Economic Indicators

Economic Indicators
マクロ経済指標レポート
資金循環統計(2016年7-9月期)
発表日:2016年12月19日(月)
~政府財政の改善に貢献する社会保障基金~
担当
第一生命経済研究所 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也
TEL:03-5221-4547
社会保障基金の財政黒字が拡大している
本日公表された資金循環統計速報(2016 年 7-9 月期)をもとに、部門ごとの資金過不足(季節調整値)
をみると、家計の資金余剰が拡大(4-6月期+0.2%→7-9月期:+3.5%。GDP比)、企業部門(民
間非金融法人企業)の資金余剰が拡大(同+3.8%→同+5.5%)、一般政府の資金不足は拡大(同▲1.1%→
同▲2.4%)、海外部門は若干の拡大(同▲3.5%→同▲3.8%)となった。
一般政府の資金過不足についてトレンド(4四半期移動平均)をみると、改善傾向が続いていることが読
み取れる。税収の伸び悩みや追加国債発行を伴う補正予算の編成などによって、今後の財政収支改善は一旦
滞る可能性が高いとみているが、少なくとも9月末時点までは改善トレンドにあったといえるだろうi。
またもう一点、注目すべきは社会保障基金の黒字が明確に拡大している点である。2015 年以降の黒字拡大
を確認することができ、政府全体の資金不足の縮小に寄与していることが読み取れる(4四半期移動平均の
GDP比は+1.3%の資金余剰)。社会保障基金の財政黒字拡大の背景には、GPIF改革を背景とした公的
年金における配当収入の増加iiや、雇用・賃金環境の改善を受けた社会保険料収入の増加が影響しているも
のと考えられる。財政再建に逆風が吹く中ではあるが、こうした改善要因も見落とすべきではないだろう。
資料.資金過不足(GDP比・季節調整値)
(%)
15.0
家計
民間非金融法人企業
資料.一般政府の資金過不足内訳(GDP比)
一般政府
4
海外
(資金余剰)
(%)
社会保障基金
地方
中央
一般政府計
2
10.0
0
5.0
-2
0.0
-4
-5.0
-6
-8
-10.0
(資金不足)
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅲ
-15.0
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
-10
-12
2010
(出所)日本銀行「資金循環統計」
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)日本銀行「資金循環統計」
(注)4四半期移動平均値
一般政府債務残高のGDP比は 233.5%と4-6月期(238.0%)から低下したものの、移動平均でトレン
ドの推移をみると 2016 年入り後に上昇ペースが速まる傾向にある。
ただ、数字の読み方には注意が必要だ。「資金循環統計(SNA統計)」の性質上、政府債務残高も時価
評価される。したがって、金利の低下が時価評価額の増加、債務残高の増加としてあらわれることになる。
そして、足もとの一般政府の債務残高GDP比の上昇は、時価要因で殆ど説明可能だ(下の資料を参照)。
一方、政府の財政試算(中長期の経済財政に関する試算)では、簿価評価の「公債等残高」がストック指標
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
として採用されている。発行体からみれば、金利変動によって発行済み債券にかかるキャッシュフローが変
わる訳ではないので、財政の健全性を見るにあたって債務を簿価でみることに妥当性はあろう。金利低下に
よる時価変動の影響を除けば、名目GDP要因によって緩やかに一般政府の債務残高GDP比は低下傾向を
辿っているということになる。名目GDPのプラスが定着しつつあることは、政府財政にも好影響を及ぼし
ていると評せよう。
資料.一般政府債務(GDP比)
(%)
250
資料.一般政府総債務(GDP比)の前期差要因分解
総債務
(%)
純債務
5
名目GDP要因
時価変動要因
財政収支要因
前期差
4
200
3
150
2
1
100
0
-1
50
-2
(出所)日本銀行「資金循環統計」
-3
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
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2004
2003
2002
2001
2000
1999
0
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)日本銀行「資金循環統計」
(注)4四半期移動平均値。
借入増などを通じた家計の資金余剰縮小が一服
家計の資金フローのトレンド(4四半期移動平均値)をみると、2016 年にかけて減少傾向、ほぼゼロ近傍
で推移していた家計の資金余剰が増加に転じている。このところ家計の借入額が増加傾向にあった点に鑑み
ると、相続税対策や低金利環境を背景に個人の賃貸経営を含む不動産業向けローンの増加が資金余剰の減少
に影響してきたと考えられる。足もとではそうした動きが一服したということになろう。この点は、足元の
住宅着工戸数の増加一服とも整合的である。また、家計の金融資産残高は 1,752 兆円と4-6月期から+5.9
兆円の増加となった。年初来の円高・株安の影響が一巡する形で、3四半期ぶりの増加となっている。
資料.家計の資金フロー
(兆円)
10
資料.家計の金融資産残高
その他
投資信託
債務証券
現預金
保険・年金基金
株式等
借入
資金過不足
(兆円)
2000
その他
1800
8
1600
6
保険・年金
1400
4
1200
2
1000
0
800
債務証券
株式・投資
信託
600
-2
400
-4
現預金
200
-6
2010
2011
2012
2013
2014
(出所)日本銀行「資金循環統計」
(注)4四半期移動平均値。
2015
0
2016
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)日本銀行「資金循環統計」
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
こうした中で、家計の含み損益(家計金融資産の調整
資料.家計の含み損益と名目消費(季節調整値)
(兆円)
勘定)も+7.4 兆円と3四半期ぶりにプラスに転じた。
60
足元で急速に進んでいる円安、株価上昇も、家計の含み
家計の含み益
名目消費SA
(兆円)
310
305
益の増加を通じて消費の追い風になると考えられる。
40
家計の含み損益は 2013 年にピークを迎えた後、株価
300
上昇率の落ち着き、2016 年には株価が下落に転じたこと
20
295
を受けて、評価損益は減少傾向にあった。雇用者報酬の
290
0
増加の中での消費低迷は、近年の日本経済の謎のひとつ
285
とされているが、一因にはこうした家計資産の評価損益
-20
が影響した可能性が考えられる。この点については、22
280
275
日公表予定の 2015 年度のSNA年次推計も踏まえて分
-40
270
析を掛けたいと思う。
265
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
-60
(出所)日本銀行「資金循環統計」
(注)家計の含み損益:家計の金融資産の調整勘定
企業の現預金フローは加速、残高は既往最高更新
企業(民間非金融法人)の資金フローのトレンド(4四半期移動平均値)をみると、過去と比較しても高
い水準の資金余剰が続いていることがわかる。資金余剰の振り向け先をみると、対外証券投資や対外直接投
資のフローが加速しているほか、現預金への資金フローも加速傾向にあることも確認できる。昨今、企業の
利益還元姿勢への批判が生じているが、現預金フローの増加はなお続いているようだ。ストックベースの現
預金残高も、245.8 兆円と既往最大を更新している。
資料.民間非金融法人企業の資金フロー
資料.民間非金融法人企業の金融資産
(兆円)
(兆円)
1200
対外直接投資
金融機関借入(返済は+)
現預金
その他
対外証券投資
国内証券(運用-調達)
資金過不足
14
12
その他
1000
資料.民間非金融法人企業の資金フロー
10
資料.民間非金融法人企業の金融資産
対外証券投資
8
800
対外直接投資
6
貿易信用
600
4
株式等、投資
信託
2
400
0
債務証券
-2
貸出
200
-4
現預金
-6
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
2016
2010
(出所)日本銀行「資金循環統計」
(注)4四半期移動平均値。
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)日本銀行「資金循環統計」
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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金融機関のポートフォリオリバランスは加速せず
国債(国債・財投債+国庫短期証券)の資金フローを確認すると、中央銀行(日銀)が 19.0 兆円の買い越
し、預金取扱機関とその他金融仲介機関がそれぞれ 6.8 兆円、4.9 兆円の売り越しとなっている。日本銀行
の国債購入が続く中で、その保有比率は9月末時点で 38.5%に達した。既に別統計では日銀の国債保有比率
が4割に達していることが明らかになっており、10-12 月期の資金循環統計ではそれが確認されることとな
ろう。
預金取扱機関の資金フローをみると、2016 年1月の日本銀行のマイナス金利導入後、貸出や対外証券投資
をやや拡大させていることが見て取れるが、債券の売り越し度合いと比較するとその動きは小幅といえる。
9月末時点では、金融機関のポートフォリオリバランスが加速するには至っていないようである。
資料.国債の主体別保有比率
(%)
資料.預金取扱機関の資金フロー
中央銀行
保険・年金
一般政府
海外
50
45
預金取扱機関
その他金融仲介機関
家計
貸付
株式・投資信託
(兆円)
債務証券
対外証券投資
15
2016.1~
マイナス金利
10
40
5
35
30
0
25
-5
20
15
-10
10
-15
5
(出所)日本銀行「資金循環統計」
(注)国債・財投債と国庫短期証券の合計。
i
2016
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2013
2012
2011
2010
2009
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2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
0
-20
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)日本銀行「資金循環統計」
(注)4四半期移動平均値。
3月決算企業の 2016 年度上期(4-9月)の決算に基づく法人税(中間納付分)は、11 月の国税収入となる。円高による企
業業績悪化の影響が現れると考えられ、財政収支の改善が一服することになるとみている。
ii
資金循環統計におけるフロー値は、ストックの時価変動を含まない(「調整」勘定に計上される)。国や地方の税収は家計
や企業部門の金融資産や不動産等の評価損益を含んだ値を課税ベースとして税(国や地方の資金流入フロー)が計算されるた
め、金融市場の動きが財政収支に与える影響が大きい。一方、社会保険料は主に雇用・賃金をベースとしており、資産価格変
動はフローに影響しない。また昨今、株安による決算の不振が取り沙汰されているGPIFも、不振の主因は時価評価減であ
り、配当収入を中心にインカムゲインは着実に増加している。数字の読み方に注意は必要だが、こうした動きのもとで社会保
障基金の黒字は拡大していると考えられる。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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