平成28年(2016年)熊本地震で発生した山地災害

平成28年(2016年)熊本地震で
発生した山地災害
国立研究開発法人森林総合研究所 九州支所
山地防災研究グループ 黒川潮
Forestry and Forest Products Research Institute
はじめに
• 熊 本 地 震 に お い て は 、 4/14 に M6.5 ( 前 震 ) 、 4/16 に
M7.3(本震)と2回の大きな地震が発生し、益城町(2
回)および西原村で震度7を観測した。
• 地震の直接的な被害により死者50人、重軽傷者2,346
人、住家の被害166,588棟が発生した(8/30現在)。
• 森林総合研究所は4/14の地震発生以降、被害発生状
況の確認と今後の緊急対策について技術的な立場か
ら支援を行うため、林野庁、九州森林管理局、熊本県
と連携して、林地の被害状況に関する実態調査を行っ
た。
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熊本地震における森林・林業・木材生産関係の被害状況
区分
被害額
被害箇所 熊本 大分 福岡 佐賀 長崎 宮崎
(億円)
林地被害
347.8
433
398
25
治山施設
26.6
36
31
5
林道関係
12.9
1,686
121
12
木材加工施設等
8.0
29
24
1
(注)林道関係の各県別内訳は路線数
1
1
1
3
5
3
19
1
(農林水産省まとめ)
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被害額の合計は395.4億円
ヘリコプターによる上空からの調査(4/15~)
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前震後のヘリコプターによる上空からの調査(4/15 14:30-16:30)
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上空からの調査結果
前震直後の調査においては、山地に特別な変化は見られなかった
くじゅう連山(大分県)
阿蘇外輪山
九州北部豪雨
崩壊地
2012年7月九州北部豪雨による崩壊地
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阿蘇外輪山
本震後のヘリコプターによる上空からの調査(4/18 12:10-16:50)
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本震後に、山地では様々なタイプの崩壊現象が発生していた
緩斜面における地すべり性の崩壊
京大火山研究所
阿蘇東急
ゴルフクラブ
俵山
阿蘇東急ゴルフクラブ
京大火山研究所
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俵山
大規模な深層崩壊
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南阿蘇村
立野地区
火山斜面の表層崩壊
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烏帽子岳
天然林・人工林地の表層崩壊
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北向山
土石流の発生
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山王谷川
火山斜面の岩盤崩落
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(大分県・由布岳)
現地踏査による被害状況の調査(4/19~)
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主要な現地調査地
火の鳥温泉
新所
内早川
北向山
山田
狩尾
宇ノ山
立野
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湯浦
かぶと岩
阿蘇地域の土地利用の特徴である、尾根付近の草地から崩壊発生
崩壊および岩石の移動範囲:斜面長550×幅100m、崩壊深3m程度
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阿蘇市
狩尾地区
・下部のスギ林が岩石の
移動を抑止
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・急勾配の斜面に立地する
薄い土壌層の下に存在し
ていた岩盤が崩落
薄い土壌層の下に存在していた軽石層が崩壊し、流動化した
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内早川地区
(御竈山)
崩壊土砂を捕捉しつつも、一部の治山施設は破壊していた
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崩壊地の上部の森林内では、多数の亀裂を確認
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火の鳥温泉
梅雨前線活動に伴う大雨による山腹崩壊の拡大
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梅雨前線による大雨 -平成28(2016)年 6 月 19 日~6 月 30 日-
(気象庁資料より)
南阿蘇村阿蘇山:1053.5mm
阿蘇市阿蘇乙姫: 943.5mm
総降水量
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6月下旬、熊本地震によって
大きな被害を受けた
阿蘇地域に大雨が降った。
地震によりダメージを受けた斜面が大雨により拡大崩壊
大雨によって沢筋に水が集まり、斜面の下部から崩壊
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夜峰山
(6月30日撮影)
多数の亀裂の発生を確認
雨水が地下に浸透しやすくなり、崩壊拡大の要因
豪雨により崩壊する危険性のある場所が多数存在している
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航空レーザー測量による、山地に発生した亀裂の分布
まとめ
• 4/14のM6.5の地震(前震)発生直後に行った調査では、大規
模な山腹の崩壊は確認できなかった。
• 4/16のM7.3の地震(本震)によって、様々なタイプの山腹崩壊
が発生した。
• 山腹崩壊は尾根部分の草原から発生している例が多く見られ、
斜面下部に存在している森林が崩壊した岩石の移動を抑止して
いた。
• 森林内には上空から確認できない多数の亀裂が発生している。
• 6月の豪雨により、地震時に亀裂の入った斜面が崩壊しており、
今後も斜面崩壊の危険性がある。
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今後の研究に向けて
• 亀裂の挙動を確認するためのモニタリング
• 亀裂が入った山地斜面における崩壊危険度の評価
• 地震時における森林の崩壊防止機能の評価
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