岩手県 大槌町、野田村 - 全国地域情報化推進協会

地域情報化
特集2
あなたが住む街の電子自治体への取組 その1
被災地復興に向けた3町村によるクラウド共同利用への取り組み
(岩手県 大槌町、野田村、普代村)
〔概要〕
大槌町は他の自治体と同様に庁舎内にサーバを設置し業務システムを構築していました。しかし、東
日本大震災の津波被害によりサーバルームを含む役場庁舎が被災したため、住民サービスは一時完全に
停止しました。住民情報が失われたため死亡届や転出届の受理もできず、また税情報がないため税の徴
収もできませんでした。奇跡的にデータを復旧できましたが、復旧には1カ月を要しました。
今回の震災では、役場庁舎自体の
被災により、行政機能が危機的に低
下しました。津波が予想される場合
における町災害対策本部の設置場所
を浸水予想地域外とするほかに、優
先業務の選定や自治体クラウドの活
用等を内容とする業務継続計画の策
定が喫緊の課題となっていました。
このため、大槌町は総務省平成23
年度3次補正予算を活用することを
決め、岩手県沿岸市町村復興期成同
盟会参加市町村に広く参加を呼びか
け、参加を表明した野田村、普代村
とともに3町村共同利用型クラウド
の導入を決めました。
本事例は、震災被害によりサービス停止してしまった経験をもとに、共同利用型クラウドの特性でも
ある
・システムの可用性を生かし、災害時協力体制の確立による事業継続性の確保
・ベストプラクティス採用による業務プロセスの見直し
・ノンカスタマイズ利用による経済性と効率化の追及
・所有から利用へシフトすることによる運用・保守業務の削減による「復興関連業務」への注力
などを目的としたものです。
・人口減=税収減への対応
共同利用型自治体クラウドの導入で庁舎内にサーバを置く必要がなくなると同時に共同で調達・導
入することで管理・運用にかかるコストを複数の町村で分担することができます。導入にあたっての
初期投資は必要になりますが、長期的な運用コストを考慮に入れれば庁舎内に独自サーバを持つより
も割安になりライフサイクルコスト削減を実現しました。
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・本来業務への注力
庁舎内からサーバをなくすことで通信システムの管理・運用にかかわる職員の負担を大幅に下げる
ことができます。業務を効率化することで、その分職員は対面的な住民サービスにより力を注げるよ
うになり住民サービスが向上します。被災自治体においては復興復旧関連業務に注力することができ
るようになりました。
・BCP事業継続性の確保
自治体クラウドのサーバは、電源設備、発電設備を備えた堅牢なデータセンタ内に置かれているた
め、今回の津波被害のように役場のサーバが水没して機能が停止するということは避けられます。ま
た、庁舎内からのアクセスが不可能になっても、避難場所や遠く離れた他の自治体の庁舎など、あら
ゆる場所から接続できるとともに、ベストプラクティス導入により業務フローが共有化され、災害時
の協力体制構築が容易になります。
〔コラム〕
大槌町は岩手県の陸中海岸から少し南に位置します。東経1
41度54分04秒、北緯39度20分、総面積
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72平方キロの町です。東日本大震災前には人口約1万5千人おりましたが、現在は約1万3千人で
す。震災により多くの方が亡くなり、また震災後の人口流出により人口が減少したためです。
基幹産業は、アワビやウニの採集、ワカメやホタテの養殖、鮭、サンマ、イカなどの漁獲といった水
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地域情報化
特集2
あなたが住む街の電子自治体への取組 その1
産業となります。
東日本大震災津波による人的被害は、死亡届受理数1230人、行方不明者4人、震災関連死50人(平成
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5年8月1日時点)。被災棟数は3878棟、産業被害と公共施設被害を合わせた物的被害は約768億円と
なっています。
大槌町は一日も早い復興を目指し、復興町づくりの基本的考え方、将来像の実現に向けたビジョン、
復興町づくりの基本施策、復興に向けたプロジェクトの方向性を拠り所に、
「海の見えるつい散歩したく
なるこだわりのある美しいまち」をコンセプトに復興まちづくり事業を推進しています。
今回の自治体クラウド導入にあたっては、1
3町村で岩手県沿岸市町村復興期成同盟会 I
CTまちづく
りワーキング・グループを立ち上げ、参加自治体が等しくまちづくりを勉強できる場の事務局として大
槌町は取り組んできました。
平成23年12月20日に第一回会合、翌平成24年1月31日に第二回会合を実施し、同年2月29日の受付締
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切日までに、大槌町・野田村・普代村の3町村が名乗りを上げ、平成24年4月13日に交付決定を受けま
した。
交付決定以降の導入スケジュールは図4の通りです。RFPの実施と提案内容の評価を慎重に行ったこ
とから予想以上に時間が掛かりましたが、クラウド環境構築についてのスケジュールをベンダと調整し
遅れを吸収し予定通り平成25年4月1日に本番運用を開始しました。
導入に際しては、情報化推進室(当時)が中心となり、適切なアドバイスの下に原課が積極的に参加、
評価・導入・仕様決定に深くかかわるような仕組みを構築、さらにシステム開発ベンダが行うのと同様
のプロジェクト管理を実施。課題・進捗管理、システム移行体制の構築を行いました。
小規模の自治体が同時に自治体クラウドを導入すればコスト・住民サービスともにメリットが高くな
ります。しかも導入する自治体の数が増えるほどメリットは高まる特性があります。総務省も、
「複数
の自治体で共同管理することでコスト削減の効果は高まる」として2009年度から導入を促進しています。
大槌町は2011年の東日本大震災という悲しい体験を機に自治体クラウドを導入、職員一丸となり復旧復
興のスピードを加速しております。
図表の出典は、大槌町
(問い合わせ先)
大槌町 総務課 情報システム管理班 長瀬 和則 様
TEL:0193−42−8710
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