学んだことを統合的に捉え直すことで身に付く数学的な考え方

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長谷川 英和
北海道教育大学附属札幌中学校 学んだことを統合的に捉え直すことで身に付く数学的な考え方
1.はじめに
角度の和に注目するだけでなく,図形の条件
学習指導要領改訂に向けて,教育課程企画
(角の数や頂点と頂点の結び方)を変えるこ
特別部会における論点整理では,「課題の発
とで生み出される星形多角形の先端の角度の
見・解決に向けた主体的・協働的な学び」,い
和を求めていく過程で,多角形の内角の和と
わゆる「アクティブ・ラーニング」を中核と
関連づけて共通の規則性を見いだすことをね
する指導改善が示されている。数学科の目標
らった。
には,「…数学的活動の楽しさや数学のよさ
〔頂点 5 つ〕 〔頂点 6 つ〕 〔頂点 7 つ〕
を実感し…」とあるように,単にでき上がっ
た数学を知るだけでなく,事象を観察して法
・・・
則を見つけたり,具体的な操作や実験を試み
て数学的内容を帰納したりするなどして,数
や図形の性質を見いだし,発展させる活動を
通して数学を学ぶことを重視している。また,
「頂点の数を変えると,どんな図形になる
「第 2 学年においては,生徒が数学に主体的
か」「とばす点の数を変えると,先端の角度
にかかわることを一層重視し,見いだした数
は何度になるのか」といった思考を重ねるこ
や図形の性質などをさらに発展させ,新たな
とで,以前に学習した「多角形は 0 点とばし
課題を見いだし解決する活動に取り組む機会
の図形と考えることができるのではないか」
を設ける。」とし,「数学的な事実や手順を見
「多角形も含めて共通の規則性がありそうだ」
いだすだけでなく,帰納や類推(予測や推測
という思考につながっていく。
の構成)や演繹(妥当性の確認や検証)など
〔0 点とばし〕 〔1 点とばし〕 〔2 点とばし〕
の数学的な推論の進め方の質を高め,より洗
練されたものにしていく。」とされている。
・・・
具体的な教材・教具とその実践を以下に紹
介したい。
2.題材の価値
星形多角形の中でもっとも目にすることが
このように,一見異なる図形を統合的に考
多いのは,星形五角形である。すでに等しい
えることは,驚き,感動を味わい,数学を学
と認められた事柄を根拠として活用し,先端
ぶことの面白さ,考えることの楽しさを味わ
の角度の和を求める活動として位置づけられ
うことにつながるとともに,数学的な推論の
ている。この題材をもとに,学んだことの価
進め方の質を高めることになると考えた。
値に気付き,数学のよさを実感できるように
3.思考を促す「図形シート」の活用
するため,多角形と星形多角形にひそむ規則
性に焦点をおいた授業を試みた。
多角形と星形多角形を別々の図形と捉えて,
いくつかの星形多角形について,先端の角
度の和を求める活動では,既知のことを用い
ながら試行錯誤していくことが大切である。
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ノートやワークシートよりも,ホワイトボー
で星形多角形をつくり,先端の角度の和を求
ドのように書いたり消したりできる方が有効
める活動を始めた。「1 点とばし星形六角形
である。しかし,ホワイトボードは残してお
は三角形が 2 つだから 360°だ」「星形七角形
きたい元の図も消してしまうこともある。そ
も 1 点とばし,2 点とばしがつくれる」「3 点
こで,元になる図形(今回は点を打つ基準と
とばしはできない ?」などと他者と協働的に
なる「円」)をあらかじめ描いたプリントを
追究していく姿が見られた。
ラミネート加工し,生徒が自由に書いたり消
「図形シート」
したりしながら
を用いたことに
思考する教具と
より,自然と顔
し て 用 意 し た。
を寄せ合い,考
黒板に貼ること
えたことを交流
も で き る の で,
しながら,一つ
全体での共有も
ひとつの星形多
しやすい教具と
いえる。
「図形シート」
4.指導の実際
角 形 の 先 端 の 「図形シート」をのぞきこんで
角 度 の 和 の 求 他者と追究している姿
め方を見いだしていくことができた。
星形多角形の規則性に迫る小単元計画は 3
「図形シート」を並べた板書をもとに,「頂
時間構成とした。1 時間目はこれまでの学習
点の数が増えると星形多角形の先端の角の和
を既知の事柄として,星形五角形の先端の角
が 180°ずつ増える」
「とばす点の数が増える
度の和を求める活動を行った。2, 3 時間目は,
と星形多角形の先端の角度の和が 360°ずつ
円上に並ぶ 8 つの点を結んでできる図形を考
減る」ことを確認した。180°ずつ増えていく
えることを導入とし,八角形や 1 点とばし星
関係について,多角形の内角の和についても
形八角形,2 点とばし星形八角形ができるこ
同様の規則性があったことを思い出し,多角
とを確認した。「先端の角度の和は ?」と問
形が隣同士の点を結んだことでできた図形と
うことで前時の学習を元に,角度の和を求め
捉えると,とばす点が 0 点であると表現する
ていった。1 点とばし星形八角形だと 720°,
ことができることに気付いた。黒板を表に見
2 点とばし星形八角形だと 360°になることを
立てて整理することによって,多角形の内角
確認した後,どんな秘密がありそうかを問う
の和と星形多角形の先端の角度の和を統合的
と,「頂点が変わると角度の和も規則的に変
に捉えて再考することができた。
わりそう」「とばす点を変えると角度の和は
半分になる ?」といった予想を立てることが
できた。予想し
たことをもとに,
『星形多角形の
先端の角度の和
5.おわりに
にどんな規則性
多角形を含めた規則性があるとわかったと
があるだろう
きに,「すごい」「あ〜」「なるほど」といっ
か』ということ
た声を発する姿が見られた。これまでの学び
「図形シート」に書きながら
を学習課題とし,
試行錯誤している姿
のつながりや広がりを実感し,数学のよさを
生徒は自分自身
感得することができたといえる。
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