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カレント・トピックス No.16-43
平成28年12月26日
16-43号
カレント・トピックス
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
Mines and Money London 2016 から
<ロンドン事務所 ザボロフスキ真幸 報告>
はじめに
2016 年 11 月 28 日から 12 月 1 日にかけて、今年で 14 回目となる Mining Journal 誌主催の
「Mines and Money London 2016」が英国ロンドンで開催された。事務局によれば、75 か国から
2,500 名が参加し、展示ブースは昨年同様 130 社であった。事務局の公表値によると、昨年より参
加者数は若干増えていると伝えられているが、投資家サイドは昨年約 1,000 名参加だったのに対
し、今年は約 700 名と減少した。以下、主な講演を抜粋して内容を紹介する。
展示会場(左)と講演会場(右)
1. 鉱業における新たな資金調達方法
投資銀行 CIBC Capital Markets、Vice Chairman and Managing Director の David Scott 氏は、
鉱山会社における M&A の傾向を講演した。銅資産における M&A 案件数はコモディティサイクルに
伴い増加しており、コモディティ価格がピークを迎えていた 2006~2008 年にかけて M&A 取引高は
1,400 億 US$に達した。また、2008 年の金融危機以降は減少するも、M&A 取引高は約 600 億 US$と
なり、総額 2,000 億 US$の取引が短期間で行われた。2006 年 Vale が Inco を買収、Xstrata が
Falconbridge を買収するといった当時の M&A によりベースメタル市場の勢力図は変化した。同時
期はコモディティ価格高騰に伴い企業も成長に勢いがあり、様々なタイプでの資金調達が容易で
あった。2011 年以降の銅価格低下時には資産売却が増えたが、これまでの売却と異なる点は、多
くの銅鉱山会社が非中核的な副産物を予約販売しつつ、鉱山操業は維持するという選択をとるス
トリーミング契約が増加していることであり、この傾向は今後も続くと考えられる。最近では、
2016 年 2 月に Glencore が Franco-Nevada Corporation とペルーAntapaccay 鉱山の副産物である
金及び銀の長期ストリーミング契約を結んだことが挙げられる。Glencore は、2015 年 11 月にも
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Silver Wheaton 社との間でペルーAntamina 鉱山でのストリーミング契約を締結するなど債務削減
を進めるためストリーミング契約により資金調達を行っている。
M&A 活動は依然としてマクロレベルではコモディティ価格、株価に左右されるという点では大
きな変化はないが、新たなトレンドとして David Scott 氏は以下、5 点を挙げている。
1)2011~2016 年間で総額 300 億 US$の鉱山投資を行った中国バイヤーの増加。
2)資産売却、新株発行による資金調達(Equity)代替としてストリーミング契約の増加。
・過去 5 年間で総額 120 億 US$のストリーミング取引が行われており、その半分は 2015 年に
取引された。
・ストリーミング契約はより通常化してきており、主要な投資家がメジャーな鉱山企業だけ
ではなく、ジュニアも含めたより多くの鉱山企業と今後ストリーミング契約を行うだろう
と予測された。
3)売却の代替として非中核資産スピンアウトの増加。
・BHP Billiton からスピンアウトした South 32、Grupo Carso からスピンアウトした Minera Frisco、
Barrick Gold からスピンアウトとした Acacia Mining 等。
4)主要取引としてのプライベート・エクイティ(未公開会社への投資)の増加。
5)鉱業に特化した投資家(スペシャリスト)ではない万能型(ゼネラリスト)投資家の増加。
また、企業のマネージメントのトレンドでは、企業が設備投資へのコスト削減のためインフラ
シェアをするという選択肢が増えてきたことも指摘し、Teck Resources 社と Goldcorp 社がチリ El
Morro と Relincho プロジェクトを 2015 年にコスト削減のために合併させた例を挙げた。インフラ
シェアは市場からも好意的に見られており、今後も同様の提携が増えるだろうと予測した。
さらに、E.I.M.Capital、Director、John Robertson 氏は注目され始めている新たな資金調達
方法としてクラウドファンディングを講演の中で取り上げた。クラウドファンディングは探査活
動資金において今後より大きな役割を担うようになるだろうと述べた。クラウドファンディング
の特徴的な機能はデジタルプラットフォームであるという点であり、企業は資本調達方法をブロ
ーカーに制限する必要がなくなり、企業は 100 万 US$を一人または二人の投資家に頼ることなく
多くの投資家から資金調達することが可能となる点が魅力だと述べた。 Robertson 氏は、
Portfolio Direct 企業を創設し、探査企業の格付けを投資家に提供している。同企業では、2015
年末から豪最大のクラウドファンディングプラットフォームである Australian Small Scale
offerings Board(ASSOB)と提携し、豪州の鉱山会社にクラウドファンディングでの資金調達場
の提供も始めた。同氏は、クラウドファンディングは、プライベート・エクイティ型と非常に似
ているとし、欧州の鉱物探査への投資は減少傾向にあるがクラウドファンディングが新たな投資
を呼び込む機会となる可能性があると述べた。
2. 地域別にみる鉱業動向
2-1. Brexit 後も英国は魅力的な鉱業資金調達の中心地であり続ける
英国国際貿易省(Department for International Trade:DIT)Greg Hands 担当大臣は、英
国における鉱業の重要性は過小評価するべきではないとし、特に鉱業金融市場としてロンド
ンは EU 離脱後も世界最大級の市場であり続けると述べた。ロンドン証券取引所には、資源メ
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ジャーを含む 165 の鉱山会社が上場しており、国際的な多国籍企業がロンドンに集まり資金
調達の中心地となっているとし、その優位性として LME の存在、英国の金融制度及び法廷制
度といった十分に整ったシステムの信頼性、安定性を挙げ、世界の鉱山会社が英国を資金調
達の国として選ぶのは当たり前ともいえると述べた。英国政府は、鉱業市場において各国と
の国際的な貿易協定を作ることでサポートしていくとし、EU から離脱することにより英国の
ビジネスは世界各国及び国際的な貿易機構に対し開かれ、新たなチャンスが増えるとした。
また、パネルディスカッションでは Tri Star Resources、Chairman の Mark Wellesly Wood 氏
も同様に、Brexit 移行期はチャレンジングだろうが、鉱業セクターでいえば豪州、カナダ、
米国、インド等その他英語を公用語とする鉱業国と新たな協定を結ぶことができ、鉱業セク
ターにとって非常に大きなチャンスになると言及した。一方、Barclays、Global Co-Head of
Mining and Metals の Michael Rawlinson 氏は、「ロンドンの金融街シティを見ていると、金
融危機が起こった 2008 年時に比べると Brexit が最大の挑戦になるとは考えにくい。ロンドン
の金融市場に取って代わる市場規模は欧州の中には無く、Brexit が大きな変化を与えるとは
考えにくい」と述べた。
2-2. EU 域内の投資機会
Euromines、President の Mark Rachovides 氏は、欧州鉱業市場は再投資をする必要がある
とし、未開発地域への探査増加、生産継続、更に鉱山技術を発達させ、それを欧州域外へと
輸出していくことが必要であると述べた。欧州鉱業は資源効率化及び環境に配慮した鉱業を
行っており、政治も安定しているため投資環境として非常に魅力的な地域であるが、欧州と
して鉱業規制が統一されているわけではないので、各国及び各地の規制、手続きを順守する
必要がある。欧州域内での魅力的な投資国としては、鉱業法が整備されているスカンジナビ
ア諸国、探査機会が充実しているセルビア、ポーランド、アイルランド、オランダを挙げ、
更に最近ではスペインが投資家を誘致しやすいように鉱業法を整備しなおすなどポジティブ
な動きが見られていると述べた。
2-3. アフリカでの投資リスク
アフリカでの投資リスクに関してのパネルディスカッションでは、 Intrasia Capital、
Chairman 兼 CEO の Graeme Robertson 氏、Investec Asset Management の Roland Janssesn 氏、
Africa Finance Corporation、CIO の Oliver Andrews 氏、Energy Mining Advisory Partnership
の Roger Martin 氏が参加し、最大の課題として電力不足及び政府が鉱業法を変更するといっ
た政治不安定さからの投資保証への懸念点を挙げた。そのため、アフリカでのプロジェクトを
成功させるためには政府だけではなく地元企業、市民団体及び NGO といった多様なステークホ
ルダーとの交渉も含めて交渉期間を 2~4 年と見積もる必要があるとした。また、アフリカへ
投資を増やしている中国以外のプレイヤーは、トルコ、インドネシア、日本、韓国が新規プレ
イヤーとして挙げられており、日本及び韓国の技術力を持った投資は高く評価されていた。
2017 年のアフリカ鉱業動向として、2016 年は新規プロジェクトが少なかったために政府は新
規プロジェクト誘致に積極的になり、投資家に対しより友好的になると予測された。同時に政
府によるインフラ投資増加も予定されていることから、2013、2014 年同様の良い投資環境が
2017 年には整う可能性があるといったポジティブな見解が見られた。
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3. リチウム市場動向
Roskill Information Services、シニアアナリストの David Merriman 氏は、リチウム市場は 2013
年からリチウムイオン電池(LIB)需要増加により供給不足であるとし、それに伴いリチウム価格
も上昇していると述べた。リチウム市場の供給が逼迫している理由の一つには、リチウム供給をチ
リ Sociedad Quimica y Minera de Chile 社(SQM)、Albemarle 社、米 FMC 社、中国 Tianqi Lithium
社、Talison 社(Tianqi51%、Albemarle49%)といった一握りの鉱山会社が占めているという背景
があり、供給の安定性といった面で懸念が広がっている。
図1
リチウム鉱山生産量比
図 2 リチウム地金生産量比
(出典:Roskill Information Services 発表資料より抜粋)
2016 年以前のリチウム生産者の傾向は、不定期かつ小規模な生産拡張と、2000 年代半ばから
2011 年にかけてリチウム価格の上昇によるジュニア企業によるプロジェクトの増加が起こったこ
とが挙げられる。2016 年はリチウム価格の上昇に伴い、主要生産会社及びジュニア企業の生産能
力の拡大、M&A、探査開発の増加、上流及び下流への投資増加がなされた。 2016 年 8 月に
Albemarle 社が中国 Sichuan GRM 社のリチウムプラントの買収を発表、9 月に Tianqi 社が西豪州
Kwinana リチウムプラントの年間 2 万 t の生産拡張を発表、また Albemarle 社はアルゼンチンで
のリチウム探査を開始するなど各社積極的な投資活動が行われた。
需要サイドでは、同氏はリチウムイオン電池の需要が 2010 年以降著しく増加しており、2016
年はリチウムイオン電池の需要は前年比 39%増になると予測している。リチウムイオン電池の主
な利用先は携帯電話、パソコンといったテクノロジー消費財、EV といった自動車セクター等であ
る。世界的な自動車メーカーが EV 生産に注力し始めているのと同時に中国では石油及びディー
ゼル車への規制を厳しくしている背景から EV 向け需要が著しく増加しており、リチウム需要を
牽引している。しかし、Albemarle 社 Luke KissamCEO は、EV 向け需要以上に住宅及び送電網に
おけるエネルギー貯蔵(Energy storage)におけるリチウム需要は増加が顕著になるだろうと指
摘した。同氏は、エネルギー貯蔵に使われるバッテリーは 2020 年より後に“非常に大きなチャ
ンス”があるとし、リチウムの需要の年間 1 万 t を占めるようになると述べた。また、グローバ
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ル規模でのリチウムイオン電池需要の増加に対し、主要リチウム生産各社は需要を満たすだけの
生産拡張をすることにより、今後 4~5 年の間にリチウム市場は“極めてバランス”すると予測
し、「我々は、需要に見合う供給量を保つだけの能力を築きたいが、供給過剰までは望まない」
と述べた。
4. 2017 年の鉱業見通し
MinEx Consulting、Managing Director の Richard Schodde 氏は、2017 年以降の探査活動が増
えるための重要な要素はコモディティ価格の回復及び鉱山会社の探査成功事例であるとし、成功
事例として SolGold 社の世界規模であるエクアドル銅・金鉱山探査活動を挙げた。また、資源メ
ジャーがグリーンフィールドへの投資を縮小していることから、中期的にその影響が顕著になる
と警告した。過去 3~4 年間はコモディティ価格が低迷し資金調達を得ることは非常に難しかっ
たために、グリーンフィールドへの投資は限られている一方、ブラウンフィールドへの投資は増
加傾向にある。しかし、2016 年下半期にはジュニア企業による探査活動が活発になってきており、
グリーンフィールドへの投資が緩やかに回復傾向になっており、2017~2018 年には探査活動が増
加すると予測された。特に豪州では金探査が増加しており、全体の探査費用額も増加傾向にある
という。
それに対し、Pacific Capital、Partner の Dan Willton 氏は、探査のタイム・フレームは非常
に長く 10~15 年を見積もらなくてはいけないという点に加え、現在は鉱山ライセンス、採掘ラ
イセンスを得ることも難しくかつ時間を要するため、探査活動は増加するといっても短期間では
目に見えた結果は表れないと警告した。しかし、全体を通して 2016 年は価格の底値を見たが、
2017 年は楽観的であるという見通しが多くされており、改善傾向にあるとした。これまでの下降
傾向の中で学んだコスト削減及びキャッシュフローの増加を生かすことで、コモディティサイク
ルに左右されない強いバランスシートの形成及び戦略を作ることは大事であり、投資は続けてい
くべきだと述べた。
5. 所感
今年は、4 日間を通してメインステージの講演でも空席が目立ち、ブース会場も活況さを欠い
ている印象を受けた。参加者からも今年は“Quiet”であるという声が多く聞かれたが、その中
でもクラウドファンディング、ストリーミングといった資金調達の講演は注目が高かった。一方、
2017 年の Mines and Money 開催時には新規プロジェクトの増加など明るい話を聞くことができる
だろうとの前向きなコメントも多くあり、2017 年に市場が活気を取り戻した際には資源メジャー
及びジュニア企業がどのような資金調達を選ぶのか注視していきたい。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を
お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に
つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す
る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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