用語解説 No.145 - CEDEC 2015 - 「ディープラーニング」 (Deep

No.145 - CEDEC 2015 -
松野 美茂 今年の CEDEC は 8 月の末に行われた、
はるが、アメリカと日本で同じ技術がどの
参加者増で予定するキャパを遥かに超えて
今までは 9 月開催の感覚だったので少々調
様に捉えられ運用的にはどう違うのかをは
いたのであろう。
整が大変だった。
っきりと実感できる所は素晴らしいと思う。
それだけの急峻な人気の盛り上がりと事
その日程は 8 月 26 日の水曜日から 28
既 に ゲ ー ム 関 連 技 術 と Siggraph が 取
務局の現状認識のずれが今年の運営状況に
日金曜日までの 3 日間であった、場所は例
り扱う CG 関連技術とは一致点が多いの
は色濃く映し出されたいた様に思われる。
年取りのパシフィコ横浜を借り切っての開
で感覚的には日本にローカライズされた
ともかく盛況な今年の CEDEC の話題の
催となっている。
Siggraph と言った風情である。
中心はやはり VR 関係であろう。若干個人
個人的には例年の出張で 8 月のお盆休み
この CEDEC と言うイベントはどうやら
的な趣味も入っているのかも知れないがヘ
の頃は 1 週間ぐらいアメリカに居る事にな
年々拡大している様で今年の参加者は昨年
ッド・マウント・ディスプレイ(HMD)周
るので、帰って来てから直ぐに CEDEC で
に比べて非常に多くなっていた印象である。
辺の VR 技術が注目を浴びていた。
あると仕事を復帰させる暇が無くなるので
事実、セッション会場に満席で入れない
現在はオキュラス社の OculusRift とソ
ある。
と言う事態は今回は頻繁に起こっており事
ニーの ProjectMorpheus(現在正式名称
もちろん、お盆休みも取りずらい、非常
務局側も入りきれない会場のセッションを
は PlayStationVR)が 2 大巨頭として君
に困ったものであるが逆に Siggraph の記
急遽、別の部屋での生中継のリモート会場
臨している訳であるが、この 2 機種の最新
憶がフレッシュな内に CEDEC を見る事が
を用意したりしていたが全てセッションで
プロトタイプの体験会なども模様されてお
出来るので技術情報を含めて精密な比較が
は対応は難しく入れないセッションは今ま
り、その体験会用の整理券は朝一に並んで
出来る事はありがたい。
で以上に多かったのではないだろうか。
も入手が難しいくらい盛況であった。
出展者が重複する場合は内容が同じにな
もちろん組まれているセッション内容や
これらの HMD はアナウンスによると来
ってしまう位の両者の開催期間の短さであ
登壇者が人気だあった事もあるが、人気と
年を目指して鋭意開発中との事で、プロト
用語解説
「ディープラーニング」 (Deep Learning)
ディープラーニングは最近よく見ににするキーワードではない
学習する。
だろうか。いわゆる AI、人工知能方面の専門用語なのであるがキ
この段階の中で中間に存在する段階を帯域的に絞り込み補足す
ーワードが先行して実態が判りにくい。
る事によって抽象化を則した学習を行わせる事が肝で有る様だ。
基本的には人工知能業界で 30 年以上前に一時的に流行し注目
過去のコンピューティングパワーでは不可能であった計算負荷
を集めた技術であるニューラルネットと言う技術を応用し進化さ
も現代では易々こなせる事から実用化が進んだようである。
せた形がディープラーニングである。
現在も原理は解明されていない様であるが画像認識などには画
ニューラルネットが学習する事は 30 年以上前の研究で判って
期的な効果をもたらしている様であり今後の進化が期待されてい
いたが、ディープラーニングではこれを多段階に展開し各段階で
る。
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タイプはハード、ソフト(体験用)共に毎
ルとユニティはオキュラスなどの HMD デ
ちなみに今年の基調講演は 3 日間共に非
回バージョンアップを繰り返している。
バイスとの親和性も良いので HMD のテス
常に良いキャスティングがなされており、
その事からも最新事情を知る為には体験
トコンテンツ制作は 2 大ゲームエンジンを
それぞれの日程で一番大きい会場が満席に
するしかない訳である。この様に体験チャ
使って開発すると言う形がスタンダードに
なる状態であった。
ンスが少なく開発者や興味のある人々にと
なっている。
初日はコンセプト周りから今後の発展に
っては最新体験は飢餓感が有る。この為、
またこれらのエンジンはスマートフォン
関する展望を笑いを交えた軽妙な語り口で
展示が有ると考えられない位の熱狂的な事
などへの対応も有り幅広く今後も利用され
時間を忘れ、2 日目は誰もが知りたいテク
になってしまっている様である。
て行く事だろう。
ノロジーを駆使したアート系の表現の第一
この様なパワーを目の前で見せられると、
パブリックなゲームエンジンの登場が異
人者が話し、最終日は知らない人はいない
新しいメディアとして HMD による VR 体
なるプラットフォーム間のギャップとスト
現代のゲームのカリスマであり最前線で活
験がブレイクするのではないかと、ついつ
レスを埋めていってくれる為、各ゲーム会
躍する人物が現在と未来を語ると言う豪華
い感じてしまう。
社のプラットフォーム争いは殆ど見えなく
なものだった。
この様に書いてしまうと CEDEC は VR の
なってしまった。
これだけのセッティングを見る為に 3 日
カンファレンスの様に感じてしまうかも知
大きな括りでは PC ゲーム市場と家庭用
間通っても元が取れると思われる内容の充
れないが、
CEDEC 略称は「コンピューター・
プラットフォーム市場(およそプレイステ
実ぶりだった。
エンターテイメント・デベロッパーズ・カ
ーション 4 の一人勝ち)
、更にスマートフ
また個人的にはエンジニアリングセッシ
ンファレンス」から来ている訳でれっきと
ォン市場である。携帯ゲーム機はスマート
ョンの人工知能の未来が大当たりであった、
したゲーム?カンファレンスなのである。
フォンに駆逐されつつあるのでザックリと
めったに聞けないディープラーニングの構
もちろん名称通りお堅い学会的なもので
は、この 3 つの市場に絞り込まれた様であ
造から将来までを見通した講演内容が非常
もなく、コアなゲームカンファレンスでも
る。
に面白かった。
ないのではあるが、このあたりの広義な意
その中ではやはりスマートフォン市場向
色々な意味で久しぶりに血沸き肉躍る講
味でのコンピュターエンターテインメント
けのセミナーが非常に多かった様に思われ
演だった言う感想である。この様に現場の
と言う括りは日本人ならではかも知れない。
る、次に PC ゲームである。これらの市場
実際から極めたアカデミックな物までをエ
その緩さが CEDEC の魅力である。
は家庭用ゲーム機と違ってゲームを作り上
ンターテインメントで切り取った CEDEC
今年は VR と言っていたが、その他では
げる作法が厳しくは定められておらず、そ
と言うコンファレンスは日本でも稀有な存
既に定番の感がしてきたが、ゲームエンジ
の開発内容は実力主義である。そうなって
在として進化し続けているのではないだろ
ン回りも活発である。日本のゲーム会社は
来ると提供される開発ツールをある程度利
うか。
オリジナルエンジンを持つ会社が多いが今
用する事を保証されている現場とは全く違
今後も注目して行きたい大事なイベント
回辺りからはメジャーなゲーム会社も 2 大
う事になり、その為ノウハウなどの交換や
である。
ゲームエンジンであるアンリアルエンジン
意見や提言が活発になって行くのだろう。
4 とユニティを使い始めておりいよいよパ
現場は大変だと思うが別の意味では活性
ブリックに供給されるエンジンの時代が立
化もあり、小さな会社もチャンスがあると
ち上がる兆しを見せていた。
言う事になるので健全な方向への変化でも
特に 2 大ゲームエンジンであるアンリア
あると前向きに考えてみた。
Yoshishige Matsuno
VFX スーパーバイザー
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