ア イ ス ブ レ イ キ ン グ

動態的な環境下におい
ては、リスクポートフォ
るサービスの満足度を高
険会社にとって、提供す
あらゆるリスクを扱う保
ことである。日常生活の
ケーションで起こり得る
性に係るリスクコミュニ
いう考えは、食品の安全
合成化学物質は危険だと
の物質は安全であるが、
いる。例えば、自然由来
が伴うことも指摘されて
た、この尺度にバイアス
度を持つといわれる。ま
2 )。
そ の 一 つ で あ る( 図 表
って分けたアプローチも
た。不確実性の程度によ
みやツールを開発してき
ために、さまざまな枠組
れは合理的な意思決定の
性は増幅される。われわ
な変化が起こり、不確実
たな危険など、さまざま
技術の発展がもたらす新
安全、安心の変化、科学
行、地政学的緊張による
済の不均衡やバブルの進
ーの蓄積、グローバル経
ある。期待値としてのシ
の形で描くことが可能で
ナリオの集合を確率分布
場合には、それぞれのシ
リオの集合が想定される
想定できず、多数のシナ
(b)
(a)のケースの
ように特定のシナリオを
evel2〉
決定に活用できる。〈L
という形で可視化し意思
ら、デシジョン・ツリー
果などが予測できるな
れ、選択肢ごとにその効
ある程度確信的に想定さ
間〉
〈Level3と4の中
い意思決定するケース。
性双方のアプローチを使
る。すなわち、定量、定
的に活用する必要があ
ストレスシナリオを補完
と最悪シナリオに加え、
づく確率分布上の期待値
スク)では、データに基
害、金融システミックリ
ケース(例えば、自然災
め安定的な評価が難しい
確実性の度合いに応じた
を発揮するためには、不
不確実性が高まる環境
において、ERMの効果
4〉
要がある。〈Level
別課題として検討する必
ることが難しいため、個
思決定上の材料を提供す
存のリスクツールから意
ク評価が困難な場合、既
(d)これまで経験し
たことが全くなく、リス
ある。
すると、図表3の通りで
リスク)を意識して整理
決定や留意点(判断上の
保険ERMにおける意思
も留意する必要がある。
判断上のリスクについて
高まると、意思決定者の
可欠である。不確実性が
的確なツールの活用が不
めの挑戦の歴史がある。
し、保険制度に乗せるた
は、リスクの本質を理解
し て き た。 そ の 根 底 に
支えとしての役割を果た
・成長をもたらす上で下
神を鼓舞し、経済的発展
ことによって、企業家精
クを引き受け可能とする
き受け困難であったリス
リスクを確率論的に把握し、VaR で
計量化し、リスク・リミット、ロスカッ
ト・ルールを設定し、ポートフォリオ
として、
リスク・リターンを管理する。
モデルに介在する単純化バイアスの存在を意識し、過
信をせず、モデルのバックテストを実施し、リスク・リ
ターンの変化やモデルの説明力を定期的に検証する。
また、モデルで説明できないストレス状況を検証し、有
事に備え一定のリスク資本を担保する。
類似4
(未知の既知リスク)
過去に直接経験したことはないが、類
似事例は想定がつくケース。
類似事例をベースに類型1~3の手法
を活用する。
類似事例選択におけるバイアスの介在に留意する。ま
た、類似事例と現実の課題の間にはギャップがあるの
で、
そのリスクに対する対処や担保の確保に留意する。
類型5
(未知の未来リスク
に近い)
全く経験や類似事例が想定されない
ケース。
戦略性とリスクを天秤にかけて、回避
か挑戦かを判断することとなる。
リスク許容額を十分意識し、楽観バイアスに陥り、会社
を危険に晒さない。また、逆に破壊的イノベーションの
存在を無視し、戦略的バイアスに陥らないようにする。
後藤 茂之
多数の類似取引を継続的に実施する
(e.g. 資産運用取引等)場合、集合的に
ポ ー ト フ ォ リ オ と し て、リ ス ク・リ
ターンを把握できるケース。
回》
れるが、リスク量が同じ
めようとすると、人々の
頼水準の下で最悪のシナ
類型3
(既知のリスク、多数
のランダムなシナリ
オが想定される)
保険E R M 基 礎 講 座 《 第
であっても、高頻度で影
リスク認知の特徴を理解
リオを想定し、意思決定
確定判断に足る情報収集までの間、暫定的対処をし、確
定判断は先送りすると共に、戦略機会は一定確保する。
(リアルオプション的アプローチを採った意思決定)
響の小さい事象と低頻度
この類型(Level
2~4)を保険事業に当
に活用することが考えら
現時点で情報が不足している部分が
あり、確定判断をするためには情報が
不足している。
連載
で影響の大きい事象で
した上で的確なコミュニ
てはめて整理してみる
一定デシジョン・ツリーを描くことが
可能であるが、類型1ほど将来のシナ
リオが明確に区別できないケース。
送、航空機輸送などの危
た が、 そ の 後、 鉄 道 輸
送の危険からスタートし
れる海上保険は、海上輸
る。保険のルーツといわ
て発展してきた歴史であ
新たなリスクを引き受け
保険の歴史は、リスク
を回避するのではなく、
1984年2月に打ち
上げられた米国のスペー
あった。
法則に乗りづらい問題が
測の困難さなど、大数の
速さから生じる将来の予
額の巨大性、技術開発の
げに失敗した場合の損害
なく、人工衛星の打ち上
初十分な過去のデータも
険に対してリスクテイク
スシャトル「チャレンジ
保険の場合のように、当
である人工衛星に関する
例えば、先端産業の一つ
は、そのインパクトは同
ケーションを図る配慮が
と、次の通りである。
類型2
(既知のリスクでそ
のパターンが高い確
率で予想可能)
3. 破 壊 的 イ ノ
ベーションと保険
じではない。例えば、明
必要となる。
ナリオと、ある一定の信
らかに期間損益に与える
影響は異なるため、意思
れる。〈Level3〉
経験値に基づくヒューリスティクスが現実の課題と合
致しない場合に生ずる判断上のリスクに留意する。
アイスブレイキング (その2)
リオへのインパクトをよ
( a ) 例 え ば、 あ る 新
商品のマーケティングを
不利なシナリオに陥る可能性
(リスク
ファクター)を回避したり、是正する
ためのリスク管理計画を策定する。
有限責任監査法人トーマツ
いることの認識は重要で
り早く的確に見極める必
決定において、総合的な
2. 不 確 実 性 に
対するアプローチ
類型1
(既知のリスクでリ
スクが小さい)
ディレクター ある。「船は難破を、飛
要 が あ る。 そ の た め に
観点からの判断が必要と
判断上のリスクへの対処
化、新たなリスクへの対
行機は胴体着陸を、電気
は、変化の本質と自らの
析・評価モデルは存在す
(c)
(b)のケースの
ように、一定のリスク分
る市場も限定されてお
考えた場合、ニーズのあ
われわれはリスク社会
で生きている。リスク社
を拡大してきた。保険会
(出典:クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー『イノベーションへの解』玉田俊平太監修、
櫻井裕子訳、2003 年、翔泳社、55 ページ)
なる。
るが、データ入手に制約
不確実性への対応上の留意点
応といった質的変化を保
は感電死を発明したよう
ビジネスモデルへの影
り、そこでの選好におい
意思決定上の特徴
特定のプロジェクトに関する経験が
豊富で計数的に計画可能なケース。
想定可能なシナリオをデシジョン・ツ
リーとして描くことができる。
1. 変 化 に 対 す
る新たな視点
に、ある事物を発明する
響、戦略(グローバリゼ
会は常に変化している。
類型
険事業にもたらすことは
ことは、ひとつの偶発性
保険サービスを受ける
立場のリスク評価と保険
新市場型破壊
無消費者との対抗
確実であろう。
=事故を発明すること」
ーション)への影響、社
時間
異なる性能尺度
ローエンド型破壊
「過保護にされた」顧客を
低コストのビジネスモデルで攻略する
(5面へつづく)
性能
持続的戦略
既存市場
より良い製品を導入する
社の努力は、これまで引
図表4 破壊的イノベーション・モデルの第三次元
技術革新がわれわれの
意思決定を質的に変えて
であると、ポール・ヴィ
があったり、科学的知見
(出典:ヒュー・コートニー、ジェーン・カークランド、パトリック・ビゲリー、「不確実性時代の戦略思考」
ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー、2009 年 7 月号 68、69 ページより抜粋)
の制約があったりするた
Level4
True Ambiguity
全く読めない未来
て不確実性が低いケース
図表2 不確実性の 4 種類
では、将来のシナリオが
持 続 的 な 競 争 優 位 獲 得 の た め に は、社 会 が 要 請 す る 課 題 解 決 に
フォーカスしたイノベーションに軸足を置き、既存事業を飲み込む
ほどインパクトのある新事業を創造する必要がある
プレートテクトニクスの
社会アジェンダ
進行や地殻変動エネルギ
成長市場を求めて海外展開を加速するだけでなく、新興国企業のビ
ジネスモデルが先進国に流入するリバースイノベーションの影響
についても把握する必要がある
会社の評価に違いがある
グローバリゼーション
点も明らかになってい
伝統的に「人」への依存度が高い保険会社のビジネスモデルは大き
な転機を迎え、「人」と
「機械」の役割分担の巧拙が保険会社の競争
力を左右する
会受容性の視点からの考
ビジネスモデルの転換
察が必要となろう。一つ
業界内競争だけではなく、業界を超えたエコシステムにより、新事業を
創造する時代となっており、業界内競争と、業界を超えて有力なパート
ナーを引きつける優位性の双方が求められる
る。リスク量は保険会社
としてのリスク評価(A
ssessment)で
あるが、一般の人が持つ
リスク認知(Perce
ption)は異なる尺
RM関連パネルに参
加。現職にて、ERM
高度化関連コンサルに
従事。
大阪大学経済学部卒
業、コロンビア大学ビ
ジネススクール日本経
済経営研究所・客員研
エコシステムの形成
ている。
また、今日ERMにお
いて、リスクは「発生頻
ペタイト・フレームワ
事業環境変化が加速している時勢においては、それぞれのトレンド
のインパクトを見極め、適切なシナリオを描く能力の有無が、将来
を大きく左右する
リリオ(注1)は指摘し
(図表1)。
ビジネスモデルの変革、
度×損害強度=リスク
ーク、ORSAプロセ
トレンド察知
の視点を例示してみる
今後のデジタル技術の
影響を現時点で正確に予
リスクセグメントの変
量」という形で定量化さ
測することは難しいが、
化、 ロ ス 発 生 状 況 の 変
保険交渉、合併・経営
統合に伴う経営管理体
制 の 構 築、 海 外 M &
A、 保 険 E R M の 構
築、グループ内部モデ
【後藤茂之氏プロフィ
究員、中央大学大学院
総合政策研究科博士課
程修了。博士(総合政
図表3 不確実性の類型と対応上の留意点
31
策)。
時間
無消費者
または
無消費者の機会
Level3
A Clear-Enough Future
Altemate Future
確実に見通せる未来 他の可能性もある未来
A Range of Future
可能性の範囲が
見えている未来
Level2
Level1
ルの高度化、リスクア
ル】
S、Geneva A
ssociatio
ス整備に従事。IAI
て、企画部長、リスク
n、EAICなどのE
大手損害保険会社お
よび保険持ち株会社に
管理部長を歴任。日米
図表1 変化の本質とインパクトの見極め
2 0 1 6 年(平成 2 8 年)1 2 月 2 2 日(木曜日) ( 4 )
(第 3 種郵便物認可)
けられている(注2)。
プールを形成し、引き受
常の業務の中で管理する
て、人工衛星の保険は通
を活用することによっ
いう。今日では、再保険
円)の保険金を払ったと
㌦( 当 時 で 約 4 2 0 億
ロイズは1億8000万
せるのに失敗した。当時
スターの不調で軌道に乗
星は、固定ロケットブー
向けて発射された通信衛
0キロ上空の静止軌道に
ャー」から、3万600
(4面からつづく)
革するデジタル革命は、
険のビジネスモデルを変
ションのジレンマ)。保
ると指摘した(イノベー
良企業を滅ぼすことがあ
も、特定の状況下では優
術を高めていったとして
資源配分により現在の技
益を最大化させるための
さらに競争力を高め、利
位に立っている企業が、
クレイトン・クリステ
ンセンは、市場で競争優
ある。
ネットワーク)の状況で
る新しい環境(バリュー
る。これは3次元で表現
にしたのが図表4であ
戦略の関係をイメージ図
必要がある。この三つの
の戦略が有効かを決める
客や市場との関係で、ど
能や機能、標的とする顧
である。製品が目指す性
ド型破壊、新市場型破壊
ノベーション、ローエン
いわれている。持続的イ
て取り得る戦略は三つと
がイノベーションについ
ある。成長を目指す企業
を大きく変える可能性が
ョンが実現すると、世界
る。しかし、イノベーシ
以上の時間を要してい
てからである。100年
は、2000年代になっ
が、実用化され始めたの
は1900年に出ている
ば、人工知能のアイデア
ものではありません)
であり、所属する組織の
(文中の意見に当たる
部分は執筆者個人のもの
散をしている。
よって、実際のリスク分
再保険手配をすることに
このリスクを国際市場で
クをプールに再保険し、
険会社が元受けしたリス
象としている。個々の保
対する損害賠償責任を対
損害、あるいは第三者に
かったりしたことによる
げ成功条件を達成できな
星が損傷したり、打ち上
衛星保険があり、人工衛
( 注 2 ) 日 本 で は、 航
空保険の一種として人工
産業図書
間邦雄訳、 1998 年、
のシナリオへの対応』本
( 注 1 ) ポ ー ル・ ヴ ィ
リリオ『電脳世界―最悪
◇
(つづく)
破壊的イノベーションの
側面も有している。
している。縦軸が製品の
目の軸は新しい顧客(無
消費者)や消費が行われ
◆この連載は隔週木曜
日に掲載します。
性能、横軸が時間、3番
な 時 間 を 要 す る。 例 え
イノベーションは、そ
れが起きるまでには膨大
(第 3 種郵便物認可)
2 0 1 6 年(平成 2 8 年)1 2 月 2 2 日(木曜日)
(5)