Economic Monitor

Dec16, 2016
No.2016-065
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
主席研究員
主任研究員
武田
須賀
淳 03-3497-3676 [email protected]
昭一 03-3497-3678 [email protected]
中国経済:景気は底堅いが年明け以降は減速も(12 月主要指標)
11 月の経済指標からは、中国経済が底堅い動きを続けていることが確認された。製品の需給改善
によって、製造業では業績が改善して設備投資が拡大するなど持ち直しの動きが見られることに
加えて、個人消費は底堅く、固定資産投資と輸出も持ち直している。一方で、金融市場では急速
な人民元安や資金流出などの不安定な動きもある。今後は、政策変更による住宅価格の抑制など
に加えて、過剰設備分野における投資の抑制が続くことから年明け以降に成長ペースは鈍化し、
2017 年の成長率は 6.5%程度に減速する可能性が高い。
企業の景況感は改善が続く
11 月の経済指標は総じて底堅い動きとなった。製造業の景
PMI(担当者購買指数)の推移(中立=50)
況感について、PMI(担当購買者指数)を見ると、11 月は
60
51.7(10 月 51.2)と好不況の境目である 50 を 4 ヵ月連続
58
で上回るとともに 26 ヵ月ぶりの高い水準となった。内訳
56
を見ると、新規受注(10 月 52.8→11 月 53.2)の改善が続
54
くとともに、10 月には一旦 50 を割った輸出受注(10 月
52
49.2→11 月 50.3)が再び改善するなど、需要の持ち直しが
50
景況感の改善につながっている1。
製造業
新規受注(製造業)
輸出受注(製造業)
非製造業
改善
48
悪化
46
2012
また、11 月の工業生産は、実質で前年同月比+6.2%と、10
いる石炭2などの鉱業のマイナス幅拡大が全体の伸びを抑
制したが、電力などエネルギー業(+7.9→+9.9%)の伸び
が高まった。製造業をシェアが大きい主要業種について見
2014
2015
2016
(出所)中国国家統計局
月+6.1%より伸びはやや高まった。内訳を見ると、製造業
は 10 月と同じ+6.7%の伸びを維持、生産調整を実施して
2013
工業生産と在庫の推移(前年同月比、%)
25
工業生産
在庫
20
15
10
ると、コンピューター・通信機器(+9.3→+8.9%)はやや
伸びが低下したものの、小型車購入減税措置3(後述)によ
って販売が好調な自動車(+17.9%→+19.5%)や、旺盛な
インフラ投資を背景とした建機などの特殊機器(+8.3%→
10.7%)は伸びが高まった。
5
0
▲5
(出所)中国国家統計局
(注1)1、2月は月次データが公表されないため、累積値の前年同期比。
(注2)生産の最新月は11月単月、在庫の最新月は10月単月。
なお、非製造業も 54.7(10 月 54.0)に改善している。
政府は、過剰生産抑制のため、2016 年 5 月に石炭企業に対して年間の操業日数を 276 日以内に制限する旨を指示、生産量減少
を受けて石炭価格は大きく上昇した。ただし、2016 年の過剰生産能力削減目標(2.8 億トン削減)の達成が見込まれたことと、
石炭価格の過度な上昇による国民生活への打撃などへの配慮から 11 月には稼働日を 330 日に引き上げた。今後は供給増によって
価格上昇圧力は緩和されることが見込まれる。
3 排気量 1.6 リットル以下の小型自動車購入時の減税措置(取得税率 10%を 5%に半減)が 2015 年 10 月に導入、2016 年末まで
実施される予定。なお、12 月 15 日に、2017 年は減税規模を縮小(取得税率 7.5%)して減税措置を延長し、2018 年から通常税
率に戻す旨が発表された。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
1
2
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
製品需給のバロメーターである生産者物価を見ると、11 月は前年同月比+3.3%(10 月+1.2%)と伸び率が高ま
った。とりわけ、11 月半ばまで生産調整が実施されていた石炭を中心とした鉱物資源(10 月+7.9%→11 月
+14.8%)の価格上昇が生産者物価全体の上昇に大きく寄与したが、衣料品や日用品などの消費財(+0.1%→
+0.4%)も改善の動きが続いている4。製品在庫も 11 月に前年同月比▲0.3%(10 月▲0.8%)と、7 ヶ月連続
のマイナスとなるなど、在庫調整は着実に進展している。
以上のように需給改善などによってデフレ圧力は緩和し、工業企業の純利益総額は、2016 年に入ってから前年
同期比でプラスの伸びが続いている(7~9 月期+12.3%→10 月+9.8%)。
工業企業の純利益総額の推移(前年同期比、%)
生産者物価の推移(前年同月比、%)
25
10
8
工業製品
うち生産財
うち消費財
6
20
15
4
10
2
5
0
0
▲2
▲5
▲4
▲ 10
▲6
▲ 15
▲ 20
▲8
2011
2012
2013
2014
2015
2012
2016
(出所)中国国家統計局
2013
2014
2015
2016
(出所)
財務省、日本貿易会
(出所)中国国家統計局
(注1)工業企業とは、製造業、鉱業、エネルギー業
(注2)一定規模以上(主要業務収入が2000万元以上)の企業を対象
(注3)最新期は10月単月
固定資産投資は持ち直し
主な需要動向を見ると、固定資産投資(設備投資、公共投
固定資産投資の推移(前年同期比、%)
資、住宅投資の合計)は、11 月は前年同月比+8.8%と、
50
10 月と同じ伸び率となったが、10~11 月の平均を均して
40
見ると+8.8%と、7~9 月期の前年同期比+7.1%より伸び
30
は高まっており、固定資産投資は持ち直している。これま
20
で固定資産投資をけん引してきたインフラ投資(7~9 月
10
期+18.2%→10~11 月+19.9%)と不動産開発投資(+5.2%
0
→+9.4%)に加えて、業績の改善が続く製造業(+3.0%→
▲ 10
+5.5%)でも持ち直しの動きが見られた。
個人消費は底堅い動き
固定資産投資全体
インフラ投資
製造業
不動産開発投資
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)中国国家統計局
(注)1.固定資産投資全体のうち、インフラ投資は21.5%、製造業は32.7%、不動産投資は
17.4%を占める(2015年)。
2.インフラ投資は、道路、鉄道、水利・環境・公的施設管理、電気・ガス・水道の合計。
3.最新期は10-11月期。
国内需要のもう一つの柱である個人消費について、代表的な指標である社会商品小売総額を見ると、11 月は前
年同月比+10.8%(10 月+10.0%)
、物価上昇を除いた実質でも+9.2%(+8.8%)と伸び率がやや高まった。10
~11 月の平均では、前年同期比+10.4%(7~9 月期+10.5%)
、実質では+9.0%(+9.9%)と伸びはやや低下し
ているが、昨年 10 月からの小型車減税策により自動車販売が大幅に増加した反動という面が大きく、その影
響を除けば個人消費は総じて底堅く推移していると言えよう。なお、主な品目5の動きを見ると、実際に、自動
車(7~9 月期+14.4%→10~11 月+13.2%)の伸びは落ちているが、家電音響機器(+9.1%→+11.7%)や医薬
4
5
国家統計局は、そのほか、11 月の生産者物価が大きく伸びた要因の一つとして前年同月の反動も挙げている。
社会商品小売総額のうち、年商 500 万元以上の企業のみを対象としたデータ。カバー率は 44.5%(2015 年)
。
2
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
品(+11.2%→+11.5%)などでは伸びが高まった6。
なお、乗用車販売台数は、当研究所試算の季節調整値では 10~11 月平均で年率 2,735 万台となり、7~9 月期
の 2,547 万台から大幅に増加した。
社会商品小売総額の推移(前年同期比、%)
自動車販売台数の推移(季節調整値、年率、万台)
18
17
名目
実質
16
15
14
13
12
11
10
9
8
2011
2012
2013
2014
2015
3,200
3,100
3,000
2,900
2,800
2,700
2,600
2,500
2,400
2,300
2,200
2,100
2,000
1,900
1,800
1,700
1,600
1,500
1,400
1,300
1,200
うち乗用車
2011
2016
(出所)中国国家統計局
(注)最新期は10-11月期
自動車販売台数
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)中国汽車工業協会
(注)当社試算の季節調整値。最新期は10-11月期。
輸出は下げ止まりから持ち直しの動き
通関統計を見ると、11 月の輸出金額(ドルベース)は
月ぶりにプラスに転じた。人民元ベースで見ても、
+5.9%(▲3.4%)とプラスになった。主な仕向地向け
仕向地別の通関輸出の推移(季節調整値、百万ドル)
1,200
6,500
1,000
6,000
800
5,500
600
5,000
400
4,500
百
前年同月比+0.1%(10 月▲7.3%)と、伸び率は 8 ヵ
に見ても、米国・EU・日本などの先進国向け、ASEAN
向けはすべて増加した。主な品目の内訳を見ても、電
気機械(10 月▲8.4%→11 月▲0.1%)、携帯電話(▲
8.4%→▲3.3%)
、コンピューター(▲8.3%→▲0.9%)
日本
EU
輸出全体(右軸)
200
米国
アセアン
はマイナス幅が縮小している。また、10~11 月の平均
0
でも前年同期比▲3.6%と 7~9 月期の▲6.7%からマ
(出所)中国海関総署
(注)当社試算の季節調整値。最新期は10-11月期。
4,000
3,500
2011
2012
2013
2014
2015
2016
イナス幅は縮小、当研究所試算の季節調整値でも 10~
11 月平均の水準は 7~9 月期を+0.9%上回っていることから、輸出は下げ止まりから持ち直しの動きが見られ
る。
人民元の対ドル相場は一段と下落
人民元の対ドル相場は下落が続いている。11 月半ばには年初からの下落率は 5%強まで拡大し、2008 年 6 月
以来、約 8 年 5 か月ぶりに 1 ドル=6.9 元を割り込んだ。足元での人民元下落の背景には、11 月に実施された
アメリカ大統領選挙の結果もたらされた米ドルの独歩高の影響が大きいと考えられるが、人民元の下落懸念か
ら資金流出も加速している。実際に、外貨準備高は 5 ヵ月連続で前月から減少、とりわけ 11 月は減少幅がさ
らに拡大するなど(10 月▲457 億ドル→11 月▲691 億ドル)、人民銀行による為替介入が増加していると見ら
アリババを中心としたインターネットショッピングサイトが安売りを実施する独身の日(11 月 11 日)におけるインターネット
ショッピングの伸びがやや高まったことも 11 月の個人消費の押し上げ要因と考えられる(前年同月比 10 月+28.7%→11 月
+29.8%)
。
3
6
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
れる。こうした中で、資金流出懸念を強めた中国政府は、国内企業による対外直接投資や対外貸付の規制を強
化するなど資本取引を制限し始めている7。
資金流出に伴い人民元安が一段と進めば、国内物価の押し上げや外貨建て債務の負担増などを通じて実体経済
に水を差す可能性もある。政府が、こうした一連の措置によって資金流出や人民元安に歯止めをかけようとす
ることはやむを得ない面もあるが、一方でこうした資本流出規制は、人民元に対する市場の不信感を増幅させ、
さらなる資金流出や人民元安につながることも懸念される。
外貨準備高の推移(左軸:兆元、右軸:億元)
人民元相場の推移(元/米ドル)
7.00
人民元
安
6.90
6.80
4.0
1,500
3.0
1,000
2.0
6.70
6.60
1.0
6.50
0.0
6.40
▲ 1.0
6.30
500
0
▲ 500
▲ 2.0
6.20
6.10
6.00
2010
人民元
高
2011
2012
2013
2014
2015
▲ 1,000
▲ 3.0
前月差(右軸)
外貨準備高
▲ 4.0
▲ 1,500
2016
(出所)中国銀行
(出所)中国人民銀行
なお、消費者物価は、11 月は前年同月比+2.3%(10 月
消費者物価の推移(前年同月比、%)
+2.1%)と伸びが高まったが、主にウェイトが最も高
12
い野菜や豚肉などの食料品価格(+3.7%→+4.0%)の
10
上昇によるもので、人民元安による影響はまだ見られ
8
ない。生鮮食品を除いたコア(+1.8%→+1.9%)で見
6
ると伸び率の上昇は依然として緩やかであり、消費者
4
物価はおおむね安定して推移していると言える。
2
景気は一旦下げ止まったが年明け以降は減速も
0
2012
以上のように、中国の景気は底堅く推移しており、需
消費者物価
消費者物価(除く食品エネルギー)
消費者物価(除く生鮮食品)
食料品
2013
2014
2015
2016
(出所)中国国家統計局
給の改善を受けて製造業の一部では業績改善が設備投資の拡大につながるなど、持ち直しの動きも見られるが、
一方で金融市場では急速な人民元安や資金流出などの不安定な動きもある。足元で景気をけん引する住宅市場8
や自動車消費9は政策変更によって景気を下押しする可能性があること、鉄鋼などの過剰設備分野では引き続き
投資が抑制されることから、年明け以降は再び成長ペースが鈍化すると考えられる。そのため、2016 年の実質
GDP 成長率は政府が目標とする前年比 6.5%~7.0%の中間にあたる前年比 6.7%程度で着地する見込みである
が、2017 年は 6.5%程度に減速する可能性が高い。
11 月下旬に当局は「規定に基づいて一部企業の対外投資案件を審査する」旨を発表。その他、金の輸入制限や、海外への送金
についての当局の許可・審査強化などを導入した(各種報道)
。
8 住宅購入時の頭金比率引上げなどを内容とする空宅購入抑制策は、従来より北京、シンセンなどの大都市で導入されていたが、
10 月以降、地方の省都を含む中規模の都市においても導入が進んでいる。
9 前述のとおり、小型車取得減税政策は延長することが決まったが減税規模は縮小されるため、年明け以降に一定程度の反動減
が見られる可能性はある。
4
7