日本企業の CO2 排出量の状況と 企業パフォーマンスとの

環境・社会・ガバナンス
2017 年 2 月 8 日
全 11 頁
日本企業の CO2 排出量の状況と
企業パフォーマンスとの関係(後編③)
~業種によって異なるが、同一業種内でも CO2 排出量の状況がリター
ンに関係している可能性を示唆~
経済環境調査部 主任研究員 伊藤 正晴
[要約]

同一業種に属する企業を対象とした場合に、2014 年度の売上高当たり CO2 排出量の水準
や排出量の増減と株式リターンとの間に何らかの関係があるかを調べたところ、次の結
果を得た。なお、分析対象の業種は、分析に必要なデータを取得できた企業が 30 社以
上存在する 6 つの業種である。

電気機器、化学、機械では検証したすべての保有期間において排出量の水準が高い企業
で構成したポートフォリオよりも水準が低い企業のポートフォリオのリターンが高か
った。

また、食料品と輸送用機器は比較的中・長期の保有期間で排出量の水準が低い企業のリ
ターンが高く、建設業は比較的保有期間が短いケースで排出量の水準が低い企業のリタ
ーンが高かった。

排出量の前年度増減率では、機械と食料品はすべての保有期間で排出量が増加した企業
よりも減少した企業のリターンが高い。電気機器、化学、輸送用機器では、保有期間が
2.5 年間以上で排出量が減少した企業のリターンが高い。建設業は保有期間が 5.5 年間
と 2.5 年間のみ減少した企業のリターンが高かった。

売上高当たり CO2 排出量は環境効率性を表す指標の 1 つとされている。本稿の分析は因
果関係を示したものではないが、上記の結果は、電気機器、化学、機械、食料品は環境
効率性が高い企業や、環境効率性が向上した企業のリターンが高いという傾向が見受け
られ、環境効率性とリターンとの間に何らかの関係がある可能性がうかがえよう。
株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
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2 / 11
1.はじめに
2015 年 12 月、パリで開催された COP21(国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議)におい
て、気候変動対策に関する国際的枠組みである「パリ協定」が採択され、2016 年 11 月 4 日に発
効した。日本も、2016 年 11 月 8 日にパリ協定の締結に必要な議案が国会で可決・承認され、同
日に国連事務総長宛に受諾書を寄託、12 月 8 日に日本についての効力が発生した。日本は、COP21
に向けて温室効果ガス削減目標を「2030 年度に 2013 年度比-26.0%(2005 年度比-25.4%)
」
とする約束草案(
「日本の約束草案」2015 年 7 月 17 日)を提出しており、温室効果ガスの排出
削減や気候変動問題への対応が大きな課題となる。
ESG 投資は、企業を評価する際に財務情報だけでなく、非財務情報である ESG 情報も考慮する
ことで中・長期的な運用パフォーマンスを向上させようとする投資とされ、企業における温室
効果ガスの排出量やその動向は環境(E)要因として注目されよう。そこで、大和総研では経済
産業省の Web サイト「環境報告書プラザ」から温室効果ガスの排出量のデータを取得し、CO2
排出量と企業パフォーマンスとの関係についての分析を進め、「日本企業の CO2 排出量の状況と
企業パフォーマンスとの関係」と題した複数のレポートでその結果を紹介している。
前編 1では、データが取得できた上場企業全体を対象として、売上高当たり CO2 排出量と企業
パフォーマンスとの関係を分析したところ、排出量と企業パフォーマンスとに何らかの関係が
あるという結果を得ている。この結果には、各ポートフォリオの業種構成が異なっていること
の影響が考えられるため、後編①2では企業パフォーマンスを業種要因と企業要因に分解したと
ころ、排出量と企業パフォーマンスの関係には企業要因の影響が大きいことがわかった。
後編②3では、分析に必要なデータを取得できた企業が 30 社以上存在する電気機器、化学、機
械、食料品、建設業、輸送用機器の 6 業種について、同一業種内の企業を対象に売上高当たり
CO2 排出量の状況と ROA や ROE に何らかの関係があるのかを分析した。売上高当たり CO2 排出量
は環境効率性を表す指標の 1 つとされるが、食料品は環境効率性が高い企業や、環境効率性が
向上した企業の ROA と ROE が高いという関係が見られた。また、電気機器や輸送用機器も、あ
る程度は環境効率性と財務パフォーマンスが関係していそうである。そして、機械は環境効率
性の変化のみが財務パフォーマンスに関係していることや、建設は環境効率性と ROA のみが関
係している可能性を示唆する結果となっている。化学は、環境効率性と財務パフォーマンスに
特定の関係は見られない。このように、環境効率性と財務パフォーマンスとの間に何らかの関
係が存在していることを示唆する結果が得られた業種があった。
本稿では後編②で分析した 6 業種について、同じ業種に属する企業で売上高当たり CO2 排出量
の状況と株式リターン(以下、リターン)との間に何らかの関係があるのか、排出量とリター
1
伊藤正晴「日本企業の CO2 排出量の状況と企業パフォーマンスとの関係(前編)
」
(2016 年 9 月 6 日付大和総研
レポート)
2
伊藤正晴「日本企業の CO2 排出量の状況と企業パフォーマンスとの関係(後編①)
」
(2016 年 12 月 16 日付大和
総研レポート)
3
伊藤正晴「日本企業の CO2 排出量の状況と企業パフォーマンスとの関係(後編②)
」
(2016 年 12 月 19 日付大和
総研レポート)
3 / 11
ンには業種を問わず同様の関係が見られるのかを検討する 4。
2.分析について
リターンとの関係を分析する指標は、これまでの分析と同様に、2014 年度の売上高当たり CO2
排出量と、2013 年度に対する 2014 年度の売上高当たり CO2 排出量増減率の 2 つとした。同一業
種に属する企業を対象に、これらの指標で企業をグループ分けし、各グループを構成する企業
で構成したポートフォリオのリターンを比較している。
売上高当たり CO2 排出量を指標とする分析では、対象となる企業を売上高当たり CO2 排出量の
水準で 2 つのグループに分け、それぞれ「水準小」、
「水準大」としている。また、より詳細に
分析するために対象企業を売上高当たり CO2 排出量の水準で 4 つのグループに分け、排出量の水
準が小さい方から「第一分位」
、
「第二分位」、「第三分位」、「第四分位」としている。
2013 年度比での 2014 年度の売上高当たり CO2 排出量の増減率を指標とする分析では、まず対
象となる企業の売上高当たり CO2 排出量が減少した企業と増加した企業でグループ分けし、それ
ぞれ「減少」
、
「増加」とした。また、より詳細に分析するために売上高当たり CO2 排出量が減少
した企業を対象として減少率の水準で二分し、
「減少率大」、
「減少率小」としている。売上高当
たり CO2 排出量が増加した企業も同様に増加率で二分し、「増加率小」、「増加率大」とし、増減
率の水準で 4 つのグループを作成した。
各グループのリターンについては、そのグループを構成する企業の平均的なリターン水準を
見るために、投資開始時点でグループ内の企業に等金額投資を行い、そのまま 2016 年 6 月末ま
で保有した時の年率リターンを算出している。また、保有期間によるリターン動向の違いを見
るために、2011 年初から 5.5 年間、2012 年初から 4.5 年間、2013 年初から 3.5 年間、2014 年
初から 2.5 年間、2015 年初から 1.5 年間、2016 年初から 0.5 年間の 6 通りの保有期間を設
定している。
3.各業種の分析結果
(1)電気機器
電気機器に属する企業について売上高当たり CO2 排出量の水準とリターンとの関係を見ると、
保有期間のすべてで水準大よりも水準小の企業のリターンが高い(図表 1)
。両者のリターンは
保有期間が 5.5 年間でも大きな差があるが、保有期間が 2.5 年間以下において両者のリターン
に差が生じていることが目立つ。最近、売上高当たり CO2 排出量とリターンとの関係が強まって
いることを示唆する可能性があろう。排出量の水準による四分位でのリターンについては、保
4
本稿の分析では、2016 年 6 月に大和総研データバンク課が経済産業省「環境報告書プラザ」ホームページか
ら取得し、整備したデータを用いている。
4 / 11
有期間が 3.5 年間以上では第一分位のリターンが最も高く、他の分位のリターンにはそれほど
大きな差はないようである。また、2.5 年間以下では水準小のリターンが高いのは、1.5 年間以
下で第二分位のリターンが他のグループよりも相対的に高いことが影響しているようで、排出
量の水準が低いほどリターンが高いという関係は見られないようである。
図表1.売上高当たり CO2 排出量と各保有期間の年率リターン
電気機器
水準小
水準大
第一分位
第二分位
第三分位
第四分位
社数
( 社)
40
40
20
20
20
20
5 .5 年間
9.7
3.6
12.5
6.6
3.8
3.5
4 .5 年間
16.4
13.6
19.8
12.5
13.1
14.1
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
17.6
4.2
16.2
-0.3
21.5
5.2
13.3
3.1
14.0
0.5
18.3
-1.2
1 .5 年間 0 .5 年間
-7.9
-30.6
-16.9
-37.4
-11.6
-35.7
-4.4
-25.3
-16.3
-31.3
-17.4
-43.2
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率で作成したグループについては、保有期間が 2.5 年
間以上では排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高く、排出量の増減と中・
長期的なリターンとの間に何らかの関係が存在する可能性があろう(図表 2)
。4 つのグループ
に分けた場合は、3.5 年間以上では減少率大のリターンが他のグループよりも高く、これが排出
量の減少グループのリターンが高いことに寄与しているようである。また、すべての保有期間
で増加率大のリターンが他のグループよりも低く、排出量の増減については大幅な減少や増加
という情報がリターンと関係していることを示唆する可能性があろう。
図表2.売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率と各保有期間の年率リターン
電気機器
減少
増加
減少率大
減少率小
増加率小
増加率大
社数
( 社)
53
27
27
26
14
13
5 .5 年間
7.7
5.3
9.9
5.1
7.5
2.5
4 .5 年間
15.9
13.3
18.3
13.1
14.7
11.6
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
17.6
2.4
15.5
1.1
20.4
4.4
14.6
0.3
19.6
7.7
10.6
-6.8
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
1 .5 年間 0 .5 年間
-13.4
-34.3
-10.4
-33.4
-12.0
-30.2
-14.8
-38.5
-4.4
-23.9
-17.1
-43.0
5 / 11
(2)化学
化学に属する企業について売上高当たり CO2 排出量の水準とリターンとの関係を見ると、保有
期間のすべてで水準大よりも水準小の企業のリターンが高い(図表 3)
。また、両者のリターン
は保有期間が 1.5 年間や 0.5 年間で大きな差が生じており、電気機器と同様に、最近、売上高
当たり CO2 排出量とリターンとの関係が強まっていることを示唆する可能性があろう。排出量の
水準による四分位でのリターンについては、すべての保有期間で排出量の水準が最も小さい第
一分位のリターンが最も高い。また、保有期間によるのだが、排出量の水準が小さい企業ほど
リターンが高いという傾向が見受けられ、売上高当たり CO2 排出量の水準とリターンとの間に何
らかの関係が存在する可能性を示唆するのではないか。
図表3.売上高当たり CO2 排出量と各保有期間の年率リターン
化学
水準小
水準大
第一分位
第二分位
第三分位
第四分位
社数
( 社)
38
37
19
19
19
18
5 .5 年間
14.1
6.7
17.1
10.6
7.9
5.3
4 .5 年間
19.2
13.2
22.4
15.6
14.1
12.3
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
21.2
10.9
16.2
6.5
24.6
13.6
17.6
8.0
15.9
6.9
16.4
6.0
1 .5 年間 0 .5 年間
6.2
-18.1
-6.2
-35.4
8.1
-15.8
4.2
-20.3
-7.4
-32.9
-5.1
-38.0
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率で作成したグループについては、保有期間が 2.5 年
間以上では排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高いが、両者の差はそれほ
ど大きくはないようである。また、1.5 年間以下の保有期間では減少よりも増加した企業のリタ
ーンが高い(図表 4)
。4 つのグループに分けた場合は、保有期間にもよるが減少率大と増加率
大のリターンが他のグループよりも高いことが多いようである。
図表4.売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率と各保有期間の年率リターン
化学
減少
増加
減少率大
減少率小
増加率小
増加率大
社数
( 社)
58
17
29
29
9
8
5 .5 年間
11.1
9.5
13.5
8.4
6.3
12.6
4 .5 年間
16.8
15.1
19.5
13.8
10.9
19.2
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
18.9
9.0
18.4
7.7
22.1
13.5
15.6
4.2
14.0
2.9
22.8
12.8
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
1 .5 年間 0 .5 年間
-0.7
-27.6
3.1
-24.4
4.8
-21.3
-6.4
-33.7
-1.4
-14.0
8.0
-35.3
6 / 11
(3)機械
機械に属する企業について売上高当たり CO2 排出量の水準とリターンとの関係を見ると、すべ
ての保有期間で排出量の水準が大きい企業よりも小さい企業のリターンが高く、その差も他の
業種よりも大きいようである。また、保有期間が 2.5 年間以下では水準大のリターンはマイナ
スとなっているのに対し、水準小のリターンはプラスであること、1.5 年間以下ではリターンの
差が 40%前後の水準になっているなど、特に保有期間が短いケースで水準小と水準大のリター
ンの様相が異なっているようである(図表 5)
。排出量の水準による四分位でのリターンについ
ては、すべての保有期間で第二分位のリターンが高く、これが水準小と水準大のリターンの差
に影響しているようである。
図表5.売上高当たり CO2 排出量と各保有期間の年率リターン
機械
水準小
水準大
第一分位
第二分位
第三分位
第四分位
社数
( 社)
21
21
11
10
11
10
5 .5 年間
16.1
4.8
14.1
18.2
5.3
4.2
4 .5 年間
25.7
10.2
22.2
29.3
11.2
9.0
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
28.5
12.7
8.9
-6.4
19.9
3.5
36.5
21.7
9.9
-9.1
7.9
-3.6
1 .5 年間 0 .5 年間
20.6
7.0
-15.7
-39.0
2.2
-19.2
39.3
40.0
-20.8
-44.0
-10.2
-33.2
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率で作成したグループについては、すべての保有期間
で排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高い(図表 6)
。また、保有期間が 0.5
年間を除くと両者のリターンの差は大きく、いずれも 10%台の水準となっている。4 つのグル
ープに分けた場合は、すべての保有期間で減少率小のリターンが最も高く、これが排出量の減
少した企業グループのリターンが高いことに寄与しているようである。ただし、売上高当たり
CO2 排出量が減少した企業は 32 社であるのに対し、増加した企業は 9 社しかないため、排出量
が増加した企業のリターンには個別企業の影響が大きい可能性があろう。
図表6.売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率と各保有期間の年率リターン
機械
減少
増加
減少率大
減少率小
増加率小
増加率大
社数
( 社)
32
9
16
16
5
4
5 .5 年間
13.3
2.9
12.7
13.8
1.8
4.1
4 .5 年間
21.6
8.9
19.5
23.5
7.8
10.3
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
23.5
7.0
5.9
-6.9
16.6
-0.5
29.5
13.9
6.9
-3.9
4.5
-10.9
1 .5 年間 0 .5 年間
7.3
-16.3
-9.1
-18.8
-5.7
-29.9
19.4
-1.6
-10.0
-31.1
-7.9
-2.1
(注)2013 年度の売上高当たり CO2 排出量を取得できなかった企業があるため、図表 5 と対象社数が異なる。
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
7 / 11
(4)食料品
食料品に属する企業について売上高当たり CO2 排出量の水準とリターンとの関係を見ると、
2.5 年間以上の保有期間では排出量の水準が大きい企業よりも小さい企業のリターンが高いが、
1.5 年間と 0.5 年間では排出量の水準が大きい企業の方のリターンが高い(図表 7)
。排出量の
水準による四分位でのリターンについては、保有期間にもよるが第二分位のリターンが他のグ
ループよりも高いことが多く、また、第四分位も保有期間が短いケースでのリターンが高いな
ど、排出量の水準とリターンとの間には明確な関係は見られないようである。
図表7.売上高当たり CO2 排出量と各保有期間の年率リターン
食料品
水準小
水準大
第一分位
第二分位
第三分位
第四分位
社数
( 社)
18
18
9
9
9
9
5 .5 年間
20.2
16.1
19.3
21.0
14.6
17.4
4 .5 年間
25.1
20.2
21.9
28.1
18.3
21.9
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
28.3
24.7
22.4
21.8
21.5
16.2
34.3
32.3
18.4
13.1
26.1
29.6
1 .5 年間 0 .5 年間
21.3
3.9
23.2
10.9
16.0
6.6
26.5
1.2
13.4
1.4
32.7
20.9
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率で作成したグループについては、すべての保有期間
で排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高く、特に保有期間が短いほど両者
のリターンの差が大きいようである(図表 8)
。4 つのグループに分けた場合は、排出量の減少
率小のリターンが他のグループよりも高く、これが排出量の増加したグループよりも減少した
グループのリターンが高いことに影響しているようである。また、排出量が増加した企業につ
いては、0.5 年間を除くすべての保有期間で増加率大よりも増加率小のリターンが高い。ただし、
売上高当たり CO2 排出量が減少した企業は 28 社であるのに対し、増加した企業は 8 社しかない
ため、排出量が増加した企業のリターンには個別企業の影響が大きい可能性があろう。
図表8.売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率と各保有期間の年率リターン
食料品
減少
増加
減少率大
減少率小
増加率小
増加率大
社数
( 社)
28
8
14
14
4
4
5 .5 年間
19.9
11.2
19.7
20.1
13.8
8.4
4 .5 年間
24.6
15.1
23.8
25.5
17.3
12.8
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
27.6
25.7
17.0
14.1
25.8
23.5
29.3
27.7
20.2
14.7
13.6
13.6
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
1 .5 年間 0 .5 年間
26.7
12.5
6.3
-9.6
21.3
6.7
31.9
18.4
11.1
-11.5
1.4
-7.6
8 / 11
(5)建設業
建設業に属する企業について売上高当たり CO2 排出量の水準とリターンとの関係を見ると、保
有期間が 2.5 年間以下では排出量の水準が大きい企業よりも小さい企業のリターンが高いので
あるが、保有期間が 3.5 年間以上では水準大の企業のリターンが高く、保有期間によって反対
の結果となった(図表 9)
。排出量の水準による四分位でのリターンについては、常に特定のグ
ループのリターンが高いなどの傾向は見られず、売上高当たり CO2 排出量の水準とリターンとの
間に共通する特徴はないようである。
図表9.売上高当たり CO2 排出量と各保有期間の年率リターン
建設業
水準小
水準大
第一分位
第二分位
第三分位
第四分位
社数
( 社)
18
18
9
9
9
9
5 .5 年間
18.1
20.7
20.1
15.9
18.2
22.9
4 .5 年間
19.9
23.4
21.4
18.3
22.6
24.1
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
15.9
8.8
21.8
8.6
18.4
13.5
13.2
3.7
24.0
11.6
19.5
5.5
1 .5 年間 0 .5 年間
1.7
-21.1
-0.1
-25.1
2.3
-18.7
1.0
-23.3
3.1
-38.2
-3.3
-10.6
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率で作成したグループについては、保有期間によって
排出量が減少した企業よりも増加した企業のリターンが高いことや、逆に減少した企業のリタ
ーンが高いことがあるなど、特定の関係は見られないようである(図表 10)
。また、保有期間に
もよるが、他の業種に比べると排出量が減少した企業と増加した企業のリターンの差が小さい
ようで、排出量の水準とリターンとの間には特に何らかの関係は見られないようである。4 つの
グループに分けた場合は、0.5 年間を除いて減少率大のリターンが他のグループよりも高く、売
上高当たり CO2 排出量の削減が大きいという情報がリターンと関係していることを示唆する可
能性があろう。
図表 10.売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率と各保有期間の年率リターン
建設業
減少
増加
減少率大
減少率小
増加率小
増加率大
社数
( 社)
24
10
12
12
5
5
5 .5 年間
19.7
18.1
25.1
12.9
15.2
20.8
4 .5 年間
21.2
22.0
26.9
14.3
18.0
25.6
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
18.3
7.7
18.7
7.4
24.0
16.0
11.9
-1.6
16.6
10.0
20.8
4.7
1 .5 年間 0 .5 年間
-0.4
-26.3
1.7
-21.8
6.2
-15.4
-7.2
-36.5
3.1
-29.6
0.4
-13.6
(注)2013 年度の売上高当たり CO2 排出量を取得できなかった企業があるため、図表 9 と対象社数が異なる。
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
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(6)輸送用機器
輸送用機器に属する企業について売上高当たり CO2 排出量の水準とリターンとの関係を見る
と、保有期間が 5.5 年間と 4.5 年間では排出量の水準が大きい企業よりも小さい企業のリター
ンが高いが、3.5 年間以下では水準大のリターンの方が高いようである(図表 11)
。ただ、5.5
年間と 4.5 年間の両者のリターンの差は他の保有期間での差よりも大きく、中・長期的には排
出量の水準が小さい企業のリターンが高いという関係を示唆する可能性があろう。排出量の水
準による四分位でのリターンについては、保有期間にもよるが第一分位のリターンが他のグル
ープよりも高いことが多く、排出量の水準が小さいという情報がリターンと関係している可能
性が示唆される。
図表 11.売上高当たり CO2 排出量と各保有期間の年率リターン
輸送用機器
水準小
水準大
第一分位
第二分位
第三分位
第四分位
社数
( 社)
17
16
9
8
8
8
5 .5 年間
11.8
4.6
16.6
4.9
4.0
5.1
4 .5 年間
17.7
11.8
23.1
10.2
13.2
10.3
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
9.7
-8.8
9.7
-4.5
15.2
-4.6
2.4
-13.9
11.0
-3.8
8.4
-5.3
1 .5 年間 0 .5 年間
-18.8
-47.9
-16.2
-47.4
-13.2
-39.8
-25.3
-56.2
-17.1
-48.6
-15.4
-46.2
、東洋経済新報社等より大和総研作成
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率で作成したグループについては、保有期間が 2.5 年
間以上では排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高い(図表 12)
。特に、保有
期間が 5.5 年間や 4.5 年間については他の保有期間よりも両者のリターンの差が大きく、中・
長期的には排出量の減少がリターンと関係している可能性が示唆されよう。4 つのグループに分
けた場合は、5.5 年間や 4.5 年間では減少率大のリターンが最も高いが、保有期間を通じて一定
の関係は見られないようである。ただ、増加率大については 0.5 年間を除くすべての保有期間
で他のグループよりもリターンが低く、排出量の大幅な増加という情報がリターンと関係して
いることを示唆する可能性があろう。ただし、売上高当たり CO2 排出量が減少した企業は 27 社
であるのに対し、増加した企業は 6 社しかないため、排出量が増加した企業のリターンには個
別企業の影響が大きい可能性があろう。
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図表 12.売上高当たり CO2 排出量の前年度比増減率と各保有期間の年率リターン
輸送用機器
減少
増加
減少率大
減少率小
増加率小
増加率大
社数
( 社)
27
6
14
13
3
3
5 .5 年間
9.5
3.9
9.7
9.2
7.9
-1.0
4 .5 年間
16.3
7.8
18.8
13.4
10.6
4.8
年率リターン( %)
3 .5 年間 2 .5 年間
9.9
-6.2
8.8
-8.9
12.8
-3.8
6.5
-8.9
13.1
-3.0
3.9
-15.5
1 .5 年間 0 .5 年間
-17.7
-48.9
-16.6
-41.8
-18.5
-51.7
-16.9
-45.7
-11.8
-43.5
-21.5
-40.0
(出所)経済産業省「環境報告書プラザ」
、東洋経済新報社等より大和総研作成
4.終わりに
分析に必要なデータを取得できた企業が 30 社以上存在する電気機器、化学、機械、食料品、
建設業、輸送用機器の 6 つの業種のそれぞれについて、その業種に属する企業を売上高当たり
CO2 排出量の水準で 2 つのグループに分け、各グループのリターンを比較したところ、電気機器、
化学、機械ではすべての保有期間において排出量の水準が高い企業で構成したポートフォリオ
よりも水準が低い企業のポートフォリオのリターンが高かった。また、食料品は保有期間が 2.5
年間以上で排出量の水準が低い企業のリターンが高く、輸送用機器は保有期間が 4.5 年間以上
で排出量の水準が低い企業のリターンが高い。逆に、建設業は保有期間が 2.5 年間以下の比較
的保有期間が短いケースで排出量の水準が低い企業のリターンが高かった。
売上高当たり CO2 排出量の水準で 4 つのグループを作成した場合は、化学は排出量の水準が低
いほどリターンが高いという傾向が見受けられた。また、電気機器と輸送用機器は排出量の水
準が最も低いグループのリターンが高いという傾向が見受けられたが、他の業種については排
出量の水準とリターンとの関係に明確な関係は存在していないようであった。
次に、売上高当たり CO2 排出量の前年度増減率で 2 つのグループを作成した場合は、機械はす
べての保有期間で排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高く、特に 1.5 年間
以上の比較的中・長期の保有期間で両者のリターンの差が大きい。また、食料品も保有期間の
すべてで排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高いのだが、機械とは逆に保
有期間が 3.5 年間以下でリターンの差が大きい。電気機器、化学、輸送用機器では、保有期間
が 2.5 年間以上で排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高い。建設業は保有
期間が 5.5 年間と 2.5 年間のみ排出量が増加した企業よりも減少した企業のリターンが高かっ
た。
売上高当たり CO2 排出量が減少した企業と増加した企業のそれぞれを 2 つに分けることで、4
つのグループを作成した場合は、業種によって排出量の増減率とリターンとの関係が大きく異
なっている。電気機器は減少率大の企業のリターンが高く、増加率大のリターンが低いという
傾向が見受けられる。建設業も減少率大のリターンが高いという傾向が見受けられるのだが、
保有期間が 3.5 年間以上では増加率大のリターンも高い。また、他の業種でも保有期間によっ
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ては減少率大よりも小のリターンが高いことや、増加率大のリターンが高いなど、業種によっ
て様相が異なっている。
売上高当たり CO2 排出量は環境効率性を表す指標の 1 つとされている。上記の結果は、電気機
器、化学、機械、食料品は環境効率性が高い企業や、環境効率性が向上した企業のリターンが
高いという傾向が見受けられ、環境効率性とリターンとの間に何らかの関係がある可能性がう
かがえよう。また、建設業は比較的短期の保有期間では環境効率性とリターンとの間に何らか
の関係があること、輸送用機器は環境効率性の向上とリターンとの間に何らかの関係があるこ
とを示唆する可能性があろう。
本稿の分析対象はデータを取得できた企業のみであり、企業数が最大の電気機器でも対象は
80 社となっている。そして、売上高当たり CO2 排出量が減少した企業は 53 社であるのに対し、
増加した企業は 27 社で、増加した企業を 2 つに分けると 13 社と 14 社しか対象企業がない。ま
た、輸送用機器では分析対象が 33 社で、そのうち売上高当たり CO2 排出量が増加した企業は 6
社のみとなっている。このように、本稿の分析結果は対象となる社数が少ないケースがあり、
個別企業の影響が大きい可能性があること、環境効率性と企業パフォーマンスとの因果関係を
示すものではないこと、すべての業種に共通する結果が得られたわけではないことなどの課題
がある。このような課題はあるが、分析対象とした業種には環境効率性が高い企業や環境効率
性を高めた企業のリターンが高いという傾向が見受けられる業種も多かった。
本稿の分析では、ESG の E(環境)関連データとして比較的入手が容易な売上高当たり CO2 排
出量を用いたが、データが入手できたのは 550 社弱にとどまっている。また、実際に地球温暖
化対策という観点で企業を評価するには、企業が地球温暖化対策についてどのように考え、企
業経営の中に取り入れているかなどの定性的な情報を踏まえ、例えば KPI として温室効果ガス
の排出量などの定量的なデータを用いるなど、多面的な評価が必要となろう。今後、情報開示
のさらなる充実で分析対象企業が増えることや分析の深化と蓄積を進めることで環境効率性と
企業パフォーマンスとの関係への理解を深め、ESG 投資の拡大につながるとともに、地球温暖化
などの課題への対応と企業価値向上や経済成長との両立の一助となることが期待される。