(2016/12/20)居住者も住宅もライフサイクルで考える政策と

新生ストラテジーノート 第 249 号
2016 年 12 月 20 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
居住者も住宅もライフサイクルで考える政策と住宅金融支援機構 MBS
政府の「住生活基本計画」と整合的な施策と MBS 投資の関係
旧聞で恐縮だが、2016 年 3 月 18 日に政府は「住生活基本計画」を閣議決定 1した。住生活
基本計画は、住生活基本法に基づく、国民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基
本的な計画である。今年閣議決定された計画の対象期間は向こう 10 年間とされている。計画の
具体的な内容は社会資本整備審議会の住宅宅地分科会(分科会長:浅見泰司東京大学大学院
教授)がとりまとめた。この計画では、「居住者からの視点」、「住宅ストックからの視点」、「産業・
地域からの視点」の3つの視点に分類して8つの目標を掲げている。
「居住者からの視点」からの目標としては、「結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安
心して暮らせる住生活の実現」、「高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現」などが、
「住宅ストックからの視点」としては「住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築」、「建
替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新」などが挙げられている。
計画がカバーしている領域は広範に及ぶが、筆者が見るに、掲げられた目標のおよそ半数が
居住者と住宅の双方につき、そのライフサイクルを考えるものであるように思える。居住者の視点
では、ライフサイクルに応じ住宅を住み替えることが容易になれば生活の質を向上できるであろう。
住宅の質の向上を図り、既存住宅(中古住宅)の流通面での不安を取り除くことで、「30 年間で使
い捨て」の消費財だった住宅を複数の世代が長期間にわたって利用できる社会資本へと変容さ
せて行ける。計画に掲げられた複数の目標の背後に、それらを貫く一定の方向性が見えるような
気がする。
住宅金融支援機構は、2016 年 10 月 1 日申込分から【フラット 35】リノベ(性能向上リフォーム
推進モデル事業)の取扱を開始した。これは、リフォームにより性能を向上させた中古住宅(既存
住宅)を取得した場合または中古住宅を取得しリフォームにより性能を向上させた場合に、【フラッ
ト 35】の住宅ローン貸出金利につき、当初 10 年間または 5 年間 0.6%引き下げるというもので
ある。この施策は、「住生活基本計画」で掲げられた複数の目標と整合的であるように思える。
自由民主党と公明党がとりまとめ 2016 年 12 月 8 日に公表した平成 29 年度税制改正大綱 2
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国土交通省 「新たな『住生活基本計画(全国計画)』の閣議決定について」 平成 28 年(2016
年)3 月 18 日 http://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000106.html
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自由民主党・公明党 「平成 29 年度 税制改正大綱・予算編成大綱」 2016 年 12 月 8 日
https://www.jimin.jp/news/policy/133810.html
https://www.komei.or.jp/news/detail/20161209_22315
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新生証券株式会社 調査部
には住宅の耐久性向上改修工事に関して所得税額の特別控除等の対象及び金額を拡充する内
容が盛り込まれている。こうした税制上の優遇措置の拡大もリフォームによる住宅ストックの品質
向上を後押しするものと考えられる。与党の税制改正大綱では、増改築などによる所得税額の特
別控除の拡充等は、平成 29 年(2017 年)4 月 1 日以降対象となる住宅を自己の居住用に供す
る場合を対象としている。税制改正は、関連する改正法案が国会に提出され、国会での審議を経
たうえで、通過・成立して成立するものであり、細部に至るまで与党の税制改正大綱に記載された
通りの改正が来年実現するとは限らない。
住宅金融支援機構 MBS の裏付資産がどう変化するか
「住宅すごろくを超える新たな住宅循環システム」(「住生活基本計画」)が社会的に大きなうね
りとして具現化するまでには相応の時間を要すると思われるが、前述の施策などの後押しもあり、
住宅の利用者―居住者―の行動が徐々に変化していく可能性がある。なかでも、中古住宅を取
得しリフォームにより品質向上を行う際に、ローンを借りるとすれば、住宅金融支援機構の【フラッ
ト 35】リノベの対象になり得る他、所得税の減税措置も受けられることで、中古住宅の流通を後押
しする可能性も考えられる。
住宅金融支援機構が【フラット 35】リノベの申込受付を開始したのが 2016 年 10 月 1 日であ
り、申込からローンの貸し出しまでは数か月のタイムラグがあることが一般的であることから、いま
のところ、機構 MBS の裏付資産に含まれる「リノベ」は少ないと思われる。もっとも、中古住宅を対
象とするローンは従前からある程度含まれており、「リノベ」の取扱開始に伴い、今後、それがどう
変化するかが注目されるところである。裏付資産の大半が 2016 年 9 月貸出分で占められていた
機構 MBS 第 114 回債の裏付資産の融資種別を見ると、中古住宅を対象とするものは件数で
11.0%、金額で 8.6%であったところ、10 月以降の貸出分が含まれるようになった 115 回債、
116 回債の裏付資産を見ると、それぞれ中古住宅を対象とするものが 12.5%・10.3%(件数・金
額)(115 回債の裏付資産)、11.3%・10.3%(件数・金額)(116 回債の裏付資産)と、あまり変
化は見せていない。なお、裏付資産に占める中古住宅を対象とするローンは、件数ベースよりも
金額ベースでみた割合が小さいことには着目しておきたい。これはいうまでもないが、1 件あたり
の平均単価が中古はそれ以外(すなわち、新築)に比べてやや小さいことを意味する。
(調査部長 江川 由紀雄)
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一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
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