FX Weekly - 三菱東京UFJ銀行

FX Weekly
平成 29(2017)年 1 月 20 日
GLOBAL MARKETS RESEARCH
チーフアナリスト
内田 稔
三菱東京 UFJ 銀行
A member of MUFG, a global financial group
Table of contents
1
今週のトピックス
2
来週の相場見通し
3
来週の経済指標・イベント
4
マーケットカレンダー
1. 今週のトピックス
(1) 米国金融政策~問われるのは 2018 年の成長見通し
シニアマーケットエコノミスト
鈴木 敏之
(2) ドラギ ECB 総裁会見は概ねハト派色の強い内容に
チーフアナリスト
内田 稔
井上 雅文
2. 来週の相場見通し
(1) ドル円:注目は徐々に 2 月へシフトか
予想レンジ
112.50 ~ 116.50
(2) ユーロ:依然として見極めの時間帯継続の見込み
予想レンジ
対ドル:
1.0500 ~ 1.0750
対円:
121.00 ~ 124.00
(3) 人民元:上値余地は限られよう
予想レンジ
1/27(金)の FX Weekly は
休刊とさせていただきます。
次回は 2/3(金)発行予定です。
1
FX Weekly | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
対ドル: 6.8000 ~ 6.9000
対円:
16.45 ~ 17.05
(1) 米国金融政策~問われるのは 2018 年の成長見通し
新政権の財政発動の影
響の出る 2018 年の米
国成長見通し
IMF は 2.5%、
FOMC は 2.0%
国際通貨基金(IMF)が世界経済見通し(WEO)を更改した。今
回のIMF/WEOでは、2018 年の米国の経済成長率見通しが 2.5%と示
された。連邦公開市場委員会(FOMC)が昨年 12 月に示した経済
見通しでは、2018 年の経済成長率見通しは 2.0%としていた。新政
権は財政発動に前向きだが、新政権の意向が反映された予算が動き
だすのは、会計年度の始まる本年 10 月である。従って、2017 年中
の米国経済への財政の影響は限定的である(財政以外の新政権の政
策効果があらわれるのは早いかもしれないことには、注意が要る)。
財政発動に関する限り、効果の見定めがいるのは 2018 年からにな
る。それは、議会での議論を経て決まるものなので、その規模、発
動の時期、政策の内容は見えておらず、その効果の定量的把握は困
難である。しかし、政策当局は、定量的見通しを示さないわけには
行かない。IMFが 12 月にFOMCがみていた 2.0%よりも 0.5%高い
2.5%という数字を掲げ、新政権の政策効果の目安を示したことにな
る。Fedも、2 月のFRB議長の定例議会証言を見据えて 1 月 31 日~2
月 1 日のFOMCで、この 2018 年問題に取り組まなければならない。
そこで、仮に新政権の政策の成長率押し上げが 0.5%の場合、FF金
利の利上げへの影響はどれだけになるだろうかを試算してみたい。
第 1 表:IMF の世界経済見通し ~2018 年の米国の経済成長見通しは 2.5%
2014 年
世界全体
2015 年
2016 年
2017 年
(10 月予測比)
2018 年
(10 月予測比)
3.4
3.2
3.1
3.4
0.0
3.6
0.0
1.9
2.1
1.6
1.9
0.1
2.0
0.2
米国
2.4
2.6
1.6
2.3
0.1
2.5
0.4
ユーロ圏
0.9
2.0
1.7
1.6
0.1
1.6
0.0
ドイツ
1.6
1.5
1.7
1.5
0.1
1.5
0.1
フランス
0.6
1.3
1.3
1.3
0.1
1.6
0.0
イタリア
▲ 0.3
0.8
0.9
0.7
▲ 0.2
0.8
▲ 0.3
英国
3.1
2.2
2.0
1.5
0.0
1.4
▲ 0.3
日本
0.0
0.5
0.9
0.8
0.2
0.5
0.0
4.6
4.0
4.1
4.5
▲ 0.1
4.8
0.0
ロシア
0.7
▲ 3.7
▲ 0.6
1.1
0.0
1.2
0.0
中国
7.3
6.9
6.7
6.5
0.1
6.0
0.0
インド
7.2
7.6
6.6
7.2
▲ 0.4
7.7
0.0
ブラジル
0.1
▲ 3.8
▲ 3.5
0.2
▲ 0.3
2.0
0.0
南アフリカ
1.6
1.3
0.3
0.8
0.0
1.6
0.0
先進国・地域
新興・途上国
(注) 成長率、単位は%、▲はマイナス
2016 年 10 月予想との差、単位はポイント、▲は下方修正
(資料)IMF のデータにもとづき三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
① 2018 年の経済成長率が 2.5%と見込まれる場合の FF 金利
FOMCは、12 月 15 日の利上げ時に次の経済見通しを示していた。
イエレンFRB議長は、同日の記者会見で、財政発動を勘案したメン
2
今週のトピックス | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
バーもいたが、経済見通しの数字への影響はわずかでしかなかった
と発言していた。
第 2 表: FOMC メンバーの経済見通し(17 人の中位値)
(単位 %)
長期
2016
2017
2018
2019
実質成長率
1.9
2.1
2.0
1.9
1.8
失業率
4.7
4.5
4.5
4.5
4.8
PCE インフレ率
1.5
1.9
2.0
2.0
2.0
1.7
1.8
2.0
2.0
同 コア
FF 金利
前年末比
利上げ回数
0.625
1.375
2.125
2.875
+0.25
+0.75
+0.75
+0.75
1
3
3
3
3.000
(注) 利上げ回数は、0.25%ずつ利上げの場合
成長率、インフレ率は、第 4 四半期の前年同期比
(資料)FRB の HP の掲載内容にもとづき、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
2018 年 2.5%成長の場
合の FF 金利の試算
このFOMCの 2018 年の成長率の見通しは 2.0%である。そして、
それにみあうFF金利は 2018 年末で 2.125%であった。仮に、0.25%
ずつの利上げであれば、2017 年 3 回、2018 年 3 回という回数にみ
あうものである。ところが、IMF/WEOは成長率を 2.5%といってい
る。2.5%の成長であれば、Fedは 2018 年末のFF金利を何%とみる
か? これについて次の手順で、試算してみた。
イ)実質経済成長率と U6 失業率の変化
実質経済成長率とU6 失業率(広義の失業率)の変化については、
危機後、次の相関になっている。2016 年第 4 四半期のU6 失業率は
9.3%である。2017 年の成長率見通し 2.1%、2018 年 2.0%であると、
2017 年第 4 四半期のU6 失業率は 8.0%、2018 年第 4 四半期のU6 失
業率は 6.7%という試算になる。また、2017 年 2.1%成長、2018 年
2.5%成長とみると、2018 年第 4 四半期のU6 失業率は、6.6%という
試算になる。
第 3 図: 実質経済成長率の変化(X)と U6 失業率の変化(Y)
(%)
0.0
Y=-1.29 (-14.4 )-0.28(-3.42) X
-0.5
U
6
失
業
率
の
変
化
=0.41 2012/1Q~2016/3Q
( )内は t値
-1.0
-1.5
(
)
Y
-2.0
-2.5
-2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
実質経済成長率の変化(X)
1.0
1.5
(資料)米国商務省、労働省のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
3
今週のトピックス | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
2.0
(%)
ロ)U6 失業率と賃金トラッカー上昇率
賃金トラッカー上昇率と、1 年前のU6 失業率との間には、次の
関係がある。2017 年のU6 失業率がみえれば、2018 年の賃金上昇率
の目処がついてしまうのである。2017 年のU6 失業率を 8.0%とみな
すと、1 年後の 2018 年の賃金トラッカー上昇率は 4.7%になる。こ
の 1 年のラグに着目すると、2018 年に成長の加速があったとして
も、賃金に影響が出るのは、その 1 年後、2019 年ということにな
る。ちなみに、IMF/WEOの 2018 年 2.5%成長ならば、2019 年の賃
金トラッカー上昇率は 5.1%という数字になる。
第 4 図: 1 年前の U6 失業率と賃金トラッカー上昇率
~失業率低下から賃金上昇までに時間を要することに注目要
(%)
6.0
5.5
5.0
4.5
4.0
ー
賃
金
ト
ラ
ッ
カ
上
昇
率
3.5
3.0
(
2.5
Y
)
2.0
1.5
1.0
6
8
10
12
14
16
18
(%)
1年前のU6失業率(X)
(資料)米労働省、アトランタ連銀のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
ハ)賃金トラッカー上昇率と一般物価上昇率
(PCE コア指数の前年同期比)
賃金上昇が一般物価の上昇率にすぐに反映されるわけでもない。
賃金トラッカー上昇率と一般物価の上昇率に、安定した関係は見え
ないといってよいほどである。
第 5 図: 賃金と一般物価上昇の関係は薄い
(%)
(%)
6
6
5
5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
97/03
99/03
01/03
03/03
05/03
PCE コアインフレ率
07/03
09/03
11/03
賃金トラッカー上昇率
13/03
15/03
(年/月)
(資料)米商務省、アトランタ連銀のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
4
今週のトピックス | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
なお、一般物価の上昇率は、賃金上昇率と輸入物価上昇率で、そ
の動きを追跡できる。輸入物価は、原油価格の影響が大きいが、そ
の原油価格は米国内でリグの稼働が増えることにより、上値をおさ
えられよう。新政権はエネルギー増産に積極的である。また、ドル
高による物価上昇抑制もある。
つまり、2018 年に財政発動でGDPが高まることがあったとして
も、物価への影響は限定的にとどまるという見方ができよう。
第 6 図: 原油価格と稼働リグ数
(基)
2,000
(ドル/バーレル)
160
140
1,500
120
100
1,000
80
60
500
40
20
0
12/01
12/07
13/01
13/07
14/01
14/07
米国内の稼働リグ数 〈左目盛〉
15/01
15/07
16/01
16/07
原油価格(WTI) 〈右目盛〉
0
17/01
(年/月)
(資料)NYME のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
ニ)イエレンルールによる FF 金利の算定
失業率の低下が賃金押
し上げになるまで時間
を 要 す る の で 、 0.5%
成長加速の場合の追加
利上げ幅は 0.25%
自然利子率、インフレ率、産出ギャップがあれば、イエレンルー
ル <政策金利=自然利子率+インフレ率+(インフレ率-目標イ
ンフレ率)+産出ギャップ> (より産出ギャップを重くみる変形)
という政策金利の決定式で、FF金利を算出できる。その結果が次表
になる。
第 7 表: 2018 年末の FF 金利
~賃金上昇への波及へ時間を要する場合、追加利上げ所要幅は大きくならない
2018 年の実質 GDP 成長率
2.0%
2.5%
賃金波及遅
2.5%
賃金波及早
U6 失業率
6.7%
6.6%
6.6%
4.7%
4.7%
5.1%
PCE コア指数のインフレ率
2.4%
2.4%
2.8%
イエレンルールによる FF 金利
2.0%
2.2%
2.6%
賃金トラッカー上昇率
(注 1)
(注 1)ここでは、賃金トラっカー上昇率と PCE コアインフレ率の差を 2.3%として単純計算している
(資料)米商務省、労働省、CBO(議会予算局)、アトランタ連銀のデータにより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリ
サーチ作成
5
今週のトピックス | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
② 財政発動と利上げ
利上げ加速を妨げる動
きも多い
2018 年末のFF金利は、0.5%の成長率の実質GDPの押し上げが
あったときに、0.25%余分に引き上げることが適切ということにな
る。余分に 0.25%というのは小さくみえるが、これは、失業率低下
が賃金上昇をもたらすまでに時間を要するとみているからである。
もし、失業率低下が賃金上昇に短時間で波及する場合は、2018
年中に 1.25%の利上げが要ることになる。また、金融政策の運営で
は、目標インフレ率より上ぶれ幅が大きくなるほど、利上げ幅は大
きくすべきという発想があり、もっと強い利上げが要るという見方
も、Fedの内外で強まるであろう。
そのような可能性は想定外にできないが、次のイ)~へ)を勘案
すると、利上げ加速は当然視できない。イエレンFRB議長が 18 日
の講演で述べた、2019 年まで 3 回(A few times)は、納得を得られ
るものといえる。
イ)財政発動がいかになされるか、すなわち、規模、タイミング、
内容は見えていない。GDPを着実に押し上げる財政発動になる
とも言い切れない。
ロ)米国経済は、ほぼ完全雇用であり、需要刺激を行なうと副作用
だけが出る可能性がある。
ハ)FOMCメンバーから、自然利子率を金融政策に関連づける発言
が多い。自然利子率を左右するのは、労働参加率であることが
指摘されるが、その労働参加率は上がりそうに見えない。
ニ)米国以外の経済は弱く、諸問題を抱えている。資金流出の加速
など米利上げはそうした問題を大きくする懸念がある。
ホ)予想インフレ率に影響の見える原油価格は米国の増産で上昇が
抑えられる。新政権はパイプラインの承認、環境規制を緩める
などエネルギー分野の増産を進めようとしている。
ヘ)Fedのバランスシート縮小がアジェンダになる可能性があり、
それは、利上げなき引き締めになりえる。
イエレンFRB議長は、これまで、とにかく利上げには慎重であっ
た。仮に財政発動で 2018 年の 0.5%の成長の加速が見えるとしても、
2018 年に余分に求められる追加利上げ幅はそう大きくない。
シニアマーケットエコノミスト
6
今週のトピックス | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
鈴木 敏之
(2) ドラギ ECB 総裁会見は概ねハト派色の強い内容に
1月ECB 市場予想通り
『政策据え置き』を決定
1 月 19 日に開催されたECB理事会は、市場予想通り政策の現状維
持を決定した(第 1 表)。
第 1 表:1 月 ECB の政策決定概要
政策金利は据え置き(リファイナンス金利:、限界貸出金利:、預金ファシリティ金利:)
資産買入れプログラムは、年月から
月間購入額が億ユーロから億ユーロへ減額
年月までヶ月間の延長
経済見通しが悪化、あるいは、インフレの持続的な改善が見られなくなった場合、資産買入プログラムの規模や期間を拡大する
用意がある

(資料)ECB より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
ドラギ ECB 総裁会見
は概ねハト派色の強い
内容に
ドラギECB総裁は会見にて、ユーロ圏経済は企業活動の改善や底
堅い内需により上向くが(第 1 図)、依然として「世界的要因」に
よるダウンサイドリスクがあると説明。域内で予定される一連の選
挙や英国のEU離脱交渉、米新政権発足後の不透明感等を挙げた。
また、足元のインフレ率は上昇基調をみせるが、原油価格の上昇
が主要因であり、コアインフレ率の上昇を示す確固たる兆候は見ら
れないと発言(第 2 図)。インフレ目標の達成は、ユーロ圏全体で
中長期的、かつ、自律的、持続的な上昇を重視する姿勢をみせた。
第 1 図:ユーロ圏各国の GDP の推移
第 2 図: ユーロ圏の HICP と北海ブレント価格の推移
(%)
6
(%)
4
4
2
(ドル/バレル)
150
3
130
2
110
1
90
0
70
-1
50
0

-2
-4
-6
-2
-8
08
09
ユーロ圏
10
11
ドイツ
12
13
フランス
14
イタリア
15
16 (年)
スペイン
(資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
テーパリング観測否定
ドイツにも量的緩和策
への理解を求める
7
30
11
12
ユーロ圏(左目盛)
13
14
ドイツ(左目盛)
15
16
(年)
北海ブレント(右目盛)
(資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
注目された資産買入プログラムの段階的な縮小(以下、テーパリ
ング)に関しては、前回の会合同様に議論はまったく行わなかった
と否定し、寧ろ、経済状況次第では必要に応じて買入金額の増額や
期限延長の可能性があることを強調。市場の量的緩和策の縮小観測
を牽制した。
量的緩和策に反対の姿勢を表明するドイツに対し、低い預金金利
を享受するドイツ国民も、ユーロ圏の人々と同じく借入等でECBに
よる金融緩和策による恩恵を受けており、景気回復が力強さを増す
のに伴い実質金利も上昇していくと理解を求めた。
今週のトピックス | 平成 29(2017)年 1 月 20 日

足元のユーロ圏の物価
指標に、上昇の兆しが
みられる
12 月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)が前年比で 1.1%(前
回 0.6%)となり、ドイツの 1.7%に続き、約 3 年ぶりの高い伸び率
を示した(第 3 図)。確かに、原油価格上昇による物価上昇圧力が
強いが、ユーロ圏の景気回復が進めば、雇用環境の改善やユーロ安
とも相俟って、インフレ上昇圧力はさらに強まろう(第 4 図)。
第 3 図:ユーロ圏各国の消費者物価の推移
第 4 図:インフレ指標の推移

(%)
4
(%)
2.4
2.2
3
2
2
1.8
1.6
1
1.4
0
1.2
1
-1
0.8
-2
11
12
13
14
15
16
ユーロ圏
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
(資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
テーパリングは早けれ
ば 2018 年前半から?
0.6
13/01
(年)

14/01
15/01
ユーロ圏の期待インフレ率
16/01
ドイツのブレークイーブンインフレ率
17/01
(年/月)
(資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
ECBスタッフ見通しでは、HICPは 2019 年時点でも 1.7%と、ECB
が掲げる目標(2%未満かつ 2%近傍)を下回る予想だ。
但し、3 月のスタッフ見通しの改定内容次第では、早ければ 17
年前半にもECBによるテーパリングが議論される可能性もあり、緩
和策の後退が意識されればユーロ高材料だ(第 5 図)。
ドラギECB総裁は、資産買入金額の減額をテーパリングではない
と繰り返し説明し、議論すらしなかったと明言した。
しかし、ドイツのショイブレ財務相は、独紙に「ECBは超緩和的
金融政策の解除という困難な課題に着手すべき」との考えを述べ、
次回会合以降もドイツを中心にECB内部では、緩和策を縮小するよ
う圧力がさらに強まっていくとみられる。
第 5 図:予想されるテーパリングのスケジュール
16/12 資産買入期限
9ヶ月間延長決定
17年初旬
ドイツ国債枯渇問題は後退
2016/12
テーパリング
早ければ18年前半に開始?
17年度前半
テーパリング議論の開始?
2017/3
テーパリング
100億ユーロ/月 (6ヶ月間)
資産買入
2017/6
資産買入
終了
2017/12
2018/3
2018/6
2018/12
(資料)三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
チーフアナリスト
8
今週のトピックス | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
内田 稔
井上 雅文

(1) ドル円:注目は徐々に 2 月へシフトか
ドル円、総じて軟調に
推移
英国のEU(欧州連合)からの強硬離脱(ハードブレグジット)
の可能性が意識される中、週初から為替相場は不安定な動きをみせ
た。英ポンドが 3 ヶ月ぶり安値を記録すると 114.23 で寄り付いた
ドル円も低調な滑り出しとなった。そのうえ、17 日に報道された
米紙とのインタビューにおけるトランプ次期米大統領の発言1がド
ル高牽制と受け取られるとドル円は急落。米次期政権で上級顧問と
なる予定のスカラムッチ氏による「通貨(ドル)高に対し、警戒す
る必要がある」との発言や、ダドリーNY連銀総裁による「最近の
ドル高は物価に下方圧力を加える」などの発言も被さり、ドル円は
約 1 ヵ月半ぶりの安値 112.57 まで下げ幅を拡大した。しかし、18
日のイエレン議長のタカ派寄りの発言2を受け、ドル円は急反発。
米国債利回りも急上昇する中、ドル円は 114 円台後半まで上昇した。
その後も、19 日には良好な米経済指標(新規失業保険申請件数や
住宅着工件数、フィラデルフィア連銀景気動向指数)に下支えされ
115 円台を回復。さらに、ムニューチン財務長官候補による公聴会
での発言がドル高容認と受け取られ、ドル円は高値となる 115.62
まで続伸した(後述)。もっとも、同水準では上値も重く、20 日
にトランプ米大統領就任式を控え、その後は利益確定とみられる動
きにドル円は反落。週末 20 日の日本時間のドル円は再び 115 円台
を割り込み、114 円台後半で推移している。(文責 平松誠基)
第 1 図 :今週のドル円相場
(円)
116.0
↑円安
115.0
114.0
113.0
↓円高
112.0
1/16
1/17
1/17
1/18 1/18
1/19 1/19
(資料)Bloomberg データより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
いよいよトランプ米大
統領誕生、高まる就任
演説への注目度
1
2
9
1/20 1/20
(月/日)

1 月 20 日、トランプ米大統領が誕生する。市場ではその就任式
における演説に注目が集まるが、その演説では大まかな米国の今後
のビジョンが示されるに留まる可能性が高い。この為、1/11 の記者
会見後のように、具体的な政策への言及がないことを以って失望感
が高まり、米国の株式相場の下落や長期金利の低下に連れ、ドル円
が小緩む可能生はあるだろう。あるいは、米国第 1 主義を強調する
あまり、保護主義色の強い内向き志向のトーンが前面に押し出され
る場合も、ドル安志向が連想され、ドル円にも下押し圧力が加わり
かねない。特にトランプ氏は、就任初日から取り組むものとして、
米国の企業はドルが強すぎる為、中国と競争することができない。
I and most of my colleagues(中略)were expecting to increase our federal funds rate target a few times a year until, by the end of 2019,
it is close to our estimate of its longer-run neutral rate of 3 percent.
来週の相場見通し | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
NAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)
の見直しや撤退に加え、中国を為替操作国に認定するよう財務長官
に指示するとの公約も掲げている3。円、米 10 年国債ともに先物市
場における大幅なショートポジションが積み上がっているだけにこ
うした持ち高の巻き戻しによる円高や長期金利低下の動きに要注意
だ(第 2、3 図)。
第 2 図 : 円の先物の持ち高(非商業部門、ネット)
(枚)
80000
第 3 図: 米 10 年債の先物の持ち高(非商業部門、ネット)

円ロング
(円高期待)
60000
(枚)
300000
200000
40000
米国債ロング
(金利低下期待)
100000
20000
0
0
-100000
-20000
-200000
-40000
-300000
-60000
-80000
-400000
円ショート
(株安期待)
-100000
16/1
-500000
16/4
16/7
16/10
17/1 (年/月)
(資料)CFTC より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
3
4
米国債ショート
(金利上昇期待)
16/1
16/4
16/7
16/10
17/1
(年/月)
(資料)CFTC より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
注目は、2 月以降のイ
ベントへ徐々にシフト
しかし、多くの市場参加者が、徐々に 2 月以降の一般教書演説
(両院合同会議での演説)4や予算教書に焦点を移しているとみら
れ、就任演説は大きな材料にはなりにくいと考えられる。加えて、
何らかの発言から積極財政姿勢や一段のビジネスフレンドリーな規
制緩和へのヒントが示されることによって、逆に米長期金利が上昇
し、ドル円が連れ高となる可能性もゼロではない。来週以降、正式
に大統領に就任した後の同氏によるツイッターも含む発言に市場は
神経を尖らせざるを得ず、上下ともに振れやすい神経質な展開を見
込まざるを得ないだろう。とは言え、繰り返しになるが、2 月以降
の政治イベントを通じて新政権の政策の全体像を見極めるまでの間
は、いずれの動きが出た場合も、トレンドとして定着するまでには
至らないだろう。この為、来週は振れ幅(レンジ)が拡大する場合
も、方向感は依然として出にくい展開を予想する。
GDP 統計、注目度高
いが想定内なら影響は
限定的
このほかの材料としては、来週の第 4 四半期の米GDP統計も注目
されよう。過去の数字とはいえ、今後の米経済や金融政策を展望す
る上で材料視されやすい。特に今週イエレン議長がタカ派寄りの発
言をしたこともあり、なおさらだろう。但し、事前の予想(前期比
年率換算 2.1%成長)から、大きな乖離がみられなければ、相場へ
の影響は限定されそうだ。
“Donald Trump’s Contract with the American Voter”の”Seven actions to protect American workers”より
2001 年(ブッシュ大統領)は 2/27、2009 年(オバマ大統領)は 2/24 にそれぞれ実施
10 来週の相場見通し | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
ムニューチン、
ドル高容認との解釈
今週は、ムニューチン財務長官候補が、公聴会の中で、「強いド
ルは長期的に重要だ」と発言し、ドル高に振れた場面がみられた。
一部では、これがドル高容認姿勢の現われと受け取られているよう
だ。しかし、今回のムニューチン氏の発言は、従来の政権の政策ス
タンスを踏襲することを強調したに過ぎない可能性が高い。経常収
支が赤字である米国は、基本的のそのファイナンスを対内証券投資
で賄う必要があるため、確かにドルが一定の水準で安定的に推移す
ることが求められる。実際、強いドル政策を打ち上げたルービン財
務長官(当時)が就任した 95 年は、折からの双子の赤字(財政赤
字と経常赤字)やクリントン民主党政権下におけるドル安容認姿勢
などが重なり、米ドルは史上最安値付近まで下落していた(第 4
図)。ドルの安定した値動きやドル高志向を明確に打ち出すことが
当時の国益だったと言える。
一方、足元では既にドルは高い水準に位置しており、その水準は、
2000 年 9 月のプラハG7(7 カ国・地域の財務相・中央銀行総裁会議)
前後でユーロ安抑制を狙ったユーロ買い(ドル売り)協調介入を実
施した水準に迫りつつある。ムニューチン氏が「長期的に」とした
通り、基本的な為替政策のスタンスを示したに過ぎず、ここからさ
らにドル高を望んでいるわけではないだろう。もっとも、足元のド
ル高を嫌っているなら、敢えて「ドル高が重要」とせず、単に「安
定した動きが望ましい」などとする選択肢もあったと考えられる。
今回の発言だけでは、次期政権の為替政策は不明瞭と言え、今後の
発言内容とその時の状況を見ながら、判断していくほかはないだろ
う。その点、米国ではドル高が進行すると半年前後の時間差をもっ
て、製造業を中心に設備投資が鈍る傾向が強い。昨秋以降のドル高
は、今年の春先以降、米製造業関連の指標悪化となって顕在化する
可能性が低くない。そうした場面での発言に、より新政権の意向が
滲み出ると考えられる。
第 4 図 :米ドルの実質実効相場(対主要通貨)
140
(ドル高)
130
プラハG7
(ユーロ買いドル売り協調介入実施)
120
110
100
90
80
ルービン財務長官誕生前後
(ドル安)
70
73
76
79
82
85
88
91
94
97
00
03
06
09
12
15
(資料)FRB(Major Currency)より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
予想レンジ

ドル円:112.50 ~ 116.50
チーフアナリスト
11 来週の相場見通し | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
内田 稔
(2) ユーロ:依然として見極めの時間帯継続の見込み
ユーロドル相場は、1.0627 で寄り付いた。米紙インタビューでの
トランプ次期米大統領によるドル高牽制発言が材料視される中、
ユーロドルは 6 週間ぶりに 1.0719 まで上昇した。その後、イエレ
ンFRB議長による講演を受け米国債利回りが急上昇すると、ユーロ
ドルはやや弱含む展開に。ECB理事会は市場予想通り政策の現状維
持を決定したが、インフレに明確な上昇の兆しはみられず、必要に
応じて資産買入プログラムの増額や期限延長する可能性に改めて言
及した。引き続き物価見通しに関し慎重な姿勢を示唆したことから、
量的緩和策の縮小期待が後退し、ユーロドルは一時急落。もっとも、
1.05 台後半で下げ渋ると、1.06 台後半まで反発し底堅さをみせた。
今週のレビュー
第 1 図: 今週のユーロドル相場の推移
(ドル)
1.075
↑ユーロ高
1.070
1.065
1.060
↓ユーロ安
1.055
1/16
1/171/17
1/181/18
1/191/19
1/201/20
(月/日)
(資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
ユーロドルの底堅さは
経常収支がサポート
欧州の地政学リスクの
高まりは資本流出材料
19 日に公表された 11 月のユーロ圏の経常収支(季節調整後、第
2 図)は 361 億ユーロの黒字と、10 月の 283 億ユーロの黒字から拡
大した。ユーロ安を背景とした貿易収支の改善に加え、海外からの
配当金・利子の増加が経常収支黒字の拡大に寄与した。
一方、11 月の直接・証券投資(季節調整前)は 63 億ユーロの資
金流出超となり、10 月の 680 億ユーロの資金流入からマイナスに
大きく転じた。トランプ氏勝利による経済政策への期待の高まりや、
欧州の政治リスクが嫌気されたことを受け、ユーロ圏から米国へ資
金が移動。その過程でユーロ安が進んだといえよう(第 3 図)。
第 2 図: ユーロ圏の資金移動(季節調整前)の推移
第 3 図:10 年国債利回りと米株価指数の推移
(%)
(EUR Bio)
(ドル)
20,000
3.0
150
2.5
19,000
100
2.0
18,000
1.5
50
1.0
0
17,000
0.5
16,000
0.0
-50
-0.5
15,000
16/1 16/2 16/3 16/4 16/5 16/6 16/7 16/8 16/9 16/10 16/1116/12 17/1
-100
15/01
15/04
15/07
経常収支
15/10
貿易収支
16/01
16/04
証券投資
16/07
直接投資
16/10
(年/月)
(資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
12 来週の相場見通し | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
米10年債利回り(左目盛)
独10年債利回り(左目盛)
(年/月)
米ダウ平均株価(右目盛)
(資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
ユーロ圏の経済指標を確認し、米トランプ新政権発足後の動向を
見極める時間帯となろう。
24 日はユーロ圏のPMI(第 4 図)、25 日は独Ifo景況感指数(第 5
図)が発表される。足元のユーロ圏各国の景況感には、明るい兆候
がみられはじめている。特に、回復が遅れていた企業活動だが、
ユーロ安の恩恵を受けた輸出産業を中心に収益改善が見込まれ、ま
た、低金利環境の下で企業向け融資も増加基調が続く。
英ブレグジットや欧州の政治リスクが依然として燻る中、今後の
ユーロ圏の安定的な経済成長を確認する上で景況感の改善に注目だ。
来週の見通し
第 4 図: ユーロ圏各国の PMI の推移
第 5 図:ドイツの景況感指数の推移
120
60
75
55
50
110
25
50
100
0
45
14
ユーロ圏
15
ドイツ
フランス
イタリア
13
(年)
16
15
ZEW景況感指数・現況(左目盛)
スペイン
(資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
トランプ政権発足
米金利の動向に注意
14
(年)
16
Ifo景況感指数(右目盛)
(資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成
ユーロ圏と米国の実質金利差から推計した結果、当方は、短期金
利差がユーロドルに強い影響を与えると考えている(第 6 図)。
20 日からトランプ米大統領が誕生し、就任早々に経済政策に関
する発言も想定される。再び拡張的な財政政策や規制緩和への期待
が高まれば、昨年末同様、米株・米金利の上昇を経路とするユーロ
圏からの資金流出(ユーロ安)に警戒がいる。但し、ユーロ自体は、
経常収支黒字等、底堅さを増す材料も多く、方向感は出にくいだろ
う。
第 6 図: ユーロドルの推計値と実勢レートの推移
(ドル/ユーロ)
1.50
1.40
1.30
1.20
1.10
1.00
10
11
12
13
EUR/USD理論値
14
15
16
EUR/USD実績値
17
(年)
(資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
予想レンジ
ユーロドル:1.0500 ~ 1.0750
ユーロ円:121.00 ~ 124.00
チーフアナリスト
13 来週の相場見通し | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
内田 稔
井上 雅文
(3) 人民元:上値余地は限られよう
今週のレビュー
今週の人民元相場(対ドル相場)は、週初 6.90 台前半で寄り付
いた後、翌 1/17 に、安値となる 6.9037 まで下落した。しかし、ト
ランプ次期米大統領によるドル高牽制が、対主要通貨でのドル売り
を誘うと、1/18 には、約 2 ヶ月ぶり高値 6.8295 まで上値を伸ばし
た。もっとも、その後は、イエレンFRB議長によるタカ派寄りの発
言や、ムニューチン財務長官候補の「強いドルは長期的に重要」な
どの発言が上値を抑え、週後半にかけては再び軟化。本稿執筆時点
では 6.87 台半ばで推移するなど、方向感の定まらない展開が継続
している(第 1 図)。一方、対円相場は、週初 16 円台半ばで寄り
付いた後、ドル円の下落に連れて軟化。週央にかけては、約 1 ヶ月
ぶり安値 16.41 台まで下値を拡げた。しかし、同水準では下値も堅
く、週後半にかけて再び反発。1/19 には高値 16.81 台まで上昇する
など、対ドル同様、方向感の定まらない展開が継続している。尚、
1/20 に発表された中国の一連の主要経済指標では、10-12 月期実質
GDP成長率や小売売上高が市場予想を上回る一方、固定資産投資が
下振れた。強弱入り混じる内容となったことから、相場への影響は
限られたものに留まった。
第 1 図 : オンショア人民元相場の推移
(USDCNY、逆目盛)
6.10
0.5000
オンショアとオフショアの価格差
6.20
0.4500
オンショア人民元相場
6.30
0.4000
オフショア人民元相場
6.40
0.3500
↑ 人民元高
6.50
0.3000
6.60
0.2500
6.70
0.2000
(スプレッド)
6.80
0.1500
6.90
0.1000
↓ 人民元安
7.00
0.0500
7.10
0.0000
7.20
15/01
-0.0500
15/05
15/09
16/01
16/05
16/09
17/01
(年/月)
(資料) Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
来週の見通し
年初以降、人民元の買い戻しが活発化している。国内から国外へ
の資本流出を抑制すべく、当局が資本規制の強化(口頭指導を含む)
に踏み切った為だ。従来からの為替介入観測や、トランプ米大統領
就任式を前にしたポジション調整も加わる中で、1/18 には、約 2 ヶ
月ぶり高値 6.8295 まで反発した。もっとも、こうした動きが持続
するとは考え難い。背景には主に、以下 2 つの要因が挙げられる。
1 つ目は「資本規制の長期化が容易では無い」点だ。SDR(IMF
の特別引き出し権)構成通貨の一員となった今、資本移動の「不自
由化」は、IMF加盟国による干渉や批判に繋がり易い。また、外資
による中国向け投資意欲の減退や、オンショアでの企業活動のやり
辛さに繋がるリスクを孕んでいる。こうした事はいずれも、人民元
国際化を標榜する中国にとっては受け入れ難く、足元の資本規制が
14 来週の相場見通し | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
長期化するとは考え難い。よって、資本規制の強化を通じた「元高」
は短期的なものに留まると予想する。
2 つ目は「外貨準備の減少が介入余力への不信感」を招く恐れが
ある点だ。中国の外貨準備は昨年末時点でおよそ 3 兆ドルと、約 6
年ぶり低水準を記録している。外貨準備が有限である以上、外貨準
備の減少は、介入余力への不信感を通じ、投機筋による「元売り」
を刺激する恐れもあるだろう。事実、市場では、日に日に厳しさを
増す資本規制の背後に、介入余力の低下(介入余力が低下したこと
で、元安抑止方法が、資本規制に偏重し始めた)があるとの見方が
強まりつつある。よって、為替介入を通じた「元高」も、短期的な
ものに留まると予想される。
以上の通り、人民元を巡っては、当局による資本規制や介入観測
などを背景に、足元で底堅い動きが見られるものの、こうした動き
の持続性は乏しく、早晩巻き戻されるリスクが警戒される。資本規
制の強化や介入観測を通じた元安抑制が失敗に終われば、失望感か
ら、却って元売りに拍車がかかる恐れもあるだろう。当方では引き
続き、元の上値余地は限定的であり、一巡後に元安トレンドが復活
するとの見方を維持している。もっとも、目先は、今晩のトランプ
米大統領就任式に注目が集まりそうだ。米中関係の緊迫化や、為替
操作国への指定が想起されれば、一時的に元高に振れる場面もある
だろう。事実、トランプ次期米大統領は選挙期間中より、就任早々
に中国を為替操作国に認定するよう、財務長官に指示すると公言し
てきた。こうした動きが現実のものとなれば、想定外の値幅が生じ
る可能性もある為、トランプ次期米大統領の中国に絡むヘッドライ
ンには細心の注意が必要だ。
予想レンジ
ドル人民元:6.8000 ~ 6.9000
人民元円:16.45 ~ 17.05
アナリスト
15 来週の相場見通し | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
藤瀬 秀平
来週の主な経済指標
23 日 (月)
24 日 (火)
25 日 (水)
26 日 (木)
27 日 (金)
0:00
18:00
18:00
0:00
8:50
18:00
18:00
18:00
23:00
18:30
22:30
22:30
0:00
0:00
8:30
8:30
8:30
8:30
8:30
8:30
18:00
22:30
22:30
ユ
ユ
ユ
米
日
独
独
独
米
英
米
米
米
米
日
日
日
日
日
日
ユ
米
米
独
消費者信頼感指数(1 月速報)
製造業 PMI(1 月速報)
サービス業 PMI(1 月速報)
中古住宅販売件数(12 月・万件)
貿易収支(通関ベース、12 月・億円)
Ifo 景況指数(景気動向、1 月)
Ifo 景況指数(現況評価値、1 月)
Ifo 景況指数(予想値、1 月)
FHFA 住宅価格指数(前月比、11 月)
GDP(前年比、4Q 速報)
新規失業保険申請件数(1/21・万件)
卸売在庫速報(前月比、12 月速報)
景気先行指数(12 月)
新築住宅販売件数(12 月・万件)
消費者物価指数(全国、前年比、12 月)
消費者物価指数(全国、除生鮮、前年比、12 月)
消費者物価指数(全国、除食料エネ、前年比、12 月)
消費者物価指数(東京都区部、前年比、1 月)
消費者物価指数(東京都区部、除生鮮、前年比、1 月)
消費者物価指数(東京都区部、除食料エネ、前年比、1 月)
マネーサプライ M3(季調済前年比、12 月)
耐久財受注(前月比、12 月速報)
GDP(前期比年率、4Q 速報)
小売売上高(前月比、12 月)*
19:00
22:00
22:30
22:30
22:30
8:30
8:30
8:50
14:00
19:00
19:00
19:00
19:00
23:00
23:45
0:00
10:00
22:15
ユ
独
米
米
米
日
日
日
日
ユ
ユ
ユ
ユ
米
米
米
中
米
米
米
米
ユ
米
中
ユ
米
米
米
米
欧州委員会景況指数(1 月)
消費者物価指数(CPI、前年比、1 月速報)
個人所得(前月比、12 月)
個人支出(前月比、12 月)
PCE デフレータ(前年比、12 月)
失業率(12 月)
家計調査消費支出(12 月)
鉱工業生産指数(前月比、12 月速報)
住宅着工戸数(12 月・万戸)
消費者物価指数(前年比、1 月速報)
消費者物価指数(前年比、1 月速報コア)
失業率(12 月)
GDP(前年比、4Q 速報)
ケース・シラー住宅価格指数(11 月)
シカゴ購買部協会景気指数(1 月)
CB 消費者信頼感指数(1 月)
製造業 PMI(1 月)
ADP 雇用統計(1 月・万人)
自動車販売(1 月・万台)*
ISM 製造業指数(1 月)
建設支出(前月比、12 月)
生産者物価指数(前年比、12 月)
労働生産性(4Q 速報)
マークイット製造業 PMI(1 月)
小売売上高(前月比、12 月)
非農業部門雇用者数変化(1 月・万人)
失業率(1 月)
製造業受注指数(前月比、12 月)
ISM 非製造業指数(1 月)
予想
前回
▲ 5.0
54.8
53.7
555
2,662
111.3
116.9
105.8
0.3%
2.1%
▲ 5.1
54.9
53.7
561
1,508
111.0
116.6
105.6
0.4%
2.2%
23.4
1.0%
0.0%
59.2
0.5%
▲ 0.4%
0.1%
0.0%
▲ 0.6%
▲ 0.2%
4.8%
▲ 4.5%
3.5%
▲ 1.7%
0.5%
58.6
0.2%
▲ 0.3%
▲ 0.1%
0.0%
▲ 0.4%
▲ 0.1%
4.9%
2.9%
2.1%
予想
30 日 (月)
31 日 (火)
1 日 (水)
2 日 (木)
3 日 (金)
4 日 (土)
0:00
0:00
19:00
22:30
10:45
19:00
22:30
22:30
0:00
0:00
16 来週の経済指標・イベント | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
0.5%
18.0
4.7%
前回
0.79
1.7%
0.0%
0.2%
1.4%
3.1%
▲ 1.5%
1.5%
93.7
1.1%
0.9%
9.8%
1.7%
191.79
53.9
113.7
51.4
15.3
1,829
54.7
0.9%
0.1%
3.1%
51.9
▲ 0.4%
15.6
4.7%
▲ 2.4%
57.2
中央銀行関連
23 日 (月)
24 日 (火)
25 日 (水)
26 日 (木)
27 日 (金)
28 日 (土)
29 日 (日)
20:30
22:15
ユ
ユ
ドラギ・ECB 総裁講演
プラート・ECB 専務理事講演
1:00
3:00
22:15
1:00
20:00
ユ
ユ
ユ
英
ユ
プラート・ECB 専務理事講演
ラウテンシュレーガー・ECB 専務理事講演
バイトマン・ドイツ連銀総裁講演
カーニー・イングランド銀行総裁講演
メルシュ・ECB 専務理事講演
20:10
ユ
ユ
ビスコ・イタリア中銀総裁講演
クノット・オランダ中銀総裁講演
15:30
日
日
日
日銀金融政策決定会合(金融政策発表)
経済・物価情勢の展望
黒田・日銀総裁定例会見
4:00
21:00
21:00
21:30
8:50
23:15
米
英
英
英
日
米
FOMC 金利誘導目標発表
MPC(BOE 金融政策委員会、政策金利発表) / MPC 議事録
インフレーションレポート
カーニー・イングランド銀行総裁会見
日銀金融政策決定会合議事要旨(12/19, 20 分)
エバンス・シカゴ連銀総裁講演
日
日
英
米
ユ
米
ユ
米
中
ユ
月例経済報告(1 月)
40 年債入札
最高裁、EU 離脱の議会承認めぐる判断
2 年債入札
30 年債入札(ドイツ)
5 年債入札
ユーロ圏財務相会合
7 年債入札
春節(~2 日)
EU 経済・財務相理事会
30 日 (月)
31 日 (火)
1 日 (水)
2 日 (木)
3 日 (金)
その他
23 日(月)
24 日(火)
26 日(木)
12:45
18:30
3:00
19:35
3:00
27 日(金)
3:00
30 日(月)
31 日(火)
1 日(水)
12:45
日
2 年債入札
19:35
12:45
18:50
ユ
ユ
日
ユ
ユ
欧州議会本会議(~2 日)
5 年債入札(ドイツ)
10 年債入札
国債入札(フランス)
EU 非公式首脳会議(英国除く 27 ヵ国)
25 日(水)
2 日(木)
3 日(金)
※市場予想は Bloomberg 調査中央値
時刻は日本時間
*印は作成日(1/20)現在で未確定のもの
17 来週の経済指標・イベント | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
マーケットカレンダー
月
火
2017/1/23
水
木
24
25
ユーロ圏/消費者信頼感指数
米/中古住宅販売(12 月)
米/FHFA 住宅価格指数(11 月)
独/Ifo 景況指数(1 月)
速報(1 月) ユーロ圏/製造業 PMI 速報
日/月例経済報告(1 月)
(1 月) 日/貿易収支速報(12 月)
サービス業 PMI 速報(1 月)
金
26
米/卸売在庫速報(12 月)
新築住宅販売(12 月)
景気先行指数(12 月)
英/GDP 速報(4Q)
27
米/GDP 速報(4Q)
耐久財受注速報(12 月)
ユーロ圏/マネーサプライ M3
(12 月)
独/小売売上(12 月)*
日/消費者物価指数
(都区部 1 月、全国 12 月)
米・2 年債入札
英・EU 離脱の議会承認めぐる
判断 米・5 年債入札
30
米/個人所得・消費支出(12 月)
ユーロ圏/欧州委員会景況
31
ユーロ圏財務相会合
米・7 年債入札
EU 経済・財務相理事会
中国春節(~2/2)
2/1
米/FOMC(~2/1)
米/FOMC
ADP 雇用統計(1 月)
ケース・シラー住宅価格
ISM 製造業指数(1 月)
指数(1 月)
指数(11 月)
独/消費者物価指数速報
シカゴ PM 景況指数(1 月)
建設支出(12 月)
自動車販売(1 月)*
(CPI、1 月)
CB 消費者信頼感指数(1 月)
日/日銀金融政策決定会合
ユーロ圏/GDP 速報(4Q)
中/製造業 PMI(1 月)
消費者物価指数速報(1 月)
(~31 日)
失業率(12 月)
日/日銀金融政策決定会合
経済・物価情勢の展望
日銀総裁定例会見
完全失業率(12 月)
家計調査(12 月)
鉱工業生産速報(12 月)
住宅着工戸数(12 月)
2
米/雇用統計(1 月)
ISM 非製造業指数(1 月)
製造業受注指数(12 月)
(12 月)
英/MPC(BOE 金融政策委員会) ユーロ圏/小売売上(12 月)
MPC 議事録
日/日銀金融政策決定会合
インフレーションレポート
議事要旨(12/19, 20 分)
米・シカゴ連銀総裁講演
EU 非公式首脳会議
(英国除く 27 ヵ国)
欧州議会本会議(~2 日)
6
7
米/貿易収支(12 月)
求人労働異動調査(12 月)
消費者信用残高(12 月)
独/鉱工業生産(12 月)
日/景気動向指数速報(12 月)
8
9
日/日銀金融政策決定会合
米・3 年債入札
日/GDP 速報(4Q)
米/輸出入物価指数(1 月)
対外対内証券売買契約等
の状況(1 月)
財政収支(1 月)
中/貿易収支(1 月)
マネーサプライ M2(1 月)*
米・10 年債入札
14
米/生産者物価指数(1 月)
ユーロ圏/鉱工業生産(12 月)
独/ZEW 景況指数(2 月)
中/消費者物価指数(1 月)
生産者物価指数(1 月)
ミシガン大消費者信頼感指数
速報(2 月)
米・30 年債入札
15
米/消費者物価指数(1 月)
小売売上(1 月)
NY 連銀景況指数(2 月)
鉱工業生産(1 月)
設備稼働率(1 月)
企業在庫(12 月)
証券投資収支(12 月)
ユーロ圏/貿易収支(12 月)
欧州議会本会議(~16 日)
*印は作成日(1/20)現在で日程が未確定のもの
(資料)各種報道等より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成
18 マーケットカレンダー | 平成 29(2017)年 1 月 20 日
10
独/貿易収支(12 月)
主な意見(1/30, 31 分) 日/機械受注(12 月)
国際収支速報(12 月)
景気ウォッチャー調査(1 月)
13
3
米/労働生産性速報(4Q)
ユーロ圏/生産者物価指数
独・大統領選挙(12 日)
16
米/住宅着工件数(1 月)
建設許可件数(1 月)
フィラデルフィア連銀景況
指数(2 月)
ユーロ圏/ECB 理事会議事録
EU 新車登録台数(1 月)
米・30 年 TIPS 債入札
17
米/景気先行指数(1 月)
ユーロ圏/経常収支(12 月)
照会先:三菱東京UFJ銀行 グローバルマーケットリサーチ
チーフアナリスト 内田 稔
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19 FX Weekly | 平成 29(2017)年 1 月 20 日