基調講演 - 独立行政法人日本学生支援機構

2016.9.26(月)10:10~11:00
日本科学未来館
平成28年度 全国障害学生支援セミナー 専門テーマ別セミナー【1】
基調講演
発達障害学生支援における学内支援体制の構築
~支援者間の連携の在り方について~
富山大学 保健管理センター 准教授
富山大学教育・学生支援機構 学生支援センター副センター長
アクセシビリティ・コミュニケーション支援室長
西村優紀美
1
本日の話の流れ
1.
2.
3.
4.
修学支援の意義
発達障害学生支援の実際
学内外の連携による支援
まとめ
2
1. 修学支援の意義
3
支援に関わる基本理念
【障害学生支援におけるミッション】
 大学は、「発達障害のある学生が、大学や社会の財産として広く認知され、彼
女/彼らの持つ豊かな才能が社会全体の発展に寄与すること」というビジョンを
共有する。
 彼らが日々体験している「生きにくさ」を軽減し、彼らのもつ能力、個性が開花
できるような環境へのアクセスを保証する。
【富山大学の理念と目標】
・・・・・・抜粋
Ⅰ. 教育 -高い使命感と創造力のある人材の育成-
富山大学は、学生の個性を尊重しつつ人格を陶冶するとともに、広い知識と深い
専門的学識を教授することにより、「高い使命感と創造力のある人材を育成する
総合大学」を目指す。
1. 学生の主体的な学びを促し、多様な学習ニーズに応え、教育の質を保証す
るために、教育環境の充実と教育システムの改善を図り、教員の教授能力
のたゆまぬ向上に努める。
4
修学支援における目標
 学生の意思が尊重され、本人にとって最善の利
益につながる自己決定がなされるような合理的
配慮について検討し、適切な学びの場を構築す
ること。
 学生が、学ぶ意欲を損うことなく修学できるよう
つまずきの解消を目指す。
そのためには、まず・・・
表面に現れにくい“つまずきの背景と障害特性との関連性”
を、学生との対話や支援者間で共有した情報をもとに読み
解いていく必要がある。
5
合理的配慮とは
 障害のある人が平等な社会参加の機会を得るため
の法的権利保障
 平等な参加と競争になるように勝負の土俵を整える
(level the playing field)
 教育機関にとって、障害のある人への支援は「善意」
から「法令遵守」へ
他の者と同じスタートラインに立つための環境調整
特性に応じた合理的配慮を適切に行う
適切な支援は相互交流(対話)の中で創り上げられるもの
6
合理的配慮提供までの合意形成プロセス
①
②
③
④
⑤
• 配慮要請:本人、家族
• 理由となる障害:①特性 ②特性による困りごと
• 具体的な対策に関する検討
• ①本人が工夫できること
• ②配慮内容の検討:教育目標との整合性+授業の工夫+実行可能性
• 合理的配慮に関する合意形成:建設的対話による共通認識に基づく
• 配慮提供
• 代替案の検討:本人の要請が実行しにくい場合
• 配慮内容の検証
7
「合理的配慮の決定」における建設的対話
③暫定的な配慮に関する評価
学生・支援者(教職員)双方に
とってよりよい変化をもたらす
配慮とは何か?
配慮の結果どのような
効果が得られたか?
④合理的配慮の決定
①修学状況のアセスメント
②コーディネーション
学生が困っていることを聴き、
困りごとの解決に向けた話し
合いを行い、学生の意思を
確認する
学生と教職員をつなぎ、
双方が納得する合理的
配慮を探る
8
配慮の提供までの共同体験が
学生自身の自己理解につながる
①現状の整理
②実行可能なことは何かを探る
③自分の障害特性による困り事を整理する
④配慮要請について検討する
⑤実行する
□自らの行動が現状を変化させることを体験する
□漠然とした不安が解消される
□未来へ意識を向けることができる
□うまくいくための対処法を見つけようとする
□強みを発揮できる環境を作り出そうとする
9
障害のある学生が大学で学ぶこと
意識が変わる
• 障害観(医学モデル→社会モデル)
• 自分と異なることへの抵抗感や戸惑いの変容
• 教員は多様な教育的ニーズのある学生を念頭に置いた授
業を行う必要がある
新たな疑問
• 障害のある学生:適切な配慮の求め方は?
• 教員:障害学生の学びを保証する教育の方法は?
• 障害のない学生:障害のある同級生との付き合い方は?
目指すところ
• 障害のある学生がいることを前提とした大学の在り方
• 相互に人格と個性を尊重し、支え合い、人々の多様な在
り方を相互に認め合う共生社会の実現
10
2.
発達障害学生支援の実際
11
国立大学法人富山大学
学
生:9,200人
教職員:約3,000人
 学 部:
8学部(3キャンパス:杉谷・五福・高岡)
 支援の基盤:
教育・学生支援機構 学生支援センター
アクセシビリティ・コミュニケーション支援室
12
富山大学における障害学生支援システムのコア組織
教育・学生支援機構
【学生支援センター会議】
学生支援センター
・学生支援センター長
・学務部長
・学生支援課長
・各学部の委員(教員)
・保健管理センター長
・支援室長
・学生支援センター専任教員
【支援室ミーティング】
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・学生支援センター長
・学生支援課長・課長補佐
・教員(各キャンパス)
・支援室長
・支援室スタッフ
(専任教員、コーディネーター)
室長1名(兼任)
専任教員1名
コーディネーター3名
事務補佐員2名
身体障害学生支援部門
トータルコミュニケーション支援部門
⇒発達障害大学生支援
13
支援障害学生数の推移および来室経路
来室経路(H25.4~H28.5)
本学の支援障害学生数
身体障害
発達障害
その他(精神)
自主来室
14%
33
34
46
51
59
9
11
8
6
5
5
3
6
0
0
H24.5 H25.5 H26.5 H27.5 H28.5
保護者
9%
その他
2%
受験措置、
健康調査
15%
就職・キャリア
支援
8%
教職員
23%
学内支援部
署
31%
① 入学前に診断されている場合=早い段階で支援が開始される
•
•
•
オープンキャンパス、チャレンジカレッジ、高校教員との入試懇談会での情報提供
入試特別措置申請で受験し、合格後に支援依頼がある
健康調査票(入学時提出)に支援要請が明記されている
② 入学後に支援につながる場合=修学上の問題が起きてから支援が開始される
•
•
•
教職員より:トラブル、単位不足、実験・実習困難、就職活動困難で相談
学内支援部署より:保健管理センター,キャリアサポートセンターからの紹介
保護者より:留年や単位不足等をきっかけに相談
14
3. 学内外との連携による支援
A)
B)
C)
D)
LD等:入学前相談で支援要請があった事例
ASD:教員との連携により配慮が行われた事例
LD疑い:保健管理センターとの協働による支援
ASD:卒業後、就労移行支援機関と連携した事例
15
① 学生A(LD):
入学前に配慮要請があった学生への配慮提供プロセス
対
応
の
流
れ
入学前
相談
本
家
人
族
・
実態の説明・
配慮要請(根
拠資料持参)
学
科
・教員が相談
の窓口となる
・支援室に支
援依頼
(
)
学
教
務
養
課
支
援
室
根拠資料をも
とにAさんの障
害特性を解説
入学直前支
援会議
配慮内容
の検討
配慮文書
による
情報共有
根拠資料をもとに
困難さについて説
明、質問に応える
障害特性に対
する必要な配
慮を伝える
配慮文書
の確認
修学状況を随
時支援者に報
告,検証する
・配慮文書を
もとに学科教
員・授業担当
教員と情報共
有
・英語
(事前に音源配
布等)
・試験・課題で
の表記に関す
る配慮
・第二外国語
への配慮
本人の意思を
確認し、配慮
文書を作成
定期面談にて、
配慮内容の検
証を行う
・高校までの支援
について質問
・大学の学び方に
ついて説明
・配慮内容に関す
る合意形成
・支援契約
(定期面談,学部
との連携,情報共
有の範囲等)
同学科学生へ
の周知→本人
から開示
【授業に関す
る検討内容】
・語学科目
・試験や課題
の時間延長等
配慮
実施
16
② 学生B(ASD):
書字への困難さに対する配慮提供
対
応
の
流
れ
ニーズ把握
支援開始
(1年後期)
配慮検討
・(本人)支援を希望
・(家族)成育歴・通院
歴共有、支援方針合意
配慮を希望す
る科目の決定
配慮に合意
・配慮文確認
・配慮の効果
を考える
・配慮に関す
る結果を報告
新入生オリエン
テーションでの様
子から「気に
なる学生」と
して認識
・1年前期の試験解答
の文字が読みにくいこ
とで教員が困惑
・Bと支援室に来室
・書字の苦手さに関す
る問題意識を共有
・学科会議で
配慮内容を検
討し、合意に
至る
・試験の別室
受験を検討
・試験時間延
長の効果を検
証
・次回の試験
以降の配慮の
検討
・次期から罫
線入りの解
答用紙を利
用許可
・支援室でも
入学時に把
握
・学科と紹介
してもらうタイ
ミングを検討
・手帳を取得済みであ
ることを把握
・コミュニケーションに関わる
支援に加え、書字の
苦手さについて本人と
教員に調査
・書字の遅さ
と字の乱れに
試験時間延長
の配慮を検討
・試験的に1.3
倍の延長提案
・配慮の効果
について聞き
取り
・文字の乱れ
に対する配慮
の検討
・罫線ありの
解答用紙で
効果を検証
入学当初
本
家
人
族
・
学
科
支
援
室
配慮実施
・振り返り
配慮
追加
(次年度)
17
学生B’(ASD):
授業(アクティブラーニング)での不適応に対する配慮
支
援
室
入学時に支援
依頼があるも、
配慮は必要な
いとの本人の
意思を確認
•
•
教員、本人双方から授業
の状況を聞き取り
教員と、本人の様子と障
害特性との関連を話し合
い、配慮について検討
授業での
不適応
状
況
の
流
れ
授
業
担
当
教
員
【結果を本人と振り返り】
• グループワークで泣くこと
が減った
• レポートが書けない状況
に大きな改善はなかった
配慮の
検討と実施
・振り返りの内容
を教員に伝えた
・配慮に関する再
検討を行う
新たなニーズ
の把握と対応
・二人組による対話形式の
授業で対話が止まり、途中
でパニックになる
・「コミュニケーション」をテー
マとしたレポートが書けず苦
しむ
a.対話形式の授業で本人の
負荷を軽減する方法を検討
b.自分のレポートが評価に
値するかを心配する本人へ
の配慮を検討
c.レポートが書けていないこ
とで、授業終了時に課題が
提出できずパニックになる
d.本人の状態が周囲の学生
の目に触れることに配慮
・授業終了後に本人と面談
し、困っている状況を確認
・支援室に相談
(以下の配慮を実施)
a’. グループ構成を変更。本
人に合ったメンバーを選定
b’. レポート内容の評価基準
を本人に説明
c’. レポートの提出期限を
延長
d’. 不安が募った場合は、
落ち着ける別室に移る
ことを本人と合意 18
学生C:LDが疑われた学生に対する支援例
対
応
の
流
れ
ー
保 セ
健 ン
管 タ
理
心理的
な相談
修学上の
困りごと
対人関係の
相談
+
心身症状の訴
え
授業やゼミで
の会話に対す
る不安
+
実習での不安
心理アセス
メントの実施
自己理解
自己対処
対人的コミュニケーションに関する語り
+
将来についての語り
紹介
支
援
室
困難さを中心
に聞き取り
+
アセスメント
検査の施行
を提案
検査結果を
説明
+
できる工夫の
検討
・実習後の振り返り
・卒業後の不安に
対する対処法の検
討
19
学生D:就労支援機関との連携による支援
対
流
応
れ
の
居場所の
提供
実験実習で
のトラブル
グループワークでの孤立
感が、過去の体験を想起
させ、不安感からパニッ
クに陥る
保セ
健ン
管 タ
理
看護師がカウンセ
ラーに紹介し、定
期面談を行う
看護師、カウンセラーの
面談で、パニックの要因
がはっきりせず
ー
本
人
毎日のように保健
管理センターを利
用する
特性に関
する語り
・不安が解消する
・小集団活動を希望
・障害特性を意識す
るも受診には至らず
就職活動
・就職活動の面接が
うまくいかず、働くこ
とへの不安が募る
・優秀な成績で卒業
卒後
3年間
・面接での不安感
が高まり、受診
・障害者枠での就
労を目指す
・グループ編成の配慮を行う
・学科教員がDさんについて情報共有を行う
・ゼミ生によるさりげない心配り
学
科
紹介
就
労
関
係
配慮
依頼
支
援
室
・グループワークでの人
間関係で不安が高まっ
たことを確認
・授業担当教員に相談
・発達障害者支援センター:病院紹介
・障害者職業センター:職業評価
・ハローワーク:就労移行支援
事業所を紹介
・就労移行支援事業所:訓練開始
・自己理解のための
面談を行う
・小集団活動「ラン
チ・ラボ」を開始する
・自己分析
・面接事前練習
・事後振り返り等の
支援
・就労移行支援事
業所との連携
・大学での支援
方法の引き継ぎ
20
・定期支援会議
学生Dの語り
小中高校時代
「
出来事」
の語り
何をすればよいか
わからないことに出
会うと,パニックに
なった。
好きなことに夢中に
なってしまい、周囲
の状況を認識できな
くなる。
「
アイデンティティ」
の語り
みんなと一緒なこ
とができない自分
はダメな人間だと
思う。
大学時代
大学時代
(修学)
(就職活動)
グループ活動が
苦手で不安にな
り、その場から飛
び出してしまいた
くなる。
データ解析のよう
にはっきりした答
えが見つかるよう
な課題が好き。
ネガティブなことばか
りではなく、自分には
良いところもある。
みんな工夫したり考
えたりしている。私も
いろいろ工夫すれば
いいんだ。
一人でコツコツ取
り組む就職活動
のための勉強は
好き。
採用面接で失敗
し、面接への恐怖
心が大きくなっ
た。就職活動は
続けられない。
就労移行支援
事業所
自分の強みを活かし
た仕事を探すため、
資格を取得するため
の勉強を始めた。
施設外就労を体験
し、会社からのよい
評価を得て、仕事へ
の自信をつけた。
私は難しいことに挑
戦した方がモチベー
ションを維持できる。
人とのコミュニケー
ションが怖くなった。
自分は社会に出ら
れないかもしれな
い。
些細な失敗をする自
分が許せない。自分
はだめな人間だ。
他の人の行動や考
えていることが気に
なってしまう。
人とのコミュニケー
ションは心配だが、
仕事で会社に貢献し
たい。
就 職
自分の得意な能力を
活かした就職ができ
た。
苦手な電話応対の練
習に先輩が付き合っ
てくれ、少し自信がつ
いた。
仕事の疲れをリセット
する時間が必要。
趣味の時間でリフ
レッシュしている。
自分の良さを評価し
てくれた会社に貢献
したい。こんな感じで
働いていけるかなと
思えるようになった。
いろいろな不安材料
はあるが、上司から
のちょっとしたアドバ
イスと励ましがあると
元気になれる。
21
4. ま と め
22
【学内】
キャリアサポートセンター
【学外】
地域就労支援機関
公共職業安定所
就労移行支援事業所
地域障害者職業センター
学部教員・職員
教養教育担当教員・職員
実習担当教員
キャリア・サポート
修学サポート
-就職活動スケジュール管理
-自己PR・志望動機等作成サポート
-面接に関する事前・事後サポート
-履修・スケジュール管理
-受講時の合理的配慮に関する調整
-レポート・卒論サポート
-実習サポート
教育・学生支援機構 学生支援センター
アクセシビリティ・コミュニケーション支援室
サポート・チーム全体のマネジメント
-体調を考慮しながらの修学支援
メンタルサポート
【学内】
保健管理センター
【学外】
地域医療機関
カウンセリング
体調管理
服薬指導
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発達障害学生の支援とは
1. 高等教育機関における障害学生支援のあり方
① 障害学生が、学びの場を提供されることなく高等教育の場から排
除されることのない大学組織の構築
2. 学生の学びが保障される環境づくり
① 障害による困難さ(弱み)に対する支援のコツを共有
② 強みを活かすための学習の場づくり
③ 修学ペースに合わせた履修:長期履修制度の適用も視野に
3. 教員による主体的な教育指導・合理的配慮の提供
① 支援事例の共有による教職員の障害学生への理解
② 「教育・研究」と「障害学生支援」
※ 障害学生支援に関わる支援者は、学びの場を下支えする役割を担うととも
に、彼らの将来像を描きつつ支援を行っていく必要がある。
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