EU Trends フランス大統領選でのマクロン旋風 発表日:2017年1月23日(月) ~社会党予備選はマクロン候補に有利に働こう~ 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理 03-5221-4527 ◇ フランス大統領選は、共和党予備選を制したフィヨン、国民戦線のルペン、オランド政権の元経済閣 僚で独立派のマクロンの3者がしのぎを削っている。マクロンのさらなる追い上げは、社会党予備選 を誰が制するか、中道派のバイルーが出馬を取り止めるかによって左右される。初回投票で最多票を 獲得した党内左派のアモンが社会党予備選を制する場合、マクロンが中道票を上積みする。マクロン が大統領の座を射止めるうえでの障害は、①テロ対策や安全保障分野での経験不足、②オランド政権 との距離。マクロン対ルペンの決選投票となった場合、全ての世論調査がマクロン勝利を示唆するが、 テロ対策や安全保障分野での同氏の手腕が不安視されれば、強硬路線を採るルペンに有利に働く。 22日に行われたフランス社会党の大統領選・予備選は、党内左派のアモン前教育相が36%余りの支持を 獲得、31%余りの支持で次点となった中道寄りのバルス前首相と共に、29日の決選投票に進出する(図表 1)。何れの候補が社会党の予備選を制した場合も、本選で大統領の座を勝ち取ることは難しい。だが、 どちらの候補が予備選で勝利するかによって、大統領選本選の行方を左右することになりそうだ。 大統領選本選は現在、共和党予備選を制した保守派のフィヨン元首相、極右政党の国民戦線を率いるル ペン党首、オランド政権の経済閣僚で若手・改革派の独立系候補マクロン氏の3人が熾烈な争いを繰り広 げている。11月下旬に行なわれた共和党予備選の直後はフィヨン候補とルペン候補の一騎打ちになるとみ られていたが、ここにきてマクロン候補が支持を伸ばしており、混戦の様相を呈している。各種の世論調 査では、従来トップを走っていたフィヨン候補がやや支持を落とし、僅かな差で追っていたルペン候補が 逆転、そこにマクロン候補が猛追している(図表2)。 中道派のマクロン候補の政策はバルス候補と似通っている。バルス候補が社会党予備選を制した場合、 中道票が両者の間で割れ、マクロン候補の支持は伸び悩む。他方、初回投票を制したアモン候補は、オラ ンド政権の改革路線に反旗を翻して閣僚を辞任した元閣僚で、全国民に一律月額600ユーロの基礎所得の提 供を訴える党内左派。同氏が社会党予備選を制した場合、左派内の中道票はマクロン候補に流れる。29日 の決選投票では、初回投票を制したアモン候補に勢いがありそうだ。18%余りの支持を獲得して第3位に 入ったモントブール候補は、アモン候補同様に党内左派で、同氏の支持票も決選投票でアモン候補に流れ る可能性がある。 現在の世論調査では、アモン候補が社会党の予備選を制した場合も、マクロン候補の支持はフィヨン候 補やルペン候補には届かない。だが、中道派の民主主義運動を率いるバイルー候補が出馬を取り止める可 能性も一部で取り沙汰されており、バイルー票の多くをマクロン候補が取り込むことに成功すれば、逆転 の目が出てくる。このところマクロン票が伸びている背景には、共和党内で右派のフィヨン候補と極右の 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 ルペン候補による決選投票の組み合わせを嫌った中道票や左派票がマクロン候補に流れていることが影響 している。このままマクロン候補が票を上積みすれば、決選投票に進出する上位2名に食い込む可能性が 出てくる。 39歳のマクロン候補は、オランド政権で経済顧問や経済閣僚に抜擢される以前は、公職経験や議員経験 のない元投資銀行家だ。党派色のない若手・改革派として人気を集める同氏だが、経済分野以外での政策 手腕は全くの未知数。大統領選が進むに連れ、テロ・外交・安全保障といった分野での経験不足を攻撃さ れる可能性が高い。また、オランド政権で経済閣僚を務めたマクロン候補は、国民から不人気な改革路線 を推し進めた張本人として糾弾される恐れもある。さらに、政権から距離を置くアモン候補が社会党予備 選を制した場合、大物閣僚などがマクロン支持に回る可能性がある。マクロン候補にとって社会党票を取 り込むことにつながる一方、独自候補としてのレゾンデートル(存在理由)を失いかねない。 決選投票の行方を占う各種の世論調査によれば、フィヨン候補、マクロン候補の何れが決選投票に進出 した場合も、ルペン候補が勝利する可能性は低いことが示唆されている(図表3)。ただ、英国のEU離 脱投票や米トランプ大統領誕生など、このところ「まさか」の投票結果が相次いでいるほか、世論調査に 現れない「隠れ極右支持」の存在も無視できない。今のところその可能性は低いが、ルペン候補が逆転勝 利する場合のシナリオとしては、①フィヨン候補と決選投票で対峙し、初回投票で左派を支持した有権者 が、保守派のフィヨン候補ではなく、社会的弱者に寄り添う政策を打ち出すルペン候補支持に回るケース、 ②マクロン候補と決選投票で対峙し、マクロン候補の経験不足や、テロ対策・安全保障面での手腕が不安 視され、ルペン候補の強硬路線を国民が選択するケースが考えられよう。 (図表1)フランス大統領選・社会党予備選の世論調査 【初回投票】 (%) 50 40 30 バルス モントブール アモン ペイヨン 20 10 2016/6/21 2016/7/4 2016/9/18 2016/9/20 2016/11/13 2016/12/1 2016/12/3 2016/12/7 2017/1/4 2017/1/5 2017/1/6 2017/1/11 2017/1/11 2017/1/13 2017/1/13 2017/1/13 2017/1/16 2017/1/16 2017/1/16 2017/1/16 予備選結果 0 【決選投票】 (%) 70 バルス アモン 60 50 40 2017/1/18 2017/1/16 2017/1/11 2017/1/6 2017/1/4 30 出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 (図表2)フランス大統領選の世論調査(初回投票) 【社会党候補がアモン】 (%) 40 メランション(左翼党) 30 アモン(社会党) マクロン(アン・マルシュ) 20 バイルー(民主運動) フィヨン(共和党) 10 ルペン(国民戦線) 2017/1/8 2017/1/6 2016/12/3 2017/1/4 0 【社会党候補がバルス】 (%) 40 メランション(左翼党) 30 バルス(社会党) マクロン(アン・マルシュ) 20 バイルー(民主運動) フィヨン(共和党) 10 ルペン(国民戦線) 2017/1/15 2017/1/8 2017/1/6 2017/1/4 2016/12/7 2016/12/4 2016/12/3 2016/11/30 2016/11/29 2016/11/28 2016/11/27 0 出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成 (図表3)フランス大統領選の世論調査(決選投票) ルペン(国民戦線) マクロン(アン・マルシュ) (%) 80 ルペン(国民戦線) (%) 80 50 50 40 40 40 30 30 30 20 20 20 2017/1/20 60 50 2017/1/6 60 2016/12/3 60 2016/4/15 70 2016/1/15 70 2016/4/14 2016/4/17 2016/5/16 2016/6/12 2016/6/17 2016/9/11 2016/11/25 2016/11/27 2016/11/28 2016/11/29 2016/12/3 2016/12/4 2017/1/6 2017/1/8 2017/1/20 70 マクロン(アン・マルシュ) フィヨン(共和党) 2017/1/20 フィヨン(共和党) 2017/1/6 (%) 80 出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成 以上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3
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