取締役会決議事項の見直しの動き ―次期会社法改正に向けて検討進む―

証券代行コンサルティング部長の眼 (第43号)
取締役会決議事項の見直しの動き
―次期会社法改正に向けて検討進む―
2015年5月に施行されたばかりの改正会社法ですが、早くも次の改正に向けた議論が進めら
れています。改正会社法の附則には、施行後2年を経過した段階で社外取締役の義務化等につ
いて検討をすることが規定されていて、来年5月には施行後2年となるからです。すでに公益社団
法人 商事法務研究会にて「会社法研究会」が設置され、本年1月から大学教授・事業法人・法
務省・経産省・金融庁・東証を委員として論点整理が行われています(注1)。社外取締役を1名
以上選任している東証1部上場企業は98.8%に達していることから、社外取締役の義務化につ
いて議論する必要性は薄いでしょうが、コーポレートガバナンス・コード(以下、コードといいます)
によりガバナンス向上に向けた取組みが加速していることや、監査等委員会設置会社の普及な
どが進んだという環境の変化を踏まえた論点整理がなされているようです。
検討されている論点の一つに「取締役会の決議事項に関する規律の見直し」があります。監
査役設置会社において「重要な業務執行の決定」は取締役会の専決事項とされており(会社法
362条④)、具体的な付議基準は取締役会規程等でかなり詳細かつ保守的に定められています。
必然的に取締役会の付議事項が多くなって、本来議論すべき経営戦略の検討等に充てる時間
が十分でないことが問題意識としてあります。また、コードで「取締役会は経営陣への委任の範
囲を定め開示すべき」(補充原則4-1①)とされていることは、経営陣への委任の範囲を明確に定
めることで、取締役会本来の役割である①経営戦略の検討、②リスクテイクを支える環境整備、
③経営陣・取締役の監督に集中すべきことを要請しているとも考えられます。
取締役会の決議事項に関する見直しの方向性として、①監査役設置会社にも監査等委員会
設置会社と同様(会社法399条の13⑤)に「重要な業務執行の決定」を取締役に委任すること、
②取締役会決議事項である「重要な財産の処分及び譲受け」、「多額の借財」(会社法362条④
他)について「重要」や「多額」についてのある程度具体的な基準を設けることなどが検討されて
います。①については、前提として取締役の過半数または3分の1以上を社外取締役とした場合
等に認めることが検討されています。②の具体的な基準としては、例えば財産であれば帳簿価
額が〔1〕億円または総資産額の〔1〕%といったものを設けることが検討されています(注2)。
「重要な業務執行の決定」を取締役に委任することが可能となれば、取締役会の決議事項を
大幅に減らして、コードで示されているモニタリングモデルを指向することができます。取締役会
決議事項の見直しは、取締役会の実効性を高め、中長期的な企業価値向上に向けた重要な施
策の一つと考えられます。まずは、コードで要請されている取締役会実効性の評価において、取
締役会の付議基準が適切に定められているかどうかについて取締役それぞれが振り返ってみる
ことも有効です。弊社では、取締役会の実効性評価についてのサポートサービスを用意しており
ますので、ご相談などございましたら、お気軽にお声掛けください。
(注1)会社法研究会での検討内容は公表されています (https://www.shojihomu.or.jp/kenkyuu/corporatelaw)
(注2)〔 〕内の数字は仮置きの数字ですので、当該数字自体が具体的に検討されているわけではありません。
会社法研究会では、その他に招集通知の電子化や取締役報酬の決定手続、社外取締役
のあり方などコードに関連する論点についても検討されています。
2016年12月21日発行