No.9 - 世田谷区

別添6-2
女性の視点部会
提言書
(案)
平成 29 年 1 月
世田谷区防災会議
女性の視点部会
はじめに
本提言書は、世田谷区地域防災計画の平成29年修正に伴い、地域防災計画や区の
施策等に女性の視点を反映させるため、「世田谷区防災会議女性の視点部会」におけ
る審議の経過並びに結果について提言をまとめたものです。平成23年12月「防災
基本計画」の修正においても、防災への女性の参画と男女双方の視点を踏まえた防災
対策について具体的な記述が追記されるとともに、内閣府でも「男女共同参画の視点
からの防災・復興の取組指針」が通知されたところです。また、平成23年3月11
日東日本大震災、平成28年4月の熊本地震などの実災害における課題を踏まえ、区
でもより重点的に女性の視点に取り組んできました。
女性の視点部会では、(1)地域防災計画への女性の視点の反映(2)各種マニュ
アルへの反映(3)地域での具体的施策の実施(4)部会での議論を踏まえた提言書
作成を目標としてまいりました。この提言書により、これまで見過ごされていた災害
時における女性の視点について、区の施策等を強化するとともに、区民の皆様にも防
災における男女共同参画の重要性を認識していただき、災害時の被害軽減を図ってい
きたいと考えております。
平成29年1月31日
世田谷区防災会議女性の視点部会部会長
桜 井 陽 子
目次
1.女性の視点部会について .......................................................................................................... 1
(1) 背景 .................................................................................................................................. 1
(2) 部会の設置 ....................................................................................................................... 1
2.達成目標 .................................................................................................................................... 1
(1) 地域防災計画への男女共同参画等の視点の反映 ............................................................. 1
(2) 各種マニュアルへの反映 ................................................................................................. 1
(3) 地域での具体的施策の実施 .............................................................................................. 1
(4) 部会での議論を踏まえた提言書作成 ............................................................................... 1
3.検討の進め方............................................................................................................................. 2
4.主な検討項目............................................................................................................................. 4
(1) 予防対策 ........................................................................................................................... 4
(2) 応急対策 ........................................................................................................................... 4
(3) 復旧・復興 ....................................................................................................................... 4
5.重点項目 .................................................................................................................................... 5
(1) 平時における男女共同参画の取組の充実 ........................................................................ 5
①
男女共同参画の意識啓発、勉強会・訓練の充実 ........................................................5
②
女性リーダーの充実、女性の参画・意思決定の推進 .................................................6
③
多様な視点・多様な主体による防災の推進 ...............................................................7
④
地域の防災力向上、地域の特性に配慮した取組の推進 .............................................7
⑤
若い世代との連携........................................................................................................8
⑥
男女共同参画センターの位置付けの明確化、被災時の相談体制の構築....................9
(2) 避難者対策における男女共同参画の視点の強化 ........................................................... 10
①
女性の参画、女性のニーズへの配慮 ........................................................................10
②
女性の活動体制の充実 ..............................................................................................10
③
避難所における保育支援........................................................................................... 11
④
多様な主体の参画...................................................................................................... 11
⑤
要配慮者への配慮......................................................................................................12
⑥
在宅避難者の支援......................................................................................................13
⑦
救援物資のマッチング ..............................................................................................14
⑧
衛生・トイレ環境の整備...........................................................................................14
⑨
熊本地震における対応事例について(参考) ..........................................................15
(3) 生活再建支援における男女共同参画の視点の強化 ....................................................... 15
①
女性の経済的支援......................................................................................................15
②
相談体制の構築 .........................................................................................................16
③
復興時への備え .........................................................................................................16
6.具体的な取組み ....................................................................................................................... 18
(1) 地域防災計画への反映 ................................................................................................... 18
(2) マニュアルの整備 .......................................................................................................... 20
①
避難所運営マニュアル(平成 25 年 3 月)...............................................................20
②
震災時初動期職員行動マニュアル及び復興マニュアル ...........................................20
③
トイレ衛生マニュアル ..............................................................................................20
(3) 具体的事業の推進・実施 ............................................................................................... 21
①
主旨 ...........................................................................................................................21
②
基本的な考え方 .........................................................................................................21
③
施策内容(案) .........................................................................................................21
④
施策実施の推進体制 ..................................................................................................22
⑤
今後の検討スケジュール(イメージ) .....................................................................22
(4) 今後の男女共同参画の推進のために ............................................................................. 23
1.女性の視点部会について
(1)背景
東日本大震災等の実災害の教訓を踏まえ、男女共同参画の視点からの様々な防災・減災対
策の必要性が指摘されている。
国では、
「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」
(平成 25 年5月、内閣府男女
共同参画局)
、
「男女共同参画の視点からの復興~参考事例集(第9版)~」
(平成27年9月
末現在、復興庁男女共同参画班)がとりまとめられている。
しかしながら、人口の半分が女性であるにもかかわらず、これまでの防災対策において男
女共同参画の視点からの取組が進んでいなかった。
(2)部会の設置
世田谷区第二次男女共同参画プランとの整合を図りつつ、災害対応等に関して男女共同参
画の視点を検討して地域防災計画の修正に反映させるため、区民や学識経験者などの女性委
員による部会を設置した。
2.達成目標
(1)地域防災計画への男女共同参画等の視点の反映
(2)各種マニュアルへの反映
(3)地域での具体的施策の実施
(4)部会での議論を踏まえた提言書作成
1
3.検討の進め方
災害時及び平時における対策全般に男女共同参画等の視点を反映させるため、
(1)応急対策、
(2)復旧・復興、
(3)予防対策の各局面における取組について、世田谷区及び他自治体の現
状や被災地の事例等について情報共有するとともに、課題や今後の取組等について議論を行っ
た。
【部会員】
分類
役職
防災会議委員
部会長
桜井 陽子
防災会議委員
副部会長
光岡 明子
防災会議委員
部 会 委 員
部会委員
氏名
所属・役職
世田谷区立男女共同参画センター
らぷらす館長
特定非営利活動法人
せたがや福祉サポートセンター理事長
白倉 貴代子
世田谷区赤十字奉仕団委員長
※伊藤 敏子
早稲田大学地域社会と
学 識 経 験 者
部会委員
浅野 幸子
学 識 経 験 者
部会委員
吉田 穂波
部会委員
柴田 真希
部会委員
亰 百合子
目黒星美学園中学高等学校
部会委員
安孫子 淑子
世田谷消防団本団副分団長
関 係 団 体
( N P O )
関 係 団 体
(母子避難所)
関 係 団 体
( 消 防 団 )
防災会議委員
部会委員
庁内関係部署
部会委員
庁内関係部署
事務局
庁内関係部署
事務局
庁内関係部署
事務局
危機管理研究所招聘研究員
国立保健医療科学院
生涯健康研究部 母子保健担当 主任研究官
特定非営利活動法人
まちこらぼ 理事長
澤谷 昇
教諭
世田谷区 危機管理室長
※金澤 眞二
田中 文子
世田谷区 生活文化部長
※齋藤 洋子
山梨 勝哉
世田谷区 危機管理室 副参事
※有馬 秀人
世田谷区 災害対策課長
若林 一夫
世田谷区 人権・男女共同参画担当課長
※岩渕 博英
加藤 政信
玉川総合支所 地域振興課長
※平成27年度委員
2
【開催状況】
回数
日時
平成 27 年
第1回
10 月 30 日
15:00~17:00
平成 27 年
第2回
12 月 4 日
10:00~12:00
平成 28 年
第3回
1 月 22 日
10:00~12:00
場所
議題
(1)女性の視点部会の考え方
世田谷区民会館
(2)地域防災計画修正方針・国や区の方針計画等
集会室
(3)災害対策イメージの共有(平常時、地震発生時)
(4)応急対策についての意見交換
世田谷区役所
1B1会議室
(1)地域防災計画(素案)への反映について
(2)マニュアル等への反映について
(3)復旧・復興についての意見交換
(1)地域防災計画(素案)への反映について
世田谷区民会館
(2)マニュアル等への反映について
集会室
(3)予防対策(平常時)についての意見交換
(4)防災会議への報告について
(1)地域防災計画(素案)への反映について
平成 28 年
第4回
8 月 19 日
10:00~12:00
世田谷区役所
1B1会議室
(2)マニュアル等への反映について
(3)第1回~第3回の振り返り
(4)部会提言の取りまとめ
(5)防災会議への報告について
3
4.主な検討項目
(1)予防対策
【男女共同参画の視点】
・ 社会福祉協議会、ボランティア協会、町会・自治会、NPO 等と男女共同参画の視点の共
有
・ 女性の避難所運営委員に対する防災士資格取得支援や研修への参画推進
・ 男女共同参画センターの役割の明確化
・ 女性の就労・起業を支援する団体とのネットワークの構築
【多様性・地域の視点】
・ 要配慮者のためのスペース・物資の準備
・ 地域と多様な主体の連携体制の推進(NPO、学校等)
(2)応急対策
【男女共同参画の視点】
・ 男女共同参画の視点を取り入れた避難所運営(トイレ・備蓄物資・プライバシーなど)
・ 避難所運営体制及び意思決定への女性の参画(女性リーダー、女性防災士)
【多様性・地域の視点】
・ 在宅避難者への対応
・ 多様な被災者への配慮(性的マイノリティ(LGBT)等)
(3)復旧・復興
【男女共同参画の視点】
・ 女性、要配慮者など様々な立場の人のニーズや健康への影響等への配慮
・ 各種相談、就労支援等の生活再建支援策の実施
・ 男女共同参画センターや支援団体等による支援策の実施
【多様性・地域の視点】
・ 要配慮者や性的マイノリティ(LGBT)など多様性を踏まえた支援の充実
4
5.重点項目
(1)平時における男女共同参画の取組の充実
①
男女共同参画の意識啓発、勉強会・訓練の充実
≪現状≫
人口の半分は女性であり、男女は対等な立場であるにもかかわらず、防災に男女共同参
画の視点が乏しい。従来から、男女共同参画の視点は、平時の防災対策及び災害時対応に
おいて脆弱性の視点として考えられている事が多かった。それは、男性が女性を守らなけ
ればならないという視点であった。しかし、女性は、災害時に配慮する対象として、考慮
されていないという場合すらあり、男女共同参画の視点が議論から抜けている事が多かっ
たまた、男女の性別役割分担の考え方も依然として根強い。こうした傾向は、特に行政、
町会・自治会等の災害時の意思決定を行う立場に女性が少ないため、防災に男女共同参画
の視点が反映されにくい要因となっている。
≪課題≫
人口の半分は女性であるにも関わらず、これまでの防災には男女共同参画の視点が欠け
ていた。例えば避難生活においては、性別役割分業がより顕著になることで、女性の避難
者の負担が大きかった。また、平時にできていないことは災害時においてもできないため、
平時から男女共同参画の取組を強化していく必要がある。
具体的には、勉強会、訓練、研修、教育、実態把握等を通じた意識啓発が重要である。
意思決定主体の多くを占める男性の意識を変革していくとともに、子どもたちの教育や男
女協働の意識が高い若い世代の参画促進を図る必要がある。併せて、女性も自分たちに何
ができるかを示し、意見をきちんと伝えていくことが重要である。また、地域で防災に関
する活動を行っている町会・自治会、ボランティア、NPO、社会福祉協議会、消防団な
どにも、男女共同参画の視点を理解してもらうことも重要である。
≪対応すべき事項≫
防災のソフト面を充実させるために、研修や訓練などで人材を育成していく。
・
HUG(避難所運営ゲーム)や発災時初動訓練等を男女共同で行うことで、災害時
に起こることを具体的に想像できるようにする。
・
家族など身近な女性と一緒にシミュレーションゲームを行うなど、男女共同参画が
受け手にとって男女共同参画の視点の必要性が理解しやすい研修を行う。
・
防災訓練後は参加している女性や子どもなど意見を聞いたり、訓練終了後に話し合
いを設けたりするなど、効果を高める工夫を行う。
・
現在行われているジェンダー統計の整備状況を把握し、災害対応に有効な男女別の
統計の作成を心がけ、更なる現状把握とマニュアル等へ活用する。
なお、部会では、日本の男性の性別での役割分担の意識は、世代間で大幅に変化してい
るという意見もあった。また、グループ作業や組織体制において、一方の性だけより男女
両方の性がいた方が円滑な組織となった例も報告されている。災害時も、男女ともに良い
5
ところがあるという認識を持ち、対立関係ではなく、協働する関係を構築することが重要
である。
②
女性リーダーの充実、女性の参画・意思決定の推進
≪現状≫
防災に男女共同参画の視点が欠如しがちとなる原因の1つに、防災における意思決定を
行う立場に女性が少ないこと、女性のリーダーが少ないことが挙げられる。そのような状
況では、人口の半分が女性であるにも関わらず、女性のニーズは反映されにくい。
男性は、平日昼間に地域の外へ働きに出ている人が多く、防災を効果的に行うためには、
日頃地域を支える女性の参画が重要になる。例えば、消防団でも、15 年ほど前から「女性
を入れよう」と言われるようになってきている。現在では、区内消防団に女性団長も就任
しており、今後の女性参画の増加が期待される。
なお、区における女性リーダーの育成については、区内の駒留中学校で救護・衛生と給
食・物資の部門に女性のリーダーを置いて避難所運営訓練を行っている事例や、町会・自
治会から推薦してもらった女性が防災士資格取得をする事例が挙げられる。
≪課題≫
防災において、女性だからこそできるコーディネートや気が付くこともあり、女性なら
ではの強みがある。避難所運営において、女性が実務を取り仕切っていたり、消防団で交
通整理や被災者対応などソフト面での対応は女性が行ったりするなど、様々な分野で女性
が能力を発揮することができる。防災に男女共同参画の視点を反映させるためには、当事
者が参画することが重要であり、避難所運営委員会の委員等における女性割合を増加させ、
女性リーダーの育成や意思決定への参画の推進を行っていく必要がある。
なお、防災において、男性がリーダーになるというイメージが一般化され、女性も男性
に頼っている部分もあり、内閣府指針には自主的に発言をしたことがない女性が多いこと
が指摘されている。また、女性が多く参加する宮城県のリーダー育成会では防災における
男女共同参画の視点を強調すると男性よりもむしろ女性から反発された事例もあり、意識
の是正も併せて行う必要がある。
≪対応すべき事項≫
女性の意見が反映されるためには、男女共同参画に関する研修・勉強会等を増やしたり、
女性リーダーを増やしたり、具体的な意識啓発の取組が必要である。女性の参画割合の増
加については、具体的な数値を挙げて取り組むことで男女共同参画の視点が反映されやす
くなると考えられるが、一方で目標数値の出し方は難しく、工夫が必要である。
女性リーダーの育成について、海外では、住民の女性リーダーに対して専門家による衛
生対策の実務指導を行っている例もあるが、このような取組は住民だけでは実現しないた
め、住民側からも積極的に行政と連携していく必要がある。なお、区では、町会・自治会
推薦の女性防災士育成を進めているので、人数や地域の防災における役割や評価の実態把
握とニーズの調査を行い、今後の目標設定に反映していく。また、防災士取得には費用と
時間を要することから、1 日~2 日程度の女性リーダー短期育成プログラムについても検討
6
する。
行政においては、例えば災害対策本部は部長級で構成されており、男性のみの構成にな
りがちであることから、肩書にとらわれずに実務を把握する女性職員が一定の割合で入る
ような体制を構築するなどの工夫が必要である。また、区の防災関連の事業でも挨拶、司
会進行、運営を全て男性が担っており、責任ある立場は男性が行っていることが当たり前
となっている。挨拶や司会進行を含めてバランスよく男女を配置するなどの工夫が必要で
ある。
また、町会・自治会に女性が参画するためには、組織を開いた形にすることが重要であ
る。様々な団体が参加することで地域の防災力の向上を図り、様々な人の出入りを可能に
していく必要がある。
また、東日本大震災では、相談窓口や巡回診療のように、意見を吸い上げて対応してい
く方が避難者にとっては意見を言いやすかったという意見もあり、様々な手法で、女性の
参画を図る必要がある。
③
多様な視点・多様な主体による防災の推進
≪現状≫
世田谷区はパートナーシップ宣誓を掲げ、性的マイノリティ(LGBT)に対する先進的
な取組を行うなど、多様な視点の向上に取り組んでいる。一方、防災の分野においては避
難所組織にも男性が関わることが多く、男性が意思決定を持つことが多い。しかしながら、
平日昼間の地域には高齢者と女性、子どもが多いという実態があるため、多様な主体に防
災の分野に参画してもらうことが課題となっている。
≪課題≫
災害時の生活を具体的に想像するためには、当事者の参画が必要である。
特に、高齢者や障害者の世話をする当事者の意見を把握しなければ、防災対策は向上し
ない。高齢者や障害者などを実際に現場で支援している人たちが課題だと感じていること
を防災の取組に入れていく必要がある。
現状の防災活動をしているリーダーにもこうした現状を踏まえ、多様な視点を持つよう
啓発していくとともに、様々な人が意見を言える関係を構築することが重要である。
≪対応すべき事項≫
女性や男性、性的マイノリティ(LGBT)
、高齢者、妊産婦、乳幼児、障害児などに関係
する当事者が参画し、防災にそれぞれの視点を取り入れていくことを検討する。ワークシ
ョップ等を行い、支援が必要となる人を主に支えている人だけではなく、防災に関わる全
ての人が、多様な視点で考えていく必要がある。
また、女性、子どもも災害時に活動する事例もあるため、平時における防災訓練などの
段階から参加することを検討する。
④
地域の防災力向上、地域の特性に配慮した取組の推進
≪現状≫
7
平成26年度より世田谷区では、自助、共助における考え方や取組について、区民に対
する防災知識の普及啓発を行うため、
「地区防災計画」の策定を目指して防災塾を開催して
いる。防災塾は、
「発災後 72 時間は地区の力で乗り切る」をスローガンに 27 のまちづく
りセンターの地区単位で行われており、町会・自治会、民生・児童委員、PTA、社会福祉
協議会、NPO、ボランティア団体、小・中・高校、区内大学、事業所、日本赤十字奉仕団、
公募などによる区民等が参加している。
また、区では、避難所運営の向上のため、町会・自治会推薦を対象として、防災士取得
支援を行っている。
≪課題≫
防災塾は 27 のまちづくりセンター単位で行っているが、より小さな単位である避難所単
位での支え合い・助け合いについても検討が必要である。しかし、避難所単位では外部の
支援が入りにくくなることから、行政との連携について、並行して検討が重要である。
また、地域の人々の参画が広く必要であり、住民以外にも地域に関わる人々の参画や、
NPO 同士、NPO と町会・自治会の連携についても深めていく必要がある。
さらに、町会・自治会推薦の防災士が避難所運営に携わるために、研修などに取り組む
ことで実効性を高めることが重要である。
≪対応すべき事項≫
現在の防災塾のように、まちづくりセンター単位で地域と支援団体の人々が出会う場を
つくり、支援者が活動できる環境を整えた上で、より実効性のある単位で防災対策を検討
するなど、両輪で取り組んでいく必要がある。
また、ボランティアや NPO のネットワークを広げ、教育や医療関係者、地域で働いて
いる人にも訓練に参加してもらうなど、その地域に合った具体的な訓練の実施を検討する。
組織体制については、大災害には 72 時間後も被害が拡大する可能性があることから、
様々な住民の視点を取り入れるフラットな組織運営を心がける必要がある。
また、町会・自治会推薦による防災士に継続的に、研修などを継続していく必要がある。
避難所等ではなくても避災者が訪れる可能性が高い場所には、意見交換を行い、災害時
に困難なく対応できるようにあらかじめ検討しておく必要がある。
⑤
若い世代との連携
≪現状≫
東日本大震災の釜石地区においては、当初大人に働きかけてみてもなかなか動かなかっ
たことから、子どもに働きかけていった結果、大人への呼びかけもなされて津波からの避
難が成功している。小・中・高校生などの災害時の活用は、実災害により様々な事例が出
ている。
また、特に 20 代~40 代前半の男性には、家事に対する協同意識が高く、夫婦で一緒に
子育てに参加したり、料理・家事などを比較的当然にするものだと考えている人も多くな
っている。
8
≪課題≫
避難所運営訓練では中学生が活躍していることもあり、児童・生徒にも防災への参画を
促すことが重要である。子どもたちに防災を検討させると、最初は高齢者や障害者のこと
を考え、自分たちを被災者の対象として考えない傾向があるため、自らが被災するという
当事者の意識を持たせる必要がある。
子どもたちが高齢になって震災に遭う可能性もあるため、防災も教育と捉えて考えてい
く必要がある。
≪対応すべき事項≫
若い世代には、訓練に参加してもらうとともに、自ら訓練後に意見を発表することによ
って意識を高めてもらうことが効果的である。町会・自治会に入っていない若い世代にも
興味を持ってもらい、発災後に活躍を促していく必要がある。
また、防災塾を活用して、横のつながりの強化を検討する必要がある。防災塾には青少
年委員やPTAなどもいることから、避難所を中心とした広がりを持つことができ、地域
の防災力の向上につながる。
⑥
男女共同参画センターの位置付けの明確化、被災時の相談体制の構築
≪現状≫
災害時における男女共同参画センターの役割をどう位置づけておくかは、国でも非常に
大きな課題になっている。また、地方公共団体において、男女共同参画センターを地域防
災計画の中に位置づけていたり、位置づけの検討が始まっていたりするのは約40%であ
る。
なお、内閣府の「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」の中でも、
要配慮者に対応できるを相談窓口を設置することとされている。
≪課題≫
災害時は、女性が様々な不安や悩みを言い出しづらい状況となったり、女性に対する暴
力等が懸念されたり、国の計画においても男女共同参画センターや支援団体と連携を図っ
て相談窓口を設置することとされている。また、東日本大震災では、男女共同参画センタ
ーが自衛隊の駐屯地や支援物資倉庫となったり、男女共同参画センターの相談員なども物
資の仕分け作業員のように使われたりした。男女共同参画センターが充分に活用できなか
ったのは、男女共同参画センターの災害時の位置付けが明確に無かったためである。その
ため平時に蓄積してきた知見を災害時に生かす対策をとることが重要であり、平時より男
女共同参画センターの位置付けを議論しておく必要がある。
なお、健康診断という形での聞き取り調査などの方が様々な立場を把握できたという報
告もあることから、窓口として相談を受ける形式とともに、出向いていく形式の相談形態
を検討する必要がある。
≪対応すべき事項≫
男女共同参画センターの平時及び災害時における役割を明確化し、計画に記載していく。
9
NTT と覚書を交わし、フリーダイヤルで電話相談を受けられる取組や、全市的な女性支援
センターを置くことを地域防災計画に記載している地方公共団体もあり、これらの先進事
例も参考にする。
また、避難所運営マニュアルに避難所の立ち上げ時に相談窓口を設置すること、窓口に
おける多様な視点の相談体制や配置割合などをマニュアル等に記載する。
さらに、相談窓口や巡回診療、健康診断などの聞き取り形式の調査を行い、避難者が相
談しやすい体制にすることも検討する。
(2)避難者対策における男女共同参画の視点の強化
①
女性の参画、女性のニーズへの配慮
≪現状≫
人口の半分は女性であるにもかかわらず、避難所運営のリーダーのほとんどが男性であ
る。なお、東日本大震災では、避難所運営リーダーの9割以上が男性であったとの報告が
あるが、一方で避難所運営の実務を調整している女性も多い。
例えば、駒留中学校では、救護・衛生と給食・物資の部門に女性のリーダーを置いて避
難所運営訓練を行っている。救護・衛生については、トイレの使用の方法、授乳、子ども
やけが人への対応では男女双方の視点があることで、対応が向上できるため、男女両方を
リーダーまたは副リーダーにしている。
≪課題≫
避難所運営に男女共同参画の視点を反映させていくためには、当事者が参画することが
重要である。避難所運営委員会における女性の参画割合を増加させていく必要がある。避
難所生活においては、女性や子どもにとって防犯の面で危険なこともあるため、特に男女
共同参画の視点で配慮をすることが大切である。
また、女性の問題を男性に考えてもらうことも必要である。
≪対応すべき事項≫
避難所運営委員の女性の割合についての数値目標を検討するなど、積極的な女性の参画
を図る。
また、避難所で乳幼児用のミルクを作ることがいかに大変であるかなど、避難所でリー
ダーになる男性に男女共同参画の視点の課題を理解してもらうことが重要である。
②
女性の活動体制の充実
≪現状≫
災害時に勤務が必要となる子どもを抱える行政職員や医療従事者、衛生・福祉関係者、
教員等(以下「救援関係者」という。
)が被災した場合に、子どもを預かってくれる親や親
族、地域の知り合いがいないと救援活動を行うことができない。東日本大震災では、親族
や地域コミュニティーが一時的に子どもを預かっていたが、首都圏ではこの預かり機能が
乏しい。救援関係者が家族の安否も分からない状況では、救援態勢に不安を抱えながら従
事することが予想される。
10
≪課題≫
子どもを抱える女性に災害時に現場に出てもらうために、特に大都市では救援関係者た
ちの子どもを預かるなどの支援体制が必要である。
また、行政職員等の支援者やリーダーシップをとる女性には大きなプレッシャーがかか
るので、支援する人を支援する体制が必要である。
≪対応すべき事項≫
救援関係者の子どもを預かる体制を検討する。災害対策本部が立ち上がった段階で、庁
舎内に託児ルームを設けることになっている自治体などの事例も参考にする。
また、救援関係者について家族の安否確認方法や必要な情報の確保、持続的な従事が可
能な体制づくり、休憩室の確保、相談体制の確立などの支援体制を検討する。
③
避難所における保育支援
≪現状≫
東日本大震災の際、世田谷区では保育園の職員は地域の情報収集の役割を果たしていた
ため、園児の安否確認に追われた。このため、計画を見直して保育園に勤務する職員は保
育園に参集する人員配置とし、応急保育などに対応できる体制とし、今後、より具体化し
ていく必要がある。
東日本大震災では、避難所で住民が主体となった一時的な子どもの預け合いが行われた
り、NPO により避難所に子どもの遊び場であるプレーパークにおいて子どもを預かった事
例があった。
≪課題≫
応急期の後には、普段子どもを預けていない人たちの子どもを預ける需要が増加するこ
とが予想される。被災者が子どもを預かる仕組みがないために、家の片づけが出来ない、
行方不明の家族の捜索に行けないなど、活動が制限され、生活に困窮する被災者が生じる
可能性があり、子どもの預かりへの対応が必要である。
≪対応すべき事項≫
被災者の子どもを預かる仕組み作りの検討を行う。また、子どもを預かる仕組みについ
て、NPO やボランティアなどの支援を受ける際には、子どもの安全を守るため、マニュア
ル整備などの仕組み作りについても検討する必要がある。
④
多様な主体の参画
≪現状≫
世田谷区には、災害時に活躍できる人材が多くいることから、災害時に被災者から支援
者に早く切り替わるよう支援することが重要である。
人道支援の国際基準では、被災者の代表と支援者が協議する際に、女性、男性、少年・
少女も入れることが求められている。現状では、避難所運営の意思決定から女性や少年・
11
少女は排除されていることが多い。
また、外国人についても、避難所で物資を探していたところ、泥棒と勘違いされて日本
人に蹴り倒されたという事例が報告されているため、外国人への配慮も必要である。
≪課題≫
避難所運営の本部に従来参画が少ない女性や若い世代、高齢者、障害者、外国人等、多
様な視点を取り入れることができるよう検討する必要がある。特に、災害弱者の支援をす
る人達が中核に入っていく必要がある。
被災地では、小学校高学年は避難所を手伝う存在となっていた。児童の防災教育につい
て、検討する必要があるのではないか。
≪対応すべき事項≫
避難所運営の本部には、中学生、高校生、女性が参加することを標準化していくととも
に、高齢者や障害者を支える当事者や福祉関係者、在住外国人も入れていくことを検討す
る。避難所運営には、平時から多様な視点を入れることで、避難者が意見を言いやすい仕
組みを区民に提示していくことが重要である。
学校の理解を得て生徒に避難所の運営を手伝ってもらうためには、物資の仕分けなど安
全と思われる作業を明確にして依頼する等の対応が考えられる。また、子どもが物資を配
ると大人にもよい効果が出るという事例もあり、避難所運営に効果的な活用について検討
する。
避難所のマニュアルは、様々な人の協力を得るために多様な視点で、修正していくこと
を検討する。
また、ボランティアやNPO法人、消防団、日赤奉仕団等が連携して訓練を行うことが
できるよう検討する。
⑤
要配慮者への配慮
≪現状≫
要援護者リストは、町会・自治会と協定を結んでいる場合は町会・自治会、民生・児童
委員が把握しているが、協定を結んでいない町会・自治会では把握できていない。民生・
児童委員1人当たり約 300 名を見ている状態であり、発災時に対応することが現実的に困
難な状況にある。なお、乳幼児と妊産婦については要援護者リストには入っておらず、対
象に含まれていない。リストをつくること自体は可能であったとしても、どうかは別途検
討が必要になる。
また、福祉避難所では対象となる避難者を受け入れ切れない状況になることが予想され
るため、区立小中学校の避難所でも福祉避難スペースをつくることになっている。
被災経験のある性的マイノリティ(LGBT)からは、他者からの目などから避難所で生
活しづらいなどの報告結果が出ている。
≪課題≫
要配慮者のうち、妊産婦・乳幼児については、把握・支援の方法を検討する必要がある。
12
なお、災害時に支援を必要とする人要については、避難所だけでは対応が困難と思われ
ることから、福祉避難所)などの施設と更に災害時の受入体制を検討する必要がある。福
祉避難所)は、受入設備があることから支援される側にとっては安心であるが、今の状況
で受け入れる場所が不足し、これらの対応が課題となる。
また、医療救護所となる避難所には医師が派遣されるが、ケアマネジャー、ヘルパー、
介護士などの福祉の専門家については決まっていないため、避難所で対応する体制につい
て検討する必要がある。
性的マイノリティ(LGBT)については、現状を受け止め、対策を検討していく必要が
ある。
≪対応すべき事項≫
要配慮者リスト等については、町会・自治会への働きかけを継続するとともに、町会・
自治会の負担が大きいことから、異なる視点の取組についても検討する。また、乳幼児や
妊産婦のリスト作成及びその取扱いについて、検討する。
さらに、要配慮者には心身双方の健康状態には特段の配慮を行い、専用の滞在スペース
などについて具体的に検討していく。
また、性的マイノリティ(LGBT)については、世田谷区第二次男女共同参画プランと
整合を図り、被災時対応の検討を進めていく。
⑥
在宅避難者の支援
≪現状≫
現在の被害想定と避難所の収容可能人数では、余裕のある受入は難しい。災害時の報道
により、震災時には避難所に行くと思っている区民も多い。また、過去の災害では食料や
物資をもらえるかどうかが心配で、本来必要がないのに場所取りや食料確保のために避難
所に入る人もいたため、収容人数の不足が懸念される。
≪課題≫
物資をもらうためだけに避難所に来ることがないよう、在宅避難者の物資支援について
明確にしていく必要がある。特に健康に留意が必要な人々である高齢者、障害者、乳幼児
などは、集団生活で体調が悪くなる可能性もあることから、可能ならば在宅避難が望まし
い。避難所は狭いなど環境も悪く、治安上も必ずしも良くない。そのため、在宅避難の重
要性を強く啓発していく必要がある。
≪対応すべき事項≫
平時から、在宅避難の重要性をどのように啓発していくかを検討する。
また、在宅と避難所の避難者の両方を支援する体制を検討する必要があり、特に要配慮
者の支援方法を検討する必要がある。高齢者や障害者、妊産婦、乳幼児などは救援拠点に
来ることが難しいため、初動から物流機能が回復するまでの間における地域での支援体制
づくりを検討する必要がある。
13
⑦
救援物資のマッチング
≪現状≫
備蓄物資には、普通の乳幼児用のミルクやオムツなどの備蓄はあるが、個別の特殊な備
蓄物資までは用意されていない。
震災では、物資支援の需要と供給の不一致が非常に大きな問題になっている。需要が低
い物資や整理されていない物資が大量に送られてきた結果、その仕分けに時間と労力がと
られ、費用とスペースを要するという問題が生じている。
≪課題≫
避難者が必要である物資を別の地域から調達する方法や、特に女性特有の必需品等の需
要を外部に発信していく方法、必要としている人にどのように届けていくかということに
ついて、検討していく必要がある。
≪対応すべき事項≫
被災時に必要な物資の情報収集方法、受援方法、情報発信の方法について具体的に検討
していく必要がある。
また、不要な支援物資の発生を防ぐため、個人からの援助は救援物資ではなく義援金で
援助するように呼びかける。
⑧
衛生・トイレ環境の整備
≪現状≫
阪神・淡路大震災では約 900 人、東日本大震災では約 3,000 人の震災関連死が報告され
ているが、その3割がストレスやトイレを我慢するために水分をとらなかったことが原因
と言われている。2つの震災でその比率が変わっていないことから、衛生・トイレ環境の
問題が未だ改善されていないことがうかがえる。
また、水分や食事をとるのを我慢し、トイレに行かず、膀胱炎になった避難者も多かっ
た。特に女性用トイレの数は不足しがちであり、行列が長くなり我慢する人が出てしまう。
さらに、性的マイノリティ(LGBT)には、男性用・女性用双方のトイレが使いづらい
人がいる。なお、トイレの型式については、高齢者であっても足腰の弱さ、実際の普及状
況から和式トイレを敬遠する傾向にある。
≪課題≫
避難所運営訓練においてマンホールトイレの設置が大変であったという意見もあり、ト
イレ設置についての訓練等をくり返し行う必要があると考えられる。また、夜にトイレを
使用する際には、防犯面で対策が必要である。
さらに、男性用トイレと女性用トイレの比率、誰でもトイレの設置、洋式トイレの増加
などについて検討していく必要がある。
≪対応すべき事項≫
衛生面に起因して体調が悪くなったり、死に至る場合もあるため、関連死を減らしてい
14
く目標を立て、取り組んでいく。
トイレの設置については、国際基準である男女比1対3を目標として取り組んでいくと
ともに、洋式トイレの割合の増加、性的マイノリティ(LGBT)にも使いやすい誰でもト
イレの設置等について、設置の取り決めを進めていく。
救護・衛生については、トイレの使用方法、授乳、子どもや傷病者への対応は避難所全
体で有効な仕組みづくりを行う。
また、高齢者がトイレに行きやすいよう配慮するとともに、ポスターを作成するなどの
啓発を検討する。
さらに、衛生管理については、トイレの清掃状況、ごみの収集状況、栄養、配慮を要す
る人数などを確認できるアセスメントシートを整備することも検討する。
⑨
熊本地震における対応事例について(参考)
・ ボランティアの体制に課題があった。中学生が朝から自発的に働いていたが、
「子供を
朝から晩まで働かせている」と苦情が入る事例や、看護師や建築士などの専門性を持っ
た人も責任問題を回避するあまりに専門性を発揮する仕事はできず、普通のボランティ
アへの従事を指示されていた事例があった。ボランティアを組織しても縦割りの壁がな
かなか外せないので、平時に地域力を高め、地域ごとに組織作りをしておく必要がある。
・ 複数の避難所を確認したところ、一番活発に自立に向けた動きをしていたのは地域活
動をしっかり行っている女性リーダーがいた避難所であったとの報告もあるため、女性
リーダーを育成する必要がある。
・ 熊本市男女共同参画センターやマスコミの力は大きく、全国組織を通じて情報が入り、
暴力防止ポスター配布、授乳室・更衣室のプレート配布、巡回調査等が行われた。現場
での改善はすぐには進まなかったが、従来の災害よりは早く進んでいた。
・ 避難所の意思決定にも課題があった。避難所は町職員1人と県外からの応援職員が担
当で、忙殺しており、住民も統一・組織化がされておらず、意思決定がされにくい状況
であった。現場に改善を提案しても、改善が進まず、女性の下着干し場1つ作れなかっ
た状況である。
・ 要望の積極的な掘り起しが必要である。重度の身体障害を持つ 25 歳の女性に援助がな
く、その場でおむつ替えをする状況もあったり、小さい子供を抱えた母親は、一般の避
難所では疲れ果てて声を上げられず、指定されていない臨時の乳幼児世帯用避難所がで
きたりもした。
・ 女性センターが女性向け避難所になったが、小さな子供を連れた人はなかなか遠くま
で来られない。熊本市は都市部なので、子どもの一時預かり支援が早期に開始された。
同じく都市部である世田谷も参考になる。
(3)生活再建支援における男女共同参画の視点の強化
①
女性の経済的支援
≪現状≫
日本の男女における経済格差はいまだ大きい。東日本大震災においても、男性より女性
の方が雇用保険・失業保険の申請者が多く、女性には就労に困窮している人又は就労を希
15
望している人が多かった。
≪課題≫
災害時は経済的に女性が弱い立場になりやすいため、経済的な支援体制の確保が非常に
重要である。復旧・復興時にこそ女性が自立して活動できるように支援体制を準備してお
くことが地域の復興にもつながる。
≪対応すべき事項≫
地域の雇用を増加させるために、資金調達制度、情報発信方法、活動基盤となる支援体
制の整備について検討していく必要がある。特に災害は女性が孤立して積極的に動けない
状況におかれるため、自立への手助けをすることができれば、力を発揮することができる
と思われる。
また、家族の世話のために働くことのできない人のために、避難所等における支援につ
いても検討する必要がある。
②
相談体制の構築
5(1)⑥に準じる。
③
復興時への備え
≪現状≫
災害時は、応急期の後も十分な対応が必要になる。震災関連死率は、東日本大震災で8%、
阪神・淡路大震災で 14%に及び世田谷区の場合は状況として阪神・淡路大震災の事例の方
が近いと考えられている。
また、復興には非常に時間がかかり東日本大震災の被災地でも「3年間は頑張れたけれ
ども、それ以降頑張れなくなっている人が多い。
」という声もある。被災者が頑張れなくな
る時期と、ボランティアが引いていく時期はほぼ一緒であり、取り残された気持ちになる
被災者もいる。
災害時には、ボランティアやNPOの役割がより重要になるため、地域活動が盛んな世
田谷区では、その活動が期待される。
≪課題≫
防災や備蓄等の平時の対策と比べると、発災後の行動について区民の知識・認識は少な
い傾向にある。東日本大震災では、片づけをしている間に津波で被災したり、一度片づけ
たあとに余震で再び物が落下したりすることもあるため、大きな揺れの後の対応や余震の
危険性を周知する必要がある。
復旧・復興において、仮設住宅の設計、復興公営住宅の設計、それから復興まちづくり
協議会をはじめとした計画に女性が携わっていくよう配慮する必要がある。
なお、復旧・復興については、時間がかかることを周知するとともに、復興期間の全体
的なスケジュールを計画しておく必要がある。
また、災害関連死については、衛生環境の問題も多いとされることから、相談体制を含
16
めて対策を検討する必要がある。
平時に地域の課題を発見し解決する活動をしている NPO は、復旧・復興期に活躍する
ことが期待されるため、日頃の活動を災害時にいち早く生かせるような仕組みづくりを行
う必要がある。その一方で、災害時の活動が、区民による共助なのか、ボランティア活動
なのか、業務なのか、区別できない状況が続くと予想される。女性が自立するための仕事
獲得や補償関係(保険・労災)にも関係するため、整理が必要である。
≪対応すべき事項≫
災害に対する情報、余震等に対する危険性や取るべき行動、とってはならない行動を周
知していく必要がある。また、町会・自治会の役員等も含めて、共助、業務、ボランティ
アの役割分担について整理するとともに、保険や労災適用などの情報を整理・周知してい
く必要がある。
復旧・復興に当たっては、復興まちづくりそれから実際の復興計画といったところに女
性、若い世代、障害者など、各種の立場を代表する人たちも参画し、ワークショップを行
うことを検討していく。
NPO については、各々の NPO ができることを列挙し、情報共有などを通じてネットワ
ークづくりを進める。
また、災害関連死の減少について目標化し、実現に向けて取り組んでいく。
17
6.具体的な取組み
(1)地域防災計画への反映
分類
復興時への備え
記述
避難生活に伴う心身へのストレス等を原因とする関連死者数ゼロを目指す。
男女共同参画の理解を深めるために、防災活動を行っている区民や団体を対象とし
た勉強会や研修会等を開催する。
社会福祉協議会、ボランティア協会、町会・自治会、NPOを対象に男女共同参画
意識啓発・勉強会
の勉強会を開催する。
・訓練の充実
男女共同参画の視点で話し合う機会(ワークショップ等)を設ける。
男女共同参画の視点を取り入れた災害対策について、有識者等を招へいしての勉強
会等を継続的に開催し、年齢、性別、職業等を問わず幅広い層への意識啓発を図る。
意思決定における女性の参画を推進する。
区の現状を把握するために、男女別の統計資料を作成する。
男女共同参画の視点を取り入れた避難所運営体制の充実強化を図るためには、避難
所運営における女性の参画を推進する必要がある。
女性の参画の推進
世田谷区第二次男女共同参画プランの検討過程において、災害対策における男女共
同参画の観点等について議論を行う。
災害対策の検討過程への男女共同参画の観点も重要な観点であることから、災害に
関する方針等の検討過程への女性の参画の拡大を図っていく。
有識者の知見を得ながら、男女共同参画等について継続的な検討を実施する。
多様な主体の参画
各機関は、女性や子ども、若い世代等の様々な主体に防災への参画を促すとともに、
の推進
多様な視点を防災計画に取り入れることにより、地域の防災力を向上させる。
避難所単位などエリアを絞った防災対策の取組みを推進し、その中で男女共同参画
の視点を取り入れる。
地域の防災力向上
災害時に対応できるようNPO同士のネットワークで防災訓練を行う。
町会、自治会等と継続的に連携し、避難所運営の女性の参画を推進する。
避難所における安全・安心の確保や、女性や要配慮者のニーズに応えるため、マニ
ュアル等に反映したり、避難所管理運営の推進を図る必要がある。
女性のニーズへの
避難所運営で必要と考えるものや、避難所生活・応急仮設住宅生活における心身へ
配慮
の影響は男女で異なるため、平時から災害時における男女双方の課題について理解
を促進する必要がある。
救援物資の配分や避難所生活の運営等において、男女共同参画や性的マイノリティ
18
分類
記述
への配慮等の観点から十分に対応できるように、議論を行う必要がある。
避難所の運営において女性の参画を推進するとともに、男女のニーズの違い等男女
双方の視点等に配慮する。特に、更衣室及び授乳室の設置や生理用品及び女性用下
着の女性による配布、避難所における安全性の確保など、女性や子育て家庭のニー
ズに配慮した避難所の運営に努める。
必要な人が必要な支給物品を、プライバシーを守って受け取れる体制を構築する。
避難所の管理運営にあたっては、女性の参画の推進及び学校教育機能の確保に努め
るとともに、男女に配慮した着替え場所や授乳場所の確保、生理用品や女性用下着
などの女性による配布、避難所における安全性の確保など、プライバシーや性別、
疾病や障害への配慮等を行い、被災者の生活環境を良好に保つよう努める。
女性や子どもなどの避難生活におけるニーズの把握や環境整備のための手法を検
討する。
救援物資の
マッチング
個人は救援物資ではなく義援金で援助するように呼びかける。
救援物資の配分や避難所生活の運営等において、男女共同参画や性的マイノリティ
への配慮等の観点から十分に対応できるように、議論を行う必要がある。
避難所管理運営マニュアルの作成にあたっては、作成時には高齢者、障害者、乳幼
児、妊産婦等に配慮する。
要配慮者への
避難所における貯水槽、仮設トイレ、簡易トイレ(屋内設置用)、マット、非常用
配慮
電源、通信機器等のほか、高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦等の要配慮者のニーズ
にも対応した避難の実施に必要な施設・設備の整備に努める。
性的マイノリティについて、「世田谷区第二次男女共同参画プラン」と連携して対
策を検討する。
要配慮者の心身双方の健康状態には特段の配慮を行い、滞在スペースを作る。
トイレは男女別だけではなく、多様性の視点に配慮し、だれでも使用できるトイレ
衛生・トイレ環境
も設置等する。
の整備
衛生管理等にアセスメントシート※を使用する。(※災害時に避難所等の衛生管理
を図るため、要配慮者人数や体調不良者の症状を記録するための票)
被災により、女性が様々な不安や悩み、ストレスを抱えることや、女性に対する暴
力等が懸念されることから、男女共同参画センター“らぷらす”が平時から行って
いる男女共同参画の視点からの相談等の業務を迅速に復旧し、被災女性に対する相
相談体制の確立
談窓口を設置し、情報提供することで、被災女性等の心身のケアに努める。
区は、男女共同参画センターにおいて、女性のための相談窓口を開設し、男女共同
参画の視点からの相談、女性に対する暴力等の予防啓発、相談窓口情報の提供、団
体・専門家等の連携調整、女性の就業・起業等の支援などの実施を検討する。
19
(2)マニュアルの整備
区の災害対策について、地域防災計画の修正に記載した男女共同参画の視点を入れ
ていくため、関係するマニュアル等へ反映していく。以下は、反映するマニュアルの
主なものである。
①
避難所運営マニュアル(平成 25 年 3 月)
次の項目について、男女共同参画の視点を踏まえた改定を検討する。
ア
方針
平成25年に国は「男女共同参画の視点からの防災・復興取組指針」を策定し、
避難所における男女共同参画の視点を推進している。区でも、女性の視点部会の
提言を踏まえ、様々な課題への対応を反映し、より分かりやすく、使いやすいマ
ニュアルに修正する。
イ
②
手順
・
内閣府の避難所運営の指針と整合を図る
・
避難所運営委員等から現状の課題や対応策について意見を聴取
・
世田谷区地域防災計画[平成29年修正]について修正の反映
・
避難所運営マニュアル(案)の作成及びワークショップの実施
震災時初動期職員行動マニュアル及び復興マニュアル
ア
方針
世田谷区地域防災計画修正後には、職員行動マニュアルの大幅な見直しを行っ
ている。世田谷区地域防災計画[平成29年修正]の反映を行い、男女共同参画
センターと区の所管部署の連携を記載するなど、災害時の対応力の強化を図って
いく。
イ
③
手順
・
災対各部のヒアリング等を経て、修正方針を提示する。
・
災対各部は修正方針に基づき、マニュアルの修正を行う。
トイレ衛生マニュアル
ア
方針
災害時におけるトイレの確保・管理は極めて重要な課題であり、水・食料等の
支援とともに、
「ライフライン(電気・水道・ガス・下水道等)」と同様に被災者
の「命を支える社会基盤サービス」の一つとして認識し、適切な対応が求められ
ている。
そのため、水洗トイレが使用不能となるなどの通常のし尿処理が確保できなく
なった場合においても、区民の健康と衛生的な生活環境を保持するため、日頃か
ら安心・安全の街づくりへ向けた備えを行うとともに、円滑な応急活動や復旧・
20
復興を支えるための取組みを示すようマニュアルを作成し、啓発をしていく。
イ
手順
・
現状把握を行い、関係所管及び民間の研究所等と協議していく。
・
協議内容をマニュアルに反映し、区民に対して啓発を行っていく。
(3)具体的事業の推進・実施
①
主旨
災害時の男女共同参画の視点の普及及び推進するための人材育成について、多く
の関係団体や関係者とともに取り組むものとし、各所管の役割分担を明確にして実
施する。
②
基本的な考え方
災害時の男女共同参画の視点の普及及び推進するための人材育成について、多く
の関係団体や関係者とともに取り組むものとし、各所管の役割分担を明確にして実
施する。具体的な施策の検討、実施にあたっては、以下の観点で実施するものとす
る。
【視点1】男女共同参画の視点を踏まえた防災の普及啓発
【視点2】女性リーダーの育成
【視点3】避難所運営にかかわる人々への男女共同参画の視点の普及
具体的には、以下の取組を行う。
③
施策内容(案)
ア
防災普及研修(らぷらす)
【目的】区民に広く防災における男女共同参画の視点の普及を図る。
【対象】一般区民向け
【所管】人権・男女共同参画担当課
【時期】既存事業・継続
イ
研修会の実施(NPO 対象。避難所運営組織対象等)
【目的】避難所運営に携わる女性リーダーを育成し、平時から準備しておくこと
で、災害時の男女共同参画を図る。
【対象】避難所運営組織関係の女性(NPO 等を含む。)
【所管】災害対策課・地域振興課
【時期】平成 28 年度:内容検討
平成 29 年度:NPO 対象研修の実施
平成 30 年度以降:避難所運営組織対象研修の実施
21
ウ
避難所運営マニュアル改定ワークショップの実施、研修・HUG 訓練の実施
【目的】避難所運営に携わる人を対象に、男女共同参画に関する気づきや次の行
動に繋げる。
【対象】避難所運営組織関係の関係者(主に町会・自治会等)
【所管】災害対策課・地域振興課
【時期】平成 28 年度:避難所運営マニュアル改定検討
平成 29 年度:避難所運営マニュアル改定作業・ワークショップ
平成 30 年度以降:研修会・研修プログラム検討
エ
避難所運営組織の女性への防災士資格取得支援
【目的】避難所運営に携わる女性を対象に、より防災の知識の習熟を図る。
【対象】避難所運営組織に関わる町会・自治会から推薦のあった女性
【所管】災害対策課
【時期】既存事業・継続
④
施策実施の推進体制
区民
一般区民、避難所運営組織
【研修参加】
区立男女共同参画センター
らぷらす
せたがや防災NPO
アクション
【場の提供・研修企画】
【研修内容提案・参加】
区
【全体調整】
⑤
今後の検討スケジュール(イメージ)
項目
平成28年度
らぷらす研修会
実施
研修会
内容検討
避難所運営マニ
ュアル改訂
改訂検討
平成29年度
平成30年度
NPO対象研修
避難所運営組織
の実施
対象研修の実施
改訂作業、WS
22
研修会、研修プ
ログラム検討
平成31年度
継続実施
継続実施
(4)今後の男女共同参画の推進のために
今後、本書の提言を着実に実行し、各種施策に男女共同参画の視点を反映していく
ためには、統計等の調査による実態把握に基づき、具体的な主体と目標を設定して施
策を行っていく必要がある。
本書「5
重点項目」各項目の<対応すべき事項>から、具体的な目標設定の例を
示す。
【平時における男女共同参画の取組の充実】
①
男女共同参画の意識啓発、勉強会・訓練の充実
・
男女共同で行うHUG(避難所運営ゲーム)や発災時初動訓練等を開催する
・
家族など身近な女性と一緒に行うシミュレーションゲーム等の研修を実施す
る。
②
・
女性リーダーの充実、女性の参画・意思決定の推進
女性リーダーの割合を増加(管理職・防災会議委員・防災関連行事司会等)
させる。
・
女性防災士の現状を把握するとともに、人数を増加させる。
・
短期的な女性リーダー育成プログラムを実施する。
③
・
多様な視点・多様な主体による防災の推進
男性や女性、性的マイノリティ(LGBT)
、若い世代、高齢者、妊産婦、乳幼
児、障害児などに関係する当事者が参画するワークショップや訓練を開催する。
④
地域の防災力向上、地域の特性に配慮した取組の推進
・
防災塾(または同様の取組)を継続していく。
・
教育関係者、医療関係者、地域で働く人の参画による訓練を実施する。
⑤
若い世代との連携
・
若い世代が参加する訓練を実施する。
・
防災塾による若い世代の横のつながりを強化する。
⑥
・
男女共同参画センターの位置付けの明確化、被災時の相談体制の構築
男女共同参画センターの平時及び災害時の位置付けを地域防災計画に記載す
る(次回以降の改定のために位置付けを整理していく)
。
・
避難所を立ち上げる際に男女共同参画センターによる相談窓口を設置するこ
とを避難所運営マニュアルに記載する。
【避難者対策における男女共同参画の視点の強化】
①
女性の参画、女性のニーズへの配慮
・
避難所運営委員の女性の割合を増加させる。
・
避難所運営委員の男性リーダーが男女共同参画の視点による課題(乳幼児用
23
のミルクを作るなど)を理解する機会を設定する。
②
・
女性の活動体制の充実
行政職員や救援関係者が持続的に従事できる体制づくり、子供を預かる体制
等について検討し、職員行動マニュアル等の改定にあわせて記載する。
③
・
避難所における保育支援
被災者の子供を預かる体制について検討し、避難所運営マニュアル等の改定
にあわせて記載する。
④
・
多様な主体の参画
避難所運営の本部には、中学生、高校生、女性の参加を標準とすること、ま
た、高齢者や障害者を支える当事者、福祉関係者、在住外国人を含めることを
検討し、避難所運営マニュアル等の改定にあわせて記載する。
⑤
・
要配慮者への配慮
要配慮者への心身双方の配慮や専用の滞在スペースの設置等について、災害
時対応の検討を行い、避難所運営マニュアル等の改定にあわせて記載する。
⑥
・
在宅避難者の支援
在宅避難の推進方法及び在宅避難者への物資支援について検討し、避難所運
営マニュアル等の改定にあわせて記載する。
⑦
・
救援物資のマッチング
被災時に必要な物資の情報収集方法、受援方法、情報発信の方法について検
討し、避難所運営マニュアル等の改定にあわせて記載する。
⑧
・
衛生・トイレ環境の整備
トイレの設置方法、使用方法、男性用トイレと女性用トイレの比率、誰でも
トイレの設置、洋式トイレの増加などについて検討し、トイレに関するマニュ
アルを作成して記載する。
【生活再建支援における男女共同参画の視点の強化】
①
・
女性の経済的支援
避難所等における子ども預かりの支援について検討し、避難所運営マニュア
ルの改定にあわせて記載する。
・
地域の雇用を増加させるための資金調達制度、情報発信方法、活動基盤とな
る支援体制の整備については、継続して検討していく。
②
・
相談体制の構築
男女共同参画センターの平時及び災害時の位置付けを地域防災計画に記載す
る(今後の記載のために位置付け整理)
。
・
避難所を立ち上げる際に男女共同参画センターによる相談窓口を設置するこ
とを避難所運営マニュアルに記載する。
24
③
・
復興時への備え
災害後の区民の取るべき行動等の周知、共助、業務、ボランティアの保険や
労災適用などの情報の整理・周知、復旧・復興期における男女共同参画や多様
な主体の参画について継続的に検討していく。
25
女性の視点部会提言書
平成 29 年1月 31 日
発行
編集
世田谷区防災会議
世田谷区
危機管理室
26
災害対策課