( ) 書 評 - 資本市場研究会

はじめに
書 評
第1章 FinTechを理解する47のQ&A
第2章 FinTechを取り巻く規則
第3章 FinTech行政の動き
おわりに
増島 雅和/堀 天子 編著
石川 貴教/白根 央/飯島 隆博 著
『 FinTechの法律 』
(
)
日経BP社 344頁
2,592円(税込)
FinTechという言葉が、すっかり流行りになり、
行われている。
様々なメディアでも取り上げられている。しかし、
ここでの記述が特徴的なのは、狭い意味での法
新しいサービス等は取り上げられているものの、
的な説明だけが行われているのではなく、実態面
実態像や全体像はなかなか掴みにくいのが現状で
や技術面での解説が行われ、法律の専門家でなく
はないだろうか。その理由の一つは、FinTechが
てもわかりやすい構成になっている点、そして金
技術、金融、法律という少なくとも三つの分野に
融システム全体の動きが俯瞰できる内容になって
またがっている新しい動きであり、それらの相互
いる点である。
関係がなかなか把握しにくい点にあるように思わ
このように全体を俯瞰する解説と新しい用語の
れる。特に法律の問題は、新しい動きに関するも
説明が丁寧に行われている点は、FinTechが流行
のだけに、どのように解釈すればよいのか、どん
り言葉になりすぎてしまっている現状において
な新しい法律を必要とするのか等の具体的イメー
は、とても重要と思われるし、また多くの読者の
ジがなかなか掴みにくいのが現状だろう。
理解を深めるのに大いに役立つだろう。
そのような読者が抱える課題について、明快な
続く第2章ではFinTechに関連する法規制が法
答えを用意してくれているのが、大手法律事務所
律ごとに、また第3章ではFinTechに関連する行
によって書かれた本書である。特に編著者の一人
政組織が官庁ごとに説明されていて、より法律や
である増島雅和氏はこの分野の先導者の一人であ
行政の専門に近い人達に対しても、どのような法
り、法律面だけではなく実務や技術の面にも詳し
律や規制がどのような形でFinTechに関連してい
く、内容に信頼がもてる。また、最新の法改正動
るかが良く分かるように解説されている。
向にも目配りがされている。
本書全体を通して感じるのは、単なる現状に関
目次をみれば明らかなように、中身の構成は通
する法律解説にとどまらず、FinTechという新し
常の法律書等とは少し異なっている。第1章は、
い動きを、法律や規制を通して、いかに健全で大
「FinTechを理解する47のQ&A」となっていて、
きなものにしていくかという、著者たちの熱い意
プラットフォーム型ビジネスであるとか、仮想通
欲のようなものだ。FinTechを理解したい、活用
貨であるとか、最近目にすることが多くなったも
したいと考える読者はもちろんのこと、資本市場
のの定義をなかなか知る機会がなかった用語の解
に関心のある読者に広く一読を勧めたい。
説や、そもそもFinTechとはどんな動きやサービ
(東京大学大学院経済学研究科教授 柳川 範之)
スのことを指すのかといった説明がQ&A形式で
月
12(No. 367)
刊 資本市場 2016.
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