Aon Benfield Reinsurance Market Outlook 再保険マーケット・アウトルック Record Capacity Sufficient to Meet Current Demand Increase and Future Innovations キャパシティは記録的水準にあり、足元の需要増や将来のイノベーションへの対応が十分可能 January 2017 Risk. Reinsurance. Human Resources. もくじ エグゼクティブ・サマリー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 再保険供給は、新たなピークへ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 格付基準の変更が現実味を増してきた; 影響=わずかな需要増; 再保険の資本コスト率の低下 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 規制に関する最新動向; 影響=わずかな需要増. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 2016年の世界の巨大自然災害による保険損害は、 2012年以降で初めて過去10年の平均を上回った . . . . . . . . . . . . . 15 山火事の年間保険損害は、大規模火災の影響で、 過去最大を記録 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 問い合わせ先 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 エグゼクティブ・サマリー:キャパシティは 記録的水準にあり、足元の需要増や 将来のイノベーションへの対応が十分可能 元受保険者は、資本の代替としての再保険を最大限に活用し、成長分野の拡大やイノベーション推進への努 力を継続しているが、供給(再保険者の資本)はかつてないほど潤沢で、再保険に対する需要をキャパシティ が上回る状態が続いている。 再保険資本は引き続き増加している。前年末から9か月間で5.3% 需要増ではないが、世界のいくつかの地域では、元受 増加し、2016年9月末には5,950億米ドルに達している。この期 保険者が複数年再保険契約の比重を高めようとする 間伝統的再保険資本の増加率は4.7%であったのに対し、代替 傾向がみられた。再保険者の側にも出再者のプログ 的資本は9.6%増加したが、それでもこの代替的資本の増加率 ラムへの参加を確定したいとの思惑が働いた。 は過去5年間の最低水準であった。この結果は、伝統的再保険 者が、代替的資本のマーケットシェアの拡大を食い止めるため、 2016年に大規模自然災害がもたらした保険損害は530億米ド 行使可能な様々な対抗手段を講じていることを示唆している。 ルに上った。2012年以来、初めて過去10年の平均額を超える 額となり、過去25年間で、6番目の規模となった。一方、特に新興 業界全体の再保険需要は拡大している。しかしその拡大は、限ら 国において、無保険の損害がいわゆるプロテクションギャップの れた地域や保険種目(LOB)に限定されている。2017年1月更改で 問題を浮き彫りにするという構図に変わりはない。また、損害の は、米国とヨーロッパの元受保険者がプロパティ・キャタストロフ・ 多くが、対流性暴風雨、洪水、火災(山火事)など、一般的に出 キャパシティの追加手配を試みた。再保険条件が元受会社にとっ 再されることの少ないペリルによってもたらされたことで、再保険 て改善したことや、新たな規制上の要件、進化を続ける格付基準 市場への大規模自然災害の影響は軽減されることとなった。 への対応がその背景にある。住宅ローンやサイバーなど新たな商 品は引き続き伸びている一方、もともと保険普及率が低い地域で 2017年の今後の再保険更改に目を向けると、2016年第4四半期に の元受保険の浸透は遅々として進まず、再保険需要も停滞してい おけるM&Aの活発化と、今後の金利上昇の可能性は、潜在的な再 る。ただし、元受保険者がオーガニックなもの(既存の経営資源を 保険キャパシティの縮小を示唆する要素とみることができるかもし 利用したもの)とノンオーガニックなもの(他社との提携や他社の れないものの、こうした影響が表面化するには時間がかかり、2017 買収などを通じたもの)の両方で革新的な保険テクノロジーに投 年の1月更改でみられたような元受保険者に有利な再保険条件を 資する形で、成長への意欲を示し始めたことは注目に値する。 もたらす資本過剰の状態がしばらくは続くと弊社ではみている。 注記: この再保険マーケット・アウトルック・レポートは、それぞれの出再者のマーケットにおけるレート・オン・ライン、キャパシティ、保有レベルの変化等に関する弊社の見解と共にお読み下さい。また個 々のプログラムについては、過去の取引関係、キャパシティ需要、損害履歴、集積管理、データの質、モデルの適合性、既存契約マージン、及びその他の要因等により、マーケット全体のアウトルックとは 異なる場合があり、個別の詳細については弊社の専門の担当者がいつでも皆様のご質問への対応をさせて頂きます。 Aon Benfield 1 再保険供給は、新たなピークへ 2016年9月30日までの9か月間で、再保険資本が5.3%増加 再保険引受をサポートする自己資本は、ピークの状態に し、5,950億米ドルに達したと弊社ではみている。この数値は、元受保 あり、また、非常に有利な条件で、債券の発行も可能とな 険者がリスク移転にあたって利用できる資本の目安を示しており、伝 っている。この結果、現段階では、再保険需要に対する 統的再保険市場と代替的再保険市場の両方の数値を含んでいる。 潤沢なキャパシティが存在する状況となっている。 図表1:世界の再保険資本の推移 Traditional Capital Alternative Capital 600 USD (billions) 400 505 470 400 410 385 340 6% -17% 455 -3% 18% 11% 18% 368 388 378 461 447 428 5% -2% 6% 595 565 7% 300 200 575 540 500 Global Reinsurer Capital 511 493 490 517 321 100 0 17 22 19 22 23 27 44 50 64 72 78 FY 2006 FY 2007 FY 2008 FY 2009 FY 2010 FY 2011 FY 2012 FY 2013 FY 2014 FY 2015 9M 2016 出典: Aon Benfield Analytics 2 Reinsurance Market Outlook | January 2017 伝統的再保険資本は、債券の評価益がかさ上げしている 伝統的再保険資本は、前年末から2016年9月末までの9か月間に ABA対象会社のコンバインドレシオは、90.9%で、前年同期の88.4% 4.7%増加し、5,170億米ドルとなった。再保険者の強固な利益と、 を上回った。株主資本利益率(ROE)は、9.1%で、債券評価益が利益 この間の金利低下で債券ポートフォリオの含み益(資本直入され 水準に大きく貢献したものの、前年同期の10.2%を下回った。この水 る評価益)が発生したことが資本増の要因である。Aon Benfield 準はしかし、リスクフリーレートとの比較ではまだ魅力的である。配当 Aggregates (ABA;弊社が編纂する主要再保険者の統計)の対象 や自社株買いを通じた積極的な資本管理が活発なため、資本基盤 となる再保険者の中で、1社を除くすべての再保険者が資本を増加さ の拡大に向け収益の果たす役割は限定的であった。 せている。 図表 2:再保険セクターの業績 Expense-Only Non-Suit Settlement Suit—No Trial Expense-Only Suit—Trial Non-Suit Settlement Suit—No Trial Suit—Trial Ordinary Investment Return Combined Ratio 6% 110% 105% 4% 100% 95% 2% 90% 85% 0% 80% 2008 2009 2010 Expense-Only 2011 2012 2013 Non-Suit Settlement 2014 2015 9M 2016 Suit—No Trial 2008 2009 2010 Expense-Only Suit—Trial 2011 2012 2013 Non-Suit Settlement 2014 2015 9M 2016 Suit—No Trial Suit—Trial Valuation: Price to Book Return on Equity 14% 1.2 12% 1.1 10% 1.0 8% 0.9 6% 0.8 4% 0.7 2% 0% 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 9M 2016 0.6 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 9M 2016 出典: Aon Benfield Analytics、各保険会社の財務諸表 Aon Benfield 3 代替的資本の伸びは、担保付再保険が牽引 保険リスクが、引き続き資本市場の投資家の投資意欲をかきたてて 代替的資本は、前年末から2016年9月30日までの9か月で9.7%の いることに変わりはない。期待リターンは減少したが、他の商品との比 伸びを示したが、その主要因は、担保付再保険の拡大である。2016 較では優位にあり、また、他の資産クラスとの相関もない(極めて極端 年中に満期を迎えたキャットボンドのいくつかが更改されず、結果とし な場合を除いて)ことが、その要因であることにも変わりはない。 Valuation: Price to Book て、2016年の新たな発行額は、2015年の69億米ドルを下回る60億 米ドルとなった。 図表 3:代替的資本の推移 Cat Bonds 80 Sidecar ILW Collateralized Re Limit (USD billions) 70 60 50 40 30 20 10 0 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 '14 '15 9M'16 出典: Aon Securities, Inc. 4 Reinsurance Market Outlook | January 2017 新たなキャパシティ 中国やインドなど急速に発展する市場では、規制の変化と資本供給 ロイズ全体の引受キャパシティは2017年、はじめて300億ポンドを上 力があいまって、新たな再保険会社の設立が、活発になっている。直 回った。ただ、2016年に比べて10%の増加は、そのほとんどが英国の 近の例では、Qianhai Re、Nine Merchants Re、 ITI Reなどが挙げら EU離脱決定以降のポンド安によるものと言える。ロイズでは、50%以 れる。ロイズでも2017年からの引受開始に向けて4つの新たなシンジ 上のビジネスの引受が米ドル建てだからである。 ケートが立ち上げられたが、このうちの3シンジケートは、真に革新的と 言える。また、4シンジケートすべての出資に、程度の差はあるが、伝統 的なロイズの「ネーム」が参加している。 図表 4:2017年の新規ロイズ・シンジケート マネージング・ エージェント 詳細 1438 Capita シャリア法に準拠する‘Cobalt’ シンジケート。経営陣は、会長がMax Taylor、CEOがRichard Bishop、アクティブアンダーライターがAnne Plumb (元Novae)。出資者は、Capita、Armour Group、 Bank of London and the Middle East、およびスタッフである。スタンプキャパシティは7,500万ポン ドで、その一部は再保険資本とネームがサポートしている。 2689 Asta アクティブアンダーライターのPeter Mills(元Endurance Re)が率いる‘Verto’ シンジケー ト。Hampden(メンバーエージェント)が募るネームが出資。他のシンジケートに資本担保付のクオー タシェアキャパシティを提供する。当初のスタンプキャパシティは5,000万ポンド。 2988 Brit 第三者資本が出資するシンジケート2988は、Britシンジケート2987が引き受ける多様なスペシャル ティ(再)保険の並列ラインあるいは上乗せラインの引受を行う。アンダーライティングはBritの既存チ ームが行う。当初のスタンプキャパシティは、5,500万ポンド。 Asta 旧Cathedralの経営陣(CEOのPeter Scales、CFOのJohn Lynch、アクティブアンダーライターの Nick Destro)が率いる‘Blenheim’ シンジケート。米国、インターナショナル・ビジネスの特約、任再・ 元受、スペシャルティライン等を引き受ける。キャパシティは1億5,000万ポンドで、Nephila (33%)の 他、投資家やネームなどが出資する。 シンジケートナンバー 5886 出典: Aon Benfield Analytics Aon Benfield 5 合併と買収(M&A) 2016年の最初の9か月は沈静化していたものの、第4四半期にはM&A活動が再び活発となった。現在の市場ダイナミックスからみて、2017年には 業界内の統合がさらに活発になると考えられる。 図表 5:2016年に発表されたスペシャルティ分野のM&A 買収会社 被買収会社 見込保険料 (百万米ドル) AmTrust Finan- ANV cial Holdings 710 Canada Pension Plan Ascot at Lloyd’s Investment Board (CPPIB) SOMPO ホールディン グス 1,100 Endurance 1,950 Shenzhen Qianhai Financial Holdings Asia and Shenzhen Capital Re Investment Holdings Argo Group Ariel Re Liberty Mutual Ironshore Fairfax ~800 Allied World 420 ~2,200 ~3,000 出典: Aon Benfield Analytics 6 Reinsurance Market Outlook | January 2017 買収額 (百万米ドル) 203 846 6,300 1,000 235 3,000 4,900 発表日 株価純資産 倍率 備考(買収の理由、背景等) Apr 2016 §§ AmTrust Financial は、ロイズ・シンジケート0044、1206、2526 に出資 §§ ANV Holdings は、シンジケート0779、1861、5820に出資して 1.1x いる §§ このM&Aは、2016年11月に完了したが、その背景は、スケール メリットとロイズにおけるプレゼンスの強化であった Sep 2016 §§ AIGは、Ascot managing agency の20%の保有株式とAscot Corporate Name Ltd の保有株式の全てをカナダ年金基金投資 委員会(CPPIB)に売却した ~1.6x §§ このM&Aは、2016年11月に完了し、AIGは、売却金2億4,000 万ドルを受領するとともに、これらの事業を支えてきた資本6億 2,500万ドルを取り崩した Oct 2016 §§ 海外展開による収益向上 §§ 資本効率と修正連結利益(ROE)の改善 1.36x §§ 世界で10位以内の上場保険会社への布石 §§ 完了予定は、2017年3月末 Oct 2016 §§ 買収会社はどちらも中国政府が所有している §§ Asia Capital Reは左記の買収会社による初の海外再保険会社 1.25x への投資で、その目的は中国以外における投資拡大 §§ 完了予定は、2017年1月末 Nov 2016 §§ 多様化策の推進と新たな可能性の追求 §§ ロンドンとバミューダ拠点におけるクリティカルマス(収益をもたら 1.25x す一定の取引量)の構築 §§ ロイズで15番目の規模 §§ 完了予定は、2017年第1四半期 Dec 2016 §§ Liberty Mutualの50億米ドル規模のグローバル・スペシャルテ ィ・ビジネスにさらにスケール、エクスパティ―ズ、イノベーショ 1.45x ン、市場アクセスを補強する §§ 完了予定は、2017年第1四半期 Dec 2016 §§ ワールドクラスのスペシャルティ保険および再保険引受拠点を 構築する 1.35x §§ Fairfaxのグローバル拠点(特に米国市場)の強化 §§ Allied Worldは、Fairfaxグループの中で、独立性を維持する §§ 完了予定は、2017年上半期 再保険キャパシティの今後の見通し 金融危機が世界の再保険市場に甚大な衝撃を与えて以降、先進国 2016年12月14日、米国連邦準備理事会は、米国経済の拡大基 では超低金利が続いている。その主な影響は以下に表れている。 調を考慮し、主要政策金利(フェデラル・ファンド金利)の誘導目標 §§ バランスシート上の資本が、債券ポートフォリオの含み益(評価 益として資本直入される)の増大によってかさ上げされている。 年前の0.25%ポイントの引き上げは、誘導目標がゼロから0.25%であ を、0.25%ポイント引き上げ、年0.50~0.75%にすることを決定した。1 った7年間の超低金利時代の終焉を意味した。もし、こうした動きが、 §§ 投資利回りは、約40%下落している。 政策金利のさらなる正常化を意味するのであれば、それは、世界の再 保険セクターに大きな影響を与えることとなる。 §§ アセットクラスの中で、保険リスクを対象とした商品の比較優位性 金利上昇は、債券ポートフォリオの評価損を生み、これは損益計算書 が高まっている。 上の利益と、バランスシー上の資本の部の両方に悪影響を及ぼす可 §§ トータル・リターン戦略に基づく新たなビジネスモデルが出現し ている。 能性がある。さらに、再保険以外への投資が、投資家にとってより魅 力的に映ることとなる。ただ、プラス面をみれば、下降を続けた新規資 金の利回り水準に徐々に歯止めがかかり、このことが超低金利を背 米国と英国の長期金利は、昨年夏の最低レベルからほぼ100ベーシ 景として弾みがついたM&A活動をいくぶん抑制する可能性はある。 スポイント上昇した。政治情勢が、インフレ期待を生んでいるからであ る。ユーロ圏、日本、スイスの長期金利は、わずかな上昇がみられた 連邦準備理事会は、極めて不透明な経済見通しと、トランプ政権下で ものの、ほぼゼロに近い状態が続いている。再保険者は、第4四半期 の消費の増加を考慮し、政策金利の穏やかな上昇(即ち、2017年に には、債券ポートフォリオに関する評価損を計上する見込みで、この評 は1.4%、2018年には2.1%、2019年には2.9%)を見込んでいる。この 価損は、損益計算書上の利益とバランスシート上の資本の部の双方 期間に対応するGDP増加率とインフレ率は、それぞれ2.1%、1.9%と Return on Equity に影響を与えるものとなる。 見込まれている。 図表 6:10年国債の利回り Eurozone UK US Japan Switzerland 6% 5% 4% 3% 2% 1% 0% -1% 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 出典: Aon Benfield Analytics Aon Benfield 7 格付基準の変更が現実味を増してきた; 影響=わずかな需要増; 再保険の資本コスト率の低下 11月14日、A.M. Bestは、米国損保用の確率論的BCARモデルの基準案と、BCRM(Best’s Credit Rating Methodology:格付手法)の基準案 に関する改訂版を発表した。また、米国の生命保険会社・医療保険会社用と、米国以外の保険会社用の確率論的BCARの基準案も、同日に発 表された。 A.M. Bestは、3月の最初の基準案から大幅な変更を行った A.M. Bestが、最初の基準案発表以後、非公式に言及していた99.6% うになると考えられる。 信頼水準(再現期間250年)が追加され、99.9%信頼水準(再現期間 3月の当初案においてA.M. Bestは、巨大自然災害のリスク・チャージ 1,000年)が削除された。99.8%信頼水準(再現期間500年)は、計算 はするが公表されず、ERM評価において、テールリスクの管理状況の 把握などに使われることとなる。A.M. Bestは、バランスシート評価にお いて、99.8%信頼水準、99.9%信頼水準を削除する理由を、このレベル でのデータの一貫性や、入手可能性をグローバルベースで確保するこ とが難しいためと説明している。 を、従来のように利用可能資本から控除するのではなく、B8リスクとし て、必要資本に加えた。これは、巨大災害リスクを他のリスクと一貫性 のある形で扱い、信頼水準が変わっても利用可能資本は同じ水準に 維持するのが目的であった。B8リスクは、当初、他のリスクとの相関 を考慮されておらず、全額が正味必要資本に加算されていた。A.M. Bestは、今回、相関のフォーミュラを再検討する中で、巨大災害リス 公表されるベースでは、99.6%信頼水準が、BCAR評価における「非 常に強固(Very strong)」もしくは「最も強固(Strongest)」を得るため に必要なピークの再現期間となる。99.6%信頼水準の下で保険会 社が「最も強固(Strongest)」の評価を得るためのスコアは25%以上 であることが求められ、「非常に強固(Very strong)」のスコアを得る ために必要なスコアは10%以上であることが求められる。弊社が調 査の対象としてサンプリングした保険会社の97%が「強固(Strong)」 以上の評価を得ていると仮定すると、200年あるいは250年の再現 期間に対応する再保険の購入が、今までよりも重要な意味を持つよ クを他のリスクと分離することは、巨大災害リスクと他のリスク(投資、 信用、保険料、リザーブ)の相関を無視することになる点を考慮、相関 のフォーミュラに加えることとした。この結果、他の条件が不変であれ ば、正味必要資本へのインパクトが減少することとなった。しかし、保 険会社への恩恵は、巨大災害リスク・チャージが従来は税引き後(従 って、米国の税金を支払う会社は、35%の税金が控除されていた)で あったのが、税引き前に変更されたため、その分減少することとなっ た。A.M. Bestは、税効果を削除した理由について、必要資本の計算 における他のリスクコンポーネントが税効果を考慮していないため、 一貫性を維持するための措置であると説明している。 図表7:確率論的BCAR:当初の基準案と今回の改訂版の比較 BCAR 評価 当初案 改訂版 ICR (発行体格付) Strongest >0 at 99.9 >25 at 99.6 a+ / a A Very Strong >0 at 99.8 >10 at 99.6 a / a- A / A- Strong >0 at 99.5 >0 at 99.5 a- / bbb+ A- / B++ Adequate >0 at 99 >0 at 99 bbb+ / bbb / bbb- B++ / B+ Weak >0 at 95 >0 at 95 bb+ / bb / bb- B / B- Very Weak <0 at 95 <0 at 95 b+ and below C++ and below 当初基準案は、2016年3月10日、 改訂版は、2016年11月14日にリリース 8 FSR (財務格付) Reinsurance Market Outlook | January 2017 弊社では、125社以上の2015年の財務諸表を使って上記の変更がも サンプリングによる弊社の試算から判明した主要なポイントは以下の たらす影響を試算した。下記の表は、スコアの中央値を示している。そ とおりである。 れぞれの信頼水準における差異は、それぞれ3から7ポイントとなって §§ 巨大自然災害のエクスポージャーが大きい保険会社では、99.6% いる。ただし、この数値は、上記の変更の影響を受けないカジュアルテ ィー種目専門の保険会社も含んでいる。 信頼水準のBCARで他の信頼水準を上回る変化(上昇)がみら れる。99.6%信頼水準における最も大きな上昇は20ポイントに及 んだ。 §§ 現行モデルで巨大災害リスクに関する税効果の恩恵を受けていな かった会社は、B8リスクが相関フォーミュラの対象となったことで 上昇幅がより大きくなった。 §§ 99.6%信頼水準でスコアが低下したのは、税効果の削除の影響が 相関の考慮の影響よりも大きかった会社だが、それらの会社は全 体の10%以下である。他のリスクに比べて巨大自然災害リスクが大 幅に上回る会社にこの傾向がみられる。 当初の基準案 Rating Current 95% 99% 99.5% 99.6% 99.8% A.M. Bestは、すべてのペリルに関する再現期間100年の正味損害 (復元再保険料を控除)を資本から控除するストレス・テスト(関連す A++ / A+ 219 64 43 31 25 18 A 276 73 61 56 54 43 A- 241 69 55 43 36 33 B++ 189 60 44 38 36 17 は、B8リスクと同じ税引き前のベースとなっている。これは修正後資本 B+ 171 66 49 37 18 (64) に影響する他の要素(即ち、未経過保険料、リザーブ、債券など)がす 55 46 39 32 べて税引き後であることと整合性がないと、弊社は考えている。弊社 All 248 69 PMLは税引き後で計算するべきとの声が業界からも挙がるのではな いかと考える。 今回改訂された基準案 Rating A++ / A+ 信頼水準によって変動するB8リスク(巨大災害リスク)に追加で行わ れることとなる。今回の基準案では、この巨大災害のストレスイベント は、巨大災害のストレス・テストにおいても、資本から控除される正味 る信用リスクとリザーブリスクへの影響を含む)を継続する。これは、 Current 95% 99% 99.5% 99.6% 99.8% A.M. Bestは、BCARは、格付評価全体の中のひとつのコンポー 219 67 51 37 31 23 ネントにすぎないという事実に変わりはないとの考えを示している が、BCARは、バランスシートの強靭性評価の主要な指標であり、 A 276 75 64 59 56 49 A- 241 72 59 48 43 35 B++ 189 64 49 43 40 15 B+ 171 67 49 37 26 (42) パティ保険者にとってメリットをもたらすこととなっている。さらに詳し All 248 72 59 49 45 35 い状況については、弊社の以下のレポートをご参照いただきたい。 保険会社が資本管理の戦略を構築するために極めて重要な指標 である。今回の基準案の改訂は、概してプロパティ保険会社、特に、 再現期間500年あるいは1,000年のPMLが大幅に増加するプロ Evolving Criteria Bulletin – Update on US Stochastic-Based BCAR and Best’s Credit Rating Methodology (BCRM) (http:// thoughtleadership.aonbenfield.com/Documents/20161116-abanalytics-evolving-criteria-bulletin-US-PC-BCAR-and-BCRMnovember-2016.pdf) Aon Benfield 9 ほとんどの会社にとって再保険の資本コスト 率が低下する A.M. Bestによる米国以外の保険会社用 BCARモデル基準案公表 今回改訂された確率論的BCARモデル基準案の下では、現行の 米国以外の保険会社用BCARモデルは、米国またはカナダの法 BCARに比べ、8割の会社においてキャタストロフ再保険の有効 定財務諸表の提出義務のない全ての会社に適用される。このモ 性が向上する。その大きな理由のひとつは、保険会社が再現期 デルは、損保と生保・医療保険の双方に適用することができる。こ 間100年の風水災PMLを上回る再現期間200年あるいは250年 のモデルの基礎となる部分は、米国モデルのフォーマットや係数 の全ペリルのPMLに対して手配する再保険によって、定量的なベ を踏襲している。米国以外の国の保険会社は、この基準案のもた ネフィットを得ることができるようになるからである。弊社は、ほと らす結果についてA.M. Bestからのフィードバックを受領しはじめ んどの会社で、出再ROE、もしくは再保険の資本コスト率が50か ており、今後数か月間、このフィードバックは続くものと思われる。 ら100ベーシスポイント低下するものと試算している。さらに、A.M. さらに詳しい状況については、弊社の以下のレポートをご参照い Bestは、99.8%信頼水準の計算を行い、ERM評価に利用する ただきたい。 Evolving Criteria Bulletin – Update on Universal ので、再現期間500年のPMLまで手配したキャタストロフ再保険 Stochastic-Based BCAR Model (http://thoughtleadership. は、ERM評価における定性的ベネフィットを受けることとなる。 aonbenfield.com/Documents/20161118-ab-analytics-evolving- A.M. Bestによる米国の生命保険・医療保険 会社用BCARモデル基準案公表 タイムライン:今後の予定 生命保険・医療保険会社用確率論的モデルの基準案において 上述の新BCARモデルおよびBCRM(Best’s Credit Rating は、ほとんどの資産クラスの資本チャージの水準が倍加している。 Methodology:格付手法)の意見公募の締め切りは、2017年の3月 さらに、年金に対しては、金利リスクに対する係数が上昇し、医療 である。2017年中には、その他すべての基準書が改訂され、意見公 保険に対する保険料リスク、リザーブリスクの係数も上昇している。 募が実施される予定である。基準に関する取扱い方法を示す文書 生命保険・医療保険会社においても、高いBCAR評価を得るため も同時に準備され、2017年末までには発行が期待される。しかし、 の要件(99.6%信頼水準において25パーセント以上(BCAR評価 こうした予定は、意見公募に寄せられる業界からの声に左右される の「最も強固」)、あるいは10パーセント以上(「非常に強固」)など) こととなる。弊社は新基準に関するお客様とのディスカッションを継 は変わらない。上記の変更から格付けにマイナスの影響を受ける 続し、A.M. Bestにその結果をフィードバックしてゆく考えである。 保険会社は、リスクの高い資産クラスに集中している会社、アセッ トレバレッジの高い会社、現行の格付水準に対してBCARスコア が低い会社などと考えられる。現行モデルの下で資本に脆弱性 がみられる医療保険会社に関しては、罹患率に関する保険料リ スク係数の上昇が懸念材料となっている。さらに詳しい状況につ いては、弊社の以下のレポートをご参照いただきたい。 Evolving Criteria Bulletin – Update on US and Canadian Life & Health Stochastic-Based BCAR Model (http://thoughtleadership. aonbenfield.com/Documents/20161121-ab-analytics-evolvingcriteria-bulletin-US-canadian-LH-BCAR-november-2016.pdf) 10 criteria-bulletin-universal-BCAR-november-2016.pdf) Reinsurance Market Outlook | January 2017 規制に関する最新動向; 影響=わずかな需要増 規制の動向は、引き続きすべての保険会社にとって重要なトピックである。2016年、多くの会社は、ソルベンシーII、C-ROSS、ORSAなどの新 たな規制要件に直面した。すべての地域で、規制当局は、最低資本水準の引き上げ、資本モデルの改良、巨大災害リスク・エクスポージャーの再 評価、リスク管理プロセスを評価する検査の拡充などによって、資本要件を強化させ続けた。これらの措置の効果が、格付業者と規制当局の資 本要件のギャップを狭めている。こうした状況で、一部の市場では近い将来、規制要件の強化が再保険需要を押し上げると弊社はみている。 北米:ORSAの動向 2016年には、新たに5州がORSA法案を採択した州のリストに加わ った。このレポートの発表時点においては、40州がORSA要件を採 択し、1州が採択待ちである。全米保険監督官協会(NAIC)は、来年 末までにすべての州がモデル法案を採択すると見込んでいる。2015 年には保険会社から約200件のORSAレポートが提出されたが、す べての州がモデル法案を採択すると、年間300件のレポートが提出 されると予想される。州当局は、2015年にレポートを提出した保険 会社に対して、2016年のレポート提出前にフィードバックを行ってい る。2015年レポートに対する当局のコメントには、主要なリスク・エク スポージャーの定量化とストレス・テストが含まれていた。保険会社 は、ストレス・シナリオで充分な資本を保有することを立証し、特定 のストレス事象を選択する根拠を明確にするように求められた。 米国のリスクベース資本(RBC):巨大災害リ スク・チャージ NAICは、リスクベース資本(RBC)において巨大災害リスク・チャージ を別項目で課す予定である。目標とする実施期限は、2017年末にお ける報告を提出する2018年3月である。今のところ、NAICで合意に 至ったRBCリスク・チャージの主な計算手法は次のとおりである。 §§ 再保険回収後で再現期間100年のハリケーンと地震損害について、 それぞれチャージを適用する。 §§ 巨大災害リスク・チャージは、共分散による調整を行う。 §§ 再保険回収リスクには、4.8%の回収不能リスク・チャージを適用す る。 §§ 保険会社には、年間累計ベース(AEP)と事故ベース(OEP)の両方 ORSAモデル採択州 AL, AK, AR, AZ, CA, CO, CT, DE, FL, GA, HI, IA, IL, IN, KS, KY, LA, ME, MI, MN, MO, MT, ND, NE, NH, NJ, NY, NV, OH, OK, OR, PA, RI, TN, TX, VA, VT, WA, WI, WY 採択待ちの州 MA の超過確率によるモデル評価の報告を認める。 巨大災害リスク・チャージをRBCフォーミュラに正式に導入 する前に、以下のいくつかの点を詰める必要がある。 §§ 報告に用いる(内部および外部)モデルを完成させる。 §§ 巨大災害リスク・チャージの対象に追加するペリルはあるか? §§ OEPモデルの結果を人為的に引き上げて、AEPモデルの結果に近 似させるファクターを加えるか? 巨大災害リスク・チャージを導入すると、RBCの結果は一律に 下がるものの、顕著な影響が出るのは米国の保険会社のうち のわずかに過ぎないと弊社は推定する。多くのフロリダのホー ムオーナーズ保険会社は、巨大災害リスク・チャージが導入さ れるとRBCは大きく低下し、規制上の資本要件に対処するた めに、再保険の購入を増やすことを考慮するかもしれない。 Aon Benfield 11 欧州:ソルベンシー II 生命保険会社の低金利環境に係わる課題に対応することを主な 目的とする「経過措置」の助けもあったが、長期間にわたる調整を 経て、新たなソルベンシー制度は比較的円滑に導入されている。 格付業者が求める極めて高い資本水準を備える、大規模でより 洗練された(再)保険者は既にS2の原則に応じて事業を経営し てきており、最もこの変化を受け入れやすかった。こうした大手保 §§ 資本集約的な商品を引き受けるEUの(再)保険者は、エクスポージ ャーを軽減させるヘッジ戦略を一層用いることになる。 §§ 古い契約に係るリザーブの不確実性の高さは、より多くの規制資本 を惹起する。 §§ S2や、S2との同等性を有する地域以外の再保険者からの再保険 険会社の多くは、内部モデルの承認を得て、SCRの計算におい 購入には、キャピタル・ローディングが課されるため、EUの(再)保険 て分散効果の恩恵を受けた。小規模な保険会社は、新制度への 者はこれらの再保険者からカバーを購入する意欲が低下する。 移行がより困難であった。リスクの分散に欠け、新たな資金への §§ 現在は、バミューダ、日本、スイスだけがS2との再保険上の同等性 アクセスが容易ではない、格付を持たない相互会社、モノライン 保険者、キャプティブがより大きなプレッシャーを受けている。 S2の導入は、以下のように、EU全体にわたって、再保険の 需要と供給に重要な影響を及ぼす可能性がある。 §§ すべての保険会社にORSAを実施させる要件が原動力となって、S2 は、EU(再)保険業界全体のリスク管理を改善する触媒となってい る。 §§ この制度は時価会計に基づくため、資本基盤のボラティリティを増 大させる。 を有している。(米国はEUと交渉中)。 §§ EU の出再会社は出再控除を受けるために、再保険者から提示さ れる担保の状況を慎重に精査する必要がある。 §§ 再保険は純粋なリスク移転であることを立証する必要があり、かつ て用いられたファイナンシャル再保険のような形態は制限を受け る。 §§ S2は、証券化やデリバティブを効果的なリスク軽減手法として認め ており、これらについてEUスポンサーからの関心度を高める可能 性がある。 §§ S2によって、大規模でリスク分散の効いた保険グループの優位性 が確たるものになっており、これはM&Aを惹起する可能性がある。 12 Reinsurance Market Outlook | January 2017 アジア・太平洋地域 2016年から引き続き2017年は、アジア・太平洋地域の規制変更 の修正を提案するRBC2の3回目のコンサルテーション・ペーパーを の主要テーマは、資本規制とリスク管理の要件の強化である。 発行した。タイ保険委員会(OIC)は、RBC2体制を構築中である。フィ リピン保険庁(IC)は、新たなRBCフレームワークを導入中であるが、 中国のC-ROSSは、2016年1月1日に正式に施行され、定量的資本 当初の計画の2016年6月30日より施行スケジュールは遅れている。 要件、定性的監督要件、市場規律メカニズムのC-ROSSの3つのピ ラーすべてが適用されることになった。香港では、3つのピラーから成 リスク管理に関する規制要件も強化されている。中国では、保険業界 るRBCの体制を構築中であるが、施行日はまだ決定していない。イ が資本規制の新要件に適応してきており、規制当局は、リスク管理手 ンドでは、インド保険規制開発庁(IRDA)が、RBCと負債評価に向け 法の改善を保険者に促すため、定性的監督要件の強化を始めた。 たアプローチを検討するため、2016年6月に委員会を発足させた。 RBCが既に導入されている国々では、規制当局は体制を見直し、強化 を進めている。日本では金融庁が、経済価値ベースの評価と監督の 日本とシンガポールでは、規制当局がORSA要件を導入した。2016 年9月に、日本の金融庁は、ORSAレポートとERMヒアリングに基 づいて、評価レベルを1から5で分類したERM評価の結果を公表し た。レベル4と5の高評価を受けた保険者は20%に満たなかった 手法を検討する目的で、すべての保険会社を対象にフィールドテストを 実施することを決定した。これは、2010年6月、2012年6月に続いて、3 アジア・太平洋地域で、これ以外に顕著な規制の動向としては、国内再 回目のフィールドテストである。シンガポール金融監督局(MAS)は、保 保険者の優遇措置と巨大災害リスク管理の強化がある。 険業界からのフィードバックを斟酌して、保険者のRBCフレームワーク Aon Benfield 13 ラテンアメリカ アルゼンチン保険監督局は、新たな統制を実施し、保険者と チリでは、すべての保険者が、出再方針を定める文書を保有 ローカル再保険者の最低資本要件を引き上げた。さらに、ロ し、それを取締役会が適正に監督、承認することを義務化する ーカル再保険市場は、以前のように、部分的あるいは全面 新たな規制が発表される。また、CRESTAゾーンごとのエクス 的に公開された再保険市場に戻る見込みであり、これらは、 ポージャーに基づく、地震の異常危険準備金の要件の充分性 再保険市場の需要と供給をともに増大させるであろう。 についても検証を行う。どのようなアプローチの変更であって ブラジルは、2017年に、規制CSN 322/2015を導入し、グループ 内出再の出再限度割合を20%から30%に引き上げ、ローカル再 2016年、メキシコ市場では大規模な変革はなかった。再 保険者への強制出再割合を40%から30%に引き下げる。これ 保険は引き続き、2015年4月に採択された保険・保証機 は、2020年までかけて続く革新的な変化のほんの始まりに過ぎ 関法(LISF)と統合保険・保証規制(CUSF)の統制下にあ ない。ところで、A.M. Bestは最近、ブラジルのカントリーリスクの評 り、これらはソルベンシーIIに組み入れられている。 価区分をレベル3からレベル4に引き下げたが、これは、ローカル保 険会社個々の格付には影響を及ぼさないと見込まれるものの、そ れらの会社の資産のキャピタル・チャージは高めることになる。 14 も、将来の再保険需要に影響をおよぼす可能性がある。 Reinsurance Market Outlook | January 2017 2016年の世界の巨大自然災害による保険損害は、 2012年以降で初めて過去10年の平均を上回った 2016年の世界の巨大自然災害による保険損害は、短期的な平均(過 の損害が極端に高額だったため、近年では平均値よりは中間値の分 去10年)を上回ったが、これは2012年以降では初めてであった。保険 析が、災害による損害をより正確に表している。 損害は、対流性暴風雨、地震、洪水などのペリルによってもたらされ、 いずれのペリルにおいても2006年から2015年の10年間の平均値と 中間値を大きく上回った。記録的であった2011年以降、4年連続で損 害額は減少していたが、2016年は民間保険業界と政府支援プログラ 1980年以降を長期的に見ると、2016年の世界の保険損害530億米 ドルはこの期間で6番目に高額であった。2011年の1,340億米ドルと 2005年の1,260億米ドルの損害額が引き続き最大である。地域別に は、2016年は1980年以降では、米国は8番目、アメリカ大陸(米国を除 ムにおける保険金総額は増加した。 く)は2番目、アジア・太平洋は4番目、EMEA(欧州、中東、アフリカ)は12 2016年の世界の巨大自然災害による保険損害は、(変更可能性は あるが)暫定的に530億米ドルと見込まれ、この10年間の平均520億 米ドルをわずかに上回った。これは、2015年の保険損害360億米ドル からは46%、2014年の420億米ドルからは25%の増加となる。また、 過去10年の年間損害の中間値との関係を分析すると、2016年の保 険損害は、過去10年の中間値370億米ドルを45%上回った。2011年 番目の損害額を記録した年であった。 2015年の世界の巨大自然災害による損害のうち35%は対流性暴風 雨がもたらし、その多くは米国の数十億米ドル規模の災害であった。 米国の悪天候シーズンでは、4月のダラスからサンアントニオ都市圏 にわたる激しく大規模な雹害が顕著な災害であった。この4月10日か ら15日の災害による保険金は少なくとも30億米ドルに上った。 図表8: 世界のペリルごとの保険損害(2006-2016年) Tropical Cyclone Severe Weather Flooding Earthquake EU Windstorm Winter Weather Wildfire Drought Other 140 USD billion (2016) 120 100 80 60 40 20 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ‘06 - ’15 Average ‘06 - ’15 Median 出典: Aon Benfield Analytics Aon Benfield 15 また、それ以外の主要ペリルで世界の年間保険損害の10%以上を占 れる。これは、米国のハリケーンとしては、2012年の「サンディ」以来の めたのは、洪水(22%)、地震(16%)、トロピカル・サイクロン(12%)であ 金額であった。米国のそれ以外の大規模災害に、8月にルイジアナ州 った。それぞれのペリルで米国を上回る大規模な災害が発生したが、 で18万軒以上の建物に浸水被害が発生した内陸部の壊滅的な洪水 地域、ペリルによっては、保険カバーの著しいギャップが改めて浮き 災害があった。この災害では、全米洪水保険制度(NFIP)の保険金が 彫りになった。アジア、欧州の各地では経済的損害の総額が数十億 10億米ドルをはるかに超えたほか、民間の保険金も10億米ドルに上 米ドル規模の災害も発生したが、そのうち保険でカバーされたのは一 った。1978年以降のトロピカル・サイクロン以外の災害で、NFIPの名 桁台パーセントに過ぎなかった。 目ベースの保険金が10億米ドルを上回ったのはこれが初めてであっ た。テキサス州では、前述の対流性暴風雨損害にこの損害が加わり、 2016年の保険損害総額は増加したものの、世界のほとんどの主要 年間の保険金は85億米ドル以上という記録的な額に上った。保険金 1980-2015 Average 地域の年間保険損害は平年を下回った。その例外は、過去10年の平 のほとんどは雹害によるものであった。 均をわずかに上回った米国と、大きく上回ったアメリカ大陸(米国を除 10 Year Median く)であった。但し、中間値のデータと比較して分析すると、すべての地 年間保険損害の総額は米国が最大であったが、最大の保険損害を 域で中間値を上回るかほぼ同等であった。世界の保険損害総額530 もたらした災害は日本で記録された。4月14日と16日に熊本県を強い 億米ドルのうち、米国の損害が290億米ドルと見込まれ、引き続き米 地震のダブルパンチが襲い、保険損害は55億米ドルに上ると見込ま 国が最大の保険損害発生地域となった。 れる。日本損害保険協会は、認定された保険損害が個人住宅だけで 10 Year Average 2016 26万件以上に及ぶことを明らかにした。ただ、経済的損害の総額380 米国で最も深刻な保険損害をもたらした災害はハリケーン「マシュー」 億米ドルに対して、保険損害55億米ドルはそのわずか14.5%に過ぎ であり、国内の保険業界の支払いは40億米ドル以上に及ぶと見込ま なかった。 図表9: 世界の地域ごとの保険損害 2016 10 Year Average 10 Year Median 1980-2015 Average 35 USD billions (2016) 30 29 25 29 22 20 21 15 12 10 6 5 6 3 0 United States 2 7 6 6 Americas EMEA Closing Year Source: National Practitioner Data Bank, Public Use Data File as of June 30th, 2016 Reinsurance Market Outlook | January 2017 6 1 出典: Aon Benfield Analytics 16 13 APAC 6 これ以外に数十億米ドル規模の保険損害をもたらした災害には、5月 たことを表している。過去10年間だけを対象にすると、7年間は米国 に欧州中央部から西部を襲ったストーム「エルビラ」と「フリーデリケ」 の損害が世界のその他の地域の合計を上回った。その中で、2008年 があり、保険金は34億米ドルに上った。被害のほとんどはフランスとド と2012年は、世界全体の損害のうち米国の占める割合がそれぞれ イツで発生した。カナダでは、歴史的なアルバータ州の山火事が発生 86%、88%と驚くべき高さを示している。1980年に遡って長期的に見 し、フォートマクマレー市のほぼ10%が焼失、28億米ドルの保険損害 ると、世界の保険損害の累計額1兆2,300億米ドルのうち、米国の損 が見込まれる。これは、同国史上最大の保険損害をおよぼす自然災 害がその62%に相当する7,640億米ドルを占めている。 Rest of the World United States 害となった。11月にニュージーランド南島で発生したマグニチュード7.8 の強い地震では、現地保険会社の損害の速報値は20億米ドル以上 このデータはともかく、米国以外の国々でも、ほとんどの新興国市場 となっている。 では、保険の普及が加速し続けることが見込まれ、これには、近年の 世界各地の保険の浸透率や付保率は改善し続けているものの、米 済など多くの要因によって、自然災害にかかわるコストとリスクは増加 国の保険損害が依然として最も高額であることは注目に値する。以下 し続けており、保険業界と連邦政府は連携して、次の大規模災害に市 の図表では、2016年は、米国の保険損害が世界全体の56%を占め 民が対処する最上の体制を整える必要があるだろう。 GDP成長が最大である中国とインドが含まれる。天候、気候、社会経 図表10: 保険損害の比較:米国vs 米国以外 United States Rest of World 100% Percent insured loss 90% 80% 88 86 78 70% 64 60% 50% 44 36 40% 30% 20% 63 60 56 48 40 53 60 56 47 40 37 44 22 14 12 10% 0% 52 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 出典: Aon Benfield Analytics 2016年の最新の世界の自然災害やその他の歴史的な損害データ また、「2016年の世界の気候と自然災害レポート」は、1年間の自然災 に関しては、次のウェブサイト(Aon Benfield’s Catastrophe Insight) 害の概要を包括的に網羅している。 をご覧いただきたい。 www.aonbenfield.com/catastropheinsight Closing Year Source: National Practitioner Data Bank, Public Use Data File as of June 30th, 2016 Aon Benfield 17 山火事の年間保険損害は、大規模 火災の影響で、過去最大を記録 山火事は、世界的に主要な自然災害リスクのひとつであるが、保険業 的損害の総額は40億米ドルを上回り、これは、自然災害による損害と 界の注目は歴史的に、主に北米、欧州、アジア・太平洋の特定の地域 しては、カナダ史上最大であった。 に向けられてきた。これは、季節的な降水量によって大きな変動はあ るものの、「燃え種」として知られる茂みや可燃性植物が成長し乾燥す 山火事をカバーする保険は国ごとに異なるが、多くの場合、火災被害 る極めて多い傾向のある場所がこれらの地域にはあるからである。 はホームオーナーズ保険でカバーされ、家財への被害も対象となる。 地球の大気の天候パターンが変化すると、エルニーニョ・南方振動の また、山火事用のカバーが、地震などその他のペリルと一緒に提供さ さまざまな位相によって、これは促進される。 れる場合もある。 2016年は、記録的に強いエルニーニョ現象から始まり、エルニーニョ・ 植物によって成長の仕方は違っており、山火事シーズンは、北半球、 Insured Loss 南方振動の中立状態にすぐに移行し、その後、弱いラニーニャ現象が 南半球、また個々の地域によってまちまちである。火災によって焼失 発生したため、特にこれが該当する年であった。火災が発生しやすい する地球の陸地のうち、大半となる80%以上は田舎の草原やサバン 多くの地域で、干ばつが進み、記録的な高温となり、爆発的な山火事 ナであり、金銭的損害や人的被害の観点では大きな影響を及ぼして が発生しやすい条件がそろった。その結果として、米国、カナダ、オース いないことが、研究によって明らかになっている。普段の人口密度が トラリアで大規模な山火事があり、保険金は記録的な38億米ドルにお ずっと高く、低木におおわれた森林や地域において、山火事による被 よんだが、そのうち30億米ドル近くはカナダで発生した。カナダ、アル 害が最も大きくなる傾向がある。南カリフォルニアのように、険しい坂 バータ州フォートマクマレー市で、極めて激しい連続的な山火事が発 と多くの低木植物がある地域では、これらの火災がいっそう危険にな 生、2,400以上の建物が被災、少なくとも市の10%が焼失した。経済 る。この理由から、こうしたタイプの火災がたびたび最も深刻な被害や 犠牲者をもたらすことになる。 図表11: 世界の山火事による保険損害 Insured Loss 4.5 USD billion (2016) 4.0 3.81 3.46 3.5 3.0 2.5 1.88 1.84 2.0 1.38 1.5 1.0 0.5 0.0 1.56 0.56 0.20 0.10 0.03 0.03 0.04 0.19 0.37 0.62 0.73 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 出典: Aon Benfield Analytics Closing Year Source: National Practitioner Data Bank, Public Use Data File as of June 30th, 2016 18 0.14 Reinsurance Market Outlook | January 2017 北米では火災リスクが増大し、火災の規模が拡大 歴史的に見て、最大規模の損害を保険業界に与えた山火事は、すべ 全米省庁合同火災センターとカナダ省庁合同森林火災センターのデ て米国、特にカリフォルニア州で発生している。このセクションで前述 ータを用いて、米国とカナダの山火事を分析すると、年間の山火事に のとおり、カリフォルニア州には、特に深刻な山火事リスクに適合する よる焼失面積は平均的には増加し続けていると判断される。しかし、 ような固有の地形と天候が備わっている。但し、同州は、大規模な山 もっと良い測定基準は、火災1件当たりの焼失面積の平均値である。 火事が発生しやすい北米の多くの地域のひとつに過ぎない。ほとん これによると、1970年以降では、個々の山火事の規模が1年当たり、 どの大規模な山火事は、生命や財物への差し迫った脅威とはならな 米国では4.0%、カナダでは2.6%の増加率で拡大してきたことがわ い、田舎で発生することが多く、大きな注目を集めない傾向がある。 かる。この増加率の水準は、歴史上異例であった、同じ期間のこの 大規模火災が人口密集地域を脅かすと、しばしば損害は壊滅的に 地域の気温の上昇率と整合性が取れている。 #REFI United States なり得る。 最も火災が発生しやすい場所のいくつかは、人口が急成長し、エクス 山火事による世界の保険業界の損害が、10億米ドルを上回った年は ポージャーが増幅している地域にあるため、山火事の規模が拡大し 8年間ある。このうち、6年間は2000年以降(2003年、2007年、2009 続けると、損害がさらに増加することが懸念される。フォートマクマレ 年、2011年、2015年、2016年)であり、そのすべては北米の巨大災害 ー(カナダ)、ガトリンバーグ(米国テネシー州)、南カリフォルニア(米 によるものであった。どのような理由で、この大陸でこれらの大きな損 国)における2016年の大規模火災には、これが該当する。リスクの高 害が発生したのかは尋ねるに値することである。 い地域での建物の増加と、火災の規模の拡大と強度の進行が相ま って、火災シーズンが長期化し、山火事が発生しやすい地域が広が ると、山火事は保険業界にとって、今後さらに危険度の高いペリルに なっていく。 図表12 米国およびカナダでの山火事による消失面積 United States Canada 18,000,000 16,000,000 14,000,000 Acres 12,000,000 10,000,000 8,000,000 6,000,000 4,000,000 2,000,000 0 '70 '71 '72 '73 '74 '75 '76 '77 '78 '79 '80 '81 '82 '83 '84 '85 '86 '87 '88 '89 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 '14 '15 '16 出典: Aon Benfield Analytics Closing Year Aon Benfield Source: National Practitioner Data Bank, Public Use Data File as of June 30th, 2016 19 © Aon Benfield 2017. | All rights reserved. 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No representation, warranty or guarantee is made that any transaction can be effected at the values provided or assumed in this Document (or any values similar thereto) or that any transaction would result in the structures or outcomes provided or assumed in this Document (or any structures or outcomes similar thereto). Aon makes no representation or warranty, whether express or implied, that the products or services described in this Document are suitable or appropriate for any sponsor, issuer, investor, counterparty or participant, or in any location or jurisdiction. The information in this document is based on or compiled from sources that are believed to be reliable, but Aon has made no attempts to verify or investigate any such information or sources. Aon undertakes no obligation to review, update or revise this Document based on changes, new developments or otherwise, nor any obligation to correct any errors or inaccuracies in this Document. This Document is made available on an “as is” basis, and Aon makes no representation or warranty of any kind (whether express or implied), including without limitation in respect of the accuracy, completeness, timeliness, or sufficiency of the Document. Aon does not provide and this Document does not constitute any form of legal, accounting, taxation, regulatory, or actuarial advice. Recipients should consult their own professional advisors to undertake an independent review of any legal, accounting, taxation, regulatory, or actuarial implications of anything described in or related to this Document. Aon and its Representatives may have independent business relationships with, and may have been or in the future will be compensated for services provided to, companies mentioned in this Document. 20 Reinsurance Market Outlook | January 2017 問い合わせ先 Paul Mang Global Chief Executive Officer of Analytics Aon Benfield +65 6812 6193 [email protected] John Moore Chairman of International Analytics Aon Benfield +44 0(20) 7522 3973 [email protected] George Attard Head of Analytics, International Aon Benfield +65 6239 8739 [email protected] Greg Heerde Head of Analytics & Inpoint, Americas Aon Benfield +1 312 381 5364 [email protected] Tracy Hatlestad Global Chief Operating Officer of Analytics Aon Benfield +65 6512 0244 [email protected] Kelly Superczynski Head of Analytics, EMEA Aon Benfield +1 312 381 5351 [email protected] About Aon Benfield Aon Benfield, a division of Aon plc (NYSE: AON), is the world’s catastrophe management, actuarial and rating agency leading reinsurance intermediary and full-service capital advisory. Through our professionals’ expertise and experience, advisor. We empower our clients to better understand, we advise clients in making optimal capital choices that will manage and transfer risk through innovative solutions and empower results and improve operational effectiveness for personalized access to all forms of global reinsurance capital their business. With more than 80 offices in 50 countries, our across treaty, facultative and capital markets. As a trusted worldwide client base has access to the broadest portfolio of advocate, we deliver local reach to the world’s markets, an integrated capital solutions and services. To learn how Aon unparalleled investment in innovative analytics, including Benfield helps empower results, please visit aonbenfield.com. About Aon Aon plc (NYSE:AON) is a leading global provider of risk management, insurance brokerage and reinsurance brokerage, and human resources solutions and outsourcing services. 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