Economic Indicators 定例経済指標レポート

Economic Trends
マクロ経済分析レポート
民間調査機関の経済見通し(2017年2月)
発表日:2017年2月17日(金)
~先行きは緩やかな回復基調の継続がコンセンサス~
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 エコノミスト 伊藤 佑隼
TEL:03-5221-4525
(要旨)
○民間調査機関 20 社の経済見通しが出揃った。実質GDP成長率の平均値は、2016 年度が前年度比+
1.2%(11 月時点見通し:同+0.9%)、2017 年度は同+1.3%(11 月時点見通し:同+1.0%)と輸出
や設備投資が上方修正されたことを要因に見通しが引き上げられた。
○2017 年度の国内景気は、海外経済の回復を背景に輸出や生産の増加ペースが上昇することや経済対策の
効果が顕在化してくることを背景に、景気回復が続くとみられている。ただし、実質賃金の伸び悩みに
より個人消費に停滞感が残ることや住宅投資が着工数の減少によりマイナス基調が続くことが下押し要
因となり、回復ペースは緩やかなものになるとみられている。
○18 年度見通しを公表している 16 社の経済見通しでは 18 年度の成長率は前年度比+1.1%になる見込
み。2018 年度以降の国内景気も緩やかに回復していくことが見込まれており、海外経済の回復が続く中
で、設備投資や輸出といった企業部門の回復が続くことに加え、家計部門も緩やかに改善していくとみ
られている。
○消費者物価指数(生鮮食品を除く)の見通しは、16 年度は前年度比▲0.2%(11 月時点見通し:同▲
0.3%)、17 年度は同+0.9%(11 月時点見通し:同+0.6%)、18 年度は前年度比+1.1%(11 月時点
見通し:同+1.0%)と上方修正となった。物価上昇率は緩やかな上昇にとどまるとみられており、日銀
が目指す2%の物価上昇の達成は困難との見方が依然としてコンセンサスだ。
○ コンセンサスは 2016 年度:+1.2%、2017 年度:+1.3%
民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、2月 16 日までに集計した民間調査機関 20 社の見
通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2016 年度が前年度比+1.2%
(11 月時点見通し:同+0.9%)、2017 年度は同+1.3%(11 月時点見通し:同+1.0%)である。後述の通
り、公共投資が下方修正された一方で、輸出や設備投資が上方修正されたことで、11 月時点と比較すると成
長率予測は引き上げられた。
【2016年度】
実質GDP
名目GDP
個人消費
平均
最大
最小
第一生命経済研究所
1.2
1.3
1.2
1.3
住宅
0.6
0.7
0.5
0.6
5.9
6.3
5.5
5.6
設備投資
1.8
2.3
1.6
1.8
公共投資
▲
▲
▲
▲
輸出
1.5
0.6
2.0
1.8
2.6
2.8
2.4
2.7
輸入
▲
▲
▲
▲
1.0
0.8
1.2
1.0
1.2
1.3
1.0
1.1
鉱工業
生産
1.2
1.6
0.7
1.2
CPI
(コア)
▲
▲
▲
▲
(%)
米国暦年
GDP
0.2
0.2
0.3
0.2
1.6
1.6
1.6
1.6
CPI
(コア)
(%)
米国暦年
GDP
0.8
1.2
0.7
0.8
2.3
2.6
2.1
2.5
(出所)民間調査機関20社の調査より第一生命経済研究所作成
【2017年度】
実質GDP
名目GDP
個人消費
平均
最大
最小
第一生命経済研究所
1.3
1.8
0.8
1.4
0.7
1.0
0.4
0.6
住宅
▲ 1.7
1.8
▲ 5.0
▲ 3.7
設備投資
公共投資
2.5
5.4
0.4
3.5
3.5
7.2
▲ 0.8
4.8
輸出
4.0
6.8
2.1
4.9
輸入
2.4
4.3
1.3
3.0
1.4
2.6
0.1
1.5
鉱工業
生産
3.1
5.5
0.6
3.6
(出所)民間調査機関20社の調査より第一生命経済研究所作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
【2018年度】
実質GDP
名目GDP
個人消費
平均
最大
最小
第一生命経済研究所
1.1
1.8
0.5
1.1
0.8
1.3
0.4
1.0
住宅
0.6
6.2
▲ 3.0
3.3
設備投資
公共投資
2.7
5.3
1.0
2.6
▲ 0.9
5.8
▲ 6.3
0.1
輸出
鉱工業
生産
輸入
2.6
4.3
1.4
3.1
2.3
4.3
1.0
3.2
1.6
2.9
0.9
1.5
1.9
3.2
0.7
2.2
CPI
(コア)
(%)
米国暦年
GDP
1.1
1.9
0.6
0.9
2.6
3.0
2.3
2.4
(出所)民間調査機関16社の調査より第一生命経済研究所作成
○16 年度は上方修正
2月13日に発表された2016年10-12月期実質GDP成長率(1次速報)は前期比年率+1.0%(前期比+
0.2%)とほぼ事前予想(ブルームバーグ調査:前期比年率+1.1%)通りの結果となり、4四半期連続の成
長となった。内需の足踏みが続く中で、7-9月期に続き10-12月期も外需主導のプラス成長となった。
個人消費は、生鮮食品の価格高騰を受けて家計の節約志向が高まったとみられ、前期比▲0.0%と4半期ぶ
りに減少となった。公共投資についても、2015 年度補正予算、2016 年度当初予算の前倒し執行の反動により
大きく落ち込み成長率を押し下げた。また、貸家着工が失速したことを受けて、住宅投資は7-9月期の前
期比+2.4%から 10-12 月期同+0.2%と伸び幅を縮めた。一方で、成長率押し上げの主因となったのは輸出
である。海外経済の持ち直しなどを背景に、輸出は前期比+2.6%と高めの伸びとなった。
10-12 月期の実質GDP成長率(1次速報)は、外需主導で前期比年率+1.0%と4四半期連続のプラス
成長が続く中で、「景気が緩やかな回復基調を辿っている」(三菱東京UFJ銀行)という見方がコンセン
サスとなっている。
2016 年度の成長率予想は前年度比+1.2%(11 月見通し:同+0.9%)となった。公共投資については、10
-12 月期の実績が 11 月時点予想対比で下ぶれたことから下方修正となった一方で、輸出や設備投資が上方
修正されたことで、成長率予想は 11 月見通しから上方修正された。
2017 年1-3月期については、「引き続き輸出が増加するとともに、個人消費も生鮮食品の価格高騰が落
ち着く中で持ち直しに転じるとみられることなどから、プラス成長を維持する」(浜銀総研)ことが見込ま
れている。
○17 年度、18 年度ともに回復基調を辿る見込み
2017 年度成長率予想は前年度比+1.3%(11 月見通
実質GDP成長率(前期比、%)
し:同+1.0%)と輸出や設備投資といった企業部門
の見通しが引き上げられたことから、上方修正となっ
た。17 年度の国内景気は、経済対策の効果が顕在化
0.4
0.3
していくことから公共投資が増加することに加え、米
国をはじめとする海外経済の回復に伴い輸出の増加が
0.2
続くことや企業収益の改善を受けて設備投資も持ち直
していくことが見込まれている。一方で、「物価上昇
に伴う実質所得の低下を主因として民間消費が低迷す
る」(ニッセイ基礎研究所)ことから回復ペースは緩
2016年11月時点見通し
0.1
2017年2月時点見通し
0.0
10-12
1-3
4-6
7-9
10-12
1-3
4-6
17
7-9
10-12
1-3
18
(※)四半期毎見通しを発表している機関(11月調査は14社(うち7社が18年度までの四半期見通し
公開)、2月調査は12社)の予測値の平均。白抜きは実績値
(出所)各機関の見通し資料より第一生命経済研究所作成
やかなものになるとの見方だ。
2018 年度成長率予想(公表している 16 社平均)も
前年度比+1.1%(11 月見通し:同+1.0%)と小幅
上方修正となった。18 年度については、引き続き輸出や設備投資が底堅く推移することで、企業部門の改善
が家計部門に徐々に波及し、17 年度に続き1%台の成長率を維持することが見込まれている。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
このように 17 年度、18 年度については、世界経済が回復していく中で、輸出や設備投資といった企業部
門が景気を下支えするとみられている。ただし、「トランプ米大統領の政権運営や、英国のEU離脱、欧州
大陸諸国の選挙など、海外の政治動向は不透明感が強く、マーケットの変動などが景気を下押しするリス
ク」(日本総研)を指摘する機関が多くみられ、このような下振れリスクが顕在化した場合、緩やかな景気
回復シナリオが崩れる可能性があることには注意が必要だ。
なお、今回見通しの為替前提値の平均は 17 年度 113.9 円/ドル、18 年度 114.7 円/ドルと 11 月見通し(17
年度 107.8 円/ドル、18 年度 107.1 円/ドル)から円安方向へ修正されており、為替が円安傾向で推移して
いくことも、成長率の押し上げ要因となっているようだ。
以下では需要項目別に、エコノミストの見方を概観していく。
① 個人消費
16 年 10-12 月期の個人消費は前期比▲0.0%と
個人消費(前期比、%)
7-9月期同+0.3%から減少した。先述したよう
0.3
に、天候不順による生鮮食品の高騰が影響している
ようだ。2017 年度の個人消費は、「物価低迷や
0.2
2016 年前半の企業収益の鈍化の影響を受けて、ベ
ースアップの伸び率は前年に続き鈍化する」(富国
0.1
生命)ことに加えて、物価が上昇することで実質賃
2016年11月時点見通し
2017年2月時点見通し
金が低下することを背景に、伸び悩むことが見込ま
0.0
れている。18 年度の個人消費については、「海外
10-12
1-3
4-6
7-9
10-12
1-3
4-6
17
政治情勢の不透明感の緩和が期待されるほか、2017
7-9
10-12
1-3
18
(※)四半期毎見通しを発表している機関(11月調査は11社(うち7社が18年度までの四半期見
通し公開、2月調査は10社)の予測値の平均。
白抜きは実績値
(出所)各機関の見通し資料より第一生命経済研究所作成
年の業績改善や物価上昇もあって、賃上げ率は改
善」(みずほ総合研究所)され、賃金増加が実現し
ていくとの見方から、伸びが高まることを見込む機関がみられた。一方で、「資源価格の持ち直しと円安を
受けて物価の上昇が続くため実質賃金がマイナス推移し、個人消費の伸びを抑制する」(三菱UFJリサー
チ&コンサルティング)といった指摘をする機関もみられ、18 年度の個人消費の見通しについては強弱混在
している。
② 輸出
輸出(前期比、%)
16 年 10-12 月期の輸出は前期比+2.6%と2四半
3.0
期連続で増加した。「自動車やスマートフォン関連
2.5
の電子部品デバイスが好調」(三菱UFJリサーチ
&コンサルティング)、だったことから7-9月期
に続き増加したとのことだ。
2.0
2016年11月時点見通し
1.5
2017年2月時点見通し
輸出の前提となる海外経済は、米国をはじめとし
1.0
て回復基調を辿ると予想されている。しかし、先述
0.5
したように、①米国通商政策の保護主義化による悪
0.0
10-12
1-3
4-6
7-9
10-12
17
影響、②欧州政治不安による金融市場の混乱、③中
1-3
4-6
7-9
10-12
1-3
18
(※)四半期毎見通しを発表している機関(11月調査は11社(うち7社が18年度までの四半期見
通し公開)、2月調査は10社)の予測値の平均。白抜きは実績値
(出所)各機関の見通し資料より第一生命経済研究所作成
国経済の低迷といった下押しリスクを抱えており、
このようなリスクが顕在化した場合、成長率が下振
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
3
れることを指摘する機関が多くみられた。
米国の 10-12 月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.9%と特殊要因による輸出の押し下げを背景に7
-9月期同+3.5%から減速したものの、米国経済は緩やかな回復基調にあるという見方がコンセンサスとな
っている。先行きについては、消費が堅調に推移していくことに加え、「一定規模の減税(法人税と個人所
得税)、インフラ投資の拡大、規制緩和などが実施される可能性が高いと見られる」(農林中金総合研究
所)ことから米国経済の拡大が続くとの見方だ。欧州経済は、反 EU 勢力の台頭による政治不安が増している
ものの、雇用環境が改善している中で消費が上向いており、緩やかな回復が続くとの見方が多い。新興国経
済については、資源価格の持ち直しや輸出・生産の増加が押し上げ要因となる一方で、「中国経済減速の継
続や、米国長期金利上昇による資金流出圧力、米国の保護主義化が重石となる」(三菱総合研究所)ことで、
緩やかな成長にとどまるとみられている。
総じて見れば、上述したような下振れリスクを抱えているものの、米国をはじめとして海外経済が回復し
ていくことから、輸出も増加基調で推移していくと見られる。また、17 年度、18 年度の為替の前提値が 11
月調査対比6円近く円安修正されており、円安の進展も輸出の増加を後押しするとみられている。
③ 設備投資
16 年 10-12 月期の設備投資は前期比+0.9%と7
-9月期同▲0.3%からプラス転化した。「2016 年
設備投資(前期比、%)
11 月の米大統領選挙以降の円安・株高で、企業の収
1.4
益改善に対する期待が高まったことが寄与した」
1.2
(浜銀総研)との設備投資に明るさが見え始めたと
1.0
の指摘もあるが、設備投資は、このところプラスと
0.8
マイナスを繰り返しており、一進一退の動きにとど
0.6
まっているとの見方が大勢を占めている。
0.4
2016年11月時点見通し
2017年2月時点見通し
0.2
先行きについては、研究開発費投資が拡大傾向で
0.0
推移していくとみられることに加え、「人手不足を
10-12
1-3
4-6
7-9
10-12
17
背景とした省力化へのニーズが高まっているほか、
1-3
4-6
7-9
10-12
1-3
18
(※)四半期毎見通しを発表している機関(11月調査は11社(うち7社が18年度までの四半期見
通し効果)、2月調査は10社)の予測値の平均。白抜きは実績値
(出所)各機関の見通し資料より第一生命経済研究所作成
輸出の持ち直しや円安を受けて企業業績が底入れし
たこと」(信金中央金庫)を背景に、回復基調で推
移していくことが見込まれている。
○消費者物価上昇率2%達成は依然困難との見方
消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の予測の平均値は、2016 年度が前年度比▲0.2%(11 月見通し:同
▲0.3%)、2017 年度が前年度比+0.9%(11 月見通し:同+0.6%)、2018 年度が同+1.1%(11 月見通
し:同+1.0%)と、16・17・18 年度それぞれ上方修正となった。先行きについては、原油価格が上昇した
ことによりエネルギー価格が押し上げに働くことや 16 年 11 月以降の円安効果が加わることで消費者物価上
昇率は伸びを高めていくとみられている。もっとも、「企業がコストの上昇を消費者に転嫁することには限
界があり」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、需要面からの物価の押し上げ圧力が限定的な中で、
消費者物価上昇率は緩やかな伸びにとどまると見込まれていることから、日本銀行の目指す2%の物価上昇
率には届かないとの見方がコンセンサスだ。
第一生命経済研究所の見通しについては、Economic Trends「2016~2018 年度日本経済見通し」(2月 13 日発表)をご参照ください。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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