厳しさを増す地方銀行の経営環境(1)

なるほど金融
地方銀行が抱える問題とは?
2017 年 1 月 30 日
第3回
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厳しさを増す地方銀行の経営環境(1)
①超低金利の長期化、②資金需要の伸び悩み
金融調査部 研究員 菅谷幸一
第 3 回では、地方銀行を取り巻く経営環境の変化として、
「超低金利の長期化」と「資金
需要の伸び悩み」について、説明します。
はじめに
第 2 回では、地方銀行の最終利益(当期純利益)が堅調に増加している一方、貸出業務をは
じめとした本業の収益力が低下していることを説明しました。今回は、貸出業務の収益力低下
の背景にある経営環境の変化として、①金融緩和政策の影響による超低金利の長期化、②企業
や家計の資金需要の伸び悩みについて、解説します。
①金融緩和政策の影響による超低金利の長期化
国内では、1990 年代初頭のバブル経済崩壊後、日本経済が低迷を続ける中、金利低下が趨勢
的に続いてきました(図表 1 参照)
。これは、日本経済の不況・デフレからの脱却等を目的に、
日本銀行が金融緩和政策の展開を続けてきたことが背景にあります。
2013 年 4 月には、
「異次元」と冠されるほどのかつてない規模の金融緩和政策(「異次元金融
緩和」
)が導入され、金利低下を一段と押し進めました。特に 2016 年 1 月のマイナス金利政策
の導入決定後には、国債金利(10 年物国債を含む)がマイナスとなり過去最低を更新しました。
最近では、2016 年 9 月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」1の導入により金利水準はや
や上昇しましたが、依然として「超低金利」の状態が継続しています。
こうした日本銀行の金融緩和政策による金利低下の影響を受けて、地方銀行を含む国内銀行
の貸出金利も低下傾向を強めています。特に地方銀行においては、地域金融機関同士の競争激
化等が相俟って、都市銀行よりも貸出金利の低下幅が大きくなる傾向が見られます。
国内銀行にとって、金融緩和による金利低下の影響は、貸出金利だけでなく預金金利の引き
下げにもつながり、調達コストの削減に寄与する面があります。しかし、特に近年では、貸出
1
10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するように国債買入れを実施するなどの方針が決定されました。
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地方銀行が抱える問題とは? 第 3 回
金利は預金金利よりも概ね早いペースで低下してきたため、預貸金利鞘(=貸出金利-預金金
利)の縮小が続いています。これは、預金金利は貸出金利に比べて引き下げ余地が小さいこと
や、借手の恩恵になる貸出金利の引き下げよりも預金者の負担になる預金金利の引き下げの方
が実施しにくいことなどが要因に挙げられます。
国債金利
普通預金金利
貸出金利
定期預金金利(1年)
(%)
1.5
貸出金利
定期預金金利(1年)
国債金利
普通預金金利
1.2
0.9
マイナス金利政策
導入決定
(2016年1月)
0.6
0.3
異次元金融緩和
導入決定
(2013年4月)
0.0
-0.3
1989
1990
1992
1993
1995
1996
1998
1999
2001
2002
2004
2005
2007
2008
2010
2011
2013
2014
2016
(%)
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
-1
国債金利と国内銀行の貸出金利(左図:長期推移、右図:2012 年末以降推移)
長短金利操作付き量的・質的金融緩和
導入決定(2016年9月)
(年/月)
2012/12
2013/2
2013/4
2013/6
2013/8
2013/10
2013/12
2014/2
2014/4
2014/6
2014/8
2014/10
2014/12
2015/2
2015/4
2015/6
2015/8
2015/10
2015/12
2016/2
2016/4
2016/6
2016/8
2016/10
2016/12
図表 1
(暦年)
(注 1)国債金利は、10 年物国債金利(月次ベース)
(注 2)貸出金利は、国内銀行の貸出約定平均金利(ストック・長期)
(月次ベース)
(注 3)定期預金金利(1 年)は、預入金額 3 百万円以上 1 千万円未満(月次ベース)
(出所)日本相互証券株式会社「主要レート推移」
、日本銀行「貸出約定平均金利」
「預金種類別店頭表示金利の
平均年利率等」
「定期預金の預入期間別平均金利」より大和総研作成
②企業や家計の資金需要の伸び悩み
近年における地方銀行の貸出の特徴として、①貸出金残高が増加しているものの、②貸出金
利の低下がそれを上回り、③結果的にトータルの貸出金利息が減少(貸出業務の収益力が低下)
している、という点が挙げられます。このうち、①貸出金残高が増加している、という点に着
目すると、資金(借入)需要の増加を表しているように見受けられます。
日本銀行による金融緩和政策の目的の一つは、金利の引き下げにより、資金需要を喚起する
というものです。金利低下は、借手の立場からすると、支払利息の減少を意味します。よって、
他の条件を考慮しなければ、金利低下の効果として資金需要の高まりが期待されます。近年の
貸出金残高の増加は、こうした効果も手伝っている可能性が考えられるでしょう。
ただし、貸出金利低下の効果により貸出金残高が増加しているとしても、上述の通り、金利
低下による利息減少分をカバーできていない状況が続いています。採算という観点からすれば、
銀行にとって、資金需要の増加は未だ十分な水準に達していないと言えるでしょう。
企業・家計向けの貸出金残高を長期時系列で見ても、資金需要が停滞気味であることが確認
できます(図表 2 参照)
。企業・家計向けの貸出金残高は、1990 年代半ばまたは同年代後半にピ
2
地方銀行が抱える問題とは? 第 3 回
ーク水準をつけていますが、2000 年代以降、企業向けはピーク時よりも低い水準で、家計向け
は同程度の水準で、それぞれ概ね横ばい推移している状況です。総じて見ると、ここ何年かの
企業・家計の資金需要は、決して高い水準にないと言えるでしょう。
図表 2
企業・家計向け貸出金残高の長期推移
家計・企業向け計
(年度)
民間企業向け
2015
2013
2011
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
(兆円)
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
家計向け
(注)銀行およびその他の金融機関・主体による貸出金残高の合計
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
さらに、銀行の資金源である預金の動きと比較すると、貸出金が伸び悩んでいる様子がうか
がえます。この状況を示したものが図表 3・4 の「預貸ギャップ」および「預貸率」です 2。こ
れらは、資金需要の強さを表す指標としてそれぞれ用いられています。具体的には、預貸ギャ
ップが小さいほど、または、預貸率が高いほど、資金需要の強いことを示します。
現在までの状況を確認すると、傾向的な預貸ギャップの拡大・預貸率の低下が見られ、資金
需要が伸び悩んでいる様子が読み取れます。第 4 回にて詳述しますが、このような預金超過が
続く状況は、預貸金利鞘の縮小にも寄与していると考えられ、銀行の収益力低下の要因となっ
ていることが考えられます。
2
「預貸ギャップ」は、預金から貸出金を差し引いた差額のことです。また、「預貸率」は、預金を分母、貸出
金を分子として算出した比率です。
3
(兆円)
300
250
700
200
600
150
100
50
0
-50
0
預金残高(右軸)
預貸ギャップ
(年/月)
図表 3
1998/4
1999/4
2000/4
2001/4
2002/4
2003/4
2004/4
2005/4
2006/4
2007/4
2008/4
2009/4
2010/4
2011/4
2012/4
2013/4
2014/4
2015/4
2016/4
1998/4
1999/4
2000/4
2001/4
2002/4
2003/4
2004/4
2005/4
2006/4
2007/4
2008/4
2009/4
2010/4
2011/4
2012/4
2013/4
2014/4
2015/4
2016/4
(年/月)
地方銀行が抱える問題とは? 第 3 回
預貸ギャップ
図表 4 預貸率
(兆円)
800 110%
100%
500
400
90%
300
80%
200
100
70%
60%
貸出金残高(右軸)
預貸率
(注 1)預貸ギャップ=預金-貸出金
(注 2)預貸率=貸出金÷預金
(注 3)国内店銀行勘定(一般勘定)
。月次ベース。末残。
(出所)日本銀行「預金・現金・貸出金」より大和総研作成
以上
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