フォークリフト稼動管理システム,三菱重工技報 Vol.54 No.1(2017)

三菱重工技報 Vol.54 No.1 (2017) M‐FET 特集
製 品 紹 介
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フォークリフト稼動管理システム
Telematics Service for Forklift Trucks
ニチユ三 菱 フォークリフト株 式 会 社
ニチユ三菱フォークリフト(株)(以下,当社)では,1990 年初頭からフォークリフトと事務所間を
無線通信で情報交信する製品として荷役・搬送の作業指示や作業実績,フォークリフトの稼動状
況の各種データをパソコンで管理する製品の販売を行ってきた。最先端のフォークリフト・物流シ
ステムを提供することが当社の使命であり,物流業界の発展に寄与するため,IoTなどの新技術
を採用したフォークリフトソリューションの構築に取り組んでいる。
|1. はじめに
コンピュータシステムの進化,インフラや通信コストの低価格化より,これまで以上に新しい価値
を有する製品を採用する市場環境が整ってきた。自動車における自動運転技術は,農機具の自
動運転に始まり,産業車輌のあり方を変えようとしている。各業界での IoT 技術への取組みが活発
化し業界,国家間の垣根を越えて新しい製品が求められてきている。当社もこれまでに培ってき
た知見をベースに常に一歩先んじた“フォークリフトソリューションの実現”を目指している。
|2. 国内向けフォークリフト稼動管理システム製品
フォークリフトの IoT 構想は,1990 年初頭から他産業に先駆けて移動体通信の技術を適用し稼
動状況の見える化に取り組んできた。
三菱重工業(株)では,フォークリフトの稼動状況を管理する TMS(Truck Management System)
を 2000 年初頭に製品化した(図1)。
フォークリフトの制御情報である CAN(Controller Area Network)データを収集し,安全運転,
経済性,稼動率のデータ収集を行い,インターネットでの「見える化」を実現する事で,包括的な
フォークリフトの運用を表示できる画期的な製品であった。TMS は,当社のIoTビジネスの先駆け
であり,顧客物流システムの改善を目指した製品であった。
旧日本輸送機(株)は 1990 年代からフォークリフトでの無線 LAN システム(図2)を製品化し,在
庫管理,入出庫管理システムに取り組んできた。さらに CAN データを連携させることで稼動状況
の見える化と荷役操作との連携や安全操作の実現を目指した IT 物流(図3)に取り組んだ。
・無線により事務所とフォークリフト間のリアルタイムな情報交換(在庫管理や入出庫システ
ム),
・生産システムや受注システムと連携した倉庫管理システムの構築,
・RFID やカメラなどをフォークリフトに装備し,荷役作業(荷役位置の自動検知,パレット情報
の自動読取り)での作業者の操作削減(ミス撲滅),など。
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図1 トラックマネージメントシステム(TMS)
図 2 無線LANシステム
車載コントローラで稼働・運行・操作を一括管理する
フォークリフト車載端末でシステムを構成する
図3 IT 物流
|3. 海外向け製品
当社は,欧州では Abbot,北米では Liftlink の商品名でテレマティクスサービスを提供してい
る。
本章では当社の北米拠点である MCFA(Mitsubishi Caterpillar Forklift America)が Liftlink とい
う商品名で 2014 年末から開始したサービスを紹介する。
本サービスは MCFA がディーラ(販売店)に対して提供しているサービスの一つで,主にディー
ラ及びサービスマンを対象としていることに特徴がある。サービス開始以降順調に接続台数が増
えており,約 1.5 年経った時点で 3 000 台超の車両が接続されている。システム構成及びサービス
の概要を以下に述べる。
3.1 システム構成
Liftlink のシステムは,一般的なテレマティクスシステムと同様に「車載器」「データサーバ」
「Web 画面」から構成される。
(1) 車載器
オペレータの操作情報や車両状態(エンジン回転数,冷却水温,モータ回転数,エラー情報
等),GPS 情報を一定時間毎に収集し,携帯電話網を経由しサーバへ送信する。
(2) データサーバ
車載器からのデータを蓄積し,Web 画面の要求に応じてデータを取り出す。
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(3) Web 画面
ブラウザを通じデータサーバからデータを取り出し,実況表示や分析表示を行う。
3.2 サービス概要
北米特有の事情としてディーラが管理している車両は広大な国土に点在しており,高頻度で巡
回するようなサービスが難しくサービスマンが各自のノウハウで広範なエリアをカバーしている。
また,何らかのトラブルが生じた場合,ユーザからの電話やメールに基づいて代替部品を準備
し訪問するが,不正確な情報により調査だけに往復1日を費やすことも珍しくない。不具合発生時
には車両のメータパネルにエラーコードが表示されるが,伝達間違いや読取り間違いもある。
これらの問題を解消するために Liftlink には以下の機能が用意される。
(1) Dashboard
主要な集計結果を図4のようにタイル状に並べて表示する。表示内容,サイズ,配置は各ユ
ーザがカスタマイズできる。
(2) Home screen
車両の配置,台数,車両の状態を俯瞰的に確認し,地図上に丸ピンとして車両を表示する。
正常は緑色,異常は赤色表示とする。丸ピンをクリックし主要データを把握する(図5)。
図4 Dashboard
図5 Home screen の表示例
(3) Alert Management
現在発生しているエラーやエラー履歴をリスト形式で確認する。エラーの絞込みやエラー時
の通知を設定できる。
(4) GeoZones
設定したエリアからの車両の逸脱・侵入を確認する(図6)。
(5) Breadcrumbs
各車両の位置情報の履歴を確認する(図7)。
図6 GeoZones の表示例
図7 Breadcrumbs の表示例
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(6) Maintenance Planner
各車両の予定と実績を網羅的に把握しサービス計画に活用する。実績管理に基づく整備提
案ができる。
(7) Report Browser
取得データを様々な条件で抽出し CSV 出力する。高度な分析やグラフ化ができ,動作をス
ケジュール化し定例分析処理の負担を大幅軽減できる。
|4. 稼動管理システムの取組みと課題
Wi-Fi の普及,3G 回線のコストダウンなどインフラ技術やセンシング技術の進歩に伴い,既存
の稼動管理だけでは無く,これらの技術を取り込んだ新しい製品が必要となってきた。
そこで当社は,海外市場も含め,競争力のある製品化を目指して,下記の取り組みを行ってい
る。
<現在の取組み>
・車載機器のコストダウン(市場普及率向上)
・データベースを含むクラウドサービスの拡張性とサービス形態に応じた料金体系化
・通信方式の多様化対応(高速化とコストダウンなど用途に応じた提案)
・フォークリフトの保全(故障発生前の予測修理)
・屋内,屋外のフォークリフトの位置測位
<今後の課題>
・フォークリフトと他設備(工場内設備や配送システムなど)との連携・自動化
・異業種間の情報連携。生産から消費者までの物流と情報の連携。
・熟練作業者のノウハウの機能化
・自動運転,運転支援(自動運転指導)するフォークリフト
・製品やパレットなどの荷役する対象物とフォークリフトの荷役実績情報一元化
(荷物を運ぶためだけのフォークリフトが,製品情報が荷役作業と連結することで物流情報を
一元管理する情報発信基地となることを意味する)
フォークリフトソリューションは変革期にあり,自動運転技術と同様に「ベテランを必要としない荷
役業務支援システム」の構築,AIやデイープラーニング技術による最適物流システムの実現,運
転支援,作業支援システムに取り組んで行き,業界を超えたソリューションへの脱皮が必要であ
る。
|5. まとめ
フォークリフトは,国内外の様々な産業界・分野で活用されており,我々の生活を支える物流の
基盤となる重要な産業車輌である。
当社でしかできない独自技術の育成と社外技術を融合させることで世界の物流を支える最先
端のフォークリフトソリューションを目指している。
フォークリフトの原点(or 目的)は「正確に,早く,効率且つ安全に運ぶ」であるが,それだけでな
く,そこに携わる作業者の働く喜びも大切に未来のフォークリフトの姿を考えていきたい。