GPC-UV/TC 法による水中の溶存有機物の解析

The TRC News,
201612-03 (December 2016)
GPC-UV/TC 法による水中の溶存有機物の解析
東レテクノ株式会社 環境科学技術部 馬場 大哉、生垣 加代子
株式会社東レリサーチセンター 有機分析化学研究部 北川 雅士
要 旨 水中の溶存有機物量は TC 法(Total Carbon)
、TOC 法(Total Organic Carbon)で評価されるが、
これらの手法で検出される有機物の分子量分布と分離された個々の有機物の UV 吸光特性を同時に知るこ
とは、水中で複雑に混在する溶存有機混合物の特性を知る上で有用である。GPC-UV/TC 法(Gel Permeation
Chromatography-Ultra Violet absorption/ Total Carbon detection method)では、検出部に UV 検出器につづ
き、炭素に応答する TC 検出器を有する装置により、これを実現している。本稿では、本装置の特徴を整理
し、測定事例を紹介する。
1. はじめに
3. GPC-UV/TC 装置の概要
水中の全有機炭素(TOC,Total Organic Carbon)濃度は、
GPC-UV/TC 装置は、図 1 に示すように、汎用の GPC
上下水道等の浄水プロセス、湖沼・河川の水質管理、
装置と同様にゲルカラムによる分離部を持つが、検出
透析装置や洗浄機・医療用装置等において有機物指標
部として、汎用の UV 吸光検出器の他に、全炭素(TC)
として関心を持たれてきた。当初は有機物の濃度増減
検出器を持つことが特徴である。
1)
が課題であったが、その後、種類に関心が広がった 。
しかしながら、微生物による分解や合成により溶存有
分離
カラム
機物が多様になることから、混在する有機物の個々の
情報を得るのは困難であり、全体像として分子量分布
UV吸光
検出器
全炭素(TC)検出器
分解部
(石英スパイラル管)
気液
分離
NDIR
図 1 GPC-UV/TC 計の概略図
2)
を知ることが出来る GPC 法が活用されている 。
東レテクノが所有する GPC-UV/TC 装置は、東レリ
サーチセンター北川らによって開発され 4)、ジーエル
サイエンス社のカラムオーブン(型番: MODEL 556)を
2. GPC 法に用いられる検出器
分離部とし、ジーエルサイエンス社の UV 吸光検出器
(型番: GL-7450)と、東レエンジニアリング社の全炭素
GPC 法 は、サイズ排除特性を持つカラムによって、
検出器(型番:Model LCT-100)により構成されている。
有機物を分子量サイズの大きいものから順に排除、溶
LCT-100 は、試料を石英スパイラル管に通しながら紫
出させる分離手法である。広義には SEC(Size Exclusion
外線を照射して水中の有機物を分解し、分解生成した
Chromatography)と呼ばれるが、ここでは GPC 法と称
二酸化炭素を気液分離して、気相を非分散型赤外分光
して用いる。GPC 法は、検出器として、示差屈折率検
計(NDIR, Non-Dispersive Infrared)に導入する機構を持
出器,蒸発光散乱検出器,多波長 UV 検出器などがあ
つ。分離カラムとして、Asahipak GS-320 または
る 3)。本稿では、示差屈折率検出器より高感度で、あ
TOYOPEARL HW-50S を使用している。
らゆる有機物を同じ感度で検出できる GPC-UV/TC 装
同様の機構を持つ装置は、
Huber 社の LC-OCD(Liquid
置を紹介する。
1
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Chromatography - Organic Carbon Detection)と国立環境
のピークは見られなかった。このことから、測定した
研究所の HPLC-SEC があり、前者は有機炭素分解部に
琵琶湖水には、分子量が概ね数万の UV 吸収を持たな
石英スパイラル管ではなく、薄膜紫外反応器(thin-film
い有機物(多糖類等と考えられる)と、分子量数百~
5)
UV-reactor)を持ち 、後者は分離カラムとして分析用
数千の UV 吸光をもつ有機物(フルボ酸等と考えられ
6)
シリカカラムを使用した高感度分析を実現している 。
られる)が存在したことが判明した。
4. 測定事例
5. まとめ
標準物質として、複数の分子量のポリエチレングリコ
GPC-UV/TC 法は、水中の溶存有機物の特性を知る上
ール(PEG),多糖類およびポリスチレンスルホン酸
で有効な手法のひとつである。また、本分析手法と
(PSS, 極性のある有機物)を測定して得られた保持時
TOC 分析、NMR や熱分解 GC 等の有機物解析手法を
間(min)と分子量(MW)の関係を図 2 に示した。その結
組み合わせることにより、水中の溶存有機物の詳細を
果、PEG と多糖類の校正曲線と PSS の校正曲線は、分
知ることが可能となる。今後も引き続き、受託分析等
3
4
子量 10 ~10 の範囲で比較的よく一致した。
を通じて水中の溶存有機物のデータ蓄積を進め、解析
複数の有機物が混在する水として、琵琶湖から採取
力を高めていきたい。
した湖水の GPC-UV/TC 分析事例を図 3 に示した。こ
れによると、TC 検出器によるクロマトグラムでは、
引用文献
保持時間 40 分付近のピーク(図中青矢印)と保持時間
1) 岡本高弘, 早川和秀, 水環境学会誌, 35(5),
151-157 (2008)
55~65 分のピーク群(図中黄矢印)が見られたが、UV
2) 尾崎真明ら,平成16年度下水道関係調査研究年次報
吸光検出器のクロマトグラムでは、
保持時間 40 分付近
告書集, 167-174.
Log MW
3) 長谷川博一, The TRC News, 116, 29-30 (2013).
6.0
4) 北川雅士ら, 特開平5-288741 (1993).
5.0
5) S. A. Huber et al., Water Research, 45,
4.0
PSS
879-885 (2011).
3.0
6) N. Kawasaki et al., Water Research, 45,
2.0
6240-6248 (2011).
1.0
PEG, 多糖類
馬場 大哉(ばんば だいや)
0.0
0
20
40
60
80
東レテクノ株式会社
100 120
Retention Time(min)
環境科学技術部 次長
※使用カラム TOYOPEARL HW-50S
趣味:仏教,水泳,演芸鑑賞
図 2 分子量標準物質の分離特性
UV吸光を
UV吸光を
持つ有機物群
(ex.フルボ酸)
生垣 加代子(いきがき かよこ)
持たない
有機物群
(ex.糖類)
東レテクノ株式会社
無機炭酸
環境科学技術部
趣味:旅行,食べ歩き,犬と散歩
TC
北川 雅士(きたがわ まさし)
無機塩類
株式会社東レリサーチセンター
UV吸光
25
50
75
有機分析化学研究部
100
有機分析化学第 2 研究室 主席研究員
Retention Time(min)
※実測したクロマトグラフをトレースして作図したもの。
使用カラム TOYOPEARL HW-50S
趣味:山登り(休眠中)
、クラシック音楽鑑賞、魚飼育
図 3 湖水(琵琶湖)の測定例
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