家畜排せつ物の堆肥化

2016 年度
第 17 回早稲田大学リンアトラス研究所セミナー
2017 年 1 月 24 日
家畜排せつ物の堆肥化
一般財団法人 畜産環境整備機構 参与・麻布大学 獣医学部 客員教授 羽賀清典
1. 畜産と家畜ふん尿と資源
畜産は美味で高品質で栄養価の高いタンパク質食品を作り出す産業である。しかし、投
入原料である飼料が直接に畜産物になる訳ではなく、家畜・家禽などの生物を介さなけれ
ばならない。飼料を大量に使用するわりには生産物の量が少なく、いきおい廃棄物(家畜
ふん尿)の量は多い。環境汚染問題を引き起こさないよう適切にふん尿を処理しなければ
ならない。資源循環型社会をむかえた今、環境保全も大事だが、廃棄物を資源として利用
することが重要である。
2. 時代の流れと家畜ふん尿処理・利用技術の流れ
家畜飼養頭羽数の増加にともない、1960 年ころから家畜ふん尿による水質汚濁や悪臭問
題など畜産環境問題が顕在化し(図1)
、環境汚染対策が本格的に取り組まれた。1973 年秋
の石油ショックによって、ふん尿処理方法は省資源・省エネルギーの方向へシフトした。
1999 年には「家畜排せつ物法」が制定され、素掘り・野積みといった不適切な処理をなく
し、堆肥化などの適切な処理のため施設整備が進められてきた。堆肥化施設が整備された
結果、生産された堆肥の利用が滞る事態もあり、耕種農家のニーズに即した堆肥を生産し、
耕畜連携による堆肥の利用促進が図られている(農林水産省,2016)。
図1
時代の流れと家畜ふん尿処理・利用技術の流れ(羽賀,2012 を改変)
3. 家畜ふん尿の処理・利用
家畜ふん尿が畜舎から搬出されるときの性状は、固形状(含水率 72%以下)
、スラリー状
(含水率 80~92%くらい)
、汚水(固形物濃度 5%以下)の 3 種類で、その性状に合わせて
処理・利用方法も異なってくる(図2)
。処理方法としては、固形物は堆肥化処理が主体と
なっており、90%以上のふん尿が堆肥化処理されている。尿汚水は液肥として利用できな
いことが多く、70%以上が活性汚泥処理(汚水浄化処理)して河川等に放流されている。
図2
家畜ふん尿の処理・利用方法-固形物、スラリー、汚水の3つの性状別-
農林水産省の推計では、現在の家畜ふん尿量は年間約 8,000 万トンとなっており(農林水
産省,2016)、堆肥化処理が基幹技術となっている。欧米諸国が液状のふん尿(液肥、スラ
リー)利用を基幹技術とし、それを施用するために十分な圃場面積を畜産が確保すること
とは異なる(松中,2012)。堆肥は有機物を含む窒素資源(松本,2015)、リン資源(伊藤,
2015、大竹,2016)としての価値は高い。また、畜産の入口の環境負荷低減飼料(杉中,
2013)から、出口の混合堆肥複合肥料(加藤,2013)まで成分調整の試みが進められてい
る。
参考文献
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加藤哲郎(2013)堆肥と普通肥料を混合した普通肥料,畜産環境情報,第 48 号,17~12.
松本成夫(2015)国レベルの食飼料システムにおける窒素フローからみた家畜ふん尿の農
地利用-農地にとって畜産は重要なパートナー(国際土壌年 2015),畜産環境情報,第
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松中照夫(2012)家畜ふん尿処理物の環境汚染防止からみた施用基準,新編 畜産環境保全
論(押田敏雄・柿市徳英・羽賀清典共編)156~158,養賢堂.
農林水産省生産局畜産部畜産振興課(2016)畜産環境をめぐる情勢(平成 28 年 10 月)16pp.
大竹久夫(2016)枯渇リン資源の循環による自給体制の構築~生命の栄養素の管理をめざす
国内外の動き~,畜産環境情報,第 65 号,7~12.
杉中
求(2013)飼料からの畜産環境対策-環境負荷低減飼料を利用した窒素・リン排せ
つ量の低減-,畜産環境情報,第 49 号,1~10.
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