OCARINA Communication 5 ■プロジェクト紹介 大阪市立大学 大学院理学研究科 教授 宮田 真人 生体運動はこうして生まれ続ける!? 生きものは動きます。一見多様に見える生きものの動きで れまでに得てきた実験結果をもとに、淡水魚の病原菌である すが、しかし、そのメカニズムを突き詰めると、私たちヒトを含 マイコプラズマ・モービレの滑走運動が、ほとんどの病原微生 めてほとんどのものが共通であることがわかります。すなわ 物が持つ‘接着タンパク質’と、全ての生物に存在し膜電位の ち、ミオシン、キネシン、ダイニンの“コンベンショナルなモー 維持に必須な‘ATP合成酵素’の偶然の接触により生じたの タータンパク質”がATPの加水分解エネルギーを基にレール ではないか、という提案を発表しました。 ( 図はマイコプラズ タンパク質の上を滑るのです。これらの力発生過程について マ・モービレの滑走運動装置の模式図。上の青い数珠状の構 は数多くの優れた研究が行われ、相当の理 解が得られまし 造がATP合成酵素由来。肌色の部分が細胞内で,下の平面 た。ところが、近年のゲノム解析と可視化技術の進歩に伴い、 がガラスなどの固形物表面。(i)から(iii)の順に力が伝わる。) 生物の中には上記のものと根本的に異なる生体運動メカニズ Miyata M and Hamaguchi T (2 016), Prospects for the gliding ムが数多く存在することが明らかになって来ました。私が代 5 みや た まこと 1988年3月大阪大学理学部 後期課程修了 博士(理 学)。1988年より大阪市立大学理学部。2006年10月 より現職。2000年3月から2001年3月までハーバード 大学訪問学者、2003年10月から2007年3月まで、科 学技術振興機構さきがけ研究者。2012年7月より新学 術領域「運動超分 子マシナリーが織りなす調和と多様 性」領域代表。 表を務める文科省新学術領域「運動超分子マシナリーが織り なす調和と多様性(略称:運動マシナリー)」では、これらのあ まり研究されたことのない生体運動メカニズムを原子レベル まで明らかにすることを目指しています。生物の様々な運動メ mecha n ism of My c o pl a s m a m ob i l e. Cu r rent O pi n ion i n M icrobiolog y. 2 9, 15 -21. PM I D : 2 6 5 0 018 9. doi:10.1016/j.mib.2015.08.010. Nakane D, Kenri T, Matsuo L, and Miyata M (2015), Systematic structura l a na lyses of attachment orga nelle in Myco pl a sm a pneumoniae. PLoS Pathogens. 11, e10 05299. PMID: 266335 4 0. doi: 10.1371/journal.ppat.1005299 カニズムを理解することは、生命そのものの理解につながり、 また、医療や産業のために重要な生き物をコントロールする 方法にもつながると、私たちは考えています。 大阪市立大学では、新学 術 領域の総括班の事業として、 有用な方法ではあるけれどもこのままでは失われてしまう、 “急速凍 結レプリカ電子顕微鏡法”の技術開発と解 析、そし て、質量分析による解析を、全国約50拠点に展開している領 域研究グループに向けて提供しています。また大阪市立大学 の 研 究 班として 、病原性バクテリア 、モリクテス綱( c l a s s Mollicutes)の運動メカニズムを研究しています。モリクテス 綱は、グラム陽性菌の低GCブランチの細菌が高等動植物に 寄生することにより独自の進化を遂げた一群のバクテリアで す。彼らは宿主免疫システムの標的となる、細胞壁と尻尾(す なわち、ペプチドグリカンとべん毛)を捨て、柔らかく身軽な体 を手に入れました。そしてさらに徹底して宿主の免疫システム から逃れるために、カムフラージュの方法と、3つの全く異なる 運動メカニズムを獲得したのです。私たちは1997年からモリ クテス綱のこれら3つの運動メカニズムを研究しており、その 研究は今まさに佳境に入りつつあります。昨年、私たちは、こ The OCU Advance Research Institute for Natural Science and Tech
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