答申第773号(PDF:208KB)

別紙
諮問第990号
答
1
申
審査会の結論
「障害のある児童生徒の学校生活における保護者等の付添いに関する実態調査につい
て(回答)の調査票:小学校用及び中学校用」を一部開示とした決定は、取り消すべき
ものとは認められない。
2
異議申立ての内容
(1)異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下
「条例」という。)に基づき、異議申立人が行った「平成27年5月15日に文部科学省
(以下「文科省」という。)初等中等教育局特別支援教育課より都道府県宛に指示が
あり、総数は文科省ホームページに掲載済みの『障害のある児童生徒の学校生活にお
ける保護者等の付添いに関する実態調査について』の東京都の区市町村別(教育委員
会別)の数値」の開示請求に対し、東京都教育委員会が平成27年12月25日付けで行っ
た一部開示決定について、その取消しを求めるというものである。
(2)異議申立ての理由
異議申立書及び意見書における異議申立人の主張を要約すると、以下のとおりであ
る。
ア
異議申立書
(ア) 特定の個人が識別される情報でないこと。
(イ) 公にすることにより、個人の権利利益を害するものではなく、逆に人の生命、
健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要な情報である。
(ウ) 他の行政区において、市町村別の開示を行っていること(大阪府)。
- 1 -
(エ)文科省は、都道府県別にではあるが、その他事項についても開示している。
(オ)公正で開かれた都政に反する。
イ
意見書
(ア)異議申立ての趣旨
非開示理由に妥当性がないため。
非開示理由が真に正当なものならば文科省による開示自体が個人情報の漏洩で
ある。個人情報については所轄はその省庁となるということで、今回については
文科省になるそうだが、その文科省の判断が間違っていて情報漏洩になるのか、
文科省の判断が正しく、東京都でも開示できるかを問う。
(イ)異議申立ての理由
異議申立てに係る処分は、次のとおり不法不当である。
a
特定の個人が識別される情報ではない。都道府県単位で開示される情報が市
区町村単位になると開示できないというのは矛盾している。文科省の公表した
都道府県別の情報において、宮城県、山形県、栃木県、群馬県、千葉市、新潟
県、富山県、福井県、三重県、京都市、堺市、鳥取県、山口県、熊本県、大分
県、宮崎県について該当する中学校が1校にかかわらず、都道府県名を公開し
ている。
b
「当該学校を容易に想定することが可能であり、ひいては児童、生徒の特定
につながるおそれがある。」とのことだが、学校名から児童が特定できるよう
な情報が出ているのであればそれこそ情報漏洩であるが、そんな状態にはなっ
ていないはずである。あくまで、当該児童の付添いについての情報を持つ者が
再確認するだけのことであり、すでに情報を持つ者しかわからないものは個人
情報の漏洩にあたらない。それでも「他の情報と照合することにより、特定の
個人を識別できることができることとなるもの」となるのであれば、「他の情
報」というのを教えてください。また、そうであるならば、待機児童数や小学
校入学者数、児童数等すべてが特定の個人を識別することができる情報になっ
てしまう。
- 2 -
c
当該情報は、「特定の個人を識別することができることはできないが、公に
することにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報」と非開示理
由にあるが、真逆で、「開示することにより、特定の個人を識別することはで
きるもの」ではなく、「担当行政区を特定するのに必要な情報であり、それを
もって行政への改善をはかることによって、特定の個人を識別することのない
まま対象となる個人の権利利益を擁護するために必要となる情報」である。
d
条例7条2号に該当するものではないが、万が一該当したとしても、その除
外事項である「ロ
人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にする
ことが必要と認められる情報」に該当する。
3
異議申立てに対する実施機関の説明要旨
理由説明書における実施機関の主張を要約すると、以下のとおりである。
対象公文書である「障害のある児童生徒の学校生活における保護者等の付添いに関す
る実態調査について(回答)の調査票:小学校用及び中学校用」(以下「調査票」とい
う。)には、該当のある区市町村が記載されている。
都内には、そもそも設置されている小学校又は中学校の校数が極めて少数である区市
町村や、調査項目に該当する学校数が極めて少ない区市町村が存在する。例えば、当該
校種が1校しか存在しない区市町村については、区市町村名を開示すれば、当該学校を
容易に特定することが可能となり、ひいては児童・生徒の特定につながるおそれがある。
また、該当する者が極めて少数である区市町村について区市町村名を開示すれば、当
該児童・生徒及び保護者の付添いの有無の情報を持つ者に、当該児童・生徒を特定され、
付添いの内容について知られるおそれがある。
このため、非開示部分である区市町村名は、公にすることにより、特定の個人を識別
することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することが
できることとなるものを含む。)に該当する。
また、本調査は校舎内において障害のある児童生徒の保護者等の付添いに関するもの
であり、回答内容は障害の有無や医療的ケアの有無等、児童・生徒の「心身の状況」に
関するものである。このことは、特定の個人を識別することはできないが、公にするこ
- 3 -
とにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報に該当する。
よって、調査票に記載されている項目のうち、区市町村名は、条例7条2号に該当す
ることから、本件一部開示決定処分を行った。
4
審査会の判断
(1)審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のように審議した。
年
月
日
審
議
経
過
平成28年
1月29日
諮問
平成28年
7月26日
新規概要説明(第171回第一部会)
平成28年
9月12日
実施機関から理由説明書収受
平成28年
9月13日
審議(第172回第一部会)
平成28年
10月11日
意見書収受
平成28年
10月25日
審議(第173回第一部会)
平成28年
11月16日
審議(第174回第一部会)
(2)審査会の判断
審査会は、異議申立ての対象となった公文書並びに実施機関及び異議申立人の主張
を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
ア
本件対象公文書について
本件異議申立てに係る開示請求は、「平成27年5月15日に文部科学省初等中等教
育局特別支援教育課より都道府県宛に指示があり、総数は文科省ホームページに掲
載済みの『障害のある児童生徒の学校生活における保護者等の付添いに関する実態
- 4 -
調査について』の東京都の区市町村別(教育委員会別)の数値」(以下「本件開示
請求」という。)である。
実施機関は、本件開示請求に対し、「障害のある児童生徒の学校生活における保
護者等の付添いに関する実態調査について(回答):小学校用」及び「障害のある
児童生徒の学校生活における保護者等の付添いに関する実態調査について(回答)
:
中学校用」
(以下これらを合わせて「本件対象公文書」という。)を対象公文書とし
て特定し、区市町村名を全て非開示とする一部開示決定を行った。
イ
障害のある児童生徒の学校生活における保護者等の付添いに関する実態調査につ
いて
障害者の権利に関する条約(平成18年12月13日国連総会採択)に掲げられたイン
クルーシブ教育システムの構築に向け、平成25年に、障害のある児童生徒の就学先
決定について、「特別支援学校への就学を原則とし、例外的に小・中学校への就学
を可能としていたこれまでの仕組み」から「個々の障害の状態等を踏まえ、総合的
な観点から就学先を決定する仕組み」に改められた。
また、平成28年4月には、合理的配慮の不提供の禁止等を規定した「障害を理由
とする差別の解消の推進に関する法律」の施行を控えていた。
このような状況の下で、小・中学校における保護者の付添いは、今後も合理的配
慮の提供において一つの論点になるものと考えられたことから、文科省は「障害の
ある児童生徒の学校生活における保護者等の付添いに関する実態調査」(以下「実
態調査」という。)を実施した。
実態調査は平成27年5月1日時点のものであり、全国の公立小、中学校の学校生
活における保護者等の付添い件数のうち、医療的ケアを伴う付添い及び伴わない付
添いそれぞれの実態を調査対象としている。
実施機関は、文科省からの依頼に基づき、都内の公立小、中学校を対象として、
所定の様式に記入の上、回答した。
ウ
条例の定めについて
条例7条2号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する
情報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合するこ
- 5 -
とにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定
の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を
害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定している。また、同号ただし書
において、「イ
法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすること
が予定されている情報」、
「ロ
人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公
にすることが必要であると認められる情報」、
「ハ
当該個人が公務員等…である場
合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、
当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報
については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定し
ている。
条例8条1項は、「開示請求に係る公文書の一部に非開示情報が記載されている
場合において、非開示情報に係る部分を容易に区分して取り除くことができ、かつ、
区分して取り除くことにより当該開示請求の趣旨が損なわれることがないと認めら
れるときは、当該非開示部分にかかる情報以外の部分を開示しなければならない。」
と規定している。
また、条例8条2項は、「開示請求に係る公文書に前条第2号の情報(特定の個
人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情
報のうち、特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くこと
により、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、
当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を
適用する。」と規定している。
エ
本件対象公文書に記載されている情報について
審査会が見分したところ、本件対象公文書は表形式になっており、行単位で区市
町村名が記載されており、列単位で左側より「該当のある小学校数」、「保護者等の
付添い人数」、
「医療的ケアを伴う付添いの実態」、
「医療的ケアを伴わない付添いの
実態」の各項目についてそれぞれ該当する人数が記載されていることが確認できた。
実施機関は、区市町村名については条例7条2号に該当するとして全て非開示と
しており、列単位で記載されている「該当のある小学校数」、
「保護者等の付添い人
数」、
「医療的ケアを伴う付添いの実態」、
「医療的ケアを伴わない付添いの実態」の
- 6 -
各人数については開示している。
これらの情報のうち、「保護者等の付添い人数」が1である区市町村の情報につ
いては、公にすることにより付添いにより登校している児童生徒が特定される可能
性があると認められ、条例7条2号本文に該当する。
また、「保護者等の付添い人数」が少数である区市町村の情報については、公に
することにより特定の個人が識別されるとまではいえないが、医療的ケアを伴う付
添いの有無は身体の状況を示す情報であり、これが明らかになることにより個人の
権利利益を害するおそれがあると認められるため、条例7条2号本文に該当する。
次に、同号ただし書該当性について検討すると、これらの情報は、法令等の規定
により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とは認め
られないので、同号ただし書イには該当せず、その内容及び性質から同号ただし書
ロ及びハのいずれにも該当しない。
オ
本件対象公文書の条例8条1項に基づく一部開示の妥当性について
異議申立人が提出した開示請求書には、文科省が実施する「障害のある児童生徒
の学校生活における保護者等の付添いに関する実態調査」について区市町村別(教
育委員会別)の数値を求めるとの記載があり、異議申立人は意見書においても、区
市町村名を開示すべき旨主張している。
よって、本件開示請求及び意見書の趣旨を踏まえると、実施機関が行った区市町
村名を一律非開示とする一部開示は、結果的に条例8条1項の「当該開示請求の趣
旨が損なわれることがないと認められるとき」には該当しないものと解さざるを得
ない。一方、本件対象公文書における保護者等の付添いがある児童の情報について
は、保護者の付添いがあること自体は同じ学校に通学する生徒や地域の関係者等に
とって日常生活において一般的に知り得る情報であると考えられるが、医療的ケア
を伴うか否かということは必ずしもこれらの者にとっても知り得る情報とまではい
うことができない。
したがって、実施機関は「医療的ケアを伴う付添い」の実態及び「医療的ケアを
伴わない付添い」の実態の全ての部分の情報を非開示にしたうえで、その他の部分
について区市町村名を含めた一部開示の可否を検討すべきであったと考えられる。
以上のことから、実施機関が行った一部開示決定は、必ずしも「当該開示請求の
- 7 -
趣旨が損なわれることがない」とは認められないが、実施機関が区市町村名以外の
情報を既に開示している以上、それ以外の部分についてこれ以上開示する部分がな
いという意味において、実施機関の本件一部開示決定は、取り消すべきものとは認
められない。
よって、「1
審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
秋山
收、浅田
登美子、神橋
一彦、隅田
- 8 -
憲平