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カレント・トピックス No.16-42
平成28年12月22日
16-42号
カレント・トピックス
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
鉱石供給低迷下における鉛市場の動向と見通し
―19th International Lead and Zinc Conference 参加報告―
<調査部金属資源調査課 畝井杏菜
報告>
はじめに
2016 年 11 月 15~17 日に、中国・成都にて 19th International Lead and Zinc Conference が
開催された。中国有色金属工業協会(CNIA)主催の本カンファレンスには、中国企業の参加者を
主として、国内外の鉱山・製錬企業、トレーダー、専門家等約 1,000 名が参加した。
2016 年、供給不足懸念から亜鉛価格は上昇が続き、鉛価格も堅調に推移した。亜鉛鉱山からの
副産物として生産される鉛も、亜鉛鉱山の閉山や操業停止が相次いだ影響で鉱石供給量は減るも
のの、廃鉛バッテリーを原料とした二次精錬による生産が地金供給量の半数を占めているため、
亜鉛ほどには供給不足懸念は広まっていない。ただし中国においては、環境保護に関する規制の
強化により、鉱山・製錬所からの供給が停滞しており、本カンファレンスにおいて鉛業界はどの
ように生産を維持、拡大できるか議論された。本稿では、本カンファレンスで発表された鉛需給
に関する報告について紹介する。
1. 世界の鉛需給見通し
国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)の Paul White 氏の講演「Global Lead and Zinc Supply and Demand
for 2016-2017」によると、2016 年の鉛鉱石供給量は主に豪州からの供給減により前年比 0.3%減
の 4,751 千 t となるが、2017 年には回復し、前年比 3.3%増の 4,909 千 t となる見込み。また、
地金生産量は、2017 年は前年比 1.2%増の 11,359 千 t、消費も前年比 1.3%増の 11,336 千 t とな
り、需給はほぼバランスする(表 1)。
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表 1.鉛需給バランス見通し(千 t)
2015 年実績
鉱石生産量
2016 年予測
2017 年予測
4,766
4,751
4,909
地金生産量(a)
10,839
11,229
11,359
地金消費量(b)
10,883
11,187
11,336
+42
+23
需給バランス(a-b)
▲44
(ILZSG 資料をもとに JOGMEC 作成)
また、2016 年の需給についても、鉱石生産量は豪州を中心に亜鉛鉱石生産量減少の影響を受け
低調だが、地金生産及び消費は増加するとの予測が述べられた。地金生産量増加の背景としては、
韓国で Korea Zinc が 2015 年末に廃鉛バッテリー等を利用した二次精錬も可能な製錬設備拡張を
完工し 130 千 t の生産能力を増加、2016 年から増産体制となっていることや、ベルギー・Umicore
社の Hoboken 製錬所拡張が進められていること、豪州・Port Pirie 製錬所の拡張、米国・Aqua
Metal 社の McCarran 二次鉛精錬所(生産能力 30 千 t)新規建設等が鉛地金の増産に寄与すると思
われる。なお、Aqua Metal 社の発表によると McCarran 二次鉛精錬所は 99.99%以上の高純度の地
金が生産可能である。近年、ハイブリッド車(HEV)やアイドリングストップ機能を備えた自動
車の増加により高性能のバッテリー需要が拡大しており、高純度の鉛のニーズは高まっている。
高純度の二次鉛生産が増えれば、鉛鉱石の供給不足懸念の払拭もでき、さらなる供給安定化を図
ることができる。
需要については、White 氏によると、中国で自動車販売が好調なことから鉛バッテリー需要が
伸びる可能性がある。中国における鉛需要は、2016 年は対前年比で 2.5%増、2017 年は同 1.1%
増と緩やかながらも成長する見込みであると述べられた。同氏報告の参考として、図 1 のとおり
中国の自動車販売台数推移を示す。図 1 に示すとおり、中国の自動車販売台数は 2016 年には
2,500 万台を超える見込みである。中国における自動車生産・販売台数は、2009 年より米国を抜
いて世界 1 位となっており、近年はその成長率は緩やかになりながらも 5~7%の成長を維持して
いる。一方、カンファレンスにおいて CNIA は、2020 年までの中国鉛需要は経済成長の減速によ
り年 0.6%増のペースでの成長に留まるとし、ILZSG よりも低い成長率見通しを示した。
図 1. 中国の自動車販売台数推移(商用車含)
(マークラインズ資料をもとに JOGMEC 作成)
2. 中国における鉛需給見通し
安泰科の Zuo Xichao 氏は、講演「China Lead Market Review and Outlook」において、中国に
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おける主な鉛の用途は、E-Bike・E-Tricycle が 40.8%、自動車用 SLI が 24.3%、電源装置が
10.1%であり、これまで鉛需要を牽引してきた E-Bike の生産は 2013 年をピークに減少し、今後
は E-Tricycle(電動三輪車)の普及が鉛需要を牽引すると見通した。また、自動車の普及の伸び
も、鉛需要拡大を期待できるとした。
同氏の報告によると、表 2、表 3 のとおり、鉛の鉱石供給は、2016 年は 2015 年からさらに落ち
込み、鉱石輸入も減少したため需給は非常にタイトとなった。一部製錬所は、2016 年の供給不足
を見込み、2015 年下半期に多くの鉱石在庫を蓄えていたものの、2016 年 5 月以降、TC が急落し、
生産削減あるいは操業停止へ追い込まれる製錬所もあった。Zuo 氏は、そのような状況下で製錬
所各社は、政府による環境検査への対応も迫られ、2016 年は厳しい環境で操業せざるをえないス
トレスにさらされたと指摘する。一方で、今後は鉛価格の上昇とともに二次精錬所は生産を伸ば
すと予測、環境対応を終えた大手二次鉛精錬所が増産を牽引するだろうと述べた。
また、同氏は 2017 年の鉛価格は、堅調な需要に下支えされ、高価格帯で推移すると見通した。
具体的には、中国国内市場(SHFE)は 15,000~17,000 元/t で推移し、18,000 元/t を超える可能
性もあり、平均は 16,200 元/t 程度。海外(LME)は、1,850~2,250US$/t で推移し、2,300US$/t
に達する可能性もあり、平均は 2,050US$/t 程度との見通し。
表 2.中国国内における鉛鉱石需給バランス(千 t)
2013 年
2014 年
2015 年
2016 年 1~9 月
2016 年予測
生産(NBS:国家統計局)
3,150
2,711
2,335
1,608
2,150
生産(安泰科)
2,607
2,324
2,102
1,580
2,080
輸入
747
906
949
516
700
消費
3,454
3,305
3,211
2,328
3,105
564
464
255
-69
-85
21
77
22
-97
需給バランス(NBS)
需給バランス(安泰科)
-155
(安泰科資料)
表 3.中国国内における鉛地金需給バランス(千 t)
生産
合計
二次
消費
一次
輸出入
(輸入量-輸出量)
需給バランス
2013 年
4,780
1,500
3,280
4,700
21
59
2014 年
4,740
1,600
3,140
4,960
33
-253
2015 年
4,700
1,650
3,050
4,702
60
-62
2016 年
4,550
1,600
2,950
4,800
10
-260
2017 年
4,580
1,680
2,900
4,850
-5
-265
(安泰科資料)
Zuo 氏発表の参考として、ILZSG の中国需給統計を表 4 に示す。安泰科の発表と同じく、鉱石・
地金ともに 2016 年は 2015 年を下回るペースで生産されており、特に鉱石生産については、生産
が最も活発であった 2013 年と比較して 8 割まで生産量が減少している。ただし、消費について
は、ILZSG の統計では 2016 年 1~9 月の消費量累計は、対前年同期比で 9 割程度に留まっている
ところ、安泰科の予測では 2016 年は 2015 年を上回ると予測している。
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表 4.ILZGS による中国国内における鉛地金需給統計(千 t)
2015 年実績
2015 年 1~9 月
2016 年 1~9 月
鉱山生産量
2,147
1,698
1,561
地金生産量
4,700
3,511
3,193
地金消費量
4,708
3,528
3,169
8
5
3
50
40
15
輸入
輸出
(ILZSG WORLD LEAD AND ZINC STATISTICS November 2016)
3. 自動車燃費規制厳格化における鉛バッテリーの新たな可能性
Advanced Lead Acid Battery Consortium(ALABC)の Moris Monahov 氏は、講演「Challenges
and Responding Measures Faced by Lead-acid Batteries」において、燃費規制が厳格化する自
動車市場に向け、マイルド HEV の可能性について述べた。ALABC は、将来的にはリチウムイオン
バッテリーが鉛バッテリーを代替すると予測されているなかで、自動車業界における鉛バッテリ
ー需要存続を目的に、鉛バッテリーの需要拡大に向けた研究を進めている。自動車産業は、燃費
改善、CO2 排出抑制、製造コスト削減などの課題に直面しており、また産業用蓄電池はライフタ
イムコストの低下が追求されている。鉛はリサイクル率が高く、供給の安定性、安価な製造コス
トという点でメリットがあり、今後さらに鉛バッテリーを活用できる道が検討されている。現在
ALABC は、そうした枠組みの中で、48V ハイブリッドシステム使用した HEV の開発を手掛けてお
り、商品化、普及を最終的なゴールとしている。
本カンファレンスの報告において、Monahov 氏は、今後自動車市場はバッテリー電圧を 48V へ
高めたマイルド HEV が普及するとの見通しを報告した。48V 系マイルド HEV は、鉛バッテリー
(12V)とリチウムイオンバッテリー等の次世代電池を搭載した HEV であるが、次世代電池の電
圧が通常のマイルド HEV なら 12V、フル HEV なら 100V 以上のところ、48V の設計となっている。
鉛バッテリーは、従来の内燃機関車ではエンジン始動や照明、燃焼機能を果たす SLI(Starting,
Lighting and Ignition)の用途で使われてきたが、HEV では補機用電源としての機能や充電制御、
アイドリングストップ等の複雑な機能も果たすようになった。特に近年の車両は、パワーステア
リングが油圧から電動に代わり、様々な電動装備も増えているため、既存のシステムでは消費電
力の増大に対応しきれなくなっていると Monahov 氏は主張する。自動車産業は低燃費・低負荷・
低コスト等の課題を抱えており、高エネルギー・高パワー・ロングライフのバッテリーが求めら
れている。
マイルド HEV は SLI 用途の鉛バッテリーを搭載する従来車よりも燃費が良く、100V 以上の高電
圧のフル HEV よりも低電圧・低コストである。マイルド HEV とフル HEV の違いは、端的にはバッ
テリーの容量の違いである。表 5 のとおり、フル HEV はエンジン停止時にもモータで自走できる
造りとなっているため、電圧は 150~350V と高電圧・大型電池の搭載が必要かつ複雑な設計であ
るのに対し、マイルド HEV はエンジン発進・停止時または加速時等において小型の電池とモータ
でアシストする造りのため、コストを低く抑えられる。さらにマイルド HEV の電源システムを
48V に高めれば、12V の SLI や既存のマイルド HEV よりもエンジン駆動や加速サポート等がパワフ
ルである上、電圧が高いことで供給電流が低く抑えられ、電線の径を細くできるなど軽量化・低
燃費を達成できる。
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表 5.マイルドハイブリッド車普及予測
自動車種別
従来車
Co2 削減(%)
0
2020 年販売予測
パラメーター
HEV
St/St
Mild
3-8
decline
8-12
dominant
12-20
Full
20-35
champion
moderate
機能
SLI
Start/Stop
Mild Power
Assist
Moderate Power
Assist
Limited Electric
Drive
kW
2-4
2-4
10-15
12-20
25-60
V
12
12
12
48
150-350
(ALABC・Monahov 氏発表資料)
48V 系マイルド HEV は、既存のマイルド HEV よりアシスト力が向上し、厳格な自動車の燃費規
制に対応することができ、かつフル HEV や電気自動車よりも低コストであるため、今後欧州や中
国市場等で普及が期待されている。欧州では、2011 年に自動車メーカー5 社(Audi、BMW、M-Benz、
Porsche、VW)にて「LV148」として標準規格を策定しており、研究開発が進められてきた。自動
車部品大手のドイツ・BOSCH 等複数のメーカーは、既に 48V バッテリーを使用した回生システム
開発を手掛けており、2017 年以降は各社で 48V 系マイルド HEV 製品化されると期待される。また、
中国でも吉利汽車や第一汽車などのメーカーは今後 2 年以内に 48V 系マイルド HEV 発売を目指す
との発表が報道されており、今後の普及が期待される。同氏は、48V 系マイルド HEV の普及が鉛
バッテリーの消費を下支えするとして、今後の底堅い需要を見込めると述べた。
おわりに
鉛は、亜鉛鉱山からの鉱石供給減により、製錬所における鉛地金生産は停滞しているものの、
二次鉛生産が供給量の半分を占めることから、市場に供給不足感は薄い。カンファレンスでは、
中国における環境規制がらみでの供給減や不法操業を行う二次精錬所の動向を懸念する意見はあ
ったものの、需要に対する供給不足を懸念する発表者はいなかった。LME 価格も、2016 年初には
亜鉛が 1,500US$/t を下回る安値のところ鉛は 1,600US$/t 程度だったが、カンファレンスが開催
された 11 月半ばは亜鉛が 2,500US$/t まで上昇したものの、鉛は 2,100US$/t までの伸びに留まっ
ていた。足元 12 月に入り、亜鉛が 2,700US$/t まで上伸、鉛も 2,400US$/t まで急伸したが、鉛に
対しては需要の維持・拡大を図るべきとの意見から価格の上昇を嫌う声もあった。鉛業界として
は、自動車用バッテリーの代替傾向や、鉛の用途が縮小傾向にあることに対して懸念しており、
R&D を促進させ新たな鉛の市場を開拓する必要性を感じている様子であった。パリ協定発効に見
られるように、今後世界的な排気ガス規制強化及び自動車メーカー各社の電気自動車開発への転
換が相次ぐ潮流の中で、鉛はどのように利用されていくべきか、業界の動向を注視したい。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を
お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に
つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す
る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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