リサーチ TODAY 2016 年 12 月 21 日 緊急リポート:日銀は長期金利を管理フロートに 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 みずほ総合研究所は、日銀の総括的検証後の動向に関する緊急リポートを発表した1。これは、9月に発 表した総括的検証に関する緊急リポート2に次ぐものだ。今回の緊急リポートは、トランプ相場により、総括的 検証では想定していなかった事態が生じているのではないかという問題意識で作成した。日銀は2013年以 降2015年までの円安・株高の好循環を加速すべく金融緩和を行い、短期決戦を行っていた。しかし、2016年 になり米国がドル安に転換したことでこの好循環が途切れ、また国債購入の限界が認識されるなかで、日銀 が緩和姿勢を長期にわたって続けるためには、長期金利ターゲットしかなかったと我々は論じてきた。ただし、 総括的検証が行われた9月段階では、米国の金利上昇圧力やドル高地合いがみられなかったので、あくま でも持久戦の実現を訴えた。一方、下記の図表に示したように、トランプ相場で米国の長期金利が上昇地合 いに転じたことで、日銀のイールドカーブコントロールの意味が大きく変わった。米国の長期金利が上昇する なか、日本はイールドカーブコントロールで長期金利を低めに維持することは、金利差拡大策となり円安をも たらす。黒田総裁としてみれば、この機会をまさに待っていたのであり、「キター!」という感じではないか。9 月の総括的検証の段階では、10年国債金利のゼロ近傍へのコミットは、下手をしたら「永遠のゼロ」となって しまうのではないかとの不安もあったはずだが、ここに来て緩和効果が顕現化し、出口への期待も垣間見る こともできる。こうした恵まれた環境を出来るだけ長く続けたいというのが日銀の本音であろう。 ■図表:ポリシーミックスの違いを反映した日米金利差の拡大の影響概念図 (金利) 金利差拡大⇒円安 利上げ+財政拡大 米国のイールドカーブ 金利差拡大 ⇒ 円安効果 日本のイールドカーブ 0% イールドカーブ コントロール 財政拡大 ▲0.1% (年限) (資料) みずほ総合研究所作成 1 リサーチTODAY 2016 年 12 月 21 日 次の図表は日本とドイツの10年国債の金利推移だ。長期金利は国の間での連動性が強い。9月以降の 総括的検証で、日本の金利は低位の安定を続けるが、ドイツ金利は11月以降、米国金利の上昇に沿って 大幅上昇に転じている。 ■図表:日本ドイツ10年国債利回りの推移 1.0 (%) ドイツ国債利回り上昇 0.5 0.0 日本 ドイツ -0.5 1 2 2015年 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 (月) 2016年 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 日本の金利が安定している結果、日米金利差が大幅に拡大して、下記の図表のように、ドル円はユーロ ドルと比べ大きく下落し、円安効果が顕現化してきた。先月の緊急リポートではストーリーラインを、日銀の イールドカーブコントロールは10年金利を0%にペギング(釘づけ)することではなく、市場で意識されるより も大きな一定の幅を保って変動しうるものと考えるべきとした。この背景には、単に、円安誘導との批判を回 避するに止まらず、出口に向けたスムージングの観点もある。日銀としては、金利のコミットメントはできるだ け長く維持し、大きな変動には指し値オペでけん制をかけつつ、実際の運営では弾力的に幅を拡大すると いう作戦をたてていると認識している。 ■図表:ドル円・ユーロドル相場の推移 130 (円/ドル) ドル円 (ドル/ユーロ) ユーロドル(右目盛・逆軸) 0.9 円安進行 120 1.0 110 1.1 100 90 1 2 2015年 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 2016年 3 4 5 6 7 8 1.2 9 10 11 12 (月) (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 1 2 「総括的検証後の日銀はトランプノミクスで管理フロートに転換」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 11 月 24 日) 「日銀総括的検証は事実上、金融政策枠組み転換に」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 9 月 8 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
© Copyright 2025 ExpyDoc