金融テーマ解説 Financial Market Update 2016/12/27 チーフ・アナリスト 大槻 奈那 2017 年の展望: 久々に銀行セクターに明るい兆し ■日米金利差は引き続き拡大で円安トレンドは継続。リーマン・ショック前に比べて企業 の海外進出が進んでいるため、為替の収益影響も鮮明 ■連綿と続いた金融規制厳格化も来年始めについに収束、金利底打ち期待との両輪で銀行 株を押し上げると予想 ■リスク要因は引き続き海外だが、いずれも一時的な動揺に留まり、大きな「リスクオン」 の方向性は持続すると予想 1.2017 年の金融環境:日本の金融政策に大きな動きはなく、日米金利差拡大へ 2016 年は、1 月にマイナス金利導入が発表されて以降、日銀の金融緩和に市場の注目が集中した。2017 年も金融政策は注目されるが、来年のフォーカスは、金利水準自体よりも、日米の金利差である。日 本はまだ緩和的であるのに対し、米国は引き締めを加速するという逆方向の動きが続くため、金利差 は拡大傾向にある。 これまで、米国の金融政策は(時期のブレはあっても)概ね他地域と同一方向に向かうことが多かっ た。今回のように、長期間逆の方向が続くのは、日本が不良債権処理に追われる一方、米国がラテン アメリカ/S&L(貯蓄金融機関)危機から回復した 90 年代半ば以来 20 年ぶりのことである。 図表1:世界の政策金利推移:米金利の“一人旅”は20年ぶり % 19 米国 日本 欧州 14 9 2014 2016 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1978 1976 1974 -1 1972 4 (出所)Bloombergよりマネックス証券作成 2017 年、トランプ政権による景気刺激策や政策金利引き上げから、米国 10 年物金利は更に 0.5%~1% ポイント程度上昇するとみられる。一方、日本の金融政策は微調整に留まるとみられる。円安効果に -1Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved. Financial Market Update よる景気持ち直しや原油価格上昇の波及による物価上昇が期待できるためだ。金利はやや上昇傾向と みられるものの、日銀のイールドカーブ・コントロールの影響で大きくは動かないだろう。日米の金 利差は、10 年ぶりの水準に達し、これを反映したドル高・円安が進むだろう(図表 2) 。 図表2:ドル円レートvs日米10年国債利回り差とその方向性 140 5.0 ドル円為替レート(円、左軸) 130 日米10年国債利回り差(%、右軸) 4.5 日米利回り差の予想 4.0 120 3.5 3.0 110 2.5 100 2.0 1.5 90 1.0 80 0.5 70 0.0 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 (出所)Bloombergデータよりマネックス証券作成 企業業績も確実に回復すると思われる。リーマン・ショック前に比べて様々な企業が海外進出を図っ ていることから、為替レートの収益影響はもはや輸出企業だけに留まらない。円安はこれまでも企業 収益のトレンドを左右してきたことから(図表 3) 、18/3 期(来期)は増益の会社計画を提示する企業も 多いとみられる。 -2Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved. Financial Market Update 図表3:企業収益vs為替レート 40 80.0% 30 60.0% 20 40.0% (サブプライム~リーマンショック時期) 10 20.0% 0 2005 0.0% 2007 2009 2011 2013 2015 -10 -20.0% -20 -40.0% -30 -60.0% -40 -80.0% -50 -100.0% ドル円レート変化幅(プラス=前年比円安、左軸) 営業利益 前年比増減率(右軸) (出所)法人企業統計、ブルームバーグよりマネックス証券作成。対象は、金融保 険を除く全企業 2. 銀行セクターに久々の“春”の訪れ:年央以降、規制の落ち着きと金利底打ちの相乗効果 2017 年央以降、短期金利底打ちが意識される 年後半からは 18 年 4 月任期満了の日銀黒田総裁後の金融政策が焦点になる。円安が続く限りマイナス 金利深掘りのリスクも低く、むしろ、年末以降は、ポスト黒田総裁の出口戦略の議論が徐々に活発化 するだろう。 銀行株価の長期金利との相関関係は高い。しかし、長期金利の上昇だけだと、収益への恩恵は極めて 限定的である。むしろ、貸出のベースとなる短期金利(主に Tibor)の上昇が収益強化のためには重要 である。 図表 4 の通り、過去 15 年間で Tibor が安定的に上昇したのは、2005 年の景気回復期だけである。こ の際は、長期金利の上昇もあって、実際に Tibor が上昇し始める約1年前から株価は上昇し始めた。 現時点では Tibor に上昇の兆しは見えない。しかし、長期金利の上昇や Libor の底打ちから、仮に、 Tibor が来年央以降にわずか 1bp でも上昇すれば、将来への期待と、株価純資産倍率 0.7 倍という現在 の低水準の株価から上昇余地は大きい。なお、Tibor が 10bp 上昇すると大手行全体で 1,000 億円の増 益となる計算である。過去には約 1 年で 70bp 上昇したこともある。その半分の 20~30bp の上昇でも、 計算上は 2,000~3,000 億円=今期会社計画税前利益の 1 割の増益要因となりうる。 -3Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved. Financial Market Update 図表4:Tiborレートvs東証銀行株指数 % 1.0 600 0.9 500 0.8 0.7 0.6 安 倍 政 権 始 動 0.5 0.4 欧 州 金 融 不 安 ~ 米 大 統 領 選 好 景 気 金 利 上 昇 期 待 0.2 0.1 金 400 融 政 策 懸 念 300 後 退 ~ 200 + 0.3 0.0 2000 日 銀 異 次 元 緩 和 BREXIT り そ な 救 済 100 サブプライム+欧州危機 0 2002 2004 2006 3ヶ月Tibor 2008 2010 2012 2014 2016 東証銀行株指数(右軸) (出所)ブルームバーグデータ等からマネックス証券作成 規制厳格化の流れも落ち着き リーマン・ショック後の 8 年間は、金融規制の厳格化が続いていたため、いくら金融緩和を行っ ても、結局金融機関は保守的にならざるを得なかった。しかし、2017 年は大きく潮目が変わる。 年初に規制資本比率の分母に当るリスクアセット計算厳格化が最終決定し、09 年以降連綿と続い てきたバーゼル 3 資本規制がほぼ終結する。1 月の決定自体は大手行の資本比率を 1〜2%ポイン ト程度悪化させ、元の比率に戻すのに 2~3 年を要することになりうるが、この規制が発表されれ ば、世界の金融機関は、当面、更なる規制厳格化の恐怖に身構える必要がなくなる。 図表 5:バーゼル規制の流れ:バーゼル 3 はようやく完成 -4Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved. Financial Market Update バーゼルI (1988年7月発表、 93年3月日本で実 施) バーゼルII (2004年6月発表、 07年3月末実施) バーゼルIII 世界金融危機直後 (2010年9月発表、 13年3月実施) <17/1月最終発表> バーゼルIII総仕上げ 計算の厳格化 規制の主眼 初めて世界統一のルー ルで資本を規制 リスク計算の精緻化。 リスクアセット計算に各行 の裁量を許容 更に良質な資本を重視 (リスクアセットの改革は 先送り) リスクアセットの見直し 不整合な点を修正しつつ、シ ンプルに 主な規制項目 【資本比率】 資本 リスクアセット 【資本比率】 資本 リスクアセット (リスクアセットに各行独 自計算を許容) 規制項目を多様化 ①【資本比率】 資本 リスクアセット ②【レバレッジ比率】 普通株式等Tier1 総資産 ③【流動比率】 流動資産 流出見込み額 リスクアセット計算方法変更 - 資本比率厳格化で、 一層リスク回避的に - リスクアセットが10~ 20%増加する可能性 - 但し、厳格化の流れがほぼ 収束するため、銀行には安 心感 運用・経済への影響 信用収縮→デフレ - 高格付けの証券化商 品や住宅ローン、ゼロ ウェイトの国債運用等 拡大 - 中小企業貸出減少 1) 株式、大企業与信等の 掛け目を統一。(各行独自 の計算を認めない) 2)独自計算のメリットを制限 (出所)金融庁等資料からマネックス証券作成 国内の金利も横ばいから徐々に上昇に向かい、かつ、規制強化も終結する来年、特に 4 月以降は、 金融セクターに 10 年ぶりの「春」が訪れるだろう。 金融環境から考える注目のサブセクターは大手行。国内利鞘の低下ペースが和らぐことに加え、 海外業務の拡大、為替効果(10 円円安になると業務純益が 200~300 億円押し上げ)が期待され る。半面、地方経済に明るさが出始めたものの、依然として資金利益がプラスに転じるには時間 がかかる。なお、リース、住宅関連は、昨年までの不動産価格の上昇や金利低下の落ち着きから 足踏みに向かう可能性がある。 3.金融市場のリスク要因: 海外の動きは一時的に「リスクオフ」を促すが、大きな流れは「リスクオン」 周知の通り、2017年は、欧州の選挙が集中する。国民投票を終えたイタリアの総選挙説もあり、3 月にはオランダ、これに4月〜6月のフランス大統領選挙と総選挙、9月のドイツの総選挙が続く。 右派が勢力を増し、保護主義的な傾向が強まる可能性もある。イタリアや英国の金融機関の財務 は依然として脆弱であり、最終処理が課題だ。また、米国の財政リスクが強く意識されれば、過 度な市場金利上昇に繋がるというリスクもある。 -5Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved. Financial Market Update これらのリスクが表面化した場合、一時的な「リスクオフ」で円高に向かう可能性もある。しか し、来年の金融環境や日本企業のファンダメンタルズの回復という大きな流れから、これらはい ずれも短期的な後退に留まるだろう。 当社は、本書の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではござい ません。記載した情報、予想及び判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推 奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではご ざいません。 提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。当 社は本書の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資に かかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。本書の内容に関する一 切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはでき ません。内容に関するご質問・ご照会等にはお応え致しかねますので、あらかじめご容赦ください。 マネックス証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第165号 加入協会:日本証券業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会 -6Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved.
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