2016 年度 第 15 回早稲⽥⼤学リンアトラス研究所セミナー 2016 年 12 ⽉ 20 ⽇ 無機リン化学と産業応⽤ 徳島⼤学⼤学院理⼯学研究部教授 1. 杉⼭ 茂 はじめに リン資源の枯渇が指摘されているが、肥料分野以外、特に無機リン化学の分野の研究者にはそ の危機に対する対応はできているのであろうか?講演者は、産業界に近い学会である化学⼯学 会反応⼯学の分野で、無機リン材料の触媒機能の魅⼒に熱中して以来、化学⼯学の特徴を活かし た無機リン材料の機能開発を⾏ってきた。しかし、あるとき「リン資源が無くなると、これまで の研究成果が無になる」という強迫観念に似たものに囚われるようになり、無機リン化学の機能 開発とともに廃棄される未利⽤資源からのリンの回収、特に、これまで利⽤されてきたリン鉱⽯ 由来のリン産業の基幹プロセスに直接寄与できる形でのリンの回収に研究の主眼を置いている。 徳島⼤学では、平成 20 年度から 3 年間科学研究費補助⾦基盤研究Aの助成を受け、“希少資源 リンの⾼度化利⽤に向けた新規リン戦略”というテーマを、⼯学部、薬学部、⻭学部の連携研究 として⾏った。ここでは、新たなリン資源の探索・再⽣と付加価値の⾼いリン製品を開発・提案 し、その付加価値をリン資源の再⽣に還元することによって、現在リンが最も使⽤されている肥 料の価格があまりにも安価であるために、リン資源の再⽣に資⾦がかけられない現状を打破し たいというプロジェクトを始めた。その成果をもとにして、本学にはフロンティア研究センター 棟が昨年度完成している。⼤学外への展開としては、国内の⼤学・国研の研究者と連携し、更に 早稲⽥⼤学リンアトラス研究所 ⼤⽵久夫教授の御協⼒を頂き、平成 23 年度および 25 年度に 科学研究費補助⾦新学術領域研究に申請したが、その必要性は⾼く評価されたにも係わらず、産 業界との連携不⾜を指摘され、その⽬標達成には⾄っていない。現在は、⼤⽵教授のもとで全国 のリンに関する産学官の研究者と、“リンの事典“を編纂しており、産業界との連携不⾜が劇的に 解消されている。本講演では、肥料としてしか利⽤されていなかった鶏糞から機能性リン材料の 製造に利⽤することができる安価で容易なリン回収プロセスを検討した⼀例と、古くから利⽤ されているが利⽤⽅法を考えると⾮常に付加価値の⾼い⾼度な機能を持つリン材料があること を⽰した例について紹介する。 2.コンポスト化鶏糞からリン酸カルシウムの再⽣ 1) 回収・再利⽤されたリン資源の主な⽤途は肥料であろう。しかし、これでは機能性材料開発に 不可⽋なリンは回収されないことになる。また、リンの回収に対して、固形廃棄物を酸やアルカ リで溶解させし、含リン溶液にすれば、あとは何とかなるという研究も⾮常に多い。この場合、 含リン溶液にはリン以外の⾮常に多くの化学種が溶解するため、その中からリンを分離するこ とは、⾮常に困難であるとともに、回収価格が⾼価になることは容易に予想されるであろう。肥 料以外の⽬的でリンを回収・再利⽤するには、できるだけ容易で安価な⼿法で、リン鉱⽯に近い 形態、例えば現状のリン産業の基盤となるプロセスに供給できるリン酸カルシウムとして回収 することであろう。その⼀例として、コンポスト化鶏糞を、酸で処理し、その後アルカリで処理 するという容易な⽅法でリン酸カルシウムを回収できる⽅法を⽰す。コンポスト化鶏糞は、前回 の本セミナー講師の東京⼯業⼤学の中崎清彦教授から頂いた。このコンパスト化鶏糞を、0.1 mol/L の硝酸で 20〜30 分室温で溶解させ(Fig. 1; Step D)、得られた溶液をアンモニア⽔で pH 7.5 にして沈殿する固体(Fig. 1; Step P)を分析すると、純度の⾼いリン酸カルシウムを得 ることができる。 Composted chicken manure Step D & filtered Filtrate Step P, filtered, & dried Calcium phosphate Fig. 1 Image of the dissolution-precipitation technique for composted chicken manure この容易で⽐較的安価な⼿法は、鉄鋼スラグ、化学プラントから排出される固体産業廃棄物(双 ⽅とも Step D と Step P の間に鉄の回収が必要)や使⽤済蛍光管由来廃棄物(Step D と Step P の間にイットリウムの回収が必要)にも適応可能である。 3. 宇宙空間で尿からアンモニアを回収するための MAP の利⽤ 2) リン回収に係わる研究者であれば、MAP(リン酸マグネシウムアンモニウム:MgNH4PO4)は、 MAP 法や肥料としての必要な 3 ⼤要素のうち窒素とリンを含んでいる材料として馴染みが深い であろう。しかし、肥料として利⽤するため、⼀⾒付加価値が低く、価格も安価である。しかし、 MAP は 60℃程度の廃熱を利⽤するとアンモニアを放出し、その後に残った残渣(リン酸⽔素マ グネシウム)は尿に含まれるアンモニアを回収し MAP を再⽣するため、宇宙空間で⼈間が⽣活 する際の尿処理と純アンモニアの容易な取得⽅法として、NASA からの問い合わせを受けた。 Fig. 2 Image of ammonia recovery from aqueous waste containing NH3 本セミナーでは、HAP(カルシウムヒドロキシアパタイト)とマイクロリアクターの組み合わせに よる⾼選択性触媒プロセスの開発についても述べる。 引⽤⽂献 1) S. Sugiyama, R. Kitora, H. Kinoshita, K. Nakagawa, M. Katoh and K. Nakasaki, J. Chem. Eng. Japan, 49: 224-228 (2016) 2) S. Sugiyama, M. Yokoyama, H. Ishizuka, K.-I. Sotowa, T. Tomida and N. Shigemoto, J. Colloid Interface Sci., 292: 133-138 (2005) 連絡先:[email protected]
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