金融資本市場 2017 年 1 月 12 日 全 7 頁 中国:国内資本流出が拡大、外貨準備は十分か 2016 年 7-9 月期 国際収支統計結果 金融調査部 研究員 中田理惠 [要約] 中国国家外貨管理局より公表された国際収支統計によると、2016 年 7-9 月期の金融収 支(外貨準備等を除く)は 1,310.6 億ドルの流出超、誤差脱漏は 743.1 億ドルの流出超 となった。 2015 年後半の資金流出は貸出や現預金における海外資本の流出拡大が主な要因であっ たが、2016 年 7-9 月期は海外資本が流入超である一方、国内資本の流出が顕著に拡大 した。 2016 年 12 月末時点で外貨準備高は 3 兆 105 億ドル(前月比▲411 億ドル)となった。 依然として外貨準備高は IMF が試算する適正水準のレンジ内にあるが、下限に近づきつ つある。 1.はじめに 2016 年 12 月 30 日に中国国家外貨管理局より 2016 年 7-9 月期の国際収支統計が公表された。 本稿では当該統計等をもとに中国の資金流出状況における変化を把握すると共に、足元の動向 や当局の姿勢、現在の外貨準備高の水準の適切性等について述べる。 2.国際収支統計から見る資金流出入状況 (1)資金流出入の概要 金融収支赤字が再び拡大、国内資本における流出が主因 2015 年後半の大幅な資金流出の後、流出額は縮小傾向にあったが、2016 年 7-9 月期では再び 資金流出が拡大している。図表1は国際収支統計を基に中国からの資金流出入状況を表したも のである。プラスの場合は海外から中国本土への資金流入を、マイナスの場合は資金流出を意 味する。経常収支は依然として黒字(資金は流入超)が継続しているが、金融収支は 2014 年第 2 四半期以降、赤字(流出超)が継続している。また誤差脱漏における流出超の幅も 2014 年第 株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2/7 2 四半期以降拡大傾向にある。直近に発表された 2016 年 7-9 月期では経常収支が 692.5 億ドル の黒字(資金は流入超) 、金融収支が 1,310.6 億ドルの流出超、誤差脱漏が 743.1 億ドルの流出 超となった。 また 7-9 月期の金融収支においては国内資本の流出が顕著に拡大した。図表2は金融収支を 海外資本・国内資本別に示したものである。赤い棒グラフが海外資本、青い棒グラフが国内資 本を示している。2015 年末の資金流出の拡大は貸出や現預金における海外資本の流出拡大が主 因となっていたが、2016 年 7-9 月期の海外資本は2期連続で流入超となった。一方で国内資本 の流出が拡大した。 図表1 国際収支統計概要(四半期別、2016 年 7-9 月時点まで) (億ドル) 2,500 2,000 1,500 資金流入 ↑ 1,000 500 0 ↓ 資金流出 -500 -1,000 経常収支 金融収支(外貨準備等除く) -1,500 誤差脱漏 -2,000 -2,500 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 (年) (出所)中国国家外貨管理局より大和総研作成 (参考) 金融収支…直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資及び外貨準備の合計。 なお図中では外貨準備を除外して示している。 経常収支…金融収支に計上される取引以外の、国内居住者・非居住者間の取引収支。 内訳には貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支が含まれる。 図表2 金融収支(外貨準備を除く)及び誤差脱漏(四半期別、2016 年 7-9 月時点まで) 海外資本 金融収支(外貨準備を除く) (億ドル) 2,500 国内資本 金融収支+誤差脱漏 2,000 1,500 資本流入 ↑ 1,000 500 0 -500 ↓ 資本流出 -1,000 -1,500 -2,000 -2,500 1999 2001 2003 2005 (出所)中国国家外貨管理局より大和総研作成 2007 2009 2011 2013 2015 (年) 3/7 (2)金融収支における資金流出入の内訳 国内資本は対外直投や貿易信用における流出が主、海外資本は流入超だが直投は低調 金融収支における資金流出はどのような項目によって発生しているのか。図表3は国内資本 の金融収支における資金流出入を項目別に示したものである。中国政府が中国企業の対外投資 を奨励したこと(走出去戦略)もあり、2014 年頃より対外直接投資が拡大しており、これが資 金流出拡大の主な要因の一つとなっている。この他、2016 年 7-9 月期においては貸出や貿易信 用における資金流出も拡大した。中国企業の直接投資拡大を原因とした資金流出は、中国企業 の成長の結果としてプラスに捉えることもできる。ただし、こうした項目は必ずしも全てがそ の本来の目的に従って使用されているとは限らない。中国は海外への資本取引に規制を設けて いるため、そうした規制を回避するために貿易信用や直接投資が海外への資金移動の手段とし て利用されている可能性も否定できない。 海外資本に関しては 841.7 億ドルの流入超となったが、直接投資(261.9 億ドルの流入超)は 2009 年 4-6 月期以来の低水準となった(図表4)。 図表3 国内資本の流出入(金融収支、外貨準備を除く、四半期別、2016 年 7-9 月時点まで) (億ドル) 1,000 資金流入(還流) ↑ 500 その他 0 貿易信用 貸出 -500 現預金 証券(債券) -1,000 証券(株式) ↓ 資金流出 -1,500 直接投資 -2,000 -2,500 2007 2008 2009 2010 2011 (出所)中国国家外貨管理局より大和総研作成 2012 2013 2014 2015 2016 (年) 4/7 図表4 海外資本流出入(金融収支、四半期別、2016 年 7-9 月時点まで) (億ドル) 2,500 2,000 その他 資金流入 ↑ 1,500 1,000 貿易信用 貸出 現預金 500 証券(債券) 0 証券(株式) -500 直接投資 ↓ 資金流出 -1,000 -1,500 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (年) (出所)中国国家外貨管理局より大和総研作成 3.足元における資金流出入状況と当局の姿勢 当局は従来規制の実施を徹底し監督強化 2016 年末時点までの段階では、人民元の対ドルでの下落は継続していた1が、2016 年 11 月の 銀行の決済から見る資金流出は 246 億ドルに留まっている(図表5) 。こうした背景には同時点 の対ドルでの人民元安が主にドル高主導で進んだ(対ユーロ・対円では人民元が上昇)ことに 加えて、当局による為替管理に対する監督強化が影響していると考えられる。昨年、2016 年 10 月末頃には銀聯カードによる香港での保険購入の管理が強化された。また 2016 年 12 月 31 日に は国家外貨管理局より個人の外国為替取引について更なる監督強化を行うことが発表された。 現状では、当局は資金流出に対して監督強化を中心とした政策対応を行っている。目立った規 制強化が人民元の国際化を阻害しないようにとの配慮があると考えられる。しかしながら、将 来的には規制強化による対応に踏み切る可能性も否定できない。 1 なお、2017 年初に人民元が対ドルで急騰する動きがあった。これは人民元のオフショアにおける銀行間貸出 レートが急騰したことにより人民元の需給がひっ迫したためとされる。香港のオフショア人民元の翌日物銀行 間貸出金利(HIBOR)の 2017 年 1 月 6 日終値は 61.3%に達した(2016 年の年間平均は 2.9%) 。報道ではこうした 背景には中国当局による介入があったのではないかとされている。 5/7 図表5 中国非金融部門による本土内銀行を介した本土外との資金受取、支払状況 (十億ドル) 支払 受取 (十億ドル) 収支(右軸) 500 400 300 80 資金流入 ↑ 60 40 200 20 100 0 -100 -200 0 ↓ 資金流出 -20 -40 -300 -60 -400 -500 2010/01 2011/01 2012/01 2013/01 2014/01 2015/01 2016/01 -80 (年/月) (出所)中国国家外貨管理局より大和総研作成 4.外貨準備は十分か 2016 年 12 月末時点で外貨準備高は 3 兆 105 億ドル(前月比▲411 億ドル)となった(図表6)。 依然として世界一の外貨準備を誇るが、その水準は為替介入への利用等により減少を続けてお り、先行きに対する懸念を指摘する声もある。 IMF は新興国の外貨準備の適正水準の目安として、外貨準備の対輸入額(推奨基準3ヶ月分以 上) 、対短期債務残高(推奨基準 100%以上)、対マネーサプライ(推奨基準 5~20%、為替制度 による)を挙げている。これらの基準は輸入額への支払いが行えるか、短期債務の返済ができ るか、資本逃避への耐性等といった観点に基づくものである。図表7は以上の3つの基準を基 に、中国の水準と推奨基準値を比較したものである。中国の外貨準備高は対輸入額で 23 ヶ月分 2、 対短期債務残高でも 354%3と十分に条件を満たしている。しかし、対マネーサプライ(M2)を 見ると、比率は 14%4であり、変動為替制度を採用している場合の基準値(5%)以上、固定為 替制度を採用している場合の基準値(20%)以下となっている。中国は完全な変動相場制を採 用しておらず、為替はある程度の幅をもって管理されているため、いずれが適正な基準か一概 には言い難い。しかし他の基準(対輸入額、対短期債務)と異なり、対マネーサプライで見た 場合には、外貨準備が十分であるかに疑問が残るといえる。IMF は以上の3つの基準等を合わせ た外貨準備高の適正水準レンジ5及び中国の 2016 年における水準(予測値)を公表している。こ 2 外貨準備高は 11 月末時点、輸入額は 2015 年 12 月~2016 年 11 月の 12 ヶ月平均の値 外貨準備高、短期債務額ともに 9 月末時点の値 4 外貨準備高は 11 月末時点、M2 は 11 月末時点の人民元建ての値を同時点の為替レートで米ドル換算した値 5 IMF が公表する外貨準備高の水準の適正判断の式は次の通り。ARA(Assessing Reserve Adequacy) Metric = 10% × Exports + 10% × Broad Money + 30% × Short-term Debt + 20% × Other Liabilities この値が 100~150% 3 6/7 れに基づけば 2016 年末時点の外貨準備高6は既に適正水準のレンジの下限に近付いている状況 である。こうした背景からか、中国当局は為替介入の際に先物売りなども合わせて行っている ようだ。 外貨準備高が既に適正水準の下限近辺にあるとすれば、外貨準備を原資とした為替介入は限 界が近づいているということとなる。しかしながら、為替介入を放棄することにより人民元が 更に急速に対ドルで下落した場合、更なる資金流出を招く可能性がある。こうした結果を避け る方法としては、利上げによる人民元高への誘導も選択肢として考えられる。この場合、中国 国内の金融を引き締めることとなる。しかしながら、金融の引き締めは不良債権問題の顕在化 や、これに伴う銀行経営の圧迫等といったマクロ経済への負の影響をもたらす可能性がある。 依然として外貨準備高は適正水準内にあるものの、今後の先行きを担う人民元の動向は引き 続き注視していく必要がある。また、仮に中国が利上げを実施する場合はマクロ経済への2次 的な影響を考慮せねばならない。 図表6 外貨準備高の推移(月次、2016 年 12 月末時点まで) (兆ドル) (十億ドル) 4.0 150 外貨準備高前期比増減(右軸) 3.5 3兆9,932億ドル 外貨準備高 100 3.0 3兆105億ドル 2.5 2.0 50 0 1.5 -50 1.0 -100 0.5 0.0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 -150 2016 (年) (出所)中国国家外貨管理局より大和総研作成 にあれば適正水準のレンジ内とされる。 6 通常、中国の外貨準備高について言及する場合は統計上の外貨準備高のみを指すことが多いが、IMF が使用す る外貨準備高には IMF リザーブポジションや SDR、金などを含めた政府の準備資産(中国語では「官方储备资产」 と表記されるもの)の値が使用されている。 7/7 図表7 外貨準備の適正基準と中国の水準 対短期債務 対輸入額 (ヶ月) 25 中国 基準値 400% 中国 350% 23ヶ月 20 対マネーサプライ(M2) 基準値 基準値(固定為替制度) 基準値(変動為替制度) 354% 20% 300% 250% 15 中国 25% 15% 200% 10 14% 10% 150% 100% 5 5% 50% 0 0% 過去12カ月平均 2016/11末時点 0% 2016/09末時点 2016/11末時点 (出所)中国国家外貨管理局、中国人民銀行、中国税関総署より大和総研作成 図表8 IMF が公表する外貨準備高の適正レンジと中国の水準 適正水準に対する外貨準備高の比率 250% 200% IMFによる適正水準のレンジ 150% 100% 50% 0% 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016(年末) IMF予測値 (注1)IMF が公表する外貨準備高の水準の適正判断の式は次の通り。ARA(Assessing Reserve Adequacy) Metric = 10% × Exports + 10% × Broad Money + 30% × Short-term Debt + 20% × Other Liabilities この値が 100 ~150%にあれば適正水準のレンジ内とされる。 (注2)通常、中国の外貨準備高について言及する場合は統計上の外貨準備高のみを指すことが多いが、IMF が使用する外貨準備高には IMF リザーブポジションや SDR、金などを含めた政府の準備資産(中国語では「官 方储备资产」と表記されるもの)の値が使用されている。 (出所)IMF より大和総研作成
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