抄録集はこちらから - 日本体外循環技術医学会 近畿地方会

第 36 回日本体外循環技術医学会近畿地方会大会の開催について
第 36 回日本体外循環技術医学会近畿地方会大会
大会長
橋本 圭司
(兵庫県立淡路医療センター)
関係各位の皆様におかれましては、ますますご盛栄のこととお喜び申し上げます。また平素は日本体
外循環技術医学会近畿会の活動に対してご協力いただきまして厚く御礼申し上げます。
さてこの度、第 36 回日本体外循環技術医学会近畿地方会大会を 2017 年 2 月 11 日(土)、12 日(日)
の 2 日間、淡路島の洲本市文化体育館にて開催させていただきます。
本地方会大会は、母体である日本体外循環技術医学会の地域学術活動の一環として近畿 2 府 4 県の学
会員で構成され、職業倫理の高揚および学術技能の研鑽及び臨床工学技士相互の連帯交流を深める場と
して毎年開催してきた学会です。
今大会のテーマは他職種との情報共有、上司部下・先輩後輩の知識技術の継承と情報伝達、他施設と
の交流によって、より良い体外循環を目指していただきたいとの思いを込め『協和による体外循環の発
展』としました。特別講演として、兵庫県立淡路医療センター救命救急センター外科部長兼救急科部長 坂
平英樹先生には『生化学研究から外傷手術・集中治療まで行う救命救急医としての経験をふまえて』を、
神戸麻酔アソシエイツ 井出雅洋先生には『体外循環における経食道心エコー(TEE)の有用性』をテー
マに、それぞれ体外循環を行うにあたり多職種で共有すべき知識についてご講演いただきます。また教
育講演として国立循環器病研究センター臨床工学部技士長 林輝行先生に若手は知識を獲得し、ベテラン
は知識を確認できるように『心筋保護 基礎と臨床』をご講演いただきます。さらに前回大会で好評であ
ったウェットラボセミナーも兵庫県臨床工学技士会とのコラボレーションで企画いたしました。兵庫県
立淡路医療センター副院長兼心臓血管外科部長 杉本貴樹先生に『Surgeon と synchronize する
Perfusionist となるために』と題し、豚の心臓を使用し解剖からカニュレーション、弁置換の手技までご
講義いただきます。ナイトセッションでは『ちょっと拝見‼隣の心筋保護』をテーマに幅広い施設の方に
ご講演いただき会場の皆様と熱いディスカッションが行えるよう企画しております。淡路島の美味しい
料理とお酒に舌鼓を打ちつつ他施設の方と情報交換していただければと思います。
淡路島は兵庫県のハワイとも言われる南国リゾートです。観光はもちろんのこと、釣りやマリンスポ
ーツ、バイクツーリング、サイクリング、ゴルフ、テニス等もお楽しみいただけます。また、かつて御
食国であった淡路島は、淡路牛、鱧、玉葱、3 年トラフグなど美味しい食材の宝庫でございます。学会は
1 日目午後と 2 日目午前のみとなっておりますので、空いた時間を利用し淡路島の観光も楽しんでいただ
ければと思います。また今回、宿泊ホテルのご厚意で学会終了後もホテルニューアワジの温泉をお楽し
みいただけることになりました。希望される方には2F ホスピタリティスペースにて 2 日目に入湯チケ
ットをお渡しします。是非日頃のストレスや疲れを癒しにご活用いただければと思います。
本学会の開催にあたり、多くの企業や学校、学会関係者の方々に多大なるご支援いただきましたこと
を大変感謝しております。学会にご参加される皆様に満足していただけるよう鋭意準備して参りますの
で、大勢の皆様にご参加いただきますようお願い申し上げます。開催役員一同、淡路島の地でお会いで
きることを心より楽しみにしております。
平成 29 年 2 月吉日
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第 36 回日本体外循環技術医学会近畿地方会大会開催挨拶
第 36 回日本体外循環技術医学会近畿地方会大会
実行委員長
畑中 晃
(高の原中央病院かんさいハートセンター)
厳寒の候、日本体外循環技術医学会会員の皆様におかれましては、ますますご盛栄のことと御慶び申
し上げます。平素は地方会に格別の御高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
この度、第 36 回日本体外循環技術医学会近畿地方会大会を 2017 年 2 月 11 日(土)、12 日(日)の 2
日間、淡路島の洲本市文化体育館にて開催させていただきます。大会長である兵庫県立淡路医療センタ
ー橋本氏の指名により、今大会の実行委員長を拝命致しました。大会長、実行委員、そして近畿地方会
幹事役員の皆様と協力し、今大会を実りあるものにするべく、開催準備を進めております。
今大会は、以前和歌山県で開催した第 33 回日本体外循環技術医学会近畿地方会大会と同様、宿泊での
大会開催を実行致します。若干遠方ではありますが、神戸(三宮)、大阪(梅田)より高速バスにて 60 分~120
分、お車ですと 60 分~90 分で到着致しますので、大会、ナイトセッション、宿泊そして淡路島のグルメ・
お酒を酌み交わし近畿地方会会員、他施設臨床工学技士の皆様との交流を深めていただきたいと考えて
おります。
さて今大会では、橋本大会長の挨拶にもございました特別演題 2 題、教育講演 1 題の他に前回大会で
好評であったウェットラボセミナー、実技セミナー、ナイトセッションを企画しております。ナイトセ
ッションでは大会教育講演と連動し、心筋保護をテーマに開催を予定しております。テーマは、
『ちょっ
と拝見‼隣の心筋保護』とし、幅広い施設の先生方に自施設の心筋保護法・原理・理論などご講演いただ
き会場の皆様と熱いディスカッションが行えるよう企画しております。懇親会では、淡路島の美味しい
グルメとお酒に舌鼓を打ちつつ会員の皆様、他施設の方と情報交換していただければと思います。
そして、本会員の皆様のご協力により一般演題 22 題のご応募をいただきました事を、この場を借りて
お礼申し上げます。
最後に日本体外循環技術医学会会員の益々の発展と会員の皆様のご活躍を祈念申し上げると共に、本
大会の開催にあたり、多くの企業や学校、学会関係者の方々に多大なるご支援いただきましたことを厚
く御礼申し上げます。学会にご参加される皆様に満足していただけるよう鋭意準備して参りますので、
大勢の皆様にご参加いただきますようお願い申し上げます。開催役員一同、淡路島の地でお会いできる
ことを心より楽しみにしております。
平成 29 年 2 月吉日
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Ⅱ.大会会場案内
■会場周辺見取り図
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■公共交通機関をご利用の場合

大阪から
大阪駅・阪急三番街より高速バスにて「洲本バスセンター」迄約 120 分

神戸から

三ノ宮より高速バスにて「洲本バスセンター」迄約 60 分
周辺アクセス

「洲本バスセンター」より徒歩 5 分
車で来られる方
神戸淡路鳴門自動車道「洲本インター」下車 施設まで車で約 15 分

駐車場・収容台数 140 台(西 65 台・東 75 台)
施設駐車場は収容台数に限りがございます。満車時は有料駐車場をご利用ください。
参考)御食国向かい「洲本バスセンター前駐車場」 24 時間最大 600 円
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Ⅲ.大会会場案内図
◆会場案内
喫煙スペース
講師控室
総合受付
第一会場
PC 受付
第2会場
注)2 日目は 1A-2 のみとなります
大会本部・クローク
機器展示
ホスピタリティスペース
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4. その他注意事項
1) 会場でのスライド等の写真やビデオ撮影は禁止です。
写真またはビデオ撮影を希望される方は発表者の許可を必ず得て下さい。
大会主催者側は一切の責任を負いませんので注意して下さい。
2) 喫煙は第一会場奥の喫煙指定場所でお願いします。
3) 第一会場は飲食禁止です。
会場周辺に飲食店および量販店がございます。
11 日は 13 時から開始となっておりますので、お食事をとられてからご参加ください。
■ 遺失物
忘れ物、落し物は大会当日については大会本部でお預かりします。
なお会期中のみのお預かりとさせていただきます。
■ クローク
クロークは大会本部横に設けております。
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4. Macintosh の PowerPoint で作成された場合は、Windows7 で動作する Power Point
2010 形式で保存し、Windows PC で動作確認をした上でお持ちください。
5. CD-R でお持ち込み頂く場合、発表データをコピーする際、ファイナライズ作業(セッションの
クローズ・使用した CD のセッションを閉じる)を必ず行って下さい。この作業が行われなかっ
た場合、データを作成した PC 以外でデータを開くことができません。また CD-R には氏名、
所属機関、セッション名、演題番号をご記入下さい。
6. 必ずデータを作成した PC 以外で画像等を確認し、修正がない状態でお持ち込み下さい。
●パソコンを持ち込まれる場合(動画を含む Windows および Macintosh の場合)
1. PC 受付にて受付終了後、発表セッション 30 分前までにご自身で会場内 PC デスク(発表演
台付近)のオペレーター席まで PC をお持ち下さい。
2. 会場でご使用する PC ケーブル・コネクターの形状は MiniD-sub15 ピンですので、この形
状にあった PC をご持参いただくか、この形状に変換するコネクターを必ずご持参ください。
3. 必ず PC 付属のアダプターやコネクターをご持参ください。
4. 事前に各自の PC から外部モニターに正しく出力できることを確認し、修正がない状態でお
持ち込みください。
5. スクリーンセーバー及び省電力設定は必ず事前に解除しておいてください。
6. 会場にて電源コンセントをご用意しておりますので、PC 用 AC アダプターなど、電源コード
は必ずお持ち下さい。
7. 念のため、バックアップデータとして、CD-R もしくは USB メモリーにデータをコピーし必ずお
持ち下さい。データ形式などは、「データを持ち込まれる場合」をご参照ください。
8. 使用した PC は、発表終了後にオペレーター席にて返却します。
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Ⅷ.大会日程
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O-Ⅰ-4『脳分離体外循環を併用した人工心肺による溶血に対する相関関係の解析』
三重大学医学部附属病院 臨床工学部 後藤 健宏
15:00 ~ 15:40
【一般演題Ⅱ:特殊体外循環】
座長:国立循環器病研究センター 西垣 孝行
京都府立医科大学附属病院 畑中 祐也
O-Ⅱ-1『特発性血小板増多症を合併した左心室瘤に対する体外循環の経験』
大阪府済生会野江病院 ME科 河野 良平
O-Ⅱ-2『腎動静脈奇形を合併した根治的腎摘出術時に
緊急人工心肺補助下での下大静脈修復を必要とした 1 例の経験』
奈良県立医科大学附属病院 医療技術センター 山本 和輝
O-Ⅱ-3『母子ともに救命し得た妊婦体外循環の 2 症例』
大阪大学医学部附属病院 ME サービス部 松本 猛志
O-Ⅱ-4『人工肺入口圧上昇を認めた 4 例の考察』
加古川中央市民病院 臨床工学室 梅田 洋平
15:50
【教育講演】
『心筋保護
~
16:50
-基礎と臨床-』
国立循環器病研究センター 林 輝行
司会:手稲渓仁会病院 千葉 二三夫
《第 2 会場》
【ウェットラボ】
14:05
~
16:35
『Surgeon と synchronize する Best Perfusionist へ
〜 Swine heart の Aortic Valve Replacement 執刀を通して 〜』
講師:兵庫県立淡路医療センター 副院長兼心臓血管外科部長
杉本 貴樹
共催:兵庫県臨床工学技士会
エドワーズライフサイエンス株式会社
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《第 3 会場》
【機器展示】
13:00
~ 17:00
《懇親会会場》
【ナイトセッション】
18:00
~
19:30
『ちょっと拝見‼ 隣の心筋保護』
司会:高の原中央病院かんさいハートセンター 畑中 晃
19:30
【懇親会】
16
~
21:00
2017 年 2 月 12 日(日)
8:30 ~
【受付開始】
《第 1 会場》
【一般演題Ⅲ:ECMO・教育】
9:00 ~ 10:10
座長:国立循環器病研究センター
吉田 幸太郎
藍野大学医療保健学部臨床工学科 山崎 康祥
O-Ⅲ-1『RFCA 中の心タンポナーデに対して VA-ECMO にて救命しえた一症例』
社会医療法人渡邊高記念会 西宮渡辺心臓血管センター 臨床工学科 村上 大樹
O-Ⅲ-2『VA ECMO から VAV ECMO に変更し救命することができた 1 例』
大阪府立急性期・総合医療センター 臨床工学室 森本 良平
O-Ⅲ-3『V-A ECMO 後気道内出血による酸素化不良に対し V-V ECMO を追加した一例』
三菱京都病院 診療技術部臨床工学科 髙橋 亮太
O-Ⅲ-4『ECMO 施行中の遊離ヘモグロビン測定が回路交換の指標となりえた1小児例』
兵庫県立尼崎総合医療センター 診療部 近藤 佑介
O-Ⅲ-5『V-A ECMO 施行中に人工肺からの血液リークにより回路交換を 2 回要した 1 例』
奈良県総合医療センター 臨床工学技術部 松田 翔希
O-Ⅲ-6『人工心肺ハンズオンを用いた他職種への体外循環教育の取り組み』
神戸市立医療センター 中央市民病院 臨床工学技術部 吉田 一貴
O-Ⅲ-7『ECPR 合同ハンズオントレーニングから実施品質の改善を検討する』
京都府立医科大学附属病院 医療機器管理部 八木 克史
【特別講演 2】
10:20 ~ 11:20
『体外循環における経食道心エコー(TEE)の有用性』
神戸麻酔アソシエイツ 井出 雅洋
司会:大阪大学医学部附属病院 吉田 靖
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12:55
【閉会挨拶】
~ 13:00
第 36 回日本体外循環技術医学会近畿地方会大会 実行委員長
高の原中央病院かんさいハートセンター 畑中
《第 2 会場》
【実技セミナーⅠ】
10:10
~
担当:天理よろず相談所病院
晃
11:40
吉田 秀人
大阪府立母子保健総合医療センター 井上 晃仁
13:00
【実技セミナーⅡ】
担当:三菱京都病院
滋賀大学医学部附属病院
《第 3 会場》
9:00
【機器展示】
19
~
14:30
篠原 智誉
吉田 均
~ 12:00
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[特別講演 1]
生化学研究から外傷手術・集中治療まで行う
救命救急医としての経験をふまえて
兵庫県立淡路医療センター
外科部長・救急科部長
坂平 英樹
今回、職場の同僚である本大会長の橋本先生から特別講演のお話を頂き、非常に光栄なことだ
と思った半面、どのようなお話をすればよいのか非常に悩みました。大会長から臨床工学士の皆様
も様々なバックグラウンドを持つ方がいらっしゃるとお聞きし、自らの一風変わった職歴を踏まえて
話をするのも良いかもしれないと考えました。また自分の現在の専門分野は外傷救急外科(最近で
は Acute Care Surgery という呼び名が定着しつつあります)であり、救急医学分野における
ECMO などについての最近の知見についてもお伝えできればと思います。
私は大学在学中から基礎研究に興味を持ち生化学研究を行っていましたが、在学中にサリン事
件や警察庁長官狙撃事件などのオウム真理教関連テロ事件があったことから、救急医学にも強い
興味を惹かれておりました。進路をどうするかについて迷ったのですが、母校があまり救命救急に
熱心ではなかったこともあり、卒後すぐにアポトーシスの生化学研究に従事、幸運なことに新奇な遺
伝子を発見することもできました。
その後ドイツにてタンパク質の折り畳み機構の生化学研究に従事しましたが、持病の頸椎ヘルニ
アが悪化したため帰国、それを契機に臨床医学への興味が再燃、臨床医に転向することになりま
した。リハビリテーション医学・救急医学・外傷外科学を学び、外傷救命治療の超急性期からリハビ
リテーションまで完結できる救命救急医として現在まで日々精進しております。集中治療を行うには
生化学・生理学知識や論理的思考が極めて大切で、基礎研究で学んだことが非常に役に立って
います。優秀な救命救急医は、臨床的スキルは当然のこととして、基礎医学知識(生化学・生理学・
解剖学)も要求されると考えています。
救急医学分野において ECMO (VA/VV) は劇的救命を成し遂げられるデバイスであります。最
近抗凝固コーティングされたデバイスを使用することで、かつては禁忌とされた重症胸部外傷など
でも使用例の報告が増えてきています。海外ではイラク・アフガニスタン戦争を契機に使用が増加、
症例の集約化がなされている施設においてよい成績を修めています。その他、敗血症のガイドライ
ンが 2016 年大幅に改定されました。生化学的知見も少しずつ明らかになってきています。敗血症
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の診断治療、また日本独自に発展してきた敗血症における血液浄化についても述べたいと思いま
す。基礎研究から実地臨床まで幅広く、皆様の興味を刺激できればと思います。
坂平 英樹
(さかひら ひでき)
所属:兵庫県立淡路医療センター 外科部長・救急科部長
1990 年 東京大学理科 III 類入学、学生時代から基礎医学に興味を持ち生化学研究に従事。
1996 年東京大学医学部医学科卒業後すぐに基礎研究に進み、大阪大学大学院医学系研究科
にて「アポトーシスのシグナル伝達機構の解析」に従事。2000 年博士号取得、山村賞(大阪大学)
を受賞。その後、ドイツマックスプランク生化学研究所にて「タンパク質の折り畳み機構の解析」に
従事、2004 年帰国後臨床に転向する。国立国際医療研究センター病院救命救急センター(東京)、
川口市立医療センター救命救急センター(埼玉)にて、外傷診療を中心とした救命救急医療に従
事。2011 年より兵庫県立淡路医療センター外科に所属を移している。
専門分野:外傷救急外科(Acute Care Surgery)・一般消化器外科・救急医学・集中治療学・生化
学・分子生物学
専門医・役職:日本救急医学会専門医・日本外科学会専門医・日本外傷学会専門医・日本 Acute
Care Surgery 学会評議員・兵庫県救急集中治療研究会世話人・日本 DMAT 隊員
現在の学術的興味:重症外傷などの過大侵襲時における、血管透過性亢進の生化学的機構
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[特別講演 2]
体外循環における経食道心エコー(TEE)の有用性
神戸麻酔アソシエイツ
井出 雅洋
経食道心エコー(TEE)が心臓血管外科手術に用いられるようになったのは1990年代に入って
からであった。当初の主な目的は外科手術に必要な術前情報の確認とその成功の可否を術中に
判断するためであったが、特定の手術、とりわけ、僧帽弁逆流に対する僧帽弁形成術に利用され
ていた。同じ手術であっても、術中にTEEを利用せずに心停止下でその成否を判断していた施設
もあり、その結果、術後に有意なMRが残存し、明らかに患者に不利益を与えていた背景もあった。
TEEがmonoplane(0度のみ)からbiplane(0および90度)、90年代後半には自由に角度を設定
できるmultiplane、3次元へと、機器が発達すると同時に、次第に循環器内科医や心エコー技師
だけでなく、麻酔科医が術中診断に関わるようになった。これは麻酔科医が単なる麻酔管理のみの
枠組みから抜け出て、TEEを通して、各々の循環器疾患や手術方法、合併症や予後に対して理
解を深めることができるにつれて、外科医らの信頼を得ることができたことが大きいと考えられる。さ
らに、この変化は次第に当初の目的であった術中における特定手術の成否の判断だけではなく、
術中の血行動態管理や体外循環の管理、合併症の発見に応用できることを麻酔科医に気づかせ
たとも言える。このことが今日の心臓血管外科麻酔管理において、また、多くの概念を共有する救
急集中治療領域においてもなくてはならない診断ツール、モニタへの進化につながったと考えてい
る。1996年に米国麻酔科学会から周術期のTEEの利用についてガイドラインが発表され、エビデ
ンスや専門家の意見を基にその適応が細かく分けられたが、2010年に発表された新ガイドラインで
はTEEの禁忌事項がない限りは必須のツールとして、すべての開心術に利用が推奨されることに
なった。これも、この間にエビデンスや経験が蓄積、報告され、TEEによる診断、モニタリングの重
要性が認識されたからだとも言える。
周術期や救急集中治療領域でのTEEの役割は最初に述べたように、①外科的な側面として、術
前情報、新たな病変の有無の確認、それに応じた外科手術や麻酔管理の調整、手術の成否やシ
ャント残存の有無の確認などが挙げられる。また心機能や心腔内容量などについても評価できる。
さらに、②経皮的カテーテルによる治療(経皮的大動脈弁置換術や中隔閉鎖術など)時の診断や
モニタリング、③心疾患患者の非心臓手術における不安定な血行動態時の原因検索および診断
④経胸壁心エコーが利用できない救急集中領域での病態診断が考えられる。これらのうち、特に
体外循環との関連性が強いのは①や④であろう。例えば、血行動態管理において、圧と容量が比
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例関係にはなく、肺動脈圧や中心静脈圧から適切な心室腔内容量は予測できないことが明らかに
されていることから、TEEは圧モニタの補完的な役割を果たすことができる。一方、送血管や脱血
管の挿入部位の診断や適切な留置部位の確認、それらの挿入に伴う合併症や胸腔内の液体貯留
についても、TEEによる診断やモニタリングが可能である。
TEEを手にした麻酔科医が心臓血管手術を中心とした分野で循環管理において進化してきたよ
うに、体外循環管理においても麻酔科医と同様にTEEの知識や診断能力を身に着けることで、体
外循環という枠を超え、個々の症例だけでなく、循環器疾患全体へのさらなる深い理解と知識を張
り巡らせることにつながると考えている。また、救急集中治療領域での体外循環においても、それら
の知識や経験を通じて、循環管理、治療に貢献できると考えるのは自然なことである。そして、手術
室や救急集中治療部門において、多職種のプロフェッショナルが集って、最良の治療をもたらす、
チームアプローチの概念の重要性が認識されていることを考慮すれば、TEEは情報を共有する中
心的なツールの1つになり、力を発揮する機会が多いと考えている。体外循環に携わる方々すべて
がTEEに親しみを持ってもらえれば、より客観的に血行動態を含めた患者管理に対応出来、循環
器内科医や外科医、麻酔科医や救急集中治療医、心エコー技師らとの共有する情報が増え、そ
の結果、患者の治療や合併症の回避に大きく貢献できるのではないかと考えられる。今回の講演
を通じて、体外循環に関わる方々が知っておくとよいと思われる、TEEの基本とその有用性につい
ての情報や知識、実例を共有できれば幸いである。
井出 雅洋
(いで まさひろ)
平成7年 北海道大学医学部卒業
平成7年 神戸市立中央市民病院麻酔科研修医
平成9年 神戸市立中央市民病院麻酔科専攻医
平成12年 神戸市立中央市民病院麻酔科医員
平成13年 帝京大学医学部付属市原病院麻酔科助手
平成14年 米国エモリー大学病院麻酔科胸部心臓麻酔
クリニカルフェロー
神戸市立中央市民病院麻酔科副医長を経て、
平成17年 神戸麻酔アソシエイツ設立、現在に至る
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[教育講演]
心筋保護
-基礎と臨床-
国立循環器病研究センター
林 輝行
手術室に配属され、心臓外科手術に入るようになって、真っ先に覚える必要が有る業務は、人工
心肺で使用する薬剤や心筋保護液の調剤業務、人工心肺記録業務だと思います。当センターの
心筋保護液調剤は非常にシンプルです。 ソルラクト 500mL に KCL 20mEq と ACD 液 5mL
ヘルベッサー 0.75 mg を混注して晶質液を作成、この晶質液を心筋保護回路へ充填、エア抜き
を行ったあと、決められた液温で再循環して出番を待ちます。心筋保護液の初回投与では、酸素
加血液:晶質液を 2:1 の割合で大動脈基部から順行性、もしくは冠状静脈洞より逆行性に投与す
ることにより、速やかな弛緩性心停止が得られます。
この一見当たり前に繰り広げられる日常の手術光景ですが、一歩引いて心臓手術など全く知らな
い一般の人達の目線から、この状況を見てみると、「臨床工学技士という職業の人が、なんだか訳
の解らない薬剤と血液を混ぜて注入することで患者さんの心臓を止めている。本当に大丈夫か?」
と見えるに違いありません。極論を言えば、私達 “Perfusionist” は「心内修復や大血管の修復と
言う究極の目的のため、患者の心臓を人為的に停止させ、その状態を維持する事を生業にしてい
る。」人達なのです。冷静に考えると少し背筋がゾッとします。
本講演では、私達 “Perfusionist” が、この仕事を安全に完遂する上で、最低限知っておかな
ければならない事項についてお話をさせていただく予定です。
【プロフィール】
林 輝行(はやし てるゆき)
平成 3 年 大阪滋慶学園 大阪ハイテクノロジー専門学校 臨床工学技士科 卒業
平成 19 年 大阪市立大学大学院 医学研究科 医科学専攻課程 入学
平成 21 年 大阪市立大学大学院 医学研究科 医科学専攻課程 修了
平成 3 年 九州大学医学部附属病院 手術部臨床工学技士 入職
平成 8 年 国立循環器病センター 手術部臨床工学技士 入職
平成 17 年 国立循環器病センター 手術部主任臨床工学技士 昇任
平成 20 年 独立行政法人 国立循環器病研究センター 臨床工学部 臨床工学技士長
(独立行政法人化に伴い名称変更)
平成 26 年 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 臨床工学部 臨床工学技士長
(法人変更に伴い名称変更)
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[一般演題Ⅰ:大血管]
O-Ⅰ-1
腹部大動脈瘤術後の胸腹部大動脈瘤に対する体外循環の経験
公益財団法人
天理よろづ相談所病院
臨床検査部
○清水貞則、小林靖雄、井手理彦、杉山晴彦
橋本武昌、二重実、吉田秀人
肢虚血時間 12 分)。復温は末梢側吻合後に開始し、
【緒言】
左腎動脈再建前に 36℃となるように行った。上
今回、腹部大動脈瘤(AAA)術後の胸腹部大動脈
瘤(TAAA)に対し、胸腹部人工血管置換術を施行
腸間膜動脈、腹腔動脈および左腎動脈再建後、
した。当院では TAAA 症例の送血部位の第一選
体外循環を終了した。なお、術中 MEP・SEP モ
択は左大腿動脈であるが、今回は腸骨動脈の解
ニタリングを行った。
離、瘤化を認めたため、腹部大動脈を送血部位
【結果】
とした。また前回手術による高度癒着のため、
総体外循環時間 124 分、腹部分枝灌流時間 116
手術進行に準じた送血部位の変更や腹部分枝灌
分であった。術中 MEP・SEP の変化なく、対麻
流の調節など通常とは異なる体外循環方法を行
痺等の合併症を認めなかった。術翌日に抜管し、
い、合併症なく手術を施行したので報告する。
一般病棟へ転棟した。術後 12 日目に独歩退院と
【症例】
なった。
62 歳、男性、2009 年に急性 B 型大動脈解離、
【まとめ】
AAA 術後の TAAA に対し、F-F bypass 施行
SMA 閉塞に対し Y-graft 置換術と SMA bypass
を施行。2014 年に弓部大動脈置換術、オープン
困難であった症例に対し、腹部大動脈と人工血
ステント留置術を施行。2016 年 3 月に弓部から
管側枝を送血部位に変更した体外循環を行うこ
Y-graft 直上までの慢性解離を指摘されたので、
とで、合併症なく安全な手術を施行できた。
今回胸腹部人工血管置換術を施行することとな
った。
【方法】
脱血管は左大腿静脈より Quick Draw 22Fr を
挿入し、送血管は Y-graft 直上の大動脈に下肢方
向へ向けて MTS 20Fr を挿入し、下肢灌流とし
て灌流量 1.0~2.5L/min で適宜調節した。膀胱
温 33℃にて下行大動脈を遮断し、SP スタットカ
テーテル 10Fr を用いて腹部分枝灌流
(600mL/min/4 分枝)を開始した。人工血管は 4
分枝人工血管を使用して再建した。中枢側吻合、
右腎動脈再建後、送血部位を人工血管側枝に変
更し、末梢側吻合は単純遮断下にて再建した(下
26
O-Ⅰ-2
長時間体外循環による人工肺の酸素化能低下を経験した一症例
岸和田徳洲会病院
臨床工学室
○西村祐紀、河村誠司、岩本和也
【結果】
【背景】
今回、急性大動脈解離(以下 AAD)に対する緊急
最終的に人工肺の交換は行わず CPB を離脱。
手術で術中に人工肺の酸素化低下を起こしたが、
CPB 時間 381 分、心停止時間 159 分、DHCA 時
人工肺交換を行わずに人工心肺(以下 CPB)を離
間 96 分。CPB からの離脱も問題なく、術後経過
脱できた症例を経験したので報告する。
は良好であった。
【症例】
【考察】
60 歳男性、胸背部痛を主訴に当施設へ救急搬送。
術式の追加による CPB 時間の延長と冷却・復温
その後 CT 検査を行い AAD Stanford A と診断。
を短時間で繰り返し行ったことが、人工肺の酸素
予定術式を TAR とし緊急手術となった。
化能低下を招いた原因と考えられる。今回の症例
【術中経過】
では人工肺の交換を施行しなかったが、交換具材
人工肺はコスモテック社製 QUADROX-71000
の用意などスムーズに交換できる体制は必須であ
を使用した。送血は左 SCA、脱血は左 FV で CPB
る。また人工肺交換のタイミングは、酸素化能の
を確立し SVC に脱血管を追加後、直腸温 20℃ま
維持や術野の進行状況など総合的に判断する必要
で冷却し循環停止(以下 DHCA)を行い弓部3分枝
があると考える。
から脳分離体外循環(以下 SCP)を開始。末梢側吻
合後 DHCA 終了。体循環再開し直腸温 35℃まで
復温開始するも、中枢側吻合中に distal arch より
出血を認めた為、再度冷却し DHCA とし、止血後
体循環を再開し復温しつつ中枢吻合と弓部 3 分枝
を吻合し TAR を終了した。しかし Ao 基部より出
血を認め、Bentall 手術を追加とした。CPB 開始
から 280 分後に血液ガスモニタの PO2 値が下降し
た。人工肺入口圧等に変化はなく O2 フラッシュ
10ℓ/min 30 秒間を行ったが PO2 値は一時的な改
善のみであった。復温もほぼ完了しており、酸素
化能も FiO2 を上げることで辛うじて維持できた
事や手術の進行具合等から総合的に判断しこの時
点での人工肺の交換は行わない事とした。
27
O-Ⅰ-3
術中解離に対し順行性一側脳分離で全弓部置換術を施行した一例
京都府立医科大学附属病院
医療機器管理部
○吉田匡毅、畑中祐也、小倉敬士、菅原浩樹
吉田諭、藤井舞、髙橋俊将
【考察】
【はじめに】
人工心肺(CPB)中に術中解離をきたし、右鎖骨
大動脈解離が、上行から下行大動脈に及んでい
下動脈送血による順行性一側脳分離体外循環にて
たため、術式は全弓部置換術、体外循環は順行性
全弓部置換術を施行した症例を経験したので報告
脳分離体外循環が選択されるべきであったが、準
する。
備していた回路では 3 分枝送血への移行ができず、
【症例】
順行性一側脳分離体外循環となった。右鎖骨下動
75 歳、女性。高血圧、脂質異常症、鉄欠乏性貧
脈送血で完全循環停止することなく順行性一側脳
血、大動脈弁狭窄症、陳旧性左橋梗塞の既往があ
分離体外循環に移行し、重篤な合併症を回避でき
り、2016 年 4 月に失神、他院の CAG で#9 に 75%
たと考えられた。しかし、トラブルに対応できる
の狭窄、UCG で severeAS を指摘され、当院で同
人工心肺回路構成、術者との意思統一、チームワ
年 7 月に AVR+CABG 手術となった。
ークが課題となった。
【経過および結果】
【結語】
今回、術中大動脈解離による全弓部人工血管置
送血は、上行大動脈に高度石灰化を認めたため、
右鎖骨下動脈に 8mm 人工血管を端側吻合、さら
換術を施行した症例を経験した。今後、前述した
に 22Fr 送血管を挿入した。CPB 開始し total flow
課題を見直し、術式の急激な変更にも対応した体
とした後に、術者が上行大動脈の色調不良を認め、
外循環の安全性をより高めなければならない。
ダイレクトエコーで大動脈解離を確認した。可視
範囲内にはエントリーはなく、経食道エコーにて
下行大動脈にリエントリーを確認した。右鎖骨下
動脈送血による順行性一側脳分離体外循環での全
弓部置換術追加の方針となった。冷却中に AVR を
施行。膀胱温が 25℃以下となったところで腕頭動
脈を遮断し一側脳灌流開始し、全弓部置換術を行
った。CABG 後に、大動脈遮断解除。人工心肺か
ら離脱し、手術は終了した。総体外循環時間 240
分、大動脈遮断時間 149 分、下半身循環停止時間
42 分、一側脳灌流時間 55 分であった。術後 CT
検査で、エントリーは右鎖骨下動脈の人工血管吻
合時のクランプ部であった。術後 23 日で神経学的
合併症なく、軽快退院となった。
28
29
[一般演題Ⅱ:特殊体外循環]
O-Ⅱ-1
特発性血小板増多症を合併した左心室瘤に対する体外循環の経験
大阪府済生会野江病院
同
ME科 1)
心臓血管外科 2)
○河野良平 1)、佐藤浩次 1)、安見衛 1)、矢野智子 1)、平居秀和 2)
充填液にさらに1万単位追加して人工心肺を開
【はじめに】
特発性血小板増多症を合併した左心室瘤およ
始した。開始直後の ACT は 350 秒と不十分であ
び左室内可動性血栓症に対して左室形成術およ
ったため、術前 74.6%であった ATⅢの枯渇を考
び血栓除去術を施行した体外循環症例を経験し
え ATⅢの補充を行ったところ ACT は 459 秒と
たので報告する。
有意に延長した。補充後に測定した ATⅢは
【症例】
54.9 % で あっ た ため 、さ ら に ATⅢ を 補充 し
66 歳男性。身長 167cm、体重 60kg、体表面
75.3%まで回復した。その後は十分な ACT の延
積 1.67 ㎡。右上下肢麻痺を認めたため、近医救
長を得ることができた。人工心肺中の回路内圧
急搬送され、脳梗塞と診断された。麻痺は速や
の大きな変化は見られず、体外循環回路内、術
かに改善したが、心エコー検査で左室内に可動
野に目立った血栓も確認されなかった。
性血栓を認めたため、近医で手術を予定されて
【結語】
いた。血液検査で、血小板数が 120 万/μl と異
特発性血小板増多症を合併した左心室瘤およ
常高値を認め、血液内科のある当院に紹介とな
び左室内可動性血栓症に対して左室形成術およ
った。左室心尖部に心室瘤を認め、瘤内に塊状
び血栓除去術を施行した体外循環症例を経験し
(15.5 ㎜×30.0 ㎜)の血栓が確認できた。血栓
た。ヘパリンを大量投与しても十分な ACT の延
の一部は高度に可動性を伴う所見があり、脳梗
長が得られなかったが、ATⅢを補充して対応し
塞の原因であると判断し、緊急手術を施行した。
た結果、ACT は有意に延長し安全に体外循環を
【方法および結果】
施行することができた。血小板数に関しては術
JMS 社製ヘパリンコーティング人工心肺回路
中特別な処置は必要としなかった。
及び動脈フィルタ、リヴァノヴァ社製 PH.i.s.i.o
コーティング人工肺を用いて体外循環を施行し
た。血栓による人工肺などの交換に備え、各種
医療材料は近くに配備し、すぐに対応可能な体
制をとった。
通常の用量(300 単位/kg、1万8千単位)で
全身ヘパリン化を行ったが ACT は 261 秒と十分
に延長せず、ヘパリンを1万単位追加したが 343
秒とわずかな延長しか得られなかった。そこで
30
O-Ⅱ-2
腎動静脈奇形を合併した根治的腎摘出術時に
緊急人工心肺補助下での下大静脈修復を必要とした 1 例の経験
奈良県立医科大学附属病院
奈良県立医科大学
医療技術センター1)
胸部・心臓血管外科学教室 2)
○山本和輝 1)、橋本裕貴 1)、井ノ上哲智 1)、横田基次 1)、小西康司 1)、萱島道徳 1)
山下慶悟 2)、廣瀬友亮 2)、早田義宏 2)、阿部毅寿 2)、多林伸起 2)、谷口繁樹 2)
Cut down 法で大腿動脈に 20Fr の送血管、大
【緒言】
腎動静脈奇形(以下 RAVM)は腎細胞癌と合併
腿静脈に 32Fr の脱血管を挿入した。脱血管は
することがしばしばあり、異常な動静脈が一塊
15cm 挿入し、先端は腎静脈下の IVC に留置し
になりシャントを形成する。現在本邦において、
た。人工心肺を開始し、側副血行路からの出血
腎動静脈奇形を合併した腎細胞癌の報告は約 30
は suction 回路より回収した。灌流指数 1.2~
症例ある。
2.6L/m2/min、総体外循環時間は 71 分であった。
【考察】
今回、腎動静脈奇形を合併した腎細胞癌に対
し行った根治的腎摘出術時に、人工心肺補助下
腎細胞癌が IVC に進展している場合、IVC の
での下大静脈(以下 IVC)修復が必要であった 1
血流量を減少させ、出血量を減少させるため、
例を経験した。
体外循環下に腫瘍摘出を行う場合がある。
【症例】
今回、腫瘍の IVC 進展は無かったが、RAVM に
63 歳 男性。
より IVC の血流量が多く、圧も上昇していたた
呼吸苦のため近医を受診され、RAVM による心
め、体外循環を施行した。これにより IVC の血
不全及び右腎細胞癌を指摘された。RAVM に対
流量減少と減圧が可能となり、さらに脱血量に
し動脈塞栓術を施行、経過観察されていたが、
伴う適切な管理及び suction による出血回収が
近医では腎細胞癌に対する手術加療が困難であ
できたため、有用であったと考える。
るため、翌年に当院紹介、根治的腎摘出術の方
【結語】
針となった。
RAVM を合併した腎細胞癌に対し行った根治
【術中経過】
的腎摘出術時に、人工心肺補助下での IVC 修復
右腎を RAVM の一部と合併切除されたが、切除
を必要とした 1 例を経験した。
部の IVC より出血を認めた。RAVM の豊富な血
流による IVC 圧上昇のため修復困難であり、総
出血量は 4000mL を超えていた。そのため、人
工心肺補助下で修復を行う方針となった。
大腿静脈脱血、大腿動脈送血とし、送脱血量の
管理や多量の出血を回収するため、リザーバを
介しての人工心肺を用いることとした。
31
O-Ⅱ-3
母子ともに救命し得た妊婦体外循環の 2 症例
大阪大学医学部附属病院
ME サービス部
○松本猛志、加藤貴充、楠本繁崇、吉田靖、高階雅紀
【考察】
【はじめに】
妊娠中に人工心肺を使用した心臓手術の胎児
灌流量については報告にばらつきがあるが、
死亡率は、依然 12.5%と高く人工心肺技術は確
高灌流量で胎児心拍が保たれたため、その状態
立されたとはいえない。今回、当院において妊
で切迫した問題は無いと判断した。高灌流量に
婦に対し体外循環を行い母子ともに救命しえた
もかかわらずアシドーシス傾向を示したことか
2 症例を経験したので報告する。
ら 、 十 分 な DO2 を 保 つ こ と や 、 胎 盤 は A-V
【症例 1】
fistula であることを考慮した血圧コントロー
43 歳、妊娠 17 週。身長 164cm、体重 50.9kg。
ルが重要であると考える。
大動脈瘤に対し右バルサルバ洞修復術及び
【結語】
CABG を行った。術中の胎児心拍モニタは、一
妊婦体外循環では、胎児心拍モニタで胎児循
般的な CTG と血管内エコーを併用した。人工心
環は評価できるが、適正灌流の評価は慎重に判
肺は、高灌流量と拍動流が可能なシステムを構
断すべきである。
築し、Hb9g/dL 以上で常温管理の方針とした。
体外循環開始直後、胎児心拍は 100bpm 台に低
下したが、灌流量 4.0L/min/m2、血圧を 60mmHg
に維持したところ、140 台に回復し以後安定した。
体外循環中の灌流圧維持にノルアドレナリンの
持続投与と拍動流送血を行った。術後経過は良
好で、妊娠 39 週に出産(Ap8/9)した。
【症例 2】
35 歳、妊娠 28 週。身長 150cm、体重 62kg。
右室内に可動性血栓を伴う両側肺動脈血栓症に
対し血栓除去術と TAP を行った。手術開始直前、
突然ショックバイタルとなった。体外循環確立
まで約 10 分間要し、胎児心拍は 60bpm まで低
下したが体外循環確立後は速やかに回復を認め
た。体外循環は症例 1 と同管理で行ったところ、
灌流量 4.0L/min/m2、血圧は 70mmHg であった。
途中、アシドーシス進行のため炭酸水素ナトリ
ウムとニカルジピン塩酸塩を投与した。術後
33POD に退院し、妊娠 40 週に出産(Ap8/8)し
た。
32
O-Ⅱ-4
人工肺入口圧上昇を認めた 4 例の考察
加古川中央市民病院
臨床工学室
○梅田洋平、岩崎一崇、青田恭朋
真島駿太、大西拓磨、尹成哲
【考察】
【はじめに】
近年、人工肺入口圧上昇に伴う人工肺交換が
294 例中、4 例の肺圧上昇(1.36%)に伴う 2
問題となっている。当院においても人工肺交換
例の人工肺交換(0.68%)を行った。人工肺交換
の 2 例と交換に至らなかった 2 例を経験したの
症例後に対策として、①ヘパリンコーティング
で報告する。
から高分子コーティングへの変更、②充填液に
【対象】
ヘパリン添加、③人工肺交換を安全・迅速に行
2013 年 1 月から 2016 年 11 月に CPB を行っ
うための回路変更を行った。Fisher らの分類か
た開心術 294 例中、入口圧上昇を来した 4 例を
ら入口圧上昇が可逆性か不可逆性かの見極めは
対象とした。人工肺交換群は大血管 2 例(症例 1
困難であるが、適宜、人工肺交換の判断は必要
TAR:73 歳男性、症例 2 Bentall:71 歳男性)、非
になる。原因が明確でないことから予防的対策
交換群は弁膜症 1 例(症例 3 AVR:24 歳男性)、
は困難であり、発見的対策の明確な基準の策定
緊急手術の大血管 1 例(症例 4 TAR:71 歳男性)
が必要である。
であった。
【経過および結果】
症例 1、2 では、CPB 開始 5~10 分後に入口
圧上昇と流量低下(CI:1.0L/min/m2 以下)、圧
較差は、症例 1:約 250mmHg、症例 2:約
380mmHg であった。CPB を一時離脱後、約 10
分再循環をするも入口圧と流量は戻らず、人工
肺交換を行った。症例 3 は 1、2 と同様の経過を
たどり圧較差も約 320mmHg であったため、一
時離脱した。しかし約 10 分の再循環後に緩徐な
圧低下と流量増加を認め、CPB 再開、80 分後に
圧較差約 100mmHg に低下し、CPB を終了した。
症例 4 は CPB 開始 3 時間後の Open Distal 終了
後の循環再開時に入口圧上昇を来した(直腸温
22℃)。入口圧は 443mmHg に上昇、流量も
CI:1.3L/min/m2 と低下したが、様子観察とした。
その後、緩徐な圧低下を認め、120 分後に圧較差
約 100mmHg に低下し CPB を終了した。
33
[一般演題Ⅲ:ECMO・教育]
O-Ⅲ-1
RFCA 中の心タンポナーデに対して VA-ECMO にて救命しえた一症例
社会医療法人渡邊高記念会 西宮渡辺心臓血管センター
臨床工学科
○村上大樹、伊藤健二、松村啓史、清田亮、松田拓真
柳沢義也、大谷拓歩、前田真希、吉田明弘
験により AF 再発し DC を施行. その後 SBP=50
【はじめに】
高周波カテーテルアブレーション(以下,
~60mmHg 台が遷延したため経胸壁エコーにて
RFCA)技術の向上により種々の不整脈にその適
心嚢液を確認. プロタミン投与後, 一時的に血
応は拡大しているが, しばしば特有の合併症を
行動態安定するも経胸壁エコーにて心嚢液増量
経験することがある. 今回, 心房細動(以下, AF)
認めたため心嚢穿刺施行. その後も出血のコン
への RFCA 中に右心室用(以下, RV)電極カテ
トロールがつかず血行動態不安定なため ECMO
ーテルで右室穿孔をきたし、心タンポナーデの
下にて開胸止血術の方針となった.
合併に対して VA-ECMO にて救命できた症例を
経験したので報告する.
【症例および経過】
78 歳女性. 2016 年 2 月急性心不全にて当院入
院加療. 入院中に AF 発症するも RFCA を拒否
され退院. 退院後の定期外来で心房粗動(以下,
AFL)を認め, また低心機能で薬物療法等様々な
治療行うも心不全コントロールが困難なためた
ため, 再度 RFCA 勧めたところ治療を希望され,
同年 5 月初回 RFCA 施行. 初回 RFCA では肺静
脈(以下, PV) box isolation, EEPVI, SVCI, CTI
blockade を施行.
退院後急性胃拡張による食欲不振にて再入院.
入院中に心房頻拍(以下, AT)/AF 再発し DC を
施行. 退院後も AF 再発認められたため, RFCA
2nd session の方針となった.
2nd session 入室時 BP 166/88mmHg, 心拍数
82bpm, SpO2 100%であった. 1st session で
RFCA を行った各ブロックライン確認後, 右側
PV に対して再度 EEPVI を施行. また両心房側
卵円窩(以下, FO), 僧房弁輪左下肺静脈間峡部
(以下, MI)への RFCA も追加で施行. 誘発試
34
O-Ⅲ-2
VA ECMO から VAV ECMO に変更し救命することができた 1 例
大阪府立急性期・総合医療センター
臨床工学室
○森本良平、青木梨香子、大谷旨輝、岡田華菜、砂原翔吾、橘健太郎
祝桃菜、伊藤優美、佐藤伸宏、菊池佳峰、木田博太、上野山充
【方法】
【背景】
静脈脱血-静脈送血膜型人工肺装置(VV ECMO)
VA ECMO から VV ECMO に変更するため、事
は救急、集中治療領域において重症呼吸不全、循
前に延長用の Y 回路を作成し、回路内を生理食塩
環不全に適応される心肺蘇生法の一つである。今
水で満たした。その後、一時的に ECMO を停止し
回心停止より自己心拍再開後、著明な肺機能低下
た状態で延長用の Y 回路を装着し、ECMO を再開
を合併したことで経皮的心肺補助装置(PCPS)か
した。
ら VAV ECMO に変更し救命できた1例を経験し
【まとめ】
VA ECMO 施行後、VV ECMO を追加すること
たので報告する。
で救命しえた症例を経験したので、文献的考察を
【症例】
28 歳女性。自宅にて夫の前で倒れ救急隊により
加えて報告する。
当院へ救急搬送となった。到着時の心電図は心室
細動(以下 VF)で除細動を施行後、無脈性電気活
動(以下 PEA)となり以降 PEA 波形であった。来院
後まもなく右大腿動脈(以下 FA)より送血管を右
大腿静脈(以下 FV)より脱血管を挿入し VA
ECMO を施行した。その後、自己心拍再開したが、
急性肺水腫による著明な肺機能低下のため自己肺
によるガス交換はほぼ行えていない状態であった。
そのため頭部への血流の酸素化が不十分であると
予想されたため、VV ECMO に変更することとし
た。しかし、再度 VF 等が発生し循環動態が保て
なくなった際に VA ECMO へ変更できるよう、
VAV ECMO で維持することとなった。脱血は右
FV より、送血は右 FA と右内頸静脈(以下 JV)
より施行し、送血の流量比は右 FA:右 JV=0.5
l/min:2.7l/min であり、回路のシャント率は 0.48
であった。その後右橈骨動脈より採血した酸素分
圧では 64mmHg から 132mmHg まで改善し CCU
入室後第三病日には VAV ECMO を離脱。S-ICD
を植込み後、一カ月後には明らかな高次脳機能障
害も認めず軽快退院となった。
35
36
O-Ⅲ-4
ECMO 施行中の遊離ヘモグロビン測定が回路交換の指標となりえた1小児例
兵庫県立尼崎総合医療センター
診療部
○近藤佑介、杉谷暢展、山崎北斗、川原弘樹
元永善大、平野雄大、廣岡優典、西肥正浩
【考察】
【はじめに】
ECMO 施行中の回路交換の指標として、人工肺
当院では ECMO 施行中の回路交換の指標とし
のガス交換能の低下、回路内血栓の有無、遠心ポ
て、人工肺のガス交換能や回路内血栓の有無、遠
ンプの異音、LDH などの血液データ、溶血の有無
心ポンプの異音、血液データなどで判断してきた
などが挙げられる。今回、HEMOCUE 社製ヘモ
が、異音や血栓などの評価は個人差があり、また、
キュープラズマ/ローヘモグロビンテストを用い、
血液データ中の溶血の項目においては、溶血度で
遊離ヘモグロビン濃度(F-Hb 濃度)を測定し、回
分類されるため、その評価が難しい。ELSO ガイ
路交換の指標となりえた症例を経験したので報告
ドラインの溶血の項目では血漿中遊離ヘモグロビ
する。
ン濃度は 10mg/dl 未満、50mg/dl を超える場合に
【症例】
は原因を調べるとある。今回、F-Hb 濃度をベッド
生後 59 日、女児。身長 48cm、体重 2.0kg。
サイドで測定、溶血の程度を数値化し、経時的変
総動脈幹遺残症に対し、人工心肺下に心内修復術
化を確認していくことで、回路交換の指標の一つ
および弁形成術を行ったが、人工心肺からの離脱
として活用することが可能であった。また、F-Hb
困難なため、V-AECMO 導入となった。
濃度を測定し、溶血の程度の確認を行うことで溶
【ECMO 経過】
血の早期発見、遠心ポンプ不良などに対応できる
V-AECMO 導入直後から CRRT を開始。ECMO
可能性がある。さらにハプトグロビン製剤の早期
導入 7 日目に CRRT の廃液の赤色化を認めたため、
投与、使用量のなどのパラメーターとして活用で
溶血を疑い、以後 24 時間毎に F-Hb 濃度の測定を
きるのはないかと考えられた。
行 っ た 。 導 入 7 日 目 の 測 定 に て F-Hb 濃 度
【結語】
ECMO 施行中の F-Hb濃度測定が回路交換の
220mg/dl、AST 値 294U/L、LDH 値 1936U/L、
指標となり得た 1 小児症例を経験した。
I-Bil 値 4.3mg/dl となったために遠心ポンプのみ
交 換 を 施 行 。 交 換 後 の F-Hb 濃 度 40mg/dl 、
AST150U/L、LDH 値 707U/L、I-Bil 値 2.3mg/dl
となった。
37
O-Ⅲ-5
V-A ECMO 施行中に人工肺からの血液リークにより回路交換を 2 回要した 1 例
奈良県総合医療センター
臨床工学技術部
○松田翔希、中村充輝、亀井理生、西口賢治、藤本義造
【原因】
【はじめに】
体外循環中における人工肺のインシデント・ア
人工肺外観に損傷はなかったが,メーカーによ
クシデントは年間約 37000 件 JaSECT に報告され
る 検 証 の 結 果 23psi ≒ 1190mmHg に 加 圧
ている.今回,当センターで V-A ECMO 施行中に使
後,3L/min で 10 分間ポンプを回転させた際,人工
用している膜型人工肺(人工肺)Medtronic 社製
肺ハウジング部よりリークが認められた.原因と
カメーダアフィニティ NT より短時間で血液リー
して,人工肺のフィルターのハウジングと熱交換
クを 2 件経験し、回路交換にいたった症例につい
器のハウジングの接着剤の収縮による隙間の発生,
て報告する.
機械的・科学的ストレスによるハウジングのひび
【経過】
割れの 2 点が示唆された.
急性心筋梗塞疑い 72 歳男性に対し原因精査目
【対策】
人工肺製造工程で接着剤の収縮対策,接着部シ
的で緊急心臓カテーテル検査を実施した.CAG 中
に Vf となり V-A ECMO 導入となった.導入後数分
ステム厚化の是正措置を行うこととなった.
で人工肺より血液リークを認めたがリーク量が少
【まとめ】
量であり CAG を止めて回路交換を行うよりも
今回の事例は製造工程での人工肺の不良が原因
CAG 終了後、回路交換を行うのが手技的に安全で
であった.しかし回路交換のタイミングなど臨床
あると判断されたため,CAG 後に回路交換を行っ
工学技士が報告,提案する内容は治療の中断や続
た.その後 PCI へ移行し治療を行っていたが PCI
行に大きく関わるものである。そのため医師、看
中に再度血液リークを認めた.しかし PCI 中に手
護師を含めた他職種と連携を強め、安全に治療が
技を止め回路交換を行うことで手技が煩雑になる
施 行 で き る よ う に し な け れ ば な ら な い 。 V-A
ため,同回路での治療続行よりも回路交換を行う
ECMO 管理中の臨床工学技士が果たす役割の重
のが危険であると判断した.そのため PCI 中は同
要性を再確認する事例となった.
回路で継続して管理し PCI 終了後に ECMO 回路
の交換を行った.再交換後,患者は ICU 入室となり,
その後人工肺からの血液リークは無く翌日患者は
V-A ECMO 離脱となった.今回使用した ECMO 回
路の LOT はそれぞれ違っており、LOT による回
路不良は認めなかった.
38
39
40
[一般演題Ⅳ:安全・研究]
O-Ⅳ-1
DO2 の観点から見た当院の体外循環管理の現状
神戸市立医療センター
中央市民病院
臨床工学技術部
○大畑達哉、吉田一貴、畑秀治、中根亮
中村将大、濱本優樹、坂地一朗
に関しては、体外循環従事年数が長くなるにつ
【はじめに】
近年の DO2 に着目した体外循環中至適灌流量
れて、変動域が大きい傾向にあった。
【考察】
の考え方から、当院における体外循環管理中の
DO2 と Hb の間では弱い相関(R2=0.291)であ
DO2 およびその他のパラメータを振り返り、統
計学的検討を行った。
り、体外循環従事年数長いほど Hb も高い傾向で
【方法】
あったが、それは低充填回路の使用による血液
2015 年 4 月 1 日から 2016 年 3 月 31 日までの
希釈軽減が寄与しているのではないかと考えら
1 年間で施行した人工心肺症例のうち、大血管症
れる。DO2 と P.I の間では強い相関(R2=0.698)
例(循環停止および選択的脳灌流を行った症例)
を認めており、P.I を上げることで DO2 は容易に
を除外した 142 例で検討。各症例において体外
高く維持できると考えられるが、施設により高
循環中 30 分毎に測定した血液ガス分析結果 839
流量での管理が好まれないこともある。従事年
点の SaO2[%]、PaO2[mmHg]、Hb[g/dl]とその
数が短い担当者では P.I の変動域が小さい傾向に
時の P.I[l/min/m2]から DO2[ml/min/m2]を算出。
あった理由としては、当院では P.I=2.5[l/min/m2]
DO2 計 算 式 は DO2=P.I × 10 × ( 1.36 × Hb ×
を total flow の指標としており、意図して変動さ
SaO2/100+0.0031×PaO2)とした。まず、全症
せなかったのではないかと考えられる。
例での DO2 とその値に関与するパラメータで回
【結語】
帰分析を行い、次に各症例の人工心肺担当者 A
体外循環管理中の DO2 は大きく変動するもの
(体外循環従事 11 年)、B(9 年)、C(4 年)、D
であり、それを決定する要因の強さは施設によ
(2 年)に群分け後、DO2 および関連するパラメ
り異なると思われる。今回の結果から、管理目
ータについて多重比較検定を用いて統計学的評
標値を決定する要因はなかったが、当院におけ
価を行った。
る傾向を把握することができた。
【結果】
症例数は A 群:45 例(n=246)、B 群:43 例(n=282)、
C 群:37 例(n=224)、D 群:17 例(n=87)。各群にお
ける患者基本データに有意差は認めなかった。
全症例間で行った回帰分析の結果から、DO2 に
関与する要因の強さは PaO2<Hb<P.I であった。
群間比較では、Hb の検討において、体外循環従
事年数が長いほど Hb 値が高い傾向にあった。P.I
41
O-Ⅳ-2
心筋保護ポートと吸引血液流入ポート間に設置した回路の有用性について
熊本大学医学部附属病院
ME 機器センター
○芦村浩一、米澤昭一、吉富晃子、小原大輔
【脳分離体外循環】
当院では人工肺出口部にある心筋保護ポートと
静脈貯血槽上部の吸引血液流入ポート間に、新た
大動脈弁置換後、予期せぬ上行大動脈人工血管
な回路(人工肺とリザーバを接続した回路、以下
置換術にて脳分離体外循環が必要となった際は、
OR 回路と略す)を取り付け有用であったので紹
中段の回路に脳分離体外循環回路を接続し、クラ
介する(図1)。
ンプを解除することで脳分離体外循環にスムーズ
に移行できる。
【脳分離体外循環管理】
ローラーポンプ+ローラーポンプの分離送血時
に、上段のクランプを開放し、その返血具合でメ
インポンプの流量がサブポンプの流量以上に送ら
れていることを目視で確認することにより、人工
肺から空気を引き込む危険性を減らす事ができる。
【まとめ】
1/4 インチのチューブに側枝を2本付けた簡単
な回路ではあるが、その利便性にて、当院では欠
くことのできない回路となっている。
図1
【ブラッドカルディオプレジア】
OR 回路下段のクランプは開放したまま、上段
と中段のクランプを閉じることで、心筋保護液に
血液を加えることができるばかりか、大動脈遮断
解除後は心筋保護ポート近くをチューブ鉗子で閉
鎖し上段のクランプを開放することで、心筋保護
回路内の血液を全て静脈貯血槽内に回収する事が
でき、血液のロスを最小限にすることができる。
42
O-Ⅳ-3
新規人工心肺システムの導入とモニタリングシステムについて
紀南病院
臨床工学部
○土井照雄、大上卓也、山田秀人
当院の改良重ねた独自のコンパクトな人工心肺
内であっても GDP では 250ml/min/㎡と低く、Ht
システムも 15 年を経て新システムへの更新を行
が 22%の症例に血球製剤を追加したことを経験
うことになった。採用となったのはソーリン(現
した。経験はまだ浅いし少ない症例数であるが代
リヴァ・ノバ)社製の人工心肺装置 S5 である。そ
謝が上昇する復温の際に GDP 概念は重要だと認
の決め手はモニタリングシステムであった。自動
識している。また DO2 を適切に維持することで高
記録システムである Connect に付属している
乳酸血症を予防できるとの報告もあり、今後体外
GDP(Goal Directed Perfusion)モニタについて
循環に役立てたいモニタリングである。当院では
最近注目を集めており、当院でも非常に興味があ
現地点において連続モニタリングはできないので
った。今回、当院の新規システムの各種レイアウ
採血を頻回に行う必要があること、採血データの
トの工夫及び導入から数例であるが GDP 使用経
手入力作業が必要であるなどの欠点はある。当院
験の報告をしたい。
の特色として開心術でも手術室抜管をしているた
め、GDP と手術室抜管との因果関係等も症例を重
GDP は患者個々の代謝需要に見合った酸素運
搬を供給するという Marco Ranucci らが提唱して
ねて検討していきたい。
いる体外循環管理である。GDP によって AKI 発
生率が低下し、ICU 滞在期間及び入院日数が優位
に短くなるという利点がある。当院の体外循環は
目標灌流指数 2.0-2.4L/min/㎡であるが、GDP に
おいては Ht も考慮した酸素運搬量(DO2)を維
持 す る た め の 管 理 と な る 。 DO2 の 目 標 値 は
270ml/min/㎡である。当院では実際に灌流圧が
60-80 ㎜ Hg、SvO2が 80 以上、灌流指数が範囲
43
O-Ⅳ-4
心臓血管外科領域における MASIMO 社製 Radical7 の運用
兵庫県立姫路循環器病センター ME 管理室
○梅井克行、土井一記、久世大輔
橋本健太郎、藤定滉二
【考察】
【はじめに】
末梢循環評価における PI と rSO2 の変動には相
MASIMO 社製 Radical7 は動脈血酸素飽和度
(SpO2)、灌流指標(PI)、脈波変動指標(PVI)
関が認められ PI は送血管による循環障害のモニ
が非侵襲で測定できるマルチパラメータモニター
ターとして使用できることが示唆された。また、
である。当院では末梢動脈病変患者の手術後の治
rSO2 の場合、送血管による血管閉塞が起きたとし
療評価として PI を測定しているが、
今回 Radical7
ても徐々に低下を示すためその瞬間に循環障害を
を用いて人工心肺の送血管を大腿動脈に挿入した
判断するのは難しいが、PI では指尖の拍動性信号
際の末梢循環を評価できるか検討したので報告す
と無拍動性信号の比で脈波の大きさを表している
る。
ので血流障害が発生した時点で低値を示し、手技
【対象と方法】
が進行する前に下肢虚血への対策を提案できると
考えられた。しかし、定常流の状態では PI での評
2015 年 9 月から 2016 年 7 月までに人工心肺の
送血管を大腿動脈に挿入した 21 例を対象に PI を
価は不可能であり使用条件は限定される。
測定。評価方法は COVIDIEN 社製 INVOS5100C
【結語】
MASIMO 社製 Radical7 を用いた末梢循環の評
を用い下腿の rSO2 を測定し PI と比較した。rSO2
は baseline より 40%以上低下したもの、PI は 1.0
価は有用であった。
以下に低下したものを下肢灌流低下ありとして相
関を調べた。統計学的検定には Fisher の正確確率
検定を用い p<0.05 で有意差ありとした。
【結果】
21 症例中 PI と rSO2 の両方で灌流低下ありと
なったものは 6 例(29%)、両方で灌流低下なしと
なったものは 11 例(52%)であり、PI と rSO2
には有意な相関が認められた(p=0.0158)。また、
両測定値で灌流低下ありと判断するまでの時間は
rSO2:20[10-57]分、PI:<1.0 分であった。
44
O-Ⅳ-5
動脈フィルター内蔵人工肺の回路圧による気泡除去能の検討
山口大学医学部附属病院
ME 機器管理センター
○冨貞公貴、平賀健一、山本由美子
常友宏樹、福田翔太、松山法道
【考察】
【はじめに】
回路圧が上昇すれば、血液層とガス層の圧較差
多くの膜型人工肺は、血液に気泡が混入しても、
中空糸からガス層に気泡を排気するため、気泡除
が増大するため気泡のガス層への移動が容易にな
去能を有すると報告がある。今回、テルモ社製の
り計測された気泡の容量が減少したと考えられる。
人工肺 RX-25、FX-15 を用いて、回路圧と人工肺
さらに RX-25 に比べ FX-15 は気泡容量が少ないこ
からの気泡除去能の関係について水系実験にて検
とからスクリーンメッシュフィルターにより気泡
討を行ったので報告する。
除去能が増大したと考えられる。また流量と気泡
【方法】
除去能については、高流量では気泡が中空糸に接
人工肺、遠心ポンプ、貯血槽を接続し、30℃に
触する時間が短くなるため人工肺出口で計測され
加温した 40%グリセリン溶液を循環させた。流量
る気泡の個数が低流量に比べ増加したと考えられ
計を用いて、1.0L/min に調節し、送血回路をオク
る。
ルーダーにて閉塞させ、0mmHg、100mmHg、
【結語】
200mmHg、300mmHg の陽圧を発生させた。こ
回路圧が上昇するほど気泡除去能は向上し、
の条件下で人工肺入口側から 5mL の気泡を注入
RX-25 に比べ、FX-15 の方が排出される気泡容量
したときの人工肺出口での気泡の個数、容量をバ
は少ないことが確認された。
ブルカウンターBCC200 で 30 秒間計測した。流
量 2.0L/min、3.0L/min、4.0L/min、5.0L/min の
場合についても計測を行った。これらの検討を
RX-25、FX-15 にてそれぞれ行った。
【結果】
X-25、FX-15 ともに高流量になるほど、人工肺
出口で計測される気泡の個数は増加した。検出し
た気泡個数は FX-15 の方が多かったが、気泡容量
は FX-15 の方が少なかった。また回路圧が上昇す
るほど人工肺出口の気泡の容量は減少した。
45
O-Ⅳ-6
補助循環装置に対する,検知型・安全機構作成への取組み
大阪ハイテクノロジー専門学校
臨床工学技士科
○西地礼、玉置真也、羽田直人、松井秀之
山本寛之、吉井浩人、西岡紘也、山岡翼
【実験結果】
【はじめに】
PCPS は簡易な血液回路・原理であるが、危険
(1)異音検知器:作成した回路にて,録音・
検知機構は少なく、使用時は常に操作者が安全の
周波数解析を可能としている.現在,PCPS の遠
確認を行なっている。本研究では,上記背景のも
心ポンプから正常音,および擬似的な異常音を録
と、PCPS の機能性・安全性を向上する目的で,
音し,分析を行ない,特徴的な変化分別を行なっ
(1)遠心ポンプ異音検知、
(2)回路内圧測定に
ている.
専用コネクタや圧測定ラインを追加することなく、
(2)灌流圧測定回路:超音波を用いた,伝播
チューブ外部より接触するだけで測定可能なセン
時間の測定回路を試作し,チューブ硬さによる伝
サの作成という2種の検知型・安全機構の追加を
播時間の変化を観測することが出来た.
提案し,試作を行なった.
【まとめ】
補助循環の一つである,PCPS の安全機構の追
【システム原理】
(1)異音検知器:コンデンサマイクを用いて
加を目標として,駆動音の異音検知器および回路
PCPS から正常音と異常音を録音する.録音した
内圧を測定する非侵襲型還流圧測定回路の作成,
音の周波数解析を行い,正常音と異音の判定を行
評価を行なうことを目標に活動に取り組んでいる.
なう.
現在測定回路の試作を終え評価実験を行なってい
(2)還流圧測定回路:音波の伝播速度の式 を
る.上記システムは,現存する PCPS に検知型の
利用する。回路内圧によるチューブの変形(硬さ
センサとして組み込むことができるため,原理と
の変化)により伝播速度が変化すると期待できる.
して確立できれば,汎用性の高いシステムとして
チューブに超音波を照射し,その伝播時間を測定
期待できる.
する.その時間の変化を速度の変化として回路内
圧の変化を検知する.上記(1),
(2)はともに,
血液とは非接触型の外部接続型となっており,現
存する PCPS にも利用できる長所を持つ.
46
O-Ⅳ-7
人工心肺使用症例による L 型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)の測定経験
社会医療法人愛仁会明石医療センター
臨床工学科
○大城秀太、加納寛也、柴田康成、森島毅
【結果】
【はじめに】
腎機能の評価に用いる指標として血清クレア
A 群で L-FABP は 1 症例目では全てのポイン
チニン(Serum creatinine:Scr)が用いられて
トで陽性を示した。しかし、2 症例目では麻酔
きたが、急性腎障害(Acute kidney injury:AKI)
導入後では陰性を示し、CPB 離脱後以降で陽性
を早期に発見する事は困難である。しかし、近
を示した。Scr は 2 症例共に ICU 帰室後のみ低
年 AKI の早期評価として L 型脂肪酸結合蛋白
値であり、他のポイントでは 1.5mg/dl 以上で高
(L type fatty acid binding protein:L-FABP)
値を示した。B 群で L-FABP は 2 症例共に CPB
が注目されている。
離脱後、ICU 帰室後のポイントのみで陽性を示
【目的】
した。Scr は 2 症例共に、全てのポイントでは
人工心肺(Cardio-pulmonary bypass:CPB)
1.5mg/dl 未満で低値を示した。C 群では全ての
使用症例での AKI リスク評価に Scr と比較し、
ポ イ ン ト で L-FABP は 陰 性 を 示 し 、 Scr は
L-FABP 測定が有用であるか測定した。
1.5mg/dl 未満で低値を示した。
【症例】
【考察】
大血管症例を除外した CPB 使用開心術 4 症例
A 群では DUF 施行により、Scr が一時的に低
と、コントロールラインの CPB 未使用 1 症例を
下しているが、L-FABP は陽性を示し、L-FABP
対象とした。開心術症例 4 症例を術前
は DUF の影響を受けないと考える。B 群では
Scr1.5mg/dl 以上の腎機能低下群(A 群)を 2
Scr の変動は無く、L-FABP は分類Ⅰと陽性を
症例で測定した。術前 Scr1.5mg/dl 未満の腎機
示した。これは、人工心肺使用が原因とされる
能正常群(B 群)を 2 症例で測定した。1 症例
腎障害を避けることが出来なかったと考える。
で CPB 未使用の Thoracic endovascular aortic
【結論】
repair(TEVAR)はコントロールライン(C 群)
人工心肺を使用した心臓手術における
とした。A 群に Dilutional ultrafiltration
(DUF)
L-FABP 測定をした。人工心肺使用症例での
を施行した。
AKI リスク早期評価に L-FABP は有用であると
【方法】
思われる。
L-FABP の判定基準は測定濃度を分類別で分
け 0(<12.5:陰性)、Ⅰ(≧12.5)
、Ⅱ(≧100)
、
Ⅲ(≧400)とした。分類Ⅰ以上で AKI 予備群
とした。測定ポイントは①麻酔導入後、②CPB
離脱後、③ICU 帰室後、④POD1 の 4 ポイント
で L-FABP を測定した。Scr は①、③、④の 3
ポイントで測定した。
47
48
XII.JaSECT 人工心肺実技セミナーのご案内
大会開催 2 日目の 2 月 12 日に、洲本市文化体育館会議室 1A-2(第二会場)において、
JaSECT 人工心肺実技セミナー(実技セミナー)を開催いたします。この実技セミナーは、人工心
肺の基本操作とトラブルシューティングの実技を主とした 90 分のプログラムで、JaSECT 会員のみ
が受講できます。
2011 年からは体外循環技術認定士の受験に必要な「受講修了書」発行には座学 36 単位(3 ク
ール)の他に実技セミナーの 1 単位が必要です。
今大会の実技セミナー事前受付は終了しております。
◆ 開催日時: 平成 29 年 2 月 12 日(日曜日)
◆ 開催時間: 第 1 回・・・10:10~11:40
第 2 回・・・13:00~14:30
参加者は開催時間の 15 分前に集合して下さい)
実技セミナーは講習時間およそ 90 分となります。
◆ 定 員 : 各回 5 名
◆ 参加費 : 1,000 円(テキスト代として)
当日、実技セミナー会場にてお支払い下さい。
当日、参加者は動きやすい服装にてご参加下さい。
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②CPB cannulation
送血管、脱血管、アンテ・レトロ CP、ベントなどのカニュレーションを実際に
体験し、体外循環への理解を増す。
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③AVR(大動脈弁置換術)執刀
・用意された人工弁を使用して大動脈弁置換を行う。
・弁尖の切除、サイズ計測、人工弁の縫着位置(イントラアニュラー、スプラアニュ
ラー)の決定、縫着を体験することで弁置換への理解を増す。
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杉本 貴樹 (すぎもと たかき)
昭和32年4月21日 生(洲本市)
昭和58年6月
神戸大学医学部卒業、第二外科入局
昭和61年4月
平成 2年3月
平成 2年4月
神戸大学大学院(第二外科)入学
同卒業(医学博士)
姫路循環器病センター心臓血管外科医長
平成 6年6月
平成10年10月
平成12年5月
平成22年4月
神戸大学第二外科助手
神戸大学第二外科講師
兵庫県立淡路病院外科部長
同 心臓血管外科部長
平成25年4月
兵庫県立淡路医療センター 副院長、 現在に至る
所属学会・役職
Asian Society for Cardiovascular and Thoracic Surgery (Active Member)
日本外科学会
日本胸部外科学会
日本心臓血管外科学会
日本血管外科学会(評議員)
日本循環器学会
日本冠動脈外科学会(評議員)
日本静脈学会(評議員)
日本脈管学会(評議員)
資格
日本外科学会専門医・指導医、
日本胸部外科学会指導医
心臓血管外科専門医、
日本循環器学会専門医、脈管専門医
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