全国環境研会誌 - 国立環境研究所

ISSN 2424-1083
季刊
全国環境研会誌
Vol.41 No.4 2016 (通巻第 141 号)
季刊
全国環境研会誌
第 41 巻
2016 年
目
第 4 号(通巻 第 141 号)
次
[巻頭言]
地方環境研究所の危機管理
[報
……………………………………………………… 吉田政敏/ 1
文]
新潟市沿岸海域における水質の現状と汚濁要因について
…………………………………
松田哲明・真田和衛・立川正幸・小林秀昭/ 2
京都府における微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度とガス成分濃度について
…………………………………
高倉尚枝・谷口延子・日置 正・齋藤義弘/ 8
パッシブサンプラーを利用した大気中の揮発性有機化合物(VOCs)測定の簡易化
………………………………… 槇本佳泰・砂田和博・木村淳子・大原俊彦
寺内正裕・渡部 緑・山本竜治/ 14
数値シミュレーションによる高解像度河川流量計算法の検討
………………………………… 松本源生・古閑豊和・土田大輔・石橋融子/ 19
[環境省ニュース]
環境研究総合推進費の一部業務の移管について
……………………………… 環境省総合環境政策局総務課環境研究技術室/ 26
支部だより=関東・甲信・静支部/ 28,編集後記/ 29
JOURNAL OF ENVIRONMENTAL LABORATORIES ASSOCIATION
Vol.41 No.4(2016)
C
O
N
T
E
N
T
S
Survey on Current Situation and Pollution factors of Coastal Seawater Quality in Niigata City
…… Tetsuaki MATSUDA, Kazuei SANADA, Masayuki TACHIKAWA, Hideaki KOBAYASHI/ 2
Mass Concentrations of PM2.5 and Gaseous Air Pollutants in Kyoto Prefecture
………………… Naoe TAKAKURA, Nobuko TANIGUCHI, Tadashi HIOKI, Yoshihiro SAITO/ 8
Simple Method for Atmospheric Volatile Organic Compounds Measurement by Passive Sampler
……… Yoshiyasu MAKIMOTO,Kazuhiro SUNADA,Junko KIMURA,Toshihiko OOHARA
Masahiro TERAUCHI,Midori WATANABE,Ryuji YAMAMOTO/ 14
A Study on Hight-Resolution Numerical Calculation of River Discharge
…………… Gensei MATSUMOTO,Toyokazu KOGA,Daisuke TSUCHIDA,Yuko ISHIBASHI/ 19
◆巻頭言◆
◆巻
頭
佐賀県環境センター所長
吉
田
政
敏
言◆
地方環境研究所の危機管理
佐賀県環境センター所長
吉
田
政
敏
佐賀県環境センターは平成27年4月から全環研協議会
川県を通じて福島県からの応援要請が届き,測定器の提
九州支部長を務めており,本年4月から前任の古川所長よ
供と要員派遣を回答したが,福島県に近い自治体から先
り支部長の任を引き継ぎました。
に派遣されることになり,当県は6月に放射能調査支援の
さて,地環研における危機管理を考える場合,水質事
ため職員を派遣,その後,10月には要請に基づき,福島
故等の危機管理事象の対策部門としての対応と地震等の
県原子力センター,島根県原子力環境センターと三者で,
自然災害発生時の危機管理対策の二つがあると考えます。
空間線量率核種組成調査(ゲルマニウム半導体検出器を
まず,一つ目の危機管理については,我々,地環研が
用いたIn-Situ測定)を共同で実施した。いずれの場合も
関与する事象の代表的なものとしては,光化学オキシダ
派遣者の約半数と機材は当センターが占め,中心的役割
ントやPM2.5等の高濃度時に実施される注意報発令及び
を担っている。
注意喚起,公共用水域等における異常水質事故並びに有
支援活動の後,派遣職員から意見・情報を聞き取り,
害物質による土壌・地下水汚染等といった事例があり,
この情報や専門家の意見等を元に,災害対策をまとめ,
これらは頻度が高く,マニュアル化されている事例が多
平成23年度に必要な機器の整備を行っている。
いと思われる。
その意見からは,情報インフラの被害が,電源3ヶ月,
二つ目の自然災害等については,地震や台風,水害時
有線及び携帯回線2ヶ月以上継続したこと,道路損傷及び
において被害を受けた場合の業務継続計画(BCP)等の対
燃料不足による車両トラブル,汚染・故障による測定器
策が一般的ではないかと思われる。
の欠乏等,多様な課題が浮き彫りになり,これを受け,
なお,当センターは環境部門及び放射線部門で構成さ
電源や通信インフラ喪失に対応する測定システムの整備,
れている一方,地環研と地衛研が別組織となっている。
汚染等に備えた予備測定器の確保等をはじめ,当県の原
また,放射線部門では,原子力発電所周辺の放射能調査
子力災害時の体制整備を行った。
業務を担っており,当県と同じ原子力施設の立地する地
災害対策では被害の想定は難しく,これだけ準備すれ
方自治体では,放射線部門を地環研や地衛研から分離・
ば大丈夫と体制の規模を決めることは出来ない,従って,
独立させ,単独組織とした自治体が多く,地環研等と併
今後も,継続的整備や見直し等を行うものと思われる。
設されている事例は少数となっている。
このほか,当県では,危機管理における体制以外の重
この放射線部門では,BCPとしてではなく,地域防災計
要ファクターとして人材,特に,リーダーとなる熟練者
画に基づき,地震等を起因とする複合災害や原子力災害
の確保が課題となっている。退職等でベテランが減るこ
に対する体制整備を予てより進めていたが,東京電力
とは非常に問題であり,若手職員のスキル向上が最優先
(株)福島第一原子力発電所事故を契機に,地域防災計画
事項と感じている。
をはじめ法令等が大きく見直されることとなったが,こ
こでは当県における経緯の一端を紹介したいと思う。
なお,余談ではあるが,最近の自治体職員研修等で危
機管理対策を体験することがあるが,環境部門では水質
平成23年3月11日,東日本大震災に出張先の東京で遭遇
事故等の経験があるためか,研修の実習等であまりとま
し,大きくて長時間の揺れを体験したが,余震よりも,
どう事がない。一方他部門の職員からは「何をすればよ
携帯の通話,メール,ネットが繋がらなくなり,全くの
いか分からない」といった話をよく聞く。環境部門では,
情報難民と化し,何も分からない状態になったことが非
日頃の業務として経験する事例であり,手順,判断等の
常に問題だったと感じた。実際に,地震から約6時間後,
トレーニングが出来ているのではないかと思われ,これ
臨時便に乗るため搭乗ロビーに入ると,TVの東北地方の
をOJTとして活用できないか,と考えている。
津波被害を見て初めて知り,被害の大きさに唖然とした
事を記憶している。
で亡くなられた方々のご冥福と,一刻も早い被災地の復
当センターでは,翌12日には相互応援協定事務局の石
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
最後になりますが,熊本県,鳥取県等の地震や水害等
興をお祈り申し上げます。
No.4(2016)
1
<報文>
<報
新潟市沿岸海域における水質の現状と汚濁要因について
文>
新潟市沿岸海域における水質の現状と
汚濁要因について*
松田哲明**・真田和衛**・立川正幸**・小林秀昭**
キーワード
①新潟市
②沿岸海域
③水質
④COD
⑤河川水
要
旨
新潟市沿岸海域では,平成12年頃から化学的酸素要求量(以下,CODという。)で環境基準を達成できない地点が多く
見られるようになってきた。そこで,新潟市では,その原因を探るため,河川水の影響という観点から表層と中層をそれ
ぞれ個別に調査してきた。さらに,平成24年からは,鉛直方向への広がりを探るため下層についても調査を始めた。また,
平成25年からは,内部生産の観点から植物プランクトンに注目し,クロロフィルaについても調査を行った。
その結果,直接的には,河川水の影響が大きいものの,中層や下層でもCODの上昇が見られる地点があること等がわか
った。
1.はじめに
の測定を開始した。さらに平成25年からは,クロロフィ
東京湾や瀬戸内海などの閉鎖性海域と言われるところ
ルaの測定を行っており,これらの結果から近年の新潟市
では,30年以上前から有機物による汚濁や栄養塩類の流
沿岸海域の水質と汚濁の要因について考察したので報告
入等により富栄養化が発生し,CODの水質総量規制や窒素,
する。
リンなどの排水規制を行うなど様々な対策がとられてき
た1)。このような閉鎖性海域は,地形的に湾状になって
2.新潟市沿岸海域のCODの現状
いるため海水の交換が行われにくく,水質汚濁や富栄養
新潟市沿岸の海域では公共用水域の水質測定地点とし
化が起こりやすいと言われるが,新潟市沿岸海域は,湾
て基準点,補助点あわせて9地点が設けられている。西側
状ではなく,日本海に対して海岸が広がっており,閉鎖
から弥彦・米山海域(弥彦地先)No.3,No.2,No.1,そ
性海域には該当しない。
の東側に新潟海域(甲水域)No.1,No.3と新潟海域(乙
この新潟市沿岸海域では,昭和50年より水質汚濁防止
水域)No.4があり,信濃川河口を越えた東側に新潟海域
法に基づき環境基準監視を実施している。河川や湖沼を
(丙水域)No.7,新潟海域(乙水域)No.6,新潟海域(甲
含め,環境基準の達成率を見ると,河川及び湖沼では,
水域)No.10がある。これらの地点を図1に示した。また,
全地点またはほとんどの地点で達成しているが,海域で
新潟海域(甲水域)No.10の東側近くには,新潟県が測定
は高い時で90%程度,低い時では30%程度とその変動が
を行っている新潟海域(甲水域)No.11や新潟海域(新潟
大きくなっている。特に平成12年から平成17年と平成22
東港)No.15,No.16の地点もある。なお,公共用水域の
年で海域での環境基準の達成率が低くなった。このため,
水質汚濁に係る環境基準は,9地点のうち新潟海域No.7
新潟市沿岸海域のCOD等について,継続して調査を実施し
のみB類型に指定されており,CODの基準値は3.0mg/Lであ
ているが,平成21年から3年間の調査では,その原因とし
り,その他の8地点はA類型でCODの基準値が2.0mg/Lとな
て河川水の影響がみられること,及び表層だけでなく中
層の一部でも汚濁がみられたことを報告してきた2)。
これらの結果を受けて,平成24年からはこれまでの表
層,中層にあわせて下層についてもCODや塩化物イオン
っている。
新潟市沿岸海域の9地点について,環境基準監視のため
行っている公共用水域水質測定結果のうち平成11年から
平成27年までのCOD値(75%値)を表1に示した3)。
*
Survey on Current Situation and Pollution factors of Coastal Seawater Quality in Niigata City
Tetsuaki MATSUDA, Kazuei SANADA, Masayuki TACHIKAWA, Hideaki KOBAYASHI (新潟市衛生環境研究所) Niigata City
Institute of Public Health and Environment
**
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
2
<報文>
新潟市沿岸海域における水質の現状と汚濁要因について
表1 新潟市沿岸海域におけるCOD75%値の推移
(平成11年から平成27年まで,網掛けは基準超過)単位:mg/L
弥彦・米山海域
佐渡島
新潟市
1
2
3
1
3
4
6
7
10
基準
2
2
2
2
2
2
2
3
2
H11
1.0
1.9
1.1
1.9
1.3
1.4
1.3
2.2
1.7
1.1
1.5
1.9
1.9
1.5
1.6
1.6
2.0
0.9
1.1
0.8
1.7
1.4
1.2
1.5
1.6
1.5
1.1
1.4
1.9
1.8
1.3
1.8
1.5
1.9
1.5
2.6
1.8
2.2
2.2
3.1
2.3
1.6
1.7
1.6
1.5
2.2
1.8
1.7
1.5
1.5
1.6
1.9
2.8
1.8
2.8
1.9
3.1
2.6
2.3
1.6
1.6
1.5
2.4
2.1
1.5
1.6
1.6
1.6
2.0
3.4
2.2
3.1
2.9
3.2
3.8
2.5
1.9
2.2
1.9
2.2
2.2
2.3
1.7
2.4
2.6
2.5
3.5
2.0
3.4
2.9
3.0
3.6
2.5
1.8
1.9
2.0
2.2
2.3
2.1
2.1
2.2
2.6
2.6
3.4
2.9
2.8
2.8
3.5
3.5
2.2
2.2
2.7
2.4
2.2
2.3
2.3
2.6
2.5
2.4
H12
H13
H14
新潟県
新潟海域
№
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
H26
H27
--- 1.9
--- 2.2
--- 2.1
--- 2.3
--- 2.3
1.3
1.6
1.6
1.5
1.3
1.5
1.7
1.5
1.6
1.7
1.5
1.8
3.2
2.7
2.0
1.6
1.6
1.7
2.1
1.9
1.6
1.8
1.5
1.7
が多かった。最近では平成22年で3地点とも基準超過とな
ったが,その後,基準超過はほとんどない。弥彦・米山
海域では,これまでにほとんど基準の超過はないものの,
近年では基準値に近い値となっている。
これらのことから,新潟市沿岸海域の9地点は,CODの
値が比較的高いまま推移している地点の新潟海域№6,№
7,№10(以下,新潟海域東側という。),CODの値が年
によって変動している地点の新潟海域№1,№3,№4(以
下,新潟海域西側という。),CODの値が比較的低く推移
している地点の弥彦・米山海域№1,№2,№3(以下,弥
彦・米山海域という。)の3つのグループに分けて考える
ことができる。
また,新潟市沿岸海域には,いくつもの河川が流れ込
んでいる。新潟海域東側には,信濃川,阿賀野川,新井
図1 新潟市沿岸海域測定地点
郷川があり,新潟海域西側には,信濃川の関屋分水路が
ある。また,弥彦・米山海域には,新川があり,弥彦・
なお,新潟市沿岸海域で行っている公共用水域水質測定
米山海域№3の南側約10kmには信濃川の大河津分水路が
では,毎年4月から10月までの期間中に6回の測定を行っ
流れ込んでいる。なお,この周辺の海流は,対馬海流等
ているが,荒天等により測定が行えなかった月もある。
の影響を受けて南西から北東に流れていることが多く4),
表1のとおり新潟海域では,平成12年から17年と平成22
年で環境基準の超過が多くみられた。また,地点ごとに
河川水は,河口の西側より東側に大きく影響を与えると
考えられる。
見ると,新潟海域No.10は毎年,新潟海域No.6でもほぼ毎
年基準超過となっている。新潟海域No.7では,CODがNo.6
3.調査方法
と同程度のことが多いがB類型で基準値が高いため,基準
1) 調査時期は以下のとおり新潟県公共用水域水質測
の超過は少ない。新潟海域No.1,No.3,No.4の3地点は,
定計画の日程にあわせて行った。なお,平成26年10
年によって状況が異なり,平成12年から17年で基準超過
月は,悪天候により採水ができなかったため,調査
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
3
<報文>
新潟市沿岸海域における水質の現状と汚濁要因について
は行っていない。
濁は見られない。また,表層と中層では,平成25年と平
平成25年4月~10月(8月を除く)月1回計6回
成26年で一時的にCODがやや高い時があったが,それでも
平成26年4月~9月(8月を除く) 月1回計5回
2mg/Lを下回っている。平成27年は,夏季に表層及び中層
平成27年4月~10月(9月を除く)月1回計6回
でCODの上昇がみられ,表層では2mg/Lを超える値となっ
2) 調査地点は,新潟市沿岸海域9地点(新潟海域6地点
及び弥彦・米山海域3地点)とした。
た。そのため,環境基準の超過はなかったものの平成27
年はCOD75%値が環境基準に近い値となっている。
3) 試料について,公共用水域の水質測定では,表層と
新潟海域西側でも,下層のCODは低く,変動は小さく汚
中層(海面から3m)を1:1で混合した海水としている
濁は見られない。平成25年と26年は,表層と中層でもCOD
が,本調査のために表層,中層,下層(海底から1m)
の上昇はほとんどなかった。平成27年では,表層,中層
ごとの海水も別途採水し,それぞれについても調査
ともに夏季にCODが高くなり,2mg/Lを超える状況だった
を行った。
が,その上昇も一時的なものであった。このように新潟
4) 測定項目は,年によっても若干異なるが,COD,塩
海域西側は,弥彦・米山海域と似たような傾向であった。
化物イオン,クロロフィルa,溶存酸素量(以下,DO
新潟海域東側は,年や場所により状況が異なり,明確
という。)とした。
な傾向はない。下層のCODは,比較的低いことが多いが,
平成26年6月や平成27年10月等では他の月と比べて明ら
4.結果及び考察
4.1 近年のCODの状況
かに高くなっており,一時的な汚濁が見られた。中層の
CODは,4月,5月頃には比較的低く安定しているが,平成
図2に平成25年から平成27年までの3か年のCODの状況
26年6月,9月や平成27年8月等で高い値となっている。表
を年ごとに表層,中層,下層別に示した。弥彦・米山海
層のCODは,6月から9月にかけて高くなることが多いが,
域では,多くの場合で下層のCODは低く,変動も小さく汚
4月や5月で高くなっている時もある。表層のCODは,低い
平成25年
5
4
弥彦・米山海域
(No.1)
(No.2)
新潟海域東側
新潟海域西側
(No.3)
(No.1)
(No.3)
(No.6)
(No.4)
(No.7)
(No.10)
3
2
1
0
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 V7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0
月
月
月
月
月
月
月
月
月
平成26年
5
COD (mg/L)
4
3
2
1
0
4 5 6 7 9
月月月月月
4 5 6 7 9
月月月月月
4 5 6 7 9
月月月月月
4 5 6 7 9
月月月月月
4 5 6 7 9
月月月月月
4 5 6 7 9
月月月月月
4 5 6 7 9
月月月月月
4 5 6 7 9
月月月月月
4 5 6 7 9
月月月月月
平成27年
5
4
3
2
1
0
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
4 5 6 7 8 1
月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0 月月月月月 0
月
月
月
月
月
月
月
月
月
図2 平成25年から27年の9地点の層別CODの推移
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
表層
中層
下層
No.4(2016)
4
<報文>
新潟市沿岸海域における水質の現状と汚濁要因について
新潟海域西側
塩化物イオン (mg/L)
弥彦・米山海域
新潟海域東側
20,000
20,000
20,000
15,000
15,000
15,000
10,000
10,000
10,000
5,000
5,000
5,000
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
0
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
0.0
5.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
COD (mg/L)
図3 平成25年から27年のCODと塩化物イオンの関係
新潟海域西側
クロロフィルa (μg/L)
弥彦・米山海域
新潟海域東側
20
20
20
15
15
15
10
10
10
5
5
5
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
0
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
COD (mg/L)
図4 平成25年から27年のCODとクロロフィルaの関係
時には1mg/Lに近いこともあるが,高い時には4mg/Lを超
状況にある。
える状況で,同じ年の同じ地点でも月により非常に変動
また,図3の新潟海域東側のグラフからは,塩化物イオ
が大きいことがある。公共用水域水質測定でCODが環境基
ン濃度が低い時に,CODが2mg/Lを超えることが多くなっ
準を超えた時の層別のCODを見ると,表層のみ高かった時,
ており,河川水の影響を受けて海のCODが高くなっている
表層と中層が高かった時及び表層,中層,下層ともに高
ことが多い。先に述べたとおり,表層のCODが上昇した時
くなった時もあり,汚濁の広がり方は一様ではなかった。
に環境基準を超えることが多いが,その時の表層の水は,
半分またはそれ以上が河川水の混ざった水となっており,
4.2 CODと河川水の関係
海に流れ込む河川水の水質が海水の環境基準を超過する
新潟市沿岸海域には,全国でも有数の大きな河川であ
かしないかに大きな影響を与えているといえる。
る信濃川,阿賀野川の2つの河川が流れ込んでおり,こ
しかし,同じグラフで塩化物イオン濃度が10,000mg/L
の他にも多くの川の水が流れ込んでいる。当所で平成23
を下回り河川水の影響が大きい時でも,CODが1~2mg/L
年までに行った調査でも,海域のCODが高かった時には,
の範囲内にある場合もあり,新潟海域東側の3地点では河
河川水の影響を受けている可能性があることを報告して
川水の影響を大きく受けていることが多いが,それによ
いる。そこで,平成25年以降の測定データのうち,表層,
ってCODが高くなっている時とCODが高くなっていない時
中層,下層の層別に測定したCODと塩化物イオンの関係を
がみられる。
図3に示した。一般に海水の塩分は場所によって異なるも
のの約35‰と言われており,これを塩化物イオンにする
今後の調査では,海域の調査時に流入する河川水の水
質を調査する必要があると思われた。
と19,400mg/L程度5)となる。図3から弥彦・米山海域及
び新潟海域西側では,多少河川水の影響を受けている時
もあるが,ほとんどの場合で塩化物イオンは15,000mg/L
4.3 CODとクロロフィルaの関係
多くの閉鎖性海域において,CODが高い状態の一因には,
から19,000mg/L程度と河川水の影響は多くない。一方,
植物プランクトンの増殖による有機汚濁があると言われ
新潟海域東側では,塩化物イオン濃度が10,000mg/Lを下
ている。新潟市沿岸海域はいわゆる閉鎖性海域ではない
回る場合も多くみられ,特に低い場合では5,000mg/Lを下
が,CODが環境基準を超過する要因を調査するため,平成
回る場合もある。このように,新潟海域東側では,やや
25年から植物プランクトンの指標となるクロロフィルa
広い範囲で汽水域となっており,河川水の影響が大きい
の測定を行っている。平成25年と平成26年は全9地点の混
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
5
<報文>
新潟市沿岸海域における水質の現状と汚濁要因について
12.0
DO (mg/L)
10.0
8.0
H25
6.0
H26
4.0
弥彦・米山海域
新潟海域西側
2.0
(No.1)
(No.2)
(No.3)
(No.1)
(No.3)
H27
新潟海域東側
(No.4)
(No.6)
(No.7)
(No.10)
0.0
4 5 6 7 8 9 1 4 5 6 7 8 9 1 4 5 6 7 8 9 1 4 5 6 7 8 9 1 4 5 6 7 8 9 1 4 5 6 7 8 9 1 4 5 6 7 8 9 1 4 5 6 7 8 9 1 4 5 6 7 8 9 1
月月月月月月 0 月月月月月月 0 月月月月月月 0 月月月月月月 0 月月月月月月 0 月月月月月月 0 月月月月月月 0 月月月月月月 0 月月月月月月 0
月
月
月
月
月
月
月
月
月
図5 平成25年から27年の下層DOの推移
合試料でクロロフィルaの測定を行い,平成27年からは,
定を行いその状況を把握してきた。平成25年から平成27
新潟海域東側の3地点と弥彦米山海域№2の4地点で層別
年までの3年間の状況を図5に示す。この図から,新潟市
にクロロフィルaの測定を行っている。平成25年から27
沿岸海域における下層DOは,4月頃に7~10mg/L程度と高
年までに測定したCODとクロロフィルaの関係を弥彦・米
い値であり,夏の7月~9月頃には5.5~8mg/L程度と若干
山海域,新潟海域西側及び新潟海域東側でまとめたもの
低めの値となっている。平成27年7月の新潟海域No.10で
を図4に示す。ここでは,混合試料の場合は混合試料のCOD
は最も低い4.2mg/Lであった。
とクロロフィルaを,層別試料の場合には層別試料のCOD
とクロロフィルaの関係を示している。
図4から弥彦・米山海域と新潟海域西側で傾向は似てい
新しく設定された環境基準は,最も厳しい基準が類型
生物1の底層溶存酸素量4.0mg/Lであり,この基準値に近
い値はあったものの3年間では全て基準を上回っている。
るが,新潟海域東側が他と異なる傾向を示していること
このことから,新潟市沿岸海域では,現在のところ底層
がわかる。弥彦・米山海域と新潟海域西側では,CODは1
で貧酸素水塊が発生するような状況はないものと推測さ
~2mg/Lのことが多く,時折クロロフィルaが5μg/Lを超
れた。
えることがあるが,その時でもCODが高い傾向は見られな
い。一方,新潟海域東側では,クロロフィルaが5μg/L
5.まとめ
を超える頻度も多く,その時はCODが2mg/Lを超えること
新潟市沿岸海域の9地点では,一部の地点でCODが環境
が多い。つまり,新潟海域東側では,CODとクロロフィル
基準を超過するため,その原因を調査したところ,近年
aで正の相関がみられ,クロロフィルaが上昇している時
の調査からは次のような結果を得た。
にはCODの値も高くなっていることが多い。
1) 新潟市沿岸海域の9地点について,弥彦・米山海域,
ただし,このようなクロロフィルaの上昇は,河川か
新潟海域西側及び新潟海域東側の3つのグループに分
ら流れ込んできたクロロフィルaによるものなのか,あ
け,CODの状況をみたところ,環境基準の超過があった
るいは,河川から流れ込んだ栄養成分をもとに海で内部
新潟海域東側では,主に表層の汚濁によりCODが上昇し
生産的に増えたものなのか,今のところは,明確になっ
ていたが,中層,下層まで汚濁が及んでいることもあ
ていない。今後の調査でこの点も確認していく必要があ
った。
ると思われた。
2) 新潟海域東側では,塩化物イオン濃度が低い時にCOD
が高くなることが多く,河川水の影響を大きく受けて
4.4 下層DOの状況
いると考えられた。
近年沿岸海域で注目されている問題の一つに貧酸素水
塊の発生がある。この貧酸素水塊はそれ自体が水生生物
の生息を困難にさせる上,生物にとって有害な硫化水素
を発生させて水生生物の大量死を引き起こすことがある
と言われている6)。これらを把握するため,最近,底層
溶存酸素量が新たに水質汚濁に係る生活環境の保全に関
する環境基準に加わり,その状況把握を始めるようにな
ったところである。
3) 新潟海域東側では,他の地点と比較し,クロロフィル
aが高くなることが多い。また,クロロフィルaが高い
時にCODが高くなることが多く,CODの上昇には,植物
プランクトンの影響もあることが推測された。
4) 新潟市沿岸海域では,近年の状況からは貧酸素水塊は
発生していないと推測された。
新潟市では,今後も新潟市沿岸海域の水質の汚濁につ
いて,引き続き調査を行っていくこととしている。
新潟市では,海域においては平成24年から下層DOの測
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
6
<報文>
新潟市沿岸海域における水質の現状と汚濁要因について
また,国立環境研究所と地方環境研究所等の第Ⅱ型共
2)
大野耕栄,斎藤和子,小林秀昭:新潟市沿岸海域にお
同研究(沿岸海域環境の物質循環現状把握と変遷解析に
ける水質の現状と汚濁調査について.新潟市衛生環境
関する研究)に当所も参加しているが,これらとあわせ
研究所年報,36,84, 2012
て,沿岸海域の汚濁に関する調査を進めていきたい。そ
して,最終的には新潟市沿岸海域の水質汚濁の原因を明
確にし,海域の汚濁を少なくするための対策につなげて
3)
新潟県:公共用水域及び地下水の水質測定結果,1999
~2015
4)
気象庁HP:海洋の健康診断表(海洋の総合情報)
http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/shindan/index.h
いきたいと考えている。
tml
6.引用文献
1)
環境省(閉鎖性海域中長期ビジョン策定に係る懇談
会):閉鎖性海域中長期ビジョン,2010
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
5)
気象庁編:海洋観測指針,1999
6)
中央環境審議会:水質汚濁に係る生活環境の保全に
関する環境基準の見直しについて(答申),2015
No.4(2016)
7
<報文>
<報
京都府における微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度とガス成分濃度について
文>
京都府における微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度と
ガス成分濃度について*
高倉尚枝**・谷口延子***・日置
キーワード
正**・齋藤義弘**
①微小粒子状物質 ②大気汚染物質 ③環境基準
要
旨
平成25年度から27年度に府内14局のPM2.5質量濃度を測定したところ,南部一般環境大気測定局の年平均は14.6µg/m3から
13.5µg/m3 へ,北部一般環境大気測定局及び自動車排出ガス測定局の年平均は,13.0µg/m3 から11.9µg/m3 ,16.6µg/m3 から
14.0µg/m3へ減少していた。月別変動を見ると,冬季にやや低い傾向があるものの,明確な年内変動は見られなかった。ま
た,ガス成分と比較したところ,月別変動,曜日別変動,日平均値相関係数ともSO2と最も類似していた。PM2.5質量濃度の
年平均値とそれぞれのガス成分の年平均値の相関を年度ごとにとったところ,NO2は平成25年度から平成27年度にかけて切
片にほとんど変化がないにも関わらず,勾配が減少傾向であることから,この3年間のPM2.5質量濃度の年平均値の減少傾向
は,NO2に代表される地域的な人為起源汚染物質の影響が低減した可能性があると推測された。
1.はじめに
期欠測のあった城陽局を除いた14局で解析を行った。
空気動力学的等価粒径2.5µm以下の粒子である微小粒
京都府は,南北に長い地形で人口は南部地域に集中し
子状物質(以下「PM2.5」という。)については,呼吸器
ている。また,南部地域は大阪湾からも近く,大都市近
系等に対する健康影響の懸念から1),平成21年9月に環境
郊地域として都市大気汚染の影響が比較的大きい地域で
3
基準(年平均値が15µg/m 以下,かつ,日平均値が35 µg/m
3
以下)が設定された。平成22年3月31日に改正された「大
ある。北部地域は日本海を北に臨み,南部地域に比べて
越境大気汚染の影響を受けやすい2)。
気汚染防止法第22条の規定に基づく大気の汚染の状況の
常時監視に関する事務の処理基準について」において,
2.2 調査期間
PM2.5質量濃度測定を常時監視の中に位置付けるとともに,
平成25年4月1日~平成28年3月31日
環境大気常時監視マニュアルを改訂し,常時監視の方法
は,標準測定法(フィルタ捕集-質量法)と自動測定機に
2.3 測定方法
よることとされた。京都府においては,平成24年1月から
測定局ごとの機種は表1のとおりである。これらの測定
PM2.5の自動測定機による大気常時監視測定を開始し,現
機は,PM2.5について環境省が標準測定法と等価性を有す
在18局でPM2.5測定を実施している。
ると認定した自動測定機である。データについては,京
本報では,平成25年度から27年度に連続測定した14局
の測定結果に基づき,京都府におけるPM2.5の汚染状況及
びガス成分との関連について検討したので報告する。
都府大気常時監視テレメータシステムで1時間ごとに収
集した。SO2,NOx等は,各測定局の大気常時監視データ
を用いた。
3.結果及び考察
3.1 測定結果の概要
2.調査方法
2.1 調査地点
調査地点は図1及び表1のとおりである。京都府のPM2.5
測定局は18局であるが,25年度途中に測定を開始した井
手局,南山城局,26年度に移設した精華局,27年度に長
3年間の年平均値及び日平均値の98パーセンタイル値
を南部一般環境大気測定局(向陽,久御山,宇治,田辺,
木津,亀岡,以下「南部局」という。),北部一般環境大
気測定局(南丹,綾部,福知山,東舞鶴,宮津,京丹後,
*
Mass Concentrations of PM2.5 and Gaseous Air Pollutants in Kyoto Prefecture
Naoe TAKAKURA,Tadashi HIOKI,Yoshihiro SAITO(京都府保健環境研究所)Kyoto Prefectural Institute of Public Health
and Environment
***
Nobuko TANIGUCHI(京都府環境部環境管理課)Environmental Management Division,Kyoto Prefectural Government
**
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
8
<報文>
京都府における微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度とガス成分濃度について
表2 PM 2 . 5 質量濃度測定結果(平成25年度~27年度)
単位:g/m3
南部局
北部局
自排局
日平均値
14.6
13.0
16.6
98%タイル値
36.6
34.8
38.1
日平均値
14.2
12.4
15.2
98%タイル値
33.2
33.0
34.6
日平均値
13.5
11.9
14.0
98%タイル値
34.9
29.4
34.2
25年度
26年度
27年度
以下「北部局」という。),自動車排出ガス測定局(国
道1号,国道171号,以下「自排局」という。)の平均値
として表2に示す。年平均値は,南部局は13.5~14.6 µg/m3,
北部局は11.9~13.0 µg/m3,自排局は14.0~16.6 µg/m3
であり,いずれも減少傾向にあった。日平均値の98パー
センタイル値は,南部局は33.2~36.6 µg/m3,北部局は
29.4~34.8 µg/m3,自排局は34.2~38.1 µg/m3で,南部局
図1
調査地点
は横ばい,北部局及び自排局は減少傾向にあった。
3.2 経月変化
表1 調査地点
測定地点
周辺状況
向陽
府南西部の都市域で周囲は住宅地である。隣
に中規模の商業施設がある。
PM-712
紀本電子工業(株)
久御山
府南部の都市近郊域で近隣には田畑が広が
る。東0.4kmに国道1号線,南西0.7kmに府道15
号線、東1.1kmに第二京阪道路、北1.4kmに京
滋バイパスが走っている。
PM-712
紀本電子工業(株)
宇治
府南東部の都市域で周囲は住宅地である。北
0.5㎞に繊維工場がある。
PM-712
紀本電子工業(株)
田辺
府南西部の都市域で周囲は住宅地及び商業
施設である。南0.1㎞に大規模商業施設があ
る。
PM-712
紀本電子工業(株)
木津
府南端の奈良県に隣接する田園地域で,西
0.3kmに国道24号線が走っている。
PM-712
紀本電子工業(株)
亀岡
府中部の田園地域で亀岡盆地に位置し,南西
0.6kmに京都縦貫道路、北東0.1kmに国道9号
線が走っている。
PM-712
紀本電子工業(株)
南丹
府中部の田園地域で周辺は田畑が広がる。
周辺に大きな大気汚染物質発生施設はない。
PM-712
紀本電子工業(株)
綾部
府北部の都市域で周辺は住宅、商業施設、工
場が混在している。である。
PM-712
福知山
型式
がほかの季節に比べて低い傾向があるものの明確な季節
ーンが変化すると考えられた。また,南部局,北部局,
自排局ともほぼ同じ傾向で推移していた。北部局は年間
を通じて南部局より低く,秋~冬季はその差が大きいこ
とから南部局は都市大気汚染の影響が北部より大きいと
考えられた。
ガス成分のうち3年間の経月変化がPM2.5 質量濃度と最
も似ていると考えられるのは,SO2であった。NO,NO2及び
Oxは,地域気象の影響が大きいため明確な季節変動がみ
られ,PM2.5質量濃度とは挙動が異なっていた。
府北部の都市域で、周辺は住宅地である。南 APDA-3750A
*1
0.2㎞に鉄道が走っている。
PM-712
3.3 曜日別変化
紀本電子工業(株)
*1
(株)堀場製作所
紀本電子工業(株)
府北部の都市域で、日本海に面した舞鶴湾か
ら約1kmの地点であり、周囲は住宅地である。
PM-712
紀本電子工業(株)
宮津
府北部の都市域で、日本海に面した宮津湾か
ら約0.5kmの地点であり、周囲は住宅地であ
る。
PM-712
紀本電子工業(株)
府北端の田園地域で、西0.1kmに国道482号
線が走っている。周辺に大きな大気汚染物質
発生施設はない。
PM-712
紀本電子工業(株)
大阪府県境から約1.5㎞の国道1号線に面して
国道1号 立地している。周辺は田園地帯であるが工場
も点在する。
PM-712
紀本電子工業(株)
図3に南部局,北部局,自排局のPM2.5質量濃度とガス成
分の曜日別平均値を示す。PM2.5質量濃度については,火
曜日から水曜日と土曜日にやや高い傾向がみられたが曜
日による変動は少なかった。2011年度の全国の汚染状況
3)
では,平日に高濃度,週末に低濃度となる測定局が多い
とされており,土曜日にやや高いことが異なっているが,
原因は不明である。また,南部局,北部局,自排局とも
大阪府県境直近の国道171号線に面して立地
*2
SHARP5030
国道171号 している。約2.5kmの地点に都市ごみ清掃工
*2
PM-712
場が立地する。
ThermoFisherScientific
紀本電子工業(株)
*1:APDA-3750Aは環境省のモニタリング試行事業で導入。H27.1にPM-712に変更。
*2:SHARP5030は環境省のモニタリング試行事業で導入。H26.3にPM-712に変更。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
分の月別平均値を示す。PM2.5質量濃度については,冬季
変動はなく,その年の気象条件等によって年内変動パタ
東舞鶴
京丹後
図2に南部局,北部局,自排局のPM2.5質量濃度とガス成
メーカー
ほぼ同じ週内変動パターンを示していた。曜日別変化が
最も似ていると考えられるガス成分はSO2であり,SO2につ
いても週内変動は少なかった。NO,NO2は,特に自排局で
週の半ばに高く週末に低く,Oxは,逆に週末に高くなる
No.4(2016)
9
201304
201305
201306
201307
201308
201309
201310
201311
201312
201401
201402
201403
201404
201405
201406
201407
201408
201409
201410
201411
201412
201501
201502
201503
201504
201505
201506
201507
201508
201509
201510
201511
201512
201601
201602
201603
ppb
30
20
g/m3
201304
201305
201306
201307
201308
201309
201310
201311
201312
201401
201402
201403
201404
201405
201406
201407
201408
201409
201410
201411
201412
201501
201502
201503
201504
201505
201506
201507
201508
201509
201510
201511
201512
201601
201602
201603
ppb
15
ppb
201304
201305
201306
201307
201308
201309
201310
201311
201312
201401
201402
201403
201404
201405
201406
201407
201408
201409
201410
201411
201412
201501
201502
201503
201504
201505
201506
201507
201508
201509
201510
201511
201512
201601
201602
201603
20
ppb
ppb
201304
201305
201306
201307
201308
201309
201310
201311
201312
201401
201402
201403
201404
201405
201406
201407
201408
201409
201410
201411
201412
201501
201502
201503
201504
201505
201506
201507
201508
201509
201510
201511
201512
201601
201602
201603
ppb
ppb
201304
201305
201306
201307
201308
201309
201310
201311
201312
201401
201402
201403
201404
201405
201406
201407
201408
201409
201410
201411
201412
201501
201502
201503
201504
201505
201506
201507
201508
201509
201510
201511
201512
201601
201602
201603
g/m3
10
g/m3
<報文>
京都府における微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度とガス成分濃度について
25
PM2.5
20
南部
南部
南部
南部
南部
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
PM2.5
20
15
15
北部
北部
北部
図2 月別平均値(平成25年度~27年度)
10
5
0
5
0
自排
日
5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
50
40
30
25
10
5
60
月
日
日
日
北部
日
図3
月
自排
月
自排
月
月
火
水
木
南部
北部
自排
SO2
火
北部
南部
NO
NO2
Ox
水
火
水
南部
北部
火
水
南部
北部
火
南部
水
金
木
木
土
5
SO2
北部
50
NO
30
40
30
10
20
0
10
0
自排
50
NO2
20
40
30
20
0
10
0
自排
50
Ox
50
40
40
30
10
20
0
10
0
木
金
土
木
金
土
金
土
北部
金
土
曜日別平均値(平成25年度~27年度)
No.4(2016)
10
<報文>
京都府における微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度とガス成分濃度について
表3 各局間のPM2.5質量濃度日平均値の相関係数(平成25年度~27年度)
向陽
向陽
久御山
宇治
田辺
木津
亀岡
南丹
綾部
福知山
東舞鶴
宮津
京丹後
国道1号
国道171号
久御山
0.94
宇治
0.98
0.94
田辺
0.92
0.93
0.94
木津
0.93
0.89
0.95
0.90
亀岡
0.93
0.97
0.93
0.92
0.89
南丹
0.93
0.87
0.92
0.87
0.88
0.88
綾部
福知山 東舞鶴
0.93
0.92
0.87
0.87
0.88
0.88
0.93
0.92
0.87
0.87
0.87
0.84
0.87
0.86
0.82
0.90
0.89
0.90
0.92
0.91
0.87
0.97
0.92
0.90
傾向がみられ,曜日別変化においても,NO,NO2及びOxは
p<0.01
宮津
京丹後 国道1号 国道171号
0.90
0.85
0.95
0.92
0.84
0.85
0.94
0.90
0.90
0.84
0.95
0.93
0.83
0.81
0.91
0.88
0.85
0.80
0.91
0.88
0.86
0.88
0.91
0.88
0.90
0.85
0.88
0.87
0.96
0.90
0.88
0.86
0.94
0.89
0.90
0.87
0.92
0.94
0.82
0.81
0.94
0.84
0.83
0.80
0.78
0.92
1
PM2.5質量濃度と挙動が異なっていた。
0.9
0.8
各局間の3年間のPM2.5質量濃度日平均値の相関係数は,
表3に示すように0.78~0.98で,すべての局間で高い相関
を示していた。特に,南部局及び自排局は,南部各局及
相関係数
0.7
3.4 各局間の相関
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
び自排各局との相関が高く,北部局は北部各局との相関
0.1
が高くなっており, PM2.5は広域的な汚染の影響が大きい
0
SO
12
0
NO
2
NO
32
Ox
4
5
と考えられた。
● 南部局
図4
3.5 ガス成分との相関
図4にPM2.5質量濃度とガス成分との相関係数(日平均値
p<0.01のみ)を示す。ガス成分の中で,最もPM2.5質量濃
度との相関が高かったのはSO2であった。次にPM2.5質量濃
度との相関が高かったのはNO2,Oxであったが,Oxに比べ
てNO2は局による相関係数の差が大きく,南部局の方が北
部局より相関係数が大きい傾向にあった。
これは,PM2.5とNO2が,ともに都市大気汚染の影響を受
けやすいためと考えられる。
さらに,月別の相関係数について検討を行った。図5に,
PM2.5 質量濃度とガス成分との月別相関係数(日平均値
p<0.01のみ)を示す。南部局,北部局とも年間を通じて
SO2との相関が高かった。次に相関が高いのは,7月,8月
のOx,南部局と自排局の12月~4月のNO2であった。
SO2は,他のガス成分に比べ年間を通じてPM2.5質量濃度
との相関が高かったが,特に北部局では2月~5月に,南
部局では2月~4月と7月~9月にPM2.5質量濃度との相関が
高くなっていた。この理由として春季は大陸からのPM2.5
とSO2の輸送4),夏季は光化学反応によるSO2→硫酸イオン
生成の亢進が考えられる。
夏季にPM2.5質量濃度とOxの相関が高いのは,夏季のOx
高濃度時に光化学二次生成が促進され,硫酸イオン等の
○ 北部局
△
自排局
PM2.5質量濃度とガス成分との相関係数
(平成25年度~27年度)
南部局と自排局では,12月~4月にNO2 との相関が高か
った。寒候期には,地域的に発生する窒素酸化物や炭化
水素類から二次生成する硝酸イオンやOCによってPM2.5が
高濃度になることが知られている6)が,南部局及び自排局
は北部局に比べてNO2濃度が高く,NO2が関与して生成され
る硝酸イオン等が高濃度になるためと推測される。硝酸
ガスと硝酸塩のガス-粒子平衡は,暖候期にはガス態に
傾き,寒候期は粒子態に傾くため,冬季を中心に硝酸塩
のPM2.5質量濃度への影響が高くなったためと考えられた。
また,NOについては夏季に,Oxについては冬季に負の
相関がみられた。NOはOxの主成分であるO3と反応して速
やかにNO2とO2になる7)ため,夏季はPM2.5質量濃度とOxが高
いときにNOが低く,冬季はPM2.5質量濃度とNOが高いとき
にOxが低くなることから,負の相関がみられたと考えら
れる。これは,NOについては自排局,Oxについては南部
局の方が負の相関が大きかったこととも整合する。
PM2.5質量濃度年平均値とそれぞれのガス成分の年平均
値の相関を年度ごとにとると,図6に示すようにNO2のみ3
年を通じて相関があった(p<0.05)。
二次生成粒子が高濃度になる5)ためと考えられる。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
11
<報文>
京都府における微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度とガス成分濃度について
20
18
0.8
16
0.6
14
PM2.5年平均値(g/m3)
相関係数
SO2
1
0.4
0.2
0
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
月
南部
北部
y = 0.20x + 12.2
R² = 0.64
y = 0.17x + 12.0
R² = 0.54
12
y = 0.12x + 11.8
R² = 0.38
10
平成25年度
8
平成26年度
6
平成27年度
4
2
NO
0
0
1
5
10
15
20
25
30
NO2年平均値(ppb)
0.8
0.6
相関係数
0.4
図6
0.2
PM2.5-NO2年平均値相関図(平成25年度~27年度)
0
‐0.2
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
山城局(三重県との県境付近)の平成26~27年度のPM2.5
‐0.4
‐0.6
質量濃度年平均値が,11.3~12.3 µg/m3であり,遠隔測
月
南部
北部
定局で地域汚染の影響が少ないと考えられる和歌山県潮
自排
岬は10.9µg/m3である8)ことは,この考え方を支持するも
NO2
のであるが,詳細は今後の検討課題である。
1
また,平成25年度から平成27年度にかけて切片にほと
相関係数
0.8
んど変化がない(12.2µg/m3~11.8µg/m3)にも関わらず,
0.6
0.4
勾配が減少傾向(0.20µg/m3(NO21ppb当たり)から0.12
0.2
µg/m3(NO21ppb当たり)と4割減少)であることから,こ
の3年間のPM2.5年平均値の減少傾向は,NO2に代表される
0
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
月
南部
北部
ると推測された。
自排
Ox
4.まとめ
1
(1) PM2.5質量濃度の年内変動パターンは年によって異な
0.8
相関係数
0.6
っており,気象条件等の影響で年ごとに変化すると考
0.4
えられた。
0.2
0
‐0.2
地域的な人為起源汚染物質の影響が低減した可能性があ
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
(2) 経月変化や曜日別変化は,南部局,北部局,自排局
とも似た傾向で推移しており,各局間の相関係数も高
‐0.4
‐0.6
いことから,PM2.5は広域汚染の影響が大きいと考えら
月
南部
北部
れた。
(3) PM2.5質量濃度とガス成分と比較したところ,SO2との
図5 PM2.5質量濃度とガス成分との月別相関係数
(平成25年度~27年度)
挙動が近く,越境大気汚染の影響が大きいと考えられ
た。
(4) 各局のPM2.5質量濃度年平均値とガス成分を比較した
PM2.5 質量濃度年平均値とNO2 年平均値との回帰式の切片
3
は,11.8~12.2µg/m であり,変動が少なかった。
NO2は,主に地域的な発生源に起因する汚染物質であり,
京都府において地域的な人為起源汚染物質の影響がない
ところ,NO2の年平均値と3年間を通じて相関があり,
切片は,どの年度も12µg/m3 程度であったが,勾配は
0.20 µg/m3(NO21ppb当たり)から0.12µg/m3(NO21ppb
当たり)に減少していた。
3
場合のPM2.5 質量濃度は12µg/m 程度であるとも考えられ
5.謝辞
る。
京都府で最も人為汚染の影響が少ないと考えられる南
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
関係の皆様にはPM2.5自動測定機の設置及び常時監視業
No.4(2016)
12
<報文>
京都府における微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度とガス成分濃度について
務の実施にあたりひとかたならぬお世話になり,心より
感謝いたします。
都府内のSPM高濃度事例の解析結果.全国環境研究会誌,
34,141-152,2009
5)
6.引用文献
東京都環境科学研究所:微小粒子状物質(PM2.5)等
の二次生成機構に関する研究報告書,2011
1)
環境省:微小粒子状物質曝露影響調査報告書,2007
2)
高倉尚枝,谷口延子,平澤幸代,辻明博,日置正,
6)
長谷川就一,米持真一,山田大介,鈴木義浩,石井
克己,齋藤伸治,鴨志田元喜,熊谷貴美代,城裕樹:2
藤波直人:丹後地域におけるSO2,SPM高濃度事例の検討.
011年11月に関東で観測されたPM2.5高濃度の解析.大気
京都府保健環境研究所年報,56,65-71,2011
環境学会誌,49,(6),242-251,2014
3)
板野泰之,大原利眞,山神真紀子,大野隆史,長田
健太郎,武直子,菅田誠治:2011年度の連続測定結果
に基づく全国的なPM2.5汚染の状況解析.大気環境学会
誌,48,(3),154-160,2013
4)
7)
環境省光化学オキシダント調査検討会:光化学オキ
シダント調査検討会報告書,131,2012
8)
中央環境審議会大気環境部会:微小粒子状物質環境
基準専門委員会報告,2-10,2009
河村秀一,日置正,藤波直人:2007年度における京
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
13
<報文>
<報
パッシブサンプラーを利用した大気中の揮発性有機化合物(VOCs)測定の簡易化
文>
パッシブサンプラーを利用した大気中の
揮発性有機化合物(VOCs)測定の簡易化*
槇本佳泰**・砂田和博**・木村淳子**・大原俊彦**
寺内正裕**・渡部 緑***・山本竜治***
キーワード
①揮発性有機化合物 ②パッシブサンプラー
要
③大気モニタリング ④迅速化 ⑤省力化
旨
揮発性有機化合物(VOCs)の測定法として有害大気汚染物質測定方法マニュアルに掲載されている容器採取-ガスクロ
マトグラフ質量分析法(以下,容器採取法)は,VOCsの微量分析に有効な方法であるが,採取容器等専用の器材や分析装
置を必要とし,また採取容器洗浄等の時間も要する。そこで,市販のパッシブサンプラーを用いた簡易測定法(以下,パ
ッシブサンプラー法)の活用について検討を行った。
大気環境測定局(以下,測定局)でパッシブサンプラー法によりVOCsの測定を行ったところ,容器採取法と同等の測定
結果が得られた。また本法により,測定局の周辺5地点でも測定を行い,濃度分布の把握が可能であった。パッシブサン
プラー法は専用の器材・機器が必要なく,前処理操作にかかる時間も容器採取法に比べて短くなるため,迅速かつ多検体
の処理が可能で,VOCsの発生源調査等に活用可能と考えられる。
1.はじめに
大気環境のモニタリングに利用される例もある3~5)。今回,
大気汚染防止法に基づいて,本県でも有害大気汚染物
多孔質チューブ内に活性炭を入れたタイプのパッシブサ
質のモニタリングを実施している。測定項目のうち,揮
ンプラーを大気中に一定時間曝露後,活性炭に吸着され
発性有機化合物(VOCs)は,環境省の有害大気汚染物質
たVOCsの量から大気中濃度の算出を試みた。容器採取法
測定方法マニュアル1)に示された容器採取法により測定
との比較や多地点サンプリングについて考察を行ったの
を行っている。この方法は,吸着剤等への捕集を行わず
で報告する。
気体試料を直接扱うため,試料の保存性が良く,濃縮も
に採用されている。しかし一方で,採取容器の洗浄や標
2.方法
2.1 パッシブサンプラー
準気体の調整等に人手,時間,専用の装置を要するとい
パッシブサンプラーは柴田科学製のパッシブガスチュ
う難点も併せ持つ。そのため測定地点の周辺等でVOCs調
ーブ(有機溶剤用)を用いた。図1に示すように,多孔質
査が必要な場合でも,試料数を追加することへの対応が
チューブに捕集材となる活性炭を内包した構造になって
難しい。そこで,より簡便にVOCsを測定可能な方法とし
いる。同一ロット品を用い,ガスクロマトグラフ-質量
て,試料採取にパッシブサンプラーを用いた簡易測定法
分析装置(GC/MS)により妨害ピークのないことを確認し
について検討を行った。
て使用した。
容易であり,微量濃度の分析が可能であるために一般的
パッシブサンプラーは気体の分子拡散を利用した捕集
材で,形状も様々なものが使用されている2)。主に労働衛
2.2 試薬
生の分野で作業者の曝露濃度測定用に利用されてきたが,
抽出溶媒は和光純薬の二硫化炭素(作業環境測定用)
小型で動力も不要,かつ安価である等利点も多いため,
を用いた。VOCsの標準液は関東化学の揮発性有機化合物
*
Simple method for atmospheric volatile organic compounds measurement by passive sampler
Yoshiyasu MAKIMOTO,Kazuhiro SUNADA,Junko KIMURA,Toshihiko OOHARA,Masahiro TERAUCHI(広島県立総合技術研究所
保健環境センター)Health and Environment Center,Hiroshima Prefectural Technology Research Institute
***
Midori WATANABE,Ryuji YAMAMOTO(広島県環境県民局環境保全課)Environmental Protection Division,Hiroshima
Prefectural Government
**
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
14
<報文>
パッシブサンプラーを利用した大気中の揮発性有機化合物(VOCs)測定の簡易化
表1
条件1
a
a
b
c
d
e
b
c
d
e
PTFE栓
ウレタンフォーム
活性炭(20~40メッシュ 200mg)
PTFEチューブ
アルミニウムリング
サイズ:52mm×φ5mm
図1
条件2
GC/MS分析条件
装置
GC:Agilent7890A
カラム
Inert Cap AQUATIC (GL Sciences 60m,0.32mm,1.40m)
昇温条件
40℃(1min) - 5℃/min - 80℃ - 10℃/min - 200℃
- 40℃/min - 220℃(1min)
キャリアガス
He 1mL/min
注入量
2L(スプリットレス)
走査範囲
Scan 49~420m/z
MS:JMS Q1000GC
(条件1から以下の項目を変更)
カラム
HP-5MS (Agilent J&W 30m,0.25mm,0.25m)
昇温条件
30℃(5min) - 3℃/min - 60℃ - 30℃/min - 310℃
パッシブサンプラー法による大気中濃度は,測定対象
パッシブサンプラーの構造
物質の活性炭への捕集量とサンプリングレートから求め
た。パッシブサンプラーへのVOCsの捕集量と,大気中VOCs
23種混合標準液,内部標準液は関東化学の内部標準混合
濃度は次の関係にある6)。
原液2(VOC分析用)を抽出溶媒で希釈して用いた。内部
標準液は50g/mLに調製した。
C =
W
SR × t
2.3 調査地点・期間
C:測定対象物質の大気中濃度 [ ppm ]
2015年8月の月例モニタリングに合わせてサンプリン
W:測定対象物質の捕集量 [ g / 2mL ]
グを行った。容器採取法では,測定局1局で,ステンレス
SR:サンプリングレート [ g / (ppm・min) ]
製キャニスターにより24時間サンプリングした。
t:サンプリング時間 [ min ]
パッシブサンプラー法では,周辺状況の把握を想定し,
測定局1局とその周辺5地点(1km圏内)で,月例モニタリ
サンプリングレートは物質ごとの比例定数であり,単
ングの開始時刻から1週間サンプリングした。パッシブサ
位濃度・単位時間あたり測定対象物質に曝露させたとき
ンプラーは風雨除けのステンレス製シェルター内に固定
の捕集量を表す。今回用いたパッシブサンプラーの取扱
した。
説明書には,混合標準液に含まれる23物質のうち,ハロ
ゲン化炭化水素類9物質,芳香族炭化水素類5物質の14物
2.4 操作
質についてサンプリングレートが記載されており,これ
パッシブサンプラーにより採取した試料は,サンプラ
ら14物質の定量を試みた。
ー内の活性炭全量をバイアルに移し替え,二硫化炭素2mL
を加えて抽出した。30分ごとに軽く振とうしながら室温
で2時間放置した後,内部標準液40Lを加え,上澄み1mL
を分取したものを分析試料とした。検量線用の標準液に
ついても1mLに対して内部標準液20Lを添加した。
処理した試料は,表1に示す条件1によってGC/MSにより
3.結果及び考察
3.1 測定対象物質の検討
当センターで対応可能な対象物質を把握する目的で,
通常VOCsや農薬類の測定に使用している中極性カラム
AQUATIC及び低極性カラムHP-5MSでの測定を試みた。
分析を行った。分析条件の検討時には条件1及び2により,
10g/mLに調製した混合標準液の分離クロマトグラムを
2種類のカラムの比較を行った。
図2に示す。いずれのカラムも低沸点物質は溶媒ピークと
キャニスターにより採取した試料は,有害大気汚染物
の分離が不十分なために定性不可能であった。このため
質測定方法マニュアルに示される容器採取法に準拠して
測定可能だったのは,混合標準液23物質中,AQUATICでは
分析を行った。
18物質,HP-5MSでは13物質であった。今回の大気中VOCs
の測定には,より多くの物質を分離可能なAQUATICを用い
2.5 大気中濃度の算出方法
ることとした。さらに低沸点のVOCsを測定する必要があ
内部標準法により検量線を作成し,目的物質の濃度を
る場合はWAX系カラムなど,より極性の高いカラムを用い
求め,ブランク値を差し引いて分析値とした。定量下限
てピーク分離する条件を検討する必要がある。
値及び検出下限値は,それぞれ低濃度標準試料分析値の
標準偏差の10倍,3倍とし,大気中の濃度に換算した。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
15
<報文>
[
[クロマトグラム] TIC
]
[100]
軸
パッシブサンプラーを利用した大気中の揮発性有機化合物(VOCs)測定の簡易化
Y軸:50000000 - 0
相対値( )
50000000 - 0
14,15
18
16
3,4
9
1
12
5 6
11
7
2
No.1
10
8
17
13
No.1
[0]
50000000 - 0
16
14,15
9,10
18
6
12
11
7
8
17
13
No.2
R.T-->
No.2
06:00
08:00
10:00
12:00
14:00
16:00
1
1,1,1-トリクロロエタン
10
t-1,3-ジクロロプロペン
2
四塩化炭素
11
1,1,2-トリクロロエタン
3
1,2-ジクロロエタン
12
テトラクロロエチレン
4
ベンゼン
13
ジブロモクロロメタン
5
トリクロロエチレン
14
m-キシレン
6
1,2-ジクロロプロパン
15
p-キシレン
7
ブロモジクロロメタン
16
o-キシレン
8
c-1,3-ジクロロプロペン
17
ブロモホルム
9
トルエン
18
1,4-ジクロロベンゼン
18:00
20:00
カラム
上段:Inert Cap AQUATIC (GL Sciences 60m,0.32mm,1.40μm)
下段:HP-5MS (Agilent J&W 30m,0.25mm,0.25μm)
図2
VOCs混合標準液のクロマトグラム
3.2 サンプリング法による測定値の比較
ッシブサンプラー法で低くなった。前者は比較的定常的
サンプリングレートが示されている14物質のうち,定
に大気中に分布しているのに対し,後者は発生源による1
性不可能な3物質を除いた11物質について定量結果を表2
週間の濃度変化が大きかったと考えられる。全体的にパ
に示す(m-キシレン及びp-キシレンは合算して定量)。
ッシブサンプラー法の測定値が低い傾向にあり,経済活
大気中のVOCs濃度は低いことが想定されたため,パッ
動の停滞する週末期間を含むことによる影響が考えられ
シブサンプラー法ではサンプリング期間を1週間とした。
た。1,1,1-トリクロロエタン,トリクロロエチレン,テ
サンプリング期間が異なるため,パッシブサンプラー法
トラクロロエチレンは,容器採取法で検出下限値未満あ
と容器採取法との単純比較はできないが,四塩化炭素,
るいは定量下限値未満であったが,パッシブサンプラー
ベンゼンの測定値は容器採取法の測定値に対して76,79%
法でも同様に検出下限値未満あるいは低濃度であった。
であり,両者はおおむね一致した。一方,1,2-ジクロロ
容器採取法とパッシブサンプラー法では,おおむね同
エタン,トルエン,m,p-キシレン,o-キシレン,1,4-ジ
等の結果を得られることが先行の報告で明らかになって
クロロベンゼンの測定値は容器採取法の15~59%と,パ
いる3)。今回,両測定値のオーダーは一致しており,サン
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
16
<報文>
パッシブサンプラーを利用した大気中の揮発性有機化合物(VOCs)測定の簡易化
表2
大気中VOCsの定量結果
(単位:g/m 3)
トルエン
テトラクロロエチレン
m,p-キシレン
o-キシレン
1,4-ジクロロ
ベンゼン
7.7
N.D.
2.2
0.66
1.8
0.11
4.3
0.072
0.57
0.39
0.58
79%
-
55%
-
26%
59%
32%
0.10
0.62
0.10
2.8
0.050
0.36
0.25
0.61
0.36
0.10
0.74
0.10
4.2
0.096
0.58
0.40
0.49
0.39
0.10
0.75
0.12
3.4
0.061
0.43
0.30
0.46
N.D.
0.34
0.09
0.64
0.12
3.5
0.062
0.38
0.27
0.39
N.D.
0.31
0.08
0.47
0.07
2.0
0.049
0.27
0.19
0.20
1,1,1-トリクロロ
エタン
四塩化炭素
1,2-ジクロロ
エタン
ベンゼン
N.D.
0.49
0.69
0.93
0.12
N.D.
0.37
0.11
0.73
-
76%
15%
周辺地点1
N.D.
0.36
周辺地点2
N.D.
周辺地点3
N.D.
周辺地点4
周辺地点5
トリクロロエチレン
容器採取法(24時間採取)
測定局
*
パッシブサンプラー法(1週間採取)
測定局
容器採取法との比較
N.D.は検出下限値未満 * は検出下限値以上定量下限値未満 表3
定量下限値
(単位:g/m 3)
1,1,1-トリクロロ
エタン
四塩化炭素
1,2-ジクロロ
エタン
ベンゼン
トリクロロエチレン
トルエン
テトラクロロエチレン
m,p-キシレン
o-キシレン
1,4-ジクロロ
ベンゼン
0.24
0.28
0.17
0.13
0.26
0.12
0.32
0.13
0.066
0.18
パッシブサンプラー法(1週間採取)
0.038
0.045
0.038
0.049
0.0085
0.024
0.021
0.0032
0.020
0.012
パッシブサンプラー法(24時間採取)
0.27
0.31
0.27
0.34
0.060
0.16
0.15
0.023
0.14
0.087
容器採取法(24時間採取)
プリング期間における測定値は正しく得られていると
短期の大気環境測定にも十分活用可能であると考えら
推察された。一方で,パッシブサンプラー法は温度・湿
れた。
2)
度・風速の影響を受けるため ,調査の目的によっては
当センターでは月例モニタリング(5~6地点)実施の
他の方法で並行測定を行い,測定現場での正確なサンプ
ため,採取容器の洗浄,準備に3日程度かかっている。
リングレートを求める必要があると考えられる。
容器採取法も動力不要なパッシブサンプリングが可能
ではあるが,検体数を2倍,3倍と増やすことや急なサン
3.3 パッシブサンプラー法の利点
プリングへの対応は難しい状況にある。一方パッシブサ
地点間の比較では,測定対象物質は周辺地点でも測定
ンプラーは,「必要数を常備している」,「試薬等を準
局と同オーダーの測定値を示した。測定局周辺にはVOCs
備している」,「測定物質のサンプリングレートがマニ
発生源として工場や道路が存在する。周辺地点5では各
ュアルや既報から入手可能である」といった条件はある
物質とも僅かに低い値を示したが,他の地点が市街地付
が,多検体のサンプリングを直ちに実施できるところに
近であるのに比較して,この地点は高台の緑地に位置す
大きな利点がある。また,試料の処理操作も活性炭の抽
ることから発生源の影響が小さかったためと考えられ
出のみであり省力化が可能であった。これらの利点から,
た。ベンゼン,トルエン,m,p-キシレン,o-キシレン,
パッシブサンプラー法はVOCsの早急なモニタリング調
1,4-ジクロロベンゼンでは,地点間の濃度差が確認でき,
査や,高濃度事例が確認された場合の経時変化の調査,
測定局周辺地域の濃度分布の把握が可能であった。
周辺状況の面的調査等に有用であり,拡散状況の把握や
装置検出下限値より求めた大気中濃度の定量下限値
発生源の推定に活用可能と考えられる。
を表3に示した。パッシブサンプラー法で24時間サンプ
リングを行う場合,定量下限値は計算上1週間サンプリ
4.まとめ
ングの7倍の値となる。当初パッシブサンプラー法の定
市販のパッシブサンプラーを用いた,大気環境中の
量下限値を高めに推測していたが, 容器採取法と同等
の数値となることがわかった。パッシブサンプラー法は
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
VOCsの簡易測定法について検討を行った。
測定局で容器採取法とパッシブサンプラー法により
No.4(2016)
17
<報文>
パッシブサンプラーを利用した大気中の揮発性有機化合物(VOCs)測定の簡易化
サンプリングを行い,VOCs11物質の測定を行った。測定
値を比較したところ,パッシブサンプラー法で測定値が
低い傾向にあったが,サンプリング期間の違いによる大
気中濃度変化の影響と考えられた。両測定値のオーダー
は一致しており,パッシブサンプラー法でもサンプリン
グ期間における測定値は正しく得られていると推察さ
れた。
5.引用文献
1)
環境省
水・大気環境局
大気環境課:有害大気汚
染物質測定方法マニュアル(平成23年3月),2011
2)
田中茂:揮発性有害大気汚染物質の簡易測定.環境
技術,25,656-660,1996
3)
加藤陽一,杉山英俊,高橋通正,長谷川敦子,須山
芳明:パッシブサンプラーによるベンゼンおよび有機
周辺5地点でもパッシブサンプラー法による測定を行
い,濃度分布の把握が可能であった。また,24時間程度
の短期サンプリングにおいても容器採取法と同等の定
量下限値が得られた。
塩素化合物の多地点同時サンプリングと過剰発がん
リスクの推計.神奈川県環境科学センター研究報告,
24,50-55,2001
4)
パッシブサンプラー法では,迅速なサンプリングと多
検体処理が可能になるため,VOCsの早急なモニタリング
調査や,高濃度事例が確認された場合の経時変化の調査,
荒木真,佐々木哲也,山本浩平,東野達:パッシブ
サンプラーによる揮発性有機化合物の大気中濃度と
排出量との関係.分析化学,61,877-883,2012
5)
山田悦,布施泰朗:大気及び室内環境における揮発
周辺状況の面的調査等に有用であると考えられた。サン
性有機化合物のオンサイト分析.分析化学,60,
プリング期間をそろえて2法を比較する等,さらに検討
459-476,2011
すべき点はあるが,当センターでもパッシブサンプラー
法を有用なVOCs調査手法として活用していきたいと考
6)
柴田科学株式会社:パッシブガスチューブ(有機溶
剤用)取扱説明書
えている。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
18
<報文>
<報
数値シミュレーションによる高解像度河川流量計算法の検討
文>
数値シミュレーションによる高解像度
河川流量計算法の検討*
松本源生**・古閑豊和**・土田大輔**・石橋融子**
キーワード
①気象モデル ②流出モデル
③河道水追跡
要
④流量
旨
時間解像度が高くしかも任意な河川地点の流量を得る手法を確立するため,気象モデル,流出モデル,河川水追跡法を活
用して数値シミュレーションを行った。気象モデル WRF で得られた 10 分間隔の高解像度な降水量と蒸発散量を,流出モデル
TOPMODEL に入力した。流域を複数の小流域に分割して,各小流域に TOPMODEL を適用し Muskingum-Cunge 法で河道水追跡を
行うことにより,流域スケールが数百 km2 であっても流量の評価指標である Nash 指標は良好な数値を示した。
1.はじめに
発を進めている WRF(Weather Research and Forcasting
自然現象を数値シミュレーションで高精度に再現,予
model)5)を,河川流出モデルとして 1979 年に K. Beven
測することは,従来高性能なワークステーションでしか
と M. J. Kirkby によって開発され様々な修正を加えなが
実現できなかったが,コンピュータ技術の発展に伴い今
ら 発 展 し 続 け て い る TOPMODEL(TOPographical-based
や PC でも可能となっている。また,インターネットの普
variable contributing area hydrological MODEL)6) を
及は,計算に使うデータの取得が容易になり,高機能な
用いた。TOPMODEL は入力パラメータが少ないにも関わら
シミュレーションプログラムについてもインターネット
ず,物理的な根拠が明確なため,広く利用されている。
で取得できる環境が整備されるに至っている。しかし,
本報告では,まず WRF の概要と数値計算の設定条件に
適切なデータを取得し,適用範囲を遵守しなければ精度
ついて述べ,降水量と蒸発散量の再現精度について検討
の高い結果は得られない。
を行う。次に,TOPMODEL の物理的な根拠,パラメータ設
筆者らは,梅雨期水田に散布される農薬が河川へ流出
定について述べる。TOPMODEL は面積の小さい流域を対象
する現象の実態解明を行っており,時間解像度が高くし
としたモデルのため,流域を小流域に分割し,河道水追
かも任意地点の河川流量と蒸発散量が必要となった。と
跡法である Muskingum-Cunge 法を適用し,河川流量を精
ころが,流量及び蒸発散量の測定は,人的・技術的・コ
度良く再現できたことを述べる。
スト的に困難を伴う。河川流量を求める計算方法として,
古くから使われてきたティーセン法がある。しかし,テ
ィーセン法は単純な幾何概念に基づくもので理論的な根
拠に乏しく,降水量分布の不均一性を考慮できない
1)
た
2.WRFによる降水量・蒸発散量の計算
2.1 手法及び数値計算概要
梅雨期の局所的な大雨を再現するために用いた WRF は,
め,梅雨期の局所的な大雨の解析には不向きである。蒸
空間離散に対して有限差分法を用いた完全圧縮・非静力
発散量の計算方法については Penman-Monteith 式がある
学などの気象物理に基づいた多数の方程式系をプログラ
が,日単位の気象に関する平均値から蒸発散量を算出す
ミングしたシステムであり,最新の気象モデルを次々に
る近似式 2)であり時間解像度が低い。
組み込んでおり,今でも開発が進展中である。本研究で
そこで,流量及び蒸発散量を求めるために数値シミュ
は,2014 年にリリースされた Version3.6.1 を用いた。
レーションの活用を検討した。気象モデルで降水量を計
算した結果を,河川の流出モデルに適用して流量計算を
行った既存研究がある 3,4)。筆者らは,気象モデルとして
米国国立大気研究センター(NCAR)等が中心となって開
2.1.1 計算領域と格子間隔
計算領域を図1に,各領域のグリッド情報を表1に示す。
九州北部から山口県を覆う格子間隔5kmで70×50格子の
*
A Study on Hight-Resolution Numerical Calculation of River Discharge
Gensei MATSUMOTO,Toyokazu KOGO, Daisuke TSUCHIDA, Yuko ISHIBASHI(福岡県保健環境研究所)Fukuoka
Institute of Health and Environmental Sciences
**
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
19
<報文>
数値シミュレーションによる高解像度河川流量計算法の検討
ル)でなく,MYNN Level-3(2 次方程式の渦粘性近似モデ
ル)8)を用いた。地表面スキームにも,デフォルトでなく
モニン・オブコフの相似則を用いる MYNN surface layer
を用いた。陸面スキームに関して,都市外には土壌水分
量を計算開始時のデータで固定するのがデフォルトであ
るが,土壌水分量を更新し蒸発散量を計算する Noah-MP
を用い,都市には都市キャノピーの熱収支を再現する
Activate UCM を用いた。
2.1.3 初期値・境界値
気象データの初期値・境界値には,米国環境予測セン
図1
WRFの計算領域 (●は水文水質観測所)
ター(NCEP)の最終全球客観解析データ(通称 FNL,空間解
像度 1 度,時間解像度 6 時間)を利用することがデフォ
表1
各領域におけるグリッド情報
ルトであるが,日本付近を対象とした計算を行う際には
気象庁のメソ客観解析データ(通称 MSM)を利用すること
ができる。MSM は水平格子間隔が 5km と細かく,時間解
像度も FNL の半分の 3 時間である。しかし,鉛直方向の
解像度は FNL のほうが 1.5 倍程度細かい。また,MSM に
領域(第 1 領域)を時間ステップ 30 秒で計算し,更に 2
含まれる物理量は風速,大気の温湿度だけであるが,FNL
方向ネスティングで福岡県域を覆う格子間隔 1km で 96×
には地表面温度や地中の温湿度まで含まれている。蒸発
96 格子の領域(第 2 領域)を時間ステップ 6 秒で計算した。
散量を計算する Noah-MP のためには FNL は不可欠である。
2 方向ネスティングとは, それぞれの領域の計算結果を
そこで,MSM を使うことを原則とし,FNL にあって MSM
双方向にやりとりしなから計算する手法である。鉛直層
にないデータは FNL で補った。土地利用の境界値は,デ
については,上空 50hPa(高度約 20km)までを,第 1 領域
フォルトのまま米国地質調査所(USGS)の GTOPO30(解像
では 20 等分,第 2 領域では 29 等分した。
度 30 秒,約 0.9km)を用いた。
また,WRF で数日を超える期間のシミュレーションを
実行すると,海面気温(SST)を更新しなければ時間経過と
2.1.2 物理モデル
WRF は,雲の生成,放射,流体運動などの各種気象現
ともに再現精度が低下する。その対応として,NCEP にお
象を解くスキームを多数持っている。スキームの種類ご
いて衛星画像解析で 1 日周期で生成した RTG-SST を気象
とに複数の物理モデルが装備されており,一部を除いて
の初期値・境界値として追加することが推奨されている。
任意に組み合わせることができる。
しかし,RTG-SST 衛星画像は単純なロジックの解析デー
本研究では蒸発散量を計算する Noah-MP7)を使うため,
タであり,利用には注意を要する。実際,瀬戸内海の国
表 2 に示す物理モデルを用いた。雲微物理スキームには,
東半島沖 北緯 33:30:30,東経 131:30:30 地点の海域に
デフォルトの気温 0℃以上で雲水・雨・水蒸気,0℃未満
おいて水面温度が周囲より連日 20 度以上低くなってい
で雲氷,雪・水蒸気と状態変化を考える WSM3 を用いた。
た。この地点の SST については,国内の衛星画像データ
大気放射スキームもデフォルトで,長波と短波それぞれ
9)
で修正した。
RRTM,Duhia を用いた。Duhia は大気中の雲・水蒸気によ
る短波放射の影響を考慮するモデルである。境界層スキ
ームはデフォルトの YSU(0 次方程式の渦粘性近似モデ
2.1.4 計算期間
2014 年 6 月 10 日から 7 月 10 日までの 30 日間とした。
この期間中,7 月 3 日と 7 日に大雨があった。計算には,
表2
再現実験に使用した物理モデル
雲微物理スキーム
大気放射スキーム
WSM3 (デフォルト)
長波
短波
境界層スキーム
地表面スキーム
陸面スキーム
都市外
都市
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
RRTM scheme (デフォルト)
Duhia scheme (デフォルト)
MYNN Level-3 Model
MYNN surface layer
Noah-MP
Activate UCM
Intel Corei5 3.1GHz,メモリ 8.0GB の PC を用いて 4 コ
ア並列演算を行い,30 日間の再現実験に約 123 時間を要
した。
2.2
降水量の計算結果と精度検証
WRF 計算による降水量と気象庁アメダス観測所の降水
量との比較を図 2 に示す。ともに 10 分値であり,アメダ
No.4(2016)
20
<報文>
数値シミュレーションによる高解像度河川流量計算法の検討
時間経過とともに降雨の領域が移動する様子が再現さ
れた。降雨領域は,16 時 40 分にはアメダス太宰府地点
よりも南に位置していたが,17 時にはアメダス大宰府地
点を覆い,17 時 40 分には通過した。但し,通過した 17
時 40 分の降雨強度は比較的広い領域で 6mm を超えていた
が,WRF 計算によるとアメダス太宰府地点でこの強い降
雨強度を再現できなかった。WRF 計算による局所的な大
図2 アメダス太宰府地点における降水量比較
(上段; アメダス観測値,下段; WRF計算値)
雨の再現は,場所的には数 km,時間的には数 10 分の差
異を生じたことが判った。
2.2.2 時間変化による精度検証
次に,WRF 計算値と観測値との比較を行った。比較に
用いた観測値はアメダスデータでなく,国土交通省が実
施している水文水質観測の降水量データである。
図 4 には,図 1 に示した水文水質観測所 4 地点を対象
として,7 月 6 日から 2 日間の降水量の計算値と観測値
の時間変化を示す。水文水質観測の降水量は 1 時間値の
ため,計算値も 1 時間値に換算した。水巻観測所におい
て,計算では 7 月 6 日の降雨が再現されていない。また,
降雨が観測されていない 7 月 7 日 2 時から 4 時にかけて
計算では 40mm/hour を超える降水量となり,再現性は良
くない。しかし,原田,九千部,瀬高の観測所において
は,水巻に比べると計算値は実測値に近い挙動を示した。
更に,統計的な指標を用いて計算値に含まれる誤差を
評価した。気象関連の数値シミュレーションの精度検証
で活用される Bias(平均誤差)と RMSE(二乗平均平方根誤
差)を算出し,表 3 に示す。Bias はゼロに近いほど計算
図3
WRF 計算による降水量分布(7 月 7 日,10 分値)
値が平均的に正にも負にも偏っていないことを示す指標
であり,4 地点では 30 日間の Bias が -0.03〜0.06 の範
ス太宰府地点を比較対象とした。
囲に収まっており,期間平均では良好な精度を示した。
降雨の発生日時や降水強度に関して,概して良い一致
一方,RMSE は 1.96〜3.19 であり,計算値の誤差は 1 日
を示していた。これは WRF 計算の初期値・境界値として
平均で 1.96mm/hour 以上であり,計算精度向上の必要性
用いた MSM が,アメダスデータも活用していることに起
因している。しかしながら,アメダス観測にはない 6 月
30 日の降雨が WRF 計算にはあり,7 月 6 日はアメダスで
降雨が観測されているにも関わらず WRF 計算では降雨が
再現されていなかった。そのため,WRF 計算による降雨
の再現性について詳細に検討した。
2.2.1 WRF 計算の降水量分布
計算結果の精度検証は,まず視覚的に捉えやすい分布
図を用いて行った。図 3 に,降雨が多く観測された 7 月
7 日 17 時前後の WRF 計算による降水量(10 分値)分布を
20 分ごとに示す。これは,WRF 計算で 4.0mm,アメダス
観測値で 8.0mm の降雨があった時間帯である。降雨強度
が強くなるほど黒く描き,中央の+印はアメダス太宰府
観測所の位置である。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
図4 水文水質観測地点における降水量の時系列変化
(実線: WRF計算値,★: 水文水質観測所の観測値)
No.4(2016)
21
<報文>
表3
数値シミュレーションによる高解像度河川流量計算法の検討
WRF 計算値の評価
3. TOPMODELによる流量計算
3.1 TOPMODELの概要
河川の流量計算に用いる流出モデルとして TOPMODEL6)
を採用した。TOPMODEL は準分布型流出モデルと言われる。
入力パラメータは少ないが現地における経験で観測値と
適合させる集中型モデルと,パラメータが多くその設定
に手間を要するが高精度な分布型モデルの両面を兼ね備
を示唆する結果となった。
本研究では,WRF の計算設定で鉛直層の格子間隔を第 1
領域で 20 等分,第 2 領域で 29 等分とした。これを 45
層から 60 層に分け,下層の鉛直解像度を上げ上空になる
ほど粗くする不等分割とし,複雑な気流場,積雲発生,
えているためである。TOPMODEL はパラメータは少ないも
のの,物理的な意味が明確なモデルであるため精度が高
く,様々な修正を加えながら広く使用されている。
TOPMODEL では,地形指標
(式-1)
気候にとって重要な下層雲をより正確に捉えることに成
功した事例もある。しかし,3 次元的な配列の増加は PC
のメモリ使用量及び計算時間に指数関数的な増加を招く
うえ,プログラムコンパイル時のエラー,計算実行中の
強制停止を引き起こすため,本研究で使用した PC で同様
な格子数を組むことは困難であった。
の空間分布を使って地下水面の局所的な変動を記述し,
流域の地形と流出発生を物理的に明確に結び付ける。こ
こで,α[m2]は等高線単位長さ当たりの上流流域面積,
tanβは斜 面 勾配である 。地形指標 γは DEM(Degital
Elevation Map)を使って求めることができる。
2.3
蒸発散量の計算結果
WRF の物理オプションに Noah-MP を適用した結果,蒸
発散量を得ることができた。計算結果を図 5 に示す。図
5(a)はアメダス太宰府地点における WRF で計算した蒸発
散量(10 分値)であり,図 5(b)に農業環境技術研究所が公
開しているモデル結合型作物気象データベース 10)から取
また,斜面の土層を根系層,不飽和層,飽和層に分け,
地中の水の移動を記述する。降雨は根系層に入り,根系
層の最大貯留水深 SRmax[m]を超えると,不飽和層を経て飽
和層に移動した後,河道へ地下流出すると考える。更に,
流域からの流出は,地下流出と表面流出から構成される
とする。地下流出は
(式-2)
得した蒸発散量との対比を示した。モデル結合型作物気
象データベースによる蒸発散量は,Penman-Monteith 式
を基本とした 1 日単位の近似式であるため,参照として
と表現される。ここで,S[m]は土壌が飽和するまでの貯
留不足量の流域平均,T0[m2/h]は土壌の飽和透水係数の流
域平均,m[m]はモデルパラメータである。一方,表面流
の比較に留める。
WRF で計算した 10 分値の蒸発散量は,0〜0.20mm の範
囲で日変動を繰り返した。日ごとに積算した計算値はモ
デル結合型作物気象データベースの 1 日値と比較(図 5
(b))して,過大評価傾向であるが大きな差異はなく,WRF
計算による蒸発散量は妥当な範囲にあると判断できた。
以上,WRF の計算結果は精度向上の課題はあるものの
おおむね好とし,続く河川流量の計算に WRF で得た降水
量及び蒸発量を用いて検討を進めた。
出は地下水面が地表に達している領域において,降雨は
土壌に浸透することなく地表を流れて河道に入るとして
流出量を計算する。
本研究では,機能として TOPMODEL を組み込んでいる
GRASS GIS(Version 7.0.4)を用いた。この TOPMODEL は
Beven のプログラムをベースとして,2009 年に Buytaert
が修正したバージョン 11)である。
3.2 計算の準備
3.2.1 解析対象流域と流域解析
流量の再現実験のために対象とした流域を図 6 に示す。
筑後川支流 宝満川において国土交通省が流量を観測し
ている端間観測所から上流の流域を解析対象とした。河
川長は 24.9km,流域の面積は 176.5km2 である。
流域解析には,国土数値情報の解像度 10m の DEM12)に,
GRASS GIS の流域解析プログラム r.watershed を適用し
た。得られた擬河道網を図 7 に示す。擬河道網は,図 6
に示した実際の河道網と似ていた。両者を重ねると,擬
図5
アメダス太宰府地点における蒸発散量
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
河道網は実際の河道網を全てカバーしているうえ山間部
No.4(2016)
22
<報文>
数値シミュレーションによる高解像度河川流量計算法の検討
図8 ハイエトグラフ (実線:TOPMODELによる流量計算値,
★:流量観測値)
解析プログラムや流域の最長河川の探索などの作業に対
図6
解析対象流域と河道網
して数時間を要した。
(黒太線: 宝満川,☆:流量観測地点の端間,大宮司橋)
の最上流まで河道が達していた。
3.3
TOPMODELによる流量計算結果
TOPMODEL は,小流域スケールの流出モデルである。降
水量は解析する流域で一様と想定するため,局地的な大
3.2.2 パラメータ設定
TOPMODEL の計算には,入力パラメータ SRmax,T0,m の
設 定 が 重 要 と な る 。 根 系 層 の 最 大 貯 留 水 深 SRmax は
Plant-Extractable Water Capacity of Soil13)(以下,PWC
と略す)を用いた。PWC は土壌からの蒸発散量を負担し得
る土壌中の水分容量のことで,TOPMODEL では蒸発散は根
系層でのみ発生すると仮定しているため,SRmax を PWC の
値に設定した。土壌の飽和透水量係数 T0 は,Nawarathna
ら 14)を参考に,対象流域の土地利用割合 15)から決定した
(後で示す表 4)。モデルパラメータ m は,キャリブレー
ション 16)によって決定した。
雨の河川への流れ込み,河川流の経過時間は考慮されな
いなど,面積の大きな流域に適用することには無理があ
る。ここでは,流域面積が小さい時には TOPMODEL の精度
は良好であるが,流域面積が大きくなると精度が低下す
ることを示す。
筆者らは 2014 年 6 月中旬から 7 月初旬にかけて,宝満
川上流の大宮司橋(図 6)において 12 回にわたって,流量
測定(環境庁通達水質調査方法 17))を行っている。そこで,
大宮司橋を集水地点とする集水域(面積 18.7km2)と,国土
交通省が流量観測を行っている端間を集水地点とする集
水域(解析対象流域)について,それぞれ TOPMODEL を適用
して流量を計算した。モデルパラメータ m は,大宮司橋
3.2.3 計算期間
計算期間は WRF 計算と同じ,2014 年 6 月 10 日から 7
月 10 日までの 30 日間とし,10 分間隔の計算を行った。
PC 環境は,Intel Core i7 3.1GHz,メモリ 16.0GB であ
る。TOPMODEL の計算は,GRASS のプログラム r.topmodel
を実行すればよく,今回の流域に対しては 1 分程度で計
算は完了する。しかし,GRASS GIS を用いた場合,流域
の集水域において流量計算を繰り返し行い(キャリブレ
ーション),0.005 に設定した。降水量及び蒸発散量は,
それぞれの集水域に対し WRF 計算により得られた 1km 格
子の積算値を与えた。
計算結果のハイエトグラフを図 8 に示す。10 分ごとの
計算値は実線で,1 時間ごとの観測値は★で示し,更に
それぞれの集水域の平均降水量(10 分値)を示した。端間
における流量計算値は,7 月 3 日,7 日,8 日において観
測値と大きな差異があった。
流量計算の精度評価の指標として,(式-3)に示す Nash
指標を算出した。Nash 指標が 1 であれば「的中」,0.7
〜1 未満で「優れている」,0〜0.7 未満で「良い」,0
未満で「悪い」と評価される。
(式-3)
図 7 流域解析プログラムから生成した擬河道網
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
23
<報文>
数値シミュレーションによる高解像度河川流量計算法の検討
端間における Nash 指標は -0.15 (後で示す表 5)であ
すように設定した。
り,計算精度は悪いと評価されるレベルだった。このよ
各小流域ごとに TOPMODEL を適用して図 9 に示した集水
うに,流域面積が 176.5km2 程度に大きくなると,局地的
地点 Pj(j=1〜7)における流量を求め,これを斜面部分が
な大雨を組み込めない TOPMODEL の精度は低下すること
寄与する流量 Qsj とした。
が示された。
3.4.2 河道水追跡の手順
3.4
流域分割と河道追跡モデルの適用
集水地点 Pj における流量 Qj は,斜面部分の流量 Qsj に
TOPMODEL を大きな流域に対応させる工夫として,竹内
ら
18)
のブロック型 TOPMODEL(以下,BTOPMC と略す)があ
河道部分の流量 Qrj を加算することにより求める
刻 t の Qrj(t)は Muskingum-Cunge 法
20)
19)
。時
に従い,(式-4)に
る。BTOPMC では流域を矩形ブロックに分割しているのに
より逐次的に求めた。ここで,流水の伝搬速度 c 及び X
対し,本研究では流域を支流域に近い形状の小流域に分
は舛谷ら 19)に従い設定した。
割した。以下では,まず分割の手順と小流域ごとに求め
(式-4)
た流量を河道の流れにのせる手順を述べた後,適用結果
について評価する。
3.4.1 流域分割の手順
流域を小流域に分割する処理には,GRASS GIS の流域
解析プログラム r.watershed を活用した。5 ないし 10 の
副集水域がほぼ均等な面積となるように,流域解析プロ
グラムを繰り返した結果得られた流域分割を図 9 に示す。
2
2
小流域の面積は,10.7km から 32.9km の範囲だった。
小流域は河道部分と斜面部分に区分する。降水量及び
3.4.3 適用結果
流域を 7 つの小流域に分割し,Muskingum-Cunge 法を
適用した流量の計算結果を図 10 に示す。図は降雨に伴う
流量が 100m3/s 以上観測された 6 月 22 日の前日から描き,
蒸発散量は,WRF 計算により得られた 1km 格子のデータ
集水地点 P1,P3,P5,P7 に限定した。6 月 22 日,7 月 3
を小流域ごとに積算して与えた。土壌の飽和透水量係数
日,7 日は上流から下流になるに従って,流量が大きく
2
T0 (m /h)は,各小流域の土地利用割合を考慮し表 4 に示
なる様子が再現されていた。ただ,7 月 6 日の流量が再
現されていないうえ,7 日が過大評価となった。7 月 6
日については,既に図 2 において検討したように WRF で
降雨が再現できなかった日に相当するため,WRF の再現
精度が更に向上することにより 7 月 6 日の流量が良好に
再現される可能性がある。
端間における流量の精度指標である Nash 指標は,0.21
と良好な値を示した。表 5 に Nash 指標の一覧を示してお
り,流域を分割することによる精度向上を明確に示す結
果となった。
図 9 流域分割 (P1〜P7 は小流域の集水地点)
表 4 集水域・小流域の土地利用割合から同定した T0
集水域
水田(%)
畑地(%)
森林(%)
都市(%)
水域(%)
大宮司橋
端間
8.9
26.3
13.1
14.8
71.6
42.2
5.3
14.2
0.1
1.1
小流域
水田(%)
畑地(%)
森林(%)
都市(%)
水域(%)
1
2
3
4
5
6
12.3
8.0
22.1
22.8
32.0
49.5
37.2
13.7
11.4
14.9
11.5
15.8
15.1
20.0
66.5
65.1
43.7
60.6
17.3
27.3
9.8
6.3
11.8
15.7
2.8
33.1
7.2
29.4
0.2
1.6
1.1
0.8
1.4
0.7
2.0
7
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
T0 (m2/h)
15.9
14.0
T0 (m2/h)
15.5
15.6
14.1
15.0
12.6
12.6
12.1
図 10
小流域の集水地点における流量
(実線:計算値,★:観測値)
No.4(2016)
24
<報文>
表5
数値シミュレーションによる高解像度河川流量計算法の検討
Nash指標の比較
5) 日下博幸:領域気象モデルWRFについて.ながれ,28,3
-12,2009
6) Beven K.:TOPMODEL: A CRITIQUE.HYDROLOGICAL PROCE
SSES,11,1069-1085,1997
7) Niu G., and Yang Z., Mitchell K.:The community Noah
land surface model with multiparameterization
今回は小流域の各集水地点における流量を求めている
が,本手法を用いれば流域内の任意な河川地点の流量に
ついても計算できる。計算間隔も 10 分に固定ではなく,
options (Noah‐MP).JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH,
116,1-19,2011
8) 中西幹郎,新野宏:ラージ・エディ・シミュレーション
柔軟に変更可能である。このように,梅雨期の局所的な
に基づく改良 Melor-Yamada Level 3 乱流クロージャー
大雨を小流域で捉えることにより,時間的に高解像度で
モデル(MYNN モデル)の開発と大気境界層の研究.天気,
しかも任意地点の流量の再現が可能となった。
57,12,3-14,2010
9) 第六管区海上保安本部海洋情報部:3日間平均衛星画像
4. あとがき
(水温),http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAN6/2_kaisyo
気象モデル WRF,流出モデル TOPMODEL,河川水追跡
/MCSST/eisei.htm(2016.9.21アクセス)
Muskingum-Cunge 法を活用して,時間解像度が高い河川
10) 農業環境技術研究所:モデル結合型作物気象データベー
流量の計算法を開発した。今回,WRF 及び TOPMODEL はイ
ス,http://meteocrop.dc.affrc.go.jp(2015.12.21ア
ンターネットで無償で提供されているツールを用いてお
クセス)
り,プログラミングを行ったのは Muskingum-Cunge 法の
みである。
11) Buytaert W.:TOPMODEL,https://source.ggy.bris.ac.
uk/wiki/Topmodel(2016.9.21アクセス)
2014 年の梅雨期 30 日間の計算の再現精度を検証した
12) 国土地理院:国土数値情報ダウンロードサービス,htt
結果,WRF 計算による降水量は観測値との Bias は小さく
p://nlftp.mlit.go.jp/ksj/(2016.8.8アクセス)
良好であったものの,RMSE は 1.96〜3.19mm/hour の範囲
13) ORNL DAAC:Global Distribution of Plant-Extractabl
であり更なる精度向上が要する結果となったが,10 分間
e Water Capacity of Soil,https://daac.ornl.gov/cgi
隔で福岡県内を 1km メッシュという高精細な気象の再現
が PC でも可能であることを示した。小流域スケールの流
-bin/dsviewer.pl?ds_id=545(2016.9.16アクセス)
14) Nawarathna B., Kazama S., Sawamoto M.:IMPROVEMEN
出モデルである TOPMODEL は,面積 176.5km2 の流域に対
T OF CALIBRATION PROCEDURE OF THE BLOCK WISE TOPMO
しては精度が低下したものの,流域を 7 つの小流域に分
DEL.13th congress the APD/IAHR,1,540-545,2002
割しそれぞれに TOPMODEL を適用し,Muskingum-Cunge 法
で河道水追跡を行うことにより,精度が向上した。
今後は,流量計算の検証例を増やすとともに計算精度
の向上を図り,筆者らの研究目標である河川水中におけ
る農薬の動態予測に活用する予定である。
15) JAXA:高解像度土地利用土地被覆図,http://www.eorc.
jaxa.jp/ALOS/lulc/lulc_jindex.htm(2016.9.21アクセ
ス)
16) 山敷庸亮, 鈴木琢也, Silva R, 辰己賢一, 寶馨:世界流
域データベースの利用による大陸河川における流出解析
に関する研究.京都大学防災研究所年報,52,B, 29-37,
5.引用文献
2009
1) 杉田倫明:水文学,共立出版,東京,pp71-100,2009
17) 環境庁水質保全局:水質調査方法,環水管第30号,1971
2) 三浦健志:ペンマン式による蒸発散位計算方法の詳細.農業
18) Ao T., 石平博, 竹内邦良:ブロック型TOPMODEL及びM-C
土木学会,164,157-163,1993
3) Calvetti L., Filho A.J.P.:Ensemble Hydrometeorolo
gical Forecasts Using WRF Hourly QPF and TopModel
追跡法による分布型流出解析モデルの検討.水工学論文
集,43,7-12,1992
19) 舛谷敬一, 馬籠 純:流量保存条件を満たす改良Musking
for a Middle Watershed.Advances in Meteorology,1
um-Cunge法の分布型流出解析モデルへの適用.水文・水
-12,2014
資源学会誌,22,4,294-300,2009
4) Peters-Lidard C.D., McHenry J.N., Trayanov A.:Des
ign and evaluation of the coupled MM5/TOPLATS mode
20) 椎葉充晴, 立川康人, 市川温:例題で学ぶ水文学,森北
出版,東京,pp120-124,2010
ling system for a Texas air quality exceedance epi
sode.17TH Conference on Hydrology,J10.1,2003
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
25
<環境省ニュース>環境研究総合推進費の一部業務の移管について
<環境省ニュース>
環境研究総合推進費の一部業務の移管について
環境省総合環境政策局総務課環境研究技術室
1.環境研究総合推進費に係る業務
環境省では,環境研究総合推進費(以下「推進費」という。)
に係る業務として,これまで下記の業務を実施してきた。
グラム・オフィサー(以下「PO」という。)の配置。(PO
は,研究成果の環境政策への貢献を図るため,アドバイザリ
ーボード会合・現地調査等を通じて,研究者が行政ニーズを
理解するよう導く等,行政と研究者との間の円滑な意思疎通
(1) 推進費の基本方針の検討・策定
・外部専門家及び有識者からなる推進費に取り組むべき環境
を仲介。)
・研究費不正及び研究不正の防止等対応。
研究開発の基本方針及び内容,推進費の評価等について調査
検討を行う環境研究企画委員会(以下「企画委員会」という。)
(6) 環境政策への活用及び推進費制度全体の管理・評価
の設置・運営,並びに企画委員会における調査検討結果の推
・環境政策への研究成果の活用等の推進。
進費制度への反映。
・推進費制度の評価。
・環境研究・環境技術開発の推進戦略(中央環境審議会答申)
○追跡評価(研究終了後,一定期間を経過した段階(3~4
の推進費制度への反映。
年後)):研究成果の活用状況を把握するとともに,過去
・推進費制度における全体方針の決定,評価方法及び改善が
の評価の妥当性を検証し,その検証結果と次の研究課題の
必要な事項について提言・助言を行うプログラム・ディレク
検討,関連する研究施策等の見直し,評価方法の改善に反
ターの配置。
映するために実施。
○制度評価(5年ごと):推進費が研究制度として,環境
(2) 環境省の行政ニーズ等の策定・提示
政策上妥当であるか,関連施策との連携を保ちながら効果
・環境政策貢献型の競争的資金として,環境省が必要とする
的・効率的に推進されているか,施策の目的に照らして妥
研究開発テーマ(行政ニーズ)の策定・提示。
当な成果が得られているか(またはその見込みがあるか)
・戦略研究プロジェクトの形成(環境省がトップダウン的に
等の観点に特に留意して評価を実施。
研究開発テーマや研究リーダー等の大枠を決めた上で,研究
2.独立行政法人環境再生保全機構へ移管する業務
チームを競争的に選定)。
・環境政策への貢献が期待される研究課題に対する行政推薦
平成28年4月に「独立行政法人環境再生保全機構法」が改正
され,推進費に係る一部業務を平成28年10月より順次,環境省
の提示。
から独立行政法人環境再生保全機構(以下「機構」という。)
(3) 新規研究課題の公募及び審査(事前評価,中間評価及び事
に移管することとした。具体的には,推進費の効率的・効果的
後評価)
な推進を図るため,推進費に係る業務のうち,配分業務や研究
・新規研究課題の公募,新規採択の採否を決定する審査(事
者支援業務等の業務を移管するものであり,環境省設置法第4
前評価),研究の中間年度における評価を行う審査(中間評
条第1号「環境の保全に関する基本的な政策の企画及び立案並
価)及び研究終了時に実施する審査(事後評価)の実施,並
びに推進に関すること。」の規定に基づく,推進費の基本方針
びにこれら審査に係る研究部会の運営。
の検討・策定,環境省の行政ニーズ等の策定・提示,環境政策
・公募,評価結果に係る広報活動。
への活用及び推進費制度全体の管理・評価については,引き続
き環境省が実施する。
・機構へ移管する業務
(4) 配分・契約業務
・推進費の研究代表者への配分,契約締結及び費用精算並び
に研究体制・経費変更等への対応。
上記1.における(3),(4),(5)
・引き続き環境省が実施する業務
上記1.における(1),(2),(6)
なお,(3)の審査(事前評価,中間評価及び事後評価)を行
(5) 研究者支援・研究体制強化
・実施研究課題の進捗状況を把握し,研究者を支援するプロ
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
う研究部会の運営は機構に引き継がれるが,事前評価及び中間
No.4(2016)
26
<環境省ニュース>環境研究総合推進費の一部業務の移管について
評価におけるヒアリング審査には,機構への移管後も引き続き
環境省職員が加わる。
(参考)環境研究総合推進費
・環境省ホームページ「環境研究・技術総合情報サイト」:
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/
3.移管スケジュール
・機構ホームページ「環境研究総合推進費サイト」:
・上記1.における(3)の業務移管:平成28年10月1日
https://www.erca.go.jp/suishinhi/
・上記1.における(4),(5)の業務移管:平成29年4月1日
(4)において,これまで環境省の推進費関係課室(大臣官房
廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課,総合環境政策局環境
研究技術室,地球環境局研究調査室,環境保健部環境リスク評
価室)が行ってきた推進費の研究代表者との契約締結及び費用
精算並びに研究体制・経費変更等の対応については,継続課題
を含めて平成29年度実施分から機構へ引き継がれることとな
る。
4.業務移管による推進費事業の高度化
(1) 複数年度契約による効率的な研究費の使用
研究の進捗に応じた研究費の繰越,年度をまたがる調達等
の契約,概算払いの早期化。
(2) 委託研究による運用
図1 平成28年度実施課題の代表者所属機関数
現在補助金となっている資源循環領域における「研究事
業」については,平成29年度新規課題から委託費により実施。
(3) 専門職員の配置による研究支援
機構の専門性のある職員による安定かつ継続的な研究者
への助言・支援の実施(行政ニーズ,政策検討状況の情報提
供等)。
推進費への平成29年度新規課題公募は昨年11月に受付を終
了したが,次年度の行政ニーズ提案依頼は平成29年6月頃に,
各都道府県及び政令指定都市等の環境担当部局長宛てにさせ
ていただく予定である。今後とも,地方公共団体からの行政ニ
ーズへの積極的な提案及び新規課題への応募をお願いする。
図2 平成28年度実施課題の予算規模別課題数
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.4(2016)
27
<支部だより>関東・甲信・静支部
<支部だより>
関東・甲信・静支部
関東・甲信・静支部の活動について報告します。
(支部事務局:山梨県衛生環境研究所)
4.支部専門部会開催状況
(1) 騒音振動専門部会(部会長機関:東京都環境科学研
究所)
1.平成28年度環境測定分析精度管理ブロック会議
① 期
日:平成28年7月8日(金)
(1) 期
日:平成28年7月22日(金)
② 場
所:東京都環境科学研究所
(2) 場
所:山梨県庁防災新館(甲府市)
③ 内
容:参加者25名,演題発表7題
(3) 参加者:20名(環境省2名,検討員3名,
(4) 議
(2) 水質専門部会(部会長機関:浜松市保健環境研究所)
日本環境衛生センター2名,
① 期
日:平成28年10月21日(金)
会員機関13名)
② 場
所:アクトシティ浜松
③ 内
容:参加者26名,演題発表12題
事
① 環境測定分析統一精度管理調査について
環境省
石関
(3) 大気専門部会(部会長機関:茨城県霞ヶ浦環境科学
延之氏
② 平成27年度環境測定分析精度管理調査結果に
ついて
日本環境衛生センター
紀平
あずさ氏
センター)
① 期
日:平成28年11月10日(木)
② 場
所:茨城県霞ヶ浦環境科学センター
③ 内
容:参加者29名,演題発表13題
③ 環境測定分析における留意点及び精度管理に
ついて
環境省環境調査研修所
藤森
英治氏
国立研究開発法人国立環境研究所
山本
貴士氏
櫻井
健郎氏
5.平成28年度環境測定分析精度管理ブロック会
議(第2回)(開催予定)
(1) 期
日:平成29年3月10日(金)
(2) 場
所:山梨県庁内(予定)
④ 質疑応答
2.平成28年度支部役員会
(1) 期
日:平成28年9月2日(金)
(2) 場
所:山梨県立図書館(甲府市)
(3) 議
事
① 平成27年度,平成28年度の運営及び事業について
② 会長賞被表彰者の支部推薦に係る選考
③ 支部長表彰の被表彰者の選考
写真1
環境測定分析精度管理ブロック会議
3.平成28年度支部総会
(1) 期
日:平成28年10月28日(金)
(2) 場
所:ホテルポートプラザちば(千葉市)
(3) 議
事
① 平成27年度事業報告・収支決算報告
② 平成28年度事業計画・収支予算(案)審議
③ 各専門部会事業報告
④ 全環研協議会会長賞,感謝状候補者推薦報告
⑤ 支部長表彰者報告及び表彰式
写真2
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
支部役員会
No.4(2016)
28
<編集後記>
編 集 後 記
早いもので,平成28
の指針として大切なことではないでしょうか。
年,2016年も終わろうと
しています。
さて,環境問題では,11月に,地球温暖化防止ための
皆様にとって,2016
国際的枠組みである「パリ協定」が発効し,第1回パリ協
年の重大ニュースはど
定締約国会合が開催されました。日本は,発効には間に
のようなことでしょう
合いませんでしたが,11月8日に締結しました。
か。
これから,地球温暖化の緩和・適応に向けて取組が加
速されていくものと思います。本市においても,地球温
今年も,4月の熊本地方,10月の鳥取県中部における
暖化対策の推進に関する法律に定められた地方公共団体
大地震,8月の東北・北海道における台風による水害な
実行計画として,「広島市地球温暖化対策実行計画(仮
ど,各地で多くの災害がありました。被害に遭われた
称)」の策定を検討しています。この中で,「今後,顕
方々に,改めてお見舞い申し上げます。
在化するであろう影響へ備え,適時的確に適応策を進め
ていけるよう,国や大学等と連携して,地域レベルで気
広島の街で重大ニュースと言えば,広島東洋カープの
25年ぶりのリーグ優勝を挙げる人が多いと思います。
候変動及びその影響に関する観測・監視を行い,農業等
の国が示す7分野に基づく影響を把握・評価するための体
来年も,リーグ連覇・日本一を目指して,広島を盛り
上げてくれることでしょう。
制を検討します。」と掲げており,今後,我々,地方環
境研究所に何ができるのか,考えていかなければいけな
そんな中,黒田博樹投手が今季限りで引退することに
いと思っています。
なり寂しい思いをしているところです。引退セレモニー
の最後に,マウンドにひざまづき,涙の別れをする姿に,
改めて感動させられました。
来年は,どのような年になるのでしょうか。会員の皆
様には,幸多い一年となりますようお祈り申し上げます。
黒田選手と言えば,座右の銘としている言葉「耐雪梅
花麗:雪に耐えて梅花麗し(ゆきにたえて ばいかうるわ
し)」が有名です。
最後になりましたが,巻頭言を執筆していただいた佐
賀県環境センターの吉田所長様,報文を投稿していただ
「耐雪梅花麗」は,幕末・明治維新の英傑である西郷
いた皆様,「環境省ニュース」を執筆いただいた環境省
隆盛が甥の市来政直に送った漢詩の一節で,
「梅の花は,
環境研究技術室様,「支部だより」を執筆いただいた山
冬の雪や厳しい寒さを耐え忍ぶからこそ,初春に美しい
梨県衛生環境研究所様には,お忙しいところご協力いた
花を咲かせ,かぐわしい香を発する。」という意味で,
だき,ありがとうございました。
苦しまずして栄光なしと言えます。
我々にとっても,座右の銘をもつということは,人生
(広島市衛生研究所)
平 成 28年 度
全国環境研協議会広報部会
< 部 会 長 >
<広報部会担当理事>
広島市衛生研究所長
山口県環境保健センター所長
季刊
全 国 環 境 研 会 誌 Vol.41 No.4(通 巻 141号 )
Journal of Environmental Laboratories Association
2016年 12月 25日 発 行
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
発行
全国環境研協議会
編集
全国環境研会誌
編集委員会
No.4(2016)
29