Economic Indicators 定例経済指標レポート

EU Trends
フランス大統領選はいざ決選へ
発表日:2017年1月30日(月)
~そろそろ議会選についても考えておく~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ フランス大統領選は共和党のフィヨン候補、国民戦線のルペン候補、独立系のマクロン候補の3人の
争いとなりそうだ。党内左派のアモン候補が社会党予備選を制したことで、本選ではマクロン候補に
中道票が流れることが予想される。フィヨン候補の妻の不正報酬疑惑が浮上しており、同氏の支持に
影響する可能性がある。今後のテレビ討論会も投票結果を大きく左右しそうだ。
◇ マクロン候補やルペン候補が大統領となった場合、議会の多数派を形成するには他党の協力が不可欠。
議会の多数派政党出身の首相を任命する必要があり、大統領の出身政党と議会の多数派政党が食い違
う“ねじれ(コアビタシオン)”となる公算が大きい。特にルペン候補が大統領となった場合、議会
に対しても責任を持つ首相が極端な政策を和らげる役割を担うことになりそうだ。
29日に行われたフランス社会党・大統領選予備選の決選投票は、党内左派でオランド政権の改革路線に
反対して教育相を辞任したアモン候補が、オランド政権の中道寄りの改革路線を首相として推し進めたバ
ルス候補を破り、社会党の大統領候補となった。これにより、4月23日の大統領選本選は、極右政党・国
民戦線のルペン候補、共和党予備選を制した党内右派のフィヨン候補、中道政党・民主運動のバイルー候
補、オランド政権の元経済閣僚で独立系のマクロン候補、社会党予備選を制した党内左派のアモン候補、
左翼党のメランション候補の戦いとなる(主要な候補を右から左のイデオロギー順に並べた)。
これまでの世論調査はルペン候補とフィヨン候補が25%程度で競っていたが、1月下旬に入ってフィヨ
ン候補の妻が議員スタッフとしての報酬を不正に受給していたとの疑惑が浮上。疑惑浮上後の最新の調査
でフィヨン候補が20%台前半まで支持を落とし、マクロン候補との差がほとんどなくなった(図表1)。
まだ態度を保留している中道系のバイルー候補が出馬を見送れば、マクロン候補がさらに支持票を上積み
する可能性が高い。上位2名による5月7日の決選投票に駒を進めるのは、ルペン候補、フィヨン候補、
マクロン候補の3人が今のところ有力視されている。ただ、今回の社会党予備選で伝統的な左派支持層か
ら絶大な支持を受けたアモン候補も急速に支持を伸ばしてきている。左派支持層が重なるメランション候
補がアモン候補支持に回って出馬を見送れば、アモン候補が決選投票に進出するチャンスも残っている。
ルペン/フィヨン/マクロンの3候補の組み合わせによる決選投票の世論調査によれば、フィヨン候補と
マクロン候補の何れと対峙した場合もルペン候補が破れることが、マクロン候補とフィヨン候補の争いと
なった場合にはマクロン候補が勝利することが示唆される(図表2)。フィヨン候補妻の不正報酬疑惑が
浮上した後の最新の世論調査では、決選投票でのフィヨン候補の支持が低下気味。共和党・社会党予備選
ともに事前に名前の挙がっていなかったダークホースが勝利しており、何れも投票直前に世論調査が大き
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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く変動している。不正報酬疑惑の影響や今後のテレビ討論会などで投票の行方はまだ様々に展開し得る。
万が一、ルペン候補が大統領選で勝利する場合を視野に入れると、6月の国民議会(下院)選挙につい
てもシナリオを検討しておく必要があるだろう。大統領選から6週間後の6月11日に初回投票が行われ、
577の選挙区毎に50%の票を獲得した候補が議席を獲得する。初回投票で50%を獲得した候補がいない場合、
上位2名並びに12.5%以上の票を獲得した候補が1週間後の6月18日に行われる決選投票に進み、その勝
者が議席を獲得する。全国区で争われる大統領選と比べて、小選挙区制の下院選挙では、共和党や社会党
など地盤の強い地域を有する大政党に有利に働く傾向がある。
フィヨン候補が大統領となる場合、共和党が議会の多数派となる可能性が高く、大統領の出身政党と議
会の多数派が一致する。マクロン候補が旗揚げした「アン・マルシュ」は全ての選挙区で候補者を擁立す
るとしているが、マクロン候補が大統領となる場合も、議会の多数派を形成することは難しいだろう。そ
の場合、社会党や中道政党が統一会派を組み、マクロン大統領を支持する可能性が高い。ただ、社会党の
人気低迷で共和党が議会の多数派を占める可能性もあり、その場合には議会運営の難航が予想される。
フランスの大統領は国家元首として強い権限を持つが、これとは別に主に内政を担当し、政府を指揮す
る首相がおり、大統領と首相による双頭執行体制を採る。首相は大統領から任命されると同時に、議会に
対しても責任を負う(議会の多数派の支持が必要)。こうした大統領制と議院内閣制の中間形態を「半大
統領制」と呼ぶ。大統領の出身政党と議会の多数派が一致しない“ねじれ(これを「コアビタシオン」と
呼ぶ)”が発生することがあり、その場合、大統領は議会の多数派を形成する政党出身者を首相に任命す
ることで議会運営を行うのが一般的だ。過去にコアビタシオンとなったのは、1986~88年のミッテラン大
統領(社会党)・シラク首相(共和党の前身政党)時代、1993~95年のミッテラン大統領(社会党)・バ
ラデュール首相(共和党の前身政党)時代、1997~2002年のシラク大統領(共和党の前身政党)・ジョス
パン首相(社会党)時代の3回ある。当時は大統領任期(7年)と議会任期(5年)が異なり、何れも大
統領の任期途中に議会選挙が行なわれた際に発生している。その後、2000年の憲法改正で大統領任期と議
会任期が5年に統一、大統領選と議会選が同時期に行なわれるようになった結果、コアビタシオンは起こ
りにくくなっている。だが、今回の選挙では二大政党以外から大統領が誕生する可能性があり、コアビタ
シオンとなる可能性も排除できない。
ルペン候補が勝利した場合も、国民戦線が議会の多数派を占めることは困難とみられている。その場合、
ルペン候補は恐らく共和党出身者を首相に指名し、国民戦線と共和党の統一会派が議会で多数派を形成す
ることになるだろう。議会運営に共和党の協力が必要なため、ルペン大統領が誕生した場合も、EU離脱
投票など極端な政策を実行に移すことは難しい。フランスの国民投票制度とルペン大統領誕生時にEU離
脱投票を実施する可能性があるかについては、稿を改めて詳しく検討したい。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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(図表1)フランス大統領選の世論調査(初回投票)
【バイルー候補出馬】
30
25
ルペン(国民戦線)
20
フィヨン(共和党)
15
マクロン(アン・マルシュ)
10
メランション(左翼党)
5
バイルー(民主運動)
アモン(社会党)
2017/1/27
2017/1/8
2017/1/6
2017/1/4
2016/12/3
0
【バイルー候補不出馬】
30
25
20
ルペン(国民戦線)
15
フィヨン(共和党)
10
マクロン(アン・マルシュ)
0
アモン(社会党)
2017/1/27
2017/1/15
2017/1/20
メランション(左翼党)
2017/1/4
5
出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成
(図表2)フランス大統領選の世論調査(決選投票)
(%)
80
マクロン(アン・マルシュ)
ルペン(国民戦線)
50
50
40
40
40
30
30
30
20
20
20
2017/1/27
50
2017/1/20
60
2017/1/6
60
2016/12/3
70
60
2016/4/15
70
2016/1/15
70
2016/4/14
2016/4/17
2016/5/16
2016/6/12
2016/6/17
2016/9/11
2016/11/25
2016/11/27
2016/11/28
2016/11/29
2016/12/3
2016/12/4
2017/1/6
2017/1/8
2017/1/20
2017/1/27
マクロン(アン・マルシュ)
(%)
80
フィヨン(共和党)
2017/1/27
ルペン(国民戦線)
2017/1/20
フィヨン(共和党)
2017/1/6
(%)
80
出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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