リサーチ TODAY 2016 年 12 月 20 日 「良いドル高」と「悪いドル高」、達磨さんが転んだの行方 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 11月の米国大統領選以降、急速な円安が進み、118円台の水準にまでなった。筆者が円ドル為替につ いて長らくストーリーラインとしてきたのは、「達磨さんが転んだ」だ。中期的トレンドの転換は、歴史的にみ ていつも「鬼」である米国サイドにあるということだ。年初来、TODAYでは米国の為替政策が「達磨さんが転 んだ」でドル安に転じたと議論してきた1。本論での認識は、11月のトランプ氏当選により米国の金融・財政 政策のポリシーミックスが転換し、再びドル高政策に転じる「達磨さんが転んだ」が生じたというものだ。振り 返れば、図表の⑥で示した2007年以降、米国は大恐慌以来のバランスシート調整に陥り、量的緩和(QE1、 QE2、QE3)を用いて自国通貨安政策を行った。その後、2012年後半以降は、米国が自国通貨安政策を 転換させたことで、図表内⑦で示した為替の転換が生じた。アベノミクスとは、米国経済の回復、為替政策 の転換に沿って生じた、まさに米国(お釈迦様)の「手のひらの上」で出来たことだった。今年初来、図表内 ⑧で示したように、120円台まで至った円安トレンドが「達磨さんが転んだ」で100円台前半までドル安調整 (円高)が進んだ。このように米国がドル安政策に舵を切ったため、日銀がマイナス金利で円安を意図して も効果はなく、それが日銀に戦略を転換させて、9月に総括的検証を実現させした。11月以降再びドル高 に転換したが、今後米国がどこまでドル高を許容するかが重要になる。ここでは、トランプ政権が望む形の ドル高、つまり「良いドル高」ならある程度許容されるだろう。一方、ドル高が米国の雇用を奪う「悪いドル高」 とみなされば、再び「達磨さんが転んだ」の転換が生じうることを覚悟する必要がある。 ■図表:円ドル為替推移 400 (円/ドル) ②1971年8月 ニクソン・ショック 350 ④1985年9月 プラザ合意 ①1949年~ GHQ、ドル円交換レートを 1ドル=360円に決定 300 ⑦2013年~ 米国金融緩和縮小 250 ③1978年~ 200 ⑨2016年~ トランプノミクス? カーター政権ドル防衛策、 ボルカー・FRB議長による インフレ対応高金利政策 150 100 ⑤1995年~ ルービン財務長官による ドル高政策 50 サブプライム問題顕現化、 ドル安転換 0 49 54 59 64 69 74 79 84 ⑧2016年 米のドル高是正 ⑥2007年~ 89 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 1 94 99 04 09 (暦年) 14 リサーチTODAY 2016 年 12 月 20 日 下記の図表は実際の円ドル相場と想定為替レートの推移である。今年2月には2012年10月以来初の想 定レートよりも円高局面が生じ、アベノミクス始まって以来の円安株高の好循環が止まった。一方でトランプ 氏当選後には、再び想定レートを上回る円安が生じて株価が上昇基調に戻った。これは日本経済にはまさ に「神風」となった。 ■図表:ドル円相場と想定為替レート推移 130 (円/ドル) 米大統領選挙で トランプ候補が勝利 120 110 100 大企業・製造業の想定レート (12月調査・103.36円/ドル) 90 ドル円相場 想定為替レート 80 70 12/10 13/4 13/10 14/4 14/10 15/4 15/10 16/4 16/10 (年/月) (注)想定為替レートは日銀短観の大企業・製造業ベース。上期は 6 月調査、下期は 12 月調査の想定レートを参照 (資料)日本銀行、Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 常に経常赤字国である米国への資金還流は重要であるが、トランプ氏が米国内のインフラ投資を重視 するなか、米国への投資資金流入は特に重要になる。その結果、ドルが上昇しても、企業活動の活発化や、 株式市場の上昇、雇用環境の改善が続くうちは、一定のドル高が許容されよう。このように、1980年代前半 のレーガノミクス的な米国への資金還流を志向する潮流が再び生じうることを、日本の市場参加者も発想を 転換させて考えることが必要だろう。下記の図表にあるように、大統領選挙後の日本の株式市場は、日本 人が売りだけで、海外投資家が買いというコントラストを呈している。日本の市場参加者にも意識の変化が 必要な状況といえる。 ■図表:日本株の投資主体別売買動向(週次) 10 (千億円) 海外投資家 個人 事業法人 信託銀行(年金等) 投資信託 日経平均(週末値、右目盛) (円) 20,000 19,000 5 18,000 0 17,000 16,000 -5 15,000 -10 14,000 16/4 16/5 16/6 16/7 16/8 16/9 16/10 16/11 (年/月) (注) 二市場一・二部合計。 (資料)東京証券取引所よりみずほ総合研究所作成 1 「達磨さんが転んだ、米は再びドル安に転じたか」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 2 月 19 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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