植物感染性線虫の、作物への感染機構とその応用に関わる共同研究 本研究では、植物感染性線虫感染過程における、植物細胞の脱分化、多核化、再分化過程における分 子機構に焦点を当て、その分子機構の全体像を明らかにし、植物遺伝子の新たな機能に関する知見を 得ることを目的としています。また、目のない線虫がどのように、感染先の植物の根を認識して、根 に誘引されるか、という仕組みについても解析しています。このように、線虫感染における分子基盤 を明らかにし、農業分野への応用展開を目指します。 1) )背景 植物感染性線虫の農業被害は年間数十兆円と試算されています。その線虫対策のためにも、線虫感染 機構の解析とその応用が求められています。なかでも、線虫感染に関わる研究はフランスが世界を リードしており、日本における分子生物学的研究は、残念ながら、研究者が不足しているのが現状で す。本 SAKURA プログラムでは、フランス側 INRA と日本側熊本大学の共同研究により、まずは、日 本の線虫研究の活性化を図ります。また、フランス側としては、フランス側の技術と知見の、アジア への展開の足がかりにするためにも熊本大学との連携を深め、さらなる研究の発展を目指しています。 2) )中間結果 これまでに、日本側から 1 名の教授と 2 名の大学院生をフランス側に派遣し、線虫感染過程に関わる 遺伝子の機能を、GFP 発現観察などにより確認しました。同事に、観察の技術などを習得し、日本側 での研究推進に必要不可欠な情報を得ました。また、線虫感染率の計算法など、相互の得意な技術に 関して意見交換し、お互いの技術向上を行いました。一方、フランス側からは、1 名の研究者と 2 名 の大学院生が訪日し、熊本県阿蘇にて、国際ワークショップを開催しました。名古屋大学や理研など からも線中堅九社が参加し、日本側研究者との研究交流を深めると共に、日本の線虫研究のコミュニ ティーの形成などについても議論しました。また、フランス側の研究者により、熊本大学における研 究状況の視察が行われ、日本側の研究者らとの共同研究打合せを行いました。これにより、来年度に 向けた課題も挙げられ、より、一層、線虫感染機構の解析にはずみがついています。 3) )期待される結果・効果 本共同研究の推進により、線虫感染機構の一端が明らかとなります。その知見を生かして、農作物を 改変することで、線虫感染に耐性の作物を作出することが可能となります。世界で年間数十兆円とい われる線虫の農業被害に対して、決定的な技術開発が可能となり、世界における経済波及効果は計り 知れないと考えられます。今後、本共同研究による新規知見・技術を基盤に、まずは、日本国内の線 虫研究コミュニティーの形成と熟成を促進し、同事に、応用研究も活発化し、企業との共同研究を通 した世界レベルでの応用が期待されます。 © 熊本大学・澤進一郎 熊本大学・理学研究科 澤進一郎
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