嫌われる勇気 - 日本アドラー心理学会

株式会社フジテレビジョン
『嫌われる勇気』製作責任者御机下
非 営 利 社 団 法 人 日 本 ア ド ラ ー 心 理 学 会 ( 以 下 、「 本 学 会 」 と 称 し ま す ) は 、 国 際
ア ド ラ ー 心 理 学 会 連 合 International Association of Individual Psychology の 連 携 機 関 と し
て、アルフレッド・アドラーの心理学の研究と啓発を目的として設置された組織で
す。約1千名ほどの会員を擁し、研究集会の開催、研究誌の発刊などを行なってお
ります。
さ て 、貴 社 が 製 作 ・ 放 映 し て お ら れ ま す ド ラ マ『 嫌 わ れ る 勇 気 』の 内 容 に つ い て 、
きわめて重大な問題があると認識いたしまして、善処をお願いいたしたく本書状を
さしあげます。これに先だって、図書『嫌われる勇気』の著者、岸見一郎氏にご事
情を伺った上で、貴社に本状をお送りすることをお伝えしております。
貴番組のアドラー心理学理解は日本及び世界のアドラー心理学における一般的な
理解とはかなり異なっているように思えます。そのような一般的でない見解を、テ
レビのような公共的な場で、あたかもそれがアドラー心理学そのものであるかのよ
うに普及宣伝されるのは、日本のアドラー心理学の啓発・普及に対して大きな妨げ
になると考え、本学会としては困惑しております。
簡 単 に 問 題 点 を 指 摘 さ せ て い た だ き ま す と 、 そ も そ も 「 勇 気 」 と は 、「 勇 気 と は
共 同 体 感 覚 の ひ と つ の 側 面 で あ る 」( ア ド ラ ー ) と 言 わ れ て お り ま す よ う に 、「 共
同 体 感 覚 」 と 関 係 し て 理 解 さ れ て お り ま す 。「 共 同 体 感 覚 」 と は 「 共 同 体 感 覚 は 、
人々が相互に理解し合い、一致に到達し、意見や信念を分かちあうことを可能にす
る も の で あ る 」( ヘ レ ー ネ ・ パ パ ー ネ ク ) と 言 わ れ る よ う に 、 他 者 と 共 同 し 協 力 し
て 生 活 す る 能 力 の こ と を 意 味 し ま す 。し か る に 、ド ラ マ『 嫌 わ れ る 勇 気 』の 中 で は 、
たとえば「私はただ、感じたことを口にしているだけ」と言っている主人公を「ナ
チ ュ ラ ル ボ ー ン ア ド ラ ー 」 と し て い る な ど 、「 相 互 理 解 の た め の 努 力 」 や 「 一 致 に
到達する努力」や「意見や信念を分かちあうための努力」の側面を放棄しているよ
うに見受けられます。
専門家の意見も聞きたいと考え、本学会所属のアドラー心理学指導者野田俊作氏
に 相 談 し た と こ ろ 、「 た し か に 岸 見 氏 が お っ し ゃ る よ う に 、 他 者 の 評 価 で も っ て 自
分 の 価 値 を 判 断 す る 必 要 は な い け れ ど 、 そ う い う こ と に と ら わ れ ず に 、『 他 者 の 幸
福のため』に自分がすべきことをするというのが、アドラーの教えだと理解してい
ます。ですから、自分の行為の結果が他者にどういう影響を与えるかについて、い
つ も 配 慮 を し な け れ ば な ら な い と 思 い ま す 。ド ラ マ の 中 の 考 え 方 に は『 他 者 の 利 害 』
という見方が完全に欠落している気がします。それではアドラー心理学とは言えま
せん」というコメントをいただきました。
放映の中止か、あるいは脚本の大幅な見直しをお願いしたいと思っております。
早急にご検討いただき、善処いただければさいわいです。
平成二十九年二月三日
非営利社団法人日本アドラー心理学会
会長
中井亜由美