空き家活用による移住・交流の可能性 ―鋸南町を対象として―

法政大学大学院デザイン工学研究科紀要
Vol.5(2016 年 3 月)
法政大学
空き家活用による移住・交流の可能性
―鋸南町を対象として―
THE POSSIBILITY EXCHANGE AND MIGRANT BY USE OF VACANT HOUSES
: AS A TARGET AREA IN KYONAN TOWN
北井里沙
Risa KITAI
主査
渡邉眞理教授
副査
岡本哲志教授・稲葉佳子兼任講師
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
One of the methods to solve the regional decline is the use of vacant houses. In this paper, I will focus on
the relationship of the vacant house and the migrants, and target Kyonan Town which has beautiful scenery
and good access to Tokyo. First, I will understand the problem of the vacant house in Japan. Next, I will
understand the problem of the vacant house in Kyonan Town. Through interviews with people who live in
Kyonan Town and the migrants who live in Kyonan Town, I will understand problems which Kyonan Town
has.
Key Words : vacant house, population decline, immigration
1. 研究目的と背景
全国的に地域衰退が問題となっているが、空き家活用
3. 鋸南町の概要と空き家について
(1)町の概要
はその解決のひとつのツールとなっている。本論文では
鋸南町は千葉県房総半島西南の内房地域に位置してお
移住と空き家の関係に注目し、東京から近くにあり豊か
り冬でも比較的暖かい気候が特徴である。東京湾アクア
な自然が残る千葉県安房郡鋸南町を調査の対象とする。
ラインや富津館山道路により、東京都心と町内のインタ
鋸南町での空き家調査や地元住民・移住者へのインタビ
ーチェンジとは約 1 時間の時間距離で結ばれている。
ューを通して、町が抱える課題を把握する。
(2)町のあゆみ
鋸南町はかつて 17 の村に分かれていたが、町村合併
2. 空き家問題と活用事例について
を経て 1959 年に鋸南町が誕生した。
(1)人口減少と世帯数の減少
(2)世帯数の減少と住宅数の増加
(3)空き家の発生状況
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、2013 年の
空き家率は 13.5%であった。
空き家数は 820 万戸で、
5 年
前と比べて 63 万戸もの増加となった。空き家はさらに 4
種類に分けられ、その中で特に数が多いのは「賃貸用」
と「その他」の住宅である。その他の住宅とは相続した
実家などが該当し、2013 年からの 5 年間で約 50 万戸も
増加している。
(4)空き家がもたらす問題と放置の理由
図1
17 の村の境界
(5)空き家問題に対する2つの課題
(6)空き家利活用の事例
海水浴客は明治時代の半ばごろから多く見られるよう
になり、日中戦争が起こるまで町は順調な発展を遂げて
いた。しかし海水浴場としての価値が高まる反面、漁船
の数は数えるほどに減っていき、若者は漁師に見切りを
つけて都会へ出ていった。鋸南町は海側と山側で人口の
増減の仕方が異なっている。
5. 結論
鋸南町には多くの空き家があり、そのすべてを移住者
で解決することは難しい。しかし空き家にも別荘・移住
者が建てた住宅・代々守られてきた住宅など種類があり、
すべての空き家を維持する必要はないと考える。町全体
ではなく地区ごとに問題を捉え、それぞれに対する解決
方法を工夫することが今後の課題である。
本論文を作成するにあたり、多くの方に協力していた
だいたことを深く感謝いたします。中でも渡邉眞理先生、
図2
勝山海水浴場
岡本哲志先生、稲葉佳子先生には論文内容について、何
度もご指導いただきましたことをこの場でお礼申し上げ
(3)空き家調査と意向調査
空き家調査によると、町内には 729 戸の空き家がある
とわかった。そのうちの 68 戸がすぐに利活用可能なも
ます。またインタビューや資料の提供にご協力いただい
た鋸南町のみなさま、お世話になった全ての人に感謝申
し上げます。
の、57 戸が危険家屋であるとされている。空き家率を見
参考文献
ると地区ごとに大きな差があり、これには産業等の歴史
が関係していると考えられる。
1)『空き家問題』祥伝社新書,2014
2)小林秀樹(2012)「縮小社会における都市・家族・住
4. 移住者・地元住民インタビューを通して
(1) 区長へのインタビュー
インタビューを通して、空き家になるパターンは 2 種
まいのゆくえ」『住宅総合研究財団論文 38 号』(2012
年 3 月)
3)『住み替え・二地域居住
支援活動ガイドブック』有
類あることがわかった。ひとつは、別荘に人が来なくな
限責任中間法人すまいづくりまちづくりセンター連合
り空き家になるもの。もうひとつは死亡や施設入所によ
会(2009 年 3 月)
るものである。夫婦で暮らしていた世帯から入院や死亡
4)総務省『平成 25 年住宅・土地統計調査』2014 年
により 1 人いなくなると残されたほうは認知症になる
5)鋸南町『平成 27 年度町勢要覧』,2015 年
ことが多いという。また移住者のほとんどは定年後に来
6)鋸南町史編さん委員会編『鋸南町史』,1995 年
ており、新築を建てて住んでいる人が多いとわかった。
7)「鋸南町役場公式サイト」
(2)移住者・二地域居住者へのインタビュー
http://www.town.kyonan.chiba.jp/kyonan/