今月のトピックス 米国がミャンマー経済制裁を全面解除 みずほ銀行 国際戦略情報部 調査役 小原 綾子 はじめに 米政府は2016年10月7日、1997年 から発動していたミャンマーに対する経済 制裁を全面的に解除し、 「ビルマ制裁規制 （Burmese Sanction Regulation） 」 により 経済制裁対象 （SDN） リストに掲載していた 個人や企業、 団体を全面的に削除した。 すで に米政府はミャンマーへの一般特恵関税制度 （GSP） の再適用を明らかにしていたが、 これ に続く制裁解除の発表となった。11月にはア ウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相が 日本を公式訪問し、 民間投資の重要性を強 調し、 日本企業のさらなる投資を呼びかけた。 OFACの発表内容 米 財 務 省 外 国 資 産 管 理 局（ O F A C ） は、 オバマ大統領が10月7日付で大統領 令（Executive Order） 「 Termination of Emergency with Respect to the Actions and Policies of the Government of Burma＊」に署名したことを発表した。 その背 表2. 制裁解除の内容 表1. 無効となった Executive Orderと法律等 13619 （2012年7月11日） 「ビルマ制裁規制 （Burmese Sanction Regulation、BSR） 」 により 1 経済制裁対象 （SDN） リストに掲載されていたすべての個人や企業、 団体を削除 2 BSRにより凍結されていたすべての財産や利益を解除 ミャンマー産のヒスイやルビーそのほかそれらを含む宝石の米国輸入 3 禁止を廃止 バンキングや金融取引に関して、 ビルマ制裁プログラム下にあったす 4 べてのOFAC管理規制の無効 13651 （2013年8月6日） 5 Tom Lantos Block Burmese JADE （Junta’ s Anti-Democratic Efforts〈 2008年〉） OFACは米国の連邦規則集 （the Code of Federal Regulations） からBSRを削除 6 OFAC規則により必要とされていた米国務省への投資報告義務は 不要。今後は任意 13047 （1997年5月20日） 13310 （2003年7月28日） 13448 （2007年10月18日） 13464 （2008年4月30日） 表3. SDNリストから今回削除された主なミャンマー企業や個人（敬称略） Yuzana Company Limited Yuzana Construction Htoo Trading Company Limited Zay Gabar Company Air Bagan Holdings Pte. Ltd. Air Bagan Limited Aureum Palace Hotels and Resorts Asia World Co. Ltd. Asia World Port Management Co. Ltd Asia World Industries Ltd. Union of Myanmar Economic Holdings Limited （UMEH） Myanmar Economic Corporation （MEC） Myawaddy Bank Ltd. Max Myanmar Company Limited Max Singapore International Pte. Ltd. Hotel Max Hotel Chaung Tha Beach Resort Max Myanmar Constrution Co., Ltd 企業 Max Myanmar Gems and Jewellery Co., Ltd. Max Myanmar Manufacturing Co., Ltd. Max Myanmar Services Co., Ltd. Max Myanmar Trading Co., Ltd. Innwa Bank Ltd Directorate of Defense Industries （DDI） Asia Green Development Bank Ayeyarwady Bank 個人 Than Shwe （元国家平和発展評議会〈SPCD〉議長、元国軍トップ） Maung Aye （元SPCD副議長、国軍ナンバー2） Myint Swe （元ヤンゴン管区首相、現副大統領） Tay Za （Htooグループ代表） Htay Myint （Yuzanaグループ代表） Khin Shwe （Zay Gabarグループ代表） Steven Law （別名Tun Mying Naing、Asia Worldグループ代表） Lo Hsing Han （Asia Worldグループ創業者） Zaw Zaw （Maxグループ代表） 景として、 2016年9月のオバマ大統領とアウ ついてO F A C 当 局により凍 結されてい 整備を進め、 国際社会がともにミャンマーと成 ン・サン・スー・チー氏とのワシントンでの会談 るミャンマー国 民や 団 体 への 効 果は及 長していくこと、 そしていち早く支援を続けてき でのアナウンスに沿ったものであるとして、 こ ばないとして、こうした対 象 者は引き続き た日本としても、 ミャンマー企業とさまざまな形 の数年でミャンマーが実施してきた広範囲に SDNリストに残っている旨を明らかにして で連携を進めることが重要になってこよう。 わたる変革、 そして文民政治の実現と政治改 いる。S D Nリストから今 回 削 除された主 革のプロセスが順調に進んできたことをあげ なミャンマー企 業や 個 人は表３の 通り。 ている。 おわりに またOFACテロ金融犯罪担当のAdam J. 米政府の経済制裁プログラムの影響によ Szubin氏は 「ビルマはこの数年で （軍政から） り、各種インフラ整備が他のASEAN各国か 文民が率いる民主的な政権を （国民が） 選択 ら後れをとっているのは事実である。一方で、 するなど大きな進歩を見せた」 と述べたうえで、 本制裁の成果として軍事政権が米政府へと 「経済と金融制裁解除はさらなる貿易と経 歩み寄り、2012年からはテイン・セイン大統 済成長への支援となるだろう。 また米財務省 領が各種政策を打ち出して実行し、 日本企業 は引き続き金融システムの安全保護の観点 を含めた外国企業のミャンマーへの投資が から反マネーロンダリング制度の実施のため 増加した。 ビルマと協働していく」 と発表した。OFACは 2012年の経済制裁緩和以後、 ミャンマー ミャンマーに発出してきた制裁に関連した各 は幅広い分野で海外からの支援を得ながら 種Executive Order （E.O.） と関連する法律 多くの変革を遂げてきている。今回の経済制 の無効を発表している。該当となったE.O.と 裁の解除により一層の外国資本による投資 法律を表１に、 またそれにより制裁解除された 拡大や経済成長が期待される。一方で米国 内容を表2にまとめる。 企業の参入による競争も始まり、 日系企業に ただし、 ビルマ制 裁プログラムの今 回 とって一層競争が激しくなることが予想され の 措 置 は 、麻 薬 や 北 朝 鮮 関 連 取 引に る。今後もスピードを速めながら各種インフラ 参考. ミャンマーの近年の動き ミャンマー軍政は「Burma」から 「Myanmar」へ国名（英 1989年 語） を変更 軍政がアウン・サン・スー・チー氏を自宅軟禁 総選挙を実施し、野党だった国民民主連盟 （NLD） が全 1990年 議席の約8割を確保し圧勝したが軍政は政権移譲を拒 否 1995年 アウン・サン・スー・チー氏、 自宅軟禁から解放 米国、対ミャンマー経済制裁を実施 1997年 国家法秩序回復評議会（SLORC） を国家平和発展評 議会 （SPDC） に改組 地方遊説を阻止されたアウン・サン・スー・チー氏が再び 2000年 自宅軟禁状態に 2002年 アウン・サン・スー・チー氏、 自宅軟禁を解かれる 2006年 首都がヤンゴンからネピドーへ遷都 反政府デモを取材中の日本人ジャーナリストが射殺され 2007年 る 2003年から自宅軟禁下に置かれていたアウン・サン・ 2010年 スー・チー氏が再び自宅軟禁を解かれる テイン・セイン氏が大統領に就任。国会平和発展評議会 2011年 が解散 米国、経済制裁緩和を発表 2012年 オバマ大統領、米国の現職大統領として初のミャンマー 訪問 日本、安倍首相が首相として36年ぶりにミャンマーを公 2013年 式訪問 11月の総選挙でアウン・サン・スー・チー氏率いる国民民 2015年 主連盟 （NLD） が圧勝し、政権移行へ 憲法の規定によりアウン・サン・スー・チー氏の大統領就 任は断念、ティン・チョー氏が大統領に就任し、 スー・チー 2016年 氏は 「国家最高顧問兼外相」 に就任 米政府は10月7日、 ミャンマーに課していた経済制裁を全 面的に解除 ＊米政府は国名変更を認めず、現在でも 「ビルマ （Burma） 」表記を続けている 22 mizuho global news ｜ 2017 JAN&FEB vol.89
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