Vol.141 企業年金豆知識

企業年金豆知識
Vol.141
2017.1
明治安田生命保険相互会社 総合法人業務部 東京都千代田区丸の内2-1-1
今回のテーマ:債券市場の変容と国内債券の代替について
約 30 年間にわたる金利低下局面で安定収益
資産としての役割を発揮してきた国内債券で
すが、足元では期待収益率は極めて低くなり、
投資対象としての魅力が薄れ、金利上昇リスク
も想定せざるを得ない環境になってきました。
今回は、国内債券に内在するリスクとその対
応策について考えてみたいと思います。
は 2016 年 2 月に、独国債(10 年)は 2016 年 6
月にマイナス圏に突入しました。(図表 2 参照)
【図表2】日独の 10 年国債利回り(2015 年 4 月~2016 年 9 月)
独国債(10 年)
1.世界主要国の金利の状況
1980 年代初頭以降、主要国の政策金利は持続
的に低下してきましたが、リーマンショック後は
特に低下傾向が顕著になっています。
その背景としては以下の要因が複合的に絡み
合っているものと考えられます。
(1)低成長経済の継続
(2)デフレ懸念
(3)政策金利の低位予測
(4)各国中央銀行による債券購入
(5)地政学リスクを背景とした資金の逃避(「リス
クオフ」としての主要国債券への投資)
(6)投資家の利回り追求による高利回り国債需要
の増加(米国債等の利回り低下圧力)
(7)主要国の高齢化の進展によるインカム収入へ
の需要拡大
【図表1】日米独の 10 年国債利回り(2000 年 4 月~2016 年 9 月)
リーマンショック
米国債(10 年)
独国債(10 年)
日本国債
(10 年)
(出所:Bloomberg)
長期間にわたり低下し続けてきた主要各国の
債券も 2016 年に入り、ついに日本国債(10 年)
日本国債
(10 年)
(出所:Bloomberg)
ところが、マイナス金利下の日本とドイツの足
元の動向をみると、2016 年 7 月以降金利は下げ
止まり、上昇に転じているようにも見受けられま
す。
金利は足踏み状態が継続するのか、あるいは上
昇局面に転じるかについては、予断を許さない状
況となっています。
特に日本国債については、日銀の「長短金利操
作付き量的・質的金融緩和」により、「10 年国債
金利が概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよ
う長期国債の買入を実施」するとしており、政策
金利が下げ止まる可能性が高まっていることか
ら、さらなる金利の低下は想定しづらくなってき
ているものと考えられます。
2.国内債券投資の位置付け
図表 3 では、1989 年度からの 27 年間の国内債
券の収益率の推移を表しています。
この間収益率がマイナスとなったのは 3 回のみ
で、平均収益率は 3.59%でした。
国内株式との逆相関関係とも相まって、長年に
わたり安定収益資産としての役割を果たしてき
ました。
*内容等についてのご照会は当社法人営業担当者にお願い申しあげます。
【図表3】国内債券の収益率推移(1989 年度~2015 年度)
国内債券の圧縮が進展
(3)国内債券のマイナス金利の状況や将来の金利
上昇(懸念)への対応として、その対策を実施
済が 36.2%、対策を検討中が 28.5%、合計
64.7%が対策実施済もしくは検討中
(4)具体的な対策(複数回答)としては、オルタナ
ティブの活用が 55.4%、ヘッジ付外債の活用が
41.6%、国内債券の構成比率の圧縮が 38.6%と
なっており、安定収益資産の分散化(国内債券
代替)が進展している様子が伺えます。
(注)国内債券:NOMURA-BPI 総合
4.おわりに
しかしながら、これまで以上に金利の低下が見
込みづらく、NOMURA-BPI 総合のデュレーショ
ン(2016 年 10 月末時点で 8.8 年)は長期化して
きており、金利上昇に対する感応度は高くなって
きています。
実際に、2016 年 7 月、8 月の 2 か月間で国内の
長期金利は 0.16%ほど上昇しましたが、この間
NOMURA-BPI 総合は▲1.81%のパフォーマン
スとなっています。
3.企業年金の動向
企業年金連合会の 2015 年度「資産運用実態調
査」によると、多くの企業年金がすでに国内債券
の位置付けや戦略の見直しを実施しています。
以下は調査結果(確定給付企業年金)のポイン
トをまとめたものです。
(1)予定利率 3.0%未満は 77.2%まで増加しており、
引き続き予定利率の低下傾向が継続
(2)国内債券の比率は、2012 年度の 30.8%をピー
クに 2015 年度は 27.8%まで減少しており、
安定収益資産の中核に位置付けられてきた「国
内債券」は、今後金利上昇リスク意識せざるを得
ないなか、その構成比の縮小が進んで行くことが
予想されます。
NOMURA-BPI 総合をベンチマークとする国
内債券運用の代替商品としては、①ヘッジ付外債、
②社債、③オルタナティブ、④マルチアセット戦
略(用語解説コーナーご参照)等が考えられ、異
なるリスク特性を組み合わせて分散を図ること
が有効であると思われます。
最近では、リスクやボラティリティーをトリガ
ーとして資産配分を機動的に変更するタイプの
マルチアセット戦略)もトラックレコードが蓄積
されてきています。
マルチアセット戦略の商品選定の際には、トラ
ックレコードやバックテストを確認することに
より、リスク特性が許容できる範囲であるかを検
討することが重要と考えられます。
(文責:団体年金コンサルティング室
松畑)
用語解説コーナー : マルチアセット戦略
○マルチアセット戦略(Multi Asset Strategy)を
直訳しますと「多資産運用」となり、欧米では、
従来のモダン・ポートフォリオ理論に基づくバラ
ンス運用(静的資産配分)と区別する意味合いで
使われているようです。
○よって、運用商品や資産構成、リスク管理を含
む運用手法は各社提供のプロダクト毎に多岐
にわたりますが、大きく分類すると次のとおり
①②③の 3 つになります。
①一般的なバランス型運用に定性や定量判断
でリスクコントロールするもの
②バランス型運用にオルタナティブ資産を組
入れることでリスクを分散させ、リターンの
安定化をはかるもの
③インフラやプライベートエクイティなど流
動性が低い資産への投資でリターンの拡大
をはかるもの
○日本では、まだ新しいタイプの運用手法であり、
今後も様々なタイプの開発が期待されます。
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