OPEC減産合意を踏まえた 米国シェール企業の動向

OPEC減産合意を踏まえた
米国シェール企業の動向
2016年12月22日
調査部
古藤 太平
1
本日の報告内容
1. はじめに
2. 主要地域のシェールオイル生産動向
3. シェールオイル生産の担い手
4. 今後の注目ポイント
5. 結び
2
1.はじめに (1)
• 米国の石油生産・消費
 米国は原油輸入国(2015年輸入735万b/d、輸出49万
b/d)、シェールオイルは生産量約450万b/d。
 シェールオイルが輸出される可能性はあるとしてもまだ
限界的の域を出ない。油価が高騰すると交易条件が悪
化するのは日本と同じ。
• シェール企業はスイングプロデューサーか?
 需給調整の役割を担うスイングプロデューサーなら価格
支配力を行使して油価を安定させようとする。
 スイングプロデューサーではなく、プライステイカーとして
(価格を所与のものとして)利益を極大化するよう投資・
生産を行う。
3
1.はじめに (2)
(百万バレル/日)
シェールオイル生産量と原油価格(WTI月次平均)推移
6.0
(ドル/バレル)
120
5.0
100
4.0
80
3.0
60
2.0
40
1.0
20
0.0
0
バッケン
イーグルフォード
パーミアン
その他
WTI(右軸)
出所:EIAホームページよりJOGMEC作成
4
1.はじめに (3)
• OPEC・非OPEC各国による減産合意を受けて
シェール企業各社はリグを追加し増産の機
会を窺っているという報道。
 過去数年間の低油価に対応して技術革新により生産効
率を改善し生産コストを削減してきた。
• 生産効率改善やコスト削減によりバレル当り
40ドルの油価でも採算が取れる?
 技術革新やコスト削減の状況は地域/個社毎に異なると
考えられる。
5
1.はじめに(4)
出所:EIAホームページ
6
2.主要地域のシェールオイル生産動向(1)
バッケンの生産動向
主要な企業はWhiting Petroleum、Continental Resources,
Hess Corporationなど。イーグルフォードやパーミアンに生産
を移しているものも多く、積極的に生産している企業数は30
社程度と見られる。
 早く(2008年こ
ろ)から開発が
進み既存井か
らの生産が多
いため、減産
のペースは比
較的緩やか。
出所:EIAホームページよりJOGMEC作成
7
2.主要地域のシェールオイル生産動向(2)
イーグルフォードの生産動向
Devon Energy、EOG Resources、Marathon Oil等が主要プレイ
ヤー、40社程度がシェールオイルを生産している。
DUC(掘削済み未仕上げ坑井、Drilled but Uncompleted)から
の生産により100万b/d近くの生産量を維持してきた。
しかしながら、
開発が本格化
したのが2011
年頃からという
こともあり減産
のペースも速
い。
出所:EIAホームページよりJOGMEC作成
8
2.主要地域のシェールオイル生産動向(3)
パーミアンの生産動向
リグ稼動数は減少しても生産量は増加傾向を続けている
(DUCSの数も増加している)。
デラウェアではCimarex Energy、Anadarko Petroleum、EOG
Resources、
パーミアン
1,400
2,000,000
1,200
1,000
1,500,000
800
1,000,000
600
400
バレル/日
ミッドランドで
はPioneer、
Apache等が
主要なプレイ
ヤー。
 200以上の
企業が生産
している。
2,500,000
1,600
500,000
200
0
-
生産量(右軸)
リグ稼動数(左軸)
DUC(左軸)
出所:EIAホームページよりJOGMEC作成
9
(メモ用紙)
10
2.主要地域のシェールオイル生産動向(4)
主要地域別のシェールオイル開発コスト
資本的支出(Capital Expenditure)
作井
(油井数)
掘削(Drilling)
坑井仕上(Completion)
小計(MM$)
バッケン
イーグルフォード
パーミアン(ミッドランド)
パーミアン(デラウェア)
1
2.18
5.14
7.32
1
2.10
4.84
6.94
1
2.26
4.66
6.92
1
2.26
4.66
6.92
生産システム(Facilities)
生産プラットフォーム(Platform)
パイプライン設備(Pipelines)
その他(Others)
小計(MM$)
0.69
土地取得費(Acreage Cost)
資本的支出計(Capex)
資源量(Mmboe)
バレル当り資本的支出($/boe)
技術革新・コスト削減の重点は掘削と坑井仕上げに。
水平掘削の延伸、水圧破砕、プロパント等々。
0.60
0.60
0.60
2.85
0.40
0.90
1.20
10.856
0.43
25.5
7.939
0.51
15.4
8.422
0.19
45.5
8.722
0.64
13.6
シェールオイルと海底油田ではバレル当りの生産コストが同じくらいであっても資本
操業費(Operating Expense)
的支出と操業費の割合が異なる(シェールの方が操業費のウェイトが大きい)。
リース費用(Lease Operating Expense)
8.50
8.50
8.50
8.50
集積・処理・輸送等
14.75
8.50
11.00
11.75
(Gather, Process, Transport)
一般管理費(General & Administration)
3.00
2.75
3.75
3.75
バレル当り操業費($/boe)
26.25
19.75
23.25
24.00
バレル当り生産コスト($/boe)
51.8
35.2
68.7
37.6
EIA "Trends in U.S. Oil and Natural Gas Upstream Costs" March 2016
11
2.主要地域のシェールオイル生産動向(5)
米国メキシコ湾海底油田開発コスト
資本的支出(Capital Expenditure)
作井
(油井数)
掘削(Drilling)
坑井仕上(Completion)
小計(MM$)
生産システム(Facilities)
生産プラットフォーム(Platform)
パイプライン設備(Pipelines)
その他(Others)
小計(MM$)
土地取得費(Acreage Cost)
資本的支出計(Capex)
資源量(Mmboe)
バレル当り資本的支出($/boe)
操業費(Operating Expense)
リース費用(Lease Operating Expense)
集積・処理・輸送等
(Gather, Process, Transport)
一般管理費(General & Administration)
バレル当り操業費($/boe)
バレル当り生産コスト($/boe)
シェブロン/Big Foot
アナダルコ/Lucius
Kodiak
シェブロン/Jack/St.
Malo
13
81
6
111
2
203
30
240
2,670
259
318
3,247
858
600
179
1,637
465
0
330
795
1,500
800
2,500
4,800
-
-
-
-
4,300.00
198
21.7
2,300.00
276
8.3
1,200.00
65
18.5
12,000.00
500
24.0
技術革新・コスト削減の重点は生産システムに。
FPSO/FSO、TLP、Spar、Semi-Submersible等々。
資本的支出の額が同じであってもシェールと海底油田では資本の回収期間
が異なり、シェールの方がより変動費に近い性質を持っている。シェールオイ
ルの方が海底油田よりも油価に敏感に生産を調整する一因と考えられる。
11.00
32.7
9.00
8.00
17.00
17.3
26.5
41.0
EIA "Trends in U.S. Oil and Natural Gas Upstream Costs" March 2016
12
3.シェールオイル生産の担い手 (1)
• EOG Resources, Inc.
 第3四半期も純損失を計上したが(▲190百万ドル)赤字幅
は縮小しており、油価が上昇すれば増産のペースを加速す
単位:百万ドル
る準備が整っている。
2014年度
(財務)
売上高
当期利益
上流設備投資
総借入
純資産
(操業)
石油生産(千b/d)
うち米国
天然ガス生産(百万cf/d)
うち米国
石油ガス計(千boe/d)
うち米国
2015年度
第1四半期
2016年度
第2四半期
第3四半期
16,639
2,915
7,905
5,910
17,713
8,656
▲4,525
4,928
6,660
12,943
1,328
▲472
588
6,986
12,405
1,813
▲293
634
6,986
12,057
1,988
▲190
659
6,986
11,798
369
362
1,353
920
595
515
361
360
1,265
886
572
508
347
345
1,215
829
550
483
352
350
1,194
820
551
486
365
358
1,144
791
555
489
出所:決算資料よりJOGMEC作成
13
3.シェールオイル生産の担い手 (2)
• EOG Resources, Inc.
 足許の石油生産量は回復傾向にある(第1四半期
:347、第2四半期:352、第3四半期:365千b/d)。
 Bill Thomas CEOは、原油生産は油価が$50/bなら
ば2020年まで年々15%、$60/bならば20%増加す
るとしている(第3四半期の原油生産量275千b/dか
ら482~572千b/dに増加)。
 9月末時点で行われていた原油価格ヘッジ取引は
今年12月31日まで、70,000 b/d、フロア $45.00/b、
シーリング $54.25/bのカラー取引のみ。
 合わせて2016年の設備投資計画を2億ドル増額し
坑井仕上げを増加する見通しを示している。
14
3.シェールオイル生産の担い手 (3)
• Continental Resources, Inc.
 第3四半期も純損失を計上したが(▲110百万ドル)
赤字幅は縮小している。
単位:百万ドル
2014年度
(財務)
売上高
当期利益
上流設備投資
総借入
純資産
(操業)
石油生産(千b/d)
うち米国
天然ガス生産(百万cf/d)
うち米国
石油ガス計(千boe/d)
うち米国
2015年度
第1四半期
2016年度
第2四半期
第3四半期
4,242
977
4,653
5,929
4,968
2,589
▲354
3,043
7,118
4,669
411
▲198
359
7,206
4,475
533
▲119
266
7,151
4,367
511
▲110
254
6,832
4,261
122
122
313
313
174
174
147
147
451
451
222
222
146
146
506
506
231
231
133
133
518
518
219
219
116
116
549
549
208
208
出所:決算資料よりJOGMEC作成
15
3.シェールオイル生産の担い手 (4)
• Continental Resources, Inc.
【Continental社の主要生産地域】
 石油生産量は引き続き減少し
ている(第1四半期:146、第2
四半期:133、第3四半期:115
千b/d)。
 Harold Hamm CEOは、従来の
中核であるバッケン(ノースダ
コタ)に加えてSCOOP/STACK*
等南部(オクラホマ)の油田の
生産が有望であるとしている。
* SCOOP : South Central Oklahoma Oil Province
STACK : Sooner Trend Anadarko Basin Canadian and Kingfisher
出所:Continental社IR資料
16
3.シェールオイル生産の担い手 (5)
• Pioneer Natural Resources
 掘削・坑井仕上げの最適化やコスト削減努力により第3四半
期は増収増益となった(22百万ドルの純利益を計上)。
単位:百万ドル
2014年度
(財務)
売上高
当期利益
上流設備投資
総借入
純資産
(操業)
石油生産(千b/d)
うち米国
天然ガス生産(百万cf/d)
うち米国
石油ガス計(千boe/d)
うち米国
2015年度
第1四半期
2016年度
第2四半期
第3四半期
4,325
930
3,368
2,648
8,581
3,142
▲273
2,175
3,655
8,368
632
▲267
549
3,660
9,688
1,008
▲268
445
3,664
10,379
1,087
22
871
3,211
10,424
133
133
377
377
196
196
144
144
361
361
204
204
162
162
359
359
222
222
176
176
341
341
233
233
183
183
332
332
239
239
出所:決算資料よりJOGMEC作成
17
3.シェールオイル生産の担い手 (6)
• Pioneer Natural Resources
 パーミアンを中心とする生産は増加傾向(第1四半
期:162、第2四半期:176、第3四半期:183千b/d)。
 Scott Sheffield CEOは、原油生産は2020年まで油価
$55/b程度で推移するとしても年15%増加するとし
ている(第3四半期の原油生産量134千b/dから234
千b/dに100千b/d増加)。
 9月末時点で行われていた原油価格ヘッジ取引は
今年12月31日まで112,000 b/d、フロア $65.41/b、
シーリング $75.94/b。2017年は104,973 b/d、フロ
ア$49.07/b、シーリング$62.36/b。
18
3.シェールオイル生産の担い手 (7)
• Whiting Petroleum (James Volker CEO)
「第3四半期にリグを2基追加した。油価が60ドルになれ
ば更に増やす予定。」
• Oasis Petroleum (Taylor Reid COO)
「油価が45~50ドルに安定すれば需要の増加には
DUCからの生産で対応、更に油価が上昇すれば来年
の後半にリグを追加することになる可能性が高い。」
• シェブロン
今年下半期にリグを8基追加、2020年までに生産量を
現状の15万b/dから25~30万b/dに増やす計画。
19
5.今後の注目ポイント (1)
• シェール企業がOPECの減産合意の意図をくつ
がえすほど大幅な増産を行うか?
シェールオイル生産の担い手は多数の中堅・
中小企業。個々の企業に価格支配力は無く、
市場価格を所与のものとして利益が最大とな
るように生産を行うと考えられる。
OPEC減産合意により油価が上昇しシェール企
業が増産すれば、人件費やリース料も上昇す
る。
一方的な増産が続くという訳ではない。
20
5.今後の注目ポイント (2)
• トランプ大統領のエネルギー政策
雇用創出力のある中堅中小企業にとっては追
い風、インフラ整備、環境規制、税制面からの
追い風が吹く可能性。
• シェールガスの生産動向
シェールガスの価格が上昇したらどうなるか?
21
6.まとめ
• シェール企業の増産ペース
 技術力・競争力は企業ごとに様々。
地質学的知見の蓄積度合い、土地所有権の形態、
サービス会社との関係、資本市場からの資金調達
→ 新規参入は容易ではない。
 油価が上昇すれば生産も一定程度増えるが、2012
~14年頃のようにはならないのではないか?
22