Feb 13, 2017 No.2017-008 伊藤忠経済研究所 Economic Monitor 主席研究員 武田 淳 主任研究員 石川 誠 03-3497-3676 [email protected] 03-3497-3616 [email protected] 日本経済:4 四半期連続のプラス成長ながら国内民間需要は停滞 し輸出頼みの状況を脱せず(2016 年 10~12 月期 GDP) 10~12 月期の実質 GDP は大方の予想を下回る前期比+0.2%(年率+1.0%)となった。前期比 プラス成長は 4 四半期連続であるが、国内民間需要は個人消費が停滞、設備投資は小幅増にとど まるなど総じて弱く、成長を押し上げたのは輸出のみという状況が続いた。さらに、潜在成長率 と同程度にとどまり、デフレ脱却に向けた動きは足踏みした。 実質 GDP 成長率は前期比年率 1.0%へ減速 本日、発表された 2016 年 10~12 月期 GDP の 1 次速報値は前期比+0.2%(年率+1.0%)となり、7~9 月期の+0.3%(年率+1.4%)から成長が減速した。事前予想では前期比+0.3%程度(年率 1%強)のプ ラス成長がコンセンサスであったが、予想をやや下回る成長となった(当社予想は前期比+0.4%、年率 +1.4%) 。 減速したとはいえ、実質 GDP 成長率は 4 四半期連続の前期比プラス成長となり、景気は緩やかながらも 持ち直しの動きを続けていると評価できる。ただ、個人消費(7~9 月期前期比+0.3%→10~12 月期+ 0.0%)の足取りは重く、設備投資(▲0.3%→+0.9%)は増加に転じたとはいえ小幅増にとどまり、これ まで成長を牽引してきた住宅投資(+2.4%→0.2%)が失速するなど、総じてみれば国内民間需要は停滞 から脱していない。成長率をそれなりに押し上げたのは前期(7~9 月期)に続いて輸出(+2.1%→+2.6%) くらいであり、依然として輸出頼みの成長という状況が続いている。また、予想通りではあるが、公共投 資(公的固定資本形成)は 7~9 月期が前期比マイナスに下方修正(+0.1%→▲0.7%) 、10~12 月期は ▲1.8%へ落ち込みが加速しており、景気対策の効果は未だ確認されていない。 実質GDPの推移(季節調整値、前期比年率、%) 家計消費の財別推移(季節調整値、2013年Q1=100) 125 10 耐久財 120 実質GDP 5 設備投資 半耐久財 115 非耐久財 純輸出 0 その他 105 個人消費 ▲5 公共投資 ▲ 10 サービス 110 100 95 90 ▲ 15 2010 2011 2012 2013 2014 2015 ( 出所) 内閣府 2016 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所) 財務省 賃金の伸び悩みから個人消費は停滞 停滞感の残る個人消費(家計消費)の財別内訳を見ると、販売統計で好調さを見せていた耐久財(+2.8% →+1.4%)は 4 四半期連続で増加したものの、持ち直しが期待された半耐久財(7~9 月期前期比▲0.8% →10~12 月期▲2.1%)は落ち込みが加速し 5 四半期連続の減少、食品などの非耐久財(▲0.2%→▲0.4%) も減少が続いた。全体の約 6 割を占めるサービス消費(+0.5%→+0.1%)も横ばい程度にとどまり、回 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研 究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告 なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 復には程遠い状況にある。 個人消費を取り巻く環境を確認すると、平均賃金は 7~9 月期の前年同期比+0.5%から 10~12 月期は+ 0.2%へ伸びが鈍化した。所定内給与(基本給)が伸びを高めた(+0.3%→+0.4%)ものの、特別給与(ボ ーナス)が前年比横ばいにとどまったことが伸びを押し下げた。また、消費マインドの代表的な指標であ る消費者態度指数は 11 月の 40.9 から 12 月 43.1、1 月 43.2 と改善を続けたが、 「収入の増え方」 (12 月 41.9→1 月 41.6)が悪化し改善の勢いは鈍化している。これらの指標からは、個人消費の先行きを占う上 で賃金の動向が重要であることが改めて確認され、これから本格化する春闘の行方が注目される。 平均賃金の推移(前年同期比、%) 消費者態度指数の推移(季節調整値) 52 1.5 1.0 0.5 消費者態度指数 50 収入の増え方 48 雇用環境 46 0.0 44 ▲ 0.5 42 ▲ 1.0 40 ▲ 1.5 特別給与 所定外給与 所定内給与 総額 38 36 2013 ▲ 2.0 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所) 厚生労働省 2014 2015 2016 2017 ( 出所) 内閣府 機械受注は設備投資の足踏みを示唆 国内民間需要のもう一つの柱である設備投資は、前述の通り 10~12 月期に増加に転じたとはいえ、先行 指標の機械受注が 10~12 月に前期比▲0.2%とほぼ横ばいにとどまっており、先行きは心許ない。機械受 注の減少は前期 7~9 月期の大幅増(+7.3%)の反動という面があるものの、その前の 4~6 月期が大幅 に減少(▲9.2%)していたことも踏まえると、基調としては弱く、少なくとも 1~3 月期に設備投資が大 きく盛り上がることは期待できない。業種別に見ると(上右図) 、非製造業は増減しながらも拡大基調を 維持しているが、昨年初からの円高進行などにより業績が悪化した製造業は下げ止まった程度であり、回 復が遅れている主因となっている。 機械受注の 1~3 月期の内閣府予想は、為替相場が 機械受注の推移(季節調整値、年率、兆円) 6.5 6.0 円安方向に振れたことから業績回復が見込まれる 5.5 製造業を中心に前期比+3.3%と持ち直しを見込ん 5.0 でおり、その先についての明るい材料ではあるが、 4.5 4.0 欧米の政治情勢や中東・朝鮮半島における地政学 3.5 製造業 的リスクなど不透明感が根強い中で、この通り実 3.0 非製造業 現するか予断を許さない状況にある。 2.5 デフレ脱却に向けた動きは足踏み ※最新期は内閣府予想 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 ( 出所) 内閣府 また、実質 GDP 成長率が 2016 年 1~3 月期の前期比年率+2.3%から 4~6 月期+1.8%、 7~9 月期+1.4%、 10~12 月期+1.0%と減速傾向にあることも気になる点である。その結果、10~12 月期の成長率は内閣府 が試算する潜在成長率(前年比+0.8%~+1.1%)と概ね同程度にとどまり、需給ギャップは 7~9 月期の GDP 比▲0.5%(内閣府試算)から縮小せず、デフレ脱却に向けた動きは足踏みしたことになる。 2 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 もちろん、今後、前期比年率 1%台半ば程度の成長が続けば、1 年以内に需給ギャップが解消、デフレ脱 却が視野に入ることになる。2016 年中の成長ペース減速が年初からの円高・株安による面が大きかった とすれば、昨年 11 月以降の円高修正・株価持ち直しにより、今後は再び潜在成長率を上回るペースでの 景気拡大が期待できる 1。当面の注目点は引き続き、国内民間需要の核となる個人消費の行方を左右する 賃金の動向と、海外を中心にリスク要因が多い中で企業が前向きな動きを強めるかどうか、ということに なろう。 1 今回の GDP1 次速報を踏まえて近日中に成長率の予測値を改定する予定。 3
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