が
は財政赤字に甘い)に加えて、議会共和党が「仕向地・キャッシュフロー課
どこまで実現するのか
税」という野心的な改革案を提示していることも理由である。後者は、法人
が法人税改革の焦点
税の課税ベースを本社の場所(居住地)や財・サービスの生産拠点(源泉地)
ではなく財・サービスの消費地(仕向地)で捉え、かつ課税ベースをキャッ
シュフローとすることで付加価値税に近づけることが特徴である。こうした
中で米国内外で関心が集まったのが「国境調整」という制度である。
米国産業連関表を用いた筆者の試算によれば、国境調整は究極的には米国
の製造業と鉱業に大きな負担を強いることになり、トランプ大統領の政策方
針とは相容れない(図表 2)
。法人税への国境調整の導入には、WTO協定や
執行面でも大きな問題がある。
インフラ投資は規模と
その手段に注目
インフラ投資は、その規模と財政支援の手段が焦点である。オバマ政権下
で議論された新たな免税債(州・地方債)やインフラ投資銀行創設か、PP
Pを念頭に置いた株式投資への優遇税制の創設か(図表 3)
。税制改革と共に
経済政策の設計図を描くのは、コーン国家経済会議委員長のようだ。
図表 1 日米首脳会談共同声明及びワーキングランチ(経済部分)


日米両国が、自由で公正な貿易のルールに基づいて、両国間及び地域における経済関係を強化するこ
とに引き続きコミットしていくことを確認したほか、双方の利益となる個別分野での協力を積極的に
推進していくことでも一致した。これらの課題に取り組んでいく観点から、両首脳は、麻生副総理と
ペンス副大統領の下で経済対話を立ち上げることを確認した。
経済対話では経済政策、インフラ投資やエネルギー分野での協力、貿易・投資ルールの 3 つを柱とす
ることで一致した。
(注)日米首脳会談の評価については、菅原淳一(2017)
「無難に終わった日米首脳会談~通商関係は「嵐の前の静けさ」か?~」みずほインサイ
ト(2 月 13 日)を参照されたい。
(資料)日本の外務省より、みずほ総合研究所作成
図表 2 国境調整による平均法人税率の変化
図表 3 インフラ投資の選択肢
①
(%)
国境調整後
160
140
新たな免税債(州・地方債)の創設
――オバマ政権下で導入または提案されたの
は Build America Bond(BAB)
、Qualified
国境調整後
120
Public Infrastructure Bond(QPIB)
、America
100
Fast Forward (AFF)Bond
80
――投資対象や対象投資家の広がりに違い
②
60
インフラ投資銀行・基金の創設
――前回の連邦議会では 4 つの法案が提出
40
③
20
株式投資に対する新規優遇税制
――ロス=ナヴァロ案なら投資家の実効税率
0
製造業
鉱業
はマイナス 113%との指摘も
(注)GDP 統計ベース。税率は国境調整前の税引前法人利益比。
(資料)みずほ総合研究所作成
(資料)みずほ総合研究所作成
2
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
2.概況:足元の景気は緩やかに拡大。企業業況は引き続き堅調
内需の堅調を背景に、米国経済は緩やかに拡大している。
10~12 月期の成長率は
10~12 月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.9%と、7~9 月期(同
減速したが、内需は堅
+3.5%)から減速した(図表 4)
。成長率押し下げの主因は外需(成長率に対
調さを維持
する寄与度▲1.7%)である。南米での悪天候を背景に、7~9 月期に急増して
いた大豆輸出の反動減が輸出全体を押し下げ、輸入は幅広い品目で増加した。
一方、国内最終需要(GDP-外需-在庫)は前期比年率+2.5%となり、7
~9 月期(同+2.1%)から加速した。
先行きは、個人消費の
米国経済の先行きは、労働市場の改善を背景とした個人消費の底堅い伸び
底堅い伸びが続くほか、
と、企業収益の改善による設備投資の持ち直しが見込まれる。S&P500 種企
設備投資が持ち直す見
業の 2017 年EPS増益率は同+10.8%と見込まれている(2 月 13 日時点)
。
通し
ファクトセット社によれば、S&P500 種企業 317 社のうち、165 の企業が
四半期決算発表において「トランプ」もしくは「政権」というキーワードに
言及した。具体的な政策分野でみると、
「税」
(85)が最も多く、
「規制」
(63)
、
「通商」
(58)と続いた。今後の事業や経営成績に重大な影響を与えうる「リ
スクファクター」の開示として、トランプ政権の政策に触れざるを得なかっ
たと思われる。
公益産業を除けば、鉱
生産活動に目を向けると、公益産業や鉱業等を除く鉱工業生産は増産ペー
工業部門の生産活動は
スが強まった(図表 5)
。1 月は温暖な天候を背景に暖房需要が減少し、公益
上向きの動き
産業(電力及びガス)の生産指数が大きく低下した。一方、鉱業は 2 カ月ぶ
りの増産となり、石油・ガス掘削活動は持ち直しの動きが続いた。自動車関
連が減産となったが、素材や消費財を中心に幅広い業種の生産が回復した。
企業業況は堅調
製造業の業況は改善傾向を強めた(図表 6)
。1 月の製造業ISM指数(56.0)
は 5 カ月連続で上昇し、2014 年 11 月以来の高さとなった。重要指標である生産
指数、新規受注指数はともに上昇した。業種別にみると、18 業種中 12 業種が業
況改善を報告しており(前月:11 業種)
、輸送機械とプラスチック・ゴム製品が
業況改善業種に転換した。一方で、非金属鉱物製品、木製品、家具、電気機器、
印刷の 5 業種が業況悪化を報告した(前月:6 業種)
。
非製造業の業況も堅調である。1 月の非製造業ISM指数(56.5)は高水準
を維持した(図表 7)
。業種別では、18 業種中 12 業種が業況改善を報告し(前
月:12 業種)
、5 業種(不動産、教育、運輸・倉庫、情報、娯楽)が悪化を報
告した。しかし、企業のコメントでは、医療と公的部門においてトランプ政
権の政策の不透明性を懸念する声もあった。
中小企業の業界団体である全米独立事業者協会(NFIB)が公表する中小企
業楽観度指数は、昨年末に急上昇した後、1 月も小幅ながら上昇した。先行き
の経済や自社の売上高に対する期待から、事業を拡大する好機と考えている
中小企業経営者が多く、採用計画も順調に改善している。
3
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
図表 4
実質GDP成長率
政府支出
在庫投資
住宅投資
GDP
(前期比年率、%)
8
6
2.6
4
2.0
1.4
0.9
2
図表 5
純輸出
設備投資
個人消費
104.0
1.9
103.5
3.5
鉱工業生産と稼働率
(%)
(2007=100)
78
77
0.8
76
103.0
75
0
74
17/1
(年/月)
102.5
▲2
4-6
7-9
10-12
1-3
2015
4-6
7-9
16/1
10-12
16/7
2016
鉱工業生産(除くエネルギー)
設備稼働率(総合、右目盛)
(年/四半期)
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
図表 6
60
58
(資料)FRBより、みずほ総合研究所作成
製造業ISM指数
図表 7
新規受注
生産
雇用
入荷遅延
在庫
総合指数
非製造業ISM指数
64
新規受注
事業活動
62
入荷遅延
総合指数
雇用
60
56
58
54
56
52
54
50
52
48
50
46
48
16/1
16/4
16/7
16/10
17/1
16/1
16/4
16/7
16/10
(年/月)
(資料)ISMより、みずほ総合研究所作成
(資料)ISMより、みずほ総合研究所作成
図表 8
景気の全体感を示す主要統計
2016 Q1 2016 Q2 2016 Q3 2016 Q4
成長率
17/1
(年/月)
2016/9 2016/10 2016/11 2016/12 2017/1
2017/2
前期比年率、%
0.8
1.4
3.5
1.9
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
前期比年率、%
1.2
2.4
2.1
2.5
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
純輸出
寄与度、%Pt
0.0
0.2
0.9
▲ 1.7
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
在庫投資
寄与度、%Pt
▲ 0.4
▲ 1.2
0.5
1.0
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
実質GDP成長率
国内最終需要
月次実質GDP成長率
企業業況
製造業ISM指数
生産活動
鉱工業生産指数
前期比、%
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
0.4
▲ 0.5
0.9
n.a.
n.a.
n.a.
DI
50.0
51.5
51.1
53.3
51.7
52.0
53.5
54.5
56.0
n.a.
n.a.
DI
54.4
55.1
54.4
55.8
56.6
54.6
56.2
56.6
56.5
前期比、%
▲ 0.4
▲ 0.2
0.4
0.1
▲ 0.3
0.3
▲ 0.2
0.6
▲ 0.3
n.a.
非エネルギー部門
前期比、%
0.0
▲ 0.3
▲ 0.0
0.5
0.1
0.4
0.0
0.2
0.3
n.a.
鉱工業 設備稼働率
%
75.4
75.2
75.5
75.4
75.3
75.5
75.2
75.6
75.3
n.a.
%
75.3
74.9
74.9
75.0
74.8
75.0
74.9
75.0
75.1
n.a.
非製造業ISM指数
製造業
(資料)米国商務省、マクロエコノミック・アドバイザーズ、ISM、FRBより、みずほ総合研究所作成
4
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
3.家計部門:労働需給はひっ迫、消費者マインドは好調さを保つ
労働需給はひっ迫している。消費者マインドは好調さを保っており、個人
消費は底堅い。住宅市場は一進一退である。
雇用は強めの伸び
1 月の非農業部門雇用者数は前月差+22.7 万人(12 月同+15.7 万人)とな
った(図表 9)
。1 月は、小売業や建設業等一部業種の大幅増加を主因に、前
月差 20 万人を上回る増加ペースとなった。
代替的失業率は一段と
低下
賃金は緩やかに上昇
労働参加率は上昇し、失業率は 4.8%(12 月 4.7%)
、不本意なパートタイ
ム労働者等を含む代替的失業率(U6)は 9.4%(同 9.2%)に上昇した。
時間当たり賃金上昇率(農業を除く民間)は前月比+0.1%にとどまり(図
表 10)
、前年比では+2.5%へ鈍化した。最近は Wage Growth Tracker(アト
ランタ連銀が公表する個人の賃金追跡調査)や 10~12 月期の単位労働コスト
等、その他の賃金関連指標についても伸び悩みの動きとなっている。
価格上昇が小売売上高
の増加に寄与
1 月の小売売上高は前月比+0.4%と、5 カ月連続で増加した(図表 11)
。自
動車ディーラーの売上が減少する一方で、ガソリンスタンドの売上が伸びた。
コア小売(同+0.4%)については、無店舗販売の勢いが一服したものの、幅
広い業種の売上増加が全体の押し上げに寄与した。もっとも、今回の結果は
価格上昇が売上増加につながった面が大きく、セントルイス連銀が公表する
実質小売売上高は前月比▲0.2%となった。
消費者マインドは好調
消費者のマインドは好調さを保っている。しかし、支持政党の違いによっ
さを保つ。しかし、支
て乖離があるようだ。2 月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)は 95.7
持政党により乖離が生
と、4 カ月ぶりに低下した。ミシガン大学の調査担当者は、共和党支持者のマ
じている模様
インドが歴史的な高水準にある一方で、民主党支持者のマインドが歴史的な
低水準にあると述べた。さらに、消費者のマインドが実際の消費支出に及ぼ
す影響に関しては、ポジティブな動向よりも、ネガティブな動向の方が影響
度合いが大きいとのことであり、先行きの個人消費にはダウンサイドリスク
があるとの見方が示された。
住宅着工は再び増加。
住宅販売は、在庫不足と住宅価格の上昇が抑制要因となっていることに加
建築業者のマインドは
え、12 月は住宅ローン金利の急上昇が家計の住宅購入意欲を減退させた模様
良好
である。
住宅販売の約 9 割を占める 12 月の中古住宅販売件数は前月比▲2.8%
の年率 549 万件となった。
12 月の住宅着工件数は毎月の変動が大きい集合住宅の急増を主因に、前月
比+11.3%の年率 122.6 万件となった(図表 12)
。先行指標の建設許可件数は
小幅ながら 2 月連続で減少した。
一方、住宅建築業者のマインドは引き続き良好である。住宅建設は、建設
労働者の不足等によって制約されているが、建設業者はトランプ政権による
規制改革に期待を示している様子である。
5
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
図表 9
雇用統計
図表 10
(前月差、万人)
30
(前月比、%)
(%)
5.2
25
0.6
0.4
5.0
20
時間当たり賃金
0.2
4.8
15
10
4.6
▲ 0.2
4.4
17/1
(年/月)
▲ 0.4
5
0
16/1
16/7
非農業部門雇用者数
0.0
16/1
17/1
(年/月)
後方3か月移動平均
失業率(右目盛)
(資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成
図表 11
16/7
(資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成
小売売上高
図表 12
(前月比、%)
1.5
住宅着工件数と住宅市場指数
(年率、万件)
1.0
130
0.5
120
0.0
70
68
66
64
62
60
58
56
54
52
50
110
▲ 0.5
100
▲ 1.0
16/1
16/7
コア
16/2
17/1
(年/月)
(資料)米国商務省、NAHB より、みずほ総合研究所作成
図表 13
家計部門の主要統計
2016 Q1 2016 Q2 2016 Q3 2016 Q4
非農業部門雇用者数
失業率
週当たり労働時間
時間当たり賃金
個人消費
小売売上高
コア小売
新車自動車販売台数
ミシガン大消費者信頼感
2016/9 2016/10 2016/11 2016/12 2017/1
2017/2
前期差、千人
203
170
235
170
249
124
164
157
227
%
4.9
4.9
4.9
4.7
4.9
4.8
4.6
4.7
4.8
n.a.
n.a.
時間
34.5
34.4
34.4
34.4
34.4
34.4
34.3
34.4
34.4
n.a.
前期比、%
0.7
0.7
0.7
0.7
0.3
0.3
0.0
0.2
0.1
n.a.
前期比、%
▲ 0.1
1.5
0.9
1.7
1.0
0.7
0.2
1.0
0.4
n.a.
前期比、%
0.6
1.7
0.3
0.9
0.3
0.6
0.0
0.4
0.4
n.a.
台数、百万台
17.4
17.1
17.5
18.1
17.8
18.0
17.9
18.4
17.6
n.a.
1966年Q1=100
91.6
92.4
90.3
93.1
91.2
87.2
93.8
98.2
98.5
95.7
1985年=100
96.0
94.8
100.7
107.8
103.5
100.8
109.4
113.3
111.8
n.a.
年率、千戸
1,151
1,159
1,145
1,216
1,052
1,320
1,102
1,226
n.a.
n.a.
年率、千戸
1,142
1,140
1,174
1,233
1,225
1,260
1,212
1,228
n.a.
n.a.
新築住宅販売件数
年率、千戸
529
565
583
568
568
571
598
536
n.a.
n.a.
中古住宅販売件数
年率、千戸
5,300
5,503
5,390
5,570
5,490
5,570
5,650
5,490
n.a.
n.a.
DI
59
59
61
65
65
63
63
69
67
65
カンファレンスボード消費者信頼感
住宅市場
17/2
(年/月)
住宅着工件数
住宅市場指数(右目盛)
自動車・建材・ガソリン・外食
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
雇用環境
16/8
住宅着工件数
住宅着工許可件数
NAHB住宅市場指数
(資料)米国労働省、米国商務省、Autodata、ミシガン大、カンファレンスボード、NAR、NAHB よりみずほ総合研究所作成
6
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
4.企業・対外・政府部門:設備投資、輸出は回復
企業業況が良好な中、設備投資は持ち直している。世界的な需要回復が、
輸出の追い風となっている。
建設投資は横ばい
12 月の建設投資(除く住宅)は横ばいであった(図表 14)
。電力施設と商
業施設の建設が増加する一方で、工場建設が 4 カ月連続で減少した。原油価
格が昨年 2 月の 1 バレル 30 ドルを底に 50 ドル超えのレベルまで上昇するな
かで、原油の稼働掘削数は回復が続いている。
機械関連投資は持ち直
し
12 月のコア資本財(国防・航空機を除く資本財)出荷額は 2 カ月連続で増
加した(図表 15)
。10~12 月期のGDP統計でも、機械関連投資が 5 四半期
ぶりのプラスに転じており、機械関連の設備投資は底打ちしている。また、
コア資本財受注額をみると、3 カ月連続で増加しており、金属加工機械、発電
機械等が押し上げ要因となった。
投資マインドは改善
企業の投資マインドは改善している。1 月までの地区連銀製造業調査におけ
る 6 カ月先の設備投資見通し指数は上向き基調にある。
輸出入ともに増加
12 月の実質財輸出は前月比+3.6%と大幅に増加した(図表 16)
。メキシコ
や欧州向けを中心とする資本財輸出(民間航空機等)が押し上げ要因となっ
た。ISM調査における製造業輸出受注指数は、世界的な需要回復を背景に 1
月も高い水準を維持している。マークイット社が公表するグローバル製造業
PMIは 1 月も改善した。生産・在庫調整の進展に伴い中国経済に明るさが
みられるなかで、資源価格が持ち直していること等が世界経済のプラス材料
になっているとみられる。
実質財輸入は前月比+1.5%となり、資本財と自動車が全体の押し上げに寄
与した。今後の設備投資の回復は、資本財輸入の押し上げに寄与するだろう。
累積連邦財政赤字は前
年度並み
2017 会計年度(2016 年 10~2017 年 1 月まで)の累計赤字額は 1,569 億ド
ルと、2016 会計年度の実績並みとなった(図表 17)
。
債務上限は 3 月 16 日から適用が再開される。
責任ある連邦予算委員会
(CRFB、
2016 年 11 月 14 日)によると、債務上限に達するのを引き延ばすために使用
される「特例措置(extraordinary measures)
」の発動により、2017 年夏頃ま
では資金繰りが可能とのことである。共和党が過半数を握る議会体制を踏ま
えると、今回の債務上限問題が、政府機関の一時閉鎖にまで陥った 2013 年の
ような混乱に発展するとは考えにくい。
7
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
図表 14
非住宅建設投資
図表 15
(年率、億ドル)
(年率、億ドル)
650
645
640
635
630
625
620
615
610
605
16/1
4400
4200
4000
3800
15/12
16/6
16/12
(年/月)
図表 17
10
16/6
16/12
(年/月)
12
2
4
2016年度
輸入
図表 18
6
8
2017年度
(資料)米国財務省より、みずほ総合研究所作成
企業・対外・政府部門の主要統計
2016 Q1 2016 Q2 2016 Q3 2016 Q4
ニューヨーク(NY)連銀 現状判断
フィラデルフィア(PHL)連銀 現状判断
2016/9 2016/10 2016/11 2016/12 2017/1
2017/2
▲ 10.9
1.0
▲ 1.6
1.4
▲ 1.2
▲ 5.5
2.2
7.6
6.5
18.7
0.5
0.5
5.0
13.2
11.6
11.1
8.7
19.7
23.6
n.a.
コア資本財 受注金額
前期比、%
▲ 1.8
▲ 1.7
1.2
1.3
▲ 1.5
0.5
1.7
0.7
n.a.
n.a.
コア資本財 出荷金額
前期比、%
▲ 3.0
▲ 0.5
▲ 1.0
0.8
0.5
▲ 0.3
0.7
1.0
n.a.
n.a.
非住宅建設支出
前期比、%
1.2
2.6
3.9
▲ 0.5
0.1
▲ 1.4
0.8
▲ 0.0
n.a.
n.a.
14.6
12.1
8.6
15.9
10.7
13.2
12.7
21.7
25.2
22.4
9.1
14.1
14.7
23.8
10.6
20.4
18.7
32.3
21.9
n.a.
▲ 117 ▲ 133
▲ 37
▲ 43
▲ 46
▲ 44
n.a.
n.a.
NY連銀 6か月先設備投資判断
PHL連銀 6か月先設備投資判断
▲ 126 ▲ 126
貿易収支
10億ドル
輸出
10億ドル
538
546
563
562
190
186
186
191
n.a.
n.a.
n.a.
10億ドル
664
671
681
695
226
229
231
235
n.a.
実質財輸出
2015年=100
98
99
103
101
104
101
100
103
n.a.
n.a.
実質財輸入
2015年=100
100
100
100
103
100
101
102
104
n.a.
n.a.
財政収支
10億ドル
▲ 245
▲ 44 ▲ 137
▲ 27
51
n.a.
歳入
10億ドル
711
993
798
741
357
222
200
319
344
n.a.
歳出
10億ドル
956
932
984
949
323
266
337
347
293
n.a.
輸入
財政
累積連邦財政収支
(月)
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
輸出入
コア資本財出荷
(億ドル)
0
▲1,000
▲2,000
▲3,000
▲4,000
▲5,000
▲6,000
▲7,000
輸出
設備投資
17/1
(年/月)
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
実質財輸出・輸入
(2015年平均=100)
116
114
112
110
108
106
104
102
100
98
15/12
企業業況
16/7
コア資本財新規受注
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
図表 16
資本財出荷・新規受注
60 ▲ 186 ▲ 208
33
(資料)各地区連銀、米国商務省、米国財務省よりみずほ総合研究所作成
8
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
5.物価動向:コアPCEデフレーター上昇率は安定的
物価動向は総じて安定的である。
輸入物価は燃料価格の
1 月の輸入物価上昇率は前年比+3.7%となり、
上昇幅が拡大した
(図表19)
。
上昇を除けば緩やかに
燃料価格の上昇が輸入物価押し上げの主因である。一方、最終財物価(自動
下落
車、消費財、資本財)は緩やかな下落傾向が続いている。
国内企業部門のインフ
レ率はほぼ横ばい
1 月の最終需要・生産者物価指数(PPI)は前年比+1.6%で、上昇率は
前月から変わらなかった(図表 20)
。一方、食品・エネルギーを除くコアは同
+1.6%となり、上昇率がやや鈍化した。前年 1 月に卸売業者や小売業者のマ
ージンの増加等により価格が大きく持ち直していたため、その反動があらわ
れる格好となった。
コアPCEデフレータ
消費関連の物価上昇率は、ゆっくりと加速している。
ー上昇率はほぼ横ばい
12 月の個人消費支出(PCE)デフレーター上昇率は前月比+0.2%、コア
PCEデフレーター上昇率は同+0.1%となった。エネルギー物価やサービス
物価が上昇する一方で、家具や衣服等の財物価が低下した。前年比でみると、
ヘッドラインが+1.6%と加速し、コアは同+1.6%と前月から変わらなかっ
た(図表 21)
。基調的な物価上昇率を示すダラス連銀の刈込平均PCEデフレ
ーター上昇率は 1.85%と、2012 年 6 月以来の上昇率となった。
なお、2017 年初のコアPCE上昇率は、2016 年初の価格上昇幅が大きかっ
た影響で、マイナスのベース効果が生じ得る。クリーブランド連銀が公表す
る Inflation Nowcasting によれば、1 月が+1.64%、2 月が+1.58%と、緩
やかに鈍化すると見込まれている。
1 月のコアCPI上昇率は前月比+0.3%となった。家具・家庭用品や衣料
品等の財物価が急上昇したほか、燃料費上昇を受けた航空運賃が高い伸びと
なった。前年比では+2.3%に加速し、2016 年以降のレンジの上限(+2.1~
+2.3%)をつけた。また、エネルギー物価の上昇ペースが一段と高まり、ヘ
ッドラインの前年比上昇率は+2.5%と、2012 年 3 月以来の上昇率となった。
市場ではインフレ期待
金融市場では、中期のフォワードBEI(ブレーク・イーブン・インフレ
が高まっているが、消
率、5 年先)が 1 月に+2.14%となり、12 月(+2.06%)から小幅に加速し
費者のインフレ期待は
た(図表 22)
。一方、消費者の中期インフレ期待は 2 月に+2.5%(ミシガン
安定
大、5 年先)と 1 月(+2.6%)から減速した。
9
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
図表 19
輸入物価
(前年比、%)
図表 20
(前年比、%)
0.5
5
(前年比、%)
2.0
0.0
0
最終需要PPI
1.0
▲ 0.5
▲5
0.0
▲ 1.0
▲ 10
▲ 15
16/1
16/7
輸入物価
▲ 1.5
▲1.0
▲ 2.0
17/1
(年/月)
▲2.0
16/7
17/1
(年/月)
総合
うち最終財(右目盛)
コア
(資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
図表 21
16/1
PCEデフレーター
図表 22
期待インフレ率(5-10 年先)
(前年比、%)
3.0
(前年比、%)
2.0
1.5
2.5
1.0
2.0
0.5
1.5
0.0
16/1
16/7
総合
16/2
17/1
(年/月)
金融市場(BEI)
(資料)ミシガン大、FRBより、みずほ総合研究所作成
図表 23
物価の主要統計
2016 Q1 2016 Q2 2016 Q3 2016 Q4
輸入物価指数
最終財
17/2
(年/月)
消費者(ミシガン大)
コア
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
輸入物価
16/8
2016/9 2016/10 2016/11 2016/12 2017/1
2017/2
前年比、%
▲ 6.4
▲ 5.1
▲ 2.3
0.7
▲ 1.1
▲ 0.2
0.2
2.0
3.7
前年比、%
▲ 1.2
▲ 1.1
▲ 1.0
▲ 0.7
▲ 0.9
▲ 0.7
▲ 0.8
▲ 0.8
▲ 0.8
n.a.
n.a.
生産者物価
最終需要 生産者物価指数
前年比、%
0.0
0.1
0.2
1.2
0.6
0.8
1.3
1.6
1.6
n.a.
コア生産者物価指数
前年比、%
1.1
1.2
1.0
1.4
1.2
1.2
1.6
1.6
1.2
n.a.
消費者物価
消費者物価指数
前年比、%
1.1
1.0
1.1
1.8
1.5
1.6
1.7
2.1
2.5
n.a.
コア消費者物価指数
前年比、%
2.2
2.2
2.2
2.2
2.2
2.1
2.1
2.2
2.3
n.a.
PCEデフレーター
前年比、%
0.9
1.0
1.0
1.5
1.2
1.4
1.4
1.6
n.a.
n.a.
前期比、%
0.1
0.5
0.4
0.5
0.2
0.3
0.1
0.2
n.a.
n.a.
前年比、%
1.6
1.6
1.7
1.7
1.7
1.8
1.7
1.7
n.a.
n.a.
前期比、%
0.5
0.4
0.4
0.3
0.1
0.1
0.0
0.1
n.a.
n.a.
前年比、%
1.7
1.7
1.7
1.8
1.7
1.8
1.8
1.9
n.a.
n.a.
ミシガン大 期待インフレ率
%
2.6
2.5
2.6
2.4
2.6
2.4
2.6
2.3
2.6
2.5
BEI(5年先5年)
%
1.6
1.6
1.6
1.9
1.7
1.8
2.0
2.06
2.14
n.a.
コアPCEデフレーター
刈込平均 PCEデフレーター
インフレ期待
(資料)米国商務省、米国労働省、ダラス連銀、ミシガン大、FRBより、みずほ総合研究所作成
10
みずほ米国経済情報(2017 年 2 月号)
2017年 2月 1 6 日
発行
欧米調査部主席エコノミスト 小野 亮
03-3591-1219 makoto. ono@mizuh o-ri.co.j p
欧米調査部主任エコノミスト 風間 春香
03-3591-1418 haruka. kazama@mi zuho-ri.c o.jp
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