(7) 長期財政シミュレーションから見えた課題 ① 長期財政

(7) 長期財政シミュレーションから見えた課題
① 長期財政シミュレーションが必要な理由
下水処理場や下水管渠など、大規模な資産を構築して事業を行う、いわゆる
『装置産業』である下水道事業は、長期に渡り莫大な資産の改築更新*を繰り返
していくため、将来の収支予測には、長期的な視点が必要となります。
そのため、今回の財政シミュレーションは、資産の約8割を占める下水道管
渠の耐用年数が50年間であることや、国も可能な限り長期間(30年間~5
0年間)の試算を推奨しているため、期間を50年間としました。
また、今回は、50年という長期のシミュレーションですので、人口推移や国
の補助制度などの経営環境の変化が大きく影響するため、まず、現行制度が継
続する前提(成り行きのまま)で、どのような状態になるのか試算し、その後、
様々な施策を行った場合の効果などを検証しました。
なお、今回の長期財政シミュレーションを実施するにあたっての主な前提条
件は以下のとおりです。
図表 41 長期財政シミュレーションの主な前提条件
項
収
益
的
収
支
収
益
的
支
出
目
計
上
方
法
下水道使用料
水量区分ごとに、過去の動向を加味して推計しています。
(料金改定は見込んでいません。)
附帯事業収入
法定の買取期間(20 年間)を算出しています。
(H46 年度まで)
一般会計繰入
現行制度(総務省の繰出基準)に基づき算出しています。
長期前受金
戻入(※)
固定資産台帳から算出しています。
(新規分は、投資計画を基に算出)
その他収益
平成 27 年度実績に基づき算出しています。
職員人件費
過去数年の動向に基づき算出しています。
その他
動力費、薬品費等は処理水量の増加等を見込んで算出し、
修繕費や委託料等は過去の動向に基づき算出しています。
維持管理費
減価償却費
固定資産台帳から算出しています。
(新規分は、投資計画を基に算出)
支払利息
建設債は借入期間 30 年(5 年据置、元利均等)で算出し、
資本費平準化債・特別措置分(※)は、借入期間 10~20 年
(1 年据置、元金均等返済)で算出しています。
なお、金利は過去 10 年の平均利率としています。
※長期前受金戻入は、固定資産取得のために交付された補助金等を減価償却するたびに、収益化
するものです。
※特別措置分は、従来の公費負担割合による額(雨水相当分7割)と新たな公費負担割合
(雨水分及び汚水公費分)による差額についての起債です。
32
② 更新事業費算出における前提条件
ⅰ 再取得価格
固定資産台帳上のデータを基に、各資産の取得価格に物価上昇を加味した金
額【国土交通省 建設工事費デフレーターを参照】を再取得価格としています。
ⅱ 再取得時期
図表 42 種別毎の使用可能年数
これまでの運用実績や他市事例を参
種 別
使用可能年数
考に、使用可能年数は、右表のとおり
1.5~2.0倍
法定耐用年数を延長した年に再取得す 管渠
1.5倍
る計算としています。(下水道管渠は、 土木構造物
電気・機械設備
1.2倍
管種に応じ使用可能年数を設定)
ⅲ 費用の平準化
算出された更新事業費(推計)は、「更新費は一定期間で平準化すべき」とい
う国の指針等を参考に10年単位で平準化しました。
なお、平成28年度までにすでに、使用可能年数を過ぎた資産(約253億
円)は、平成29年度からの15年間で平準化しています。
ⅳ 更新財源
更新財源としては、国庫補助金(現行制度での交付額を算定)を充当したう
えで、不足分は企業債*を発行して賄う予定としています。
図表 43 更新投資の平準化
(億円)
500
管渠
ポンプ場
平成50年度頃に大規模更新時代(ピーク時:約
385億円程度)を迎えるため、10年単位で平準化
しています。
処理場
400
平準化
300
平準化
200
100
0
H28
H33
H38
H43
H48
H53
H58
H63
H68
H73
H76
(億円)
平準化後
500
管渠
400
ポンプ場
処理場
更新費用を平準化したとしても、現在の投資規模(65億
円)の約2倍の費用が将来必要になると見込まれます。
300
200
約131億
約83億
100
約21億
約83億
約66億
約47億
約23億
0
H28
H33
H38
H43
H48
H53
H58
H63
H68
H73
H76
※なお、これらは現在把握している資産の情報、知見に基づき推計したものであり、今後変更になる場合があります。
シミュレーション期間中の建設投資額は、汚水処理10年概成*の方針を受け、
未普及地域*への集中的投資を行う平成43年度までは、現行規模(65億円)
で固定し、平成44年度以降は、
「平準化後の更新事業費」としています。また、
国庫補助金は現行の交付額を基に算出しています。
33
図表 44 シミュレーション期間中の建設投資額
③ 長期財政シミュレーションの実施
本市が目指すべき「松山創生人口100年ビジョン」の人口の将来展望と、将
来推計人口の見通しが厳しい「国立社会保障・人口問題研究所」で、50年間の
長期財政シミュレーションを実施しました。
図表 45 当年度純損益・累積損益の推移①
松山創生人口100年ビジョン
(億円)
(折れ線グラフ)
(棒グラフ)
40.00
40
400.00
400
経営戦略の期間
当年度純損益
累積損益
30.00
30
300.00
300
20.00
20
200.00
200
③累積欠損金発生(H63)
10
10.00
100
100.00
②赤字化(H48)
0.00
0
0.00
0
-10.00
-10
-20.00
-20
-100.00
-100
-200.00
-200
①累積欠損金解消(H34)
-30.00
-30
-300.00
-300
④累積欠損金△243億円(H76)
単年度損失△18億円(H76)
-40.00
-40
【参考】
-400.00
-400
図表 46 当年度純損益・累積損益の推移②
国立社会保障・人口問題研究所
(億円)
(折れ線グラフ)
(棒グラフ)
40.00
40
400.00
400
経営戦略の期間
当年度純損益
累積損益
30.00
30
300.00
300
20.00
20
③累積欠損金発生(H61)
②赤字化(H48)
10.00
10
100.00
100
0.00
0.00
0
0
-10.00
-100.00
-100
-10
-20.00
-20
200.00
200
①累積欠損金解消(H34)
-200.00
-200
-30.00
-30
④累積欠損金△376億円(H76)
単年度損失△25億円(H76)
-40.00
-40
-300.00
-300
-400.00
-400
34
④ 経営戦略期間(10年間)の経営成績と財政状態の見通し
先の2つのシミュレーションについて、「収益性」や「安全性」に関する代表
的な下の5項目を確認したところ、いずれのシミュレーションの場合も経営指
標は改善し、健全経営が維持できることが分かりました。
1. 収益的収支*と資本的収支*のバランス(現行料金のまま黒字を確保し、
補填財源の確保ができるか。)
2. 累積欠損金の解消(約70億円の累積欠損金を10年で解消できるか。)
3. 企業債*残高の水準(将来世代への過度な負担の先送りを防ぐため、処
理区域内人口1人当たり借入金残高*は毎年度減少しているか。)
4. 安定的な資金確保(流動比率*は増加しているか。)
5. 独立採算性の維持(経費回収率*は100%以上を確保できるか。)
⑤ 経営戦略期間(10年間)の現金預金の見通し
長期財政シミュレーション(「松山創生人口100年ビジョン」の場合)の現
金預金の見通しは、平成29年度の約38億円から平成38年度には139億
円にまで増える見通しであり、10年間で100億円あまり増加します。
図表 47 借入金残高及び現預金残高の推移
(億円)
(折れ線グラフ)
(億円)
(棒グラフ)
35
⑥ 50年間の経営成績と財政状態の見通し
下水道使用料は、未普及地域*の整備に伴い今後10数年間は増加しますが、
その後、人口減少等により長期的に減少していく見通しです。
また、現在の投資規模(65億円)のままでは、平成48年度以降、更新事業
費の増加などで収支ギャップ(赤字)が発生する見通しです。
今後、「財政面」と「投資面」の収支均衡を図るため、企業債*の借入方式の
変更や、投資規模の見直し及びストックマネジメント*の推進など、財政・投資
の両面から経営改善に取り組む必要があります。
図表 48 財政面及び投資面からの経営改善策
【赤字を解消するための改善方策(案)】
「財政面」と「投資面」の両面から、収支均衡に向けて努力する必要がある。
②投資面での改善
・投資の費用対効果の精査
・投資規模を下げる
・ストックマネジメントの推進
財政
投資
①財政面での改善
・企業債借入方式の変更(元金均等方式)
・据置期間の短縮(5年から「0年」に)
【国土交通省:下水道経営の健全化のための手引きを参照】
⑦ 50年間の現金預金の見通し
現金預金については、平成40年代後半までは黒字化の影響や過去の建設投
資にかかる減価償却分が一時的に内部に蓄積されるため増加しますが、その後、
改築更新*費の増加に伴って減少傾向となる見通しです。
そのため、今後、ストックマネジメント *による改築更新*事業の精査と平準
化を図るとともに、包括委託による支出抑制や、資金を活用した中長期的な債
券運用などの収入増加策に取り組んでいく必要があります。
36
収益的収支と資本的収支の関係性
資本的収支*が赤字でも、事業は可能?
「収益的収支*」は、1年間の事業活動等で生じる収入と支出のことです。
収益的収入の主なものは下水道使用料ですが、一方、収益的支出の主なものは、
処理場の運転経費や修理費などがあります。
「資本的収支*」は、施設の整備や拡充などにかかる収入と支出のことです。
資本的収入は、企業債*や国からの補助金など施設整備の財源となる収入で、
一方、資本的支出は、施設の整備に関する工事費や設計費、企業債 *の償還金な
どです。
発生主義である企業会計*は、現金の支出はないものの、価値の減少分とし
て費用計上する減価償却費*などがあります。これら非現金支出の費用は「損
益勘定留保資金*」と呼ばれ、当年度の純利益と合わせ、建設投資などの補填
財源として資本的収支*の不足分に充てられるため、資本的収支*が赤字でも資
金不足にならず、事業を行うことが可能です。
企業会計予算
(資本的収支)
(収益的収支)
収
経
常
益
的
的
支
支
出
出
補
填
財
源
元
金
償
還
建
設
改
良
費
資
本
的
支
出
資
本
的
収
入
現金支出を
伴わない経
費と利益
起
債
一般会計
出資
37
減価
償却費
純利益
収
経
益
常
的
的
収
収
入
入
5.広報に係る現状と課題
広報に係る現状と課題
下水道事業にかかる財源をご負担いただいているお客様に対しては、コミュ
ニケーションによる「さらなるサービスの向上」や、事業や経営に対する「理解
度向上」を図ることが大変重要です。
そこで、広報を取り巻く環境や現在の施策について課題の抽出を行いました。
(1) 広報の現状と課題
全国的に下水道整備が進んだ結果、下水道は「あって当たり前のもの」と思わ
れ、その必要性や役割を意識されにくい状況となっています。
そうした中、耐震化や老朽化による改築更新*費用の増大により、今後、より
厳しくなる経営状況等について、利用者の理解を得る必要性が高まっています。
図表 49 出前教室及び浄化センター見学
これまでの本市の取組としては、市ホームページなどのウェブサイトの作成
や、工事等に関するお知らせ、小学生向けの出前教室、浄化センターへの施設見
学の受け入れなどを実施し、下水道事業に対する理解促進に努めています。
また、紙面による広報としては、市の広
報誌「広報まつやま」に、年2回(上半期、
決算)の業務状況の公表などを掲載してい
ますが、市全体の広報誌として他課(スポ
ーツ、観光等)の掲載もあり、紙面の大き
さや掲載機会が限られています。
そこで、市民の方に下水道事業に触れて
いただく機会を増やすため、平成28年度
より、大学生との意見交換会や新聞、テレ
ビなど、マスコミに対する「パブリシティ
*
」の強化を行い、積極的な広報活動に取り
組んでいる現状です。
38
図表 50 大学生との意見交換会
このほか、「松山市の下水道」や「下水道のしおり」を発行し、新規整備や転
入等により新しく下水道利用者となった方への広報や下水道事業の仕組み及び
役割、下水道経営の現状や将来の課題などの周知・広報を行っています。
(2) 今後の取組
図表 51 パンフレットの発行
ⅰ これまでの取組の拡充
今後も、下水道事業の意義や役割、仕組みなどにつ
いて、市ホームページや出前教室、施設見学等で伝え
ていくとともに、下水道事業の経営状況や将来の課題
なども分かり易く情報発信していきます。
また、大学生との連携事例等が地方紙や機関誌に取
り上げられ、市内外に情報発信することができました
ので、今後も様々な機会を通じ、パブリシティ*に努め
ることで積極的な情報発信を行っていきます。
ⅱ 広聴方法の研究
お客様がどのような情報を求めているか、どんな事
業を望んでいるかという「広聴」を充実させるため、
お客様の声を効果的に収集する方策を研究します。
ⅲ 親しみやすい下水道の取組
普段の仕事内容を「(仮称)職場レポート」を通じ
て、きちんとお客様に説明する「仕事の見える化」を
行うとともに、お客様が下水道に触れる機会を増やす
ために、広報媒体の活用や親しみやすい広報グッズの
作成等の検討を行います。
ⅳ 女性の視点からの改善活動
下水道広報プラットフォーム(GKP*)では、多様
な利用者の視点に立った下水道事業運営のため、下水
道分野での女性の活躍がますます重要として、
「下水道分野で働く女性の会(愛
*
称:GJリンク )」を発足し様々な情報発信などの取組を行っています。
そこで、本市も、女性の視点から下水道が秘める大きな力や魅力を発信する
ことを目的として「かめまるひまわりプロジェクト」を発足しており、今後、ホ
ームページ改善などによる下水道事業への理解促進に努めることにしています。
ⅴ 広報に対する職員意識の向上
今後とも、説明責任を果たすためには、職員一人一人が「広報マン」である
ことを認識するなど、広報活動の必要性を全職員に浸透させます。
39
下水道の広報活動
京都市の下水道事業では、普段、目に触れる機会が少なく、目立たない存在
である下水道について、お客様の理解と関心を深めていただくことを目的に、
様々な広報活動が展開されています。
具体的には、下水道事業開始80周年(平成22年度)を契機に、若手職員
を中心とした「下水道事業開始80周年記念事業プロジェクトチーム」が結成
され、様々なPR活動が実施されました。記念事業終了後も、下水道のPR活
動を継続したいというチーム員の熱意のもと、平成23年度から「下水道事業
PRプロジェクトチーム」と名称を変えて活動を続け、現在も、下水道PRポ
スターの作成、街頭キャンペーン等、柔軟な発想や機動力を生かした積極的な
広報活動が行われています。
【出典:京都市 第3弾 下水道PRポスター】
また、下水道広報プラットホーム(GKP*)では、全国各地でデザインの異
なる「マンホールのふた」に着目し、その美しい写真とともに、ご当地情報な
どを紹介する「マンホールカード」を各自治体と共同制作しています。
本市でも、この取組に参画し、平成28年12月から「坂の上の雲ミュージ
アム」で無料配布しています。
【配布場所】
坂の上の雲ミュージアム
【配布時間】
9:00~18:00
【休館日】
毎週月曜日
(休日の場合は開館)
※カードは一人につき
1枚のみ手渡ししています。
40