リサーチ TODAY 2016 年 12 月 16 日 TPP頓挫後のプランBはなにか、日本はどうすべきか 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 米国の次期大統領に当選したトランプ氏は、就任初日にTPPからの脱退を表明するとの姿勢を既に明 確にしている。その結果、TPP参加国からは、TPPが頓挫した場合のプランB(代替案)に関する発言が出 始めている。具体的には、米国抜きのTPP、日米EPA、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)などTPPの代替 案が考えられる。みずほ総合研究所は、TPP頓挫後のプランBに関するリポートを発表している1。リポートで は、どれも実現時期や内容面で課題があると結論付けた。従って、TPPの代替案とは言いにくいが、現在 進んでいるメガFTA交渉で早期に合意するとともに、米国に積極的に働きかけることでトランプ政権に翻意 を促すことが、日本にとって最善策と考えた。 下記の図表はトランプ次期大統領が選挙戦中に掲げた主な通商政策を示す。そのなかで、TPPについ ては、ビデオ演説で初日の脱退を表明している。 ■図表:トランプ氏が選挙戦中に掲げた主な通商政策 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ TPPからの脱退 米国の労働者のために戦う通商交渉官の任命 外国の貿易協定違反の特定を商務長官に指示 NAFTA再交渉、応じない場合は脱退 中国を為替操作国に認定するよう財務長官に指示 中国の不公正行為に国内法・WTO協定に基づき対処するよう通商代表に指示 中国が違法行為を継続する場合には、1974年通商法301条等に基づく措置を実施 (注)太字(網掛け)は就任初日に実行するもの。 (資料)Donald Trump's jobs plan speech(2016/06/28)、Donald Trump's Contract with the American Voter より みずほ総合研究所作成 当社は先のリポートで、プランBとして様々な代替案に検討を加えた。まず、米国抜きのTPP(TPP11)に は、2つのハードルがある。第1は、TPP協定の条文修正が容易でないことだ。第2は、米国市場へのアクセ スを失ったTPP11に合意できるかが疑問である。こうした論点は特にベトナムに顕著である。プランBの第2 案は、日米二国間の日米経済連携協定(EPA)の締結である。ただし、これにも2つの難点がある。第1は、 日米EPAにはTPPの意義であった広域性と戦略性が欠ける点である。第2に、トランプ政権下での日米EPA 交渉では米国が日本に厳しい要求を突き付け日本にとって望ましい合意がもたらされるとは考えにくい点 がある。プランBの第3案は、WTOでの交渉促進である。しかし、オバマ政権下でも進まなかった交渉がトラ ンプ政権下で進むのは望み薄と考えられる。また、FTAAPとしてAPECの枠内で「米国抜き、中ロ参加」の 形に日本が参加との観測もある。ただし、これもTPPで合意したような高度な自由化と高度なルールの受け 1 リサーチTODAY 2016 年 12 月 16 日 入れは困難だ。下記の図表は、世界のメガFTA構想を示すものである。 ■図表:世界のメガFTA構想 (資料)みずほ総合研究所作成 下記の図表は各広域FTA構想の経済規模を示すが、TPPは世界のなかで大きな規模を占めると同時に、 大きな戦略性をもつ。TPPが発効せず、これらのメガFTAが発効すれば、日本及びアジア市場で米国の事 業者は競争上不利な立場に置かれることになる(cf.日豪EPAの下での日本市場における豪州産牛肉に対 する米国産牛肉)。本来、TPPは米国にとって対アジア戦略の経済面での柱であり、米国がアジアで進む 地域経済統合から排除されることを回避し、アジアの成長を取り込むことを可能にする。ゆえに、日本は、 現在交渉中のメガFTAの早期合意により米国のTPP脱退のコストを引き上げることで、米国に翻意を促し、 米国を含むTPPの発効(プランA)を目指すべきではないかと当社は考えている。そのために、地道に日本 は目先の日EU・EPA交渉、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)を進めるべきだろう。 ■図表:各広域FTA構想の経済規模 GDP ASEAN 日中韓 RCEP TPP APEC(FTAAP) 日EU(28) TTIP(米EU(28)) EU28 うち、英国 世界 (兆ドル) 2.4 16.5 22.4 27.4 43.5 20.3 34.2 16.2 2.8 73.2 人口 (世界比) 3.3% 22.5% 30.6% 37.4% 59.4% 27.8% 46.7% 22.2% 3.9% 100.0% (億人) 6.3 15.5 35.0 8.2 28.5 6.3 8.3 5.1 0.7 72.0 (世界比) 8.7% 21.6% 48.6% 11.4% 39.6% 8.8% 11.5% 7.0% 0.9% 100.0% (注)数字は 2015 年(一部推計) (資料)IMF、World Economic Outlook よりみずほ総合研究所作成 1 菅原淳一「TPP 頓挫後のプラン B を考える」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 11 月 16 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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